(……うーん……)
やっちゃった、とブルーが眺める床の上。
ハーレイが来てくれなかった日の夜に、パジャマ姿で。
お風呂上がりにベッドにチョコンと腰掛けていたら、ふと思い立ったこと。
いつもは勉強机の引き出しに入れてある「それ」を、見てみたくなった。
下の学校で出来た何人もの友達、彼らと作った「思い出」の欠片。
旅行のお土産のキーホルダーやら、何かの記念メダルやら。
(…他の人が見たら、ガラクタだけど…)
ぼくには大事な思い出ばかり、と端から机の上に並べて。
並べないにしても、気まぐれに一つ、取り出してみては…。
(誰に貰ったヤツだったっけ、って…)
懐かしみたくて、引き出しの中から引っ張り出した。
「思い出」が詰めてある、大切な袋。
(…ポーチって言うかもしれないけれど…)
ファスナー付きの布製の袋、けれども「買った」物ではない。
「宝物入れ」を探していた時、母が何処かで貰って来たオマケ。
丁度いいサイズで、子供の目には「ピッタリ」に見えた。
(要らないんなら、ちょうだい、って…)
直ぐに貰って、早速、詰めたメダルなど。
こまごまとした物が「引き出しの中で」行方不明にならないように。
それから「使い続けた」袋。
他にも増えたし、これ一つだけではないけれど…。
(今日は、コレの気分で…)
中身を見よう、と開けようとしたら、ちょっぴり力が入りすぎた。
グイと引っ張ったファスナーの取っ手、それと一緒に…。
(……壊れちゃったよ……)
袋のファスナーそのものが。
まるで破れてしまったみたいに、パチンと弾けて。
床に散らばった「宝物」たち。
もう大慌てで拾い集めてゆくしかない。
(ファスナー、壊れちゃってるけど…)
とりあえず今は、袋の中へ。
ベッドの下なども覗き込んでは、「拾い忘れ」が無いように。
(…あんな所にも…)
落っこちてるし、とパジャマ姿で部屋をあちこち歩き回って、なんとか回収出来た「それ」。
袋の中身を指で持ち上げては、「これもあるね」と頷いたりして。
(……大失敗……)
宝物は回収出来たけれども、「宝物入れ」は壊れてしまった。
すっかり駄目になったファスナー、とても直るとは思えない。
弾けたはずみに、噛み合わせが変になったから。
何ヶ所か「歪んでしまった」それは、二度と閉まってくれたりはしない。
(…無理やり締めたら、開かなくなって…)
今度は袋がビリッと破れてしまいかねない。
それが嫌なら、ファスナーを新しく取り替えてつけるか、新しい袋を手に入れるか。
(……元がオマケの袋だから……)
新しいファスナーを買って来てまで、取り替える価値はあるのだろうか。
家に「たまたま」あるならともかく、手芸用品の店まで「買いに」出掛ける時間や手間。
(…オマケの袋…)
ファスナーの方が高いのかも、という気もする。
だったら、新しい袋を買って「入れ直す」方がいいかと言うと…。
(……中身、ガラクタ……)
自分にとっては「思い出の品」でも、他の人から見ればガラクタ。
父が見たって、母が見たって、ハーレイが見ることがあったって。
(…くれた友達が覗き込んでも…)
「くれた」ことすら、友達は忘れているかもしれない。
旅行のお土産も、メダルなんかも、気前よく配っていただけに。
何人に配って「誰に」あげたか、それさえ忘れ果ててしまって。
つまり「中身」は、「自分一人の」宝物。
わざわざ、お小遣いを使って「新しい袋」を買うよりは…。
ファスナーを買って「つけ直す」よりは、「チャンスを待った方」が良さそう。
(こういう袋が欲しいよね、って…)
思っていたなら、目に付くこともあるだろう。
また母がオマケを貰って来るとか、父が「欲しいか?」と差し出すだとか。
そうでなくても、家の中には「要らない袋」が、きっとある筈。
(…ママが仕舞っているだけで…)
「こんな感じの袋が欲しい」と言ったら、ヒョイと出て来そう。
それこそ幾つも、「どれがいいの?」と、ダイニングのテーブルの上なんかに。
「好きに選んで持って行きなさい」と、いろんな袋。
(…丁度いいのが無かったとしても…)
代わりの袋を貰っておいて、「今度、こういうのがあったら、ちょうだい」と母に注文。
見本に「駄目になった袋」を見せておいたら、母のことだから…。
(何処かで似たような袋に会ったら…)
オマケでなくても、「持って帰ってくれる」だろう。
「前にブルーが欲しがってたわ」と、お金を払って買ってでも。
(…そういうチャンスを待つのが、いいよね?)
なにしろ、相手は「ガラクタ入れ」。
元は「オマケの袋」なのだし、壊れたからには仕方ない。
(壊れちゃったら、もうコレは駄目で…)
次の出会いを期待するのが、うんと前向きな考え方。
「壊れちゃった…」と、しょげているより、「もっといいのが来てくれるよ」と。
家にある袋の中から「一つ選ぶ」にしたって、母に任せておくにしたって。
(…今より、宝物入れっぽくなるとか…)
その可能性だって、大いに有り得る。
今よりも「素敵な」袋が来たなら、中の「ガラクタ」の値打ちも上がる。
「新しい袋」になった分だけ、それが「素敵に見える」分だけ。
壊れたファスナーがくっついたままの、「元はオマケの袋」よりも、ずっと。
それがいいよね、と大きく頷く。
今夜の所は「壊れた袋」に仕舞い込んでおいて、明日になったら母に相談。
家に「ピッタリの袋」が無いか、無いようだったら「駄目になった袋」を見せもして。
(この袋は壊れちゃったけど…)
もっと素敵な袋になるなら、怪我の功名。
より素晴らしい「宝物入れ」が出来るし、クヨクヨするより、その方がいい。
「壊れちゃったよ」と嘆いていないで、「新しい出会い」を待つ方が。
きっと素敵な袋に会えるし、それが一番いい道でもある。
(壊れちゃったら、仕方ないしね…)
新しくて、うんといいのと交換、と夢を見る。
どんな袋がやって来るのか、もしかしたら、買って貰えもするかも、と。
(壊れちゃった方が、お得なのかも…)
とても素敵な袋に変わってくれるんなら、と捕らぬ狸の皮算用まで。
元はオマケの袋だったけれど、次の袋は「買って貰った袋」になるかもしれないだけに。
そう考えると、「壊れてしまう」のも悪くない。
壊れないと「新しい出会い」は無いから、きっと「壊れた」のも何かの縁。
神様が「新しい袋をあげよう」と、御褒美を下さるだとか。
(…それもいいよね…)
壊れちゃうのも素敵かも、と心が弾んだりもする。
「他にも何か壊れないかな?」と、部屋をキョロキョロ見回したりも。
わざと壊しはしないけれども、「壊れてしまった」なら新品になる。
机の上のペン立てだって、他の色々な物だって。
(……壊れちゃったら、新しくって素敵な物になるんだから…)
次に壊れるなら、何が一番嬉しいだろう、と考えた所で、不意に頭に浮かんだこと。
今日は来てくれなかったハーレイ、前の生から愛した人。
青い地球の上に生まれ変わって、また巡り会えた恋人だけれど…。
(……ハーレイとの恋が壊れちゃったら?)
どうするの、と飲んでしまった息。
ある日、ハーレイが「去って行ったら」。
恋が壊れて、ハーレイが「いなくなった」なら。
(……今のぼくだと、大丈夫だけど……)
チビの間は、流石に「捨てられる」ことは無いのだと思う。
けれども、大きくなった時には、いきなり喧嘩になるかもしれない。
子供の間は「通った」我儘、それにハーレイがカチンと来て。
「やってられるか!」と眉を吊り上げて、「俺は知らん!」と頭に来て。
二人でデートに出掛けた先で、「ハーレイだけ」帰ってしまうとか。
「後は自分で帰れるだろう!」と、車で駅やバス停に連れてゆかれて、降ろされるとか。
ハーレイの愛車は、それきり走り去ってしまって。
一人で帰ってゆく他はなくて、一人きりで家に帰った後にも…。
(…デートの誘いなんかは来なくて、知らんぷりで…)
ハーレイの家に通信を入れても、無視されてしまっておしまいだとか。
そうやって恋が壊れた時には、どうすればいいと言うのだろう。
「新しい出会い」に期待すればいいと、「ハーレイを諦めて」別の誰かを待つのだろうか。
もうハーレイは戻らないから、「新しい」誰か。
そっちの方が「いい」だろうから、「その内に、誰かと出会えるよね?」と。
(……そんなのって……)
あんまりだよ、と見開いた瞳。
壊れた袋くらいだったら、「新しい出会い」が楽しみだけれど、恋だと「違う」。
諦めることなど、とても出来なくて、みっともなくても「食い下がる」だけ。
ハーレイの家まで出掛けて行っては、「ごめんなさい!」と土下座してでも。
お許しを出して貰える時まで、門扉の前に座り込んででも。
(…恋が壊れたら、新しい出会いどころじゃないんだから…!)
壊れちゃったら、うんと大変…、と反省しながら神様に祈る。
「ハーレイのケチ!」なんて、もう言いません、と。
だから絶対、この恋は「壊れないようにして下さい」と…。
壊れちゃったら・了
※ブルー君が壊してしまった袋。新しい袋との出会いがあるよ、と楽しみでしたけど…。
ハーレイ先生との恋が壊れてしまった時には、新しい出会いよりも関係修復らしいですv