「ねえ、ハーレイ。仕切り直すのは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 仕切り直すって…」
大切って、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
「なんだ、いきなりどうしたんだ?」
「えっとね…。ぼくの体験談かな」
ちょっぴり恥ずかしいけどね、とブルーは肩を竦めた。
「あんまり言いたくないんだけれど」と、恥ずかしそうに。
「ほほう…。何かやらかしかんだな、その様子だと」
是非とも聞かせて欲しいモンだ、とハーレイは片目を瞑る。
「お前の失敗談を聞けるチャンスは、貴重だしな」と。
「そうかもね…。おまけに数学の話なんだよ、コレ」
この前、家で復習してて…、とブルーは話し始めた。
「あのね、問題を解き始めた時は、よかったんだよ」
「ふむふむ、それで?」
何処で失敗しちまったんだ、とハーレイは興味津々。
ブルーの方は「だから…」と言い淀みつつも、こう言った。
「最後に答えを出したら、なんだか変な数字で…」
「変だって?」
「そう! 学校で解いた時には、綺麗だったのに…」
ズラズラ続いて終わらないわけ、とブルーは溜息をつく。
「小数点の後に、ズラリと数字なんだよ」と。
「ほう…。数字の行列が終わってくれなかった、と…」
「うん。こんな答えじゃなかったよね、って見てみたら…」
ノートの答えは、キッチリ綺麗だったわけ、と零れる苦笑。
「何処かで計算を間違えたんだよ、多分」
「なるほど、ありそうな話だな」
「でしょ? だから何度も解き直したのに…」
何度やっても、全部おんなじ、とブルーは両手を広げた。
いわゆる「お手上げ」、そういうポーズで。
「流石に頭が痛くなって来て、もう降参で…」
一休みしてホットミルクを飲みに下まで、とブルーは笑う。
「だって、どうにもならないしね?」と同意を求める顔で。
「そりゃまあ、なあ…。ミルクで解き方、閃いたのか?」
休んだ効果はどうだったんだ、とハーレイは身を乗り出す。
「お前のことだし、結果的には解けたんだろうが…」
「其処なんだよね…。部屋に戻っても、まだ駄目で…」
仕方ないからヤケになっちゃって、とブルーは特大の溜息。
「いっぺん、ノートをパタンと閉じちゃって…」
「放り投げたのか、ゴミ箱に?」
「そこまでは、やっていないけど…」
気分はソレかな、と嘆くブルーは、相当、苦労したらしい。
普段なら直ぐに終わる筈の復習、それが全く終わらなくて。
「ベッドにコロンと仰向けになって、ボーッとしてて…」
それから机に戻ったわけ、と説明が続く。
「でね、真っ白な紙を一枚出して、そこで一から…」
「解き直すことにしたんだな?」
「ノートの呪いにかかったかも、って思うじゃない!」
まず罫線から逃げなくちゃ、という気持ちは、よくわかる。
ブルーがノートを捨てなかっただけでも、上等だろう。
「白紙の効果はあったのか?」
ノートの呪いは無事に解けたか、とハーレイは訊いた。
仕切り直しをしたのだったら、呪いは其処で解けたろう。
「バッチリと…。白紙に問題、書き直したら…」
「どうなった?」
「三つ目の数字を、ぼくが書き写し間違えてたんだよ!」
答えが変になる筈だよね、とブルーは嘆くのだけれど…。
「お前、そいつは、うっかりミスっていうヤツで…」
「まさか、そうだなんて思わないじゃない!」
でも、痛烈に思い知ったんだよね、と話は最初に繋がった。
仕切り直すのは大切なことで、一事が万事、と。
「確かになあ…。まあ、料理だとそうはいかんが…」
塩と砂糖を間違えてもな、とハーレイも失敗談で応じる。
「肉も野菜も、切って煮込んじまった後なんかだと…」
「仕切り直しは出来ないね…」
もう材料も残ってないし、とブルーはクスクス笑った。
「ハーレイだって、やっちゃうんだ?」と。
「たまにはな。だが、料理以外なら、仕切り直すぞ」
俺だって、とハーレイは苦笑いしつつ、体験談を披露する。
「どうも妙だな、と思った書類は最初から作り直すとか」
学生時代ならレポートとかも、と自分が仕切り直した話を。
ブルーは楽しそうに体験談に聞き入り、笑顔になった。
「やっぱり、仕切り直すってことは大切だよね?」
「もちろんだ。お前も、その経験を次にだな…」
ちゃんと活かしていかんとな、とハーレイは大きく頷く。
「しくじった時は、潔く仕切り直すってヤツが一番だ」と。
「でしょ? だったら、一緒に仕切り直さない?」
「何だって?」
一緒にとは、とハーレイは首を傾げて尋ねた。
「ティータイムを仕切り直すのか?」
紅茶をコーヒーに換えるとか、と紅茶のポットを指差す。
「違うよ、ぼくたちの関係だってば! 最初から!」
出会ったトコから仕切り直しで、とブルーは笑んだ。
「まず、再会のキスを交わして、そこから!」
「馬鹿野郎!」
誰が、とハーレイは銀色の頭を、拳で軽くコツンと叩いた。
「そういう仕切り直しは要らん!」と、ブルーを睨んで。
「今の関係で正解なんだ」と、「チビのくせに」と…。
仕切り直すのは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 仕切り直すって…」
大切って、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
「なんだ、いきなりどうしたんだ?」
「えっとね…。ぼくの体験談かな」
ちょっぴり恥ずかしいけどね、とブルーは肩を竦めた。
「あんまり言いたくないんだけれど」と、恥ずかしそうに。
「ほほう…。何かやらかしかんだな、その様子だと」
是非とも聞かせて欲しいモンだ、とハーレイは片目を瞑る。
「お前の失敗談を聞けるチャンスは、貴重だしな」と。
「そうかもね…。おまけに数学の話なんだよ、コレ」
この前、家で復習してて…、とブルーは話し始めた。
「あのね、問題を解き始めた時は、よかったんだよ」
「ふむふむ、それで?」
何処で失敗しちまったんだ、とハーレイは興味津々。
ブルーの方は「だから…」と言い淀みつつも、こう言った。
「最後に答えを出したら、なんだか変な数字で…」
「変だって?」
「そう! 学校で解いた時には、綺麗だったのに…」
ズラズラ続いて終わらないわけ、とブルーは溜息をつく。
「小数点の後に、ズラリと数字なんだよ」と。
「ほう…。数字の行列が終わってくれなかった、と…」
「うん。こんな答えじゃなかったよね、って見てみたら…」
ノートの答えは、キッチリ綺麗だったわけ、と零れる苦笑。
「何処かで計算を間違えたんだよ、多分」
「なるほど、ありそうな話だな」
「でしょ? だから何度も解き直したのに…」
何度やっても、全部おんなじ、とブルーは両手を広げた。
いわゆる「お手上げ」、そういうポーズで。
「流石に頭が痛くなって来て、もう降参で…」
一休みしてホットミルクを飲みに下まで、とブルーは笑う。
「だって、どうにもならないしね?」と同意を求める顔で。
「そりゃまあ、なあ…。ミルクで解き方、閃いたのか?」
休んだ効果はどうだったんだ、とハーレイは身を乗り出す。
「お前のことだし、結果的には解けたんだろうが…」
「其処なんだよね…。部屋に戻っても、まだ駄目で…」
仕方ないからヤケになっちゃって、とブルーは特大の溜息。
「いっぺん、ノートをパタンと閉じちゃって…」
「放り投げたのか、ゴミ箱に?」
「そこまでは、やっていないけど…」
気分はソレかな、と嘆くブルーは、相当、苦労したらしい。
普段なら直ぐに終わる筈の復習、それが全く終わらなくて。
「ベッドにコロンと仰向けになって、ボーッとしてて…」
それから机に戻ったわけ、と説明が続く。
「でね、真っ白な紙を一枚出して、そこで一から…」
「解き直すことにしたんだな?」
「ノートの呪いにかかったかも、って思うじゃない!」
まず罫線から逃げなくちゃ、という気持ちは、よくわかる。
ブルーがノートを捨てなかっただけでも、上等だろう。
「白紙の効果はあったのか?」
ノートの呪いは無事に解けたか、とハーレイは訊いた。
仕切り直しをしたのだったら、呪いは其処で解けたろう。
「バッチリと…。白紙に問題、書き直したら…」
「どうなった?」
「三つ目の数字を、ぼくが書き写し間違えてたんだよ!」
答えが変になる筈だよね、とブルーは嘆くのだけれど…。
「お前、そいつは、うっかりミスっていうヤツで…」
「まさか、そうだなんて思わないじゃない!」
でも、痛烈に思い知ったんだよね、と話は最初に繋がった。
仕切り直すのは大切なことで、一事が万事、と。
「確かになあ…。まあ、料理だとそうはいかんが…」
塩と砂糖を間違えてもな、とハーレイも失敗談で応じる。
「肉も野菜も、切って煮込んじまった後なんかだと…」
「仕切り直しは出来ないね…」
もう材料も残ってないし、とブルーはクスクス笑った。
「ハーレイだって、やっちゃうんだ?」と。
「たまにはな。だが、料理以外なら、仕切り直すぞ」
俺だって、とハーレイは苦笑いしつつ、体験談を披露する。
「どうも妙だな、と思った書類は最初から作り直すとか」
学生時代ならレポートとかも、と自分が仕切り直した話を。
ブルーは楽しそうに体験談に聞き入り、笑顔になった。
「やっぱり、仕切り直すってことは大切だよね?」
「もちろんだ。お前も、その経験を次にだな…」
ちゃんと活かしていかんとな、とハーレイは大きく頷く。
「しくじった時は、潔く仕切り直すってヤツが一番だ」と。
「でしょ? だったら、一緒に仕切り直さない?」
「何だって?」
一緒にとは、とハーレイは首を傾げて尋ねた。
「ティータイムを仕切り直すのか?」
紅茶をコーヒーに換えるとか、と紅茶のポットを指差す。
「違うよ、ぼくたちの関係だってば! 最初から!」
出会ったトコから仕切り直しで、とブルーは笑んだ。
「まず、再会のキスを交わして、そこから!」
「馬鹿野郎!」
誰が、とハーレイは銀色の頭を、拳で軽くコツンと叩いた。
「そういう仕切り直しは要らん!」と、ブルーを睨んで。
「今の関係で正解なんだ」と、「チビのくせに」と…。
仕切り直すのは・了
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(ハーレイの授業で、居眠りだなんて…)
信じられない、と小さなブルーは赤い瞳を瞬かせた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日はハーレイの授業があった。
その最中に、居眠りを始めた生徒が一人。
ハーレイは直ぐに気付いたらしくて、授業を雑談に切り替えた。
(途端に、その子も目を覚ましちゃって…)
興味津々に聞き始めたから、ハーレイは苦笑を浮かべながらも話し続けた。
「いいか、この話の肝はだな…」と、皆の関心を引くように。
眠気が綺麗に消し飛ぶように、授業に無理なく戻れる工夫も織り込んで。
(ぼくも楽しく聞いていたけど、あれが丸ごと授業でも…)
居眠りなんかしないよね、と本当に不思議で堪らない。
古典の授業は退屈な部分もあるだろうけれど、どうして居眠り出来るのか。
ハーレイが教壇に立っているのに、コックリと船を漕げるのか。
(…寝てた生徒も、ハーレイ先生のことが大好きで…)
昼休みに食堂で見掛けたりしたら、積極的に話し掛けている。
なのに授業は別だとばかりに、よく居眠りをしてもいるから分からない。
(ぼくなら、絶対、寝ないんだけど…!)
ハーレイの前で居眠るなんて、と「自分はやらない」自信がある。
現に居眠りしてはいないし、眠いと思ったことさえも無い。
(…だけどハーレイ、前のハーレイの頃とは違うよね…)
目の前で居眠りされてしまうのが普通だなんて、と可笑しくなった。
遠く遥かな時の彼方では、ハーレイの前で居眠る者など、ただの一人も…。
(いなかったっけ…)
そもそも、いたら大変だけど、と白い箱舟に思いを馳せる。
ミュウの仲間たちを乗せていた船は、常に緊張の中にいたと言っていいだろう。
アルテメシアの雲海に隠れて飛んでいた時も、アルテメシアを離れた後も。
(ナスカの時代は、ぼくは眠っていたけれど…)
唯一、平和な時代だったとも聞くのだけれども、それでも油断は出来なかった。
「ナスカ」はミュウが名付けた名前で、人類の世界では別の名がある星だったから。
(…テラフォーミングを諦めた星でも、近くを飛ぶ船はゼロじゃないから…)
そういった船に見付からないよう、警戒を怠ってはならない。
地上に降りた仲間はともかく、船に残った者は注意が必要だった。
ナスカに接近する船はいないか、離れた場所でも飛んでいる船はいないのか、と。
白いシャングリラのキャプテンだったのが、前のハーレイ。
船の心臓とも言えるブリッジで、いつだって指揮を執っていた。
アルテメシアの雲海の中でも、平和なナスカで仲間が暮らしていた時も。
(たまにはナスカに降りたりもしたし、アルテメシアでも、部屋に戻っている時も…)
あったのだけれど、居場所は主にブリッジだったし、其処で居眠るような仲間は…。
(いるわけない、って…)
居眠りしたら大変だもの、とブリッジクルーの仕事を数えてみる。
船の制御はもちろんのこと、レーダーなどの担当もいた。
誰か一人でも欠けようものなら、たちまち回らなくなる部署でもあった。
(暇な時だと、人数が少なかったりしたけど…)
それでも最低限のクルーは必須で、彼らに居眠りは許されなかった。
レーダー担当が居眠りをすれば、人類軍の船が近付いていても気付けない。
機関部担当の者にしたって、居眠っている間に、エンジンに不調が起きたなら…。
(咄嗟に対応出来なくなるから、下手をしちゃうと航行不能に陥って…)
どうなってしまうか分からないのだし、居眠りするなど言語道断。
ブリッジクルーは、自分の持ち場の担当中には、けして居眠りしてはならない。
そこで眠ってしまうほどなら、最初から持ち場に入りはせずに…。
(今日は体調が優れないので休みたい、って…)
申告したなら、代わりの者が担当になって仕事をしていた。
ブリッジクルーは欠けてはならず、居眠りすることも許されないから。
(前のハーレイは、ブリッジを纏めるキャプテンなんだし…)
ブリッジでハーレイが目にしていたのは、キビキビと働く者だけだった。
誰も居眠りしてはいなくて、自分の仕事をこなし続ける。
勤務時間の終わりが来るまで、真剣に。
次の担当者と交代になる時間が来るまで、居眠りしないで起きているのが仕事でもあった。
(休憩時間は、あったんだけどね…)
長時間の緊張は心身に良い影響を与えはしないし、休憩時間は設けられていた。
ノルディが指示した通りの時間に、皆にコーヒーなどが配られ、リフレッシュ。
(でも、それ以外は、ずっと起きてて…)
仕事なのだし、前のハーレイの前で居眠る者は無かった。
今の時代は毎日のように、誰か眠っているけれど。
「生徒の集中力が切れて来た時は、雑談が一番いい」と、ハーレイが技を編み出すほどに。
なんとも愉快な時代ではある。
前のハーレイとは全く逆に、居眠りされてしまうのが普通な「今のハーレイ」がいるなんて。
古典の教師になったハーレイは、居眠る生徒を目にする職に就いたとも言える。
居眠りをするのが生徒の常で、どの授業にも一人くらいはいると言ってもいいだろう。
(ぼくは居眠ったりはしないし…)
授業中に眠気が襲って来たなら、それは体調を崩す前兆。
急いで手を挙げ、保健室に行くか、早退したいと申し出るしか道は無い。
(でないと、授業の真っ最中に…)
居眠る代わりに意識を失くして、大勢に迷惑がかかってしまう。
授業は中断、教師は「ブルー」に駆け寄って介抱、生徒の誰かが保健室に走ることになる。
そうなるよりかは、自発的に保健室に向かうか、早退するか、最初から欠席の道を選ぶか。
(…今日は気分が悪くなりそう、って思ったら…)
学校を休むことだってあるし、前はそうする日も多かった。
けれど今では、ちょっと事情が変わってしまって…。
(…倒れちゃうかも、って思っていても…)
無理をして起きて制服に着替えて、路線バスに乗って学校を目指す。
何故なら、その日は古典の授業があって、ハーレイに会える筈だから。
ハーレイの授業を聞くことが出来て、顔も見られる「とても素敵な」大当たりの日。
(…だから欲張って、学校に行って…)
倒れたことも一度や二度では無いというのが、今だった。
とはいえ、やはり「ハーレイの授業で居眠りする」のは「絶対、しない」し有り得ない。
それくらいなら、授業の真っ最中に…。
(手を挙げて、保健室だってば!)
運が良ければ、帰りはハーレイが車で送ってくれるだろう。
「ブルーが保健室に行く」のを、ハーレイは「その目で見た」わけなのだし、可能性はある。
後の予定が入っていないなら、きっと保健室まで来てくれる。
「家まで送って行ってやるから」と、優しい笑顔で。
あくまで教師の貌だけれども、それはちっとも構わない。
(車に乗ったら、後は普段のハーレイで…)
敬語で話す必要も無くて、家まで楽しく帰ってゆける。
具合は悪いままにしたって、気分の方は最高で。
「ハーレイの車に乗ってるんだ」と、もう御機嫌で外を眺めて。
だから絶対しないんだ、と「居眠り」については断言出来る。
居眠る代わりに倒れはしても、居眠りだけは「絶対に無い」と、自信を持って。
(うん、絶対に…)
ホントのホントにしないんだから、と笑みを浮かべて頷いた。
「ぼくは居眠ったりはしないよ」と、「居眠りなんて、絶対しない」と。
どう間違えても、今日も寝ていた生徒みたいに、ハッと目覚めはしないだろう。
退屈だった古典の授業が、別の話に切り替わったと気付いて、飛び起きるのが居眠る生徒。
ハーレイの雑談は評判だから、聞き逃すのは損でしかない。
(だから急いで聞かないと、って…)
居眠り中の生徒も起きて、膝を乗り出しそうなくらいに聞き入っている。
どんな愉快な話が聞けるか、あるいは誰かに披露したくなる知識が増えるのか、と。
(雑談も、うんと楽しいんだけど…)
ハーレイの授業はどうでもよくって、雑談だけって酷いよね、と苦笑しか出ない。
これが自分なら、そんな真似などしないのに。
ちゃんと授業も真面目に聞いて、雑談はオマケで、デザートみたいなものなのに。
(そうなんだけどな…)
ハーレイの話が切り替わった途端に起きるなんて、と失礼な生徒を思い出す。
「あれは酷いよ」と、「ぼくなら、しない」と軽く頭を振って。
(そんな失礼なことって、ある?)
つまらないから聞いていませんでした、と言わんばかりの生徒の態度。
自分だったら、ハーレイの話に興味が無くても、きちんと聞いているだろう。
どれほど退屈な中身だろうと、居眠りなんかは絶対にしない。
(退屈な古典のお話っていうのは、あるんだけどね…)
ハーレイの授業じゃなくって題材の方、と思いはしても、寝る気など無い。
頑張って起きているんだから、と思ったはずみに、脳裏を掠めていった考え。
「本当に?」と。
「今はそうでも、この先も?」と、誰かが心の中で尋ねた。
これから先も、ずっと居眠りしないのか、と意地悪な声が聞こえて来る。
今の学校を卒業しても、ハーレイと暮らし始めた後も、と。
(えーっと…?)
ハーレイと結婚した後は…、と思考を未来に向けてみた。
二人で一緒に暮らし始めたら、ハーレイは仕事に出掛けてゆく。
今と同じに古典の教師で、柔道部などの指導もするから、帰りが遅い日だってある。
(…他の先生と食事に行く日も、きっとあるから…)
そういう時には、家で帰りを待つしかない。
本を読んだり、部屋の掃除をしたりしている間に、頑張りすぎることもあるだろう。
自分では夢中で気付かなくても、脳や身体が「疲れてしまう」という現象。
(…疲れちゃったら、生欠伸が出て…)
それでようやく「疲れている」と分かるけれども、もう遅い。
すっかり疲れた脳や身体が、「眠い」と訴え掛けて来る。
まだハーレイは戻らないのに、「もう眠いから、ベッドに行こう」と。
(…眠くなったから、鍵を掛けて先に寝ちゃっても…)
ハーレイは怒ったりはしないで、鍵を開けて静かに入ると思う。
「寝ているブルー」を起こさないよう、足音を忍ばせ、物音だって立てないように…。
(うんと注意して、キッチンで何か飲んだりもして…)
それからお風呂で、寝るのは別の部屋かもしれない。
「ベッドに行ったら、ブルーを起こしちまうからな」と、ソファで寝るだとか。
(…うんとありそう…)
ハーレイだしね、と容易に想像出来るから、「先に寝る」のは我慢したい。
仕事をして来たハーレイに悪いし、申し訳ない気持ちしかしない。
(先に寝ちゃって、その上、ハーレイに色々と気を遣わせちゃって…)
それは駄目だよ、と自分の頭をポカンと叩いて、「起きていなきゃ」と気合を入れた。
まだ、その時は「来ていない」けれど、「先に寝ちゃ駄目」と、未来の自分に。
ハーレイが遅くなった時でも、頑張って起きて、帰りを待っていなくては。
帰って来たハーレイに、してあげられることは「ろくに無い」けれど。
せいぜい、上着をハンガーに…。
(掛けるくらいで、他にはなんにも…)
出来そうになくて、逆にハーレイが「やってくれそう」な感じ。
「何か飲むか?」と、キッチンでコーヒーを淹れながら。
「遅くまで待ってて疲れただろう」と、「この時間だと、ホットミルクか?」などと。
(ホットミルクにシナモンとマヌカを入れて、セキ・レイ・シロエ風とか…)
ハーレイが作ってくれそうではある。
自分だけコーヒーを飲んでいたのでは、話が弾まないだろう、と。
そうやって始めた、夜も更けてからのティータイム。
ハーレイはコーヒー、自分はホットミルクにしたって、お茶の時間には違いない。
ダイニングか、リビングか、何処かで二人で過ごすのだけれど…。
(ぼくはすっかり疲れちゃってて、生欠伸で…)
ハーレイの声が遠くに聞こえ始めて、頭がガクンと落ちてしまって…。
(せっかくハーレイが楽しい話をしてくれてたのに、聞いていないで…)
居眠りして船を漕いでしまうかも、と「とんでもない予感」に震え上がった。
チビの自分は「居眠りなんかはしない」けれども、未来の自分は「やっちゃいそう」と。
(…居眠りしてても、ハーレイだったら…)
きっと許してくれるだろうし、「すまん」と謝ってくれるのだろう。
「気が付かないで悪かった」と、「遅くなっちまったし、お前も眠かったよな」と。
(でもって、抱っこしてくれて…)
ベッドに運んでくれそうだから、未来は安泰そうではある。
ハーレイの帰りが遅くなった日に、ウッカリ居眠りしてしまっても。
話の途中で船を漕いでも、話を聞かずに居眠っていても…。
居眠りしてても・了
※ハーレイ先生の授業で居眠る生徒が信じられない、ブルー君。「ぼくは、しない」と。
けれど一緒に暮らし始めたら、居眠ってしまうかも。でも、きっと許して貰えるのですv
信じられない、と小さなブルーは赤い瞳を瞬かせた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日はハーレイの授業があった。
その最中に、居眠りを始めた生徒が一人。
ハーレイは直ぐに気付いたらしくて、授業を雑談に切り替えた。
(途端に、その子も目を覚ましちゃって…)
興味津々に聞き始めたから、ハーレイは苦笑を浮かべながらも話し続けた。
「いいか、この話の肝はだな…」と、皆の関心を引くように。
眠気が綺麗に消し飛ぶように、授業に無理なく戻れる工夫も織り込んで。
(ぼくも楽しく聞いていたけど、あれが丸ごと授業でも…)
居眠りなんかしないよね、と本当に不思議で堪らない。
古典の授業は退屈な部分もあるだろうけれど、どうして居眠り出来るのか。
ハーレイが教壇に立っているのに、コックリと船を漕げるのか。
(…寝てた生徒も、ハーレイ先生のことが大好きで…)
昼休みに食堂で見掛けたりしたら、積極的に話し掛けている。
なのに授業は別だとばかりに、よく居眠りをしてもいるから分からない。
(ぼくなら、絶対、寝ないんだけど…!)
ハーレイの前で居眠るなんて、と「自分はやらない」自信がある。
現に居眠りしてはいないし、眠いと思ったことさえも無い。
(…だけどハーレイ、前のハーレイの頃とは違うよね…)
目の前で居眠りされてしまうのが普通だなんて、と可笑しくなった。
遠く遥かな時の彼方では、ハーレイの前で居眠る者など、ただの一人も…。
(いなかったっけ…)
そもそも、いたら大変だけど、と白い箱舟に思いを馳せる。
ミュウの仲間たちを乗せていた船は、常に緊張の中にいたと言っていいだろう。
アルテメシアの雲海に隠れて飛んでいた時も、アルテメシアを離れた後も。
(ナスカの時代は、ぼくは眠っていたけれど…)
唯一、平和な時代だったとも聞くのだけれども、それでも油断は出来なかった。
「ナスカ」はミュウが名付けた名前で、人類の世界では別の名がある星だったから。
(…テラフォーミングを諦めた星でも、近くを飛ぶ船はゼロじゃないから…)
そういった船に見付からないよう、警戒を怠ってはならない。
地上に降りた仲間はともかく、船に残った者は注意が必要だった。
ナスカに接近する船はいないか、離れた場所でも飛んでいる船はいないのか、と。
白いシャングリラのキャプテンだったのが、前のハーレイ。
船の心臓とも言えるブリッジで、いつだって指揮を執っていた。
アルテメシアの雲海の中でも、平和なナスカで仲間が暮らしていた時も。
(たまにはナスカに降りたりもしたし、アルテメシアでも、部屋に戻っている時も…)
あったのだけれど、居場所は主にブリッジだったし、其処で居眠るような仲間は…。
(いるわけない、って…)
居眠りしたら大変だもの、とブリッジクルーの仕事を数えてみる。
船の制御はもちろんのこと、レーダーなどの担当もいた。
誰か一人でも欠けようものなら、たちまち回らなくなる部署でもあった。
(暇な時だと、人数が少なかったりしたけど…)
それでも最低限のクルーは必須で、彼らに居眠りは許されなかった。
レーダー担当が居眠りをすれば、人類軍の船が近付いていても気付けない。
機関部担当の者にしたって、居眠っている間に、エンジンに不調が起きたなら…。
(咄嗟に対応出来なくなるから、下手をしちゃうと航行不能に陥って…)
どうなってしまうか分からないのだし、居眠りするなど言語道断。
ブリッジクルーは、自分の持ち場の担当中には、けして居眠りしてはならない。
そこで眠ってしまうほどなら、最初から持ち場に入りはせずに…。
(今日は体調が優れないので休みたい、って…)
申告したなら、代わりの者が担当になって仕事をしていた。
ブリッジクルーは欠けてはならず、居眠りすることも許されないから。
(前のハーレイは、ブリッジを纏めるキャプテンなんだし…)
ブリッジでハーレイが目にしていたのは、キビキビと働く者だけだった。
誰も居眠りしてはいなくて、自分の仕事をこなし続ける。
勤務時間の終わりが来るまで、真剣に。
次の担当者と交代になる時間が来るまで、居眠りしないで起きているのが仕事でもあった。
(休憩時間は、あったんだけどね…)
長時間の緊張は心身に良い影響を与えはしないし、休憩時間は設けられていた。
ノルディが指示した通りの時間に、皆にコーヒーなどが配られ、リフレッシュ。
(でも、それ以外は、ずっと起きてて…)
仕事なのだし、前のハーレイの前で居眠る者は無かった。
今の時代は毎日のように、誰か眠っているけれど。
「生徒の集中力が切れて来た時は、雑談が一番いい」と、ハーレイが技を編み出すほどに。
なんとも愉快な時代ではある。
前のハーレイとは全く逆に、居眠りされてしまうのが普通な「今のハーレイ」がいるなんて。
古典の教師になったハーレイは、居眠る生徒を目にする職に就いたとも言える。
居眠りをするのが生徒の常で、どの授業にも一人くらいはいると言ってもいいだろう。
(ぼくは居眠ったりはしないし…)
授業中に眠気が襲って来たなら、それは体調を崩す前兆。
急いで手を挙げ、保健室に行くか、早退したいと申し出るしか道は無い。
(でないと、授業の真っ最中に…)
居眠る代わりに意識を失くして、大勢に迷惑がかかってしまう。
授業は中断、教師は「ブルー」に駆け寄って介抱、生徒の誰かが保健室に走ることになる。
そうなるよりかは、自発的に保健室に向かうか、早退するか、最初から欠席の道を選ぶか。
(…今日は気分が悪くなりそう、って思ったら…)
学校を休むことだってあるし、前はそうする日も多かった。
けれど今では、ちょっと事情が変わってしまって…。
(…倒れちゃうかも、って思っていても…)
無理をして起きて制服に着替えて、路線バスに乗って学校を目指す。
何故なら、その日は古典の授業があって、ハーレイに会える筈だから。
ハーレイの授業を聞くことが出来て、顔も見られる「とても素敵な」大当たりの日。
(…だから欲張って、学校に行って…)
倒れたことも一度や二度では無いというのが、今だった。
とはいえ、やはり「ハーレイの授業で居眠りする」のは「絶対、しない」し有り得ない。
それくらいなら、授業の真っ最中に…。
(手を挙げて、保健室だってば!)
運が良ければ、帰りはハーレイが車で送ってくれるだろう。
「ブルーが保健室に行く」のを、ハーレイは「その目で見た」わけなのだし、可能性はある。
後の予定が入っていないなら、きっと保健室まで来てくれる。
「家まで送って行ってやるから」と、優しい笑顔で。
あくまで教師の貌だけれども、それはちっとも構わない。
(車に乗ったら、後は普段のハーレイで…)
敬語で話す必要も無くて、家まで楽しく帰ってゆける。
具合は悪いままにしたって、気分の方は最高で。
「ハーレイの車に乗ってるんだ」と、もう御機嫌で外を眺めて。
だから絶対しないんだ、と「居眠り」については断言出来る。
居眠る代わりに倒れはしても、居眠りだけは「絶対に無い」と、自信を持って。
(うん、絶対に…)
ホントのホントにしないんだから、と笑みを浮かべて頷いた。
「ぼくは居眠ったりはしないよ」と、「居眠りなんて、絶対しない」と。
どう間違えても、今日も寝ていた生徒みたいに、ハッと目覚めはしないだろう。
退屈だった古典の授業が、別の話に切り替わったと気付いて、飛び起きるのが居眠る生徒。
ハーレイの雑談は評判だから、聞き逃すのは損でしかない。
(だから急いで聞かないと、って…)
居眠り中の生徒も起きて、膝を乗り出しそうなくらいに聞き入っている。
どんな愉快な話が聞けるか、あるいは誰かに披露したくなる知識が増えるのか、と。
(雑談も、うんと楽しいんだけど…)
ハーレイの授業はどうでもよくって、雑談だけって酷いよね、と苦笑しか出ない。
これが自分なら、そんな真似などしないのに。
ちゃんと授業も真面目に聞いて、雑談はオマケで、デザートみたいなものなのに。
(そうなんだけどな…)
ハーレイの話が切り替わった途端に起きるなんて、と失礼な生徒を思い出す。
「あれは酷いよ」と、「ぼくなら、しない」と軽く頭を振って。
(そんな失礼なことって、ある?)
つまらないから聞いていませんでした、と言わんばかりの生徒の態度。
自分だったら、ハーレイの話に興味が無くても、きちんと聞いているだろう。
どれほど退屈な中身だろうと、居眠りなんかは絶対にしない。
(退屈な古典のお話っていうのは、あるんだけどね…)
ハーレイの授業じゃなくって題材の方、と思いはしても、寝る気など無い。
頑張って起きているんだから、と思ったはずみに、脳裏を掠めていった考え。
「本当に?」と。
「今はそうでも、この先も?」と、誰かが心の中で尋ねた。
これから先も、ずっと居眠りしないのか、と意地悪な声が聞こえて来る。
今の学校を卒業しても、ハーレイと暮らし始めた後も、と。
(えーっと…?)
ハーレイと結婚した後は…、と思考を未来に向けてみた。
二人で一緒に暮らし始めたら、ハーレイは仕事に出掛けてゆく。
今と同じに古典の教師で、柔道部などの指導もするから、帰りが遅い日だってある。
(…他の先生と食事に行く日も、きっとあるから…)
そういう時には、家で帰りを待つしかない。
本を読んだり、部屋の掃除をしたりしている間に、頑張りすぎることもあるだろう。
自分では夢中で気付かなくても、脳や身体が「疲れてしまう」という現象。
(…疲れちゃったら、生欠伸が出て…)
それでようやく「疲れている」と分かるけれども、もう遅い。
すっかり疲れた脳や身体が、「眠い」と訴え掛けて来る。
まだハーレイは戻らないのに、「もう眠いから、ベッドに行こう」と。
(…眠くなったから、鍵を掛けて先に寝ちゃっても…)
ハーレイは怒ったりはしないで、鍵を開けて静かに入ると思う。
「寝ているブルー」を起こさないよう、足音を忍ばせ、物音だって立てないように…。
(うんと注意して、キッチンで何か飲んだりもして…)
それからお風呂で、寝るのは別の部屋かもしれない。
「ベッドに行ったら、ブルーを起こしちまうからな」と、ソファで寝るだとか。
(…うんとありそう…)
ハーレイだしね、と容易に想像出来るから、「先に寝る」のは我慢したい。
仕事をして来たハーレイに悪いし、申し訳ない気持ちしかしない。
(先に寝ちゃって、その上、ハーレイに色々と気を遣わせちゃって…)
それは駄目だよ、と自分の頭をポカンと叩いて、「起きていなきゃ」と気合を入れた。
まだ、その時は「来ていない」けれど、「先に寝ちゃ駄目」と、未来の自分に。
ハーレイが遅くなった時でも、頑張って起きて、帰りを待っていなくては。
帰って来たハーレイに、してあげられることは「ろくに無い」けれど。
せいぜい、上着をハンガーに…。
(掛けるくらいで、他にはなんにも…)
出来そうになくて、逆にハーレイが「やってくれそう」な感じ。
「何か飲むか?」と、キッチンでコーヒーを淹れながら。
「遅くまで待ってて疲れただろう」と、「この時間だと、ホットミルクか?」などと。
(ホットミルクにシナモンとマヌカを入れて、セキ・レイ・シロエ風とか…)
ハーレイが作ってくれそうではある。
自分だけコーヒーを飲んでいたのでは、話が弾まないだろう、と。
そうやって始めた、夜も更けてからのティータイム。
ハーレイはコーヒー、自分はホットミルクにしたって、お茶の時間には違いない。
ダイニングか、リビングか、何処かで二人で過ごすのだけれど…。
(ぼくはすっかり疲れちゃってて、生欠伸で…)
ハーレイの声が遠くに聞こえ始めて、頭がガクンと落ちてしまって…。
(せっかくハーレイが楽しい話をしてくれてたのに、聞いていないで…)
居眠りして船を漕いでしまうかも、と「とんでもない予感」に震え上がった。
チビの自分は「居眠りなんかはしない」けれども、未来の自分は「やっちゃいそう」と。
(…居眠りしてても、ハーレイだったら…)
きっと許してくれるだろうし、「すまん」と謝ってくれるのだろう。
「気が付かないで悪かった」と、「遅くなっちまったし、お前も眠かったよな」と。
(でもって、抱っこしてくれて…)
ベッドに運んでくれそうだから、未来は安泰そうではある。
ハーレイの帰りが遅くなった日に、ウッカリ居眠りしてしまっても。
話の途中で船を漕いでも、話を聞かずに居眠っていても…。
居眠りしてても・了
※ハーレイ先生の授業で居眠る生徒が信じられない、ブルー君。「ぼくは、しない」と。
けれど一緒に暮らし始めたら、居眠ってしまうかも。でも、きっと許して貰えるのですv
(…居眠りなあ…)
しちまう気持ちは分かるんだがな、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(あいつらくらいの年の頃だと…)
無理も無いんだ、と今日、教室で寝ていた生徒の数を数えてみた。
普段より多くも少なくもなくて、平均といった所だろうか。
生徒が居眠りし始めた時は、雑談をして気分を切り替えてやる。
眠いままで授業を聞いているより、目が覚めた方が断然いい。
(少々、授業が脱線したって、効率的ってモンなんだ)
それにしても…、と居眠りしていた生徒の姿には、呆れ半分、同情半分。
涎が垂れそうな顔で寝るなど、どれだけ寛いでいるのだろうか。
(学校はホテルじゃなくてだな…)
教室も寝るための場所ではないが、と思いはしても、生徒の気持ちも良く分かる。
彼らくらいの年だった頃に、自分も通って来た道だから。
(寝てやろう、っていうつもりじゃなくても、ふと気付いたら…)
頭がガクンと落ちる瞬間とか、机の上に突っ伏していたとか、前科はあった。
夜更かしをしたわけではなくても、つい気が緩んで居眠ってしまう。
(…安心し切っているんだろうなあ…)
教師に知れたら叱られはしても、命の危険があるわけではない。
授業のポイントを聞き逃していても、成績が落ちてしまうというだけ。
(成績が落ちても、死にやしないし…)
ある意味、安心、安全な場所か、と可笑しくなった。
教室という場所は、居眠りに向いているらしい。
教師が居眠りに気付いた時には、「其処のヤツ!」と叱られるリスクがあっても。
叱られるだけでは済まされなくて、宿題を増やされる危機とセットでも。
(世の中、平和な証拠だってな)
今ならではだ、と感慨深いものがある。
前の自分が生きた時代には、授業中の居眠りは、即、将来に影響があった。
成績が落ちれば、成人検査の時に考慮され、一般人向けのコースに送られてしまう。
そうならなくても、「授業を聞かずに、居眠りをした」ことは記録に残る。
(成績には特に問題なくても、居眠りが多い生徒だと…)
SD体制の社会の中では、お世辞にも褒められた人材ではない。
指示や決まりに従えないのは、機械にとってはマイナスなわけで、高い評価は得られない。
せっかく成績がいいというのに、一般人向けのコースに送られ、出世の道は其処で終わった。
今とは違った価値観の世界は、機械が全てを決めていたから。
SD体制が無くなった今は、居眠りをしても問題は無い。
自分が責任を負わされるだけで、その責任も、昔とは比較にならないレベル。
(成績が落ちても、挽回のチャンスは幾らでもあって…)
教師の覚えが目出度くなくても、人生がメチャメチャになったりはしない。
せいぜい、成績表に書かれて、家で両親に大目玉を食らう程度だろう。
「居眠りが多いのは、寝ていないからだ」と、叱られ、夜更かし禁止を言い渡される。
あるいは漫画や趣味の道具を、全部、取り上げらるとか。
(そんなトコだな、それで一度は懲りていたって、ほとぼりが冷めたら…)
また居眠りをしちまうんだ、とクックッと笑いが漏れて来る。
「まったく平和な時代だよな」と、「前の俺たちの時代だったら、そうはいかんぞ」と。
ついでに言うなら、成人検査に落ちてしまって、弾き出された前の自分でも…。
(居眠りなんぞ、とても無理だったんだ)
俺が居眠ってしまったら最後、みんなが死んじまうんだから…、と白い箱舟の姿が蘇る。
あの船でキャプテンが居眠ったならば、文字通り、おしまいだったろう。
人類軍に位置を突き止められて、爆撃されて、落とされてしまう。
まして戦闘の真っ最中なら、居眠りをした、ほんの一瞬に…。
(人類軍の攻撃を読み切れなくて、直撃を受けて…)
致命的な箇所をやられて、船は沈んでしまっただろう。
メインエンジンが被弾するとか、ワープドライブをやられて逃亡不能になるとか。
(そうなったら、何もかもが終わりで…)
ミュウの未来も消えて無くなるから、居眠りすることは許されなかった。
もっとも、居眠りしたい気持ちになれる場所ではなかったけれど。
ブリッジという部署も、舵を握っていた持ち場にしても。
(今の時代の、うんと平和な教室とは事情が違い過ぎて、だ…)
毎日が戦場だったんだよな、と今にして思えば、懐かしいような気持ちでもある。
あの時代とは無縁な世界に生まれ変わって、生きているからこそだろう。
(お蔭で、大人になった今でも…)
たまに居眠りしちまうんだ、と頭を掻いた。
立派な大人の自分だけれども、居眠りと無縁だとは言えない。
研修に出掛けて疲れた時や、柔道部の大会などで緊張が長く続いた後だと…。
(ついつい、ウッカリ…)
寝ちまう時があるもんだ、と自覚はある。
家に帰ってからならまだしも、研修だの、大会だのの帰りの交通機関の中で寝てしまう。
ハッと気付けば、「寝てしまっていた」自分がいる。
ほんの数秒、あるいは数分、コックリと船を漕いでしまって、目覚めたばかりの今の自分が。
(安心して寝られる時代だからこそ、寝ちまうんだよなあ…)
シャングリラの頃とは違うモンだから、と自分で自分に言い訳をしてみたくなる。
前の自分が見ていたならば、「弛んでるぞ!」と叱られそうだから。
「研修と言えば、仕事の延長だろう」と、「帰り道でも仕事の内だ」と、厳しい口調で。
柔道部の大会からの帰りとなったら、もっと険しい表情で怒鳴るかもしれない。
「生徒を引率している時に、居眠りするなど許されないぞ!」と、眉間に皺を刻んで。
(……うーむ……)
全くもって仰せの通り、と前の自分に詫びる自分が目に浮かぶ。
反論出来る余地などは無いし、正しいことを言っているのは、明らかに前の自分だから。
(…もうペコペコと、バッタみたいに…)
頭を下げて下げまくるしか…、と冷汗が流れて来そうだけれど、前のブルーならどうだろう。
前の自分と同じ理屈で叱られるのか、逆に許してくれるのか。
(…あいつなら、きっと…)
許してくれる方だよなあ、と考えるまでもなく答えが出て来る。
前のブルーも、厳しい面は確かにあった。
「キャプテンが居眠りをした」となったら、けして許しはしなかったろう。
いくら恋人同士であっても、一番古い付き合いの友達同士としても。
(それとこれとは話が別だ、と…)
ソルジャーの貌で、鋭い瞳で、問い詰めて来たに違いない。
「どうして居眠りなどをしたのか」と、「居眠りが何を招くか、知っているのか」と。
(本当に怒った時のブルーは…)
手心を加えはしなかったから、どれほど詰られ、皆の前で吊し上げられたろうか。
キャプテンだけに、船の仲間たち全員に知られるほどではなくても、長老たちには…。
(取り囲まれて、あいつらの前で、ブルーに叱り飛ばされて…)
詫びの言葉も出ないくらいに、ひたすら頭を下げ続けるしか道は無かったと思えて来る。
実際には、そういう局面は無くて、前の自分は、無事に職務を全うしてから死んだけれども。
(…生きてる間は、一度も居眠りしちゃいないんだ…)
前のあいつがいなくなってしまった後も、と自信があるから、「今なら」許されると思う。
平和な時代に生まれ変わった「ハーレイ」が、ウッカリ居眠りをしても。
研修の帰りや、生徒を連れての大会の帰りの交通機関で、コックリと船を漕いだとしても。
(そうだな、前のあいつなら…)
あの穏やかな笑みを湛えて、「いいと思うよ」と言ってくれるだろう。
「今の君は、居眠りが出来る場所にいるから、それでいいんだ」と。
「居眠りしてるのを生徒が見たって、笑われるか、悪戯されるかだしね」と可笑しそうに。
そう、ブルーならば、きっと許してくれる。
「前のハーレイ」が生きた世界が、どれほど厳しい環境だったか、知っているから。
ブルーも同じ世界で暮らして、その恐ろしい時代の終わりを、見ないで散っていったから。
(…前の俺なら、今の俺にも厳しそうだが、ブルーなら…)
本当に笑って許してくれるな、と思ったはずみに、気が付いた。
前のブルーなら、今の自分が居眠りしても…。
(間違いなく許してくれそうなんだが、今のあいつは、どうなんだ?)
今のブルーの方だと、どうだ、とチビの恋人を頭に描いた。
十四歳にしかならないブルーは、まだ子供だから、笑って許してくれそうではある。
「ハーレイでも居眠りしちゃうんだね」と、大発見をした子供みたいに、はしゃぎもして。
けれども、前と同じ姿に育って、一緒に暮らし始めた後のブルーだと…。
(研修の帰りとか、柔道部の大会の帰り道なら…)
居眠りを許してくれるとしても、それ以外の時が問題だった。
二人で暮らし始めたからには、この家で、ブルーの前でウッカリ…。
(居眠るってことも、まるで無いとは…)
言い切れないぞ、と背中が冷たくなる。
「安心出来る環境にいると」、人は居眠りをしてしまうもの。
授業中の生徒がそうなるように、生命の危険を感じていないと、眠りの淵に落っこちる。
「寝たらマズイぞ」と分かっていたって、「マズイ」のレベルが違うから。
居眠りしても死にはしなくて、せいぜい叱られるだけなのだから。
(…現にだ、今の俺だって、たまに…)
書斎やリビングで、ふと気付いたら居眠っていた、ということがある。
さほど疲れていない時でも、「家に帰って」気が緩んだから起きる現象で、寛ぎの証拠。
(ということは、今のあいつの目の前でだって…)
居眠りしちまいそうなんだが…、と未来の自分の姿を思った。
仕事から帰って、ブルーと二人で夕食を食べて、コーヒーを淹れて…。
(あいつと一緒にソファに座って、のんびりしている時にだな…)
ついウッカリと居眠りをして、ブルーが何か話し掛けようとしたら、返事は無くて…。
(代わりにコックリ、コックリと…)
船を漕いでいる「ハーレイ」を、今のブルーが見ることになる。
そうなった時に、ブルーは許してくれるのか。
それとも前の自分みたいに、「ハーレイ」を叱り飛ばすのか。
(居眠りしても、許してくれると思いたいんだが…)
機嫌が悪いと怒るかもな、という気がするから、今のブルーと今の時代は難しい。
安心して居眠り出来る代わりに、平和な時代に生まれたブルーは、我儘だから。
「酷いよ、ぼくの前で居眠りなんて!」と、本気で怒り出しそうだから…。
居眠りしても・了
※今のハーレイは、居眠りしても許される人生。キャプテンだった頃とは違うのです。
けれど、今のブルーの前で居眠りをしたら、どうなるか。ブルー君、怒り出しそうですよねv
しちまう気持ちは分かるんだがな、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(あいつらくらいの年の頃だと…)
無理も無いんだ、と今日、教室で寝ていた生徒の数を数えてみた。
普段より多くも少なくもなくて、平均といった所だろうか。
生徒が居眠りし始めた時は、雑談をして気分を切り替えてやる。
眠いままで授業を聞いているより、目が覚めた方が断然いい。
(少々、授業が脱線したって、効率的ってモンなんだ)
それにしても…、と居眠りしていた生徒の姿には、呆れ半分、同情半分。
涎が垂れそうな顔で寝るなど、どれだけ寛いでいるのだろうか。
(学校はホテルじゃなくてだな…)
教室も寝るための場所ではないが、と思いはしても、生徒の気持ちも良く分かる。
彼らくらいの年だった頃に、自分も通って来た道だから。
(寝てやろう、っていうつもりじゃなくても、ふと気付いたら…)
頭がガクンと落ちる瞬間とか、机の上に突っ伏していたとか、前科はあった。
夜更かしをしたわけではなくても、つい気が緩んで居眠ってしまう。
(…安心し切っているんだろうなあ…)
教師に知れたら叱られはしても、命の危険があるわけではない。
授業のポイントを聞き逃していても、成績が落ちてしまうというだけ。
(成績が落ちても、死にやしないし…)
ある意味、安心、安全な場所か、と可笑しくなった。
教室という場所は、居眠りに向いているらしい。
教師が居眠りに気付いた時には、「其処のヤツ!」と叱られるリスクがあっても。
叱られるだけでは済まされなくて、宿題を増やされる危機とセットでも。
(世の中、平和な証拠だってな)
今ならではだ、と感慨深いものがある。
前の自分が生きた時代には、授業中の居眠りは、即、将来に影響があった。
成績が落ちれば、成人検査の時に考慮され、一般人向けのコースに送られてしまう。
そうならなくても、「授業を聞かずに、居眠りをした」ことは記録に残る。
(成績には特に問題なくても、居眠りが多い生徒だと…)
SD体制の社会の中では、お世辞にも褒められた人材ではない。
指示や決まりに従えないのは、機械にとってはマイナスなわけで、高い評価は得られない。
せっかく成績がいいというのに、一般人向けのコースに送られ、出世の道は其処で終わった。
今とは違った価値観の世界は、機械が全てを決めていたから。
SD体制が無くなった今は、居眠りをしても問題は無い。
自分が責任を負わされるだけで、その責任も、昔とは比較にならないレベル。
(成績が落ちても、挽回のチャンスは幾らでもあって…)
教師の覚えが目出度くなくても、人生がメチャメチャになったりはしない。
せいぜい、成績表に書かれて、家で両親に大目玉を食らう程度だろう。
「居眠りが多いのは、寝ていないからだ」と、叱られ、夜更かし禁止を言い渡される。
あるいは漫画や趣味の道具を、全部、取り上げらるとか。
(そんなトコだな、それで一度は懲りていたって、ほとぼりが冷めたら…)
また居眠りをしちまうんだ、とクックッと笑いが漏れて来る。
「まったく平和な時代だよな」と、「前の俺たちの時代だったら、そうはいかんぞ」と。
ついでに言うなら、成人検査に落ちてしまって、弾き出された前の自分でも…。
(居眠りなんぞ、とても無理だったんだ)
俺が居眠ってしまったら最後、みんなが死んじまうんだから…、と白い箱舟の姿が蘇る。
あの船でキャプテンが居眠ったならば、文字通り、おしまいだったろう。
人類軍に位置を突き止められて、爆撃されて、落とされてしまう。
まして戦闘の真っ最中なら、居眠りをした、ほんの一瞬に…。
(人類軍の攻撃を読み切れなくて、直撃を受けて…)
致命的な箇所をやられて、船は沈んでしまっただろう。
メインエンジンが被弾するとか、ワープドライブをやられて逃亡不能になるとか。
(そうなったら、何もかもが終わりで…)
ミュウの未来も消えて無くなるから、居眠りすることは許されなかった。
もっとも、居眠りしたい気持ちになれる場所ではなかったけれど。
ブリッジという部署も、舵を握っていた持ち場にしても。
(今の時代の、うんと平和な教室とは事情が違い過ぎて、だ…)
毎日が戦場だったんだよな、と今にして思えば、懐かしいような気持ちでもある。
あの時代とは無縁な世界に生まれ変わって、生きているからこそだろう。
(お蔭で、大人になった今でも…)
たまに居眠りしちまうんだ、と頭を掻いた。
立派な大人の自分だけれども、居眠りと無縁だとは言えない。
研修に出掛けて疲れた時や、柔道部の大会などで緊張が長く続いた後だと…。
(ついつい、ウッカリ…)
寝ちまう時があるもんだ、と自覚はある。
家に帰ってからならまだしも、研修だの、大会だのの帰りの交通機関の中で寝てしまう。
ハッと気付けば、「寝てしまっていた」自分がいる。
ほんの数秒、あるいは数分、コックリと船を漕いでしまって、目覚めたばかりの今の自分が。
(安心して寝られる時代だからこそ、寝ちまうんだよなあ…)
シャングリラの頃とは違うモンだから、と自分で自分に言い訳をしてみたくなる。
前の自分が見ていたならば、「弛んでるぞ!」と叱られそうだから。
「研修と言えば、仕事の延長だろう」と、「帰り道でも仕事の内だ」と、厳しい口調で。
柔道部の大会からの帰りとなったら、もっと険しい表情で怒鳴るかもしれない。
「生徒を引率している時に、居眠りするなど許されないぞ!」と、眉間に皺を刻んで。
(……うーむ……)
全くもって仰せの通り、と前の自分に詫びる自分が目に浮かぶ。
反論出来る余地などは無いし、正しいことを言っているのは、明らかに前の自分だから。
(…もうペコペコと、バッタみたいに…)
頭を下げて下げまくるしか…、と冷汗が流れて来そうだけれど、前のブルーならどうだろう。
前の自分と同じ理屈で叱られるのか、逆に許してくれるのか。
(…あいつなら、きっと…)
許してくれる方だよなあ、と考えるまでもなく答えが出て来る。
前のブルーも、厳しい面は確かにあった。
「キャプテンが居眠りをした」となったら、けして許しはしなかったろう。
いくら恋人同士であっても、一番古い付き合いの友達同士としても。
(それとこれとは話が別だ、と…)
ソルジャーの貌で、鋭い瞳で、問い詰めて来たに違いない。
「どうして居眠りなどをしたのか」と、「居眠りが何を招くか、知っているのか」と。
(本当に怒った時のブルーは…)
手心を加えはしなかったから、どれほど詰られ、皆の前で吊し上げられたろうか。
キャプテンだけに、船の仲間たち全員に知られるほどではなくても、長老たちには…。
(取り囲まれて、あいつらの前で、ブルーに叱り飛ばされて…)
詫びの言葉も出ないくらいに、ひたすら頭を下げ続けるしか道は無かったと思えて来る。
実際には、そういう局面は無くて、前の自分は、無事に職務を全うしてから死んだけれども。
(…生きてる間は、一度も居眠りしちゃいないんだ…)
前のあいつがいなくなってしまった後も、と自信があるから、「今なら」許されると思う。
平和な時代に生まれ変わった「ハーレイ」が、ウッカリ居眠りをしても。
研修の帰りや、生徒を連れての大会の帰りの交通機関で、コックリと船を漕いだとしても。
(そうだな、前のあいつなら…)
あの穏やかな笑みを湛えて、「いいと思うよ」と言ってくれるだろう。
「今の君は、居眠りが出来る場所にいるから、それでいいんだ」と。
「居眠りしてるのを生徒が見たって、笑われるか、悪戯されるかだしね」と可笑しそうに。
そう、ブルーならば、きっと許してくれる。
「前のハーレイ」が生きた世界が、どれほど厳しい環境だったか、知っているから。
ブルーも同じ世界で暮らして、その恐ろしい時代の終わりを、見ないで散っていったから。
(…前の俺なら、今の俺にも厳しそうだが、ブルーなら…)
本当に笑って許してくれるな、と思ったはずみに、気が付いた。
前のブルーなら、今の自分が居眠りしても…。
(間違いなく許してくれそうなんだが、今のあいつは、どうなんだ?)
今のブルーの方だと、どうだ、とチビの恋人を頭に描いた。
十四歳にしかならないブルーは、まだ子供だから、笑って許してくれそうではある。
「ハーレイでも居眠りしちゃうんだね」と、大発見をした子供みたいに、はしゃぎもして。
けれども、前と同じ姿に育って、一緒に暮らし始めた後のブルーだと…。
(研修の帰りとか、柔道部の大会の帰り道なら…)
居眠りを許してくれるとしても、それ以外の時が問題だった。
二人で暮らし始めたからには、この家で、ブルーの前でウッカリ…。
(居眠るってことも、まるで無いとは…)
言い切れないぞ、と背中が冷たくなる。
「安心出来る環境にいると」、人は居眠りをしてしまうもの。
授業中の生徒がそうなるように、生命の危険を感じていないと、眠りの淵に落っこちる。
「寝たらマズイぞ」と分かっていたって、「マズイ」のレベルが違うから。
居眠りしても死にはしなくて、せいぜい叱られるだけなのだから。
(…現にだ、今の俺だって、たまに…)
書斎やリビングで、ふと気付いたら居眠っていた、ということがある。
さほど疲れていない時でも、「家に帰って」気が緩んだから起きる現象で、寛ぎの証拠。
(ということは、今のあいつの目の前でだって…)
居眠りしちまいそうなんだが…、と未来の自分の姿を思った。
仕事から帰って、ブルーと二人で夕食を食べて、コーヒーを淹れて…。
(あいつと一緒にソファに座って、のんびりしている時にだな…)
ついウッカリと居眠りをして、ブルーが何か話し掛けようとしたら、返事は無くて…。
(代わりにコックリ、コックリと…)
船を漕いでいる「ハーレイ」を、今のブルーが見ることになる。
そうなった時に、ブルーは許してくれるのか。
それとも前の自分みたいに、「ハーレイ」を叱り飛ばすのか。
(居眠りしても、許してくれると思いたいんだが…)
機嫌が悪いと怒るかもな、という気がするから、今のブルーと今の時代は難しい。
安心して居眠り出来る代わりに、平和な時代に生まれたブルーは、我儘だから。
「酷いよ、ぼくの前で居眠りなんて!」と、本気で怒り出しそうだから…。
居眠りしても・了
※今のハーレイは、居眠りしても許される人生。キャプテンだった頃とは違うのです。
けれど、今のブルーの前で居眠りをしたら、どうなるか。ブルー君、怒り出しそうですよねv
「ねえ、ハーレイ。傷の手当ては…」
早めにするのがいいんだよね、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「傷だって? どうかしたのか?」
ささくれでも剥けてしまったのか、とハーレイは慌てた。
今日は朝から来ているくせに、まるで気付いていなかった。
ブルーが怪我をしていたなんて。
手当てはそれこそ早めが肝心、急いで対処しなくては。
だから椅子から立ち上がったけれど、直ぐに座り直した。
ブルーが笑って「そうじゃないよ」と答えたから。
ささくれなんか出来てないし、とブルーはクスクス笑った。
今現在の話ではなくて、思い出話というものらしい。
白いシャングリラの頃には、医療スタッフが何人もいた
入院設備も立派に整い、二十四時間、治療が出来た。
けれども、改造する前の船は、医務室が存在していただけ。
二十四時間、いつでも対応するのは、とても難しかった。
「だけど、ノルディは頑張ってたでしょ?」
「そうだな、怪我も病気も、早い間に手当てしておけば…」
長引かないで治るものだし、とハーレイは大きく頷く。
白いシャングリラになってからでも、皆に何度も注意した。
「いいか、早めに医務室に行って来るんだぞ」と。
病気はともかく、怪我の方は軽視されがちだった。
「このくらい、後で薬を塗ればいいさ」と後回しにして。
健康な身体の者だったならば、それも選択の一つと言える。
ところが、ミュウは虚弱な者が多くて、掠り傷でも…。
(化膿しちまって、後が長引いて…)
医務室通いで、仕事の方まで滞るケースがありがちだった。
化膿してズキズキ痛む手指では、無理な仕事も少なくない。
そういった者を叱ったことなら、山ほどあった。
今となっては思い出だけれど、当時は焦ったりもした。
代わりの者が何人もいれば、さほど困りはしないのに…。
(自分の代わりがいないヤツほど、傷の手当てを…)
後回しにして、目の前の仕事をこなして、後でツケが来た。
代わりの者がいないとなったら、どうにもならない。
「怪我したヤツが休んじまって、ゼルが現場に入るとか…」
多かったよな、とハーレイが言うと、ブルーも笑い始める。
「そう、そういうの! ゼルが一番、多かったかな」
「まあなあ…。機関部は怪我をしやすい場所で…」
ついでに専門知識も要るし、と二人で散々、笑い合った。
今だからこそ笑える話で、当時は笑えなかったから。
「それでね、ハーレイ…」
やっぱり今でも、常識だよね、とブルーが尋ねる。
「傷の手当ては、早めにするのがいいんだよね」と。
「当然だよな、いくら時代が変わっても…」
人間、そうそう変わらないぞ、とハーレイは返した。
ミュウは丈夫になったけれども、怪我も病気も、今もある。
怪我をしたなら、早めに手当ては昔と同じに常識だった。
「ね、ハーレイもそう思うでしょ?」
だったら、手当てをしてくれない、とブルーが自分を指す。
「おい、お前、怪我をしてたのか!?」
さっき、違うと言ったくせに、とハーレイの顔が青くなる。
ブルーは我慢強い方だし、実は朝から、足の裏とか…。
(見えない所に怪我をしているのに、黙ってたとか…)
ありそうだぞ、と心臓が縮み上がってしまう。
気付かないままで話していたとは、恋人失格。
ブルーが「自分の不調を口にしない」のは、いつものこと。
前の生でもそうだったけれど、今の生でも変わらなかった。
ハーレイと一緒に過ごしたいからと、無理をする。
倒れそうなくせに登校したり、熱があるのに黙っていたり。
(今日もなのか…!)
実にマズイぞ、とハーレイはブルーに急いで聞いた。
「いったい、何処に怪我をしたんだ!?」
足の裏か、と問うと「違うよ」とブルーは首を横に振る。
「外からだと、見えない場所なんだけど…」
「腕か、それなら袖をだな…」
早く捲れ、とハーレイは椅子から立ち上がった。
とにかく傷を確認しないと、手当ては出来ない。
腕の傷にしても、背中に怪我をしていたとしても。
(傷を見てから、ブルーのお母さんに頼んで…)
救急箱を出して貰って、手当てすることになるだろう。
もっと早くに、ブルー自身が、そうしてくれれば…。
(良かったんだが、まさに機関部の連中みたいに…)
俺に会う方を優先したな、と容易に想像がついた。
怪我の手当てにかける時間より、恋人と話す時間を優先。
そうした挙句に、今頃になって痛み出したか、あるいは…。
(俺に手当てをして貰えばいい、と思ったかだな)
どちらにしても、早く手当てをしなければ。
ハーレイは、まるで動こうとしないブルーを叱った。
「早くしろ! 腕か背中か、俺は知らんが…」
悪化しちまったら大変だぞ、と傷口を見せるように急かす。
「いったい何処だ」と、「怪我を見せろ」と。
そうしたら…。
「違うよ、心の傷だってば!」
キスをくれないから、今も痛くて…、とブルーは言った。
「だから早めに手当てしてよ」と、「キスで治して」と。
(なんだって…!)
そういう魂胆だったのか、と騙された自分が情けない。
またもブルーの罠にはまって、無駄に心配してしまった。
「馬鹿野郎!」
そんな怪我なら放っておけ、とハーレイは軽く拳を握る。
銀色の頭を、コツンと叩いてやるために。
「悪化したって死にやしない」と、ブルーを睨み付けて…。
傷の手当ては・了
早めにするのがいいんだよね、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「傷だって? どうかしたのか?」
ささくれでも剥けてしまったのか、とハーレイは慌てた。
今日は朝から来ているくせに、まるで気付いていなかった。
ブルーが怪我をしていたなんて。
手当てはそれこそ早めが肝心、急いで対処しなくては。
だから椅子から立ち上がったけれど、直ぐに座り直した。
ブルーが笑って「そうじゃないよ」と答えたから。
ささくれなんか出来てないし、とブルーはクスクス笑った。
今現在の話ではなくて、思い出話というものらしい。
白いシャングリラの頃には、医療スタッフが何人もいた
入院設備も立派に整い、二十四時間、治療が出来た。
けれども、改造する前の船は、医務室が存在していただけ。
二十四時間、いつでも対応するのは、とても難しかった。
「だけど、ノルディは頑張ってたでしょ?」
「そうだな、怪我も病気も、早い間に手当てしておけば…」
長引かないで治るものだし、とハーレイは大きく頷く。
白いシャングリラになってからでも、皆に何度も注意した。
「いいか、早めに医務室に行って来るんだぞ」と。
病気はともかく、怪我の方は軽視されがちだった。
「このくらい、後で薬を塗ればいいさ」と後回しにして。
健康な身体の者だったならば、それも選択の一つと言える。
ところが、ミュウは虚弱な者が多くて、掠り傷でも…。
(化膿しちまって、後が長引いて…)
医務室通いで、仕事の方まで滞るケースがありがちだった。
化膿してズキズキ痛む手指では、無理な仕事も少なくない。
そういった者を叱ったことなら、山ほどあった。
今となっては思い出だけれど、当時は焦ったりもした。
代わりの者が何人もいれば、さほど困りはしないのに…。
(自分の代わりがいないヤツほど、傷の手当てを…)
後回しにして、目の前の仕事をこなして、後でツケが来た。
代わりの者がいないとなったら、どうにもならない。
「怪我したヤツが休んじまって、ゼルが現場に入るとか…」
多かったよな、とハーレイが言うと、ブルーも笑い始める。
「そう、そういうの! ゼルが一番、多かったかな」
「まあなあ…。機関部は怪我をしやすい場所で…」
ついでに専門知識も要るし、と二人で散々、笑い合った。
今だからこそ笑える話で、当時は笑えなかったから。
「それでね、ハーレイ…」
やっぱり今でも、常識だよね、とブルーが尋ねる。
「傷の手当ては、早めにするのがいいんだよね」と。
「当然だよな、いくら時代が変わっても…」
人間、そうそう変わらないぞ、とハーレイは返した。
ミュウは丈夫になったけれども、怪我も病気も、今もある。
怪我をしたなら、早めに手当ては昔と同じに常識だった。
「ね、ハーレイもそう思うでしょ?」
だったら、手当てをしてくれない、とブルーが自分を指す。
「おい、お前、怪我をしてたのか!?」
さっき、違うと言ったくせに、とハーレイの顔が青くなる。
ブルーは我慢強い方だし、実は朝から、足の裏とか…。
(見えない所に怪我をしているのに、黙ってたとか…)
ありそうだぞ、と心臓が縮み上がってしまう。
気付かないままで話していたとは、恋人失格。
ブルーが「自分の不調を口にしない」のは、いつものこと。
前の生でもそうだったけれど、今の生でも変わらなかった。
ハーレイと一緒に過ごしたいからと、無理をする。
倒れそうなくせに登校したり、熱があるのに黙っていたり。
(今日もなのか…!)
実にマズイぞ、とハーレイはブルーに急いで聞いた。
「いったい、何処に怪我をしたんだ!?」
足の裏か、と問うと「違うよ」とブルーは首を横に振る。
「外からだと、見えない場所なんだけど…」
「腕か、それなら袖をだな…」
早く捲れ、とハーレイは椅子から立ち上がった。
とにかく傷を確認しないと、手当ては出来ない。
腕の傷にしても、背中に怪我をしていたとしても。
(傷を見てから、ブルーのお母さんに頼んで…)
救急箱を出して貰って、手当てすることになるだろう。
もっと早くに、ブルー自身が、そうしてくれれば…。
(良かったんだが、まさに機関部の連中みたいに…)
俺に会う方を優先したな、と容易に想像がついた。
怪我の手当てにかける時間より、恋人と話す時間を優先。
そうした挙句に、今頃になって痛み出したか、あるいは…。
(俺に手当てをして貰えばいい、と思ったかだな)
どちらにしても、早く手当てをしなければ。
ハーレイは、まるで動こうとしないブルーを叱った。
「早くしろ! 腕か背中か、俺は知らんが…」
悪化しちまったら大変だぞ、と傷口を見せるように急かす。
「いったい何処だ」と、「怪我を見せろ」と。
そうしたら…。
「違うよ、心の傷だってば!」
キスをくれないから、今も痛くて…、とブルーは言った。
「だから早めに手当てしてよ」と、「キスで治して」と。
(なんだって…!)
そういう魂胆だったのか、と騙された自分が情けない。
またもブルーの罠にはまって、無駄に心配してしまった。
「馬鹿野郎!」
そんな怪我なら放っておけ、とハーレイは軽く拳を握る。
銀色の頭を、コツンと叩いてやるために。
「悪化したって死にやしない」と、ブルーを睨み付けて…。
傷の手当ては・了
(人間には、食欲の秋なんだけど…)
動物だと違うらしいよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
実りの秋は、食べ物が美味しくなる季節。
人間も食欲が増してゆくから、食欲の秋とよく言われる。
動物にとっても、秋は食べ物が多い季節で、森では木の実が食べ放題。
他にも色々、食べられるものがドッサリとあって、皆、食べるのに忙しい。
リスだとドングリを頬袋一杯に詰め、パンパンに膨らませていたりもするらしい。
(だけど、動物が秋に食べるのは…)
食欲の秋だからではなくて、冬に備えての行動だという。
冬は木の実も、他の食べ物も、手に入りにくくなる季節。
その上、寒くて、体力を消耗するのも早い。
(秋よりも栄養が沢山要るのに、食べられる物が減ってしまうから…)
飢えて困るようなことが無いよう、動物たちは秋の間に、冬の分まで食べておく。
せっせとお腹に詰め込んでいって、脂肪に変えて、身体の周りにくっつけて…。
(蓄えておくらしいよね?)
だから真ん丸、と冬に見掛ける鳥たちの姿を頭に描いた。
羽根を膨らませているせいもあるけれど、皮下脂肪も丸くなる理由の一つ。
他の動物でも、冬場は皮下脂肪を増やして、毛皮も厚い冬毛になる。
(そうするためには、うんと沢山、食べないと…)
動物の秋は大変だよね、と思うけれども、もっと大変な動物も存在している。
食べて蓄えて、冬の間は眠って過ごす種族だったら…。
(…寝てる間は食べられない分まで、食べておかなきゃならなくて…)
美味しいだとか、不味いだとかは、言っていられないことだろう。
少々固くて味が悪くても、見付けた食べ物は片っ端から、胃袋に送り込むしかない。
でないと、後で自分が困る。
食べ物が何も無い冬の最中に、パッチリと目が覚めてしまって。
「お腹が空いた」と外に出たって、寒い風が吹いて、雪が降っているだけ。
(何か無いかな、って歩き回っても…)
残り少ない脂肪と体力が減ってゆくだけで、食べ物は手に入らない。
運が悪いと、そのまま死んでしまいかねない。
食べ物が何も見付からなくて、巣穴に戻る力もすっかり無くなって。
巣穴で深く眠っていたなら、凍死することは無いのだけれども、外の世界は条件が違う。
疲れ果てて眠ってしまったが最後、雪に埋もれて冷える一方、いずれ凍ってしまうのだから。
秋の恵みに命が懸かった、冬眠をする種族たち。
彼らに「食欲の秋」などと言ったら、怒って牙を剥くかもしれない。
「人間なんかに分かるもんか」と、「こっちは命が懸かってるんだ」と、食べながら。
「邪魔をしないで、お前の食べ物もこっちに寄越せ」と、ウーウー唸って。
(…そうなっちゃうかも…)
彼らは本当に命が懸かっているわけなのだし、食欲の秋などと寝言は言えない。
不味い物でも食べて、食べまくって、冬の眠りに備えるための戦いの季節。
(人間なんかに分かるもんか、っていうのも、本当…)
人間は冬眠しないもんね、と部屋を見回す。
寒い冬でも、人間の世界には暖房などがある上、食べ物にだって困らない。
貯蔵するための施設もあるし、冬でも収穫出来るものなら、幾らでもある。
(冬野菜もあるし、冬しか獲れない種類の魚も…)
あるんだもの、と指を折ってみて、「人間で良かった」とホッとする。
秋に必死に食べなくてもいいし、冬に飢え死にすることもない。
だから人間は冬眠しないし、その必要も無いのだけれど…。
(…そういえば…)
前のぼく、冬眠しちゃったっけ、とハタと気付いた。
自分では自覚が無かったけれども、まさに「冬眠」だったという。
身体の機能を極限まで落とし、食べ物も水も要らない状態になって、深く眠って眠り続けて…。
(……十五年間も……)
眠っていたのが前の自分で、傍から見たなら、冬眠以外の何物でもない。
自分自身では、「眠っていた」だけのつもりでも。
眠くなったから、ほんのちょっぴり、眠るだけの気で眠り始めていても。
(…そのせいで、前のハーレイは…)
とても寂しい思いをさせられ、長い歳月を過ごしたらしい。
何度、青の間を訪ねて行っても、「ブルー」は目覚めなかったから。
話し掛けても、手を握っても、反応は何も返って来ない。
思念さえも少しも揺らぎはしないで、「前のブルー」は眠り続けた。
ハーレイが待っていることも知らずに、ただ昏々と。
(でもって、やっと目を覚ましたら…)
アッと言う間にメギドへと飛んで行ってしまって、二度と戻って来なかった。
前のハーレイの心を思うと、申し訳ない気持ちになる。
十五年間も眠り続けた挙句に、この世から消えてしまったなんて。
ハーレイを独りぼっちで残して、自分だけ「いなくなった」だなんて。
(…でも、ぼくだって…)
ハーレイの温もりを落としてしまって、泣きじゃくりながら死ぬ羽目になった。
「だから、おあいこ」と、自分に向かって言い訳をする。
「ぼくだって、悲しかったんだから」と、「罰が当たったって言うんだよね」と。
(…ホントに、おあいこ…)
ぼくを責めないで欲しいんだけど、と思うけれども、ハーレイの気持ちはどうだろう。
まさか、仕返しをされたりは…。
(……しないよね……?)
第一、人間は冬眠なんかはしないんだから、と言い切れないのは、今ので分かった。
前の自分が「やった」以上は、ハーレイだって「やる」かもしれない。
(…でも、あればかりは、やろうとしたって…)
出来やしないし、大丈夫、と考えたけれど、本当に「出来ない」のだろうか。
自分の意思では無理だとしても、何か切っ掛けがあったなら…。
(ハーレイだって、冬眠しちゃうかも…)
まさか、まさかね…、と「前の自分」を思い返す内に、頭の中に浮かんだこと。
前の自分が長く冬眠していた理由は、サイオンを温存しておくためだったらしい。
「いつか必要とされる時」が来るまで、深く眠って寿命を延ばした。
そして目覚めて、残ったサイオンを全て使って、ミュウの仲間を守ったのだから…。
(ハーレイだって、それと似たようなことになったら…)
冬眠するかも、と考えてみると、そうなりそうな切っ掛けは…。
(…ぼくの命の危機だよね?)
何処かから転がり落ちるとか…、と連想したのは、青いケシの咲く山だった。
前のハーレイと約束していて、今のハーレイとも約束したのが、其処へ行くこと。
高い山にだけ咲いているという、青いケシの花を二人で見に行く。
(もちろん、二人きりで見に行きたいから…)
山岳ガイドを雇っていても、何処かに待たせておくだろう。
「此処からは二人で行ってくるから」と、恋人同士の時間の邪魔をされないように。
そうして二人で登って行って、青いケシの花を眺めて、写真も撮って…。
(摘んじゃ駄目だろうし、あちこち歩いて、あっちにも、って…)
青いケシを見に夢中で歩く間に、ウッカリと足を滑らせたなら…。
(今のぼくだと、止まれなくって、転がって行って…)
目も眩むような崖から放り出されて、それでも止まることは出来ない。
サイオンが不器用になってしまった身体は、多分、ギリギリの所でしか…。
(…命を守るために、目覚めはしなくって…)
ハーレイの耳に、「ブルーの悲鳴」が届くことになる。
急な斜面を転がり落ちてゆく、恐ろしい光景とセットになって。
ハーレイが「それ」を目にしたならば、取る行動は「一つだけ」だと思う。
咄嗟に自分も飛び出して行って、「ブルー」の命を守ること。
(ハーレイは、タイプ・グリーンだから…)
瞬間移動で助けに行くのは不可能だけれど、そちらにも実は「前例」があった。
ミュウの時代になった今でも、たった一つだと言われているケース。
(…ジョナ・マツカ…)
前の自分が生きた時代に、キース・アニアンに仕えたミュウ。
彼は本当はミュウだったのに、ミュウの側に逃げては来なかった。
代わりに最後までキースを守って、人類の船で死んでいったのだけれど…。
(前のぼくがメギドで、キースを巻き添えに死のうとした時…)
寸前でマツカが飛び込んで来て、キースを抱えて瞬間移動で飛び去った。
それが唯一の例なのだけれど、今のハーレイなら、やりかねない。
「ブルー!」と叫んで、瞬間移動で追い掛けて来て、落っこちてゆく「ブルー」を捕まえる。
崖からポーンと放り出された所へ、パッと現れて。
「ブルー」を抱き締め、タイプ・グリーンのサイオンで包んで、一緒に下まで落っこちて…。
(防御能力だと、タイプ・グリーンは最強だから…)
何千メートルも落っこちたって、二人とも、傷一つ無いだろう。
ついでに衝撃も全く無くて、緑色のサイオンを纏ったハーレイが微笑み掛ける。
「怪我はないか?」と、優しい声で。
「肝が冷えたぞ」と、「お前が無事で良かったよな」と、嬉しそうに。
(ぼくも、「ごめんね」って謝って…)
山の上に置き去りにされたガイドから、「大丈夫でしたか!?」と思念が届く。
それにハーレイが「ああ、大丈夫だ」と笑顔で返して、後は二人で…。
(先に降りるね、って思念で連絡するんだけれど…)
そうした直後に、ハーレイが「ふああ…」と、大きな欠伸。
「安心したら、眠くなっちまった」と、頭を掻きながら。
「ちょっぴり昼寝をしてっていいか?」と、「直ぐに起きるさ」と。
(そりゃ、そんなサイオンを使ったら…)
眠くなるのも当然だから、止めはしないし、駄目とも言わない。
ハーレイは「じゃあ、少しだけな」と地面に転がり、じきに寝息が聞こえて来る。
穏やかなハーレイの寝顔を見ながら、「ホントにごめんね」と何度も心で謝り続ける。
それでも幸せ一杯な気分、その内にガイドの連絡を受けて、山荘の人たちもやって来て…。
(ベッドでゆっくり寝て頂きましょう、って…)
二人で泊まっていた山荘まで、ハーレイを車で運んでくれる。
朝、出発した部屋に戻って、ハーレイが目を覚ますのを待つのだけれど…。
(夜になっても、ハーレイ、起きてくれなくて…)
ホントに疲れちゃったんだよね、と申し訳なく思いながらも、自分もベッドに潜り込む。
明日の朝には、ハーレイもきっと起きるだろうし、寝坊をしたら悪いから。
(だってハーレイ、いつも早起き…)
先に起きて待っていなくっちゃ、と勇んで寝たのに、崖から落ちたショックで寝過ごす。
目が覚めた時は、朝日どころか、とっくに昼になっていて…。
(いけない、ってベッドから飛び起きて…)
ハーレイの「空になったベッド」を目にする筈が、ハーレイは「まだ夢の中」。
いつもだったら、「なんだ、今頃、起きたのか?」と言われそうなのに。
「俺は朝飯、食っちまったぞ」と可笑しそうな顔で、「もう昼飯の時間じゃないか」と。
(お昼になっても起きられないほど、サイオン、使っちゃったんだ、って…)
ホントにごめん、と心で謝り、言葉にも出して謝ってから、一人で食事に出掛けてゆく。
「ハーレイの分も作って貰えますか」と、頼むことだって忘れない。
一人きりで遅い朝食を済ませて、作って貰った「ハーレイの分」をトレイに載せて…。
(部屋に戻って、テーブルに置いて、何か本でも読みながら…)
ハーレイが起きて来るのを待つのだけれども、食事が冷めても、ハーレイは起きない。
昼食の時間が終わっても。
「お腹、空いちゃったから、食べて来るね」と、我慢し切れずに食べに行って来ても…。
(部屋に戻ったら、ハーレイはまだ寝たままで…)
夜になっても起きて来なくて、夕食も一人で食べに出掛けて、ハーレイの分を…。
(…作り直して貰って、夜食用に、って…)
持って戻っても、やはりハーレイは眠ったまま。
次の日の朝にも起きてくれなくて、お昼になっても寝たままで…。
(流石に、ちょっと心配になって…)
山荘の人に「お医者さんを呼んで欲しいんです」と、念のために呼んで貰ったら…。
(…お医者さん、何度も首を捻って…)
「また明日、来てみます」と帰って行って、次の日に来ても同じこと。
その繰り返しが三日ほど続いて、其処で「大きな病院へ」と言われて、不安になって…。
(大きな病院で診て貰っている間、ブルブル震えて待ってたら…)
扉が開いて、出て来た医師が「大丈夫ですよ」と笑顔で診察結果を教えてくれる。
「サイオンを使い過ぎただけです」と、「冬眠みたいなものですね」と。
(その内に目が覚めるだろうから大丈夫、って言われても…!)
十五年間も冬眠されちゃったら、とゾッとするから、それだけは勘弁願いたい。
いくらハーレイの身体が無事でも、一人、待たされるのは嫌だから。
目が覚めるのを待って、待ち続けて、十五年なんて、あんまりだから…。
冬眠されちゃったら・了
※ハーレイ先生が冬眠してしまったら、と考えてしまったブルー君。前例はあるのです。
サイオンを使い過ぎたら、ハーレイ先生も冬眠状態になってしまうかも。15年間とか…v
動物だと違うらしいよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
実りの秋は、食べ物が美味しくなる季節。
人間も食欲が増してゆくから、食欲の秋とよく言われる。
動物にとっても、秋は食べ物が多い季節で、森では木の実が食べ放題。
他にも色々、食べられるものがドッサリとあって、皆、食べるのに忙しい。
リスだとドングリを頬袋一杯に詰め、パンパンに膨らませていたりもするらしい。
(だけど、動物が秋に食べるのは…)
食欲の秋だからではなくて、冬に備えての行動だという。
冬は木の実も、他の食べ物も、手に入りにくくなる季節。
その上、寒くて、体力を消耗するのも早い。
(秋よりも栄養が沢山要るのに、食べられる物が減ってしまうから…)
飢えて困るようなことが無いよう、動物たちは秋の間に、冬の分まで食べておく。
せっせとお腹に詰め込んでいって、脂肪に変えて、身体の周りにくっつけて…。
(蓄えておくらしいよね?)
だから真ん丸、と冬に見掛ける鳥たちの姿を頭に描いた。
羽根を膨らませているせいもあるけれど、皮下脂肪も丸くなる理由の一つ。
他の動物でも、冬場は皮下脂肪を増やして、毛皮も厚い冬毛になる。
(そうするためには、うんと沢山、食べないと…)
動物の秋は大変だよね、と思うけれども、もっと大変な動物も存在している。
食べて蓄えて、冬の間は眠って過ごす種族だったら…。
(…寝てる間は食べられない分まで、食べておかなきゃならなくて…)
美味しいだとか、不味いだとかは、言っていられないことだろう。
少々固くて味が悪くても、見付けた食べ物は片っ端から、胃袋に送り込むしかない。
でないと、後で自分が困る。
食べ物が何も無い冬の最中に、パッチリと目が覚めてしまって。
「お腹が空いた」と外に出たって、寒い風が吹いて、雪が降っているだけ。
(何か無いかな、って歩き回っても…)
残り少ない脂肪と体力が減ってゆくだけで、食べ物は手に入らない。
運が悪いと、そのまま死んでしまいかねない。
食べ物が何も見付からなくて、巣穴に戻る力もすっかり無くなって。
巣穴で深く眠っていたなら、凍死することは無いのだけれども、外の世界は条件が違う。
疲れ果てて眠ってしまったが最後、雪に埋もれて冷える一方、いずれ凍ってしまうのだから。
秋の恵みに命が懸かった、冬眠をする種族たち。
彼らに「食欲の秋」などと言ったら、怒って牙を剥くかもしれない。
「人間なんかに分かるもんか」と、「こっちは命が懸かってるんだ」と、食べながら。
「邪魔をしないで、お前の食べ物もこっちに寄越せ」と、ウーウー唸って。
(…そうなっちゃうかも…)
彼らは本当に命が懸かっているわけなのだし、食欲の秋などと寝言は言えない。
不味い物でも食べて、食べまくって、冬の眠りに備えるための戦いの季節。
(人間なんかに分かるもんか、っていうのも、本当…)
人間は冬眠しないもんね、と部屋を見回す。
寒い冬でも、人間の世界には暖房などがある上、食べ物にだって困らない。
貯蔵するための施設もあるし、冬でも収穫出来るものなら、幾らでもある。
(冬野菜もあるし、冬しか獲れない種類の魚も…)
あるんだもの、と指を折ってみて、「人間で良かった」とホッとする。
秋に必死に食べなくてもいいし、冬に飢え死にすることもない。
だから人間は冬眠しないし、その必要も無いのだけれど…。
(…そういえば…)
前のぼく、冬眠しちゃったっけ、とハタと気付いた。
自分では自覚が無かったけれども、まさに「冬眠」だったという。
身体の機能を極限まで落とし、食べ物も水も要らない状態になって、深く眠って眠り続けて…。
(……十五年間も……)
眠っていたのが前の自分で、傍から見たなら、冬眠以外の何物でもない。
自分自身では、「眠っていた」だけのつもりでも。
眠くなったから、ほんのちょっぴり、眠るだけの気で眠り始めていても。
(…そのせいで、前のハーレイは…)
とても寂しい思いをさせられ、長い歳月を過ごしたらしい。
何度、青の間を訪ねて行っても、「ブルー」は目覚めなかったから。
話し掛けても、手を握っても、反応は何も返って来ない。
思念さえも少しも揺らぎはしないで、「前のブルー」は眠り続けた。
ハーレイが待っていることも知らずに、ただ昏々と。
(でもって、やっと目を覚ましたら…)
アッと言う間にメギドへと飛んで行ってしまって、二度と戻って来なかった。
前のハーレイの心を思うと、申し訳ない気持ちになる。
十五年間も眠り続けた挙句に、この世から消えてしまったなんて。
ハーレイを独りぼっちで残して、自分だけ「いなくなった」だなんて。
(…でも、ぼくだって…)
ハーレイの温もりを落としてしまって、泣きじゃくりながら死ぬ羽目になった。
「だから、おあいこ」と、自分に向かって言い訳をする。
「ぼくだって、悲しかったんだから」と、「罰が当たったって言うんだよね」と。
(…ホントに、おあいこ…)
ぼくを責めないで欲しいんだけど、と思うけれども、ハーレイの気持ちはどうだろう。
まさか、仕返しをされたりは…。
(……しないよね……?)
第一、人間は冬眠なんかはしないんだから、と言い切れないのは、今ので分かった。
前の自分が「やった」以上は、ハーレイだって「やる」かもしれない。
(…でも、あればかりは、やろうとしたって…)
出来やしないし、大丈夫、と考えたけれど、本当に「出来ない」のだろうか。
自分の意思では無理だとしても、何か切っ掛けがあったなら…。
(ハーレイだって、冬眠しちゃうかも…)
まさか、まさかね…、と「前の自分」を思い返す内に、頭の中に浮かんだこと。
前の自分が長く冬眠していた理由は、サイオンを温存しておくためだったらしい。
「いつか必要とされる時」が来るまで、深く眠って寿命を延ばした。
そして目覚めて、残ったサイオンを全て使って、ミュウの仲間を守ったのだから…。
(ハーレイだって、それと似たようなことになったら…)
冬眠するかも、と考えてみると、そうなりそうな切っ掛けは…。
(…ぼくの命の危機だよね?)
何処かから転がり落ちるとか…、と連想したのは、青いケシの咲く山だった。
前のハーレイと約束していて、今のハーレイとも約束したのが、其処へ行くこと。
高い山にだけ咲いているという、青いケシの花を二人で見に行く。
(もちろん、二人きりで見に行きたいから…)
山岳ガイドを雇っていても、何処かに待たせておくだろう。
「此処からは二人で行ってくるから」と、恋人同士の時間の邪魔をされないように。
そうして二人で登って行って、青いケシの花を眺めて、写真も撮って…。
(摘んじゃ駄目だろうし、あちこち歩いて、あっちにも、って…)
青いケシを見に夢中で歩く間に、ウッカリと足を滑らせたなら…。
(今のぼくだと、止まれなくって、転がって行って…)
目も眩むような崖から放り出されて、それでも止まることは出来ない。
サイオンが不器用になってしまった身体は、多分、ギリギリの所でしか…。
(…命を守るために、目覚めはしなくって…)
ハーレイの耳に、「ブルーの悲鳴」が届くことになる。
急な斜面を転がり落ちてゆく、恐ろしい光景とセットになって。
ハーレイが「それ」を目にしたならば、取る行動は「一つだけ」だと思う。
咄嗟に自分も飛び出して行って、「ブルー」の命を守ること。
(ハーレイは、タイプ・グリーンだから…)
瞬間移動で助けに行くのは不可能だけれど、そちらにも実は「前例」があった。
ミュウの時代になった今でも、たった一つだと言われているケース。
(…ジョナ・マツカ…)
前の自分が生きた時代に、キース・アニアンに仕えたミュウ。
彼は本当はミュウだったのに、ミュウの側に逃げては来なかった。
代わりに最後までキースを守って、人類の船で死んでいったのだけれど…。
(前のぼくがメギドで、キースを巻き添えに死のうとした時…)
寸前でマツカが飛び込んで来て、キースを抱えて瞬間移動で飛び去った。
それが唯一の例なのだけれど、今のハーレイなら、やりかねない。
「ブルー!」と叫んで、瞬間移動で追い掛けて来て、落っこちてゆく「ブルー」を捕まえる。
崖からポーンと放り出された所へ、パッと現れて。
「ブルー」を抱き締め、タイプ・グリーンのサイオンで包んで、一緒に下まで落っこちて…。
(防御能力だと、タイプ・グリーンは最強だから…)
何千メートルも落っこちたって、二人とも、傷一つ無いだろう。
ついでに衝撃も全く無くて、緑色のサイオンを纏ったハーレイが微笑み掛ける。
「怪我はないか?」と、優しい声で。
「肝が冷えたぞ」と、「お前が無事で良かったよな」と、嬉しそうに。
(ぼくも、「ごめんね」って謝って…)
山の上に置き去りにされたガイドから、「大丈夫でしたか!?」と思念が届く。
それにハーレイが「ああ、大丈夫だ」と笑顔で返して、後は二人で…。
(先に降りるね、って思念で連絡するんだけれど…)
そうした直後に、ハーレイが「ふああ…」と、大きな欠伸。
「安心したら、眠くなっちまった」と、頭を掻きながら。
「ちょっぴり昼寝をしてっていいか?」と、「直ぐに起きるさ」と。
(そりゃ、そんなサイオンを使ったら…)
眠くなるのも当然だから、止めはしないし、駄目とも言わない。
ハーレイは「じゃあ、少しだけな」と地面に転がり、じきに寝息が聞こえて来る。
穏やかなハーレイの寝顔を見ながら、「ホントにごめんね」と何度も心で謝り続ける。
それでも幸せ一杯な気分、その内にガイドの連絡を受けて、山荘の人たちもやって来て…。
(ベッドでゆっくり寝て頂きましょう、って…)
二人で泊まっていた山荘まで、ハーレイを車で運んでくれる。
朝、出発した部屋に戻って、ハーレイが目を覚ますのを待つのだけれど…。
(夜になっても、ハーレイ、起きてくれなくて…)
ホントに疲れちゃったんだよね、と申し訳なく思いながらも、自分もベッドに潜り込む。
明日の朝には、ハーレイもきっと起きるだろうし、寝坊をしたら悪いから。
(だってハーレイ、いつも早起き…)
先に起きて待っていなくっちゃ、と勇んで寝たのに、崖から落ちたショックで寝過ごす。
目が覚めた時は、朝日どころか、とっくに昼になっていて…。
(いけない、ってベッドから飛び起きて…)
ハーレイの「空になったベッド」を目にする筈が、ハーレイは「まだ夢の中」。
いつもだったら、「なんだ、今頃、起きたのか?」と言われそうなのに。
「俺は朝飯、食っちまったぞ」と可笑しそうな顔で、「もう昼飯の時間じゃないか」と。
(お昼になっても起きられないほど、サイオン、使っちゃったんだ、って…)
ホントにごめん、と心で謝り、言葉にも出して謝ってから、一人で食事に出掛けてゆく。
「ハーレイの分も作って貰えますか」と、頼むことだって忘れない。
一人きりで遅い朝食を済ませて、作って貰った「ハーレイの分」をトレイに載せて…。
(部屋に戻って、テーブルに置いて、何か本でも読みながら…)
ハーレイが起きて来るのを待つのだけれども、食事が冷めても、ハーレイは起きない。
昼食の時間が終わっても。
「お腹、空いちゃったから、食べて来るね」と、我慢し切れずに食べに行って来ても…。
(部屋に戻ったら、ハーレイはまだ寝たままで…)
夜になっても起きて来なくて、夕食も一人で食べに出掛けて、ハーレイの分を…。
(…作り直して貰って、夜食用に、って…)
持って戻っても、やはりハーレイは眠ったまま。
次の日の朝にも起きてくれなくて、お昼になっても寝たままで…。
(流石に、ちょっと心配になって…)
山荘の人に「お医者さんを呼んで欲しいんです」と、念のために呼んで貰ったら…。
(…お医者さん、何度も首を捻って…)
「また明日、来てみます」と帰って行って、次の日に来ても同じこと。
その繰り返しが三日ほど続いて、其処で「大きな病院へ」と言われて、不安になって…。
(大きな病院で診て貰っている間、ブルブル震えて待ってたら…)
扉が開いて、出て来た医師が「大丈夫ですよ」と笑顔で診察結果を教えてくれる。
「サイオンを使い過ぎただけです」と、「冬眠みたいなものですね」と。
(その内に目が覚めるだろうから大丈夫、って言われても…!)
十五年間も冬眠されちゃったら、とゾッとするから、それだけは勘弁願いたい。
いくらハーレイの身体が無事でも、一人、待たされるのは嫌だから。
目が覚めるのを待って、待ち続けて、十五年なんて、あんまりだから…。
冬眠されちゃったら・了
※ハーレイ先生が冬眠してしまったら、と考えてしまったブルー君。前例はあるのです。
サイオンを使い過ぎたら、ハーレイ先生も冬眠状態になってしまうかも。15年間とか…v
