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温もりが欲しい

「ねえ、ハーレイ…」
 温めてくれる? とブルーが右手を差し出した。
 ハーレイと向かい合わせで座ったテーブル、その上に手を。
「かまわないが…。暑くないのか?」
 夏なんだが、と苦笑いをしながら手を取るハーレイ。
 褐色の大きな両の手でそうっと、包み込むように。
 まるで宝物を包むかのように、ブルーの小さな右の手を、そっと。


 前の生でブルーが失くした温もり、落として失くしてしまった温もり。
 キースに撃たれた傷の痛みで、メギドで撃たれた傷の痛みで。
 最後まで持っていたいと願ったハーレイの温もりを失くしたブルー。
 右の手から消えてしまった温もり、ブルーは独りぼっちになった。
 ハーレイの温もりを失くして、独り。
 もう会えないのだと泣きながら死んだ、たった一人で。一人きりで。


 そんな悲しい記憶があるから、今でも忘れられないから。
 小さなブルーは温もりを求める、ぼくの右の手を温めて、と。
 出会ったばかりの五月の初めの頃なら、肌寒い夜もあったけれども。
 今では季節はすっかりと夏で、夏真っ盛りの夏休み。
 なのにブルーは右手を差し出す、「温めてくれる?」と。
 そう願う気持ちは分かるけれども、いくらでも温めてやりたいけども。


(…夏なんだしな?)
 季節を思えば、今の幸せな日々を思えば少し意地悪したくなる。
 悪戯心が頭をもたげる。
 小さなブルーと青い地球の上、それは幸せな毎日だから。
 共に暮らせはしないけれども、引き裂かれることはもう無いのだから。
 懸命に温もりを求めなくとも、ブルーは一人ではないのだから。
 外は暑い夏、命の輝きが眩しい季節。
 ちょっぴりブルーを苛めてみようか、小さなブルーを。


「なあ、ブルー…。俺は思うんだが」
「なあに?」
 どうしたの、とブルーが首を傾げるから。
「こうして右手を温めなくても、部屋の冷房…」
 切っちまって窓を開けようじゃないか、と提案してやった。
 そうすれば充分に暖かいぞ、と。
「嫌だよ、それ!」
 暖かいんじゃなくって暑いの間違い、とブルーが叫ぶから。
 暑くて嫌だと騒ぎ出すから、パチンと片目を瞑ってやる。
 ただの冗談だと、この手は俺が温めてやる、と…。



         温もりが欲しい・了




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