遠回しよりも
「ねえ、ハーレイ。遠回しよりも…」
ハッキリ言う方がいいのかな、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
友達と何かあったのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
ブルーの質問の内容からして、何かトラブルかもしれない。
仲のいい友達同士だけれども、行き違いでもあったとか。
「そうなんだけど…」
ちょっと困ってるんだよね、とブルーは歯切れが悪い。
表情からして、相手というのは、本当に仲良しなのだろう。
ハーレイにさえも、話していいのか、ためらうほどに。
(分からないでもないんだよなあ…)
まるで告げ口するようで…、とハーレイは心の中で頷く。
子供時代の自分にだって、そういう事件は何度もあった。
なまじ仲のいい友達だけに、出来れば自分で片付けたい。
大人の力を借りたりはせずに、他の友達にも言わないで。
(でもって、当時ってヤツを思い返すと…)
ブルーの問いに対する答えは、自ずと出て来る。
子供時代のハーレイ自身は、どう対応していたのかを。
(大人に言うのは悪いよなあ、って…)
子供心に思うものだから、懸命に一人で頑張った。
他の友達にも相談はせずに、毎日、あれこれ考えてみて。
(…ハッキリ言ったらダメだよな、って思うわけでだ…)
我慢したことも多いけれども、我慢の結果は失敗だった。
元々、行き違いがあったわけだし、黙っていても通じない。
相手も、そうとは気付かないから、そのままになる。
(最終的には、ズレが大きくなりすぎちまって…)
ハーレイの方では我慢していても、相手がそれを感じ取る。
「お前、最近、何か変だぜ?」といった具合に。
(…なまじ我慢と決めてるだけに、そう言われても…)
実は、と即答出来はしないし、行き違いは解消しないまま。
相手も「あいつ、なんだか変だしなあ…」と思い始める。
(そうなっちまうと、遊んでいても…)
前ほど楽しくないものだから、自然と距離が開いてゆく。
何をするにも一緒だったのが、別行動になったりして。
気付けば、「とても仲が良かった」友は、もういない。
別の友達と置き換わっていて、相手にも別の友人が出来て。
何度か、そういう失敗をした。
その失敗から学んだことは、「ハッキリ言う」こと。
相手も、まだまだ子供なのだし、頭に来ても直ぐに忘れる。
「何だよ、お前!」と激怒したって、何日か経てば…。
(…あの時は、つい、カッとしちゃって、と…)
詫びに来てくれて、「ハッキリ言われた」件にも、お詫び。
「ごめん、ちっとも気付いてなかった」と、潔く。
(悪気があって、やってたわけじゃないんだし…)
自分のすることが「気に障るんだ」と分かれば、話は早い。
「これは、しちゃダメ」と二度としないし、円満解決。
友情の方も壊れはしなくて、その後も、ずっと続いてゆく。
とうに大人になった今でも、会ったりもして。
(…しかし、こいつは、今だからこそ…)
ハーレイは「承知している」わけで、当時は「知らない」。
そのせいで何度も失敗した上、その相手だって…。
(同窓会とかで会った時には、「久しぶりだ」と…)
楽しく歓談出来るけれども、それでおしまい。
「またな」と手を振り、別れてゆく。
連絡先を交換したとしたって、そう頻繁には…。
(…連絡しないし、知り合いと変わらないんだよなあ…)
残念だが、と今でも、たまに悔しくなる。
子供時代の失敗を思い返して、「いいヤツなのに」と。
経験を積んだ「ハーレイ」だからこそ、分かること。
ならば、勇気を出して「相談して来た」ブルーにも…。
(此処は教えてやるべきだよな?)
俺を信じてくれているから質問だし、と分かっている。
子供時代の自分にしても、相談しないで済ませたから。
(…ブルーの場合は、前の記憶があるからなあ…)
前の生での相談相手は、相談しやすいことだろう。
キャプテンだったハーレイにしても、恋人にしても。
(よし、お望み通り、アドバイスだ)
今の生での大先輩の立場から、とハーレイは決めた。
ブルーの瞳を真っ直ぐ見詰めて、「いいか?」と微笑む。
「お前の質問の、答えなんだが…」
「えっと…。もしかして、ぼく、間違ってる?」
言わない方がいいのかな、とブルーは心配そうな顔。
「いや、逆だ。お前が言ってる方が正しい」
俺の経験からしても、とハーレイは肯定してやった。
「ハッキリ言った方がいいぞ」と、自信を持って。
「遠回しだと通じないしな、相手には」と。
「そっか…。だったら、困っているよりも…」
「これは困る、と相手に伝えてやるべきだ」
それで喧嘩になっちまっても、元に戻るぞ、と片目を瞑る。
「遠回しに言って我慢の日々より、ずっといいさ」と。
そうしたら…。
「分かった、それじゃ、ハッキリ言うね!」
前のぼくと同じに扱ってよ、とブルーは笑んだ。
「唇にキスだけじゃなくって、前の通りに!」
ハーレイは「うっ」と言葉に詰まって、我に返って…。
「馬鹿野郎!」
それとコレとは話が違う、と拳を軽くキュッと握った。
ブルーの頭に、一発お見舞いするために。
痛くないようコツンと一発、「お断りだ」とハッキリと…。
遠回しよりも・了
ハッキリ言う方がいいのかな、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
友達と何かあったのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
ブルーの質問の内容からして、何かトラブルかもしれない。
仲のいい友達同士だけれども、行き違いでもあったとか。
「そうなんだけど…」
ちょっと困ってるんだよね、とブルーは歯切れが悪い。
表情からして、相手というのは、本当に仲良しなのだろう。
ハーレイにさえも、話していいのか、ためらうほどに。
(分からないでもないんだよなあ…)
まるで告げ口するようで…、とハーレイは心の中で頷く。
子供時代の自分にだって、そういう事件は何度もあった。
なまじ仲のいい友達だけに、出来れば自分で片付けたい。
大人の力を借りたりはせずに、他の友達にも言わないで。
(でもって、当時ってヤツを思い返すと…)
ブルーの問いに対する答えは、自ずと出て来る。
子供時代のハーレイ自身は、どう対応していたのかを。
(大人に言うのは悪いよなあ、って…)
子供心に思うものだから、懸命に一人で頑張った。
他の友達にも相談はせずに、毎日、あれこれ考えてみて。
(…ハッキリ言ったらダメだよな、って思うわけでだ…)
我慢したことも多いけれども、我慢の結果は失敗だった。
元々、行き違いがあったわけだし、黙っていても通じない。
相手も、そうとは気付かないから、そのままになる。
(最終的には、ズレが大きくなりすぎちまって…)
ハーレイの方では我慢していても、相手がそれを感じ取る。
「お前、最近、何か変だぜ?」といった具合に。
(…なまじ我慢と決めてるだけに、そう言われても…)
実は、と即答出来はしないし、行き違いは解消しないまま。
相手も「あいつ、なんだか変だしなあ…」と思い始める。
(そうなっちまうと、遊んでいても…)
前ほど楽しくないものだから、自然と距離が開いてゆく。
何をするにも一緒だったのが、別行動になったりして。
気付けば、「とても仲が良かった」友は、もういない。
別の友達と置き換わっていて、相手にも別の友人が出来て。
何度か、そういう失敗をした。
その失敗から学んだことは、「ハッキリ言う」こと。
相手も、まだまだ子供なのだし、頭に来ても直ぐに忘れる。
「何だよ、お前!」と激怒したって、何日か経てば…。
(…あの時は、つい、カッとしちゃって、と…)
詫びに来てくれて、「ハッキリ言われた」件にも、お詫び。
「ごめん、ちっとも気付いてなかった」と、潔く。
(悪気があって、やってたわけじゃないんだし…)
自分のすることが「気に障るんだ」と分かれば、話は早い。
「これは、しちゃダメ」と二度としないし、円満解決。
友情の方も壊れはしなくて、その後も、ずっと続いてゆく。
とうに大人になった今でも、会ったりもして。
(…しかし、こいつは、今だからこそ…)
ハーレイは「承知している」わけで、当時は「知らない」。
そのせいで何度も失敗した上、その相手だって…。
(同窓会とかで会った時には、「久しぶりだ」と…)
楽しく歓談出来るけれども、それでおしまい。
「またな」と手を振り、別れてゆく。
連絡先を交換したとしたって、そう頻繁には…。
(…連絡しないし、知り合いと変わらないんだよなあ…)
残念だが、と今でも、たまに悔しくなる。
子供時代の失敗を思い返して、「いいヤツなのに」と。
経験を積んだ「ハーレイ」だからこそ、分かること。
ならば、勇気を出して「相談して来た」ブルーにも…。
(此処は教えてやるべきだよな?)
俺を信じてくれているから質問だし、と分かっている。
子供時代の自分にしても、相談しないで済ませたから。
(…ブルーの場合は、前の記憶があるからなあ…)
前の生での相談相手は、相談しやすいことだろう。
キャプテンだったハーレイにしても、恋人にしても。
(よし、お望み通り、アドバイスだ)
今の生での大先輩の立場から、とハーレイは決めた。
ブルーの瞳を真っ直ぐ見詰めて、「いいか?」と微笑む。
「お前の質問の、答えなんだが…」
「えっと…。もしかして、ぼく、間違ってる?」
言わない方がいいのかな、とブルーは心配そうな顔。
「いや、逆だ。お前が言ってる方が正しい」
俺の経験からしても、とハーレイは肯定してやった。
「ハッキリ言った方がいいぞ」と、自信を持って。
「遠回しだと通じないしな、相手には」と。
「そっか…。だったら、困っているよりも…」
「これは困る、と相手に伝えてやるべきだ」
それで喧嘩になっちまっても、元に戻るぞ、と片目を瞑る。
「遠回しに言って我慢の日々より、ずっといいさ」と。
そうしたら…。
「分かった、それじゃ、ハッキリ言うね!」
前のぼくと同じに扱ってよ、とブルーは笑んだ。
「唇にキスだけじゃなくって、前の通りに!」
ハーレイは「うっ」と言葉に詰まって、我に返って…。
「馬鹿野郎!」
それとコレとは話が違う、と拳を軽くキュッと握った。
ブルーの頭に、一発お見舞いするために。
痛くないようコツンと一発、「お断りだ」とハッキリと…。
遠回しよりも・了
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