寝過ごしたなら
(…今朝は少しばかり、危なかったよな)
危なかったというだけだが…、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
今日はブルーに会えなかったけれども、そちらは大したことではない。
(ブルーにとっては、大事件というヤツなんだろうが…)
今朝、ハーレイを見舞った事件と比べてみたなら、霞んでしまうことだろう。
なんと言っても遅刻の危機で、ハーレイが遅刻したならば…。
(どう考えても、あいつに朝に会えるチャンスは無いってな!)
生徒の方が早く教室に入るんだから、と学校の決まりを思い返してみる。
ブルーも遅刻をしない限りは、「遅刻して来たハーレイ」と出会うわけがない。
そういう意味でも、今朝は少々、危なかったと言える。
結果としては「ブルーに会えない日」になったのだけれど、自然のなりゆき。
ハーレイのせいで「そうなった」部分は、ただの一つも無いのだから。
(しかしだ、俺が遅刻したなら…)
朝にブルーに会えるチャンスは皆無なのだし、「俺のせいか?」ということになる。
授業が始まる前の時間に、「何処かで、会えていたのかもな」と考えもして。
(幸い、そうはならなかったが…)
俺にしては珍しい朝だったよな、とマグカップの縁をカチンと弾く。
昨夜、遅かったわけでもないのに、目を覚ましたら…。
(時計の針が、目覚ましをかけてある時間をだ…)
指していたから、驚いた。
普段だったら、目覚ましより早く目が覚めるわけで、目覚ましは「形だけ」に過ぎない。
万が一の時に備えて「セットしてある」だけで、起きたら、すぐに止める習慣。
たまに、止めるのを忘れてしまって、かなり経った後に…。
(寝室の方で、けたたましい音がしていやがって…)
急いで止めに戻っている時もある。
「窓を開けていなくて良かったよな」と、お隣さんの家の方を見ながら。
そんな具合の毎日だけれど、どういうわけだか、今朝は熟睡してしまっていた。
「目覚ましが鳴らなかったのか!?」と、一瞬、目を剥いたほど。
その目覚ましは「いいえ、只今、お時間です」と、その瞬間に鳴り出したけれど。
(鳴ってくれるんなら、いいんだが…)
目覚ましよりも「早く起きる」のがハーレイだけに、鳴る音などは滅多に聞かない。
止め忘れた日に耳にするだけ、それ以外の日に聞くことはない。
(…だからだな…)
鳴るかどうかの確認などは、綺麗サッパリ忘れている。
思い出したように、「そうだった」と鳴らしてみるのは年に数回。
(その数回も忘れちまって、その間にだ…)
アラームを鳴らす装置がエネルギー切れ、そういったことも珍しくない。
むしろ、その方が多いだろう。
休日に止めるのを忘れてしまって、のんびりした後、部屋に戻って、ハタと気が付く。
「ありゃ?」と、セットしたままの時計を眺めて、「鳴っていない」という事実に。
(面白いことに、狙いすましたように…)
エネルギー切れになるのは、休日ばかり。
そして「休みの日で良かったよな」と思うけれども、目覚ましで起きる機会など…。
(俺の場合は、もう本当に…)
珍しすぎる現象だから、余計、目覚ましを気にしない。
アラームが鳴ってくれるかどうかの確認さえをも、忘れがちなほどに。
(…お蔭で、遅刻したことなんぞは無いんだが…)
鳴らないようになっていたって、休日だしな、と考えた所で思い出した。
その「休日」が、今の自分には「大切な日」になっていたことを。
(…そうだ、休みの日にはだな…)
ブルーの家に出掛けてゆくのが、今のハーレイの習慣の一つ。
天気が良ければ、散歩を兼ねて歩いてゆくし、雨が降ったら車を出す。
ブルーの方でも、朝から「まだかな?」と待っているから、遅刻したなら…。
(遅かったよね、と文句の一つも…)
言われそうだし、頬っぺたも膨らんでいそうではある。
いわゆる「フグ」な状態だけれど、いつもは両手で頬を潰して、からかうヤツも…。
(俺のせいで遅れて着いたわけだし、出来やしないぞ…)
ブルーの顔をハコフグにするなんて、と肩を竦める。
「フグがハコフグになっちまったぞ」とふざけるどころか、詫び続けるしかないだろう。
「すまん、寝過ごしちまったんだ」と、正直に言って。
ブルーが余計に怒り出しても、機嫌を直してくれる時まで、ひたすらに。
(…どうせ、プンスカ怒るんだから…)
遅刻ついでに、菓子でも買って行くべきだろうか。
「これで勘弁してくれないか」と、評判の店のを持って出掛けて。
(…うん、その手は使えるかもしれん)
開店が遅い店もあるしな、と幾つか思い当たる店ならばある。
同僚や友人から聞いている店で、気になっていても、寄れない店が。
(あいつの家に行くとなったら、開店時間が昼前ではなあ…)
遅すぎるんだ、と諦めている店に立ち寄ればいい。
「悪い」と、「遅くなっちまったが、怪我の功名というヤツなんだ」と、ブルーに差し出す。
「いつもの時間じゃ、早すぎて、開いてないからな」と、菓子が入った大きな箱を。
(よし、コレだ!)
コレに限るぞ、と名案に酔ってしまいそう。
ブルーがフグになっていたって、菓子を持って行けば「大丈夫だな」と。
これで安心、とコーヒーのカップを傾けたけれど、不意に頭に浮かんだ考え。
「その案、今しか使えないぞ」と、「自分」が語り掛けて来た。
「ブルーの家まで行ってる間は、それでいいが」と、「将来的には、どうするんだ?」と。
(…そうだった…!)
今は「休日に会う」場所は、ブルーの家に限定だけれど、未来は違う。
ブルーが育って、デートに出掛けるようになったら、待ち合わせる日もあるだろう。
車で迎えに出掛けるだけでは、お互い、物足りなくなって。
(街とか、美術館とかで待ち合わせて、だ…)
それからデート、というのは恋人たちの定番の一つ。
たとえ車があったとしたって、車は近くの駐車場に停めて、待ち合わせ場所へ。
ゆっくりデートを楽しんだ後で、二人で駐車場までゆく。
車に乗り込み、次の場所とか、食事する店へ移動するために。
(……うーむ……)
その手のデートはしない、などとは思えない。
ブルーなら、きっと「したがる」だろうし、ハーレイにしても同じこと。
「たまにはな?」とブルーを誘って、提案する日も出て来そう。
「次の土曜は、待ち合わせてから出掛けないか?」と、自分の方から。
(…そうなって来たら、待ち合わせるパターンも増えそうで…)
待ち合わせの機会が増えていったら、遅刻のリスクも、当然、上がる。
朝、目覚ましが鳴らないままで、心地よくベッドで寝過ごして。
(…そいつは、大いにマズイんだが…!)
実にマズイ、と慌てふためく「未来の自分」が目に見えるよう。
ブルーとデートに出掛ける日の朝、遅い時間に「朝か…」と起きて、愕然とする自分の姿。
目覚まし時計が指した時刻は、最悪の場合、待ち合わせの時間を過ぎているとか、寸前だとか。
其処まで遅くはないにしたって、「どう頑張っても、間に合わない」時間。
朝食は抜きで家を出ようが、朝の歯磨きをすっ飛ばそうが。
(……どうするんだ、おい……)
デートの日に寝過ごしちまったら、と想像しただけで恐ろしくなる。
「待ち合わせの時間に、ハーレイが来ない」となったら、ブルーはフグでは済まないだろう。
デートに行くほど育っているから、フグの顔にはなっていない分、心の中は怒りの渦。
「ハーレイの馬鹿!」と、「今、何時だと思ってるわけ?」と、悪態をついて。
(…しかもだな…)
待たされているブルーに「すまん、遅れる」と連絡するには、方法が限定されている。
今の時代は、「いつでも、何処でも、連絡が取れる」便利な道具は無い時代。
遠い昔にはあったのだけれど、「地球を滅びに導いた」原因の一つだ、と言われて消えた。
SD体制の時代には、既に影も形も無かったのだし、今の時代にあるわけがない。
(…ブルーがいるのが、何処かの店なら…)
その店に「すみませんが」と通信を入れて、ブルーを呼び出して貰えるだろう。
けれど、そうそう上手く運びはしなくて、待ち合わせ場所が、そういう場所ではない時に…。
(俺が寝過ごしちまうってのが…)
ありそうなのが人生なんだ、と嫌というほど分かっている。
通信が使えないとなったら、「マナー違反」の思念で連絡するしかない。
「悪い、寝過ごしちまったんだ」と、ブルーに向かって。
(…その手の事情で、思念を飛ばすというヤツは…)
マナー違反には違いなくても、世間的には、許して貰える範囲ではある。
誰もが「仕方ないですよ」とクスッと笑って、「私にも経験、ありますからね」などと。
とはいえ、その「頼もしい、マナー違反の連絡手段」が問題だった。
なんと言っても相手はブルーで、前のブルーとは全く違う。
最強のタイプ・ブルーに生まれて来たのに、サイオンの扱いが不器用すぎて…。
(俺の思念を受け取ったって、あいつが返事をすることは…)
出来ないんだ、と頭を抱えたくなる。
「遅れる」と聞いて、「分かった、待ってる」と、一言、返すことさえ、ブルーは出来ない。
おまけに、待ち合わせ場所までは離れているから、ブルーの心を読み取るなどは…。
(俺には、出来やしないってな!)
終わりじゃないか、と頭痛がしそう。
ブルーへの連絡は一方通行、返事は「返って来ない」のだから。
(マズすぎるぞ…!)
寝過ごしたのだし、短時間では「待ち合わせ場所」まで辿り着けない。
ブルーは今も身体が弱いし、休める場所で待たせたいけれど、どうすればいいか。
待ち合わせ場所が店でないなら、「何処かに入れ」と伝えるしかない。
(しかし、あいつが行ける範囲に…)
ある喫茶店が混んでしまって、席が無ければ、ブルーは困る。
少し離れた場所であっても、其処まで行って「座りたい」だろう。
(それなのに、それを俺にだな…)
伝える手段が「無い」のがブルーで、どうすればいいか、うんと悩んでしまっても…。
(俺に相談出来やしないし、そうなると、俺が…)
先手を打って、「近くの店が混んでいるなら、他所にしろ」とか、指図しないといけない。
「待ち合わせ場所に近い店から、片っ端から覗くから」と。
(…遅れて待たせちまうだけじゃなくって、一方通行で、ああだこうだと…)
ブルーに指示して、挙句の果てに大遅刻で登場したならば…。
(俺はいったい、どうなるんだ…?)
それにブルーの身体の方も心配だしな、と悩みの種は尽きはしないし、祈るしかない。
未来の自分が、デートの日の朝、寝過ごしてしまうことが無いように。
寝過ごしたなら、大変だから。
ブルーを怒らせてしまう以上に、恐ろしいことが山積みだから…。
寝過ごしたなら・了
※未来のブルー君とデートする日に、寝過ごしたなら、と考えてみたハーレイ先生。
待ち合わせの時間に遅刻な上に、連絡手段も一方通行。大変なことになりそうですよねv
危なかったというだけだが…、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
今日はブルーに会えなかったけれども、そちらは大したことではない。
(ブルーにとっては、大事件というヤツなんだろうが…)
今朝、ハーレイを見舞った事件と比べてみたなら、霞んでしまうことだろう。
なんと言っても遅刻の危機で、ハーレイが遅刻したならば…。
(どう考えても、あいつに朝に会えるチャンスは無いってな!)
生徒の方が早く教室に入るんだから、と学校の決まりを思い返してみる。
ブルーも遅刻をしない限りは、「遅刻して来たハーレイ」と出会うわけがない。
そういう意味でも、今朝は少々、危なかったと言える。
結果としては「ブルーに会えない日」になったのだけれど、自然のなりゆき。
ハーレイのせいで「そうなった」部分は、ただの一つも無いのだから。
(しかしだ、俺が遅刻したなら…)
朝にブルーに会えるチャンスは皆無なのだし、「俺のせいか?」ということになる。
授業が始まる前の時間に、「何処かで、会えていたのかもな」と考えもして。
(幸い、そうはならなかったが…)
俺にしては珍しい朝だったよな、とマグカップの縁をカチンと弾く。
昨夜、遅かったわけでもないのに、目を覚ましたら…。
(時計の針が、目覚ましをかけてある時間をだ…)
指していたから、驚いた。
普段だったら、目覚ましより早く目が覚めるわけで、目覚ましは「形だけ」に過ぎない。
万が一の時に備えて「セットしてある」だけで、起きたら、すぐに止める習慣。
たまに、止めるのを忘れてしまって、かなり経った後に…。
(寝室の方で、けたたましい音がしていやがって…)
急いで止めに戻っている時もある。
「窓を開けていなくて良かったよな」と、お隣さんの家の方を見ながら。
そんな具合の毎日だけれど、どういうわけだか、今朝は熟睡してしまっていた。
「目覚ましが鳴らなかったのか!?」と、一瞬、目を剥いたほど。
その目覚ましは「いいえ、只今、お時間です」と、その瞬間に鳴り出したけれど。
(鳴ってくれるんなら、いいんだが…)
目覚ましよりも「早く起きる」のがハーレイだけに、鳴る音などは滅多に聞かない。
止め忘れた日に耳にするだけ、それ以外の日に聞くことはない。
(…だからだな…)
鳴るかどうかの確認などは、綺麗サッパリ忘れている。
思い出したように、「そうだった」と鳴らしてみるのは年に数回。
(その数回も忘れちまって、その間にだ…)
アラームを鳴らす装置がエネルギー切れ、そういったことも珍しくない。
むしろ、その方が多いだろう。
休日に止めるのを忘れてしまって、のんびりした後、部屋に戻って、ハタと気が付く。
「ありゃ?」と、セットしたままの時計を眺めて、「鳴っていない」という事実に。
(面白いことに、狙いすましたように…)
エネルギー切れになるのは、休日ばかり。
そして「休みの日で良かったよな」と思うけれども、目覚ましで起きる機会など…。
(俺の場合は、もう本当に…)
珍しすぎる現象だから、余計、目覚ましを気にしない。
アラームが鳴ってくれるかどうかの確認さえをも、忘れがちなほどに。
(…お蔭で、遅刻したことなんぞは無いんだが…)
鳴らないようになっていたって、休日だしな、と考えた所で思い出した。
その「休日」が、今の自分には「大切な日」になっていたことを。
(…そうだ、休みの日にはだな…)
ブルーの家に出掛けてゆくのが、今のハーレイの習慣の一つ。
天気が良ければ、散歩を兼ねて歩いてゆくし、雨が降ったら車を出す。
ブルーの方でも、朝から「まだかな?」と待っているから、遅刻したなら…。
(遅かったよね、と文句の一つも…)
言われそうだし、頬っぺたも膨らんでいそうではある。
いわゆる「フグ」な状態だけれど、いつもは両手で頬を潰して、からかうヤツも…。
(俺のせいで遅れて着いたわけだし、出来やしないぞ…)
ブルーの顔をハコフグにするなんて、と肩を竦める。
「フグがハコフグになっちまったぞ」とふざけるどころか、詫び続けるしかないだろう。
「すまん、寝過ごしちまったんだ」と、正直に言って。
ブルーが余計に怒り出しても、機嫌を直してくれる時まで、ひたすらに。
(…どうせ、プンスカ怒るんだから…)
遅刻ついでに、菓子でも買って行くべきだろうか。
「これで勘弁してくれないか」と、評判の店のを持って出掛けて。
(…うん、その手は使えるかもしれん)
開店が遅い店もあるしな、と幾つか思い当たる店ならばある。
同僚や友人から聞いている店で、気になっていても、寄れない店が。
(あいつの家に行くとなったら、開店時間が昼前ではなあ…)
遅すぎるんだ、と諦めている店に立ち寄ればいい。
「悪い」と、「遅くなっちまったが、怪我の功名というヤツなんだ」と、ブルーに差し出す。
「いつもの時間じゃ、早すぎて、開いてないからな」と、菓子が入った大きな箱を。
(よし、コレだ!)
コレに限るぞ、と名案に酔ってしまいそう。
ブルーがフグになっていたって、菓子を持って行けば「大丈夫だな」と。
これで安心、とコーヒーのカップを傾けたけれど、不意に頭に浮かんだ考え。
「その案、今しか使えないぞ」と、「自分」が語り掛けて来た。
「ブルーの家まで行ってる間は、それでいいが」と、「将来的には、どうするんだ?」と。
(…そうだった…!)
今は「休日に会う」場所は、ブルーの家に限定だけれど、未来は違う。
ブルーが育って、デートに出掛けるようになったら、待ち合わせる日もあるだろう。
車で迎えに出掛けるだけでは、お互い、物足りなくなって。
(街とか、美術館とかで待ち合わせて、だ…)
それからデート、というのは恋人たちの定番の一つ。
たとえ車があったとしたって、車は近くの駐車場に停めて、待ち合わせ場所へ。
ゆっくりデートを楽しんだ後で、二人で駐車場までゆく。
車に乗り込み、次の場所とか、食事する店へ移動するために。
(……うーむ……)
その手のデートはしない、などとは思えない。
ブルーなら、きっと「したがる」だろうし、ハーレイにしても同じこと。
「たまにはな?」とブルーを誘って、提案する日も出て来そう。
「次の土曜は、待ち合わせてから出掛けないか?」と、自分の方から。
(…そうなって来たら、待ち合わせるパターンも増えそうで…)
待ち合わせの機会が増えていったら、遅刻のリスクも、当然、上がる。
朝、目覚ましが鳴らないままで、心地よくベッドで寝過ごして。
(…そいつは、大いにマズイんだが…!)
実にマズイ、と慌てふためく「未来の自分」が目に見えるよう。
ブルーとデートに出掛ける日の朝、遅い時間に「朝か…」と起きて、愕然とする自分の姿。
目覚まし時計が指した時刻は、最悪の場合、待ち合わせの時間を過ぎているとか、寸前だとか。
其処まで遅くはないにしたって、「どう頑張っても、間に合わない」時間。
朝食は抜きで家を出ようが、朝の歯磨きをすっ飛ばそうが。
(……どうするんだ、おい……)
デートの日に寝過ごしちまったら、と想像しただけで恐ろしくなる。
「待ち合わせの時間に、ハーレイが来ない」となったら、ブルーはフグでは済まないだろう。
デートに行くほど育っているから、フグの顔にはなっていない分、心の中は怒りの渦。
「ハーレイの馬鹿!」と、「今、何時だと思ってるわけ?」と、悪態をついて。
(…しかもだな…)
待たされているブルーに「すまん、遅れる」と連絡するには、方法が限定されている。
今の時代は、「いつでも、何処でも、連絡が取れる」便利な道具は無い時代。
遠い昔にはあったのだけれど、「地球を滅びに導いた」原因の一つだ、と言われて消えた。
SD体制の時代には、既に影も形も無かったのだし、今の時代にあるわけがない。
(…ブルーがいるのが、何処かの店なら…)
その店に「すみませんが」と通信を入れて、ブルーを呼び出して貰えるだろう。
けれど、そうそう上手く運びはしなくて、待ち合わせ場所が、そういう場所ではない時に…。
(俺が寝過ごしちまうってのが…)
ありそうなのが人生なんだ、と嫌というほど分かっている。
通信が使えないとなったら、「マナー違反」の思念で連絡するしかない。
「悪い、寝過ごしちまったんだ」と、ブルーに向かって。
(…その手の事情で、思念を飛ばすというヤツは…)
マナー違反には違いなくても、世間的には、許して貰える範囲ではある。
誰もが「仕方ないですよ」とクスッと笑って、「私にも経験、ありますからね」などと。
とはいえ、その「頼もしい、マナー違反の連絡手段」が問題だった。
なんと言っても相手はブルーで、前のブルーとは全く違う。
最強のタイプ・ブルーに生まれて来たのに、サイオンの扱いが不器用すぎて…。
(俺の思念を受け取ったって、あいつが返事をすることは…)
出来ないんだ、と頭を抱えたくなる。
「遅れる」と聞いて、「分かった、待ってる」と、一言、返すことさえ、ブルーは出来ない。
おまけに、待ち合わせ場所までは離れているから、ブルーの心を読み取るなどは…。
(俺には、出来やしないってな!)
終わりじゃないか、と頭痛がしそう。
ブルーへの連絡は一方通行、返事は「返って来ない」のだから。
(マズすぎるぞ…!)
寝過ごしたのだし、短時間では「待ち合わせ場所」まで辿り着けない。
ブルーは今も身体が弱いし、休める場所で待たせたいけれど、どうすればいいか。
待ち合わせ場所が店でないなら、「何処かに入れ」と伝えるしかない。
(しかし、あいつが行ける範囲に…)
ある喫茶店が混んでしまって、席が無ければ、ブルーは困る。
少し離れた場所であっても、其処まで行って「座りたい」だろう。
(それなのに、それを俺にだな…)
伝える手段が「無い」のがブルーで、どうすればいいか、うんと悩んでしまっても…。
(俺に相談出来やしないし、そうなると、俺が…)
先手を打って、「近くの店が混んでいるなら、他所にしろ」とか、指図しないといけない。
「待ち合わせ場所に近い店から、片っ端から覗くから」と。
(…遅れて待たせちまうだけじゃなくって、一方通行で、ああだこうだと…)
ブルーに指示して、挙句の果てに大遅刻で登場したならば…。
(俺はいったい、どうなるんだ…?)
それにブルーの身体の方も心配だしな、と悩みの種は尽きはしないし、祈るしかない。
未来の自分が、デートの日の朝、寝過ごしてしまうことが無いように。
寝過ごしたなら、大変だから。
ブルーを怒らせてしまう以上に、恐ろしいことが山積みだから…。
寝過ごしたなら・了
※未来のブルー君とデートする日に、寝過ごしたなら、と考えてみたハーレイ先生。
待ち合わせの時間に遅刻な上に、連絡手段も一方通行。大変なことになりそうですよねv
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