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無理をするのは
「ねえ、ハーレイ。無理をするのは…」
 良くないよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 無理をするって、それはどういう…」
 状況のことを指しているんだ、とハーレイは問い返した。
 確かに「無理のし過ぎ」は良くない。
(…しかしだな…)
 無理をしている中身によっては、良いこともある。
 実力以上を発揮したくて、自分の限界に挑む時などはそう。
 だから、確認することにしたのだけれど、ハタと気付いた。
(こいつは、無理をするタイプだった…!)
 前の生でも、そうだったブルー。
 身体がすっかり弱っていたって、何も言わずに普段通り。
(今のブルーも、やっぱり同じで…)
 学校に行くために無理をして起きて、倒れたりもしている。
 家を出る時は我慢出来ても、学校で具合が悪くなるとか。


 そういうヤツを指しているのか、とハーレイは納得した。
 これを機会に「改めよう」と思ってくれれば、有難い。
「おい、ブルー。念のために、確認したいんだが…」
 その無理は、今現在もやっているのか、と聞いてみた。
 「ハーレイが来るから、寝てられないよ」だと、いけない。
(…実際、やっていたこともあるモンだから…)
 風邪っぽいのに、隠していたとか、例は色々。
 病み上がりのくせに、平気そうな顔で起きていただとか。
(…今日もそうなら、寝かせないと…)
 せっかく自分で言い出したんだし、と心配になって来る。
 すると、ブルーは「うん」と小さく頷いた。
「なんだって!?」
 起きていないで、サッサと寝ろ、とハーレイは慌てた。
 ブルーが話題を持ち出したからには、具合は、かなり…。
(悪い方だぞ、熱っぽいとか…!)
 我慢出来ないレベルなんだ、と背筋が冷たくなって来る。
 無駄な会話をしてはいないで、一刻も早く寝かせないと。


「無理をするのは、良くないんだ!」
 無理の中身にもよるんだがな、とベッドの方を指差した。
「俺はいいから、今日は寝ていろ!」
 黙って帰りもしないから、とブルーに向かって約束をする。
 ブルーがベッドで眠る間も、この部屋にいる、と。
「晩飯の時間まで、ちゃんといてやる!」
 俺の飯も、此処で食ったっていい、と真剣に言った。
 ブルーが一人で寂しいのならば、両親と食べるのは断る。
 ハーレイの分の食事も運んで貰って、ブルーと一緒に夕食。
 それなら、ブルーも安心だろう。
 無理をしてまで起きていなくても、ゆっくり眠れる。
「いいな、とにかくベッドに入れ!」
 でないと、俺も安心出来んぞ、と赤い瞳を覗き込む。
 此処でブルーが倒れたりすれば、ハーレイだって辛い。
 「どうして無理をさせちまったんだ」と、自分を叱りたい。
 そうなる前に未然に防いで、ブルーを休ませるべきだろう。
「もしも立つのも辛いんだったら、運んでやるから」
 どうなんだ、とブルーに畳み掛けるけれど、無理強いも…。
(いいとは言えないトコがあるしな…)
 無理と同じで、無理強いも駄目だ、と、ぐるぐるして来る。
 ブルーが意地になってしまえば、逆効果でしかない。


 無理をさせるか、無理強いすべきか、判断が難しい場面。
 前のブルーだった時には、無理強いは常に裏目に出ていた。
(…大人しくしているどころか、全くの逆で…)
 何度、俺を振り切って、無茶をしたやら、と記憶が蘇る。
 今の場合は、ブルー自身が言ったことだし、休んで欲しい。
(…一言、寝ると言ってくれれば…)
 俺も大いに助かるんだが、と祈るような気持ち。
(あれこれ俺に聞き返さないで、サッサとだな…)
 ベッドに潜り込んでくれ、と思っていたら、赤い瞳が瞬く。
「ハーレイも、そう思うんだ?」
 無理のしすぎは、良くないんだね、とブルーが口を開いた。
「うんと無理して我慢するのは、最悪かな…?」
「当然だろう!」
 ゴチャゴチャ言わずに、早く寝てくれ、とハーレイは焦る。
 これは相当に具合が悪いに違いない、と恐ろしい。
 とにかくブルーを早く寝かせて、ブルーの母に伝えるべき。
(症状を聞いて、病院に行かなきゃ駄目な時には…)
 俺の車で送って行こう、と決断をした。


「何処が具合が悪いんだ? 病院に行くくらいなのか?」
 そうなりゃ、俺が運転しよう、とブルーに申し出る。
「行きも帰りも俺の車だ、それならいいだろ?」
 家に帰ってしまいやしない、とパチンとウインク。
「寝込んじまうような羽目になっても、見舞いに来るから」
 毎日は無理かもしれないがな、と苦笑交じりは仕方ない。
 学校の方の仕事もあるから、確約は出来ない。
 とはいえ、これだけ安心材料を並べておけばいいだろう。
 ブルーは「無理をしてまで」起きていなくても済む。
 ベッドでぐっすり眠るだけでも、かなり体力を回復出来る。
「分かったな? 無理をするのは良くない」
 俺に聞いてる暇があったら、ベッドに行け、と繰り返した。
 ブルーは、黙って聞いていたけれど…。

「そっか、ハーレイも、そう思うんなら…」
 だったら、ぼくにキスをしてよ、と赤い瞳が煌めく。
「もう長いこと、無理をして我慢してるから…」
 ホントに具合が悪くなりそう、とブルーはニッコリと笑む。
「早くキスして、無理をするのは良くないんでしょ?」
 キスが最高の薬なんだよ、と嬉しそうなのだけれど…。
(…そういう無理を指していたのか!?)
 無駄に心配させやがって、とハーレイは軽く拳を握った。
「馬鹿野郎!」
 それは無理とは言わないんだ、と銀色の頭を一発、コツン。
 「真面目に考えて損しちまった」と、しっかり「お返し」。
 「無理して我慢しておくことだな」と、釘も刺して…。



       無理をするのは・了




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