偉そうだよね
「ねえ、ハーレイって…」
偉そうだよね、と小さなブルーが口を開いた。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 俺が?」
急にどうした、とハーレイは鳶色の瞳を丸くする。
たった今まで話していたのは、他愛ないことに過ぎない。
ハーレイが「偉そう」な口を利くような、中身でもない。
何が起きたか思い当たらず、ハーレイは首を捻るしかない。
(…しかしだな…)
ブルーが「偉そう」と指摘するなら、そうなのだろう。
ハーレイ自身に覚えが無くても、傍から見れば違うとか。
(こういったヤツは、自分じゃ気付きにくいしなあ…)
いったい何処が悪かったのか、ブルーに尋ねてみなくては。
(でもって、俺が悪かったなら…)
同じ過ちを繰り返さないよう、今後は注意してゆくべき。
ブルーに何度も、不快な思いをさせてはいけない。
そうすべきだ、と判断したから、聞くことにした。
回りくどいことを言っているより、真っ直ぐに。
「すまんが、何処が偉そうなんだ?」
俺には見当がつかなくてってな、と詫びの言葉も添えて。
「うーん…。そういう所も含めて…かな?」
とにかく偉そうなんだよね、とブルーは小さな溜息をつく。
「自分で気付いていないんだったら、ダメだってば」と。
(…おいおいおい…)
そこまで言われるほどなのか、とハーレイは冷汗が出そう。
今の生での仕事は教師で、生徒との対話にも気を配る。
「偉そうに上から言っている」などと、嫌われないように。
それだけに、ブルーの言葉はショックが大きい。
生徒と話す以上に気配り、そのつもりで接しているだけに。
(…マズイ、マズイぞ…)
俺は怒らせちまったらしい、と胸に焦りが込み上げてくる。
いつから「偉そう」と思われていたか、それが恐ろしい。
堪忍袋の緒が切れたのなら、一大事だと言えるだろう。
(ハーレイなんか、大嫌いだ、と…)
言われちまったら、おしまいだぞ、と泣きたい気分。
一時的な怒りだったら、いつかは解ける日も来るけれど…。
(積もり積もって爆発したなら、俺はだな…)
お払い箱だ、と放り出されて、ブルーに愛想を尽かされる。
今のブルーと前のブルーは、違うのだから。
(…前のあいつには、俺しかいなかったんだがな…)
幸運だっただけかもしれん、と頭の中がグルグルしそう。
前のブルーでも、一つピースが違っていたら…。
(…他の誰かと行ってしまって、俺は一人で…)
寂しくキャプテンだったかもな、と怖い思考が降って来た。
「もしかして、俺は捨てられるのか?」と。
(…シャングリラみたいな狭い船でも、他の誰かを…)
選ぶ自由はあったわけだし、今の時代なら、なおのこと。
ブルーが「偉そう」なハーレイを捨てて、他の誰かと…。
(…行っちまうってか!?)
そいつは困る、と思いはしても、ブルーに選ぶ権利がある。
ならば「選んで貰える」ように努力するしかないだろう。
「偉そう」に見える態度を直して、反省して。
ブルーに捨てられてからでは、もう、やり直しは遅すぎる。
とにかく急いで直して反省、ブルーに詫びて仕切り直し。
(…どう考えても、それ以外には…)
道が無いぞ、と分かっているから、恥を承知で聞き直した。
「悪いが、本当に分からないんだ、教えてくれ!」
そうしたら、直ぐに直すから、とブルーに深く頭を下げる。
「偉そうにしているトコというのは、何処なんだ?」
「全部だってば!」
直すんだったら、全部だよね、とブルーは赤い瞳で睨む。
「何もかもだよ」と、唇までも尖らせて。
「……全部って……」
俺の態度は全部ダメか、とハーレイは言葉を失った。
これは本当に「大嫌いだ!」と放り出されてしまいそう。
(…全部だなんて…)
直す方法さえも無いぞ、と絶望的な気持ちになる。
次にブルーを怒らせた時は、叩き出されて…。
(…お別れだってか…?)
寂しい独身人生なのか、と肩を落とすしかないけれど…。
「ハーレイ、分かった?」
分かったんなら、直してよね、とブルーが言った。
「子ども扱いするのは、おしまいだよ!」と。
「なんだって?」
「ぼくをチビだと言うヤツだってば!」
前のぼくと同じに扱ってよね、とブルーは威張り返った。
「上から見下ろすのは、今日でおしまい」と、繰り返して。
(そう来たか…!)
偉そうと言うのは、ソレだったか、と腑に落ちた。
いつものブルーの良からぬ企み、それの一つに違いない。
(…こいつが、そういうつもりなら…)
そうしてやるさ、とハーレイは心でニヤッと笑う。
前のブルーと同じにするなら、望み通りにするまでで…。
「承知しました。では、本日から…」
前と同じにさせて頂きます、と口調を敬語に切り替えた。
「ご両親の前と、学校だけでは、無理ですが…」
皆さんに不審がられますし、と丁重に詫びるのも忘れない。
「そこはお許し願えますよう」と、キャプテン風に。
「えっ、ちょっと…!」
ぼくが言うのは、そうじゃなくて、とブルーは慌てた。
「違うんだってば、ぼくが直して欲しいのは…」
「何処でしょう?」
前と同じにしたのですが…、とハーレイの方も譲らない。
「仰せとあらば従いますから、ご命令を」
どうぞ、とハーレイは「キャプテンごっこ」を続けてゆく。
ブルーが懲りて詫びて来るまで、これでいこう、と。
(うん、なかなかに面白いしな?)
今日は一日キャプテンだぞ、と愉快な体験が出来そうだ。
白いシャングリラに戻ったつもりで、ブルーをからかって。
ソルジャー・ブルーは、からかうなどは無理だったし…。
(今ならではの、お楽しみってな!)
最高じゃないか、と今日は「一日キャプテン・ハーレイ」。
前の自分と同じ態度で「ブルー」に接し続ける。
悪だくみをした悪戯小僧が懲りるまで。
ブルーが「やめて!」と泣きそうな顔で叫び出すまで…。
偉そうだよね・了
偉そうだよね、と小さなブルーが口を開いた。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 俺が?」
急にどうした、とハーレイは鳶色の瞳を丸くする。
たった今まで話していたのは、他愛ないことに過ぎない。
ハーレイが「偉そう」な口を利くような、中身でもない。
何が起きたか思い当たらず、ハーレイは首を捻るしかない。
(…しかしだな…)
ブルーが「偉そう」と指摘するなら、そうなのだろう。
ハーレイ自身に覚えが無くても、傍から見れば違うとか。
(こういったヤツは、自分じゃ気付きにくいしなあ…)
いったい何処が悪かったのか、ブルーに尋ねてみなくては。
(でもって、俺が悪かったなら…)
同じ過ちを繰り返さないよう、今後は注意してゆくべき。
ブルーに何度も、不快な思いをさせてはいけない。
そうすべきだ、と判断したから、聞くことにした。
回りくどいことを言っているより、真っ直ぐに。
「すまんが、何処が偉そうなんだ?」
俺には見当がつかなくてってな、と詫びの言葉も添えて。
「うーん…。そういう所も含めて…かな?」
とにかく偉そうなんだよね、とブルーは小さな溜息をつく。
「自分で気付いていないんだったら、ダメだってば」と。
(…おいおいおい…)
そこまで言われるほどなのか、とハーレイは冷汗が出そう。
今の生での仕事は教師で、生徒との対話にも気を配る。
「偉そうに上から言っている」などと、嫌われないように。
それだけに、ブルーの言葉はショックが大きい。
生徒と話す以上に気配り、そのつもりで接しているだけに。
(…マズイ、マズイぞ…)
俺は怒らせちまったらしい、と胸に焦りが込み上げてくる。
いつから「偉そう」と思われていたか、それが恐ろしい。
堪忍袋の緒が切れたのなら、一大事だと言えるだろう。
(ハーレイなんか、大嫌いだ、と…)
言われちまったら、おしまいだぞ、と泣きたい気分。
一時的な怒りだったら、いつかは解ける日も来るけれど…。
(積もり積もって爆発したなら、俺はだな…)
お払い箱だ、と放り出されて、ブルーに愛想を尽かされる。
今のブルーと前のブルーは、違うのだから。
(…前のあいつには、俺しかいなかったんだがな…)
幸運だっただけかもしれん、と頭の中がグルグルしそう。
前のブルーでも、一つピースが違っていたら…。
(…他の誰かと行ってしまって、俺は一人で…)
寂しくキャプテンだったかもな、と怖い思考が降って来た。
「もしかして、俺は捨てられるのか?」と。
(…シャングリラみたいな狭い船でも、他の誰かを…)
選ぶ自由はあったわけだし、今の時代なら、なおのこと。
ブルーが「偉そう」なハーレイを捨てて、他の誰かと…。
(…行っちまうってか!?)
そいつは困る、と思いはしても、ブルーに選ぶ権利がある。
ならば「選んで貰える」ように努力するしかないだろう。
「偉そう」に見える態度を直して、反省して。
ブルーに捨てられてからでは、もう、やり直しは遅すぎる。
とにかく急いで直して反省、ブルーに詫びて仕切り直し。
(…どう考えても、それ以外には…)
道が無いぞ、と分かっているから、恥を承知で聞き直した。
「悪いが、本当に分からないんだ、教えてくれ!」
そうしたら、直ぐに直すから、とブルーに深く頭を下げる。
「偉そうにしているトコというのは、何処なんだ?」
「全部だってば!」
直すんだったら、全部だよね、とブルーは赤い瞳で睨む。
「何もかもだよ」と、唇までも尖らせて。
「……全部って……」
俺の態度は全部ダメか、とハーレイは言葉を失った。
これは本当に「大嫌いだ!」と放り出されてしまいそう。
(…全部だなんて…)
直す方法さえも無いぞ、と絶望的な気持ちになる。
次にブルーを怒らせた時は、叩き出されて…。
(…お別れだってか…?)
寂しい独身人生なのか、と肩を落とすしかないけれど…。
「ハーレイ、分かった?」
分かったんなら、直してよね、とブルーが言った。
「子ども扱いするのは、おしまいだよ!」と。
「なんだって?」
「ぼくをチビだと言うヤツだってば!」
前のぼくと同じに扱ってよね、とブルーは威張り返った。
「上から見下ろすのは、今日でおしまい」と、繰り返して。
(そう来たか…!)
偉そうと言うのは、ソレだったか、と腑に落ちた。
いつものブルーの良からぬ企み、それの一つに違いない。
(…こいつが、そういうつもりなら…)
そうしてやるさ、とハーレイは心でニヤッと笑う。
前のブルーと同じにするなら、望み通りにするまでで…。
「承知しました。では、本日から…」
前と同じにさせて頂きます、と口調を敬語に切り替えた。
「ご両親の前と、学校だけでは、無理ですが…」
皆さんに不審がられますし、と丁重に詫びるのも忘れない。
「そこはお許し願えますよう」と、キャプテン風に。
「えっ、ちょっと…!」
ぼくが言うのは、そうじゃなくて、とブルーは慌てた。
「違うんだってば、ぼくが直して欲しいのは…」
「何処でしょう?」
前と同じにしたのですが…、とハーレイの方も譲らない。
「仰せとあらば従いますから、ご命令を」
どうぞ、とハーレイは「キャプテンごっこ」を続けてゆく。
ブルーが懲りて詫びて来るまで、これでいこう、と。
(うん、なかなかに面白いしな?)
今日は一日キャプテンだぞ、と愉快な体験が出来そうだ。
白いシャングリラに戻ったつもりで、ブルーをからかって。
ソルジャー・ブルーは、からかうなどは無理だったし…。
(今ならではの、お楽しみってな!)
最高じゃないか、と今日は「一日キャプテン・ハーレイ」。
前の自分と同じ態度で「ブルー」に接し続ける。
悪だくみをした悪戯小僧が懲りるまで。
ブルーが「やめて!」と泣きそうな顔で叫び出すまで…。
偉そうだよね・了
PR
COMMENT