出会えなくっても
(今日はハーレイに会えなかったけど…)
きっと明日には会えるよね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わってしまった、前の生から愛したハーレイ。
学校でも姿を見掛けなかったし、運が悪かったのかもしれない。
とはいえ、明日には会えるだろうし、明日が駄目でも、明後日がある。
それに会えない日が続いたって、週末には会えるに違いない。
「次の週末は予定が入って、来られないんだ」とは聞いていないから。
(だから待ったら、必ず会えるし…)
そこは安心なんだけどね、と思う一方、少し寂しい。
遠く遥かな時の彼方で生きた頃には、会えない日などは一日も無かった。
ソルジャーとキャプテンが「会わずに終わる日」が、「あってはならない船」にいたから。
(…シャングリラは、閉じた世界だったし…)
ミュウの箱舟とも言えた船だから、船の頂点に立つ二人の意志の疎通は大切。
常に朝食を一緒に取るよう、決まりがあった。
(他愛ない話をしていた日の方が、多かったけどね…)
大抵は、そういう日だったけれども、時には重要な相談もあった。
キャプテンが多忙だった時には、朝食でしか顔を合わせられないほどになる。
伝達事項も当然、増えるし、内容も深刻だったりもした。
(それでも、ちゃんと会えたんだよね…)
今とどっちがいいのかな、と首を傾げてみたのだけれども、断然、今の方だろう。
人間は全てミュウになったし、宇宙の何処にも戦争の欠片も無い世界。
平和な時代に生きているから、会えない日があっても安心出来る。
「きっと明日には」と思う「次の日」が、今は必ずやって来るから。
(…そういう明日を続けていったら、何処かでハーレイに会える日だって…)
来てくれるのだし、待っていればいい。
「会えなかったよ」と寂しく思う日が続いたって、いつかは会える。
その「いつか」だって、そう遠くなくて、十日も空いてしまいはしない。
せいぜい一週間といった所で、それだけの間、辛抱するのも今ならではの幸せだろう。
前の生なら、会えなくなったら、もう其処で「終わり」だったから。
メギドへ飛んで行った後には、ハーレイには二度と会えはしなくて、それっきりで。
そうやって終わる筈だったけれど、青い地球の上に生まれて来た。
新しい命と身体を貰って、ハーレイにも、また巡り会えた。
文句を言ったら罰が当たるし、寂しくても我慢すべきだと思う。
今はハーレイに「会えない日」だって、ちゃんと終わりが来てくれる。
(…ホントに安心…)
ハーレイは、ちゃんといてくれるもの、と笑みを浮かべて、ふと考えた。
もしも、こうして「生まれ変わって来た」青い地球に、ハーレイがいてくれなかったら、と。
(…生まれ変わって来たのは、ぼくの方だけで…)
ハーレイは生まれていないのだったら、会えないどころか「出会えもしない」。
広い宇宙の何処を探しても、ハーレイが「生まれ変わって来ていない」世界だったなら。
(…そんな馬鹿なこと、あるわけないよね…?)
神様が聖痕をくれたんだから、と自信も確信もあるのだけれども、有り得た可能性はある。
中途半端な奇跡だったら、「青い地球に行く」部分だけしか、夢は叶わなかったろう。
(…前のぼくの夢は、青い地球の上で、ハーレイと暮らすことだったけど…)
夢があまりに大きすぎる、と半分だけ叶えて貰えた場合は、青い地球しか手に入らない。
ある日、聖痕が身体に浮かんで、前の生での記憶が戻って来る所までは、今と全く同じでも。
(…神様がくれた奇跡が、其処までだったら…)
記憶を取り戻して「前の自分」が目覚めた瞬間、目の前にハーレイが「いてはくれない」。
ついでに記憶が戻る切っ掛け、それも「ハーレイ」ではないだろう。
(教室で記憶が戻る所は、同じでも…)
単に「時が満ちた」というだけのことで、少し早めになっただろうか。
前の生で「ミュウの力が目覚めた切っ掛け」が、成人検査の日だったのだし、誕生日の直後。
(…今のぼく、三月三十一日に生まれて来たから…)
そこで十四歳を迎えて、成人検査の代わりの節目で、入学式の日に記憶が戻る。
学校の講堂で、校長先生の挨拶を聞いて、教室に入った後くらいに。
(…担任の先生が、教室の前の扉を開けて…)
今の生でのハーレイとの出会いみたいに、教室に足を踏み入れた途端に、聖痕が身体に現れて。
激しい出血と痛みが起こって、「ソルジャー・ブルー」だったことを思い出すのだけれど…。
(…駆け寄って来るのは、ハーレイじゃなくて…)
今のブルーの担任になる「先生」なのだし、きっと感動などは無い。
「何が起きた?」と、「前の自分」が驚く間に、意識は失せてゆくのだろう。
大量の出血で、弱い身体が悲鳴を上げて。
いくら「ソルジャー・ブルー」の記憶が戻っていたって、身体は「今の自分」だから。
(メギドで、あれだけ撃たれても、ちゃんと最後まで…)
動けたのが「ソルジャー・ブルー」だけれども、今の生では「ただの虚弱な」子供に過ぎない。
十四歳までしか生きてもいないし、あんな痛みに耐えられはしない。
(…あっという間に、気絶しちゃって…)
次に意識が戻った時には、病院のベッドの上だろう。
母が心配そうに覗き込んでいて、担任の先生もいるかもしれない。
(…今のぼくの記憶も、ちゃんとあるから…)
状況は把握出来そうだけれど、「前の自分」の方は相当、途惑っていそう。
「此処は何処だ?」と、「何が起きた?」と、「メギドの続き」だと思い込んで。
(…だって、ハーレイ、いないんだものね…)
其処に「ハーレイ」がいてくれたならば、「良かった、夢じゃなかったんだ」と安心したろう。
現に、その通りだったから。
「ハーレイがいてくれる」世界に来られて、また巡り会えたと確信したのが「今の生」だから。
(…病院のベッドで気が付いた時は、ハーレイ、いなかったけれど…)
学校に戻った後だったけれど、「会えた」のは、きちんと分かっていた。
母も「先生が救急車に一緒に乗って下さったのよ」と話してくれたし、裏付けもあった。
「教室で会ったハーレイ」は、夢や幻の「ハーレイ」ではなくて、本物なのだという証拠。
(だから安心して、家に帰って…)
それからハーレイと無事に「出会い直して」、言葉を交わせた。
「ただいま、ハーレイ。帰って来たよ」と、長い長い時を飛び越えた「今」の時代に。
そう言えたのは、「ハーレイが、いてくれたから」。
同じように記憶が戻って来たって、ハーレイの姿が見えなかったら、話は違う。
(メギドから、何処に来ちゃったんだろう、って…)
かなり悩んで、「今の自分」の意識を探って、ようやく現状が見えて来る。
「生まれ変わって来たらしい」ことと、「青い地球の上に来られた」こと。
けれども、それが「奇跡の全て」で、気付けば「一人ぼっち」な自分。
「ソルジャー・ブルー」の記憶が戻って来たのに、それを共有してくれる人は一人もいない。
時の彼方で起きた出来事、それらを「共に見ていた」人など、誰一人として見付かりはしない。
(…それに、ハーレイ…)
前の自分が愛した人は、いくら周りを見回してみても、影も形もありはしなくて、一人きり。
せっかく青い地球に来たのに、ハーレイが「いない」。
青い地球より、「ハーレイ」の方が「欲しかった」のに。
メギドでハーレイの温もりを失くして死んでゆく時、前の自分は泣きじゃくった。
「ハーレイとの絆が切れてしまった」と、「もう会えない」と、絶望の底で。
果たして絆は「切れた」のだろうか。
ハーレイと出会えなかったとなったら、まず考えるのは「そのこと」なのに違いない。
(…絆が切れてしまっているから、ぼくは一人で生まれ変わって来て…)
ハーレイは何処にもいないだなんて、それはあまりに残酷すぎる。
それに「生まれ変わって来られた」のなら、きっと全ては「仕切り直し」になったろう。
新しい命と身体があるなら、ハーレイの方も、条件は同じなのだと思う。
何処かで新しい命と身体を貰って、「新しい生」を生きている筈。
(…まだ出会えてないだけなんだ、って…)
考える方が自然なのだし、そうなれば、次は「ハーレイを探す」。
同じように「青い地球」にいるなら、話はとても早いけれども、違う場合も考えられる。
遠い他所の星の上に生まれて、地球までは「来ていない」だとか。
(…うーん…)
尋ね人で探すしかないんだろうな、と思ってはみても、十四歳の子供がやるには難しい。
両親に頼めば探せはしても、ハーレイとの仲を疑われそうで、それは出来ない。
(…偶然、会えればいいんだけれど…)
今の学校の生徒の間は、それしかないよね、と溜息をつく。
「そうなってしまった」自分を想像してみて、如何に大変な事態かを思い巡らせて。
(何処に行っても、周りをキョロキョロ…)
見回してばかりになるんだろうな、と「そういう自分」を頭に描く。
町に出掛けても、両親や友達と何処かに行っても、意識が向くのは「ハーレイ」ばかり。
人混みの中に混じっていないか、こちらに歩いて来はしないかと。
(ぼくと会ったら、ハーレイの記憶も戻る筈だし…)
会えさえすれば、と期待しながら、いつも、何処でも探し続ける。
遠く遥かな時の彼方で、誰よりも愛した人の姿を。
(だけど、見付からないままで…)
時が流れて過ぎてゆくなら、他のことも考えないといけない。
今の学校を卒業した後、どうしてゆけばいいのだろう。
(…ハーレイと出会っていないんだったら、順調に育っていってるかも…)
背丈も伸びて、という気がする。
卒業する十八歳の頃には、「ソルジャー・ブルー」と同じ姿に育っていそう。
外見の年は、サイオンが不器用なままでも、止めたい所で止まってくれそうではある。
だったら、まずは「其処から」だろう。
いつか「ハーレイと出会いたい」なら、前よりも年を取っては「いけない」。
若さを保った「ソルジャー・ブルー」とそっくり同じで、瓜二つであることが肝心。
(でないと、分かって貰えないかも…)
ぼくの方では、直ぐに分かっても、と思うものだから、成長は若くして止めるべき。
そのせいで様々な制約が出来てしまうとしたって、ハーレイを探し続けるのならば、若い姿で。
(十八歳の姿でいるとなったら、出来る仕事は少ないかも…)
職業のことは詳しくないのだけれども、「上の学校も出ていない」ような姿では厳しいだろう。
もっとも、身体が弱い以上は、元々、出来る仕事は少ない。
(ハーレイのお嫁さん、って決めているから、何も考えてないんだけど…)
何か職業に就くとなったら、頭脳で勝負の仕事になりそう。
ところが、そういう職業の場合、必然的に「他の人との出会いが減る」。
研究室に籠っていたなら、もうそれだけで外出が減って、ハーレイと出会える機会も減る。
(そんなの、困るよ!)
弱い身体で、うんと若くても、出会いの多い仕事って…、とポンと浮かんで来たのは歌手。
俳優でもいいし、要はルックスが良ければ「そこそこ」稼げる仕事。
(売れっ子になったら、いろんな星にも行けるしね…)
ハーレイに出会える機会も増えそう、と容易に分かる。
「売れっ子」になってしまいさえすれば、出演する場所も拘束時間も、意のままに出来る。
「そんなステージ、ぼくは出ないよ」と蹴ったり出来るし、いい職業と言えるだろう。
売れっ子になるまでがハードだとしても、将来を思えば耐えられる。
(顔が売れれば、ハーレイの方で気付いて、連絡して来てくれそうだしね?)
うんと遠い他所の星にいたって…、と頷いたけれど、「いなかった」ならば、それは無い。
懸命に頑張って「売れっ子」になって、宇宙に名前を轟かせても、愛おしい人には出会えない。
そうなったとしても、きっと、ハーレイのことを忘れはしない。
ハーレイだけしか愛さないまま、生涯を終えてゆくのだと思う。
(最後の最後まで、出会えなくっても…)
ハーレイを探し続けるんだよ、と分かっているから、ちゃんと「出会えた」今が嬉しい。
今日は駄目でも、明日には会えるだろうから。
明日も、明後日も、その先も会えなかったとしたって、ハーレイは「いてくれる」のだから…。
出会えなくっても・了
※生まれ変わって来ても、其処にハーレイがいなかったなら…、と考えてみたブルー君。
きっと一生、ハーレイを探し続けるのです。成長を止めて、向いていない仕事も頑張ってv
きっと明日には会えるよね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わってしまった、前の生から愛したハーレイ。
学校でも姿を見掛けなかったし、運が悪かったのかもしれない。
とはいえ、明日には会えるだろうし、明日が駄目でも、明後日がある。
それに会えない日が続いたって、週末には会えるに違いない。
「次の週末は予定が入って、来られないんだ」とは聞いていないから。
(だから待ったら、必ず会えるし…)
そこは安心なんだけどね、と思う一方、少し寂しい。
遠く遥かな時の彼方で生きた頃には、会えない日などは一日も無かった。
ソルジャーとキャプテンが「会わずに終わる日」が、「あってはならない船」にいたから。
(…シャングリラは、閉じた世界だったし…)
ミュウの箱舟とも言えた船だから、船の頂点に立つ二人の意志の疎通は大切。
常に朝食を一緒に取るよう、決まりがあった。
(他愛ない話をしていた日の方が、多かったけどね…)
大抵は、そういう日だったけれども、時には重要な相談もあった。
キャプテンが多忙だった時には、朝食でしか顔を合わせられないほどになる。
伝達事項も当然、増えるし、内容も深刻だったりもした。
(それでも、ちゃんと会えたんだよね…)
今とどっちがいいのかな、と首を傾げてみたのだけれども、断然、今の方だろう。
人間は全てミュウになったし、宇宙の何処にも戦争の欠片も無い世界。
平和な時代に生きているから、会えない日があっても安心出来る。
「きっと明日には」と思う「次の日」が、今は必ずやって来るから。
(…そういう明日を続けていったら、何処かでハーレイに会える日だって…)
来てくれるのだし、待っていればいい。
「会えなかったよ」と寂しく思う日が続いたって、いつかは会える。
その「いつか」だって、そう遠くなくて、十日も空いてしまいはしない。
せいぜい一週間といった所で、それだけの間、辛抱するのも今ならではの幸せだろう。
前の生なら、会えなくなったら、もう其処で「終わり」だったから。
メギドへ飛んで行った後には、ハーレイには二度と会えはしなくて、それっきりで。
そうやって終わる筈だったけれど、青い地球の上に生まれて来た。
新しい命と身体を貰って、ハーレイにも、また巡り会えた。
文句を言ったら罰が当たるし、寂しくても我慢すべきだと思う。
今はハーレイに「会えない日」だって、ちゃんと終わりが来てくれる。
(…ホントに安心…)
ハーレイは、ちゃんといてくれるもの、と笑みを浮かべて、ふと考えた。
もしも、こうして「生まれ変わって来た」青い地球に、ハーレイがいてくれなかったら、と。
(…生まれ変わって来たのは、ぼくの方だけで…)
ハーレイは生まれていないのだったら、会えないどころか「出会えもしない」。
広い宇宙の何処を探しても、ハーレイが「生まれ変わって来ていない」世界だったなら。
(…そんな馬鹿なこと、あるわけないよね…?)
神様が聖痕をくれたんだから、と自信も確信もあるのだけれども、有り得た可能性はある。
中途半端な奇跡だったら、「青い地球に行く」部分だけしか、夢は叶わなかったろう。
(…前のぼくの夢は、青い地球の上で、ハーレイと暮らすことだったけど…)
夢があまりに大きすぎる、と半分だけ叶えて貰えた場合は、青い地球しか手に入らない。
ある日、聖痕が身体に浮かんで、前の生での記憶が戻って来る所までは、今と全く同じでも。
(…神様がくれた奇跡が、其処までだったら…)
記憶を取り戻して「前の自分」が目覚めた瞬間、目の前にハーレイが「いてはくれない」。
ついでに記憶が戻る切っ掛け、それも「ハーレイ」ではないだろう。
(教室で記憶が戻る所は、同じでも…)
単に「時が満ちた」というだけのことで、少し早めになっただろうか。
前の生で「ミュウの力が目覚めた切っ掛け」が、成人検査の日だったのだし、誕生日の直後。
(…今のぼく、三月三十一日に生まれて来たから…)
そこで十四歳を迎えて、成人検査の代わりの節目で、入学式の日に記憶が戻る。
学校の講堂で、校長先生の挨拶を聞いて、教室に入った後くらいに。
(…担任の先生が、教室の前の扉を開けて…)
今の生でのハーレイとの出会いみたいに、教室に足を踏み入れた途端に、聖痕が身体に現れて。
激しい出血と痛みが起こって、「ソルジャー・ブルー」だったことを思い出すのだけれど…。
(…駆け寄って来るのは、ハーレイじゃなくて…)
今のブルーの担任になる「先生」なのだし、きっと感動などは無い。
「何が起きた?」と、「前の自分」が驚く間に、意識は失せてゆくのだろう。
大量の出血で、弱い身体が悲鳴を上げて。
いくら「ソルジャー・ブルー」の記憶が戻っていたって、身体は「今の自分」だから。
(メギドで、あれだけ撃たれても、ちゃんと最後まで…)
動けたのが「ソルジャー・ブルー」だけれども、今の生では「ただの虚弱な」子供に過ぎない。
十四歳までしか生きてもいないし、あんな痛みに耐えられはしない。
(…あっという間に、気絶しちゃって…)
次に意識が戻った時には、病院のベッドの上だろう。
母が心配そうに覗き込んでいて、担任の先生もいるかもしれない。
(…今のぼくの記憶も、ちゃんとあるから…)
状況は把握出来そうだけれど、「前の自分」の方は相当、途惑っていそう。
「此処は何処だ?」と、「何が起きた?」と、「メギドの続き」だと思い込んで。
(…だって、ハーレイ、いないんだものね…)
其処に「ハーレイ」がいてくれたならば、「良かった、夢じゃなかったんだ」と安心したろう。
現に、その通りだったから。
「ハーレイがいてくれる」世界に来られて、また巡り会えたと確信したのが「今の生」だから。
(…病院のベッドで気が付いた時は、ハーレイ、いなかったけれど…)
学校に戻った後だったけれど、「会えた」のは、きちんと分かっていた。
母も「先生が救急車に一緒に乗って下さったのよ」と話してくれたし、裏付けもあった。
「教室で会ったハーレイ」は、夢や幻の「ハーレイ」ではなくて、本物なのだという証拠。
(だから安心して、家に帰って…)
それからハーレイと無事に「出会い直して」、言葉を交わせた。
「ただいま、ハーレイ。帰って来たよ」と、長い長い時を飛び越えた「今」の時代に。
そう言えたのは、「ハーレイが、いてくれたから」。
同じように記憶が戻って来たって、ハーレイの姿が見えなかったら、話は違う。
(メギドから、何処に来ちゃったんだろう、って…)
かなり悩んで、「今の自分」の意識を探って、ようやく現状が見えて来る。
「生まれ変わって来たらしい」ことと、「青い地球の上に来られた」こと。
けれども、それが「奇跡の全て」で、気付けば「一人ぼっち」な自分。
「ソルジャー・ブルー」の記憶が戻って来たのに、それを共有してくれる人は一人もいない。
時の彼方で起きた出来事、それらを「共に見ていた」人など、誰一人として見付かりはしない。
(…それに、ハーレイ…)
前の自分が愛した人は、いくら周りを見回してみても、影も形もありはしなくて、一人きり。
せっかく青い地球に来たのに、ハーレイが「いない」。
青い地球より、「ハーレイ」の方が「欲しかった」のに。
メギドでハーレイの温もりを失くして死んでゆく時、前の自分は泣きじゃくった。
「ハーレイとの絆が切れてしまった」と、「もう会えない」と、絶望の底で。
果たして絆は「切れた」のだろうか。
ハーレイと出会えなかったとなったら、まず考えるのは「そのこと」なのに違いない。
(…絆が切れてしまっているから、ぼくは一人で生まれ変わって来て…)
ハーレイは何処にもいないだなんて、それはあまりに残酷すぎる。
それに「生まれ変わって来られた」のなら、きっと全ては「仕切り直し」になったろう。
新しい命と身体があるなら、ハーレイの方も、条件は同じなのだと思う。
何処かで新しい命と身体を貰って、「新しい生」を生きている筈。
(…まだ出会えてないだけなんだ、って…)
考える方が自然なのだし、そうなれば、次は「ハーレイを探す」。
同じように「青い地球」にいるなら、話はとても早いけれども、違う場合も考えられる。
遠い他所の星の上に生まれて、地球までは「来ていない」だとか。
(…うーん…)
尋ね人で探すしかないんだろうな、と思ってはみても、十四歳の子供がやるには難しい。
両親に頼めば探せはしても、ハーレイとの仲を疑われそうで、それは出来ない。
(…偶然、会えればいいんだけれど…)
今の学校の生徒の間は、それしかないよね、と溜息をつく。
「そうなってしまった」自分を想像してみて、如何に大変な事態かを思い巡らせて。
(何処に行っても、周りをキョロキョロ…)
見回してばかりになるんだろうな、と「そういう自分」を頭に描く。
町に出掛けても、両親や友達と何処かに行っても、意識が向くのは「ハーレイ」ばかり。
人混みの中に混じっていないか、こちらに歩いて来はしないかと。
(ぼくと会ったら、ハーレイの記憶も戻る筈だし…)
会えさえすれば、と期待しながら、いつも、何処でも探し続ける。
遠く遥かな時の彼方で、誰よりも愛した人の姿を。
(だけど、見付からないままで…)
時が流れて過ぎてゆくなら、他のことも考えないといけない。
今の学校を卒業した後、どうしてゆけばいいのだろう。
(…ハーレイと出会っていないんだったら、順調に育っていってるかも…)
背丈も伸びて、という気がする。
卒業する十八歳の頃には、「ソルジャー・ブルー」と同じ姿に育っていそう。
外見の年は、サイオンが不器用なままでも、止めたい所で止まってくれそうではある。
だったら、まずは「其処から」だろう。
いつか「ハーレイと出会いたい」なら、前よりも年を取っては「いけない」。
若さを保った「ソルジャー・ブルー」とそっくり同じで、瓜二つであることが肝心。
(でないと、分かって貰えないかも…)
ぼくの方では、直ぐに分かっても、と思うものだから、成長は若くして止めるべき。
そのせいで様々な制約が出来てしまうとしたって、ハーレイを探し続けるのならば、若い姿で。
(十八歳の姿でいるとなったら、出来る仕事は少ないかも…)
職業のことは詳しくないのだけれども、「上の学校も出ていない」ような姿では厳しいだろう。
もっとも、身体が弱い以上は、元々、出来る仕事は少ない。
(ハーレイのお嫁さん、って決めているから、何も考えてないんだけど…)
何か職業に就くとなったら、頭脳で勝負の仕事になりそう。
ところが、そういう職業の場合、必然的に「他の人との出会いが減る」。
研究室に籠っていたなら、もうそれだけで外出が減って、ハーレイと出会える機会も減る。
(そんなの、困るよ!)
弱い身体で、うんと若くても、出会いの多い仕事って…、とポンと浮かんで来たのは歌手。
俳優でもいいし、要はルックスが良ければ「そこそこ」稼げる仕事。
(売れっ子になったら、いろんな星にも行けるしね…)
ハーレイに出会える機会も増えそう、と容易に分かる。
「売れっ子」になってしまいさえすれば、出演する場所も拘束時間も、意のままに出来る。
「そんなステージ、ぼくは出ないよ」と蹴ったり出来るし、いい職業と言えるだろう。
売れっ子になるまでがハードだとしても、将来を思えば耐えられる。
(顔が売れれば、ハーレイの方で気付いて、連絡して来てくれそうだしね?)
うんと遠い他所の星にいたって…、と頷いたけれど、「いなかった」ならば、それは無い。
懸命に頑張って「売れっ子」になって、宇宙に名前を轟かせても、愛おしい人には出会えない。
そうなったとしても、きっと、ハーレイのことを忘れはしない。
ハーレイだけしか愛さないまま、生涯を終えてゆくのだと思う。
(最後の最後まで、出会えなくっても…)
ハーレイを探し続けるんだよ、と分かっているから、ちゃんと「出会えた」今が嬉しい。
今日は駄目でも、明日には会えるだろうから。
明日も、明後日も、その先も会えなかったとしたって、ハーレイは「いてくれる」のだから…。
出会えなくっても・了
※生まれ変わって来ても、其処にハーレイがいなかったなら…、と考えてみたブルー君。
きっと一生、ハーレイを探し続けるのです。成長を止めて、向いていない仕事も頑張ってv
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