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カテゴリー「拍手御礼」の記事一覧

「おい、ブルー。…どうしたんだ?」
 元気が無いな、と尋ねたハーレイ。
 今日は休日、ブルーの部屋でのお茶の時間に。
 午前中から訪ねて来たのに、今日は元気が無いブルー。
 いつもは弾けるような笑顔も、何処か明るさが足りない感じ。
 もしかしたら具合が悪いのだろうか、と思うくらいに。
(こいつは、いつも無理をするから…)
 ハーレイに会える機会を逃さないよう、ブルーは無理をする。
 熱があるのに学校に来たり、風邪を引いても隠していたり、と。
 なんだか嫌な予感がするから、ハーレイは重ねて問い掛けた。
 今日は体調が悪いのか、と。
 そうしたら…。


「うん、ちょっと…。苦しくって…」
 だから元気が出ないんだよ、と答えたブルー。
 俯き加減で、如何にも何処かが苦しそうに。
「おいおいおい…。だったら、寝てなきゃ駄目だろうが!」
 早くベッドに入らんか、とハーレイはベッドを指差した。
 「パジャマに着替えて寝た方がいい」と、真顔になって。
 小さなブルーは、今の生でも身体が弱い。
 じきに寝込んでしまうタイプで、学校の方も休みがち。
 「ハーレイの授業がある日だから」と、無理をしたりして。
 学校でパタリと倒れてしまって、早退になって。
 平日はともかく、休日まで無理をすることはない。
 ブルーがベッドに入っていたって、黙って帰りはしないのだから。


 さっさと寝ろ、と言っているのに、ブルーは首を横へと振った。
 「苦しいんだけど、大丈夫」などと、首を傾げて。
 「ハーレイがいるから、すぐに治るよ」と微笑みもして。
「それが無茶だと、何故、分からん!」
 苦しい時には寝ないといかん、とハーレイは叱ったのだけど…。
「ホントだってば、苦しい場所なら、ぼくの胸だから」
「なんだって? 風邪とかよりも酷いだろうが!」
 病院に行った方がいいぞ、と慌てたハーレイ。
 ブルーは持病は持っていないし、「胸が苦しい」など有り得ない。
 何かの病気の兆候だったら、早めに医者に診せるべき。
 こんな所で押し問答をしている間に、一刻も早く。
「お母さんには言ったのか? お父さんに車を出して貰え」
 俺が呼びに行った方がいいのか、と腰を浮かせかけたら…。


「大丈夫だって言ったでしょ? 胸なんだから」
 お薬だって知っているし、とブルーは笑んだ。
「お前、そういう病気だったか?」
「そうなんだけど…。ハーレイがキスをしてくれないから…」
 胸がとっても苦しくって、と小さなブルーが閉ざした瞼。
 「ぼくにキスして」と、「そしたら、すぐに治るから」と。
「馬鹿野郎!」
 そのまま、ずっと苦しがってろ、とハーレイが小突いた恋人の額。
 十四歳にしかならないブルーに、キスはしないと決めているから。
 どんなにブルーが欲しがろうとも、唇へのキスは絶対に禁止。
 「苦しいんだけど」と言われても。
 それが病気の特効薬でも、ブルーに「ケチ!」と膨れられても…。




           苦しいんだけど・了









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「ねえ、ハーレイって…」
 おじさんだよね、と小さなブルーが傾げた首。
 今日は休日、ハーレイはブルーとテーブルを挟んで向かい合わせ。
 午後のお茶を楽しんでいたのだけれども、妙な質問が飛び出した。
 「おじさんだよね?」と、今はチビになった恋人の口から。
(……おじさんだって?)
 まあ、おじさんには違いないが…、とハーレイが浮かべた苦笑。
 生まれ変わって来た恋人は、十四歳にしかならない子供。
 それに比べて自分はと言えば、とうに三十八歳だから。


「おじさんなのか、と訊かれたら、違うとは言えないな」
 お前から見れば「おじさん」だろう、とハーレイは頷いた。
 どう考えても「お兄さん」と呼んで貰える年ではない。
 相手が、ブルーと違っても。
 ブルーと同い年の他の生徒でも、もっと上の学年の生徒でも。
「そうだよね…。今のハーレイ、おじさんだものね…」
 仕方ないかな、とブルーが呟く。
 「おじさんなんだし、おじさんらしくしないとね」などと。
「おいおいおい…。何なんだ、その、おじさんってのは」
 おじさんらしく、とは何のことだ、とハーレイは目を丸くした。
 外見のことを言っているなら、もう充分に「おじさん」だろう。
 若作りなどしてはいないし、何処から見たって中年だから。


(おじさんらしい、という意味で言ったら、俺はとっくに…)
 立派な中年男なんだが…、と考えていたら、微笑んだブルー。
 それは愛らしく、天使のように。
「えっとね…。おじさんっていうのは、紳士でしょ?」
「はあ?」
「お兄さんは紳士じゃないと思うし、おじさんが紳士」
 そうじゃないの、とブルーが見詰める。
 赤い瞳で「紳士は、おじさんのことじゃないの?」と。
「それはまあ…。紳士と言うなら、そこそこの年だな」
 学生なんかじゃ、まだ紳士とは言えんだろう、と返した答え。
 若い紳士もいるのだけれども、「一般的には、おじさんだな」と。


「やっぱりね…。だから仕方がないんだけれど…」
 紳士だものね、と繰り返すブルー。
 「今のハーレイは、おじさんだから」と謎の台詞を。
「さっきから何を言っているんだ? 俺にはサッパリ…」
 言葉の意味が掴めんのだが…、と問い返したら。
「ハーレイ、紳士だからキスしないんでしょ?」
「なんだって?」
「紳士らしく、って思ってるから、キスはお預け…」
 おじさんだものね、とブルーが零した溜息。
 「年相応に振る舞ってるから、ぼくにキスは無し」と。


「馬鹿野郎!」
 俺がおじさんで悪かったな、とブルーの頭に落とした拳。
 痛くないよう、軽く、コツンと。
 「そう思いたいのなら、思っておけ」と「その手は食わん」と。
 ブルーにキスをしない理由は、今のブルーが子供だから。
 あの手この手で誘われようとも、キスをしようとは思わない。
 たとえ「おじさん」と言われても。
 中年にしか見えない姿を、若い恋人に指摘されようとも…。




         おじさんだものね・了










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「あのね、ハーレイ…」
 ちょっと話があるんだけれど、と小さなブルーが言い出したこと。
 今日は休日、ブルーの部屋でテーブルを挟んで向かい合わせ。
 お茶の時間の真っ最中に、赤い瞳に見詰められた。
「話なら、今、してるだろうが」
「そうだけど…。そうじゃなくって、真剣な話」
「…キスの話なら、お断りだぞ」
 聞くまでもない、とバッサリ切ったハーレイ。
 十四歳にしかならないブルーは、何かと言えばキスを欲しがる。
 前のブルーと同じ背丈に育つまでは禁止、と告げてあるのに。
「違うよ、キスの話じゃないよ。でも、ちょっと…」
 ちょっとくらいは関係あるかも、とブルーは瞬きをした。
 「ぼくじゃなくって、ハーレイの問題なんだけれどね」と。
「はあ?」
 なんで俺だ、とハーレイはポカンと目を見開いた。
 どう転がったらキスの話が、問題なのかが分からないから。


(…こいつは何が言いたいんだ?)
 キスを禁じているのは俺だが…、と目の前のチビの恋人を見る。
 そういう決まりを決めているのは自分なのだし、問題などは…。
(どう考えても、無い筈だがな?)
 サッパリ分からん、と首を捻った所へ、ブルーが笑んだ。
「あのね…。ぼくじゃなくても、キスしてもいいよ」
「……は?」
 誰が、と思わず訊いてしまった。
 いったい誰がキスをしてもいいのか、まるで全く謎でしかない。
「決まってるでしょ、ハーレイだってば」
「俺!?」
「そう! ぼくは心が広いから…」
 他の誰かとキスをしたってかまわないよ、と微笑むブルー。
 「ぼくはいいから」と、「ハーレイだって、キスしたいよね」と。
「なんで俺が…!」
「え、だって…。今のハーレイ、モテそうだから…」
 誘惑する人もいそうじゃない、とブルーは笑顔。
 「誘惑されたら、キスしていいよ」と、余裕たっぷりに。


(……うーむ……)
 なんと反応すればいいのか、悩ましい所。
 小さなブルーは、独占欲が強い筈。
 「ハーレイに彼女がいたのかも」と、涙ぐんだ日もあったほど。
 前の生の記憶が戻らない頃は、他の誰かとキスをしたかも、と。
(ついでに、前のブルーにだって…)
 嫉妬するのが今のブルー。
 「ハーレイの心に住み着いている」と、前の自分をライバル扱い。
(それなのに、俺が他の誰かにキスしてもいいだと…?)
 どうも変だ、と思うけれども、それよりも前の問題として…。
「あのなあ…。お前のお許しが出たとしても、だ…」
 俺は誘惑などには乗らん、と言い切った。
 とびきりの美女がやって来ようが、誰もがときめく女優だろうが。


「…そうなんだ…。だけど、それだと辛いだろうし…」
 チビだけど、ぼくで我慢してね、と返った返事。
 「誰かに誘惑された時には、我慢しないで、ぼくにキスして」と。
「馬鹿野郎!」
 それが狙いか、とブルーの頭に落とした拳。
 コツンと、痛くないように。
 けれどもブルーが懲りるようにと、真上から、軽く。
 「俺は子供にキスはしない」と。
 それくらいなら我慢でいいと、「俺の心はお前のものだ」と…。




          誘惑されたら・了







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(……ん?)
 いったい急にどうしたんだ、とハーレイが見詰めたブルーの顔。
 今日は休日、午前中から恋人の家を訪ねて来た。
 恋人と言っても、十四歳にしかならないチビだけれども。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わって再び巡り会えた人。
 ところがブルーは遥かに年下、おまけに学校の教え子と来た。
 なのに一人前の恋人気取りで、何かと言えば…。
(ぼくにキスして、と来たもんだ)
 何度駄目だと叱り付けても、唇へのキスを強請って来る。
 子供には、それは早すぎるのに。
 前のブルーと同じ背丈に育つまでは、と禁じたのに。


 そういうブルーが、急に黙った。
 お茶を飲みながらの会話の途中で、前触れもなく。
(…普通に話していた筈なんだが?)
 気に障ることは言っちゃいないぞ、と自信がある。
 小さなブルーが怒り出すのは、「キスは駄目だ」と叱られた時。
 たちまちプウッと膨れてしまって、もうプンプンと…。
(怒っちまって、「ハーレイのケチ!」で…)
 散々に罵倒されるけれども、さっきまでの話題は全く違う。
 どうしてブルーが沈黙するのか、心当たりがまるで無い。


(……ふうむ?)
 分からんな、と深まる疑問。
 ついでに一言も喋らないブルー。
 唇をキュッと引き結んだままで、赤い瞳を瞬かせて。
 ただ真っ直ぐにこちらを見据えて、特に怒った様子でもない。
(はて…?)
 俺が失敗しちまったのか、と思い返してみる会話。
 自分にとっては些細なことでも、ブルーはカチンと来ただとか。
(……しかしだな……)
 ただのケーキの話じゃないか、と見下ろす皿。
 ブルーの母が焼いたケーキで、その味について話していた筈。
 「美味いな」と顔を綻ばせながら、頬張って。


 どう転がったら、それでブルーが黙るのか。
 怒った顔はしていなくても、少し機嫌を損ねてしまって。
(……どうしたもんだか……)
 此処は潔く謝るべきか、と思った所へ聞こえた声。
 正確に言うなら「感じた」声で、ブルーの心が零れて来た。
『ハーレイ、鈍い…』
(鈍いだと?)
 やはりブルーを怒らせたのか、と焦ったけれど。
『ぼくがこんなに見詰めているのに、分かんないわけ…?』
(はあ…?)
 何のことだ、と目をパチクリとさせたけれども。


『目は口ほどに物を言う、って言うじゃない…!』
 ぼくの気持ちが分からないなんて、とブルーは愚痴った。
 心が外に零れているとも知らないで。
 「キスしてくれるのを待っているのに、ホントに鈍い」と。
(……そういうことか……)
 馬鹿者めが、と理解したから、キスの代わりに弾いた額。
 指先でピンと、ブルーの額を。
「痛いっ!」
 何をするの、というブルーの抗議に、ニンマリと笑う。
 「筒抜けだぞ?」と、余裕たっぷりに。


「目は口ほどに物を言うってか。お前の心の方がだな…」
 もっと沢山喋っていたさ、と言えばプウッと膨れた恋人。
 「酷い!」と、「ハーレイ、ケチなんだから!」と。
 けれど、ケチでもかまわない。
 小さな恋人が愛おしいから。
 唇にキスをしない理由を、全く分かってくれなくても…。




         目は口ほどに・了









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「おっ? 今日はパウンドケーキなんだな」
 美味そうだ、と顔を綻ばせたハーレイ。
 今日は休日、午前中からブルーの家を訪ねて来たのだけれど。
 午後のお茶の時間に出て来たケーキが、パウンドケーキ。
 ブルーの母が焼いたケーキで、ハーレイはこれが大好物。
(なんたって、おふくろの味だしな?)
 自然と笑みが浮かんでしまう。
 ごくごく単純なレシピだけれども、自分では出せない味だけに。
「ハーレイ、これが大好きだもんね」
 お母さんのと同じ味なんでしょ、とブルーが微笑む。
 「ぼくもいつかはママに習って、同じ味のを作るから」と。


 本当に不思議な話だけれど、そっくりな味がするケーキ。
 ブルーの家で初めて食べた時には、驚いた。
 「おふくろがコッソリ届けに来たのか?」と思ったほどに。
 小麦粉と卵と砂糖と、バター。
  それぞれ一ポンドずつ使って焼くから「パウンド」ケーキ。
 たったそれだけ、そんなケーキが「上手く焼けない」。
 どんなに真似ようと頑張ってみても、母のと同じ味にならない。
 ところが、ブルーの母が作ると「おふくろの味」。
 だからパウンドケーキが出る度、嬉しくなる。
 「美味いケーキだ」と、「おふくろの味が食べられるぞ」と。


 ブルーも承知しているだけに、「同じ味のを焼く」のが目標。
 今は無理でも、いつの日か母に教わろう、と。
 そんなブルーがケーキの端を、フォークで切って頬張って…。
「ねえ、ハーレイ。パウンドケーキのことなんだけど…」
「うん? どうかしたか?」
「ママに教わったらいいんじゃないかな、作り方を」
 ハーレイだって知りたいよね、と赤い瞳が煌いている。
「それはまあ…。しかしレシピを聞いた所で、どうにもならんぞ」
 現におふくろのレシピも役には立たん、とハーレイは唸る。
 隣町で暮らす母のレシピは、とっくに試した後なのだから。


「それなんだけど…。ハーレイのをママに食べて貰えば?」
「はあ?」
「ママが食べたら、きっとヒントを貰えるよ」
 お菓子作りの名人だもの、とブルーは瞳を瞬かせた。
 注意する所は火加減だとか、材料の混ぜ方などだとか…、と。
「うーむ…。確かに百聞は一見に如かずと言いはするよな」
「でしょ? 今度、作って持って来てよ」
 そうすればママのアドバイスが…、とブルーは得意顔だけれども。
「…ちょっと待て。俺が作って持って来たケーキ…」
 お前も食うんじゃないだろうな、と確かめた。
 ブルーの母に試食して比べて貰うからには、ケーキの残りは…。


「ぼくも食べるに決まってるでしょ!」
 食べない方が変じゃない、と胸を張ったブルー。
 「ママのと比べてみたらいいよ」と、「ぼくも比べる」と。
「馬鹿野郎!」
 お前の狙いは其処なんだな、と顔を顰めて一蹴した。
 ブルーは「手作りのケーキ」が狙いで、食べたいだけ。
 たちまち膨れるブルーだけれども、当然の報い。
(俺の手作りのケーキを食うには、早すぎるんだ!)
 知るもんか、とパウンドケーキをフォークで切って頬張る。
 とても美味しいケーキだけれども、味わえればそれで充分だから。
 作り方の秘訣を習いたくても、ブルーの頼みは聞けないから…。




           比べてみたら・了








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