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焦がしちまったら
(…俺としたことが…)
 今日は失敗しちまったな、とハーレイが浮かべた苦笑い。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それはお馴染み。
 今夜は、他にも「お仲間」がいる。
 皿に載せて来た夜食と言うか、おやつと言うか。
(…時間的には、ちと遅いんだが…)
 食うのは俺の自由だしな、とハーレイが眺めるものは、みたらし団子。
 今日は帰りが遅かったけれど、中途半端な時間だった。
 ブルーの家に寄るには遅かっただけで、家に帰るには、さほど遅くなかった。
(…そうなるとだ…)
 少し余裕が出来てくるから、食料品店へ寄った所で、いいものを見付けた。
 出張販売に来ていた店で、みたらし団子が焼かれている。
(美味そうな匂いだったし、買って帰るか、と側に行ったら…)
 焼き上がった団子たちの隣に、半製品のが置かれていた。
 店の秘伝のタレが添えられ、団子も串に刺してある。
(…買って帰って、家で炙れば…)
 出来立ての味を再現出来るのが、売りだという。
(焼けているのを買って帰ったんでは、冷めちまうしな…)
 コレにしよう、と半製品のを買うことにした。
 家に帰れば夕食の支度などもあるし、ゆっくり味わうのならば、断然、半製品がいい。
 「一つ下さい」と注文したら、店員は親切に教えてくれた。
 焼くなら時間はこのくらい、タレも温めておくと美味しいから、と。


 そういうわけで、今夜は「みたらし団子」が皿の上にいる。
 コーヒーの友には、丁度いい。
(…美味いんだがなあ…)
 団子もタレも絶品なんだ、と頬張るけれども、悔やまれる点があるのが惜しかった。
 夕食の後に片付けをしてから、焼くことにした「みたらし団子」。
(どうせ一度に食っちまうんだし、と…)
 網に並べて焼き始めたまでは良かった。
 「このくらいかな」と火加減だって調整したし、上手く焼き上がる筈だった。
(…其処で失敗…)
 みたらし団子は、あくまで「団子」。
 魚や肉を焼くのとは違う。
 半製品でも「炙るだけ」の所まで出来ているわけで、表面が熱くなって来たなら…。
(火が通るのは、早いってな…)
 其処の所を忘れてたぞ、と我ながら情けなくなる。
 自分自身に言い訳するなら、こうだろう。
(…正月はとうに過ぎた後だし、餅を焼くようなことも無いから…)
 炙り方が、料理の方になっちまうんだ、としか言いようがない。
 「みたらし団子」は、店に並べられていた品に比べて、色黒の団子になってしまった。
 つまり「表面が焦げた」状態、真っ黒までは行っていないのが不幸中の幸い。
(…いい感じだな、と思った所で、火から離せば…)
 こんな姿にはならなかった、と焦げた団子が悲しいけれど、仕方ない。
(まあ、パリッとした皮も味わえる、とでも…)
 思っとくか、と夜食を味わう。
 固くなるほど焦げてはいないし、タレもあるから、充分、美味しい。
(…焼き上がったのを買って返って、温め直すよりは…)
 美味いんだしな、と負け惜しみをマグカップに向かって言ってみた。
 「お前さんには分けてやらんぞ」と、ニッと笑って。


 マグカップは、何も言わなかった。
 みたらし団子を寄越さない「ハーレイ」に、文句を言いはしなかったけれど…。
(…文句と言えばだな…)
 あいつなんだ、と頭に浮かんで来た、小さなブルー。
 「ハーレイ、今日は来てくれなかったよ…」と、不満だったに違いない。
 もしもブルーが、此処にいたなら…。
(焦げた団子に、文句たらたら…)
 プンスカ怒っちまっていそうだよな、とハーレイは軽く肩を竦めた。
 此処にいるのが「ブルー」だった時は、「分けてやらんぞ」と言える相手ではない。
 むしろ、みたらし団子は「ブルー」優先、ブルー用に買って来ることになっていたろう。
(…今だからこそ、俺が一人で暮らしてて…)
 好きに夜食を食べているけれど、いずれは、一人暮らしに「さよなら」を告げる。
 ブルーと一緒に暮らし始めて、食事も夜食も、ブルーと食べるわけだから…。
(今日みたいに、焦がしちまったら…)
 あいつの分も焦げるわけだ、と冷汗が出そう。
 きっとブルーは、笑って許してくれると思いはしても、自分が悲しい。
 「焦がすなんて」と、失敗したことを悔やんで、ブルーの分まで焦がしたことが悔しくて…。
(焦げた中から、マシなヤツをだ…)
 コレとコレだな、と選び出してから、ブルーに渡すのだろう。
 「すまんな、少し焦がしちまった。この辺は、少しマシだからな」と。
(…情けない上に、申し訳ない…)
 ブルーに、焦げた団子なんて、と「後悔先に立たず」を痛感させられる。
 今夜のような「少し失敗」をやらかした時は、そうなるしかない。
(…お前さんなら、何も問題無いんだがなあ…)
 お前さんも、古い馴染みなのに、と愛用のマグカップに愚痴だけれども、一方で少し嬉しい。
 ブルーが此処にいる時が来たなら、普段は、幸せ一杯だから。


 一人きりの「気ままな時間」もいい。
 みたらし団子を買って、一人で炙って、焦げたのを頬張る時間も、楽しくはある。
(とはいえ、あいつと一緒だったら…)
 毎日が、もっと充実していて、張り合いだってあることだろう。
 仕事に行くのも、家事をするのも、今よりも、ずっと。
(…そんな中でも、今夜みたいな失敗を…)
 やらかす時が来るんだよな、と「やらかす」方の自信ならある。
 ブルーと話しながら炙っている間に、焦げていたとか。
(…ありそうだぞ…)
 でもって、きっと、やっちまうんだ、と「ブルーの文句」が怖いけれども、それも今だけ。
 「ハーレイと一緒に暮らせない」から、ブルーは不満をぶつけて来る。
 何かといえば頬をプウッと膨らませては、フグみたいな顔になったりもする。
(あの頬っぺたを、両手でペシャンと…)
 潰してやって「フグが、ハコフグになっちまった」と笑い飛ばせるのも、今の間だけ。
 一緒に暮らせる時が来たなら、ブルーは、今のブルーのようにはならない。
(あいつの分まで、焦がしちまっても…)
 文句どころか、逆に謝ってくれるのだろう。
 「ごめんね、ハーレイ…。話し掛けてた、ぼくが悪いんだよ」などと、申し訳なさそうに。
(…ついでに、あいつのことだから…)
 酷く焦げた方を「ぼくが貰う」と、選び出していそう。
 「いや、大丈夫だ、俺が食うから!」と、慌てて止めに入る「自分」の姿が目に見えるよう。
 でないとブルーは、本当に「持ってゆく」だろう。
 自分用の皿に「焦げたものばかり」載せて、自分の席へと。
(…今のあいつは、まだチビだから…)
 きっと文句を言う方なんだ、と確信はしても、育ったブルーは違っていそう。
 前のブルーと「そっくり同じ」に、ハーレイのことを気遣うようになって。


(……うーむ……)
 それは喜ばしいことなんだが…、と思うけれども、文句を言って欲しくもある。
 「なんで、ハーレイ、失敗したの!?」と、焦げてしまった「みたらし団子」を見て。
 「もっと綺麗に焼けていたなら、もっと美味しく出来た筈だよ」と、未練がましく。
(…そういうブルーが、出来ちまっても…)
 俺としては、ちっともかまいやしないんだ、という気もする。
 前のブルーのように「気遣い過ぎて」、仲間たちのためにメギドまで飛んでしまうよりかは。
(…もしも、団子を焦がしちまったら…)
 文句たらたら、「ハーレイ、ウッカリしてたんじゃない?」と顔を顰めるブルーでもいい。
 酷く焦げた分を選ぶどころか、「マシなの、コレとコレだよね?」と逆の選び方。
 「ぼくはマシなの、食べておくから」と、焦げた分は全部、ハーレイに押し付けて来る。
 話し掛けて来た「ブルー」のせいで、焦げてしまった団子だろうが、遠慮しないで。
(…そうだな、下手に気遣うブルーよりかは…)
 文句なブルーの方がいいかもしれん、と大きく頷き、焦げた団子を頬張って笑む。
 「そうだ、理想は、こういうブルーかもな」と、思い付いた「ブルー」を頭に描いて。
 みたらし団子でも、他の料理でも…。
(俺がウッカリ、焦がしちまったら…)
 酷く焦げた分を選ぶわけでも、その逆でもなくて、「半分ずつがいいね」と笑顔のブルー。
 「分けて食べれば、焦げているのも、半分になるよ」と。
 「美味しい所も、焦げた所も、半分こで」と、笑ってくれる「ブルー」だといい。
 気遣いは「そのくらい」が、きっといいんだ、と心から思う。
 前のブルーのようになるより、「半分こして食べようよ」と微笑むブルーの方が、きっと…。



            焦がしちまったら・了


※みたらし団子を焦がしてしまった、ハーレイ先生。結婚した後も、やりそうなミス。
 そういう時に、ブルー君なら、どうするか。半分こを提案するブルー君だと、いいですよねv








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