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カテゴリー「拍手御礼」の記事一覧
「ねえ、ハーレイ。嫌なことって…」
 抱え込まずに話すべきかな、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 嫌なことって…」
 友達と何かあったのか、とハーレイはブルーに問い返した。
 抱え込むほどの嫌なことなら、恐らく人間関係だろう。
 それも身近な人が相手で、下手に話せば角が立つこと。
 「その言い方は、あんまりじゃない?」などと思ったとか。
 そんな所だ、と見当をつけたわけだけれども、正解らしい。
 ブルーは、「まあね…」と、歯切れが悪い。
(こういう時こそ、教師の出番ってヤツだよなあ?)
 俺はブルーの担任じゃないが、とハーレイは心で苦笑する。
 ブルーのクラス担任よりも、遥かに近しい立場だよな、と。


 ともあれ、此処は聞いてやらねば。
 ブルーが現在、抱え込んでいる「嫌なこと」とは何なのか。
 友人と何かあったのならば、まずは吐き出してしまうべき。
 一人でクヨクヨ悩んでいたって、悪い方にしか転ばない。
 人の思考は、そういったもの。
(楽天家だったら、そもそも、悩まないモンで…)
 嫌なことなど、すぐに忘れて、健康的な心を保てる。
 ところが、普通は、そうはいかない。
(なんだかんだと考えちまって、思い出しては…)
 後悔したり、自分を責めたり、マイナス思考に傾いてゆく。
 その内に、夜も眠れなくなって、悩みが心を蝕んでしまう。
 寝ても覚めても、そのことばかりで、溜息ばかり。
 「あの時、どうすればよかったのか」と、ぐるぐるして。
(ブルーの場合は、そのタイプだから…)
 吐き出すだけでも、相当に楽になるだろう。
 心の中の澱みが外に流れて、悩みの水位も低下するから。


 そう思ったから、ハーレイは、ブルーに頷いてみせた。
「嫌なことなぞ抱え込んでも、ろくなことにはならないぞ」
 お前が辛いだけじゃないか、と赤い瞳を覗き込む。
「いいか、お前は引き摺っているが、相手の方は、だ…」
 とうに忘れているかもしれん、とカップの縁を指で弾いた。
 お茶のカップが、カチン、と一瞬、澄んだ音を立てる。
「ほら、今、音がしただろう? しかしだな…」
 紅茶は全く揺れちゃいないぞ、とハーレイは中を指差した。
「ついでに弾いた音の方もだ、ほんの一瞬、一秒も無い」
 秒で言うならコンマだよな、と音の長さを表してみせる。
「お前の言ってる嫌なことにしても、相手にしてみれば…」
 こんな具合に、軽く弾いて終わりかもな、と説いてやった。
 カップの紅茶も揺れないくらいに、些細なこと。
「ただし、正式なお茶の席だと、カップの縁を弾くのは…」
 マナー違反になっちまうんだ、と苦笑する。
「知らなかったら、ウッカリやってしまいそうだが…」
「そっか、知らずにやっちゃったとか?」
 ぼくは嫌だと知らないで…、とブルーが尋ねる。
「だから相手は忘れてしまって、ぼくだけが…」
「そうだ、引き摺っちまってるとか、ありそうだろう?」
 うんと馬鹿々々しい悩みかもな、とハーレイは笑んだ。
 「抱えていないで俺に話してみろ」と、ドッシリ構えて。


 ハーレイが例を挙げたお蔭で、ブルーも納得したのだろう。
 「えっとね…」と、重かった口が、やっと開いた。
「その嫌なこと、ぼくがホントに、嫌で堪らなくって…」
 だけど相手は気付いてなくて…、とブルーは溜息をつく。
 「やめて欲しいのに、ちっともやめてくれないんだよ」と。
「なるほどな…。さっきのカップの例の通りか…」
 相手の方では、何とも思っちゃいないんだな、と頷き返す。
「そいつは大いに困るヤツだが、どうしたい?」
「どうしたい、って…?」
「お前が本気で辛いんだったら、相手にハッキリ…」
 伝えないと、多分、収まらないぞ、とハーレイは言った。
「どんな具合に嫌に思うか、其処をだな…」
 分かって貰えるように言うんだ、と教えてやる。
 それで相手が怒ったとしても、仲直りの機会もあるだろう。
 もしも仲直りが出来ないようなら、それまでのこと。
 何かの弾みで壊れる程度の、遊び友達な仲だっただけ。
 親友だったら、喧嘩別れをしてしまっても、また戻るから。


「分かったか? 抱えていないで、話すことだな」
 俺に話してみたのと同じで、相手にも、とハーレイは諭す。
 「抱え込むな」と、ブルーの考えを全面的に肯定して。
 するとブルーも、「そうだよね…」と大きく頷く。
「やっぱり、ちゃんと言わなくちゃ…」
「よし、その意気だ。次に会ったら、きちんと伝えろよ」
「うん! よく聞いてよね、唇にキスしてくれないのは…」
 ホントに嫌なことなんだから、とブルーは唇を尖らせた。
 「ハーレイにとっては、大したことじゃないんでしょ」と。
「なんだって!?」
 そいつはモノが違うからな、とハーレイは軽く拳を握った。
「真面目に相談に乗ってやったら、そう来やがったか!」
 覚悟しろよ、と銀色の頭に一発、コツンとお見舞いする。
 もちろん、痛くないように。
 これくらいでブルーは懲りはしないし、拳がお似合い。
 何度コツンとお見舞いされても、仲も壊れはしないもの。
 遠く遥かな時の彼方から、今も続いている恋だから…。



         嫌なことって・了








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「ねえ、ハーレイ。誰もいないと…」
 寂しくならない、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? どうした、急に?」
 今なら俺がいるだろう、とハーレイは自分の顔を指差した。
 「誰もいない」どころではない、穏やかな時間。
 ブルーの前にはハーレイがいるし、休日だけに両親もいる。
 普段は仕事でいない父まで、家にいるのが当たり前の日。
 なのに何故、と不思議に思ったハーレイだけれど…。
(待てよ、みんなが揃っているから、逆にだな…)
 一人きりの時を思い出したのかもな、と気が付いた。
 ブルーが一人きりになる日は、滅多に無い。
 身体が弱い子供だから、とブルーの母は常に気を配る。
 買い物するにも、外出にしても、ブルーが登校している間。
 いつもそういう具合だけれど、例外の日も、たまにはある。
 急に用事が出来た時とか、買い忘れた急ぎの物があるとか。


(ブルーが学校から帰って来たら、鍵が掛かってて…)
 家に入ると、リビングのテーブルにメモが一枚。
 行先や用事や、帰る時間が書かれた、ブルーへの伝言用。
 そういった日でも、ブルーは何も困りはしない。
 テーブルには、おやつのケーキなどが置かれている筈。
 飲み物にしても、暑い季節なら、何か作ってあるだろう。
 新鮮なレモンでレモネードだとか、アイスティーとか。
(…しかしだな…)
 困らなくても、「急に、一人」には違いない。
 思ってもいない一人暮らしが、ほんの一瞬、やって来る。
 見回してみても部屋に人影は無くて、庭にだっていない。
 もちろん、物音などもしなくて、せいぜい小鳥の声くらい。
(……うーむ……)
 慣れていないと寂しいかもな、とハーレイは思い当たった。
 恐らく、そんな時間を指しているのだろう。
 まだまだ子供のブルーなのだし、きっと、思い出して…。
(俺にも、聞いてみたってトコか)
 なるほどな、とハーレイは大きく頷く。
 一人暮らしが長い「ハーレイ」の意見が気になるのも当然。


 ならば、答えてやるべきだろう。
 「どうしたんだ?」などと言っていないで、自分のことを。
 そう思ったから、ハーレイは「俺か?」と微笑んだ。
「俺なら、特に寂しくはないな」
 なにしろ慣れているモンだから、と軽く両手を広げる。
「この手さえあれば、飯も作れるし、本も読めるし…」
 退屈している暇は無いぞ、と片目を瞑った。
 実際、一人で寂しいと思ったことなどは無い。
 一人暮らしの家は気楽で、誰に気兼ねをすることも無い。
 気が向いた時に、好きに時間を使ってゆける。
 夜中に、突然、何か食べたくなったって…。
(キッチンに出掛けて、湯を沸かそうが…)
 鍋をカチャカチャやっていようが、誰の眠りも邪魔しない。
 誰かいたなら、深夜の料理は、迷惑でしかないだろう。
(食いたい気持ちを押さえ付けるか、抜き足、差し足…)
 音を立てないように気を付け、食器の音にも気を付けて。
 皿が一枚、カチャンと鳴ったら、誰かを起こす恐れがある。
(その手の心配、俺には、まるで無いからなあ…)
 一人暮らしのいいトコなんだ、と心から思う。
 だから、ブルーにも、そう言ったけれど…。


「…本当に? ハーレイ、ホントに寂しくないの?」
 誰かいたらな、と考えないの、とブルーは畳み掛けて来た。
 「お料理の新作、出来た時とか…」と例を挙げて。
「あー…。なるほど、それは確かにあるかもなあ…」
 例外中の例外だが、とハーレイも頷かざるを得なかった。
 レシピをアレンジするのは常で、珍しくはない。
 とはいえ、たまに大きな挑戦もする。
 「この食材で、こうやってみたら、どうなるか」と。
 それで美味しい料理が出来たら、誰かに披露したくなる。
 「おい、ちょっと来て、食ってみろ」と、声を掛けて。
 けれども、誰もいない家では、それは出来ない。
 試食してくれる家族も、同居人さえいない。
 「誰か、呼んどくべきだったよな」と考えた経験が何度か。
 誰もいないのが「寂しい」ような気分に包まれる時。
「あるな、寂しくなっちまう時…」
 ほんのちょっぴりなんだがな、とハーレイは苦笑する。
 そう頻繁ではないのだけれども、寂しくなる日。


 ハーレイの告白を聞いたブルーは、「でしょ?」と笑った。
「だからね、寂しくならないように…」
 ぼくを呼んでよ、と赤い瞳が嬉しそうに煌めく。
 「いつでも行くから」と、「夜でも、パパの車でね」と。
(そう来たか…!)
 家には呼ばない約束だしな、とハーレイは唸る。
 口実があれば、ブルーは、いそいそとやって来るだろう。
 「お料理の新作、何が出来たの?」と試食をしに。
(よくも悪知恵、働かせやがって…!)
 小悪魔めが、とハーレイはブルーを睨んで、言い放った。
 「誰が呼ぶか!」と、決然と。
「お前に頼むくらいだったら、他を当たるぞ!」
 友人も知人も、いくらでもいるものだから。
 お隣さんに「どうぞ」とお裾分けでも、いいのだから…。


       誰もいないと・了





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「ねえ、ハーレイ。思いやりって…」
 大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 思いやりって…」
 急にどうした、とハーレイは首を傾げてブルーを見詰めた。
 質問の意図は謎だけれども、思いやりというものならば…。
(こいつは充分、持ち合わせている筈だよな…?)
 前のあいつには負けるかもだが、と考えてしまう。
 遠く遥かな時の彼方で、ひたすらに人を思いやったブルー。
 自分のことなど後回しにして、全て、他人を優先だった。
(いつも仲間のことを思って、思いやって生きて…)
 最後にはとうとう、命までをも捨ててしまった。
 自分の命さえ投げ出したならば、白い箱舟を守れるから。
 シャングリラをナスカから、無事に何処かへ逃がせるから。
(…前の俺たちは、そうやって…)
 ブルーの「最後の思いやり」に救われ、地球を目指した。
 そうやって今の平和が生まれて、地球も青く蘇った。
(とはいえ、前のあいつは戻らないままで…)
 青い地球の上に生まれて来るまで、報われないまま。
 もしかしたなら、天国で報われたのかもしれないけれど。


 そんな風に生きた前のブルーと、今の小さなブルーは違う。
 今のブルーは幸せ一杯、時には我儘だって言う。
(しかしだな…)
 思いやりに欠けているなどと、一度も思ったことはない。
 まだまだチビの子供だけれども、人を思いやる心は充分。
(お父さんたちが心配するだろうから、と…)
 具合が悪いのを隠そうとしたり、無理をしてみたり。
 結局、体調を崩してしまって、寝込んだ時にも同じこと。
(大丈夫だよ、って…)
 自分のことは一人で出来る、と頑張ろうとする。
 ベッドから降りた途端に倒れそうでも、踏ん張って。
 パジャマの着替えが大変だろうが、母を呼びはしないで。
(…たまに途中で、ダウンしちまうみたいだが…)
 着替えられずに床に倒れて、そのままな日もあるらしい。
 もっとも、両親の方も、それは承知で、注意している。
 「ブルーがベッドで、寝ているかどうか」を、見に訪れる。
 水を運んだり、上掛けを直しに来たりと、口実をつけて。
(それもまた、思いやりってヤツだよなあ…)
 両親と互いに、とハーレイは一人で頷く。
 その両親が育てた今のブルーも、人を思いやれる子に育つ。
 優しい両親の心をそのまま、たっぷり受け継ぐから。


(…つまりは、思いやりは充分なわけで…)
 わざわざ俺に聞くまでもない、と考えて、ハタと気付いた。
 ブルーが言う「大切だよね」は、他の人間かもしれない。
(…こいつにとっては当然のことを、まるで無視して…)
 思いやりに欠けた誰かがいるとか、そういったケース。
 それも、ブルーの身近な所に。
(…友達の中に、そういったヤツが…)
 いるんだろうか、と顎に手を当て、「そうかもな」と思う。
 貸した本を返すのが遅いとか、約束を忘れがちだとか。
(…有り得るぞ…)
 きっとソレだ、という気がするから、ブルーに尋ねた。
「おい。もしかして、思いやりに欠けた誰かがだな…」
 お前の近くにいたりするのか、とブルーの瞳を覗き込んで。
 するとブルーは、「うん」と即座に、首を縦に振った。
「だから、ちょっぴり困ってて…」
 なのに気付いてくれないんだよ、と小さなブルーは困り顔。
 「注意するより、自分で気付いて欲しいんだけど」と。
「あー…。そりゃまあ、注意するっていうのは…」
 最後の手段になりそうだよな、とハーレイにも分かる。
 下手にやったら、友情にヒビが入るから。
 そうなることを回避するのも、これまた思いやりだから。


 けれどブルーに、どう答えたらいいのだろう。
(思いやりは大切だから、注意すべきだ、なんてだな…)
 言えはしないし、教師の自分が言いに行くのは余計に悪い。
 ブルーが「告げ口をした」と、相手は怒り出すだろう。
(…どうすりゃいいんだ、俺は…?)
 小さなブルーが困っているなら、助けたい。
 助け舟を出してやりたいけれども、その方法が出て来ない。
 ブルーに対する助言にしても、直接、助けに乗り出すにも。
(…その友達さえ、自分で気付いてくれればなあ…)
 そうすりゃ、万事解決だが、と腕組みをして考え込む。
 いったい自分は、この問題を、どうすべきか、と。
 ブルーにも「悩んでいる」のが、分かったのだろう。
「あのね…」
 やっぱり、気付くのを待つことにする、とブルーは笑んだ。
 「ぼくなら、それまで我慢出来るし、それでいいよ」と。
「そうなのか? しかし、俺にまで相談するくらい…」
 思いやりに欠けたヤツなんだろう、と心配になる。
 本当に放っておいていいのか、もう気掛かりでたまらない。
 するとブルーは、クスッと笑った。
 「だって、その人、ぼくの目の前にいるんだもの」」と。


「なんだって!?」
 俺か、とハーレイは驚いて自分を指差した。
 自分の何処が「思いやりに欠けている」のか、分からない。
 現に今にしても、ブルーの問いで悩んでいたわけで…。
「何故、俺がそういうことになるんだ?」
 分からんぞ、と睨み付けたら、ブルーは微笑む。
「ぼくの気持ちを、いつも無視してばかりでしょ?」
 キスだって、してくれないしね、と。
 「思いやりが大切だったら、ぼくにキスして」と。
(…そう来たか…!)
 極悪人め、とハーレイは拳を握った。
 ブルーの頭に、コツンと一発、軽くお見舞いするために。
 思いやりは確かに大切だけれど、それは全く別だから。
 本当にブルーを思うからこそ、キスはお預けなのだから…。


         思いやりって・了






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「ねえ、ハーレイ。早めにやるのって…」
 大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「早めだって?」
 急にどうした、とハーレイは軽く首を傾げた。
 ブルーは、何か用事でも思い出したのだろうか。
「えっとね…。急に思い付いただけだから…」
 特に理由は無いんだけれど、とブルーが肩を小さく竦める。
「だけど、早めにやるのは大切でしょ?」
 宿題とかも、部屋の掃除にしても…、とブルーは続けた。
「まだまだ時間はたっぷりあるし、って後回しにしたら…」
 間に合わないこともあるじゃない、と苦笑する。
 「ぼくは、そんなの、滅多に無いけど」と、付け加えて。
「なるほど、そういう意味で早めか」
 そいつは確かに大切だよな、とハーレイは大きく頷いた。
 何事も、早め、早めが大事で、前の生でもそうだったから。


 遠く遥かな時の彼方で、キャプテン・ハーレイだった頃。
 白いシャングリラになる前も、後も、早めを心掛けていた。
 エンジンのオーバーホールもそうだし、ワープドライブも。
 どれも、不具合が出てから対応するのでは遅すぎる。
 完璧に動作している間に、早め、早めにチェックしないと。
「シャングリラでも、早めが鉄則だったっけなあ…」
「うん。あの船の他に、暮らせる所は無かったしね」
 長い間…、とブルーが相槌を打つ。
 修理しないと駄目な状況なんかは、命取りだし、と。
「ああ。壊れてからだと、修理に時間がかかっちまうし…」
 そういう時に限って何か起きる、とハーレイも溜息を零す。
 事故に繋がったことは無かったけれども、よくあった。
 空調の修理が出来ていないのに、その部屋を使う局面など。
 宇宙空間は酷寒か、恒星の熱で灼熱地獄か、二つに一つ。
 そんな宇宙を飛んでいる時に、空調が壊れてしまったら…。
「凍えそうな寒さの中で会議ってのも、あったしなあ…」
「あったよね…。アルテメシアに着く前の時代には…」
 ホントに大変だったっけ、とブルーがクスクスと笑う。
 「今だから、笑い話だけれど」と、可笑しそうに。


 そういった頃の記憶は抜きでも、早めは今の時代も大切。
 「明日でいいか」と放っておいたら、急な用事が入るとか。
 実際、何度も経験したから、今のハーレイも意識している。
 余裕を持って、早め、早めだ、と自分自身に言い聞かせて。
「早めってヤツは、今も昔も、大切だよなあ…」
 つくづく思う、とハーレイはブルーに全面的に同意した。
 平和な時代になったとはいえ、油断は大敵。
 何事も早めにやっていくべきで、後回しにすれば後悔する。
「でしょ? 今のハーレイも、早めが大事で…」
 心掛けてるわけだよね、とブルーは自分を指差した。
「ぼくもそうだよ、身体が弱い分、早めにしないと…」
 寝込んじゃったら、時間が無くなっちゃうしね、と。
「まあなあ…。宿題なら、猶予を貰えそうだが…」
 部屋の掃除じゃ、困るのはお前だ、とハーレイは笑った。
「掃除が済んでない部屋で、寝込んじまったら…」
 片付いてない部屋で寝るしかないしな、と、おどけながら。
「部屋は汚れる一方で、だ…」
 それが嫌なら、お母さんに頼むしか…、とも。
 母に掃除を頼んだ場合は、あちこち覗かれてしまいそう。
 隠しておきたいものがあっても、見られるだとか。


「そう! そんなの、ホントに困っちゃうしね…」
 部屋の掃除も早めなんだよ、とブルーは否定しなかった。
 隠したいようなものは無くても、プライバシーの問題、と。
「プライバシーだと? 一人前の口を利くなあ、お前…」
 まだまだ、ほんのチビのくせに、とハーレイは返す。
 「もっと大きくなってからにしろ」と、からかうように。
「ハーレイ、酷い! でも、チビだって…」
 早めは大切なんだからね、とブルーは唇を尖らせた。
「チビだ、チビだ、って後回しは駄目!」
「はあ?」
 何を後回しにすると言うんだ、とハーレイは目を丸くする。
「お前にしたって、早めを心掛けているんだろう?」
 後回しにしてはいないじゃないか、と首を捻った。
 「それなのに、何処が駄目なんだ?」と。
 するとブルーは、「ぼくじゃなくって!」と即答した。
「ハーレイだってば、ぼくが言ってるのはね!」
「俺だって?」
「分からないかな、今だって、ぼくをチビだ、って…」
 後回しにしているじゃない、と赤い瞳が睨んで来る。
 「早めを心掛けてるくせに!」と。


「早めって…? チビと、どう繋がるんだ?」
 分からんぞ、とハーレイが唸ると、ブルーは叫んだ。
「キスだってば!」
 早めにしておくべきだよね、と勝ち誇った顔で。
「前と同じに育ってから、なんて言っていないで!」
 後回しにしちゃダメなんでしょ、とブルーは得意満面。
 早めにするのは大切だしね、と鬼の首でも取ったように。
「馬鹿野郎!」
 それは早めにしなくてもいい、とハーレイは軽く拳を握る。
 揚げ足を取りに来た悪戯小僧に、一発お見舞いするために。
 銀色の頭をコツンとやるだけ、ゴツンではなくて。
 お仕置きも、早めが大切だから。
 ブルーが調子に乗って来ない間に、やるべきだから…。



         早めにやるのは・了








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「ねえ、ハーレイ。挑戦するのは…」
 大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「挑戦だって? いったい何だ?」
 何に挑戦したいんだ、とハーレイはブルーに問い返した。
 あまりに急な質問な上に、ブルーには似合わない言葉。
 今のブルーも身体が弱くて、守りの姿勢が似合っている。
 そんなブルーが挑戦するなら、頭脳系の何かに違いない。
「えっとね…。例えば、パズルとか…」
 数学の問題とかもそうかな、とブルーは答えた。
「出来そうにない、って諦めるよりは、挑戦でしょ?」
「なんだ、やっぱり、そういうヤツか」
 案の定だな、とハーレイは笑んで、大きく頷く。
「お前のことだし、頭脳系だと思ったが…」
「うん。スポーツとかだと、挑戦は、ちょっと…」
 大切なのは分かってるけど、とブルーは肩を竦めた。
 弱い身体で挑むのは無理で、利口とも思えないから、と。


「まあなあ…。お前の身体じゃ、スポーツ系の挑戦は…」
 やらない方が賢明だよな、とハーレイも肯定するしかない。
 今も虚弱なブルーの身体は、その方面には不向きと言える。
 無理をしてまで挑戦したなら、倒れてしまうことだろう。
 元気な子供だった場合は、無理をする価値もあるけれど。
「普通だったら、其処も挑戦すべきだが…」
 お前だと、ろくなことにはならん、とハーレイにも分かる。
 寝込んでしまって学校も欠席、勉強にだって差し支える。
「でしょ? だから、ぼくならパズルとかだよ」
 でも、挑戦するのは大切だよね、とブルーは繰り返した。
 最初から無理だと投げ出すよりかは、挑戦の方、と。
「そりゃそうだ。でなきゃ力がつかんしな」
 スポーツの方が分かりやすいが、とハーレイも再び頷く。
 さっき頷いたのとは違うポイントでも、此処は頷くべきだ。
「パズルとかだと、実力がついたと分かるまでには…」
 けっこう時間がかかるからな、と苦笑する。
 答えが出るまで挑むしかなくて、途中の力は見えにくい。
 けれど、スポーツの場合は違う。
 日に日に腕が上がるものだし、客観的にも掴みやすいから。


 昨日よりは今日、今日よりは明日、と何でも上達する。
 挑んだ成果は上がるけれども、頭脳系だと分かるのは遅い。
 その点、スポーツは結果が出るのが早いものだから…。
「頭脳系で頑張る生徒よりかは、スポーツ系の方がだな…」
 挑戦する生徒は多くなるな、とハーレイは溜息をついた。
 勉強だったら投げ出す生徒も、部活だと頑張ったりもする。
 朝早くから登校して来て練習、放課後も遅くまで残ったり。
「教師としては、勉強にも挑んで欲しいんだがなあ…」
「ハーレイ、自分で言ったじゃないの」
 結果が見えにくいんだから、仕方ないよ、とブルーも笑う。
 「そんなの、誰でも投げ出すよね」と、可笑しそうに。
「分かってるんだが、やっぱりなあ…」
「投げずに挑んで欲しい、って?」
「当然だろう? お前も自分で言ったじゃないか」
 挑戦するのは大切だ、とな、とハーレイはブルーに返した。
 「俺だって挑戦して欲しいんだ」と、教師の立場で。


 実際、投げ出す生徒は多くて、教師にとっては困りもの。
 スポーツを頑張る力があるなら、勉強も努力して欲しい。
 投げ出さないで挑戦あるのみ、日々、実力を磨いてこそだ。
 聞いたブルーも、「そうだよねえ…」と相槌を打つ。
「だったら、ぼくも挑戦するのが大切だよね?」
「その通りだ。パズルに勉強、どれも挑戦が大切だよな」
 頑張れよ、とハーレイは、ブルーにエールを送った。
 スポーツ系の挑戦でなければ、ブルーの努力は喜ばしい。
 実力もつくし、やる気だって湧いてくるだろう。
 挑戦したいことがあるなら、是非、頑張って欲しいと思う。
「ありがとう! それじゃ早速、挑戦するね!」
 キスを頂戴、とブルーはニコッと笑みを浮かべた。
 「唇にキスして欲しいんだけど」と、勝ち誇った顔で。
「なんだって!?」
 何故、そうなるんだ、とハーレイの目が真ん丸になる。
 挑戦には違いないのだけれども、挑む対象が違うだろう。



「そんな挑戦、俺は絶対、認めんぞ!」
 挑まなくていい、とハーレイはブルーを叱り付けた。
 唇へのキスを贈ってやるには、今のブルーは幼すぎる。
 前のブルーと同じ背丈に育つ時まで、キスはお預け。
「だけど、ハーレイ、言ったよね!」
 挑戦するのは大切だ、って…、とブルーは引かない。
 「諦めないよ」と、「ぼくの挑戦、これなんだから!」と。
「中身によるとも言ったぞ、俺は!」
 スポーツ系だと控えた方がいいってな、とハーレイは返す。
 弱い身体で無理をするのは良くない、と確かに言ったから。
「キスはスポーツじゃないってば!」
「スポーツは例えだ、中身によるんだ!」
 認められない挑戦もある、とハーレイは軽く拳を握った。
 「分からないなら、お見舞いするぞ」とブルーを睨んで。
 「頭をコツンとやって欲しいか」と、苦い顔をして。
 妙な挑戦など、要らないから。
 挑戦するのは大切だけれど、挑む中身によるのだから…。


         挑戦するのは・了







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