早めにやるのは
「ねえ、ハーレイ。早めにやるのって…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「早めだって?」
急にどうした、とハーレイは軽く首を傾げた。
ブルーは、何か用事でも思い出したのだろうか。
「えっとね…。急に思い付いただけだから…」
特に理由は無いんだけれど、とブルーが肩を小さく竦める。
「だけど、早めにやるのは大切でしょ?」
宿題とかも、部屋の掃除にしても…、とブルーは続けた。
「まだまだ時間はたっぷりあるし、って後回しにしたら…」
間に合わないこともあるじゃない、と苦笑する。
「ぼくは、そんなの、滅多に無いけど」と、付け加えて。
「なるほど、そういう意味で早めか」
そいつは確かに大切だよな、とハーレイは大きく頷いた。
何事も、早め、早めが大事で、前の生でもそうだったから。
遠く遥かな時の彼方で、キャプテン・ハーレイだった頃。
白いシャングリラになる前も、後も、早めを心掛けていた。
エンジンのオーバーホールもそうだし、ワープドライブも。
どれも、不具合が出てから対応するのでは遅すぎる。
完璧に動作している間に、早め、早めにチェックしないと。
「シャングリラでも、早めが鉄則だったっけなあ…」
「うん。あの船の他に、暮らせる所は無かったしね」
長い間…、とブルーが相槌を打つ。
修理しないと駄目な状況なんかは、命取りだし、と。
「ああ。壊れてからだと、修理に時間がかかっちまうし…」
そういう時に限って何か起きる、とハーレイも溜息を零す。
事故に繋がったことは無かったけれども、よくあった。
空調の修理が出来ていないのに、その部屋を使う局面など。
宇宙空間は酷寒か、恒星の熱で灼熱地獄か、二つに一つ。
そんな宇宙を飛んでいる時に、空調が壊れてしまったら…。
「凍えそうな寒さの中で会議ってのも、あったしなあ…」
「あったよね…。アルテメシアに着く前の時代には…」
ホントに大変だったっけ、とブルーがクスクスと笑う。
「今だから、笑い話だけれど」と、可笑しそうに。
そういった頃の記憶は抜きでも、早めは今の時代も大切。
「明日でいいか」と放っておいたら、急な用事が入るとか。
実際、何度も経験したから、今のハーレイも意識している。
余裕を持って、早め、早めだ、と自分自身に言い聞かせて。
「早めってヤツは、今も昔も、大切だよなあ…」
つくづく思う、とハーレイはブルーに全面的に同意した。
平和な時代になったとはいえ、油断は大敵。
何事も早めにやっていくべきで、後回しにすれば後悔する。
「でしょ? 今のハーレイも、早めが大事で…」
心掛けてるわけだよね、とブルーは自分を指差した。
「ぼくもそうだよ、身体が弱い分、早めにしないと…」
寝込んじゃったら、時間が無くなっちゃうしね、と。
「まあなあ…。宿題なら、猶予を貰えそうだが…」
部屋の掃除じゃ、困るのはお前だ、とハーレイは笑った。
「掃除が済んでない部屋で、寝込んじまったら…」
片付いてない部屋で寝るしかないしな、と、おどけながら。
「部屋は汚れる一方で、だ…」
それが嫌なら、お母さんに頼むしか…、とも。
母に掃除を頼んだ場合は、あちこち覗かれてしまいそう。
隠しておきたいものがあっても、見られるだとか。
「そう! そんなの、ホントに困っちゃうしね…」
部屋の掃除も早めなんだよ、とブルーは否定しなかった。
隠したいようなものは無くても、プライバシーの問題、と。
「プライバシーだと? 一人前の口を利くなあ、お前…」
まだまだ、ほんのチビのくせに、とハーレイは返す。
「もっと大きくなってからにしろ」と、からかうように。
「ハーレイ、酷い! でも、チビだって…」
早めは大切なんだからね、とブルーは唇を尖らせた。
「チビだ、チビだ、って後回しは駄目!」
「はあ?」
何を後回しにすると言うんだ、とハーレイは目を丸くする。
「お前にしたって、早めを心掛けているんだろう?」
後回しにしてはいないじゃないか、と首を捻った。
「それなのに、何処が駄目なんだ?」と。
するとブルーは、「ぼくじゃなくって!」と即答した。
「ハーレイだってば、ぼくが言ってるのはね!」
「俺だって?」
「分からないかな、今だって、ぼくをチビだ、って…」
後回しにしているじゃない、と赤い瞳が睨んで来る。
「早めを心掛けてるくせに!」と。
「早めって…? チビと、どう繋がるんだ?」
分からんぞ、とハーレイが唸ると、ブルーは叫んだ。
「キスだってば!」
早めにしておくべきだよね、と勝ち誇った顔で。
「前と同じに育ってから、なんて言っていないで!」
後回しにしちゃダメなんでしょ、とブルーは得意満面。
早めにするのは大切だしね、と鬼の首でも取ったように。
「馬鹿野郎!」
それは早めにしなくてもいい、とハーレイは軽く拳を握る。
揚げ足を取りに来た悪戯小僧に、一発お見舞いするために。
銀色の頭をコツンとやるだけ、ゴツンではなくて。
お仕置きも、早めが大切だから。
ブルーが調子に乗って来ない間に、やるべきだから…。
早めにやるのは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「早めだって?」
急にどうした、とハーレイは軽く首を傾げた。
ブルーは、何か用事でも思い出したのだろうか。
「えっとね…。急に思い付いただけだから…」
特に理由は無いんだけれど、とブルーが肩を小さく竦める。
「だけど、早めにやるのは大切でしょ?」
宿題とかも、部屋の掃除にしても…、とブルーは続けた。
「まだまだ時間はたっぷりあるし、って後回しにしたら…」
間に合わないこともあるじゃない、と苦笑する。
「ぼくは、そんなの、滅多に無いけど」と、付け加えて。
「なるほど、そういう意味で早めか」
そいつは確かに大切だよな、とハーレイは大きく頷いた。
何事も、早め、早めが大事で、前の生でもそうだったから。
遠く遥かな時の彼方で、キャプテン・ハーレイだった頃。
白いシャングリラになる前も、後も、早めを心掛けていた。
エンジンのオーバーホールもそうだし、ワープドライブも。
どれも、不具合が出てから対応するのでは遅すぎる。
完璧に動作している間に、早め、早めにチェックしないと。
「シャングリラでも、早めが鉄則だったっけなあ…」
「うん。あの船の他に、暮らせる所は無かったしね」
長い間…、とブルーが相槌を打つ。
修理しないと駄目な状況なんかは、命取りだし、と。
「ああ。壊れてからだと、修理に時間がかかっちまうし…」
そういう時に限って何か起きる、とハーレイも溜息を零す。
事故に繋がったことは無かったけれども、よくあった。
空調の修理が出来ていないのに、その部屋を使う局面など。
宇宙空間は酷寒か、恒星の熱で灼熱地獄か、二つに一つ。
そんな宇宙を飛んでいる時に、空調が壊れてしまったら…。
「凍えそうな寒さの中で会議ってのも、あったしなあ…」
「あったよね…。アルテメシアに着く前の時代には…」
ホントに大変だったっけ、とブルーがクスクスと笑う。
「今だから、笑い話だけれど」と、可笑しそうに。
そういった頃の記憶は抜きでも、早めは今の時代も大切。
「明日でいいか」と放っておいたら、急な用事が入るとか。
実際、何度も経験したから、今のハーレイも意識している。
余裕を持って、早め、早めだ、と自分自身に言い聞かせて。
「早めってヤツは、今も昔も、大切だよなあ…」
つくづく思う、とハーレイはブルーに全面的に同意した。
平和な時代になったとはいえ、油断は大敵。
何事も早めにやっていくべきで、後回しにすれば後悔する。
「でしょ? 今のハーレイも、早めが大事で…」
心掛けてるわけだよね、とブルーは自分を指差した。
「ぼくもそうだよ、身体が弱い分、早めにしないと…」
寝込んじゃったら、時間が無くなっちゃうしね、と。
「まあなあ…。宿題なら、猶予を貰えそうだが…」
部屋の掃除じゃ、困るのはお前だ、とハーレイは笑った。
「掃除が済んでない部屋で、寝込んじまったら…」
片付いてない部屋で寝るしかないしな、と、おどけながら。
「部屋は汚れる一方で、だ…」
それが嫌なら、お母さんに頼むしか…、とも。
母に掃除を頼んだ場合は、あちこち覗かれてしまいそう。
隠しておきたいものがあっても、見られるだとか。
「そう! そんなの、ホントに困っちゃうしね…」
部屋の掃除も早めなんだよ、とブルーは否定しなかった。
隠したいようなものは無くても、プライバシーの問題、と。
「プライバシーだと? 一人前の口を利くなあ、お前…」
まだまだ、ほんのチビのくせに、とハーレイは返す。
「もっと大きくなってからにしろ」と、からかうように。
「ハーレイ、酷い! でも、チビだって…」
早めは大切なんだからね、とブルーは唇を尖らせた。
「チビだ、チビだ、って後回しは駄目!」
「はあ?」
何を後回しにすると言うんだ、とハーレイは目を丸くする。
「お前にしたって、早めを心掛けているんだろう?」
後回しにしてはいないじゃないか、と首を捻った。
「それなのに、何処が駄目なんだ?」と。
するとブルーは、「ぼくじゃなくって!」と即答した。
「ハーレイだってば、ぼくが言ってるのはね!」
「俺だって?」
「分からないかな、今だって、ぼくをチビだ、って…」
後回しにしているじゃない、と赤い瞳が睨んで来る。
「早めを心掛けてるくせに!」と。
「早めって…? チビと、どう繋がるんだ?」
分からんぞ、とハーレイが唸ると、ブルーは叫んだ。
「キスだってば!」
早めにしておくべきだよね、と勝ち誇った顔で。
「前と同じに育ってから、なんて言っていないで!」
後回しにしちゃダメなんでしょ、とブルーは得意満面。
早めにするのは大切だしね、と鬼の首でも取ったように。
「馬鹿野郎!」
それは早めにしなくてもいい、とハーレイは軽く拳を握る。
揚げ足を取りに来た悪戯小僧に、一発お見舞いするために。
銀色の頭をコツンとやるだけ、ゴツンではなくて。
お仕置きも、早めが大切だから。
ブルーが調子に乗って来ない間に、やるべきだから…。
早めにやるのは・了
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