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忘れていたなら
(…ぼく、前のハーレイに…)
 悪いことをしちゃったよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が愛したハーレイ。
 青く蘇った水の星の上で、再び巡り会えたけれども、前のハーレイは大変だった。
 前のブルーがいなくなった後、白いシャングリラを地球まで運んで行ったハーレイ。
 ジョミーを支えて、仲間たちの箱舟を守り続けて、その人生は地球で終わった。
 燃え上がる地球の地の底深くで、崩れ落ちて来た瓦礫に押し潰されて。
(…でも、ハーレイは、そんな中でも…)
 カナリヤの子たちを見付けて、長老たちと力を合わせて、シャングリラへと送り届けた。
 その後、フィシスも船に送って、ハーレイは死んでいったのだけれど…。
(…ホントに、ごめんなさい、としか…)
 言えないよね、と胸が締め付けられる。
 瓦礫の下敷きになった死に様も悲惨だけれども、それよりも前が、遥かに酷だったと思う。
 今のハーレイは、さほど口にはしないとはいえ、何度も聞いた。
(…前のぼくを失くして、一人ぼっちで…)
 生ける屍のような人生だった、と今のハーレイは笑っているけれど…。
(笑えるのは、今のハーレイだからで…)
 そういう人生を送った「前のハーレイ」の方は、笑うどころではなかったろう。
 たまには笑う時があっても、仲間たちの前で見せる笑顔ほどには、笑えてはいない。
 夜に自分の部屋に戻れば、じきに気付いて孤独になる。
 「此処にブルーは、もういないんだ」と、一人きりの部屋を見回して。
(前のぼくが生きていた時だったら、元気な頃は…)
 しばしばハーレイの部屋を訪ねて、そのまま居座ったりもした。
 身体が弱ってしまった後にも、何度も出掛けて過ごしていた。
(ジョミーが来た後、十五年間も青の間で眠っていたけど…)
 その間だって、ハーレイは「ブルーに会う」ことが出来た。
 語り掛けても返事は無くて、何の反応も返らなくても、ブルーは「いた」。
 ハーレイが青の間に行きさえしたなら、当たり前のように存在していたのが「ブルー」。
 けれども、いなくなった後には、もはや何処にも「いなかった」。
 前のハーレイは、たった一人で「取り残された」。
 ブルーを追ってゆくことも出来ず、白いシャングリラに縛り付けられて。


 前のハーレイを船に「縛った」のは、前のブルーの遺言だった。
 メギドに向かって飛び立つ前に、ハーレイにだけ、思念で伝えた言葉。
 「ジョミーを支えてやってくれ」に加えて、「頼んだよ、ハーレイ」と念まで押して。
(…そのせいで、前のハーレイは…)
 魂が死んでしまったような身体で、白いシャングリラを、ジョミーを支えた。
 本当に最後の最後まで、前のハーレイは「キャプテン」だった。
 カナリヤの子たちを送り出す前も、子供たちを懸命に慰めていたと聞くから。
(…ホントに、ごめん…)
 前のぼくなんか、忘れて生きていてくれればね、と思ってしまう。
 残した言葉は、忘れて貰っては困るけれども、「ブルー」を忘れてくれていたなら、と。
(…忘れて、うんと前向きに…)
 切り替えて生きていってくれれば、前のハーレイの人生は楽になったろう。
 託された役目は重いとはいえ、重荷は「その分」だけしかない。
 ジョミーを支えて、船を守って、明るく生きてゆく道もあった。
 そちらの道を選んでくれれば、本当に、ずっと楽だった筈で、それを思うと辛くなる。
(…前のぼくの言い方、悪かったかな…)
 もっと違う言葉で伝えていれば…、と首を捻ったけれども、多分、そうではないだろう。
 どんな言葉を選んでいたって、前のハーレイは「ブルー」を忘れはしなかった。
 最後まで想って、想い続けて、今また、「ブルー」と巡り会えるまで、忘れないまま。
 青い地球の上に生まれ変わって、再び「ブルー」と出会う時まで。
(…ちゃんと覚えていてくれたから、会えたんだよね?)
 きっとそうだ、と思うけれども、ハーレイの方が忘れていたって、会えたろう。
 ブルーの方が覚えていたなら、必ず、巡り会えたと思う。
 前のハーレイが気持ちを切り替え、「ブルー」のことは忘れていても。
 たまに思い出す時があっても、「懐かしい思い出」に変わっていても。
(…ぼくさえ、忘れなかったなら…)
 絶対、会えていたと思うよ、と確信がある。
 前の自分は、メギドで最期を迎える時まで、「ハーレイを忘れなかった」から。
 もっとも、前のハーレイの方とは、少し事情が違うけれども。


(…キースに撃たれた痛みのせいで…)
 最後まで持っていたいと願った、前のハーレイの温もりを失くしてしまった。
 ハーレイに「遺言」を伝える時に、ハーレイの身体に触れた右手に残った温もり。
 それさえあったら、ずっと一緒だと思っていた。
 ハーレイとの絆さえ切れなかったら、きっと永遠に離れないのだ、と。
(…ぼくの身体は死んでしまっても、魂は、ずっと…)
 ハーレイの側に寄り添い続けて、前のハーレイの生が終わる時まで、離れはしない。
 前のハーレイが命を終えたら、その魂と共に旅立つ。
 二人とも生きている間には叶わなかった、「二人で暮らせる」場所を目指して。
(…そうなるんだ、って思ってたのに…)
 前の自分は、ハーレイの温もりを失くしてしまって、泣きじゃくりながら死んでいった。
 「もうハーレイには、二度と会えない」と、絶望の淵に突き落とされて。
 ハーレイとの絆が切れてしまった悲しみの中で、冷たく凍えた右手をどうすることも出来ずに。
(…あんなことになっても、ハーレイのことを…)
 前のぼくは忘れなかったものね、と思い返して、ハタと気付いた。
 確かに、前の自分は「最期まで」、前のハーレイを忘れなかったけれども…。
(…同じように、ハーレイを忘れなくても…)
 形は違っていたのかも、と首を傾げる。
 もしも、キースに撃たれなかったら、どうだったろう。
 「ハーレイの温もり」を失くすことなく、最後まで持っていたならば。
(…ハーレイのこと、忘れないよ、って…)
 この絆は、切れやしないんだから、と笑みまで浮かべて死んでいたなら、その後は…。
(…前のハーレイを探しに、一直線に…)
 魂は、宇宙を駆けていたことだろう。
 白いシャングリラが何処にいようと、前の自分なら、きっと探せる。
 メギドからも、ジルベスター・セブンからも遠く離れた、遠い場所へワープしていても。
(あれだ、って直ぐに見付け出して…)
 ただ真っ直ぐに、船を目指して飛んでゆく。
 前のハーレイの側にいたくて、たまらなくて。
 死んで魂だけだったならば、ハーレイの側に立っていたって、誰も気付きはしないだろう。
(気付いちゃう人がいそうだったら…)
 少しエネルギーを落としさえすれば、気付かれはしない。
 「あれっ?」と気配を感じたとしても、ほんの一瞬のことで、「気のせいか」で済む。
 ハーレイの側で静かに過ごして、ハーレイが生を終えたなら…。
(一緒に行こう、って…)
 手を差し伸べて、ハーレイと二人で旅立っていって、ハッピーエンドになりそうな感じ。
 それをハッピーエンドと呼ぶかは、また別にしても。


 そういう最期を迎えていたなら、前の自分とハーレイの恋は、どうなったろう。
 どんなに悲劇的な最期であっても、その後、満足していたのならば、ハッピーエンド。
 「めでたし、めでたし」で終わる物語で、そこから先は書かれはしない。
(…二人は幸せに暮らしました、って…)
 締め括られて、其処までになる。
 前の自分とハーレイの恋も、もしかしたなら、そうなったろうか。
 ハーレイの温もりを失くすことなく、最後まで持っていたならば。
 永遠に切れない絆を手にして、笑みさえ浮かべて死んでゆく最期だったなら。
(…前のハーレイを乗せた船を追い掛けて、ずっと側にいて…)
 二人一緒に旅立ったのなら、思い残すことなど、何処にも無い。
 前のハーレイと幸せに暮らして、その内に、生まれ変わっただろう。
 きっと二人の絆はあるから、生まれ変わっても、また巡り会えて、恋をする。
 次の生では、人ではなかったとしても。
(…うん、きっと…)
 犬や猫や鳥に生まれていたって、ハーレイを見付け出せると思う。
 ハーレイの方でも「ブルー」を見付けて、新しい命を生きてゆく。
 鳥であっても、犬や猫でも、絆は切れはしないのだから。
(…だけど、人間だった時には…?)
 今みたいに思い出せるのかな、と疑問が涌いた。
 鳥や猫なら、前の生の記憶を持っていたって、さほど問題はないだろう。
 ハーレイと出会って、また恋をしても、二人で一緒に暮らしていても。
(…鳥や猫なら、人間とは違う社会だし…)
 前の生での記憶なんかは、大した意味を持ってはいない。
 「ソルジャー・ブルー」が鳥に生まれても、何が出来るというわけでもない。
 前のハーレイにしても同じで、「キャプテン・ハーレイ」の知識は役に立たない。
 航路を読むのと、鳥が巣を作る場所を決めるのは、全く違う。
(ぼくもハーレイも、雄なんだろうし…)
 巣は要らないとは思うけれども、安全な場所を見付けることは重要になる。
 二人一緒に「安心して、夜を過ごせる」所を探す時には、航路設定の手法なんかは…。
(全く、役に立たないし…)
 意味が無いから、鳥の社会なら、前の記憶はあってもいい。
 普通の鳥として暮らしてゆけるし、困りはしない。
 けれど、人間に生まれ変わるのならば…。


(全部、消えちゃう…?)
 前のブルーとしての記憶は、すっかりと消えてしまいそう。
 もちろん「前のハーレイ」の方も、綺麗に忘れていることだろう。
(ぼくに聖痕が現れるまで、今のハーレイ、なんにも思い出さないままで…)
 今の生を満喫していたのだから、記憶が戻った切っ掛けは「ブルー」。
 聖痕が現れたことが引き金、それが無ければ「思い出さない」。
 つまりは「ブルー」に「聖痕がある」こと、それが「互いに思い出す」ための条件になる。
(ぼくにしたって、聖痕が出るまで、前の記憶は無かったんだし…)
 そのままで生きていったとしたって、何の支障も無かっただろう。
 今も名前は「ブルー」だけれども、それだけのこと。
 前の自分が口にしていた「ただのブルー」で、同名の人間がいるに過ぎない。
 姿形がそっくり同じで、他人とは思えないほどであっても、記憶が無いならそうなってしまう。
(…そんな今のぼくが、今のハーレイと出会っても…)
 一目で恋に落ちたとしても、前の記憶は戻って来ない。
 永遠に切れない絆に引かれて、また巡り会えた「運命の恋人同士」の二人なだけで。
(…だって、人間なんだしね…)
 前の生での記憶なんかは、普通に暮らしてゆくのだったら「不要」だろう。
 たとえ「ソルジャー・ブルー」であろうが、まるで全く意味などは無い。
 むしろ生きるのに差し支えそうで、だからこそ人は「前の生など、覚えてはいない」。
(きっと、キースやジョミーにしても…)
 そんな具合に生まれ変わって、また去って行っているのだろう。
 地球ではなくて違う星でも、その星で暮らす「新しい生」を満喫して。
 「前の自分」が何者だったか、少しも思い出しもしないで。
(…ぼくとハーレイが、何もかも思い出せたのは…)
 聖痕が現れたお蔭なのだし、前の自分が「忘れなかった」せいだと言える。
 前のハーレイを愛したことを、「何処までも共に」と誓ったことを。
(…なのに、温もりを落としてしまって…)
 「絆が切れた」と泣きじゃくりながら最期を迎えたことが、忘れなかった理由で、原因。
 二度と会えないと思ったからこそ、全身全霊でハーレイを求め続けて、そのままで逝った。
 けして満足したりはしないで、ハーレイに未練を残したままで。


(…あの時、ぼくが「これで良かった」って、満足しちゃって…)
 笑みさえ浮かべて死んでいたなら、今の「前の生を知る」ブルーはいなかったろう。
 「前の生を知る」ハーレイもいなくて、恋人同士の二人が仲良く地球の上にいるだけ。
 それはそれで幸せな生き方だろうし、普通はそうなるものだけれども…。
(やっぱり、覚えていた方がいいに決まってるよね?)
 絶対にそう、という気がするから、前の自分の悲しい最期に感謝せずにはいられない。
 前の自分が満足して死んで行っていたなら、今の幸せな日々は無いから。
 ハーレイに未練を抱きはしないで「忘れていたなら」、記憶は戻って来なかったから…。



            忘れていたなら・了


※今のブルー君とハーレイ先生に、前の生の記憶がある理由は、聖痕なのですけれど。
 もし、前のブルーが未練を残さずに死んでいたなら、前の生の記憶は戻っていないのかもv







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