(あったかい…)
それに気持ちいい、と頬を緩めたブルー。
右の手を握ってくれるハーレイ、両手で温めてくれるハーレイ。
今の季節は暑いけれども、窓を開ければ熱気が入って来るのだけれど。
太陽が眩しい夏だけれども、それと右手は別の問題。
前の生の最期に凍えた右手。メギドで冷たく凍えた右の手。
キースに撃たれた痛みのせいで。
弾を撃ち込まれる度に痛みで薄れて、最後には消えてしまった温もり。
ハーレイの腕から貰った温もり、「頼んだよ」と触れて思念を送った時に。
その温もりを抱いて逝こうと、最後までハーレイと一緒なのだと貰った温もり。
いつまでも覚えていたかったのに。
命が尽きるその瞬間まで、肉体が滅ぶその時まで。
ハーレイと共にと、この温もりがあれば一人ではないと大切に抱いていたかったのに。
撃たれた痛みでそれを失くした、撃たれる度に薄れていって。
最後に撃たれた右の瞳に走った激痛、真っ赤に染まってしまった視界。
右目を失くしたと気付いた時には、もう右の手に温もりは無くて。
ハーレイの温もりの欠片さえも無くて、落としたのだと気付かされた。
温もりを落として失くしてしまったと、自分は独りになってしまったと。
どれほど悲しく辛かったことか。
自分の命が消えることより、もう死ぬのだということより。
ハーレイの温もりを失ったことが、独りぼっちで迎える最期が。
もうハーレイには会えないのだと、二度と会えないと泣きじゃくった自分。
ハーレイとの絆が切れてしまったと、自分は独りぼっちになったと。
冷たく凍えてしまった右の手、手が冷たくて悲しくて泣いた。
独りぼっちだと、右手が冷たいと、一人きりで。
泣きじゃくりながら死んでいった自分、あまりにも悲しくて辛かった最期。
なのに、今ではどうだろう。
ハーレイと二人、青い地球の上に生まれて来た。
蘇った青い水の星の上に、ハーレイと二人。
前とそっくり同じに生まれた、二人揃って生まれ変われた。
自分は少し小さいけれども、十四歳にしかならないけれど。
「キスは駄目だ」と叱られる幼さ、そんな年での再会だけれど、ハーレイに会えた。
こうして右手を温めてくれるハーレイに。
前の自分の記憶にあるのと、まるで変わらないハーレイに。
五月の三日に再会してから、何度も温めて貰った右手。
温もりを移して貰った右の手。
季節は春から初夏へと移って、今はすっかり夏だけれども。
部屋にはクーラーが必要な季節で、窓を開ければ暑すぎる風が来るけれど。
それでも右手の温もりは別。
ハーレイに温めて貰う手は別。
どんなにしっかり包み込まれても、暑いと思いはしないから。
温めてくれるハーレイの体温が高すぎるとは思わないから。
(ふふっ、あったかい…)
もっと、もっと、と思ってしまう。
ハーレイの温もりがもっと欲しいと、もっと右の手を温めて欲しいと。
右手もそうだし、この身体だって。
もっとハーレイにくっつきたいから、心地良い温もりが欲しいから。
「ねえ」と強請った、膝に乗せて、と。
「ハーレイの膝の上に座っていいでしょ」と。
キスは駄目だと叱られるけれど、いつも叱られているけれど。
唇へのキスは貰えないけれど、頬と額しか駄目だけれども。
膝の上には座ってもいい、子供にありがちなことだから。
小さな子供は膝にチョコンと座るのが好きで、そういう光景もよく見掛けるから。
だからハーレイも「駄目だ」と言わない、叱りはしない。
「またか」と呆れられる程度で、「好きにしろ」と膝を叩いてくれる。
ポンと叩いて、「ほら、座れ」と。
椅子を少し引いて、テーブルとの間を空けてくれて。
今日もそうしてくれたから。
自分の椅子からサッと移った、ハーレイの膝へ。
チョコンと座って、ニコッと笑って、それからギュウッと抱き付いた。
大きな身体に、腕を回して。
両方の腕を広げて回して、広い胸へと身をすり寄せた。
それも駄目とは言われないから。
キスは駄目でも、こうしてベッタリ貼り付くことは叱られないから。
ハーレイの温もりが嬉しい時間。
くっついて甘えていられる時間。
前の自分は独りぼっちで死んでいったけれど、右手が冷たく凍えたけれど。
ハーレイの温もりは右手に戻って、こうすれば身体も温かい。
大きな身体にギュッと抱き付いて、胸に身体をすり寄せていれば。
ハーレイの膝の上に座って、心地良い温もりに包まれていれば。
温かくて、それに気持ち良くて。
もう幸せでたまらないから、ただただペタリと貼り付いていたら。
大きな身体にくっついていたら、「おい、夏だぞ?」と頭をクシャリと撫でられた。
「外は暑いんだが、お前、暑くないか?」と。
「こんなにベッタリくっついていたら、暑いんじゃないかと思うんだが」と。
「…なんで?」
ぼくはちっとも暑くないけど、と両腕にキュッと力をこめた。
剥がされたのではたまらないから、離れたいとは思わないから。
「ふうむ…」
ならいいが、と返った返事。
暑くないなら好きにしていいと、好きなだけくっついていればいいと。
傍目にはとても暑そうな光景だけれど、誰が見るというわけでもないし、と。
(…誰も見ないものね?)
母が来そうな気配がしたなら飛び下りる。
ハーレイの胸からパッと離れて、膝の上から離れて戻る。
自分の椅子へと座り直して、さも最初から其処にいたように。
何処にも行ってはいなかったように。
母に知られたら大変だから。
ハーレイとの恋がバレてしまったら、もう二人きりにはなれないから。
だから誰も見ない、ハーレイに抱き付いている自分の姿は。
膝の上に座って甘える姿は、誰の目にも入りはしないから。
たとえ傍目に暑そうだろうが、どう見えていようが、どうでもいい。
誰も見たりはしないのだから。
暑そうなことをやっているなと、暑い季節に暑そうなことを、と思う人などいないのだから。
それに、自分は暑くなどない。
少しも暑いと思いはしない。
ハーレイの温もりが心地良いだけ、もっと、もっとと考えるだけ。
右の手だけではとても足りないと、もっとベッタリくっつきたいと。
ハーレイの温もりがもっと欲しいと、もっと、もっと、と欲張るだけ。
本当に心地いいのだから。
いくら貰っても、もっと欲しくなる。
右の手を温めて貰ったならば、ペタリと貼り付いて身体ごと。
大きな身体から、広い胸から欲しい温もり、ハーレイの温もり。
前の生の最期に失くした温もり、それをもっと、と。
(ホントに暑くないんだから…)
自分でもそれは不思議だけれど。
夏の暑さや日射しは苦手で、弱い身体が悲鳴を上げるのが常なのだけれど。
(ハーレイだと平気…)
外の暑さより、もっと体温は高い筈なのに。
暑い盛りに、熱いものには近付きたくない筈なのに。
たとえば、花壇の縁石だとか。
でなければ、父が日向に停めておいた車のボンネットだとか。
どちらも夏の日射しに灼かれて、温まりすぎたものだから。
触るどころか、側に寄るのも御免蒙りたいけれど。
熱気が来そうで嫌だけれども、ハーレイは別。
近付くどころか、こうしてペタリとくっついていても。
身体ごと貼り付いて甘えていても。
どうして自分は平気なのだろう。
夏の暑さは得意ではないし、暑い盛りに外を駆け回りもしないのに。
考えただけでクラリとするのに、何故だか欲しくなる温もり。
暑い夏でも、外の暑さより熱い筈のものが何故だか欲しい。
それに心地良い、それを貰うと。
夏の暑さで気分を悪くすることもあるのに、暑さは苦手な筈なのに。
(でも、暑くない…)
少しも暑いと思いはしない。
暑すぎるとも思わない。
外が暑くても、ハーレイに「暑くないか?」と訊かれても。
今は夏だと念を押されても、何故だか暑いと思いはしなくて、もっと欲しいだけ。
気温よりも高い温もりが。
ハーレイの温もりが、もっと、もっと欲しいと思うだけ。
少しも暑いと思わないから。
暑くないから、欲しくなる。
もっと欲しいと、もっと温もりを分けて欲しいと。
きっとハーレイの温もりだから。
誰よりも好きで、好きでたまらないハーレイがくれる温もりだから…。
暑くないから・了
※暑さは苦手なブルー君。なのにハーレイ先生にベッタリくっついています、暑いのに。
大好きな人だから、少しも暑いと思わない不思議。恋は偉大ですv