(…そういや、ウサギ…)
ウサギだっけな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎でコーヒー片手に。
(あいつ、小さかった頃はウサギに…)
なりたかったと言ってたんだ、と小さなブルーを思い浮かべる。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
まだ十四歳にしかならないブルーは、前と同じに赤い瞳で…。
(おまけに綺麗な銀髪なんだ)
その上、抜けるように真っ白な肌。
前とは違って生まれつきのアルビノ、確かにウサギのようではある。
白い毛皮に赤い瞳で、長い二本の耳を持っているウサギ。
幼かったブルーが通う幼稚園にも、そういうウサギがいたものだから…。
(今も身体が弱いあいつは…)
ウサギになりたいと思ったらしい。
いつも元気に跳ね回るウサギ、その姿がとても羨ましくて。
「ぼくもウサギになってみたいな」と、「大きくなったらウサギがいい」と描いた夢。
(将来の夢が、ウサギってのも…)
子供らしいとは思うけれども、幼いブルーは真剣そのもの。
両親にも「いつかウサギになりたい」と話して、「それは無理よ」と笑われたって。
(その内に、きっとなれるだろうと…)
夢を諦めずに、幼稚園にあったウサギの小屋を覗く日々。
ウサギと仲良くなった時には、「ウサギになれる方法」を聞けると思い込んで。
そうしてウサギの姿になれたら、元気な身体が手に入るから、と。
(お母さんたちに、飼って貰うつもりだったというのが…)
また傑作だ、と可笑しくなる。
幼かった頃のブルーの夢では、「自分の家の庭」にウサギの小屋だったから。
如何にも子供らしい夢。
「大きくなったらウサギになる」のも、「家の庭で飼って貰う」のも。
その夢は、いつの間にやら忘れてしまって、今のブルーの将来の夢は「お嫁さん」。
(俺の嫁さんになってくれるんだ…)
今度のあいつは、と顔が綻ぶ。
まだまだ先の話だけれども、ブルーを伴侶に迎えられる日。
その日は必ずやって来るから、けして「夢」ではないのだから。
(しかしだな…)
幼いブルーが描いていた夢、「将来はウサギになる」ということ。
それが叶っていたとしたなら、どんな出会いになったのだろう?
(ウサギじゃ、聖痕なんかは出なくて…)
もちろん言葉も話さない。
けれど「出会えた」自信はある。
ブルーがウサギになっていようと、あの家の庭で飼われていようと。
(きっと気ままにジョギングしてて…)
今日はこっちに行ってみるか、とブルーの家がある方へと走る。
初めて目にする景色を見ながら、タッタッと走って行ったなら…。
(家の庭にウサギ…)
青い芝生に白いウサギは、きっと目を引くことだろう。
犬や猫なら珍しくなくても、ウサギはあまり庭にはいないものだから。
(ウサギがいるぞ、と足を止めてだ…)
生垣越しに覗き込んだら、その瞬間にピンとくる。
「あれはブルーだ」と、「俺のブルーが帰って来た」と。
そしてウサギのブルーの方でも、気付いて跳ねて来るのだろう。
「ハーレイ!」と声は上げなくても。
思念波さえも届かなくても、きっとブルーは大急ぎで跳ねて来てくれる。
「やっと会えた」と、「ハーレイだよね?」と。
出会ってしまえば、多分、伝わるのだろう気持ち。
ブルーが言葉を話せなくても、思念波も持たないウサギでも。
(俺のブルーだ、って…)
生垣越しに目と目で話して、その場を離れられなくなる。
赤い瞳のウサギになっても、ブルーはブルーなのだから。
前の自分たちの記憶も戻って、「会いたかった」と溢れる想い。
ウサギのブルーを抱き締めることは出来なくても…。
(元気そうだな、と…)
生垣の隙間から手を突っ込んで、撫でてやることは出来るだろう。
ブルーの方も、精一杯に隙間から顔を出すのだろう。
「会いたかったよ」と、「ハーレイも元気そうだよね」と。
そうやってブルーを撫でていたなら、ブルーの母に出会うのだろうか。
「ウサギ、お好きですか?」と庭に出て来たりして。
「よろしかったら、お茶でもどうぞ」と門扉を開けてくれたりもして。
それが出会いで、ジョギングコースは次から必ず、そっちの方へ。
ウサギのブルーに会いに行こうと、時間がある日は足取りも軽く走って行って。
何度も通ってブルーを撫でたり、ブルーの両親とも馴染みになっていったなら…。
(ある日、お茶を御馳走になってたら…)
ブルーの母が話すのだろう。
「あの子、うちの子なんですよ」と、「元は人間だったんですの」と。
身体が弱かった一人息子で、「ウサギになりたい」と願ったブルー。
夢が叶って今はウサギで、元気一杯に跳ね回る日々。
庭にはブルーが住むための小屋もあるけれど…。
(元が人間だったもんだから、家の中にも…)
前はブルーが住んでいたという子供部屋。
ブルーの母は「可笑しいでしょう?」と笑いながらも、其処に案内してくれるだろう。
幼かったブルーの写真が幾つも飾られた部屋に。
ブルーのお気に入りだったオモチャが、今もそのまま置かれた部屋に。
(普通だったら、冗談だろうと思いそうなんだが…)
ブルーの母も「全部、冗談かもしれませんわよ?」と、コロコロと笑いそうだけど。
それでもきっと、自分なら分かる。
「嘘じゃないんだ」と、「あいつ、元々は人間の子供だったんだ」と。
弱い身体は悲しいから、とウサギになろうと夢見たブルー。
夢が叶って、今ではウサギ。
人間の言葉は失くしても。…思念波も持たない生き物でも。
(そうとなったら、俺だって…)
ブルーの側にいたくなる。
人間の姿は捨ててしまって、ウサギになって。
いつもブルーと一緒に暮らして、ウサギ同士だからウサギの言葉で話もして。
(もう絶対に、そうするってな)
今のブルーにも言ったけれども、自分も「ウサギになる」道を選ぶ。
ブルーがウサギだったなら。
真っ白で赤い瞳のウサギで、長い耳を持っているのなら。
(あいつがウサギになれたんだったら、ウサギになるための方法は…)
きっとブルーが知っているから、頑張ってそれを聞く所から。
ウサギのブルーを撫でてやりながら、「どうやるんだ?」と。
「お前、どうやってウサギになった?」と、「俺もウサギになりたいんだが」と。
首尾よく方法を聞き出せたならば、後は実行あるのみだけど。
自分もウサギになるのだけれども、その前に…。
(あいつと二人で暮らすための家…)
それを見付けて来なければ。
ブルーの家の庭で暮らしてもいいのだけれども、それはなんだか気恥ずかしい。
何も知らないブルーの両親、二人は不思議がるだろうから。
「どうしてウサギになりたいんです?」と、「立派なお仕事もお持ちなのに」と。
幼い子供だったブルーはともかく、いい年をした大人がウサギになるなんて。
前は恋人同士だったんですよ、と明かせば話は早いのだけれど。
ブルーの両親も「そういうことなら」と、ウサギ用の小屋を広げてくれそうだけれど。
(あいつのお母さんたちがいる前でだな…)
仲睦まじく暮らしていたなら、たまに恥ずかしくもなるだろう。
夜は一緒の小屋で眠って、昼間も仲がいいウサギのカップル。
一匹は白いウサギのブルーで、もう一匹は…。
(俺だから、きっと茶色のウサギだ)
茶色い毛皮に黒い瞳の、野ウサギみたいな逞しいウサギ。
白と茶色で、庭で仲良く暮らしてゆくのもいいけれど…。
(そうするよりかは、二人きりで、誰にも遠慮しないで…)
のびのびと生きてゆくのがいい。
自然の中で、ブルーと同じ巣穴に住んで。
天気がいい日は日向ぼっこで、雨の降る日や寒い日なんかは…。
(居心地のいい巣穴の中で、あいつとピッタリくっついて…)
前の生での思い出話や、人間だった頃の話に興じる。
話し疲れたら一緒に眠って、お腹が減ったら食事もして。
(そのための巣穴を作る場所を、だ…)
まずは探しに行かないと、と夢は尽きない。
「もしもあいつがウサギだったら」と、「俺もウサギになるのなら」と。
きっとウサギの日々も楽しい。
ブルーと二人で暮らす巣穴を、「此処に掘るから」とブルーに教えてやって。
「俺もこれからウサギになるぞ」と、「頑張ってデカイ家を作ろう」と。
そういうのもいいな、と幼かったブルーが描いた夢を追い掛けてみる。
「ブルーがウサギになっていたなら、俺もウサギだ」と。
「郊外にデカイ巣穴を掘るぞ」と、「家の庭より、二人きりの新居が最高だしな」と…。
ウサギだったら・了
※ブルー君が幼かった頃の「将来の夢」は、ウサギになること。元気一杯に跳ね回るウサギ。
そういうブルーに出会っていたら、と夢見るハーレイ先生。ウサギになっても、きっと幸せv
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