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(今日はハーレイに会えなかったけど…)
 きっと明日には会えるよね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は学校でハーレイに一度も会えなかった上、家にも寄ってはくれないまま。
 会えずに終わってしまったけれども、明日には会えることだろう。
(明日が駄目でも、明後日もあるし…)
 週末になれば家に来てくれるし、待っていたなら必ず会える。
 なんと言っても、同じ町で暮らしているのだから。
(おまけに、青い地球なんだよ)
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が焦がれ続けた水の星。
 其処に、ハーレイと生まれて来られた。
 結婚出来る年になったら、今度はハーレイと一緒に暮らせる。
 誰にも遠慮しなくていいし、二人の仲を隠さすことなく、堂々と。
(今のハーレイ、ケチなんだけど…)
 唇へのキスもくれないけれども、それも背丈が前の自分と同じになるまでの我慢。
 大きくなったらキスが貰えて、デートにも行ける。
(あと、ちょっとだけの間の我慢…)
 うんと長いような気がするけれど、と思いはしても、文句は言えない。
 今の自分が生きているのは、聖痕をくれた神様のお蔭。
 その神様から新しい命と、前とそっくり同じに育つ身体を貰った。
 ハーレイも青い地球の上にいて、同じ町に住んでいるという素晴らしさ。
(文句なんかは言えないよね…)
 こうじゃなかった可能性だってあるんだから、とハタと気付いた。
 同じように地球に生まれて来たって、ハーレイが其処にいないとか。
 あるいは、ハーレイも地球にいたって…。
(人間じゃない、ってこともあったかも…)
 有り得るよね、と顎に手を当てた。
 二人で生まれ変わって来ても、今度は人ではなかった、ということもあるのだ、と。


 前と同じに育つ身体をくれた神様。
 聖痕をくれた神様なのだし、お安い御用だっただろう。
 けれど奇跡が起こらなかったら、ハーレイと二人、奇跡的に生まれ変われても…。
(ちゃんと二人とも地球に来られても、人間じゃなくて…)
 別の種族の生き物だったのかもしれない。
 猫や犬やら、他にも生き物の種類は沢山あるのだから。
(人間以外に生まれて来ても…)
 ハーレイと同じ種族の生き物だったら、まだしもマシと言えるだろう。
 たとえ砂漠のネズミだろうが、もっと過酷な雪と氷の世界で暮らす動物だろうが。
(ハーレイと一緒に生きてゆけるんだったら…)
 砂嵐に追われる日々ばかりでも、きっと幸せだと思う。
 見渡す限り雪と氷で、食べ物を探すのが大変な毎日の繰り返しでも。
(だって、ハーレイと一緒なんだから…)
 どんな所でも天国だよね、と暮らしてゆける自信はある。
 けれども、そうはならなくて…。
(ぼくとハーレイ、別の種族の生き物に生まれて来ちゃったら…)
 厄介なことになりそうだ、と深く考えなくても分かる。
 種族が違えば、巡り会うことは出来たって…。
(ハーレイと一緒に生きてゆくのは…)
 そう簡単なことではない。
 なにしろ別種の生き物なのだし、出会えはしても…。
(ぼくはウサギで、ハーレイは人間だったとか?)
 幼い頃にウサギになりたいと願っていたから、ウサギがポンと頭の中に飛び出した。
 今の自分がウサギだったら、ハーレイとの出会いはどうなるだろう。
(野生のウサギに生まれて来てたら、何処かの山か草原で…)
 リュックを背負ったハーレイを見付けることになるかもしれない。
 「あっ、ハーレイ!」といった具合に、前の自分の記憶が一気に戻って来て。
 そしたら急いで飛び出して行って、ハーレイの周りを跳ね回る。
 「ぼくだよ、ブルーだよ、覚えていない?」と。
 「お願い、ぼくを思い出してよ、ねえ、ハーレイ!」と、懸命に。


(ハーレイだったら、きっと気付いてくれるよね?)
 ピョンピョン必死に跳ねるウサギが、「ブルー」なのだということに。
 時の彼方で愛した人が、ウサギになって戻って来た、と。
(きっとそうだよ、ハーレイだって記憶が戻って…)
 ウサギの姿の「ブルー」を見詰めた後に、ヒョイと抱き上げてくれるだろう。
 「そうか、お前か」と、それは嬉しそうな笑顔になって。
 それからリュックを下ろして座って、お弁当を広げるかもしれない。
 「ウサギでも食えそうなものが入ってたかな?」と、いそいそと。
(ハーレイが作ったお弁当だよね、何処かで買って来たんじゃなくて…)
 今のハーレイも料理が得意なんだから、と想像の翼を羽ばたかせる。
 お弁当の中身は、手の込んだものに違いない。
 出掛けた先でのんびり食べよう、とハーレイが腕を揮った料理。
(だけどウサギは、そんな料理は食べられないから…)
 ハーレイが選んで分けてくれるのは、生の野菜やフルーツなど。
 それでも充分、幸せな気分で食べられそう。
 またハーレイに出会えた上に、お弁当を分けて貰えたのだから。
(シャングリラの厨房で、前のハーレイが試作品を分けてくれたこととか…)
 色々な懐かしいことを思い出して、胸が一杯になってしまいそう。
 そしてモグモグ齧っている間に、ハーレイが優しく語り掛けてくるのだろう。
 「俺と一緒に帰らないか?」と。
 「心配しなくても、家には庭があるんだからな」と、新しい暮らしを提案して。
(もちろん、ハーレイと一緒に行くよ!)
 うんと苦労して掘った巣穴は、捨ててしまって構わない。
 頑張って見付けた美味しい草が生えている場所も、もう要らない。
(新鮮な草なら、きっと庭でも…)
 あるのだろうし、ハーレイだったら「ウサギのブルー」が食べられるように…。
(畑を作って、いろんな野菜を育ててくれて…)
 「どれでも好きに食っていいぞ」と、気前良く言うに違いない。
 「育つ前に、お前が全部食っても、また植えるから」と。
 「足りない分は買って来るから、好きな野菜を選んで食えよ」と胸を叩いて。


 野生のウサギに生まれて来たなら、ハーレイと出会えば一緒に暮らせる。
 家に帰ってゆくハーレイに連れられ、ハーレイの家がある町へ引っ越しして行って。
 ハーレイが一人で住んでいた家の中には、「ウサギのブルー」の寝床も出来ることだろう。
 庭にウサギ小屋を作るのではなくて、きっとハーレイと同じ部屋。
(寝心地のいい籠を用意してくれて…)
 夜はゆっくり其処で眠って、昼間は家の中で好きに過ごして、庭に出るための…。
(扉も作ってくれるよね?)
 ウサギでも簡単に開けられるけれど、意地悪な風や雨などは入って来られないものを。
 「どうだ、お前の身体にピッタリだろう?」と、ハーレイが工夫してくれて。
(うんと幸せ…)
 ウサギでもね、と思うけれども、野生のウサギではなかった場合は…。
(…ハーレイと出会うことは出来ても、家で一緒には暮らせないかも…)
 そうなっちゃうかも、と思い当たるケースは山とある。
 幼稚園だの、ウサギとの触れ合いが売りの牧場だので暮らしているウサギだと…。
(運良く、ハーレイを見付けられても…)
 ハーレイの方でも気付いてくれても、その場で「一緒に帰ろう」と言えるわけがない。
 「ウサギのブルー」には飼い主がいて、まずはその人に頼む所から。
 「このウサギを分けて貰えませんか」と、大の大人のハーレイがペコペコ頭を下げて。
(…なんでウサギが欲しいんですか、って…)
 飼い主はハーレイに尋ねるだろうし、ウサギを飼った経験の有無も訊くだろう。
 挙句に「駄目です」と断られたなら、ハーレイと暮らすどころではない。
 せっかく巡り会えたというのに、人間のハーレイは「ウサギではない」ものだから…。
(お休みの日に、せっせと訪ねて来てくれるだけで…)
 ニンジンを食べさせてくれたりはしても、「またな」と家へ帰ってゆく。
 ハーレイの家は其処ではなくて、「人間のゲスト」の宿泊施設も、其処には無いから。
(それでも、頑張って通っていれば…)
 飼い主の方が根負けをして、譲ってくれる日が来るかもしれない。
 そうなればハーレイの粘り勝ちだけれど、それさえ出来ないケースもある。
 「ウサギのブルー」が、誰かのペットだったなら。
 何処かの子供が大事にしている、とても大切な「小さな友達」。
 そういう場合は譲るどころか、ハーレイは「ブルー」に触れないかもしれないのだから。


(…小さな子供は、うんとペットを可愛がってて、とても大事な友達で…)
 その「友達」を譲るだなんて、とんでもない。
 自分と家族以外の誰かに「触らせる」のも嫌がりそう。
(触っちゃ駄目、って…)
 「ウサギのブルー」をしっかりと抱いて、ハーレイを睨みそうな「飼い主」。
 ウサギになった「ブルー」は、バタバタ暴れるだけ。
 ハーレイの側へ行きたくっても、飼い主が離してくれないから。
 ウサギの言葉は、人間の耳には届くことなど無いのだから。
(ハーレイと一緒に暮らしたいよ、って泣き叫んでも…)
 飼い主も家族も、決して気付くことなどは無くて、代わりに餌を差し出して来る。
 「どうしたの?」と御機嫌を取りに、ウサギの好物のおやつなどを。
(…全然、駄目だよ…)
 ハーレイと暮らせる日なんて来ない、と涙が出そう。
 そうこうする内に、「ウサギのブルー」の寿命は尽きてしまうのだろう。
 何と言ってもウサギなのだし、寿命は人間のハーレイよりも短くて…。
(…ハーレイと一緒に暮らしたかったよ、って…)
 涙ぐみながら死んでゆく時も、ハーレイは側にいられないのに違いない。
 「ウサギのブルー」の飼い主からすれば他人なのだし、いくら仲良くなっていたって…。
(うちのウサギが死にそうなんです、って連絡なんかはしないよね?)
 もしハーレイが「そういう時には知らせて下さい」と頼んでいたとしても、所詮はウサギ。
 ハーレイが仕事に行っている間に、「ウサギのブルー」が倒れても…。
(今はお仕事中だから、って…)
 連絡するのは控えるだろうし、そうなればおしまい。
 「ウサギのブルー」は前と同じに、ハーレイに会えずに死んでゆく。
 メギドで死んだ時と違って、飼い主の一家が側にいたって、一人ぼっちと同じこと。
(ハーレイに会いたかったよね、って…)
 最期に一粒涙を零して、「ウサギのブルー」は死ぬのだろう。
 おまけに「大切なペット」で、「家族の一員」だった「ブルー」は…。
(その家の庭に埋められちゃって、ハーレイは、また…)
 愛した人の亡骸さえも、その手に抱き締めることは出来ない。
 墓標が出来ても、それがある庭を「外から」眺めて、ポロポロと涙を流すだけで。


(…前と同じで、うんと悲しくて寂しいってば…!)
 ペットのウサギだった時は、とブルッと震えて、もっと恐ろしい考えになった。
 「ハーレイが、人間でもウサギでもなくて、別の種族だったら?」と。
 「ブルー」はウサギに生まれて来たのに、「ハーレイ」はウサギでも人間でもない。
 考えたくもないのだけれども、よりにもよって「ウサギの天敵」。
 空からウサギを狩りに来る鷹や、この地域にはいないオオカミといった獣たち。
(…鷹だったら、まだマシなんだけど…)
 きっとハーレイは「獲物」が「ブルー」なのだと気付く。
 そうなれば襲い掛かりはしないで、頭上を舞って、怖がらせないように近付いて…。
(地面に降りて、ぼくをじっと見詰めて…)
 「怖がるな、俺だ、忘れたのか?」と、首を傾げて尋ねてくる。
 「こんな姿になっちまっても、俺は俺だ」と、「お前を食いやしないから」と。
(ぼくも、ギュッと目を瞑ってたのを、恐々と開けて…)
 其処に「鷹になったハーレイ」を見付けて、嬉しくなって飛び付きそう。
 「ハーレイだよね!」と大喜びで、「もう離れない」と、巣穴に案内して。
(鷹のハーレイ、ぼくの巣穴の側で暮らして、番をしてくれて…)
 「ウサギのブルー」は、他の獣に狩られることなく、のびのびと生きてゆけそうな感じ。
 だから鷹なら、まだいいけれど…。
(…オオカミだったら…?)
 オオカミは群れで狩りをするらしいし、「ウサギのブルー」が彼らに見付かったなら…。
(その群れの中に、ハーレイがいても…)
 どうすることも出来ないままに、「ブルー」は狩られるのだろうか。
 「せめて、俺が」と、オオカミになった「ハーレイ」の牙が首に食い込んで。
 「すまん、ブルー」と、泣きそうなハーレイの心の声が聞こえて来て。
(…ぼくを食べなきゃ、ハーレイ、飢えて死んじゃうんだし…)
 そんな最期でも自分は構わないけれど、やっぱりお互い、辛いから…。
(別の種族だったら、とても大変…)
 同じ人間が一番だよね、と大きく頷く。
 今は二人で暮らせなくても、いつか結婚出来るから。
 前のような悲しい別れは来なくて、最後まで、ずっと一緒だから…。



          別の種族だったら・了


※ハーレイ先生と今の自分が、別の種族に生まれていたら…、と考えてみたブルー君。
 ブルー君がウサギだった場合、色々なケースがありそうです。ハーレイ先生が天敵だとかv








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(俺は幸せ者だよなあ…)
 今日はツイてなかったんだが、とハーレイは此処にはいない恋人を想う。
 夜の書斎でコーヒー片手に、寛ぎの時間を過ごしながら。
 生憎と今日は会えずに終わった、小さなブルー。
 前の生から愛した人は、生まれ変わって再び帰って来てくれた。
 まだ十四歳の子供なせいで、一緒には暮らせないけれど。
(学校で会えずに終わっちまって、あいつの家にも寄れなくて…)
 ツイていない、とガッカリだけれど、幸せ者だとも自覚させられる。
 きっと明日にはブルーに会えるし、明日が駄目でも、また明後日といった具合に次がある。
 会える機会は幾らでもあって、いつかは二人で暮らしてゆける。
 前の生では叶わなかった結婚式を挙げて、この家で。
(…そういう幸せが手に入ったのは…)
 神様のお蔭というヤツなんだ、と幸せな今を噛み締める。
 ブルーに聖痕を刻んだ神は、ブルーと自分に、新しい命と身体をくれた。
 しかもブルーが焦がれ続けた、本物の青い地球の上で。
(地球が蘇った時代というのも粋だし、前とそっくりに育つ身体も凄いんだ…)
 流石に神というだけはある、と心から感嘆せざるを得ない。
 今度の人生は、素晴らしいものになるだろう。
 辛い記憶が山ほど詰まった、時の彼方の前の生とは違って。
(俺も、あいつも、幸せ一杯で…)
 時には喧嘩もするだろうけれど、トラブルはきっと、その程度。
 シャングリラで暮らした時代のように、人類に追われる心配も無い。
(なんたって今は、人間はみんな、ミュウなんだしな?)
 忌み嫌われることもないさ、と思った所で、不意に頭を掠めた考え。
 同じ人間に生まれて来たから、ブルーと一緒に暮らしてゆける。
 けれども、これが違っていたなら、どうだろう。
 今の時代の人間は全てミュウなのだから、人間に生まれた場合は同じ人間になる。
(違うとなったら、別の種族ということだよな?)
 あいつと俺が、と顎に手を当てた。
 「そいつは、どんな具合になるんだ?」と首を捻って。


 青い地球の上に生まれ変わった、今の自分と、小さなブルー。
 どちらも同じ人間だけれど、別の種族なら、色々と変わって来るだろう。
(俺は人間に生まれて来たのに、ブルーは人間と違ってだな…)
 ウサギだろうか、と白くて赤い瞳の愛らしい動物を思い描いた。
 なにしろ今のブルーときたら、将来の夢がウサギだった頃があるらしい。
 今度も虚弱に生まれたブルーは、幼稚園にいたウサギたちがとても羨ましくて…。
(あんな風に、元気に跳ね回りたくて…)
 ウサギになりたい、と本気で夢を見ていたという。
 ついでに今の時代ならではの干支もウサギで、正真正銘、ウサギな部分も持っている。
(よし、ブルーがウサギだったってことで…)
 考えてみよう、と想像の翼を羽ばたかせた。
 ブルーがウサギなら、生きている環境は何通りかある。
 大きく分ければ、野生のウサギか、人間に飼われているウサギか。
(野生のウサギだったなら…)
 休日に山にでも出掛けて行ったら、其処でブルーと会うのだろうか。
 歩いている所へヒョッコリ姿を現すだとか、あるいは休んでいる時に…。
(俺が弁当を広げていたら、ウサギのあいつが…)
 ヒョイと顔を出して、その瞬間に、お互い、相手に気付くのだろう。
 遠く遥かな時の彼方で、共に暮らした愛おしい人。
 その人が今、目の前にいるということに。
(ウサギのブルーは、喋れなくても…)
 赤い瞳をクルクルとさせて、弁当を広げる「ハーレイ」の側に寄って来る。
 「ぼくだよ」、「ブルーだよ、覚えていない?」と耳をピクピクさせながら。
(もちろん、ブルーだと分かっているとも…!)
 分からないわけがないだろう、と自信の方はたっぷりとある。
 野生のウサギのブルーに会ったら、まずは弁当の中身を眺め回して…。
(ウサギが食っても、大丈夫なヤツが入っていたら…)
 それを手にして「食うか?」とブルーに差し出してやる。
 生野菜だとか、生のフルーツなどを。
 ブルーが美味しそうに食べる間に、「なあ、ブルー」と優しく呼んで、こう語り掛ける。
 「俺と一緒に家に帰ろう」と、「心配しなくても、家には庭があるからな」と。


 野生のウサギだったブルーは、こうして「家族の一員」になる。
 宝物みたいに大切に抱いて、家まで連れて帰って来て。
 庭には野菜を沢山植えて、ブルーがいつでも食べられるように、日々の手入れを欠かさない。
(しかし、ブルーが暮らす家は、だ…)
 庭に作った小屋ではなくて、ハーレイと同じ家の中。
 「ハーレイの部屋」の居心地の良さそうな場所に、ブルーの寝床を置いてやる。
 夜には其処に入って眠って、昼間は好きに歩き回って、庭に出るための扉も作って貰って…。
(毎日、のびのび暮らすといいさ)
 そんなあいつを見ているだけで幸せだよな、と心の中が温かくなる。
 「別に、ウサギでも構わないんだ」と、「一緒に暮らしていけるんなら」と。
 けれどブルーが、人に飼われているウサギだったら…。
(少しばかり、困ったことになるよなあ…?)
 幼稚園などにいるウサギだったら、頼めば譲って貰えるだろう。
 ウサギとの触れ合いが売りの公園だとか動物園でも、頼み込んだら、なんとかなりそう。
 せっせと通って「ブルー」に会って、うんと仲良く過ごす所を、しっかり印象付けたなら。
(どうしても、こいつがいいんです、と…)
 大の男が頭を下げれば、飼育係も苦笑しながら「いいですよ」と言うしかない。
 あちらにとっては、ブルーはウサギたちの中の一匹なのだし、こだわる理由は何も無いから。
 「ブルー」を譲って一匹減っても、代わりのウサギは直ぐに見付かるから。
(そういう場所で、飼ってるヤツならいいんだが…)
 誰かの家のウサギだったらどうしよう、と考え込む。
 今のブルーが夢に見ていた「いつか、ウサギになるんだよ」が実現していた場合みたいに…。
(通り掛かった家の庭で、白いウサギが跳ねていて…)
 それがこちらに目を向けた途端、互いの記憶が蘇る。
 ウサギのブルーは「ハーレイだ!」と気付くなり、跳ねて来るのだろうけれど…。
(野生のウサギの時と違って、その場で連れて帰るわけには…)
 いかないどころか、果たして譲って貰えるかどうか。
 大人が飼っているウサギだったら、頼めば可能かもしれないけれど…。
(その家の子供が可愛がってる、大切なペットだったなら…)
 どう頑張っても、飼い主の方は「ブルー」を譲ってくれないだろう。
 ウサギのブルーが「ハーレイ」に懐いて、離れたくなくて大騒ぎしても。


(…そいつは困るな…)
 悲恋じゃないか、と頭を抱えたくなるような展開。
 せっかく再び巡り会えても、けして一緒に暮らせはしない。
 ブルーは飼われている家の庭から、外へ出ることは出来なくて。
 ハーレイの方も、何度その家を訪ねて行っても、ブルーを独占出来るどころか…。
(家の人と仲良くなって、お茶を飲んだり、飯を食ったり…)
 時には「ブルーの飼い主」の子供を連れて、遊びに行ったりという羽目に陥るだろう。
 運が良ければ、遊びにゆく時、「ブルー」も一緒かもしれないけれど。
 ただし、ペット専用の籠に入って、飼い主の手で運ばれて。
 ウサギの「ブルー」に餌をやるのも、あくまで飼い主の役目のままで。
(…ごくごくたまに、「おじさんも、やる?」と、ブルー用のおやつを渡されて…)
 ブルーに食べさせてやることは出来ても、それが限界に違いない。
 どんなに足繁く通って行っても、「ウサギのブルー」は手に入らない。
 いつか「ブルー」が寿命を迎えて、神様の許に帰って行ってしまっても…。
(ブルーの墓は、その家の庭に作られて…)
 亡骸さえも、ハーレイの家に来てはくれない。
 前のブルーが、メギドへと飛んで、二度と帰って来なかったように。
 冷たくなったブルーの身体を抱き締め、弔いたくても、それさえ叶わなかったのと同じ。
(その家に行って庭を眺めたら、あいつの墓が…)
 あるってだけでもマシなんだがな、と思うけれども、辛すぎる。
 前のブルーと比べてみたなら、「ブルー」が眠っている墓がある分、マシであっても。
(…別の種族なら、そうなっちまうことも…)
 あるらしいな、と悲しい気分になって来た。
 愛おしい人と再会したって、一緒には暮らせない人生。
(人間とウサギっていう、うんと平和なケースでも…)
 そうなっちまうか、と眉間を指でトントンと叩く。
 「これだと、俺まで人間じゃなければ、もっと厄介になっちまう」と。
 別の種族に生まれて来るなら、ハーレイの方も「人間ではない」ことだってある。
 ブルーは同じに「ウサギ」だけれども、ハーレイは「人間」ではなくて…。
(ウサギを見付けたら、襲い掛かって…)
 食っちまう種族だったとか、というケースも考えられるのだから。


 大人しいウサギの天敵は多い。
 空を舞っている鷹などはもちろん、地域によってはオオカミもいる。
(俺が鷹なら、ブルーを見付けちまっても…)
 狩らずに逃がせばいいだけのことで、上手く運べば、友達にだってなれるだろう。
 「ウサギのブルー」も、「ハーレイ」のことを知っているから。
 今の姿は恐ろしい鷹でも、中身は優しい「ハーレイ」のまま。
 けしてブルーを食べはしないし、鷹のハーレイが側にいたなら、他の鷹には襲われない。
(ウサギのブルーも、安心して野原を跳ね回れて…)
 とても喜んでくれそうだけれど、オオカミだったら、事情が異なるかもしれない。
 野生のオオカミは、群れを作って狩りをする。
 だから「ハーレイ」も群れの一員、ある時、皆と狩りをしていて…。
(ウサギがいるぞ、と誰かが叫んで、一斉に追い掛け始めてから…)
 オオカミの自分が追っている獲物が、「ブルー」なのだと気付いてしまう。
 突然、記憶が戻って来て。
 懸命に逃げる白いウサギが、愛おしい人と重なって。
(そうなっちまったら、オオカミの俺に出来ることはだな…)
 ウサギのブルーを「逃がす」ことだけれど、仲間の獲物を「逃がす」のは野生の掟に反する。
 その上、群れで狩りの最中、他の仲間は怒り狂って「ハーレイ」に襲い掛かるだろう。
 群れから弾き出すために。
 更には「掟を破った」者はどうなるか、若い仲間たちに示すためにも。
(…そうなる前に、俺は必死に駆け抜けて…)
 ウサギのブルーをパッと咥えて、力の続く限りに走る。
 二度と群れには戻れなくても、「ブルー」の方が大切だから。
 「ブルー」を逃がして命を守って、何処かで「ウサギのブルー」と一緒に…。
(ひっそり暮らして、俺はブルーを守り続けて…)
 一生を終えてゆくんだろうな、と大きく頷く。
 「その人生で悔いは無いさ」と、「オオカミだから、オオカミ生だが」と。
 ウサギのブルーは、オオカミに咥えられたショックで、気絶してしまうかもしれない。
 いくら「ハーレイ」だと分かっていたって、オオカミだから。
 咥えて逃げようと開けた口には、鋭い牙が生えているから。


(それでも、俺が咥えて逃げて…)
 洞穴の中か何処かで意識が戻れば、ブルーはきっと大喜びしてくれる。
 「助けてくれたのに、知らずに気絶しちゃってごめんね」と泣き笑いのような表情で。
 「ハーレイがオオカミでも会えて良かった」と、「もう離れない」と。
(ウサギのブルーと、オオカミの俺か…)
 それはそれで素敵なカップルかもな、と笑みを浮かべて、コーヒーのカップを傾ける。
 「別の種族なら、そんな出会いもあったかもしれん」と。
 「そいつもなかなか、いいかもしれん」と、嬉しくもなる。
 どんな出会いになったとしても、ブルーと生きてゆけるなら。
 オオカミなのに肉を食べずに、一生、ブルーと、草を食べて暮らす毎日でも…。




           別の種族なら・了


※ブルー君と自分が別の種族に生まれていたら、と想像してみたハーレイ先生。
 人間とウサギだった場合は、悲恋になってしまう可能性。オオカミとウサギなら幸せかもv








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「ねえ、ハーレイ。謝るためには…」
 誠意を見せるのが大切だよね、とブルーは顔を曇らせた。
 二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 謝るって…」
 どうしたんだ、とハーレイは慌てて問い掛けた。
 ブルーは何もしてはいないし、思い当たる節が全く無い。
 朝にブルーの家に来てから、謝られるようなことは…。
(何も無いよな…?)
 ということは、友達と何かあったのか、と推測してみる。
 ブルーが友達を怒らせることなど、無さそうだけれど…。
(場合によっては、有り得るかもなあ…)
 なにしろ、学校という場所は生徒で溢れ返っている。
 ブルーに悪気は無かったとしても、廊下か何処かで…。
(すれ違いざまにぶつかっちまって、そのはずみに…)
 友達が持っていた鞄が落ちて、中身が壊れてしまうとか。
(壊れなくても、まだ食っていない弁当が…)
 グチャグチャになるってこともあるか、と考えた。
 昼に食べようと楽しみに買った、パンがペシャンコとか。
(…食い物の恨みは怖いモンだし…)
 まして食べ盛りの年頃だしな、と苦笑いする。
 「そういうことか」と、「原因は多分、弁当だろう」と。


 きっとそうだ、と気が付いたから、ブルーに尋ねた。
「友達に、何か、やらかしちまったのか?」
「うん、友達と言えば、友達かも…」
 やっちゃったんだ、とブルーは肩を落とした。
「渡す筈のもの、渡さずに放って来ちゃったんだよ」
「なんだって!?」
 お前がか、とハーレイは目を丸くした。
 ブルーは今も昔も真面目で、約束を破ることなどしない。
 「明日、渡すね」と約束したなら、必ず守る。
 なのに渡さずに放って来たとは、と驚いたけれど…。
(待てよ、今日は土曜で、学校は休みで…)
 明日も日曜で休みだよな、と破った原因に思い当たった。
 多分、ブルーは、昨日に渡す気だったのだろう。
 ところが、たまたま何かが起こって…。
(渡す相手に会い損なって、そのまま帰るしかなくて…)
 渡せないままになったんだな、と納得した。
 そういうことなら、ブルーに落ち度は無いのだけれど…。
(ついでに、こいつの年頃だったら、ありがちで…)
 相手も気にしちゃいない筈だが、と可笑しくなる。
 もしかすると、相手も忘れているかもしれない。
 ブルーに何かを頼んだことも、それを受け取る約束も。


(子供には、よくあることなんだがなあ…)
 ブルーの場合は事情が少し違ったっけな、と苦笑した。
 前の生での記憶がある分、失敗したと思うのだろう。
 普通の子ならば気にしないのに、気に病んで。
 それなら、ブルーの心が軽くなるよう、手を貸さねば。
「気にしすぎだと思うぞ、俺は」
 次に会ったら渡せばいいだろ、とウインクする。
 「相手も忘れちまってるかもしれんし、気にするな」と。
「…そうなのかな…?」
 それで誠意は見せられるかな、とブルーは心配そうな顔。
 「ごめんって言って、渡せばいいの?」と瞳を瞬かせて。
「そうだとも。お前くらいの年の頃なら、充分だ」
 大人だと、少々、ややこしい時もあるけどな、と笑う。
「謝るだけではマズイかも、ってお詫びに飯を…」
 ご馳走したりもするんだが、と教えて、更に付け足した。
 「子供の場合は、それは要らん」と、「渡せばいい」と。
「…そっか、渡すの、忘れたものを…」
「ごめん、と謝って、渡しておけば大丈夫だ」
 相手も怒っちゃいないだろうさ、と微笑んでやる。
 「それで充分、誠意は伝わる筈だからな」と。


「分かった、ごめん、って謝ってから…」
 渡すんだね、とブルーは椅子から立ち上がった。
 忘れない内に、渡す筈のものを鞄に入れるのだろうか。
 それともメモに書いておくとか、鞄に結び付けるとか。
(…前のあいつも真面目だったが、今のこいつも…)
 真面目だよな、とハーレイが感心していると…。
「ごめんね、ハーレイ」
 渡せなくって、とブルーが側にやって来た。
「遅くなっちゃったけど、さよならのキス…」
 メギドに飛ぶ前に、渡せずに行っちゃったから、と。
「なんだって!?」
 ソレか、とブルーの魂胆に気付いて、パッと身を引く。
 確かに貰い損なったけれど、今頃、渡して貰っても…。
(第一、こいつはチビでだな…!)
 唇へのキスは許していない、とブルーを睨んで…。
「ほほう、さよならのキスなんだな?」
 それを貰ってお別れなのか、とブルーに顔を近付けた。
 「なら、お別れだ」と、「二度と来ない」と。
「ちょ、ちょっと…!」
 それは困るよ、とブルーは悲鳴だけれども、知らん顔。
 「早く、寄越せ」と。
 「さよならのキスを貰って、俺はさよならだな」と…。


        謝るためには・了







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(今日はハーレイに会えなかったよ…)
 後ろ姿さえ見ていないよね、と小さなブルーが零した溜息。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は古典の授業も無い日だったから、運が悪かったと言えるだろう。
 授業さえあれば、たとえ当てては貰えなくても、ハーレイの顔は見ることが出来た。
 声も聞けたし、姿にしたって見放題なのに、それも無かった。
(仕事の帰りに、寄ってくれるかと思ってたのに…)
 濃い緑色をした車は来なくて、ハーレイには会えず終いの一日。
 残念な限りなのだけれども、あと何年か経ったなら…。
(今日みたいな日は、もう無くなって…)
 ハーレイとは毎日、嫌というほど顔を合わせて、朝から晩まで、何処かで会える。
 同じ家の中で暮らしているから、喧嘩をしたって、まるで会わずに過ごすことなど…。
(…出来ないよね?)
 絶対、何処かで会っちゃうんだよ、とクスクスと笑う。
 「ハーレイのことなんか、もう知らない!」と怒っていたって、廊下や洗面所でバッタリと。
 お互い、プイッと顔を背けても、また直ぐに会ってしまうだろう。
 「何か飲みたいな」とキッチンに行ったら、其処にハーレイがいたりして。
(…ぼくと喧嘩中なのに、のんびりコーヒーなんか淹れてて…)
 鼻歌交じりに、菓子を作っているかもしれない。
 それは美味しそうな匂いが漂う、アップルパイとか、チョコレートの入ったケーキとか。
(…お前には食わせてやらないからな、って…)
 ハーレイの顔には書いてあるから、キッチンの扉をバタンと閉めて、そのまま戻る。
 飲み物が欲しかったのは確かだけれども、あんなハーレイのいる所では…。
(欲しい気持ちも失せるってば!)
 水道の水で充分だよ、とズンズン歩いて、洗面所のカップからゴクゴクと飲む。
 カップは歯磨き用のカップで、水を飲むカップとは違うのに。
 水には味などついていなくて、喉が湿るというだけなのに。


 そういう出会いばかりの日になったって、ハーレイとは、いずれ一緒に暮らせる。
 喧嘩して口も利かなくなっても、それも長くは続かないだろう。
(ぼくが怒って、キッチンの扉を思いっ切り…)
 叩き付けるように閉めて去ったら、ハーレイは笑い転げていそう。
 「大きくなっても、まだまだ子供だ」と、「中身はガキのまんまだよな」と。
 機嫌を取りにはやって来ないで、コーヒーを淹れて味わいながら…。
(お菓子作りを進めていって、合間に、食事の支度とかもして…)
 空いた時間に新聞を広げて読んだりもして、「ブルーがいない」のを逆に楽しむ。
 独身時代に戻ったみたいに、勝手気ままに。
 以前は一人で暮らしていた家、その空間を満喫して。
(…考えただけで、腹が立つけど…)
 喧嘩中の未来の自分もプンスカ怒っていそうだけれども、その内に、声が聞こえるだろう。
 立て籠っている部屋の扉が、ノックされて。
 「おい、ブルー?」と、揶揄うようなハーレイの口調。
 「飯が出来たが、食わないのか?」と。
(…返事をしないで、黙っていたら…)
 ハーレイは「そうか」と踵を返して、スタスタと戻ってゆきそうな感じ。
 「だったら、一人で食うとするかな」と、聞こえよがしに独り言を漏らして。
 「デザートは、アップルパイが出来ているし」と、「アイスも添えると美味いんだよな」と。
(ぼくのことなんか、知るもんか、って…)
 去ったら最後、ハーレイは一人で食事を摂って、アップルパイも食べてしまいそう。
 かなり経った頃に「お腹が空いた…」とダイニングに行っても、既に手遅れ。
 パイは欠片も残っていなくて、テーブルの上には…。
(アップルパイは食っちまった、って書かれたメモと、如何にも残り物っぽい…)
 ブルー用の料理が皿に盛られて、「温めて食え」と書いてある。
 嫌味ったらしく、「出来立てが一番、美味しそうな料理」が、すっかりと冷めて。
 しぼんでしまったスフレオムレツとか、冷えて固まった脂を纏ったハンバーグとか。
(やりそうなんだよ…!)
 ハーレイならね、と分かっているから、喧嘩はサッサと切り上げないと。
 お菓子や食事に釣られてしまって、出て来たことを笑われても。
 「なんだ、来たのか」と、チラと見られても、ハーレイが盛大に噴き出しても。


(…今のハーレイなら、ホントにやりそう…)
 ぼくを苛めて楽しむヤツ、と思いはしても、それも素敵な未来ではある。
 ハーレイと一緒に暮らしているから、喧嘩もするし、仕返しもされる。
 「ハーレイのことなんか、もう知らない!」と言おうものなら、独身生活に戻られて。
 「元々、俺の家なんだしな?」と、「ブルーのいない暮らし」をされてしまって。
(それでも、ぼくが食べる分の食事や、お菓子は…)
 きっと作ってくれるだろうから、さっき考えたようなことも大いに有り得る。
 お菓子は食べ尽くされてしまって、食事は「冷めたら美味しくなくなる」残り物ばかり。
 怒るしかない仕打ちなのだし、ハーレイの所へ怒鳴り込んだら…。
(お前が食いに来なかったんだろ、と鼻で笑われて…)
 グウの音も出なくて、其処へハーレイが追い打ちをかける。
 「第一、喧嘩中なんだぞ、今は」と。
 「喧嘩中なら、仕返しされるのは当然だろうが」と、可笑しそうに。
(…そう言われたら、悔しくても、黙るしか無くて…)
 「降参だよ!」と言わない限りは、ハーレイの仕返しが続いてゆく。
 午後のお茶の時間も、ハーレイは全く呼んでくれずに、一人、ゆっくりコーヒーを飲む。
 「ブルーとお茶」なら、コーヒーではなくて、紅茶なのに。
 喧嘩中のブルーが「何か飲みたい」と出掛けて行っても、キッチンにドッカリ居座り続けて。
 お湯を沸かそうにも、紅茶のポットを用意しようにも、ハーレイがいては、どうにもならない。
 「ぼくも、紅茶を飲みたいんだけど」と声を掛けたら、負けを認めるようなもの。
 「お願いだから、どいて下さい」と、頭を下げるのと同じだから。
(喧嘩してなきゃ、なんでもないことなんだれどね…)
 「ちょっとごめん」と横を通るとか、ハーレイの動きを遮ることは、ごくごく日常。
 それが出来ないのが「喧嘩の最中」、負けを認めるか、紅茶の代わりに…。
(洗面所に行って、水道の水…)
 歯磨き用のカップから飲んで、部屋に立て籠もって、怒り続けて…。
(御飯の時間になったなら…)
 またハーレイが部屋の扉をノックする。
 「飯が出来たが、お前、今度も食わないのか?」と笑いながら。
 「デザートも出来てるんだがな?」と。
 「今なら飯も熱々なんだ」と、「冷めたら、きっと不味いだろうなあ…」などと。


(ホントにありそうなんだよね…)
 そういう未来、と思うけれども、未来の自分は、それでも幸せなことだろう。
 ハーレイと二人で暮らしているから、喧嘩もするし、仕返しもされる。
 盛大に喧嘩をしている時間は、そうそう長くは続かなくても。
 仕返しに懲りた「未来の自分」が、「ごめんなさい…」と詫びる羽目になっても。
(謝らなくても、ハーレイの前へ出ていくだけで…)
 ハーレイは許してくれるよね、という気がする。
 「飯に釣られて出て来たんだな」と、腹を抱えて笑っていたって。
 「色気より食い気というヤツだよな」と、「これに限る」と勝ち誇られても。
(ムカッとしたって、それは、一瞬…)
 ハーレイが「美味いんだぞ?」と料理を盛り付けてゆくのを見たら、怒りは溶けてしまいそう。
 酷い仕返しを受けたことだって、頭から消えてしまうと思う。
 何故なら、「ハーレイが、其処にいる」から。
 つまらないことで喧嘩になって、うんと怒って、立て籠もったりしたけれど…。
(やっぱり、ハーレイがいるのが一番…)
 顔を見られて、一緒に食事のテーブルを囲んで、食後は紅茶やコーヒーを淹れて…。
(ハーレイが作ったお菓子を食べて、昼間にやられた仕返しのことを…)
 二人で話して、ハーレイが一人で食べてしまったアップルパイなどの感想も…。
(聞かせて貰って、食べ損なったのを悔しがって…)
 「分かった、また今度、作ってやるから」と約束を取り付けて、満足する。
 ハーレイの料理も、作るお菓子も、美味しいに決まっているのだから。
 前のハーレイは厨房出身、今のハーレイも料理が好きで、腕を磨いていると聞く。
(何を作らせても、きっと、とっても美味しくて…)
 頬っぺたが落ちそうになるんだよ、と思うものだから、未来の自分が羨ましい。
 そのハーレイが作る料理を、毎日のように食べて暮らして、喧嘩もする。
 仕返しで「冷めたら不味い料理」を食べさせられたり、お菓子を食べ尽くされてしまったり。
 そうして怒って、でも仲直りで、同じ料理を作って貰える。
 「熱々の間に食うのがいいんだ」と、日を改めて、ハーレイがキッチンに立って。
 「お前も、すっかり懲りただろうが」と、「そうは言っても、またやりそうだが」と。
 「次があったら、どんな料理を作るとするかな」と、ハーレイは計画をひけらかしそう。
 冷めたら不味い料理を挙げて、「お前は、どれを作って欲しい?」と聞いたりもして。


(そういう仕返し、たっぷりやられてしまっても…)
 何度、酷い目に遭ってしまっても、未来の自分は、間違いなく幸せ一杯の日々。
 其処に「ハーレイがいる」だけで。
 毎日、ハーレイと顔を合わせて、会えない日などは一日も無くて、時には喧嘩するほどで。
(…だって、前のぼくは…)
 その「ハーレイ」を失くしちゃったから、と右の手をキュッと強く握り締める。
 今はお風呂で温まった後で、部屋も暖かくて、幸せな未来も夢見ていたから、温かい右手。
 その手は、前の生の終わりに、冷たく冷えて凍えてしまった。
 最後まで持っていたいと願った、ハーレイの温もりを落として、失くして。
 「ハーレイとの絆が切れてしまった」と泣きじゃくりながら、前の自分はメギドで死んだ。
 それから長い時が流れて、気付けば、青い地球の上にいた。
 新しい命と身体を貰って、ハーレイまでが戻って来てくれた。
(ぼくよりも先に生まれて来ていて、聖痕を見て記憶が戻って…)
 今では会えなかった日を嘆くくらいに、「ハーレイがいる」のが当たり前の毎日。
 学校で顔を合わせるだけでも、本当は充分だと言えるだろう。
 「二度と会えない」と思いながら死んで、それきりになる筈だったのだから。
(だから、ハーレイさえいれば…)
 それで充分なんだよね、と神様に御礼を言うべきだろうし、そうだと思う。
 未来のハーレイに仕返しされても、怒っている場合などではない。
(立て籠もってプンスカ怒っていたって、心の中では…)
 分かっているから、ハーレイを嫌ってなどはいないし、怒ってもいない。
 「君の他には、何も要らない」と痛感していて、喧嘩中の自分を叱ってもいそう。
 「そのハーレイを失くしてしまった、前のお前を忘れたのか?」と。
 「一人ぼっちになりたいのか」と、「またハーレイを失くしたいのか?」と問い掛けて。
(…そんなことないし、失くしたくもなくて…)
 ハーレイさえいれば、それで充分、他には本当に何も要らない。
 冷めてしまったら不味い料理で仕返しされても、お菓子を食べ尽くされてしまっても…。
(君の他には、ぼくは、なんにも…)
 要らないんだよ、と思うけれども、未来の自分は、きっとやらかすことだろう。
 喧嘩も、仕返しをされた文句を言うのも、思いのままに。
 ハーレイにすっかり甘えてしまって、前の生よりも、うんと我儘になって…。



             君の他には・了


※ハーレイさえいれば、他には何も要らない、と思うブルー君。前の生の最期が悲しすぎて。
 けれど未来には、きっと忘れて、ハーレイ先生と喧嘩するのです。幸せすぎて我儘になってv







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(…あと何年か、待ったなら…)
 あいつと暮らせるんだよな、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 今日は会えずに終わってしまった、小さなブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた、愛おしい人。
(今日は、一度も会えなかったが…)
 何年か待てば、ブルーに会えない日など、無くなる。
 まだ十四歳にしかならないブルーが、結婚出来る年の十八歳になりさえすれば。
(プロポーズはともかく、その後の、あれやこれやが、だ…)
 多少、厄介かもしれないけれども、ハードルは必ず乗り越えてみせる。
 今度こそ、ブルーを手に入れるために。
 前の生では叶わなかった、「ブルーと二人だけの暮らし」を掴み取らなければ。
(そのために生まれて来たんだからな?)
 あいつも、俺も…、と改めて思う。
 遠く遥かな時の彼方で、何度、ブルーと語り合ったことか。
 「いつか、地球まで辿り着いたら…」と、青い地球で生きてゆく夢を。
 人類に追われ、狩られることなく、ただの「ミュウという種族」になって。
(その日が来たなら、あいつはソルジャーではなくなって…)
 シャングリラという白い箱舟もお役御免で、キャプテンだって要らなくなる。
 船の仲間たちも、それぞれに散ってゆくだろう。
 自分が生きたい道を選んで、暮らしたい場所を見付け出して。
(そうなりゃ、あいつも、前の俺も、だ…)
 肩書などは消えてしまって、「ただのブルー」と、「ただのハーレイ」。
 役目も重荷も、背負う必要などは何処にもないから、二人、気ままな旅に出る。
 地球まで辿り着く前に夢見た、様々なことをするために。
 あちこち巡って、あれこれと食べて、他愛ないことを話したりもして。
 ミュウの未来を憂えなくても、何の心配も要らない世界は、幸せに満ちているだろう。
 「ただのブルー」と「ただのハーレイ」では、誰一人、気に留める者が無くても。


 前の自分と、前のブルーが見ていた夢。
 とても細やかな夢だけれども、それでいて大変な夢でもあった。
(まず、人類との和解ってヤツが問題で…)
 和解が無理なら、戦い、道を開くしかない。
 文字通り茨の道になる上、犠牲も多く出ることだろう。
 その戦いを始めるためには、戦力も要るし、どれほどの準備と覚悟が必要になるか。
(…でもって、それを決断するのは…)
 前のブルーと、前の自分と、長老たちという勘定。
 仲間たちにも諮るけれども、最終的には、その決断は…。
(前のあいつが…)
 下す形になってしまって、ブルーは、その責を負うことになる。
 勝ち戦が続く間は良くても、そうそう上手くゆくわけがない。
 何処かで必ず、負けの一つや二つは来る。
 負ければ仲間が怪我をするとか、命を落とす結果にもなる。
 そうなった時に、ブルーの心は、どれほど傷付き、血を流すことか。
(…ぼくが戦いに出ていれば、と…)
 悔やみ、嘆いて、いつまでも自分を責め続ける。
 青い地球まで辿り着いても、ふとしたはずみに思い出して。
 「あの仲間が、生きていたならば…」と、自分の暮らしに重ねもして。
(…きっと、そうなっていたんだろうなあ…)
 あいつも、俺も…、という気がする。
 地球での暮らしが、満ち足りたものであればあるほど、悔いも大きくなったろう。
 「違う選択をしていれば」と、払った犠牲を、全て自分たちの過ちにして。
 本当のところは違っていたって、「自分のせいだ」と、背負い込んで。
(…前の俺たちの夢ってヤツは…)
 細やかなんかじゃなかったんだ、と今にして思う。
 沢山の夢を描いた時には、二人とも、そういう気でいたけれど。
 「いつか地球まで辿り着いたら」と、子供みたいに無邪気に考え、夢を増やした。
 あれもしようと、これもしたいと、その時が来たら「やりたいこと」を。


(…大それた夢ってヤツだったから…)
 一つも叶わなかったのかもな、と苦笑し、カップを指でカチンと弾いた。
 そもそも、青い地球でさえもが、あの頃は存在していなかった。
 死の星のままで宇宙に転がり、人が住めるような場所などは無くて…。
(青いどころか、赤茶けた星で…)
 辿り着いた仲間は、皆、涙した。
 「こんな星のために、ずっと戦って来たのか」と。
 多くの犠牲を払い続けて、長い道のりを歩んだのか、と呆然として。
(…そして、地球まで辿り着くために…)
 必要だった犠牲の中には、前のブルーも含まれていた。
 命を捨ててメギドを破壊し、シャングリラを逃がして、ブルーは消えた。
(…前の俺の前から、消えてしまって…)
 二度と戻りはしなかった人を、本当は、何処までも追い掛けたかった。
 白いシャングリラも、キャプテンの務めも、何もかも捨てて、ブルーの後を追う。
 それは甘美な夢だったけれど、前のブルーが許さなかった。
 最後の最後に、「ジョミーを頼む」と言い残して。
 決して自分の後を追うな、と前に二人で交わした誓いを、反故にして。
(あいつが死んだら、前の俺も、すぐに…)
 葬儀を済ませて、ブルーの後を追ってゆく。
 そう決めて、ブルーも「そのつもり」でいた。
 決めた時には、まだ船は平和だったから。
 戦いは始まってさえもいなくて、ブルーの寿命が尽きた後にも、そうだと思い込んでいた。
 次のソルジャーが後を継ぐだけで、シャングリラの日々も変わりはしない、と。
(…どうやって地球まで行くつもりだったんだろうなあ…)
 変わり映えのしない日々が続く船で、と可笑しくなる。
 だからこそブルーの寿命が尽きる日が近付き、あんな誓いを立てることに…、とも。
 けれど、戦いは始まった。
 そうして前のブルーも戦い、前の自分の前から消えた。
 一人ぼっちで残された船で、仲間たちを指揮し、地球まで辿り着いたけれども…。


(前の俺の夢は、ただの一つも…)
 叶わないまま終わってしまって、気付けば、今の自分が「いた」。
 おまけに「ブルー」も、今の自分の前にいた。
 生まれ変わって、十四歳の子供になって。
 タイプ・ブルーのサイオンはあっても、それが使えない不器用なブルー。
(俺は、あいつを…)
 もう一度、手に入れたんだ、と感慨深いものがある。
 失くした筈の愛おしい人が、自分の前に帰って来てくれた。
 まだ一緒には暮らせなくても、何年か待てば、前の自分たちが夢見た通りに…。
(…結婚式を挙げて、ただのブルーと、ただのハーレイになって…)
 前の生では叶わなかった、幾つもの夢を叶えてゆく。
 青い地球の上を二人で旅して、様々な場所へ出掛けて行って。
 夢でしかなかった色々なものも、今なら、いくらでも手に入れられる。
 前のブルーの夢の朝食、「ホットケーキ」も、今のブルーには、日常になった。
 血が繋がった本物の「ブルーの母」に頼みさえすれば、毎日だって食べられるだろう。
 地球の草を食んで育った牛のミルクで作った、美味しいバターをたっぷり塗って。
 サトウカエデの森で育まれた、メープルシロップを好きなだけかけて。
(…神様のお蔭ってヤツだよなあ…)
 どんな贅沢な夢も叶うぞ、と実感出来る、今の自分の暮らし。
 前の自分たちには「夢で幻だったこと」の全てが、今では普通で「当たり前」。
 そう考えると、夢を叶えられる世界も嬉しいけれど…。
(それより、何より、大切なものは…)
 あいつなんだ、と思いを深くする。
 時の彼方で失くした「ブルー」が、再び、この手に戻って来たこと。
(…本当の意味では、まだ手に入れてはいないからなあ…)
 今のあいつは子供だからな、と大きく頷く。
 「まだ何年か、待つしか無いが」と。
 ブルーが結婚出来る年になるまで、本当の意味では「手に入らない」愛おしい人。
 けれども、待てば手に入るのだし、焦る必要などは全く無い。
 今のブルーが育ってゆくのを、ただ見守っていればいい。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が、チビのブルーが育ってゆくのを見ていたように。


(…そうさ、あと何年か待てばだな…)
 ブルーは、この手に戻って来る。
 何の犠牲も払うことなく、戦いの日々を経ることもなく。
 ただ平穏な時が流れて、その先に、前の自分たちが夢見た未来が広がる。
 「ただのブルー」と「ただのハーレイ」、そういう二人として生きてゆく。
 この地球の上で、幸せに。
 仲間たちの血が流れることなど、其処までの間に、ありはしなくて。
(…いいもんだよなあ…)
 最高だ、とコーヒーのカップを傾ける。
 なんと素晴らしい未来なんだ、と前の自分の夢が潰えた日と比べてみて。
 ブルーを失い、悲嘆に暮れたあの長い日々も、色鮮やかな未来の前には、どうでも良くなる。
 もう悲しみなど何処にも無くて、ブルーは帰って来てくれたから。
 あと何年か待ちさえすれば、前の自分が夢見た暮らしが、そっくりそのまま始まるから。
(あいつさえ、側にいてくれるんなら…)
 それだけで俺は満足なんだ、と充足感が胸に満ちてゆく。
 今のブルーがいてくれるだけで、もう満足だと言ってもいい。
 本当の意味では、まだ手に入っていなくても。
 結婚出来る時が来るまで、側で見守るだけの日々でも。
(あいつさえいれば、俺は他には、もう何一つ…)
 望まないよな、と前の自分だった頃を今に重ねて、「そうだな」と思う。
 「ブルー」さえいれば、何も要らない。
 失くしてしまった愛おしい人が、この手に戻って来てくれたから。
 その人と生きてゆけるのだったら、それだけで日々は満ち足りていることだろう。
 遠く遥かな時の彼方で夢見た「それ」は、「大それた夢」で、叶わずに終わったのだけれど。


(…何の犠牲も、払いはせずに…)
 待っているだけで、ブルーとの暮らしが手に入る。
 最高の未来で、想像するだけで顔が綻ぶ。
 「あと何年かの辛抱なんだ」と、「今でも、充分、幸せだがな」と。
(…俺は、お前の他には、何も…)
 何一つ無くても、幸せなんだ、とコーヒーを口に含んだけれど。
 「ブルーさえいれば」と思ったけれども、このコーヒーも、今ならでは。
(…青い地球で採れた、本物のコーヒー豆で淹れたヤツで、だ…)
 代用品だったキャロブとは違うんだよな、と白いシャングリラを思い出す。
 自給自足の暮らしに入った後の船では、もう本物のコーヒーは味わえなかった。
 それが今では幾らでも飲めて、おまけに青い地球産のもの。
 他にも色々、前の自分には夢だったことが、当たり前にあるものだから…。
(…お前の他には、何も要らない、と言いたいんだが…)
 実感としてはあるんだがな、と眉間を指でトンと叩いた。
 「すまんが、他にも欲しいようだ」と。
 今の自分の当たり前の日々も、ブルーと二人で暮らす未来には、是非、欲しい。
 「お前の他には、何も要らない」と思う気持ちは本当でも。
 ブルーさえいれば、他には何も要らなくても。
(なんたって、これが日常で、だ…)
 ブルーもホットケーキを食ってるんだし、いいじゃないか、と自分自身に言い訳をする。
 「あいつだって、俺の他にも、あれこれ欲しいと思うだろうさ」と。
 青い地球でやりたいと幾つも夢に見たこと、それも欲しくて当然だよな、と…。



              お前の他には・了


※ブルー君さえいれば他には何も要らない、と思ったハーレイ先生ですけれど…。
 そう思う気持ちは本当ですけど、他にも欲しくなるのです。青い地球にいるんですものねv








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