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今が食べ頃

「えーっと…」
 鏡の向こうの自分を眺めて、頬っぺたをチョンとつついてみて。
 「よし!」とブルーは満足そうな笑みを浮かべる。
 十四歳の子供の柔らかな頬。
 自分で言うのもどうだろうかとは思うけれども。
(…食べ頃だよね?)
 今が旬だと思うから。きっと美味しい筈なのだから。


 そんなわけだから、今日は朝から自信たっぷり。
 早くハーレイが来ないものかと、何度も窓から外を眺めて。
 やっと来てくれた恋人を迎えて、テーブルを挟んで向かい合わせで。
「ねえ、ハーレイ。…食べ物の旬って、大切だよね?」
 旬の食べ物が一番だよね、と尋ねてみれば。
「もちろんだ。そいつが料理の基本だってな」
 大事なことだぞ、と応える料理が上手な今のハーレイ。
 白いシャングリラには無かった料理も、あれこれと作る器用な恋人。


 ハーレイは早速、披露し始めた、今の季節なら何が旬かと。
 魚ならこれで、より美味しさを引き出す料理がこれだとか。
 野菜だったらこんな具合で、そのままでも良し、煮るのも良し、と。
「要はアレだな、旬の食べ物は身体にもいいということだ」
 美味しく食べて健康づくりだ、お前には持ってこいだと思うが。
 お母さんも色々作ってくれてるだろう、と言われたから。
「うん、だから大事だってこと、知ってるんだよ」
 旬の間に食べるのが一番、と微笑んだら。
 「偉いぞ、その調子で頑張るんだな」と褒められたから。
 頭をクシャリと撫でられたから。


「ぼくも頑張るけど、早く大きくなりたいんだけど…」
 だけど旬が、と俯き加減でチラリと見上げた恋人の顔。
 このままだと旬を過ぎちゃいそうで、と。
「…はあ? 旬が過ぎるって、なんの話だ?」
 これからが美味い季節なんだが、とハーレイは夏の食べ物を挙げる。
 魚に野菜に、それから果物。
 夏の日射しをたっぷりと浴びて育つ野菜や、海が育む魚たちや。
「んーと…。そういうのは来年も旬だろうけど…」
「そりゃまあ、なあ? 来年の夏も美味いだろうさ」
 ついでに今年の旬は今から、と語る恋人、料理も順に挙げてゆくから。


「そういうのじゃなくて、ぼくの旬だよ」
 今が食べ頃、と自分の顔を指差した。
 来年だったら育ってしまって、きっと食べ頃を逃すから、と。
「…なんだと?」
「だから、食べ頃! 今のチビのぼく!」
 美味しい筈だから、味見しない? と自信満々で言ったのに。
 ゴツンと頭に降って来た拳、顰めっ面になったハーレイ。
 「お前の食べ頃はまだまだ先だ」と、「育ってからだ」と。
 そして額も指先でピンと弾かれる。
 「チビのくせに」と、「お前の旬など、ずっと先だ」と…。



          今が食べ頃・了



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