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思いやりって
「ねえ、ハーレイ。思いやりって…」
 大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 思いやりって…」
 急にどうした、とハーレイは首を傾げてブルーを見詰めた。
 質問の意図は謎だけれども、思いやりというものならば…。
(こいつは充分、持ち合わせている筈だよな…?)
 前のあいつには負けるかもだが、と考えてしまう。
 遠く遥かな時の彼方で、ひたすらに人を思いやったブルー。
 自分のことなど後回しにして、全て、他人を優先だった。
(いつも仲間のことを思って、思いやって生きて…)
 最後にはとうとう、命までをも捨ててしまった。
 自分の命さえ投げ出したならば、白い箱舟を守れるから。
 シャングリラをナスカから、無事に何処かへ逃がせるから。
(…前の俺たちは、そうやって…)
 ブルーの「最後の思いやり」に救われ、地球を目指した。
 そうやって今の平和が生まれて、地球も青く蘇った。
(とはいえ、前のあいつは戻らないままで…)
 青い地球の上に生まれて来るまで、報われないまま。
 もしかしたなら、天国で報われたのかもしれないけれど。


 そんな風に生きた前のブルーと、今の小さなブルーは違う。
 今のブルーは幸せ一杯、時には我儘だって言う。
(しかしだな…)
 思いやりに欠けているなどと、一度も思ったことはない。
 まだまだチビの子供だけれども、人を思いやる心は充分。
(お父さんたちが心配するだろうから、と…)
 具合が悪いのを隠そうとしたり、無理をしてみたり。
 結局、体調を崩してしまって、寝込んだ時にも同じこと。
(大丈夫だよ、って…)
 自分のことは一人で出来る、と頑張ろうとする。
 ベッドから降りた途端に倒れそうでも、踏ん張って。
 パジャマの着替えが大変だろうが、母を呼びはしないで。
(…たまに途中で、ダウンしちまうみたいだが…)
 着替えられずに床に倒れて、そのままな日もあるらしい。
 もっとも、両親の方も、それは承知で、注意している。
 「ブルーがベッドで、寝ているかどうか」を、見に訪れる。
 水を運んだり、上掛けを直しに来たりと、口実をつけて。
(それもまた、思いやりってヤツだよなあ…)
 両親と互いに、とハーレイは一人で頷く。
 その両親が育てた今のブルーも、人を思いやれる子に育つ。
 優しい両親の心をそのまま、たっぷり受け継ぐから。


(…つまりは、思いやりは充分なわけで…)
 わざわざ俺に聞くまでもない、と考えて、ハタと気付いた。
 ブルーが言う「大切だよね」は、他の人間かもしれない。
(…こいつにとっては当然のことを、まるで無視して…)
 思いやりに欠けた誰かがいるとか、そういったケース。
 それも、ブルーの身近な所に。
(…友達の中に、そういったヤツが…)
 いるんだろうか、と顎に手を当て、「そうかもな」と思う。
 貸した本を返すのが遅いとか、約束を忘れがちだとか。
(…有り得るぞ…)
 きっとソレだ、という気がするから、ブルーに尋ねた。
「おい。もしかして、思いやりに欠けた誰かがだな…」
 お前の近くにいたりするのか、とブルーの瞳を覗き込んで。
 するとブルーは、「うん」と即座に、首を縦に振った。
「だから、ちょっぴり困ってて…」
 なのに気付いてくれないんだよ、と小さなブルーは困り顔。
 「注意するより、自分で気付いて欲しいんだけど」と。
「あー…。そりゃまあ、注意するっていうのは…」
 最後の手段になりそうだよな、とハーレイにも分かる。
 下手にやったら、友情にヒビが入るから。
 そうなることを回避するのも、これまた思いやりだから。


 けれどブルーに、どう答えたらいいのだろう。
(思いやりは大切だから、注意すべきだ、なんてだな…)
 言えはしないし、教師の自分が言いに行くのは余計に悪い。
 ブルーが「告げ口をした」と、相手は怒り出すだろう。
(…どうすりゃいいんだ、俺は…?)
 小さなブルーが困っているなら、助けたい。
 助け舟を出してやりたいけれども、その方法が出て来ない。
 ブルーに対する助言にしても、直接、助けに乗り出すにも。
(…その友達さえ、自分で気付いてくれればなあ…)
 そうすりゃ、万事解決だが、と腕組みをして考え込む。
 いったい自分は、この問題を、どうすべきか、と。
 ブルーにも「悩んでいる」のが、分かったのだろう。
「あのね…」
 やっぱり、気付くのを待つことにする、とブルーは笑んだ。
 「ぼくなら、それまで我慢出来るし、それでいいよ」と。
「そうなのか? しかし、俺にまで相談するくらい…」
 思いやりに欠けたヤツなんだろう、と心配になる。
 本当に放っておいていいのか、もう気掛かりでたまらない。
 するとブルーは、クスッと笑った。
 「だって、その人、ぼくの目の前にいるんだもの」」と。


「なんだって!?」
 俺か、とハーレイは驚いて自分を指差した。
 自分の何処が「思いやりに欠けている」のか、分からない。
 現に今にしても、ブルーの問いで悩んでいたわけで…。
「何故、俺がそういうことになるんだ?」
 分からんぞ、と睨み付けたら、ブルーは微笑む。
「ぼくの気持ちを、いつも無視してばかりでしょ?」
 キスだって、してくれないしね、と。
 「思いやりが大切だったら、ぼくにキスして」と。
(…そう来たか…!)
 極悪人め、とハーレイは拳を握った。
 ブルーの頭に、コツンと一発、軽くお見舞いするために。
 思いやりは確かに大切だけれど、それは全く別だから。
 本当にブルーを思うからこそ、キスはお預けなのだから…。


         思いやりって・了






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