「ねえ、ハーレイ。なんだか心配なんだけど…」
とても心配なんだけれど、と小さなブルーが曇らせた顔。
二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「心配だって?」
急にどうした、とハーレイは赤い瞳を覗き込んだ。
其処には確かに、不安そうな影が揺らめいている。
(いったい何があったんだ…?)
そんな話はしていないぞ、とハーレイは思い返してみた。
ついさっきまでの話題に加えて、今日の出来事を全て。
(…ブルーは朝から御機嫌でだな…)
身体の調子もいい筈だが、と考えた所でハタと気付いた。
もしかしたら、体調かもしれない。
元気そうに見えているのだけれども、この瞬間にも…。
(気を抜いたら眩暈を起こしそうだとか、眠いとか…)
不調になる兆しを、ブルーは自覚したのだろうか。
そうだとしたら、放っておいたら大変なことになる。
ブルーは普段から無理をしがちで、学校だって…。
(俺の授業があるってだけで、うんと具合が悪くても…)
登校して来て倒れるほどだし、休日となれば危険は倍増。
二人きりで過ごせるチャンスに、寝ているわけがない。
(こりゃ厄介だぞ、呑気に喋っていないでだな…)
ブルーをベッドに入れるべきだ、とハーレイは判断した。
自分から「寝る」と言う筈が無いし、命じるしかない。
「おい、大人しくベッドに入れ」
パッタリ倒れちまう前に、と腕組みをしてブルーを睨む。
「でないと、後が大変だぞ」と諭すように。
「いいか、今日くらい、と思っているんだろうが…」
此処で寝込んだら学校もパアだ、と現実を突き付けた。
来週の古典の授業は出られず、学校にも行けない、と。
「それが嫌なら、サッサとベッドで寝るんだな」
黙って帰りやしないから、とブルーを安心させてやる。
ちゃんと夕食の時間までいて、夕食も、出来れば…。
「お前と一緒に食いたいからなあ、俺だって」
だから、それまでに早く治せ、と微笑み掛けた。
「心配だなんて言っていないで、早めに寝ろ」と。
けれどブルーは頷く代わりに、キョトンと目を丸くした。
「えっと…? なんで寝なくちゃいけないの?」
「誤魔化すんじゃない。心配なんだろ?」
具合が悪くなりそうで…、とハーレイは指摘する。
そうなる前に治さないとな、とベッドの方を指差して。
ところが、ブルーは「違うってば」と唇を尖らせた。
「全然違うよ」と不満げな顔で、頬までが膨らみそう。
「そんな調子だから、うんと心配なんだけど…?」
ホントのホントに心配で…、とブルーは溜息をつく。
「ますます心配になって来ちゃった」と情けなさそうに。
「はあ…?」
もしかして俺が原因なのか、とハーレイは首を捻った。
ますますもって、そういう心当たりが無い。
ブルーが心配になるようなことを、してなどはいない。
(…そうだよなあ…?)
朝からずっと此処にいるんだし、と考えてみる。
「何かやったか?」と、「していないよな」と、何回も。
(……サッパリ分からん……)
まるで分からん、と唸っていたら、ブルーが口を開いた。
「あーあ、ホントに嫌いになりそう…」
「はあ?」
またしても「はあ?」になったけれども、仕方ない。
それしか口から出て来なかったし、どうしようもない。
ブルーはフウと溜息をついて、肩を竦めた。
「鈍いよね…」と、「ホントに嫌いになりそうだよ」と。
「なんだって?」
嫌いになるとは俺のことか、とハーレイは目を見開いた。
どうして自分が嫌われるのか、思い当たる節が全く無い。
ブルーは「ハーレイ」が大好きな筈で、前の生から…。
(俺に惚れてて、今だって俺の恋人でだな…)
嫌われるわけがないだろう、とブルーが解せない。
何故「心配」で「嫌いになる」のか、まるで全く。
「此処まで言っても分からないわけ!?」
ぼくの将来、ホントに心配、とブルーは深い溜息を零す。
「いつかホントに嫌いになりそう」と、呆れ果てた顔で。
「だから、どうしてそうなるんだ…?」
お前は俺に惚れてるくせに、とハーレイは問い返した。
「俺を嫌いになるなんてことは、有り得んだろう」と。
するとブルーは仏頂面で、プウッと頬を膨らませた。
「嫌いにもなるよ、こんな恋人」と、「鈍すぎるし」と。
「ハーレイ、ちゃんと分かっているの?」
キスの一つもくれないんだもの、とフグになったブルー。
(そういうことか、良からぬことを考えやがって…!)
膨らんだ頬を、ハーレイは逃しはしなかった。
両手を伸ばしてペシャンと潰して、フンと鼻を鳴らす。
「それなら、勝手に心配しとけ」と。
「嫌ってくれて大いに結構」と、「俺は知らん」と…。
心配なんだけど・了
とても心配なんだけれど、と小さなブルーが曇らせた顔。
二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「心配だって?」
急にどうした、とハーレイは赤い瞳を覗き込んだ。
其処には確かに、不安そうな影が揺らめいている。
(いったい何があったんだ…?)
そんな話はしていないぞ、とハーレイは思い返してみた。
ついさっきまでの話題に加えて、今日の出来事を全て。
(…ブルーは朝から御機嫌でだな…)
身体の調子もいい筈だが、と考えた所でハタと気付いた。
もしかしたら、体調かもしれない。
元気そうに見えているのだけれども、この瞬間にも…。
(気を抜いたら眩暈を起こしそうだとか、眠いとか…)
不調になる兆しを、ブルーは自覚したのだろうか。
そうだとしたら、放っておいたら大変なことになる。
ブルーは普段から無理をしがちで、学校だって…。
(俺の授業があるってだけで、うんと具合が悪くても…)
登校して来て倒れるほどだし、休日となれば危険は倍増。
二人きりで過ごせるチャンスに、寝ているわけがない。
(こりゃ厄介だぞ、呑気に喋っていないでだな…)
ブルーをベッドに入れるべきだ、とハーレイは判断した。
自分から「寝る」と言う筈が無いし、命じるしかない。
「おい、大人しくベッドに入れ」
パッタリ倒れちまう前に、と腕組みをしてブルーを睨む。
「でないと、後が大変だぞ」と諭すように。
「いいか、今日くらい、と思っているんだろうが…」
此処で寝込んだら学校もパアだ、と現実を突き付けた。
来週の古典の授業は出られず、学校にも行けない、と。
「それが嫌なら、サッサとベッドで寝るんだな」
黙って帰りやしないから、とブルーを安心させてやる。
ちゃんと夕食の時間までいて、夕食も、出来れば…。
「お前と一緒に食いたいからなあ、俺だって」
だから、それまでに早く治せ、と微笑み掛けた。
「心配だなんて言っていないで、早めに寝ろ」と。
けれどブルーは頷く代わりに、キョトンと目を丸くした。
「えっと…? なんで寝なくちゃいけないの?」
「誤魔化すんじゃない。心配なんだろ?」
具合が悪くなりそうで…、とハーレイは指摘する。
そうなる前に治さないとな、とベッドの方を指差して。
ところが、ブルーは「違うってば」と唇を尖らせた。
「全然違うよ」と不満げな顔で、頬までが膨らみそう。
「そんな調子だから、うんと心配なんだけど…?」
ホントのホントに心配で…、とブルーは溜息をつく。
「ますます心配になって来ちゃった」と情けなさそうに。
「はあ…?」
もしかして俺が原因なのか、とハーレイは首を捻った。
ますますもって、そういう心当たりが無い。
ブルーが心配になるようなことを、してなどはいない。
(…そうだよなあ…?)
朝からずっと此処にいるんだし、と考えてみる。
「何かやったか?」と、「していないよな」と、何回も。
(……サッパリ分からん……)
まるで分からん、と唸っていたら、ブルーが口を開いた。
「あーあ、ホントに嫌いになりそう…」
「はあ?」
またしても「はあ?」になったけれども、仕方ない。
それしか口から出て来なかったし、どうしようもない。
ブルーはフウと溜息をついて、肩を竦めた。
「鈍いよね…」と、「ホントに嫌いになりそうだよ」と。
「なんだって?」
嫌いになるとは俺のことか、とハーレイは目を見開いた。
どうして自分が嫌われるのか、思い当たる節が全く無い。
ブルーは「ハーレイ」が大好きな筈で、前の生から…。
(俺に惚れてて、今だって俺の恋人でだな…)
嫌われるわけがないだろう、とブルーが解せない。
何故「心配」で「嫌いになる」のか、まるで全く。
「此処まで言っても分からないわけ!?」
ぼくの将来、ホントに心配、とブルーは深い溜息を零す。
「いつかホントに嫌いになりそう」と、呆れ果てた顔で。
「だから、どうしてそうなるんだ…?」
お前は俺に惚れてるくせに、とハーレイは問い返した。
「俺を嫌いになるなんてことは、有り得んだろう」と。
するとブルーは仏頂面で、プウッと頬を膨らませた。
「嫌いにもなるよ、こんな恋人」と、「鈍すぎるし」と。
「ハーレイ、ちゃんと分かっているの?」
キスの一つもくれないんだもの、とフグになったブルー。
(そういうことか、良からぬことを考えやがって…!)
膨らんだ頬を、ハーレイは逃しはしなかった。
両手を伸ばしてペシャンと潰して、フンと鼻を鳴らす。
「それなら、勝手に心配しとけ」と。
「嫌ってくれて大いに結構」と、「俺は知らん」と…。
心配なんだけど・了
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(今日はハーレイに会えなかったよ…)
後姿だって見ていない、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は古典の授業が無かった上に、廊下でさえもハーレイに会えはしなかった。
何処かに姿が無いだろうか、と窓から見ても、帰りにグラウンドを見渡した時も…。
(ハーレイ、何処にもいなくって…)
仕事の帰りに来てくれるかも、と待っていたのに、ハーレイの愛車は来なかった。
ツイていない、と残念だけれど、こういう日だって少なくない。
別々の家で暮らす以上は、仕方ないとも言えるだろう。
(結婚したら、毎日、一緒に暮らすんだから…)
それまでの我慢で、結婚した後は、顔を見られない日の方が珍しくなる。
第一、顔を見られない日など、あるのかどうか。
(泊まりがけの研修とかでも、同じホテルに部屋を取ったら…)
ハーレイは其処に帰って来るから、昼食はともかく、朝食と夕食は二人で食べる。
昼休みだって、ハーレイは部屋に来るかもしれない。
配られた自分のお弁当を持って、ブルー用のも何処かで調達して来て。
(そうなるかもね?)
名物が入ったお弁当とか…、と大きく頷く。
「ハーレイだったら、きっとそうだよ」と、「お昼御飯が、お弁当だったら」と。
そんな具合で、会えない日などは全く無くなるかもしれない。
いつも、いつでも、どんな時でも、ハーレイと離れる日などは無くて。
(前のぼくたちも、そうだったんだし…)
今度も似たようなことになりそう、とクスッと笑った。
「時代も場所も変わっちゃったけど、やってることは同じだよね」と嬉しくなって。
青い地球まで辿り着いても、二人の暮らしは、遠い昔に夢に見た通り。
シャングリラという船が無くなり、ソルジャーでも、キャプテンでもなくなっても。
「ただのハーレイ」と「ブルー」になっても、「いつも一緒」と心が温かくなる。
本物の地球で生きてゆけるし、ハーレイと離れることなど二度と無いから。
時の彼方で、メギドで泣きながら死んだ時には、こんな日が来るとは思わなかった。
それを思えば、今日みたいに会えない日が「たまに」あっても、文句は言えないだろう。
神様の粋な計らいのお蔭で、あと何年か待てば、ハーレイと結婚出来るのだから。
(そしたら、二度と離れることなんか無くて…)
ハーレイの顔を見られない日は、ホントのホントに無くなるかも、と気持ちが浮き立つ。
「あと少しだけの我慢だものね」と、自分自身に言い聞かせて。
(…結婚したら、ハーレイの家で暮らすんだから…)
ハーレイが家出でもしない限りは、嫌でも顔を合わせる日々。
前の生では酷い喧嘩はしなかったけれど、今度はするかもしれなくて…。
(ハーレイなんか大嫌いだ、って叫んで、怒って…)
「自分」が家出することはあっても、ハーレイの方はしないだろう。
なんと言っても其処は「ハーレイの家」で、ハーレイが出てゆくわけもないから。
(大喧嘩をして、お互い、頭に来たって…)
家出するのは「ブルー」の方で、ハーレイは家から動かない。
廊下でブルーと出くわす度に、露骨に顔を顰めても。
「お前なんか、俺は知らないからな!」とプイと顔を背けて、口さえ利いてくれなくても。
(それでも、ぼくの分の御飯は…)
ハーレイが「自分のを作るついでに」作ってくれて、テーブルにドンと置いてありそう。
怒っているから、嫌がらせとばかりに、とんでもない量が盛ってあっても。
(…ぼくが普段に食べてる量の、二倍はあるっていう勢いで…)
おかずも御飯も、恐ろしいほどの大盛りサイズ。
スープや味噌汁も、「おかわりは鍋にあるから、温めて食え」とメモがついている。
だからテーブルの上には、当然のように、こう書かれたメモ。
「残さずに全部、綺麗に食えよ。残したら、二度と作ってやらないからな!」と大きな字で。
(…ぼく、それだけで降参しそう…)
一食くらいは何とかなっても、三食は無理、という気がする。
胃袋が悲鳴を上げてしまって、いくら美味しくても食べ切れなくて。
(早くハーレイに謝らないと…)
食事を作って貰えなくなるから、降参するしかないだろう。
「ごめんなさい」と、ハーレイに頭を下げて。
ハーレイの方が悪いと思っていたって、其処の所は、グッと堪えて。
(……ハーレイ、最強……)
食事を大盛りにして出すだけで、ぼくが謝りに行くんだから、と可笑しくなる。
今のハーレイも料理が得意で、作るのも好きで、一人暮らしでも自炊をしているほど。
料理を作るのが苦になるどころか、楽しみながら毎日やっているのに…。
(ぼくと喧嘩になった時には、ドンと大盛りにするだけで…)
ブルーが詫びを入れに来るのだから、どう考えても最強だろう。
武器は「おたま」や「しゃもじ」の類で、自在に操り、ブルーを倒す。
美味しい料理をドッサリ作って、器にたっぷり盛り付けて。
「残した時には、二度と作ってやらないからな」と、脅迫めいたメモを隣に添えて。
(…ホントに強すぎ…)
勝てやしない、と肩を竦めて、未来の自分が気の毒になった。
ハーレイと派手に喧嘩をやらかし、捨て台詞を吐いて、部屋を出たまではいいけれど…。
(廊下で会っても、プイッて知らん顔をして…)
無視して得意になっていたのに、ハーレイが「飯だぞ!」とだけ言いに来る。
ブルーが立てこもっている部屋の前で、扉を叩いて、大きな声で。
「俺はもう、先に食ったからな」と、「後はお前が好きな時に食え!」とも付け足して。
(…ハーレイの顔なんか、見てやるもんか、って…)
返事もしないで放っておいて、少し経ってから扉を開けて、ダイニングへ。
普段はハーレイと食事するテーブル、其処で一人で食べようと。
(…食べ終わったら、お皿も洗わずに放っておこう、って…)
まだプリプリと怒りながらも、お腹は減るから、食事には行く。
そうして、其処で目にするものは…。
(大盛りになってる凄い量の食事と、「残すな」ってメモ…)
「皿はきちんと洗っておけよ」のメモが無くても、大盛りと「残すな」だけで充分。
未来のブルーは大ダメージで、打ちのめされることだろう。
「この量を、ぼくが一人で食べるの?」と。
少しでも残してしまったが最後、ハーレイは二度と作ってくれない。
そうなったならば、自分で何か作って食べるか…。
(外へ食べに出掛けて行くしかなくって…)
そういうブルーを横目で見ながら、ハーレイは自分の分の食事を鼻歌交じりに楽しく作る。
わざとコトコト音を立てたり、長い時間をかけてじっくり料理したり、といった具合に。
(それって、惨めすぎるから…!)
あんまりだよね、と悲しくなってくるから、未来のブルーは詫びるしかない。
たとえ「ハーレイの方が悪いんだよ!」と思っていても。
まだまだ文句を言い足りなくても、白旗を掲げて降参するだけ。
「ごめんなさい」と、「だから、ぼくにも食べさせてよ」と頭を下げて。
(…まさか料理で、ぼくが謝るしか無いなんて…)
情けないよね、と悔しいけれども、料理の腕では敵わない。
ついでに今のチビの自分が、結婚までに料理の腕を磨くというのも難しそう。
(向き不向きっていうのもあるし…)
前の自分も厨房に立った経験は無いし、せいぜい、前のハーレイの手伝いくらい。
だから今度の自分にしたって、母の手伝いが精一杯といった所だろう。
(今のハーレイの大好物の、パウンドケーキだけは…)
なんとか覚えて作りたいけれど、それだって上手くゆくのかどうか。
今のハーレイの母が作るのと、同じ味だと聞く「今の自分」の母が焼くケーキを…。
(ちゃんと再現出来るようになるには、何年もかかっちゃうのかも…)
そうなってくると、未来の自分に「料理」という名の武器は無い。
「パウンドケーキ、二度と作ってあげないからね!」と言い放ったって、武器はそれだけ。
(…ケーキくらい、食べ損なったって…)
ハーレイは何も困りはしないし、「そうか、それなら俺が焼くかな」と言い出しそう。
もう早速に、ケーキの材料を量り始めて。
「今ある材料で作れるヤツは…」と、冷蔵庫や戸棚を覗き込んで。
(でもって、おやつの時間になったら…)
キッチンの方から、美味しそうな匂いが漂ってくることだろう。
「ハーレイが自分用に作ったケーキ」が、オーブンの中で焼き上がって。
それを取り出し、コーヒー党のくせに紅茶まで淹れて、ハーレイが一人でティータイム。
「よし、なかなかに上手く焼けたな」などと、大きな声で独り言を言いながら。
「実に美味い」と、「我ながら、これは大傑作だぞ」と自画自賛して。
(…ぼくが謝りに出て行かないと、ハーレイ、美味しいケーキを全部…)
一人で食べてしまうんだから、と思うものだから、ケーキの場合も降参あるのみ。
ケーキではなくて、パイが焼けても。
あるいはホカホカと湯気を立てている、中華饅頭が蒸し上がっても。
(…もう完全に敗北だってば…!)
食事で来られても、おやつで来ても…、と未来の自分の惨敗が目に見えるよう。
ハーレイはただ、普段通りにキッチンに立って、調理用の器具を操るだけ。
それだけで未来のブルーを倒せて、美味しい料理やお菓子も出来る。
「おたま」や「しゃもじ」やフライパンやら、オーブンなんかも武器に仕立てて。
(……ということは、もっと強烈な最終兵器は……)
家出じゃないの、と背筋が凍り付いた。
確かに「ハーレイの家」だけれども、だからといって「家出してはならない」わけではない。
そんな決まりは何処にも無いし、ハーレイがブルーに最後通牒を突き付けるなら…。
「俺は、この家を出て行くからな!」と荷物を纏めて、玄関から出て行けばいい。
大股で庭をズンズン横切り、愛車に乗り込み、エンジンをかけて…。
(ガレージから、車ごと出て行っちゃって…)
それっきり二度と戻って来なくて、「ブルー」は家に一人きり。
最初の間は、「好きにしたら?」と舌まで出して、勝ち誇った気でいそうだけれど…。
(…ハーレイが出てった時間によっては…)
たちまち困るかもしれない。
お腹が空いて来たというのに、食べられる料理が何処にも無くて。
冷蔵庫の中にも残り物は無くて、あるのは戸棚のパンくらいで。
(…一食くらいは、パンにバターとか、ジャムだとか…)
ちょっと工夫して、溶けるチーズを乗っけてみたり、と二食目も乗り切れるかもしれない。
けれども、多分、其処までが…。
(ぼくの限度で、ママたちの家に御飯を食べに行くとか、外で食べるとか…)
あるいは何かを買って来るとか、もはや「自分の腕」では無理。
冷蔵庫に食材が詰まっていたって、どうすることも出来はしなくて…。
(もう駄目だよ、って泣きそうな頃に、ハーレイが…)
窓を外からコンと叩いて、「冷蔵庫!」という声がするのだろう。
「中の食材、無駄にするなよ」と、「駄目にしたら、俺は二度と帰って来ないからな!」と。
(…そういう時に限って、うんと難しそうな…)
食材ばっかり詰まってるんだよ、という気がするから、もう泣きながら謝るしかない。
「ごめんなさい!」と、「ぼくには無理だから、ハーレイ、作って…!」と。
(…これって、文字通りに、最終兵器…)
メギドより怖い気がするんだけれど、とブルーは震え上がる。
「メギドだったら、前のぼく、壊せたんだけど…」と、今の自分をよく考えてみて。
料理なんかは出来そうになくて、今のハーレイには勝てそうもない腕前では…。
(…ハーレイ、倒せないんだから…!)
家出されちゃったら、おしまいだよ、と首をブンブンと横に振るしかない。
ハーレイが家出をしてしまったら、降参するしか無さそうだから。
「そうか、お前には、やっぱり無理か」と、ハーレイが意地悪そうな顔で嘲笑っても。
「だったら、謝るしかないよな、お前?」と、偉そうに胸を張りながら、威張られても…。
家出されちゃったら・了
※ハーレイ先生と喧嘩した場合、食事で困りそうなブルー君。自分では上手く作れなくて。
その状況でハーレイ先生に家出されたら、大惨事。メギド以上の最終兵器は料理らしいですv
後姿だって見ていない、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は古典の授業が無かった上に、廊下でさえもハーレイに会えはしなかった。
何処かに姿が無いだろうか、と窓から見ても、帰りにグラウンドを見渡した時も…。
(ハーレイ、何処にもいなくって…)
仕事の帰りに来てくれるかも、と待っていたのに、ハーレイの愛車は来なかった。
ツイていない、と残念だけれど、こういう日だって少なくない。
別々の家で暮らす以上は、仕方ないとも言えるだろう。
(結婚したら、毎日、一緒に暮らすんだから…)
それまでの我慢で、結婚した後は、顔を見られない日の方が珍しくなる。
第一、顔を見られない日など、あるのかどうか。
(泊まりがけの研修とかでも、同じホテルに部屋を取ったら…)
ハーレイは其処に帰って来るから、昼食はともかく、朝食と夕食は二人で食べる。
昼休みだって、ハーレイは部屋に来るかもしれない。
配られた自分のお弁当を持って、ブルー用のも何処かで調達して来て。
(そうなるかもね?)
名物が入ったお弁当とか…、と大きく頷く。
「ハーレイだったら、きっとそうだよ」と、「お昼御飯が、お弁当だったら」と。
そんな具合で、会えない日などは全く無くなるかもしれない。
いつも、いつでも、どんな時でも、ハーレイと離れる日などは無くて。
(前のぼくたちも、そうだったんだし…)
今度も似たようなことになりそう、とクスッと笑った。
「時代も場所も変わっちゃったけど、やってることは同じだよね」と嬉しくなって。
青い地球まで辿り着いても、二人の暮らしは、遠い昔に夢に見た通り。
シャングリラという船が無くなり、ソルジャーでも、キャプテンでもなくなっても。
「ただのハーレイ」と「ブルー」になっても、「いつも一緒」と心が温かくなる。
本物の地球で生きてゆけるし、ハーレイと離れることなど二度と無いから。
時の彼方で、メギドで泣きながら死んだ時には、こんな日が来るとは思わなかった。
それを思えば、今日みたいに会えない日が「たまに」あっても、文句は言えないだろう。
神様の粋な計らいのお蔭で、あと何年か待てば、ハーレイと結婚出来るのだから。
(そしたら、二度と離れることなんか無くて…)
ハーレイの顔を見られない日は、ホントのホントに無くなるかも、と気持ちが浮き立つ。
「あと少しだけの我慢だものね」と、自分自身に言い聞かせて。
(…結婚したら、ハーレイの家で暮らすんだから…)
ハーレイが家出でもしない限りは、嫌でも顔を合わせる日々。
前の生では酷い喧嘩はしなかったけれど、今度はするかもしれなくて…。
(ハーレイなんか大嫌いだ、って叫んで、怒って…)
「自分」が家出することはあっても、ハーレイの方はしないだろう。
なんと言っても其処は「ハーレイの家」で、ハーレイが出てゆくわけもないから。
(大喧嘩をして、お互い、頭に来たって…)
家出するのは「ブルー」の方で、ハーレイは家から動かない。
廊下でブルーと出くわす度に、露骨に顔を顰めても。
「お前なんか、俺は知らないからな!」とプイと顔を背けて、口さえ利いてくれなくても。
(それでも、ぼくの分の御飯は…)
ハーレイが「自分のを作るついでに」作ってくれて、テーブルにドンと置いてありそう。
怒っているから、嫌がらせとばかりに、とんでもない量が盛ってあっても。
(…ぼくが普段に食べてる量の、二倍はあるっていう勢いで…)
おかずも御飯も、恐ろしいほどの大盛りサイズ。
スープや味噌汁も、「おかわりは鍋にあるから、温めて食え」とメモがついている。
だからテーブルの上には、当然のように、こう書かれたメモ。
「残さずに全部、綺麗に食えよ。残したら、二度と作ってやらないからな!」と大きな字で。
(…ぼく、それだけで降参しそう…)
一食くらいは何とかなっても、三食は無理、という気がする。
胃袋が悲鳴を上げてしまって、いくら美味しくても食べ切れなくて。
(早くハーレイに謝らないと…)
食事を作って貰えなくなるから、降参するしかないだろう。
「ごめんなさい」と、ハーレイに頭を下げて。
ハーレイの方が悪いと思っていたって、其処の所は、グッと堪えて。
(……ハーレイ、最強……)
食事を大盛りにして出すだけで、ぼくが謝りに行くんだから、と可笑しくなる。
今のハーレイも料理が得意で、作るのも好きで、一人暮らしでも自炊をしているほど。
料理を作るのが苦になるどころか、楽しみながら毎日やっているのに…。
(ぼくと喧嘩になった時には、ドンと大盛りにするだけで…)
ブルーが詫びを入れに来るのだから、どう考えても最強だろう。
武器は「おたま」や「しゃもじ」の類で、自在に操り、ブルーを倒す。
美味しい料理をドッサリ作って、器にたっぷり盛り付けて。
「残した時には、二度と作ってやらないからな」と、脅迫めいたメモを隣に添えて。
(…ホントに強すぎ…)
勝てやしない、と肩を竦めて、未来の自分が気の毒になった。
ハーレイと派手に喧嘩をやらかし、捨て台詞を吐いて、部屋を出たまではいいけれど…。
(廊下で会っても、プイッて知らん顔をして…)
無視して得意になっていたのに、ハーレイが「飯だぞ!」とだけ言いに来る。
ブルーが立てこもっている部屋の前で、扉を叩いて、大きな声で。
「俺はもう、先に食ったからな」と、「後はお前が好きな時に食え!」とも付け足して。
(…ハーレイの顔なんか、見てやるもんか、って…)
返事もしないで放っておいて、少し経ってから扉を開けて、ダイニングへ。
普段はハーレイと食事するテーブル、其処で一人で食べようと。
(…食べ終わったら、お皿も洗わずに放っておこう、って…)
まだプリプリと怒りながらも、お腹は減るから、食事には行く。
そうして、其処で目にするものは…。
(大盛りになってる凄い量の食事と、「残すな」ってメモ…)
「皿はきちんと洗っておけよ」のメモが無くても、大盛りと「残すな」だけで充分。
未来のブルーは大ダメージで、打ちのめされることだろう。
「この量を、ぼくが一人で食べるの?」と。
少しでも残してしまったが最後、ハーレイは二度と作ってくれない。
そうなったならば、自分で何か作って食べるか…。
(外へ食べに出掛けて行くしかなくって…)
そういうブルーを横目で見ながら、ハーレイは自分の分の食事を鼻歌交じりに楽しく作る。
わざとコトコト音を立てたり、長い時間をかけてじっくり料理したり、といった具合に。
(それって、惨めすぎるから…!)
あんまりだよね、と悲しくなってくるから、未来のブルーは詫びるしかない。
たとえ「ハーレイの方が悪いんだよ!」と思っていても。
まだまだ文句を言い足りなくても、白旗を掲げて降参するだけ。
「ごめんなさい」と、「だから、ぼくにも食べさせてよ」と頭を下げて。
(…まさか料理で、ぼくが謝るしか無いなんて…)
情けないよね、と悔しいけれども、料理の腕では敵わない。
ついでに今のチビの自分が、結婚までに料理の腕を磨くというのも難しそう。
(向き不向きっていうのもあるし…)
前の自分も厨房に立った経験は無いし、せいぜい、前のハーレイの手伝いくらい。
だから今度の自分にしたって、母の手伝いが精一杯といった所だろう。
(今のハーレイの大好物の、パウンドケーキだけは…)
なんとか覚えて作りたいけれど、それだって上手くゆくのかどうか。
今のハーレイの母が作るのと、同じ味だと聞く「今の自分」の母が焼くケーキを…。
(ちゃんと再現出来るようになるには、何年もかかっちゃうのかも…)
そうなってくると、未来の自分に「料理」という名の武器は無い。
「パウンドケーキ、二度と作ってあげないからね!」と言い放ったって、武器はそれだけ。
(…ケーキくらい、食べ損なったって…)
ハーレイは何も困りはしないし、「そうか、それなら俺が焼くかな」と言い出しそう。
もう早速に、ケーキの材料を量り始めて。
「今ある材料で作れるヤツは…」と、冷蔵庫や戸棚を覗き込んで。
(でもって、おやつの時間になったら…)
キッチンの方から、美味しそうな匂いが漂ってくることだろう。
「ハーレイが自分用に作ったケーキ」が、オーブンの中で焼き上がって。
それを取り出し、コーヒー党のくせに紅茶まで淹れて、ハーレイが一人でティータイム。
「よし、なかなかに上手く焼けたな」などと、大きな声で独り言を言いながら。
「実に美味い」と、「我ながら、これは大傑作だぞ」と自画自賛して。
(…ぼくが謝りに出て行かないと、ハーレイ、美味しいケーキを全部…)
一人で食べてしまうんだから、と思うものだから、ケーキの場合も降参あるのみ。
ケーキではなくて、パイが焼けても。
あるいはホカホカと湯気を立てている、中華饅頭が蒸し上がっても。
(…もう完全に敗北だってば…!)
食事で来られても、おやつで来ても…、と未来の自分の惨敗が目に見えるよう。
ハーレイはただ、普段通りにキッチンに立って、調理用の器具を操るだけ。
それだけで未来のブルーを倒せて、美味しい料理やお菓子も出来る。
「おたま」や「しゃもじ」やフライパンやら、オーブンなんかも武器に仕立てて。
(……ということは、もっと強烈な最終兵器は……)
家出じゃないの、と背筋が凍り付いた。
確かに「ハーレイの家」だけれども、だからといって「家出してはならない」わけではない。
そんな決まりは何処にも無いし、ハーレイがブルーに最後通牒を突き付けるなら…。
「俺は、この家を出て行くからな!」と荷物を纏めて、玄関から出て行けばいい。
大股で庭をズンズン横切り、愛車に乗り込み、エンジンをかけて…。
(ガレージから、車ごと出て行っちゃって…)
それっきり二度と戻って来なくて、「ブルー」は家に一人きり。
最初の間は、「好きにしたら?」と舌まで出して、勝ち誇った気でいそうだけれど…。
(…ハーレイが出てった時間によっては…)
たちまち困るかもしれない。
お腹が空いて来たというのに、食べられる料理が何処にも無くて。
冷蔵庫の中にも残り物は無くて、あるのは戸棚のパンくらいで。
(…一食くらいは、パンにバターとか、ジャムだとか…)
ちょっと工夫して、溶けるチーズを乗っけてみたり、と二食目も乗り切れるかもしれない。
けれども、多分、其処までが…。
(ぼくの限度で、ママたちの家に御飯を食べに行くとか、外で食べるとか…)
あるいは何かを買って来るとか、もはや「自分の腕」では無理。
冷蔵庫に食材が詰まっていたって、どうすることも出来はしなくて…。
(もう駄目だよ、って泣きそうな頃に、ハーレイが…)
窓を外からコンと叩いて、「冷蔵庫!」という声がするのだろう。
「中の食材、無駄にするなよ」と、「駄目にしたら、俺は二度と帰って来ないからな!」と。
(…そういう時に限って、うんと難しそうな…)
食材ばっかり詰まってるんだよ、という気がするから、もう泣きながら謝るしかない。
「ごめんなさい!」と、「ぼくには無理だから、ハーレイ、作って…!」と。
(…これって、文字通りに、最終兵器…)
メギドより怖い気がするんだけれど、とブルーは震え上がる。
「メギドだったら、前のぼく、壊せたんだけど…」と、今の自分をよく考えてみて。
料理なんかは出来そうになくて、今のハーレイには勝てそうもない腕前では…。
(…ハーレイ、倒せないんだから…!)
家出されちゃったら、おしまいだよ、と首をブンブンと横に振るしかない。
ハーレイが家出をしてしまったら、降参するしか無さそうだから。
「そうか、お前には、やっぱり無理か」と、ハーレイが意地悪そうな顔で嘲笑っても。
「だったら、謝るしかないよな、お前?」と、偉そうに胸を張りながら、威張られても…。
家出されちゃったら・了
※ハーレイ先生と喧嘩した場合、食事で困りそうなブルー君。自分では上手く作れなくて。
その状況でハーレイ先生に家出されたら、大惨事。メギド以上の最終兵器は料理らしいですv
(今日は会い損なっちまったなあ…)
それでも明日は会えるだろうさ、とハーレイはブルーの面影を頭に描く。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
今日はブルーと、全く顔を合わせなかった。
お互い、同じ学校にいたというのに、すれ違った覚えさえも無い。
ブルーの方も、きっと今頃、ガッカリしていることだろう。
「今日はハーレイに会えなかったよ」と、家に寄ってくれなかったことも含めて。
(たまにあるんだ、こういう時が)
前の俺たちだと考えられんな、とシャングリラの時代に思いを馳せる。
遠く遥かな時の彼方では、船の中だけが世界の全てだった。
しかもハーレイはキャプテンだったし、ブルーは皆を纏めるソルジャー。
(…たとえ喧嘩をしちまったって…)
船の頂点とも言える二人が「会わない」わけにはいかなかった。
会議はもちろん、青の間での朝食などもあったし、嫌でも顔を合わせるしかない。
(まあ、会いたくもない程の喧嘩なんぞは…)
しちゃいないがな、と思うけれども、今の生ではどうなるだろうか。
ブルーが結婚出来る年になったら、一緒に暮らすと決めている。
この家にブルーの部屋を作って、仕事で出掛ける時間以外は、常にブルーと…。
(二人っきりで、うんと幸せな毎日で…)
何処へ行くのも一緒なんだ、と甘い夢を見る日々だけれども、未来のことは分からない。
今のブルーは、前のブルーと同じ魂、同じ記憶を持ってはいても、育ち方が違う。
本物の両親を持っている上、幼い時代の記憶もある。
その分、我慢ばかりだった前のブルーよりも、我儘に出来ているものだから…。
(ちょっとしたことで機嫌を損ねちまって、プイと部屋から出て行って…)
それきり何日も口を利かずに、膨れっ放しということもあるかもしれない。
同じ家で暮らしているというのに、「いってらっしゃい」とも言わないブルー。
仕事が終わって帰って来たって、「おかえりなさい」の言葉も無しで。
そうなったとしても不思議は無いな、と苦笑する内に、ポンと浮かんで来た言葉。
(……家出……)
今度のあいつは出来るんだ、と「家出」なる単語に愕然とした。
口を利かないどころではなくて、ブルーが家から「いなくなる」。
荷物を纏めて、「当分、帰らないからね!」と捨て台詞を残して、出て行って。
着替えなどを詰めた大きな鞄を提げて、「家ではない」何処かへ行ってしまって。
(…前のあいつだと、そういうわけにはいかなくて…)
ソルジャーでなくても、そいつは無理だ、と考えなくても答えは出て来る。
ミュウは人類に追われていたから、いくらブルーでも「外の世界」では生きられない。
正確に言えば、サイオンで情報操作などをしたなら、生きてゆくことは出来るけれども…。
(周りに仲間は誰もいなくて、敵陣の中での暮らしってヤツで…)
心が落ち着くわけもないから、ブルーが暮らせる世界ではない。
毎日が緊張の連続だなんて、誰だって音を上げるだろう。
(しかし、今度のあいつの場合は…)
怒って家から出て行ったって、生きてゆける場所は幾らでもある。
まずはブルーが育った家で、ブルーが使っていた部屋が「そのまま」あるだろうから…。
(暫く此処で暮らすからね、と…)
家に上がり込んで、勝手知ったる「元の家」の廊下をズンズン進んで…。
(元の自分の部屋に入って、鞄を置いて…)
中身を引っ張り出すのではなく、鞄は其処に放り出しておいて、向かう先は恐らく階下の部屋。
ダイニングなのか、キッチンなのか、とにかく、母がいそうな場所へ。
(ママ、ぼくのおやつは何かあるの、と…)
ケーキやらパイといった菓子が目当てで、それがあったら、早速、食べる。
家に置いて来た「ハーレイ」なんぞは、綺麗サッパリ忘れ去って。
「ママのお菓子は美味しいよね」などと、御機嫌になって。
(…何かあったの、と質問されてもだな…)
今のブルーなら、「言いたくないよ!」の一言で切って、バッサリと捨てることだろう。
悪いのは「ハーレイの方」なんだから、と怒り心頭、理由など話す必要も無い。
顔も見たくない相手の話は、するだけで腹が立って来るから。
(…お母さんだって、その辺はだな…)
察して「そうね」で終わってしまって、ブルーは元通りに家の住人、怒ったままで。
ブルーが家から出て行った場合、一番に浮かぶ行先が「実家」。
人間が地球しか知らなかった時代は、定番の家出の先だったらしい。
嫁に来た妻が「実家に帰らせて頂きます!」と荷物を纏めて、帰って行ってしまう元の家。
時には子供たちも引き連れ、家には夫だけを残して、何もかも放り出してしまって。
(…うーむ…)
今のあいつなら、やりかねないぞ、と思えてしまうから恐ろしい。
のびのびと育てられたブルーは、前のブルーよりも我儘な上に、我慢も出来ない。
現に今でも、じきに怒って、頬っぺたをプウッと膨らませる。
子供の間はそれで済むけれど、一緒に暮らし始めたら…。
(膨れるどころか、荷物を纏めて出て行っちまって…)
帰って来そうにないんだが、と眉間に手をやった。
「そうなるかもな」と、未来の自分が容易に想像出来る。
ブルーに家出をされてしまって、途方に暮れている「ハーレイ」が。
(…実家だったら、まだいいんだが…)
謝りに行くのも簡単だしな、と土下座する自分が頭に浮かぶ。
ブルーを育てた両親の家なら、いくらブルーが怒っていたって、中には入れて貰えるだろう。
玄関を開けるのは、ブルーの母か父だから。
「ブルー君に謝りに来ました」と玄関先で告げたら、逆に謝られるかもしれない。
恐縮しながら「すみません、ブルーが御迷惑をお掛けしているようで…」と。
更には「どうぞ入って、中でお茶でも」と、招き入れられて「客人」扱い。
(お茶とお菓子を御馳走になって、それから二階へ行ってだな…)
ブルーの部屋の前で「すまん」と土下座で、詫びを入れる日々。
せっせと通って、ブルーの怒りが解けるまで。
閉まったままの部屋の扉が開いて、中からブルーが出て来るまで。
「分かったよ、ハーレイと一緒に帰るよ」と、お許しが出たら、家出はおしまい。
出て来たブルーを愛車に乗せて、二人で家へと帰ってゆく。
車の中では、助手席のブルーが恩着せがましく、「懲りておいてよね」と文句でも。
「次は無いよ」と膨れっ面でも、連れて帰れたらそれでいい。
帰ってブルーをギュッと抱き締め、「悪かった」と謝り、キスをしたなら…。
(あいつの怒りも、いつの間にやら…)
雪のようにすっかり溶けてしまって、また元通りの、幸せな日々が戻るだろうから。
(…よしよしよし…)
土下座くらいはお安いモンだ、と思うけれども、この手が何処でも通用するとは限らない。
家出したブルーの行先によっては、土下座の余地も無いかもしれない。
謝りたくて訪ねて行っても、「門前払い」というヤツで。
お茶とお菓子が出て来る代わりに、玄関先で追い払われる。
(…その玄関にも立てないだとか…)
ありそうだよな、と頭を抱えたくなる、ブルーが行きそうな場所の心当たりが一つ。
(……俺の親父と、おふくろの家……)
二人とも、ブルーに甘そうだしな、と両親の人柄が恨めしい。
あの二人ならば、「実の息子」よりも、ブルーの方を取るだろう。
怒って家を出て来たブルーが、隣町に住むハーレイの両親の家の扉を叩いたら…。
(おふくろは、「あら、どうしたの」で…)
親父の方も同じだよな、と二人の反応に頭が痛い。
ブルーが家出をして来たことは、大きな荷物と、「ハーレイがいない」現実で分かる。
二人はブルーの母と同じく、「察して」ブルーを迎え入れて…。
(この部屋を好きに使えばいい、と…)
普段なら、ハーレイと一緒に泊まるだろう部屋、其処にブルーを住まわせる。
自分たちの息子が何をしたのか、ブルーに理由を聞きもしないで。
「いつまでも此処にいて構わないから」と、食事も、おやつも提供して。
(でもって、俺がブルーに詫びに行ったら…)
ガレージに車を停めた途端に、父が飛び出して来そうな感じ。
「何しに来た!」と仁王立ちされて、車のドアを開けることさえ出来ないで…。
(追い返されて、すごすごと…)
方向転換、元来た道を帰ってゆくしかないかもしれない。
両親はブルーの味方なのだし、充分、ありそう。
(そうやって、俺を追い返したら…)
父は「ハーレイが来たから、追っ払ったぞ」とブルーに誇らしげに語ることだろう。
「あいつに庭の土は踏ません」と、「ブルー君が許す気になるまで、追い払うから」と。
つまり玄関先にも立てない、とても厳しい戦いになる。
ブルーに向かって土下座しようにも、其処まで辿り着けないから。
なんとも困った、ブルーが行きそうな「家出先」。
実家に帰って行かれた方が、まだしもマシと言えるけれども、選ぶのはブルー。
ついでに言うなら、もっと悲惨なケースもある。
(…あいつにも、友達、いるからなあ…)
その友達の家に行かれたら、行先がまるで分からない。
ブルーが「友達の家に泊まっている」のは、なんとか把握出来たとしても…。
(どの友達の家かってトコが、まず問題で…)
それを掴むのは、簡単なことではないだろう。
片っ端から通信を入れて、「ブルー君が、お宅に泊まってますか?」と尋ねても…。
(ブルーが「いないと言っといて!」と言おうものなら…)
友達は当然、そう言うだろうし、心当たりのある先が、全て「来ていない」になる。
その内のどれが「当たり」なのかは、サイオンを使わない限り…。
(分かりゃしないし、サイオンは使わないのが社会のマナーで…)
お手上げじゃないか、と泣きたいような気分になる。
ブルーの居場所が分からないのでは、門前払いよりもまだ酷い。
門前払いをされる場合は、「其処までは行った」事実があるから、それを重ねれば…。
(ブルーの気持ちも、その内にだな…)
変わるだろうし、怒りも解けてくることだろう。
ところが、それも出来ないケースが「友達の家」に行かれてしまった時。
そうそう何度も「ブルー君は来ていますか?」と訊けはしないし、様子を探りに行こうにも…。
(友達に現場を見付かっちまって、「ハーレイ先生の車が来てたみたいだぞ」と…)
ブルーに報告されてしまおうものなら、逆効果になる危険が非常に高い。
それを聞いたブルーが、「ハーレイ、こそこそ嗅ぎ回ってるの!?」と顔を強張らせて。
「なんで素直に謝らないの」と、「手紙でも置いて行けばいいじゃない!」と。
(…そうか、手紙か…!)
そいつをポストに入れて帰れば…、と思ったけれども、入れるポストはどれなのか。
(…どの友達の家かが、分からないんだが…!)
まるで打つ手が無いじゃないか、と頭痛がしそうで、「これは駄目だな」と低く唸った。
家出されたら、場合によってはおしまいらしい。
土下座しようにも、其処にも辿り着けないで。
謝るどころか裏目に出続け、ブルーは帰って来てくれなくて…。
家出されたら・了
※今のブルー君を怒らせたら、家出されるかも、と考え始めたハーレイ先生ですけれど。
ブルー君が選んだ家出先によっては、厄介なことになりそうです。土下座で詫びるのも無理v
それでも明日は会えるだろうさ、とハーレイはブルーの面影を頭に描く。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
今日はブルーと、全く顔を合わせなかった。
お互い、同じ学校にいたというのに、すれ違った覚えさえも無い。
ブルーの方も、きっと今頃、ガッカリしていることだろう。
「今日はハーレイに会えなかったよ」と、家に寄ってくれなかったことも含めて。
(たまにあるんだ、こういう時が)
前の俺たちだと考えられんな、とシャングリラの時代に思いを馳せる。
遠く遥かな時の彼方では、船の中だけが世界の全てだった。
しかもハーレイはキャプテンだったし、ブルーは皆を纏めるソルジャー。
(…たとえ喧嘩をしちまったって…)
船の頂点とも言える二人が「会わない」わけにはいかなかった。
会議はもちろん、青の間での朝食などもあったし、嫌でも顔を合わせるしかない。
(まあ、会いたくもない程の喧嘩なんぞは…)
しちゃいないがな、と思うけれども、今の生ではどうなるだろうか。
ブルーが結婚出来る年になったら、一緒に暮らすと決めている。
この家にブルーの部屋を作って、仕事で出掛ける時間以外は、常にブルーと…。
(二人っきりで、うんと幸せな毎日で…)
何処へ行くのも一緒なんだ、と甘い夢を見る日々だけれども、未来のことは分からない。
今のブルーは、前のブルーと同じ魂、同じ記憶を持ってはいても、育ち方が違う。
本物の両親を持っている上、幼い時代の記憶もある。
その分、我慢ばかりだった前のブルーよりも、我儘に出来ているものだから…。
(ちょっとしたことで機嫌を損ねちまって、プイと部屋から出て行って…)
それきり何日も口を利かずに、膨れっ放しということもあるかもしれない。
同じ家で暮らしているというのに、「いってらっしゃい」とも言わないブルー。
仕事が終わって帰って来たって、「おかえりなさい」の言葉も無しで。
そうなったとしても不思議は無いな、と苦笑する内に、ポンと浮かんで来た言葉。
(……家出……)
今度のあいつは出来るんだ、と「家出」なる単語に愕然とした。
口を利かないどころではなくて、ブルーが家から「いなくなる」。
荷物を纏めて、「当分、帰らないからね!」と捨て台詞を残して、出て行って。
着替えなどを詰めた大きな鞄を提げて、「家ではない」何処かへ行ってしまって。
(…前のあいつだと、そういうわけにはいかなくて…)
ソルジャーでなくても、そいつは無理だ、と考えなくても答えは出て来る。
ミュウは人類に追われていたから、いくらブルーでも「外の世界」では生きられない。
正確に言えば、サイオンで情報操作などをしたなら、生きてゆくことは出来るけれども…。
(周りに仲間は誰もいなくて、敵陣の中での暮らしってヤツで…)
心が落ち着くわけもないから、ブルーが暮らせる世界ではない。
毎日が緊張の連続だなんて、誰だって音を上げるだろう。
(しかし、今度のあいつの場合は…)
怒って家から出て行ったって、生きてゆける場所は幾らでもある。
まずはブルーが育った家で、ブルーが使っていた部屋が「そのまま」あるだろうから…。
(暫く此処で暮らすからね、と…)
家に上がり込んで、勝手知ったる「元の家」の廊下をズンズン進んで…。
(元の自分の部屋に入って、鞄を置いて…)
中身を引っ張り出すのではなく、鞄は其処に放り出しておいて、向かう先は恐らく階下の部屋。
ダイニングなのか、キッチンなのか、とにかく、母がいそうな場所へ。
(ママ、ぼくのおやつは何かあるの、と…)
ケーキやらパイといった菓子が目当てで、それがあったら、早速、食べる。
家に置いて来た「ハーレイ」なんぞは、綺麗サッパリ忘れ去って。
「ママのお菓子は美味しいよね」などと、御機嫌になって。
(…何かあったの、と質問されてもだな…)
今のブルーなら、「言いたくないよ!」の一言で切って、バッサリと捨てることだろう。
悪いのは「ハーレイの方」なんだから、と怒り心頭、理由など話す必要も無い。
顔も見たくない相手の話は、するだけで腹が立って来るから。
(…お母さんだって、その辺はだな…)
察して「そうね」で終わってしまって、ブルーは元通りに家の住人、怒ったままで。
ブルーが家から出て行った場合、一番に浮かぶ行先が「実家」。
人間が地球しか知らなかった時代は、定番の家出の先だったらしい。
嫁に来た妻が「実家に帰らせて頂きます!」と荷物を纏めて、帰って行ってしまう元の家。
時には子供たちも引き連れ、家には夫だけを残して、何もかも放り出してしまって。
(…うーむ…)
今のあいつなら、やりかねないぞ、と思えてしまうから恐ろしい。
のびのびと育てられたブルーは、前のブルーよりも我儘な上に、我慢も出来ない。
現に今でも、じきに怒って、頬っぺたをプウッと膨らませる。
子供の間はそれで済むけれど、一緒に暮らし始めたら…。
(膨れるどころか、荷物を纏めて出て行っちまって…)
帰って来そうにないんだが、と眉間に手をやった。
「そうなるかもな」と、未来の自分が容易に想像出来る。
ブルーに家出をされてしまって、途方に暮れている「ハーレイ」が。
(…実家だったら、まだいいんだが…)
謝りに行くのも簡単だしな、と土下座する自分が頭に浮かぶ。
ブルーを育てた両親の家なら、いくらブルーが怒っていたって、中には入れて貰えるだろう。
玄関を開けるのは、ブルーの母か父だから。
「ブルー君に謝りに来ました」と玄関先で告げたら、逆に謝られるかもしれない。
恐縮しながら「すみません、ブルーが御迷惑をお掛けしているようで…」と。
更には「どうぞ入って、中でお茶でも」と、招き入れられて「客人」扱い。
(お茶とお菓子を御馳走になって、それから二階へ行ってだな…)
ブルーの部屋の前で「すまん」と土下座で、詫びを入れる日々。
せっせと通って、ブルーの怒りが解けるまで。
閉まったままの部屋の扉が開いて、中からブルーが出て来るまで。
「分かったよ、ハーレイと一緒に帰るよ」と、お許しが出たら、家出はおしまい。
出て来たブルーを愛車に乗せて、二人で家へと帰ってゆく。
車の中では、助手席のブルーが恩着せがましく、「懲りておいてよね」と文句でも。
「次は無いよ」と膨れっ面でも、連れて帰れたらそれでいい。
帰ってブルーをギュッと抱き締め、「悪かった」と謝り、キスをしたなら…。
(あいつの怒りも、いつの間にやら…)
雪のようにすっかり溶けてしまって、また元通りの、幸せな日々が戻るだろうから。
(…よしよしよし…)
土下座くらいはお安いモンだ、と思うけれども、この手が何処でも通用するとは限らない。
家出したブルーの行先によっては、土下座の余地も無いかもしれない。
謝りたくて訪ねて行っても、「門前払い」というヤツで。
お茶とお菓子が出て来る代わりに、玄関先で追い払われる。
(…その玄関にも立てないだとか…)
ありそうだよな、と頭を抱えたくなる、ブルーが行きそうな場所の心当たりが一つ。
(……俺の親父と、おふくろの家……)
二人とも、ブルーに甘そうだしな、と両親の人柄が恨めしい。
あの二人ならば、「実の息子」よりも、ブルーの方を取るだろう。
怒って家を出て来たブルーが、隣町に住むハーレイの両親の家の扉を叩いたら…。
(おふくろは、「あら、どうしたの」で…)
親父の方も同じだよな、と二人の反応に頭が痛い。
ブルーが家出をして来たことは、大きな荷物と、「ハーレイがいない」現実で分かる。
二人はブルーの母と同じく、「察して」ブルーを迎え入れて…。
(この部屋を好きに使えばいい、と…)
普段なら、ハーレイと一緒に泊まるだろう部屋、其処にブルーを住まわせる。
自分たちの息子が何をしたのか、ブルーに理由を聞きもしないで。
「いつまでも此処にいて構わないから」と、食事も、おやつも提供して。
(でもって、俺がブルーに詫びに行ったら…)
ガレージに車を停めた途端に、父が飛び出して来そうな感じ。
「何しに来た!」と仁王立ちされて、車のドアを開けることさえ出来ないで…。
(追い返されて、すごすごと…)
方向転換、元来た道を帰ってゆくしかないかもしれない。
両親はブルーの味方なのだし、充分、ありそう。
(そうやって、俺を追い返したら…)
父は「ハーレイが来たから、追っ払ったぞ」とブルーに誇らしげに語ることだろう。
「あいつに庭の土は踏ません」と、「ブルー君が許す気になるまで、追い払うから」と。
つまり玄関先にも立てない、とても厳しい戦いになる。
ブルーに向かって土下座しようにも、其処まで辿り着けないから。
なんとも困った、ブルーが行きそうな「家出先」。
実家に帰って行かれた方が、まだしもマシと言えるけれども、選ぶのはブルー。
ついでに言うなら、もっと悲惨なケースもある。
(…あいつにも、友達、いるからなあ…)
その友達の家に行かれたら、行先がまるで分からない。
ブルーが「友達の家に泊まっている」のは、なんとか把握出来たとしても…。
(どの友達の家かってトコが、まず問題で…)
それを掴むのは、簡単なことではないだろう。
片っ端から通信を入れて、「ブルー君が、お宅に泊まってますか?」と尋ねても…。
(ブルーが「いないと言っといて!」と言おうものなら…)
友達は当然、そう言うだろうし、心当たりのある先が、全て「来ていない」になる。
その内のどれが「当たり」なのかは、サイオンを使わない限り…。
(分かりゃしないし、サイオンは使わないのが社会のマナーで…)
お手上げじゃないか、と泣きたいような気分になる。
ブルーの居場所が分からないのでは、門前払いよりもまだ酷い。
門前払いをされる場合は、「其処までは行った」事実があるから、それを重ねれば…。
(ブルーの気持ちも、その内にだな…)
変わるだろうし、怒りも解けてくることだろう。
ところが、それも出来ないケースが「友達の家」に行かれてしまった時。
そうそう何度も「ブルー君は来ていますか?」と訊けはしないし、様子を探りに行こうにも…。
(友達に現場を見付かっちまって、「ハーレイ先生の車が来てたみたいだぞ」と…)
ブルーに報告されてしまおうものなら、逆効果になる危険が非常に高い。
それを聞いたブルーが、「ハーレイ、こそこそ嗅ぎ回ってるの!?」と顔を強張らせて。
「なんで素直に謝らないの」と、「手紙でも置いて行けばいいじゃない!」と。
(…そうか、手紙か…!)
そいつをポストに入れて帰れば…、と思ったけれども、入れるポストはどれなのか。
(…どの友達の家かが、分からないんだが…!)
まるで打つ手が無いじゃないか、と頭痛がしそうで、「これは駄目だな」と低く唸った。
家出されたら、場合によってはおしまいらしい。
土下座しようにも、其処にも辿り着けないで。
謝るどころか裏目に出続け、ブルーは帰って来てくれなくて…。
家出されたら・了
※今のブルー君を怒らせたら、家出されるかも、と考え始めたハーレイ先生ですけれど。
ブルー君が選んだ家出先によっては、厄介なことになりそうです。土下座で詫びるのも無理v
「いつか仕返ししてやるからね」
今はいい気でいるけれど、と上目遣いで口にしたブルー。
二人きりで過ごす午後の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「仕返しだって?」
何のことだ、とハーレイは鳶色の目を丸くした。
いきなり仕返しなどと言われても、心当たりが全く無い。
今の今まで、いつも通りのティータイム。
ブルーの母が焼いたケーキと、美味しい紅茶で…。
(和やかに過ごしていた筈なんだが…?)
それとも俺が何かしたか、と自分の記憶を探ってみる。
ブルーを怒らせるようなことを言ったか、したか。
(はて…?)
分からんのだが、とハーレイは首を捻るしかない。
まるで全く思い当たらないし、失敗もしていないだろう。
チビのブルーは、直ぐに膨れてしまうけれども。
前のブルーと今のブルーは、その点が違う。
十四歳にしかならないブルーは、我慢が出来ない。
(いや、やろうと思えば出来るんだろうが…)
要は甘えているんだよな、という気がする。
辛抱強く我慢しないで、素直に自分の気持ちをぶつける。
「疲れちゃったよ」とか、「痛いってば!」とか。
(だから、沸点も低くてだな…)
何かと言えば頬を膨らませて、感情も露わに怒り出す。
頬っぺたをプウッとやっている姿は、とある魚に…。
(そっくりだってな、可笑しいくらいに)
可愛いらしい顔がハコフグになって、と頬が緩んだ。
膨れたブルーの両の頬っぺた、それを潰すのも面白い。
自分の大きな両手で挟んで、ペシャンとやると…。
(唇を尖らせて文句を言うのが、また楽しいんだ)
今ならではだな、とクスッと笑うと、ブルーが睨んだ。
「また笑っちゃって!」
余裕だよね、とブルーは顔一杯に不満を浮かべている。
この有様だと、ハコフグになるのも近いだろう。
プンスカ怒って唇を尖らせ、頬を膨らませて。
(いったい何を怒ってるんだか…)
しかも仕返しと来たもんだ、と首を傾げて、気が付いた。
もしかしたら、ブルーがハコフグになっている時に…。
(頬っぺたをペシャンと潰してるヤツが…)
気に入らなくて仕返しなのか、と思わないでもない。
ブルーが大きく育った時には、膨れる代わりに…。
(俺の頬っぺたを平手打ちとか、抓るとか…)
今の仕返しをする気なのか、と自分の頬に手を当てた。
平手打ちは、ショックかもしれない。
抓られた時も、かなり衝撃を受けそうではある。
どちらも「前のブルー」にやられていないし、初の体験。
(…しまった、怒らせちまった、と…)
愕然とする自分が目に浮かぶけれど、所詮は小さな喧嘩。
何度も叩かれ、抓られる内に慣れるだろう。
「ハーレイの馬鹿!」と、思い切り平手打ちをされても。
頬を抓られても、それもまた一種のコミュニケーション。
「すまん」と謝り、ブルーを宥めて、いつもの二人に…。
(戻って、一緒に飯を食うんだ)
お茶を飲んだり、話をしたり…、と笑みが零れる。
「そういう暮らしも、いいもんだよな」と。
ブルーの仕返し、大いに歓迎。
そんな気分に浸っていたら、ブルーが眉を吊り上げた。
「分かった、仕返しされたいんだね、ハーレイは!」
ホントにお預けさせてやるから、と赤い瞳が怒っている。
「キスなんか、絶対、させてやらない」と。
「…はあ?」
何の話だ、と頭が混乱しそうな所へ、次が降って来た。
「キスだってば! ぼくが育っても、お預けだよ!」
今の仕返しで何年でもね、とブルーは真剣だけれど…。
(…なるほど、なるほど…)
そいつもいいな、とハーレイの頭の中では答えが出た。
仕返しでキスがお預けだったら、それもいい。
「分かった、好きなだけ仕返ししてくれ」
それで何年待てばいいんだ、とニンマリと笑う。
「俺は、どれほど待たされるんだ?」と、ニヤニヤと。
「別に何年でもかまわないぞ」と、腕組みをして。
「お前と結婚式を挙げる時には、考えないとなあ…」
結婚式でキスが駄目となったら、と片目を瞑ってみせた。
「教会だとキスはセットなんだし、他所でしないと」と。
「あっ…!」
待って、とブルーは真っ青になっているけれど。
「それは困るよ!」と悲鳴だけれども、気にしない。
「いや、俺は少しも困らないしな?」
何年お預けになっちまっても、と紅茶のカップを傾ける。
「俺なら、慣れたモンなんだし」と。
「これからだって、まだ何年も待たされるしなあ…」
少々、伸びるだけだってな、とハーレイは笑んだ。
焦ってワタワタしているブルーを、チラリと横目で見て。
「お前もお預け仲間だってな」と、「自業自得だ」と…。
仕返ししてやる・了
今はいい気でいるけれど、と上目遣いで口にしたブルー。
二人きりで過ごす午後の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「仕返しだって?」
何のことだ、とハーレイは鳶色の目を丸くした。
いきなり仕返しなどと言われても、心当たりが全く無い。
今の今まで、いつも通りのティータイム。
ブルーの母が焼いたケーキと、美味しい紅茶で…。
(和やかに過ごしていた筈なんだが…?)
それとも俺が何かしたか、と自分の記憶を探ってみる。
ブルーを怒らせるようなことを言ったか、したか。
(はて…?)
分からんのだが、とハーレイは首を捻るしかない。
まるで全く思い当たらないし、失敗もしていないだろう。
チビのブルーは、直ぐに膨れてしまうけれども。
前のブルーと今のブルーは、その点が違う。
十四歳にしかならないブルーは、我慢が出来ない。
(いや、やろうと思えば出来るんだろうが…)
要は甘えているんだよな、という気がする。
辛抱強く我慢しないで、素直に自分の気持ちをぶつける。
「疲れちゃったよ」とか、「痛いってば!」とか。
(だから、沸点も低くてだな…)
何かと言えば頬を膨らませて、感情も露わに怒り出す。
頬っぺたをプウッとやっている姿は、とある魚に…。
(そっくりだってな、可笑しいくらいに)
可愛いらしい顔がハコフグになって、と頬が緩んだ。
膨れたブルーの両の頬っぺた、それを潰すのも面白い。
自分の大きな両手で挟んで、ペシャンとやると…。
(唇を尖らせて文句を言うのが、また楽しいんだ)
今ならではだな、とクスッと笑うと、ブルーが睨んだ。
「また笑っちゃって!」
余裕だよね、とブルーは顔一杯に不満を浮かべている。
この有様だと、ハコフグになるのも近いだろう。
プンスカ怒って唇を尖らせ、頬を膨らませて。
(いったい何を怒ってるんだか…)
しかも仕返しと来たもんだ、と首を傾げて、気が付いた。
もしかしたら、ブルーがハコフグになっている時に…。
(頬っぺたをペシャンと潰してるヤツが…)
気に入らなくて仕返しなのか、と思わないでもない。
ブルーが大きく育った時には、膨れる代わりに…。
(俺の頬っぺたを平手打ちとか、抓るとか…)
今の仕返しをする気なのか、と自分の頬に手を当てた。
平手打ちは、ショックかもしれない。
抓られた時も、かなり衝撃を受けそうではある。
どちらも「前のブルー」にやられていないし、初の体験。
(…しまった、怒らせちまった、と…)
愕然とする自分が目に浮かぶけれど、所詮は小さな喧嘩。
何度も叩かれ、抓られる内に慣れるだろう。
「ハーレイの馬鹿!」と、思い切り平手打ちをされても。
頬を抓られても、それもまた一種のコミュニケーション。
「すまん」と謝り、ブルーを宥めて、いつもの二人に…。
(戻って、一緒に飯を食うんだ)
お茶を飲んだり、話をしたり…、と笑みが零れる。
「そういう暮らしも、いいもんだよな」と。
ブルーの仕返し、大いに歓迎。
そんな気分に浸っていたら、ブルーが眉を吊り上げた。
「分かった、仕返しされたいんだね、ハーレイは!」
ホントにお預けさせてやるから、と赤い瞳が怒っている。
「キスなんか、絶対、させてやらない」と。
「…はあ?」
何の話だ、と頭が混乱しそうな所へ、次が降って来た。
「キスだってば! ぼくが育っても、お預けだよ!」
今の仕返しで何年でもね、とブルーは真剣だけれど…。
(…なるほど、なるほど…)
そいつもいいな、とハーレイの頭の中では答えが出た。
仕返しでキスがお預けだったら、それもいい。
「分かった、好きなだけ仕返ししてくれ」
それで何年待てばいいんだ、とニンマリと笑う。
「俺は、どれほど待たされるんだ?」と、ニヤニヤと。
「別に何年でもかまわないぞ」と、腕組みをして。
「お前と結婚式を挙げる時には、考えないとなあ…」
結婚式でキスが駄目となったら、と片目を瞑ってみせた。
「教会だとキスはセットなんだし、他所でしないと」と。
「あっ…!」
待って、とブルーは真っ青になっているけれど。
「それは困るよ!」と悲鳴だけれども、気にしない。
「いや、俺は少しも困らないしな?」
何年お預けになっちまっても、と紅茶のカップを傾ける。
「俺なら、慣れたモンなんだし」と。
「これからだって、まだ何年も待たされるしなあ…」
少々、伸びるだけだってな、とハーレイは笑んだ。
焦ってワタワタしているブルーを、チラリと横目で見て。
「お前もお預け仲間だってな」と、「自業自得だ」と…。
仕返ししてやる・了
(今よりも、うんと昔の地球には…)
色々なものが住んでた筈なんだけど、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(だけど、今では…)
何の話も聞かないよね、と頭に描いているのは、今の時代はいないらしいもの。
魔物や怪物、妖精といった、神話や伝説に出て来る存在。
(まるっきりの嘘じゃない筈なんだよ)
だって神様はいるんだから、と自分の右の手を見詰める。
前の生の終わりに、その手はハーレイの温もりを落として失くしてしまった。
「もうハーレイには二度と会えない」と泣きじゃくりながら、前の自分はメギドで死んだ。
なのに「自分」は、新しい身体と命を貰って、青く蘇った地球の上にいる。
神からの贈り物の聖痕、それを背負って生まれて来た。
(お蔭で前の記憶が戻って、今のハーレイにも会えたんだから…)
神は確かにいるわけなのだし、神がいるなら、神話や伝説に出て来る「モノ」も…。
(本当にいた可能性ってヤツは、ゼロじゃないよね?)
それなのに今は何もいない、と顎に当てた手。
「ああいうものは、何処に行ったんだろう」と、「まさか、絶滅しちゃったとか?」と。
(…そうなのかも…?)
彼らが「地球でしか生きられない」なら、地球が滅びてしまった時に消えただろう。
死の星と化してしまった地球では、魔物も怪物も生きてゆくことが出来なくて。
(…幽霊だったら、どんな場所でも…)
いられそうだから、彼らが滅びることはなかった。
元々、死んでいるわけなのだし、地球に残された廃墟を彷徨い、他の場所でも…。
(現れてたから、前のぼくたちの時代にだって…)
幽霊の噂は流れ続けて、彼らを巡る怪談もあった。
もっとも、地球に幽霊が出るとは、一度も聞かなかったけれども。
(それはそうだと思うんだよ…)
地球が再生していないことは、当時の最高機密の一つ。
人類は機械に「地球は青い」と騙され続けて、地球という星を中心に据えて生きていた。
だから、その地球に幽霊がいても、誰も噂をしたりはしない。
地球に降りることを許可されていた、地球再生機構、リボーンの職員たちも。
(仕事で廃墟を回っていたら、其処に幽霊…)
いる筈もない遠い昔の人間たちが、現れたこともあるかもしれない。
歴史書でしか見ないような服、それを着た人が朽ちた高層ビルの谷間にいただとか。
(ありそうだけれど、幽霊を見た、って、仲間内では噂になっても…)
外部に流出させることなど、彼らに許されるわけもない。
当然、記録することも出来ず、噂は埋もれて、それきりになって…。
(人類もミュウも、何も知らないままで終わって…)
今の時代にも伝わることなく、それで「おしまい」になったのだろう。
幽霊は、いたと思うのに。
死の星になった地球だからこそ、彼らにとっては「死の国」そのもので、似合いの場所で。
(…幽霊は、そうやって生き続けたけど…)
死んでるのに、生きているなんて、と可笑しいけれども、いい表現を思い付かない。
とにかく幽霊は滅びることなく、SD体制の時代を乗り越え、今だって「いる」。
ところが魔物や怪物などは「とうの昔に」消えてしまって、SD体制が敷かれる前にも…。
(もう、いなかったみたいだから…)
彼らはとても繊細すぎて、滅びに向かい始めた地球では、生き辛かったに違いない。
汚染された水では妖精は生きてゆけないだろうし、魔物たちにも厳しい環境。
隠れ住む森や深い暗闇、そういった場所が無くなっていって。
(頑張って、何処かで息を潜めて…)
滅びの時代を乗り越えていたら、青い水の星が蘇った後、戻って来ることも出来ただろう。
今の地球には、お誂え向きの住処が幾つも出来ているから。
(…それなのに、噂が無いんだし…)
やっぱり滅びちゃったんだ、と溜息をついて、ハタと気付いた。
人間が退治し続けたのに、長い長い間、根絶出来ずに、出現し続けた魔物がいた、と。
遠い昔から人が恐れた、吸血鬼。
人の血を吸って生き続ける上、血を吸い尽くされて死んだ人間は…。
(同じ吸血鬼になってしまって、人の血を吸って…)
更に仲間が増えてゆくから、そうならないよう、昔の人間は彼らと戦い続けた。
様々な方法を編み出し、それを実践して。
二度と吸血鬼が現れないよう、あの手この手で防御もして。
(…それだけやっても、滅ぼせなくって…)
何千年も人は戦い続けて、今は「吸血鬼がいない」地球がある。
彼らも地球と一緒に滅びて、蘇ることはなかったろうか。
(…何千年も退治し続けていても、滅ぼすことが出来なかったのに…?)
そう簡単に滅びるかな、と不思議になる。
たとえ滅びた地球であろうが、幽霊と同じで「残っていそう」。
もっとも、リボーンの人間だけしかいない地球では、血を吸うことが出来なくて…。
(棺桶の中で眠っているしかなかったとか…?)
それとも灰になってたかもね、と吸血鬼を退治する方法を思い出す。
心臓に杭を打ち込んで息の根を止め、蘇らないよう、燃やして灰にしてしまう。
それでも彼らは「滅びることなく」何千年も生き永らえたのだし、灰になっても…。
(何年か経ったら、また目を覚まして…)
新しい死体を探しに出掛けて、その中に入り込んだだろうか。
そういう仕組みになっていたなら、何千年も退治し続けていても、けして滅ぼせはしない。
灰が再び吸血鬼になり、人の血を吸い始めるのなら。
(…だったら、今の時代にだって…)
ひっそりと生きているのかもね、と思ったはずみに、頭を掠めていった考え。
「前のハーレイなんかは、どう?」と。
死の星だった地球が燃え上がった時、前のハーレイは…。
(深い地の底で、崩れ落ちて来た瓦礫の下敷きになって…)
死んでいったのだし、死体は「地球にあった」ということになる。
燃え盛る地球と一緒に燃えてしまう前に、吸血鬼が目を付けたなら…。
(吸血鬼になってしまったかも?)
だって、新しい死体だものね、と大きく頷く。
かなり傷んでいたにしたって、吸血鬼なら平気だったかも、と。
吸血鬼の灰は、前のハーレイの死体が気に入るのでは、という気がする。
他の長老たちの死体もあったけれども、一つだけ選び出すのだったら、ハーレイ。
(…前のハーレイ、モテなかったから、其処の所は…)
少し問題ではあるのだけれども、他の要素も考慮するなら、一番良さそう。
虚弱なミュウには珍しく頑丈な身体だったし、年を取り過ぎてもいない。
ついでにレトロな趣味をしていて、木の机だの、羽根ペンだのを愛用したほど。
(…吸血鬼とは、うんと相性、良さそうだよね?)
だから選ばれちゃいそうだよ、と顎に当てた手。
「長老たちの中から、一人選ぶのなら、ハーレイだよね」と。
もっと深い場所では、ジョミーとキースも「死体になっていた」のだけれど…。
(…そこまでは、流石に深すぎて…)
吸血鬼の灰は辿り着けなくて、前のハーレイの死体に宿る。
「いいものがあった」と入り込んで。
「傷んだ部分は治せばいいさ」と、いそいそと。
(…そうやって灰が入り込んだら…)
地球が劫火に包まれようとも、死体は燃えはしないだろう。
吸血鬼ならではの神秘の力で守られ、シールドされたみたいになって。
(でもって、その中で傷を治して…)
すっかり傷が癒えてしまったならば、前のハーレイが目を覚ます。
「此処は何処だ?」と、鳶色の瞳を瞬かせて。
「俺は確かに死んだ筈だが」と、「ブルーは何処だ?」と。
(…死の国に来た、って思うよね?)
天国にしては暗すぎたって…、と地の底の暗さに思いを馳せる。
其処で「ハーレイ」は「ブルー」を探して、あちこち歩く間に気付く。
「俺は死んではいないらしい」と、其処が死の国ではないことに。
おまけに「自分」が、もう人間ではないことにも。
(…ミュウでも、人類でもなくて…)
吸血鬼になってしまったのだ、と真実を知ったら、前のハーレイはどうするだろう。
ショックで暫く落ち込んだ後は、血を吸いに出掛けてゆくのだろうか。
吸血鬼には、血が必要だから。
人間の血を吸わないことには、活動する力を失うから。
前のハーレイが意識を取り戻した時、地球が青く蘇っていたなら、人間はいる。
深い地の底から外に出たなら、前のハーレイは血を吸えるけれども…。
(…ハーレイ、そんなこと、しないと思う…)
どんなに喉が渇いていようと、自分自身が生き延びるために、人の血を吸うとは思えない。
きっとハーレイなら、そうする代わりに…。
(地球の地の底で、もう一度…)
深い眠りに就いてしまって、二度と目覚めはしないのだろう。
眠っていたなら、血は一滴も要りはしなくて、人を傷付けはしないから。
吸血鬼の自分を封印すれば、平和な時代が続くのだから。
(そうやって、ずっと眠り続けて…)
ぼくが生まれたことに気付いて目が覚めるんだ、と赤い瞳を煌めかせる。
「だって、ハーレイだよ?」と、「ぼくに気付かないわけがないもの」と。
けれども、生まれ変わったブルーは、まだ赤ん坊。
前の生の記憶も戻っていなくて、会いにゆくには早すぎる。
(だからハーレイ、また眠って…)
青い地球の上に生まれた「ブルー」が大きくなったら、目を覚ます。
「もういいだろう」と、生まれ変わって来た「ブルー」に会いにゆくために。
其処まで出掛けてゆくだけだったら、血を吸わなくても大丈夫だろう、と。
(ぼくの年は、きっと十八歳だよ)
前のぼくと同じ姿に育った頃、と想像の翼を羽ばたかせる。
ある夜、今よりも大きく育った自分が、ベッドの中で眠っていたら…。
(窓のカーテンが、ふわって揺れて…)
ハーレイが入って来るんだよね、と吸血鬼が持つ魔力を思う。
窓には鍵がかかっていたって、ハーレイには意味が無いだろう、と。
難なく開けて、前のハーレイが着ていたキャプテンの服で、「ブルー」の部屋に現れる。
「ブルー?」と、耳元で呼び掛けて。
「覚えていますか、私ですよ」と、「あなたに会いに来たのですよ」と。
(ハーレイの声を聞いた途端に、ぼくの記憶が戻るんだ)
聖痕なんか無くっても…、と運命の恋人との絆の強さには自信がある。
前のハーレイの温もりを失くして死んだ自分だけれども、絆は切れていなくって、と。
そうしてハーレイと再会を遂げた自分は、結婚出来る年になっている。
前の自分と同じ姿に育ってもいるし、もう早速に、恋人同士のキスを交わして…。
(ハーレイと、ちゃんと恋人同士に…)
なれる筈だよ、と思ったけれども、ハーレイは吸血鬼として蘇ったから、其処が問題。
「ブルーの家まで、会いに来る」のが精一杯で、力は残ってなどはいなくて…。
(…もう戻らなくてはいけませんから、お元気で、って…)
優しい微笑みを浮かべた後に、別れを告げて帰るのだろうか。
ハーレイが長く眠り続けた、地の底へ。
人の血を吸わずにいられるように、自分自身を封印しに。
(そんなの、嫌だよ…!)
もっとハーレイと一緒にいたい、と願うのだったら、その分の血を捧げるより他に道は無い。
ハーレイの身体を動かすためには、充分な量の血が要るのだから。
(…ぼくの血を吸っていいよ、って…)
ハーレイに言うのは簡単だけれど、必要な血はどれほどなのか。
それに自分の血を吸って貰っても、ハーレイは吸血鬼なのだから…。
(昼の間は寝てるしかなくて、夜しか動き回れなくって…)
デート出来るのは日が暮れてからで、それでハーレイが疲れ果てたら、後は寝るだけ。
働くことも出来ないだろうし、ハーレイと暮らしてゆきたいのなら…。
(学校を卒業したら、ぼくが頑張って働いて…)
ハーレイと暮らす家を守って、おまけにハーレイに血を分け与えないといけない生活。
吸血鬼のハーレイは食事もしないし、「働きに出ているブルー」の食事を作ろうにも…。
(昼間は外に出られないから、買い物にだって行けなくて…)
もしかして、買い物もぼくがするわけ、と愕然とする。
(ハーレイが吸血鬼になって戻って来たなら、ぼくは、とっても大変じゃない!)
血を分けられる分の元気は残ってるかな、と不安だけれども、それでも頑張ることだろう。
ハーレイが、魔物だったなら。
吸血鬼になってしまっていようと、ハーレイが好きで堪らないから。
(…ハーレイが、魔物だったなら…)
苦労しか無さそうな日に思えたって、まるで少しも構いはしない。
ハーレイと一緒に生きてゆけるのなら、貧血気味でも、ハーレイのために働く毎日でも…。
魔物だったなら・了
※前のハーレイが魔物だったなら、と想像してみたブルー君。吸血鬼になったハーレイ。
十八歳の姿で再会ですけど、ハーレイと暮らしてゆくのは大変そう。働くのもブルー君v
色々なものが住んでた筈なんだけど、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(だけど、今では…)
何の話も聞かないよね、と頭に描いているのは、今の時代はいないらしいもの。
魔物や怪物、妖精といった、神話や伝説に出て来る存在。
(まるっきりの嘘じゃない筈なんだよ)
だって神様はいるんだから、と自分の右の手を見詰める。
前の生の終わりに、その手はハーレイの温もりを落として失くしてしまった。
「もうハーレイには二度と会えない」と泣きじゃくりながら、前の自分はメギドで死んだ。
なのに「自分」は、新しい身体と命を貰って、青く蘇った地球の上にいる。
神からの贈り物の聖痕、それを背負って生まれて来た。
(お蔭で前の記憶が戻って、今のハーレイにも会えたんだから…)
神は確かにいるわけなのだし、神がいるなら、神話や伝説に出て来る「モノ」も…。
(本当にいた可能性ってヤツは、ゼロじゃないよね?)
それなのに今は何もいない、と顎に当てた手。
「ああいうものは、何処に行ったんだろう」と、「まさか、絶滅しちゃったとか?」と。
(…そうなのかも…?)
彼らが「地球でしか生きられない」なら、地球が滅びてしまった時に消えただろう。
死の星と化してしまった地球では、魔物も怪物も生きてゆくことが出来なくて。
(…幽霊だったら、どんな場所でも…)
いられそうだから、彼らが滅びることはなかった。
元々、死んでいるわけなのだし、地球に残された廃墟を彷徨い、他の場所でも…。
(現れてたから、前のぼくたちの時代にだって…)
幽霊の噂は流れ続けて、彼らを巡る怪談もあった。
もっとも、地球に幽霊が出るとは、一度も聞かなかったけれども。
(それはそうだと思うんだよ…)
地球が再生していないことは、当時の最高機密の一つ。
人類は機械に「地球は青い」と騙され続けて、地球という星を中心に据えて生きていた。
だから、その地球に幽霊がいても、誰も噂をしたりはしない。
地球に降りることを許可されていた、地球再生機構、リボーンの職員たちも。
(仕事で廃墟を回っていたら、其処に幽霊…)
いる筈もない遠い昔の人間たちが、現れたこともあるかもしれない。
歴史書でしか見ないような服、それを着た人が朽ちた高層ビルの谷間にいただとか。
(ありそうだけれど、幽霊を見た、って、仲間内では噂になっても…)
外部に流出させることなど、彼らに許されるわけもない。
当然、記録することも出来ず、噂は埋もれて、それきりになって…。
(人類もミュウも、何も知らないままで終わって…)
今の時代にも伝わることなく、それで「おしまい」になったのだろう。
幽霊は、いたと思うのに。
死の星になった地球だからこそ、彼らにとっては「死の国」そのもので、似合いの場所で。
(…幽霊は、そうやって生き続けたけど…)
死んでるのに、生きているなんて、と可笑しいけれども、いい表現を思い付かない。
とにかく幽霊は滅びることなく、SD体制の時代を乗り越え、今だって「いる」。
ところが魔物や怪物などは「とうの昔に」消えてしまって、SD体制が敷かれる前にも…。
(もう、いなかったみたいだから…)
彼らはとても繊細すぎて、滅びに向かい始めた地球では、生き辛かったに違いない。
汚染された水では妖精は生きてゆけないだろうし、魔物たちにも厳しい環境。
隠れ住む森や深い暗闇、そういった場所が無くなっていって。
(頑張って、何処かで息を潜めて…)
滅びの時代を乗り越えていたら、青い水の星が蘇った後、戻って来ることも出来ただろう。
今の地球には、お誂え向きの住処が幾つも出来ているから。
(…それなのに、噂が無いんだし…)
やっぱり滅びちゃったんだ、と溜息をついて、ハタと気付いた。
人間が退治し続けたのに、長い長い間、根絶出来ずに、出現し続けた魔物がいた、と。
遠い昔から人が恐れた、吸血鬼。
人の血を吸って生き続ける上、血を吸い尽くされて死んだ人間は…。
(同じ吸血鬼になってしまって、人の血を吸って…)
更に仲間が増えてゆくから、そうならないよう、昔の人間は彼らと戦い続けた。
様々な方法を編み出し、それを実践して。
二度と吸血鬼が現れないよう、あの手この手で防御もして。
(…それだけやっても、滅ぼせなくって…)
何千年も人は戦い続けて、今は「吸血鬼がいない」地球がある。
彼らも地球と一緒に滅びて、蘇ることはなかったろうか。
(…何千年も退治し続けていても、滅ぼすことが出来なかったのに…?)
そう簡単に滅びるかな、と不思議になる。
たとえ滅びた地球であろうが、幽霊と同じで「残っていそう」。
もっとも、リボーンの人間だけしかいない地球では、血を吸うことが出来なくて…。
(棺桶の中で眠っているしかなかったとか…?)
それとも灰になってたかもね、と吸血鬼を退治する方法を思い出す。
心臓に杭を打ち込んで息の根を止め、蘇らないよう、燃やして灰にしてしまう。
それでも彼らは「滅びることなく」何千年も生き永らえたのだし、灰になっても…。
(何年か経ったら、また目を覚まして…)
新しい死体を探しに出掛けて、その中に入り込んだだろうか。
そういう仕組みになっていたなら、何千年も退治し続けていても、けして滅ぼせはしない。
灰が再び吸血鬼になり、人の血を吸い始めるのなら。
(…だったら、今の時代にだって…)
ひっそりと生きているのかもね、と思ったはずみに、頭を掠めていった考え。
「前のハーレイなんかは、どう?」と。
死の星だった地球が燃え上がった時、前のハーレイは…。
(深い地の底で、崩れ落ちて来た瓦礫の下敷きになって…)
死んでいったのだし、死体は「地球にあった」ということになる。
燃え盛る地球と一緒に燃えてしまう前に、吸血鬼が目を付けたなら…。
(吸血鬼になってしまったかも?)
だって、新しい死体だものね、と大きく頷く。
かなり傷んでいたにしたって、吸血鬼なら平気だったかも、と。
吸血鬼の灰は、前のハーレイの死体が気に入るのでは、という気がする。
他の長老たちの死体もあったけれども、一つだけ選び出すのだったら、ハーレイ。
(…前のハーレイ、モテなかったから、其処の所は…)
少し問題ではあるのだけれども、他の要素も考慮するなら、一番良さそう。
虚弱なミュウには珍しく頑丈な身体だったし、年を取り過ぎてもいない。
ついでにレトロな趣味をしていて、木の机だの、羽根ペンだのを愛用したほど。
(…吸血鬼とは、うんと相性、良さそうだよね?)
だから選ばれちゃいそうだよ、と顎に当てた手。
「長老たちの中から、一人選ぶのなら、ハーレイだよね」と。
もっと深い場所では、ジョミーとキースも「死体になっていた」のだけれど…。
(…そこまでは、流石に深すぎて…)
吸血鬼の灰は辿り着けなくて、前のハーレイの死体に宿る。
「いいものがあった」と入り込んで。
「傷んだ部分は治せばいいさ」と、いそいそと。
(…そうやって灰が入り込んだら…)
地球が劫火に包まれようとも、死体は燃えはしないだろう。
吸血鬼ならではの神秘の力で守られ、シールドされたみたいになって。
(でもって、その中で傷を治して…)
すっかり傷が癒えてしまったならば、前のハーレイが目を覚ます。
「此処は何処だ?」と、鳶色の瞳を瞬かせて。
「俺は確かに死んだ筈だが」と、「ブルーは何処だ?」と。
(…死の国に来た、って思うよね?)
天国にしては暗すぎたって…、と地の底の暗さに思いを馳せる。
其処で「ハーレイ」は「ブルー」を探して、あちこち歩く間に気付く。
「俺は死んではいないらしい」と、其処が死の国ではないことに。
おまけに「自分」が、もう人間ではないことにも。
(…ミュウでも、人類でもなくて…)
吸血鬼になってしまったのだ、と真実を知ったら、前のハーレイはどうするだろう。
ショックで暫く落ち込んだ後は、血を吸いに出掛けてゆくのだろうか。
吸血鬼には、血が必要だから。
人間の血を吸わないことには、活動する力を失うから。
前のハーレイが意識を取り戻した時、地球が青く蘇っていたなら、人間はいる。
深い地の底から外に出たなら、前のハーレイは血を吸えるけれども…。
(…ハーレイ、そんなこと、しないと思う…)
どんなに喉が渇いていようと、自分自身が生き延びるために、人の血を吸うとは思えない。
きっとハーレイなら、そうする代わりに…。
(地球の地の底で、もう一度…)
深い眠りに就いてしまって、二度と目覚めはしないのだろう。
眠っていたなら、血は一滴も要りはしなくて、人を傷付けはしないから。
吸血鬼の自分を封印すれば、平和な時代が続くのだから。
(そうやって、ずっと眠り続けて…)
ぼくが生まれたことに気付いて目が覚めるんだ、と赤い瞳を煌めかせる。
「だって、ハーレイだよ?」と、「ぼくに気付かないわけがないもの」と。
けれども、生まれ変わったブルーは、まだ赤ん坊。
前の生の記憶も戻っていなくて、会いにゆくには早すぎる。
(だからハーレイ、また眠って…)
青い地球の上に生まれた「ブルー」が大きくなったら、目を覚ます。
「もういいだろう」と、生まれ変わって来た「ブルー」に会いにゆくために。
其処まで出掛けてゆくだけだったら、血を吸わなくても大丈夫だろう、と。
(ぼくの年は、きっと十八歳だよ)
前のぼくと同じ姿に育った頃、と想像の翼を羽ばたかせる。
ある夜、今よりも大きく育った自分が、ベッドの中で眠っていたら…。
(窓のカーテンが、ふわって揺れて…)
ハーレイが入って来るんだよね、と吸血鬼が持つ魔力を思う。
窓には鍵がかかっていたって、ハーレイには意味が無いだろう、と。
難なく開けて、前のハーレイが着ていたキャプテンの服で、「ブルー」の部屋に現れる。
「ブルー?」と、耳元で呼び掛けて。
「覚えていますか、私ですよ」と、「あなたに会いに来たのですよ」と。
(ハーレイの声を聞いた途端に、ぼくの記憶が戻るんだ)
聖痕なんか無くっても…、と運命の恋人との絆の強さには自信がある。
前のハーレイの温もりを失くして死んだ自分だけれども、絆は切れていなくって、と。
そうしてハーレイと再会を遂げた自分は、結婚出来る年になっている。
前の自分と同じ姿に育ってもいるし、もう早速に、恋人同士のキスを交わして…。
(ハーレイと、ちゃんと恋人同士に…)
なれる筈だよ、と思ったけれども、ハーレイは吸血鬼として蘇ったから、其処が問題。
「ブルーの家まで、会いに来る」のが精一杯で、力は残ってなどはいなくて…。
(…もう戻らなくてはいけませんから、お元気で、って…)
優しい微笑みを浮かべた後に、別れを告げて帰るのだろうか。
ハーレイが長く眠り続けた、地の底へ。
人の血を吸わずにいられるように、自分自身を封印しに。
(そんなの、嫌だよ…!)
もっとハーレイと一緒にいたい、と願うのだったら、その分の血を捧げるより他に道は無い。
ハーレイの身体を動かすためには、充分な量の血が要るのだから。
(…ぼくの血を吸っていいよ、って…)
ハーレイに言うのは簡単だけれど、必要な血はどれほどなのか。
それに自分の血を吸って貰っても、ハーレイは吸血鬼なのだから…。
(昼の間は寝てるしかなくて、夜しか動き回れなくって…)
デート出来るのは日が暮れてからで、それでハーレイが疲れ果てたら、後は寝るだけ。
働くことも出来ないだろうし、ハーレイと暮らしてゆきたいのなら…。
(学校を卒業したら、ぼくが頑張って働いて…)
ハーレイと暮らす家を守って、おまけにハーレイに血を分け与えないといけない生活。
吸血鬼のハーレイは食事もしないし、「働きに出ているブルー」の食事を作ろうにも…。
(昼間は外に出られないから、買い物にだって行けなくて…)
もしかして、買い物もぼくがするわけ、と愕然とする。
(ハーレイが吸血鬼になって戻って来たなら、ぼくは、とっても大変じゃない!)
血を分けられる分の元気は残ってるかな、と不安だけれども、それでも頑張ることだろう。
ハーレイが、魔物だったなら。
吸血鬼になってしまっていようと、ハーレイが好きで堪らないから。
(…ハーレイが、魔物だったなら…)
苦労しか無さそうな日に思えたって、まるで少しも構いはしない。
ハーレイと一緒に生きてゆけるのなら、貧血気味でも、ハーレイのために働く毎日でも…。
魔物だったなら・了
※前のハーレイが魔物だったなら、と想像してみたブルー君。吸血鬼になったハーレイ。
十八歳の姿で再会ですけど、ハーレイと暮らしてゆくのは大変そう。働くのもブルー君v
