分厚いトーストに焼き立てのオムレツ、それにソーセージも添えて。
新鮮な野菜サラダと熱いコーヒー、いつもの朝の食卓だけれど。
お決まりのコースで、凝ったわけでもないけれど。
(…前の俺の視点で考えると、だ…)
なんとゴージャスな風景だろう、とハーレイはテーブルを見回した。
自分の家のダイニング。其処にテーブル、ありきたりな家具。
一人暮らしでもクラブの教え子を招いたりするから、テーブルは大きめ。
もっとも、大勢押し掛けて来たら、とても間に合わないけれど。
テーブルの周りにひしめき合うように、ギュウギュウ詰めになるけれど。
椅子の数だって足りはしなくて、折り畳み式のを出したりもする。
とはいえ、グルリと周りを囲みさえすれば、十人は軽くいけるテーブル。
そのテーブルを自分が一人占めの朝、好きに使ってかまわないのが朝食の席。
(こう、新聞を置いてだな…)
読みたい記事が何処にあろうが、バサリと広げて置ける新聞。
それだけのスペースは充分にあるし、テーブルは少しも狭くならない。
分厚いトーストに焼き立てのオムレツ、ソーセージまで添えた皿があっても。
野菜サラダの器を置いても、湯気を立てるコーヒーのカップを置いても、まだある余裕。
ドレッシングの瓶も鎮座しているし、もちろん塩と胡椒の瓶も。
それだけ並べて余裕たっぷり、マーマレードの大きな瓶までドカンと鎮座ましましていた。
母が作った夏ミカンの実のマーマレードの金色が詰まった大きな瓶が。
マーマレードの隣にはバター、これまた趣が違った金色。それが入った専用ケース。
これだけ置いても狭くならない、まだまだ余っているテーブル。
自分一人で使えるスペース、自由に使っていいテーブル。
それも朝食を食べるためだけに、新聞をお供に熱いコーヒーを楽しむために。
(好きに使えるというのがなあ…)
航宙日誌を書くためだとか、会議の準備をするだとか。
そういったことに使うスペースなら、前の自分も充分に持っていたけれど。
キャプテンの部屋は狭くなかったし、何の文句も無かったけれど。
(たかが朝飯…)
それだけのために大きなテーブル、それを自分が一人占め。
分厚いトーストに焼き立てのオムレツ、ソーセージにサラダにコーヒーなどで。
(…前の俺だとこうはいかんな)
そもそも自分のための朝食、それを自分で好きに作れはしなかった。
食べたいものは食べられたけれど、トーストもオムレツもあったけれども。
(その日の気分で俺が作るというわけにはなあ…)
今の自分なら、文字通りその日の気分だけれど。
目覚めたら着替えて、鼻歌交じりに冷蔵庫の中を覗いたりして、考えるけれど。
オムレツ気分で起きて来たのが、スクランブルエッグになるだとか。
ポーチドエッグに化けてしまうとか、固ゆで卵になるだとか。
それこそ自分の気分次第で、誰に遠慮も要らない朝食。その日の気分で選べる朝食。
贅沢なのだと気付いてしまった、前の自分にはゴージャスすぎると。
分厚いトーストに焼き立てのオムレツ、それにソーセージを添えて。
新鮮な野菜サラダに熱いコーヒー、ごくごく平凡な朝の食卓、いつもの風景。
けれども、それは贅沢なもの。
好きに作って食べられる上に、大きなテーブルを一人占め。
新聞の気になる紙面を見ながらコーヒーを飲んで、ソーセージなども頬張って。
前の自分には考えられない贅沢、おまけにダイニングに射し込む光。
良く晴れた朝の明るい光は、地球の太陽のものだから。
前の自分がブルーと一緒に行きたいと願った、地球の日射しが溢れているから。
(…うん、最高に贅沢だってな)
いろんな意味で、と分厚いトーストをガブリと齧った。
このトーストだって、地球の大地で育った小麦のトーストだから。
オムレツは地球で育った鶏が産み落とした卵で出来ているから。
野菜サラダの野菜ももちろん、地球の大地で育ったから。
贅沢すぎる、と頬が緩んだ。
朝一番に気付いた幸せ、最高に贅沢な朝の食卓。
こんな日はきっと、幸せが幾つも舞い込むだろう。
小さなブルーとそれを拾いたい、見付けて拾って回りたい。
今日は土曜日、ブルーと二人で過ごせる時間が待っているから。
小さなブルーの家に出掛けて、あれこれ話せる週末だから…。
贅沢な朝食・了
※ハーレイ先生の朝の食卓。ごくごく普通に食べる朝食が、贅沢なんだと気付いた瞬間。
けれど明日には忘れてそうです、今では当たり前だから。それも贅沢な話ですよねv
※本日、3月31日はブルー君のお誕生日という設定なんですが…。
その設定で書いたらショートじゃなくって正編になりそう、よって無関係!