違うタイプにも
(ぼくもハーレイも、新しい命なんだよね…)
それに身体も新しい身体、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ついつい、忘れちゃうんだけれど…)
あまりにも前の身体と似ていて、現実を忘れそうになる。
ハーレイは「前のハーレイ」にそっくりそのまま、それに自分も前と同じに生まれて来た。
自分の場合は、少し小さくなったけれども、前の自分の記憶の最初は、今の姿と同じ。
(成長を止めてしまっていたから、十四歳になった時の身体のままで…)
前の自分は長く過ごして、まだ若かった前のハーレイと出会った。
メギドの炎で燃えるアルタミラで、閉じ込められていたシェルターを破壊した時に。
(あの時は、ハーレイも若かったけど…)
今度のぼくは、その時期を知らないんだよね、と苦笑する。
生まれ変わって、またハーレイと出会った時には、ハーレイは育ち切っていた。
白いシャングリラのブリッジに立っていた頃と、何処も変わりはないものだから…。
(ちょっぴり残念…)
若いハーレイも見たかったのに、と悔しがっても仕方ない。
神様に細かい注文なんて、出来るほど偉い立場でもない。
(新しい命と身体を貰って、おまけにハーレイと一緒に、青い地球まで…)
来させてくれたのが神様なのだし、感謝すべきで、文句は言えない。
若かった頃の「今のハーレイ」に会えなかったことは、諦めるしか無いだろう。
(ホントに惜しくて、残念だけど…)
仕方ないよね、と自分に言い聞かせながら、今のハーレイの若い時代に思いを馳せる。
「プロの選手にならないか」と誘いが来たほど、柔道と水泳では凄かったらしい。
今も柔道部で指導しているし、学校によっては水泳部を担当することもあるという。
若かった頃は、数々の大会で名を轟かせて、花束も沢山貰ったと聞いた。
女性のファンたちも大勢いたのに、ハーレイは誰も好きにはならずに過ごして来て…。
(ぼくと出会って、また恋をして…)
今度は結婚するんだよ、と頬を緩める。
前の自分たちには許されなかった、結婚して二人で生きてゆくこと。
それが今度は当たり前のように、人生の先に待っている。
今の自分が結婚出来る年になったら、もう、すぐにでも結婚式で…。
(ハーレイの家で、一緒に暮らしていくんだよ)
あと何年かの我慢だものね、と胸を弾ませて、残りの期間を数えてゆく。
十八歳になれば、結婚出来る年だから。
考えただけで嬉しくなるのが、ハーレイと暮らす未来のこと。
前の自分には叶わなかった、沢山の夢を二人で叶える。
青い地球の上で旅に出掛けて、高山に咲く青いケシを見て、サトウカエデの森にも行く。
他にも夢はドッサリ山ほど、どれから叶えてゆくのがいいのか、悩んでしまう。
(ハーレイと毎日、相談かもね?)
仕事が休みの時しか旅は出来ないのだから、ガイドブックを買い込んで来て、検討する。
一度の旅行で何ヶ所か回ることが出来るなら、そういうコースを組むために。
(ハーレイはコーヒーを飲みながら読んで、ぼくはココアかホットミルクかな?)
相談する時間は夕食後が多くなるのだろうし、紅茶を飲むには遅すぎる。
よほど薄めに淹れない限りは、目が冴えてしまって眠れなくなる。
(…ハーレイはコーヒーを飲んだ後でも、寝られるのにね…)
やっぱりキャプテンだったせいかな、と思うけれども、違うだろう。
前の生での習慣や体質、そういったものは、生まれ変わった以上は、引き継がれない。
新しい命と新しい身体で、新しい人生を歩む以上は、全てを一から築いてゆく。
見た目の姿は、そっくり同じになっているけれど、そこだけが例外中の例外。
聖痕をくれた神様の粋な計らいなだけで、他の部分は全く違う。
(ぼくだって、うんと甘えん坊になっちゃった上に、サイオンだって不器用で…)
誰が見たって、今の時代は大英雄の「ソルジャー・ブルー」と同じとは思えないだろう。
自分自身でも「違うよね…」と自覚があるから、他人から見れば、もっと評価は厳しくなる。
今のハーレイが見ている「ブルー」も、甘えん坊で我儘なチビなものだから…。
(唇へのキスはしてくれなくて、代わりに、ぼくが膨れていたら…)
頬っぺたを大きな両手で包んで、ペシャンと潰して笑っている。
「フグがハコフグになっちまったな」と、さも可笑しそうに。
(…うーん…)
でも、恋人には違いないし、と考え直して、ハタと気付いた。
確かに今は「恋人」だけれど、これから先はどうだろう。
今のハーレイが歩んでいるのは、前のハーレイとは違う人生。
新しい人生を一から始めて、今の姿まで育つ間には、幸い、出会っていなかっただけで…。
(この先、ぼくより素敵な誰かに…)
出会ってしまって、そちらの方を好きにならないとは限らない。
なんと言っても、新しい人生を生きている上、この先も前とは違う人生を生きてゆく。
今のハーレイの人生に白いシャングリラは関係無くて、キャプテンの務めも背負っていない。
「ブルー」と出会う前も同じで、自由気ままに生きて来た。
当然、前のハーレイとは…。
(好みも変わって来ちゃうんだよね…?)
それが自然で当然だもの、と恐ろしい考えが膨らんでゆく。
ハーレイの好みが「違う」のだったら、好みのタイプの人間も違うかもしれない。
前のハーレイの目には、「前のブルー」が魅力的に映っていたのだけれど…。
(…今のハーレイも、今のぼくを好きでいてくれるけど…)
聖痕で記憶が戻った今だけ、「ブルー」を好きになっている、という可能性だって…。
(……ゼロじゃないんだ……)
今まで気付いていなかったけど、と愕然とする。
前のハーレイの記憶が戻って来たなら、「ブルー」に恋をするのは不思議ではない。
記憶の中に「昔の恋人」がいて、その人が目の前に現れたならば、惚れるだろう。
今のハーレイに、「今ならではの恋人」が、まだ、いないのならば。
(…俺が好きなのは、ブルーなんだ、って…)
一目で恋に落ちそうだけれど、そうして出会って、新しい人生を生きてゆく内に…。
(今のハーレイの好みにピッタリで、ぼくより魅力的に見える誰かが…)
ハーレイの前に現れないとは言い切れない。
新しい人生を生きているなら、むしろ「無い」方が変だとも言える。
違う人生を生きる間に、好みも変わってゆくのが自然で、変わらない方が不自然だから…。
(ぼくとハーレイ、聖痕の奇跡で出会えたお蔭で…)
奇跡のように「前と同じに」恋に落ちたけれど、それは一時のことかもしれない。
この先、人生を歩む間に、二人の道は分かれてしまって…。
(…ハーレイは違う誰かに恋して、その人と…)
結婚して去ってしまうのだろうか、「すまん」と謝り、頭を下げて。
「悪いが、この人が好きなんだ」と、新しい恋人の名前を挙げて。
(…そんなの、酷い…!)
酷すぎるよ、と思うけれども、まるで無いとは言えないわけで、自信も無い。
今のハーレイにとっても、「今のブルー」が魅力的だと思って貰えるかどうか。
(…前のぼくと違って、何も出来なくて…)
おまけに前より甘えん坊で、我儘になってしまった「ブルー」。
ソルジャー・ブルーだった頃とは、中身が全く違っている。
前のハーレイは、「ソルジャー・ブルー」の右腕だったけれども、今のブルーには…。
(…ハーレイを右腕だなんて言えるくらいの、凄い部分は、なんにも無くて…)
ただハーレイに甘えるだけの、厄介な「お荷物」になってしまいそう。
現に将来、結婚したら、毎日の食事を作るのも…。
(今のハーレイってことになってて、ぼくは留守番するだけで…)
何もやらないし、出来そうにないし、本当に何の役にも立たない。
魅力的どころか「ただのお荷物」、見た目だけが「綺麗」というだけで。
どうしよう、とブルーの身体が震え出す。
何の魅力も持たない「ブルー」は、いつか振られるかもしれない。
「ブルー」よりも素敵で魅力的な誰かが、ハーレイの前に現れて。
ハーレイが惹かれてしまうタイプが、ハーレイの新しい人生の先に舞い降りて。
(…違う人生を生きてるんなら、違うタイプにも…)
恋をするよね、と足元が崩れ落ちてゆきそう。
考えたことさえ無かったけれども、どうして「無い」と言えるだろう。
今のハーレイの「好みのタイプ」は、「ブルーではない」という、自然な成り行き。
そちらの方が「前と同じで、ブルーが好み」よりも、充分、有り得ること。
(前のハーレイより、ずっと自由に生きて来て…)
広い世界を見て来たのだから、好みのタイプも違っていそう。
ハーレイ自身も気付いていなくて、ついでに「出会ってはいない」だけの「好みのタイプ」。
それがどういうタイプなのかは、想像したくもないけれど…。
(…ぼくと違って、うんと元気な人なのかな…?)
活動的なハーレイと一緒に、何処へでも出掛けてゆける人。
前と同じに弱く生まれた「ブルー」とは違う、健康な身体を持っている誰か。
(……ジョミーみたいに……)
太陽のような命の輝きが溢れる、活発なサッカー少年だとか…。
(サッカーでなくても、柔道だとか、水泳だとか…)
今のハーレイと同じスポーツが得意だったら、それだけで魅力的だろう。
「ブルー」と違って、同じ世界を二人で楽しんでゆけるから。
柔道や水泳ではないスポーツにしても、それが得意だというだけで…。
(ぼくよりは、うんと今のハーレイに…)
近い要素を持つわけなのだし、「ブルー」では、とても敵わない。
そういう人間が、今のハーレイの前に現れたなら。
今のハーレイの心を惹き付け、ハーレイの心を奪って行ってしまったら。
(…巻き返そうにも、ぼくはなんにも…)
出来やしないよ、と涙が出そう。
今のハーレイが好きなスポーツには付き合えないし、身体が持たない。
山登りも、プールも、海水浴も、「ブルー」だと、体調と相談だけれど…。
(ジョミーみたいに元気だったら、朝に突然、誘いに来られて…)
海に行くか、と聞かれたとしても、「うんっ!」と即答、直ぐに支度も出来ると思う。
その辺のバッグにタオルや水着をササッと詰めて、玄関からダッと飛び出して。
ハーレイが乗って来た車に駆け寄り、助手席のドアを自分で開けて。
(よし、行くぞ、って、ハーレイ、お弁当も二人分…)
用意しているのは間違いないよね、と悲しくなって来た。
今の自分は絶対に勝てない、「今のハーレイ」の好みのタイプの元気な「誰か」。
ハーレイの心は、そちらに傾いて行ってしまって、どうすることも出来ないまま。
取り戻すために何かしたくても、「今のブルー」は何の取柄も持っていないし、仕方ない。
(せめて料理、って思っても…)
もう手遅れで、ハーレイの心を掴む道など残ってはいない。
慌てて料理の腕を磨いても、披露出来る頃には、ハーレイは、とっくに…。
(新しい恋人にすっかり夢中で、招待しても…)
断られてしまって、それでおしまい。
「招待しても、駄目なんだったら…」と、作って、家に届けても…。
(すまんな、って受け取ってはくれるだろうけど…)
下手にお菓子でも届けようものなら、新しい恋人と一緒に食べるのかもしれない。
沢山作って、持って行ったら。
「一人で食うより、あいつと食うのが一番だよな」と、取っておかれて。
(…今のハーレイの大好物の、パウンドケーキ…)
それを頑張ってマスターしたなら、本当に、「新しい恋人」と食べられてしまうかも。
ハーレイが、いそいそ、切り分けて。
「美味いんだぞ」と、「俺のおふくろの味と同じなんだ」と、お揃いの皿に乗っけて。
(…あんまりだから…!)
でも、本当にありそうだよね、と怖くなるから、それだけは勘弁して欲しい。
今のハーレイなら、違うタイプにも惚れて不思議は無いのだけれど…。
(……神様、お願い……!)
ぼくだけが好みにしておいて、と懸命に祈る。
今のハーレイに違うタイプの「恋人」が出来たら、「ブルー」では勝てはしないから。
どう頑張っても「最初から駄目」で、どうにもなりはしないから。
出来るのは神に祈ることだけ、「今のハーレイも、ぼくが好みでありますように」と…。
違うタイプにも・了
※前のハーレイとは違う人生を歩んでいるのが、ハーレイ先生。前とは違う部分も沢山。
もしかしたら好みのタイプも、ブルー君ではないのかも。それは勘弁して欲しいですよねv
それに身体も新しい身体、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ついつい、忘れちゃうんだけれど…)
あまりにも前の身体と似ていて、現実を忘れそうになる。
ハーレイは「前のハーレイ」にそっくりそのまま、それに自分も前と同じに生まれて来た。
自分の場合は、少し小さくなったけれども、前の自分の記憶の最初は、今の姿と同じ。
(成長を止めてしまっていたから、十四歳になった時の身体のままで…)
前の自分は長く過ごして、まだ若かった前のハーレイと出会った。
メギドの炎で燃えるアルタミラで、閉じ込められていたシェルターを破壊した時に。
(あの時は、ハーレイも若かったけど…)
今度のぼくは、その時期を知らないんだよね、と苦笑する。
生まれ変わって、またハーレイと出会った時には、ハーレイは育ち切っていた。
白いシャングリラのブリッジに立っていた頃と、何処も変わりはないものだから…。
(ちょっぴり残念…)
若いハーレイも見たかったのに、と悔しがっても仕方ない。
神様に細かい注文なんて、出来るほど偉い立場でもない。
(新しい命と身体を貰って、おまけにハーレイと一緒に、青い地球まで…)
来させてくれたのが神様なのだし、感謝すべきで、文句は言えない。
若かった頃の「今のハーレイ」に会えなかったことは、諦めるしか無いだろう。
(ホントに惜しくて、残念だけど…)
仕方ないよね、と自分に言い聞かせながら、今のハーレイの若い時代に思いを馳せる。
「プロの選手にならないか」と誘いが来たほど、柔道と水泳では凄かったらしい。
今も柔道部で指導しているし、学校によっては水泳部を担当することもあるという。
若かった頃は、数々の大会で名を轟かせて、花束も沢山貰ったと聞いた。
女性のファンたちも大勢いたのに、ハーレイは誰も好きにはならずに過ごして来て…。
(ぼくと出会って、また恋をして…)
今度は結婚するんだよ、と頬を緩める。
前の自分たちには許されなかった、結婚して二人で生きてゆくこと。
それが今度は当たり前のように、人生の先に待っている。
今の自分が結婚出来る年になったら、もう、すぐにでも結婚式で…。
(ハーレイの家で、一緒に暮らしていくんだよ)
あと何年かの我慢だものね、と胸を弾ませて、残りの期間を数えてゆく。
十八歳になれば、結婚出来る年だから。
考えただけで嬉しくなるのが、ハーレイと暮らす未来のこと。
前の自分には叶わなかった、沢山の夢を二人で叶える。
青い地球の上で旅に出掛けて、高山に咲く青いケシを見て、サトウカエデの森にも行く。
他にも夢はドッサリ山ほど、どれから叶えてゆくのがいいのか、悩んでしまう。
(ハーレイと毎日、相談かもね?)
仕事が休みの時しか旅は出来ないのだから、ガイドブックを買い込んで来て、検討する。
一度の旅行で何ヶ所か回ることが出来るなら、そういうコースを組むために。
(ハーレイはコーヒーを飲みながら読んで、ぼくはココアかホットミルクかな?)
相談する時間は夕食後が多くなるのだろうし、紅茶を飲むには遅すぎる。
よほど薄めに淹れない限りは、目が冴えてしまって眠れなくなる。
(…ハーレイはコーヒーを飲んだ後でも、寝られるのにね…)
やっぱりキャプテンだったせいかな、と思うけれども、違うだろう。
前の生での習慣や体質、そういったものは、生まれ変わった以上は、引き継がれない。
新しい命と新しい身体で、新しい人生を歩む以上は、全てを一から築いてゆく。
見た目の姿は、そっくり同じになっているけれど、そこだけが例外中の例外。
聖痕をくれた神様の粋な計らいなだけで、他の部分は全く違う。
(ぼくだって、うんと甘えん坊になっちゃった上に、サイオンだって不器用で…)
誰が見たって、今の時代は大英雄の「ソルジャー・ブルー」と同じとは思えないだろう。
自分自身でも「違うよね…」と自覚があるから、他人から見れば、もっと評価は厳しくなる。
今のハーレイが見ている「ブルー」も、甘えん坊で我儘なチビなものだから…。
(唇へのキスはしてくれなくて、代わりに、ぼくが膨れていたら…)
頬っぺたを大きな両手で包んで、ペシャンと潰して笑っている。
「フグがハコフグになっちまったな」と、さも可笑しそうに。
(…うーん…)
でも、恋人には違いないし、と考え直して、ハタと気付いた。
確かに今は「恋人」だけれど、これから先はどうだろう。
今のハーレイが歩んでいるのは、前のハーレイとは違う人生。
新しい人生を一から始めて、今の姿まで育つ間には、幸い、出会っていなかっただけで…。
(この先、ぼくより素敵な誰かに…)
出会ってしまって、そちらの方を好きにならないとは限らない。
なんと言っても、新しい人生を生きている上、この先も前とは違う人生を生きてゆく。
今のハーレイの人生に白いシャングリラは関係無くて、キャプテンの務めも背負っていない。
「ブルー」と出会う前も同じで、自由気ままに生きて来た。
当然、前のハーレイとは…。
(好みも変わって来ちゃうんだよね…?)
それが自然で当然だもの、と恐ろしい考えが膨らんでゆく。
ハーレイの好みが「違う」のだったら、好みのタイプの人間も違うかもしれない。
前のハーレイの目には、「前のブルー」が魅力的に映っていたのだけれど…。
(…今のハーレイも、今のぼくを好きでいてくれるけど…)
聖痕で記憶が戻った今だけ、「ブルー」を好きになっている、という可能性だって…。
(……ゼロじゃないんだ……)
今まで気付いていなかったけど、と愕然とする。
前のハーレイの記憶が戻って来たなら、「ブルー」に恋をするのは不思議ではない。
記憶の中に「昔の恋人」がいて、その人が目の前に現れたならば、惚れるだろう。
今のハーレイに、「今ならではの恋人」が、まだ、いないのならば。
(…俺が好きなのは、ブルーなんだ、って…)
一目で恋に落ちそうだけれど、そうして出会って、新しい人生を生きてゆく内に…。
(今のハーレイの好みにピッタリで、ぼくより魅力的に見える誰かが…)
ハーレイの前に現れないとは言い切れない。
新しい人生を生きているなら、むしろ「無い」方が変だとも言える。
違う人生を生きる間に、好みも変わってゆくのが自然で、変わらない方が不自然だから…。
(ぼくとハーレイ、聖痕の奇跡で出会えたお蔭で…)
奇跡のように「前と同じに」恋に落ちたけれど、それは一時のことかもしれない。
この先、人生を歩む間に、二人の道は分かれてしまって…。
(…ハーレイは違う誰かに恋して、その人と…)
結婚して去ってしまうのだろうか、「すまん」と謝り、頭を下げて。
「悪いが、この人が好きなんだ」と、新しい恋人の名前を挙げて。
(…そんなの、酷い…!)
酷すぎるよ、と思うけれども、まるで無いとは言えないわけで、自信も無い。
今のハーレイにとっても、「今のブルー」が魅力的だと思って貰えるかどうか。
(…前のぼくと違って、何も出来なくて…)
おまけに前より甘えん坊で、我儘になってしまった「ブルー」。
ソルジャー・ブルーだった頃とは、中身が全く違っている。
前のハーレイは、「ソルジャー・ブルー」の右腕だったけれども、今のブルーには…。
(…ハーレイを右腕だなんて言えるくらいの、凄い部分は、なんにも無くて…)
ただハーレイに甘えるだけの、厄介な「お荷物」になってしまいそう。
現に将来、結婚したら、毎日の食事を作るのも…。
(今のハーレイってことになってて、ぼくは留守番するだけで…)
何もやらないし、出来そうにないし、本当に何の役にも立たない。
魅力的どころか「ただのお荷物」、見た目だけが「綺麗」というだけで。
どうしよう、とブルーの身体が震え出す。
何の魅力も持たない「ブルー」は、いつか振られるかもしれない。
「ブルー」よりも素敵で魅力的な誰かが、ハーレイの前に現れて。
ハーレイが惹かれてしまうタイプが、ハーレイの新しい人生の先に舞い降りて。
(…違う人生を生きてるんなら、違うタイプにも…)
恋をするよね、と足元が崩れ落ちてゆきそう。
考えたことさえ無かったけれども、どうして「無い」と言えるだろう。
今のハーレイの「好みのタイプ」は、「ブルーではない」という、自然な成り行き。
そちらの方が「前と同じで、ブルーが好み」よりも、充分、有り得ること。
(前のハーレイより、ずっと自由に生きて来て…)
広い世界を見て来たのだから、好みのタイプも違っていそう。
ハーレイ自身も気付いていなくて、ついでに「出会ってはいない」だけの「好みのタイプ」。
それがどういうタイプなのかは、想像したくもないけれど…。
(…ぼくと違って、うんと元気な人なのかな…?)
活動的なハーレイと一緒に、何処へでも出掛けてゆける人。
前と同じに弱く生まれた「ブルー」とは違う、健康な身体を持っている誰か。
(……ジョミーみたいに……)
太陽のような命の輝きが溢れる、活発なサッカー少年だとか…。
(サッカーでなくても、柔道だとか、水泳だとか…)
今のハーレイと同じスポーツが得意だったら、それだけで魅力的だろう。
「ブルー」と違って、同じ世界を二人で楽しんでゆけるから。
柔道や水泳ではないスポーツにしても、それが得意だというだけで…。
(ぼくよりは、うんと今のハーレイに…)
近い要素を持つわけなのだし、「ブルー」では、とても敵わない。
そういう人間が、今のハーレイの前に現れたなら。
今のハーレイの心を惹き付け、ハーレイの心を奪って行ってしまったら。
(…巻き返そうにも、ぼくはなんにも…)
出来やしないよ、と涙が出そう。
今のハーレイが好きなスポーツには付き合えないし、身体が持たない。
山登りも、プールも、海水浴も、「ブルー」だと、体調と相談だけれど…。
(ジョミーみたいに元気だったら、朝に突然、誘いに来られて…)
海に行くか、と聞かれたとしても、「うんっ!」と即答、直ぐに支度も出来ると思う。
その辺のバッグにタオルや水着をササッと詰めて、玄関からダッと飛び出して。
ハーレイが乗って来た車に駆け寄り、助手席のドアを自分で開けて。
(よし、行くぞ、って、ハーレイ、お弁当も二人分…)
用意しているのは間違いないよね、と悲しくなって来た。
今の自分は絶対に勝てない、「今のハーレイ」の好みのタイプの元気な「誰か」。
ハーレイの心は、そちらに傾いて行ってしまって、どうすることも出来ないまま。
取り戻すために何かしたくても、「今のブルー」は何の取柄も持っていないし、仕方ない。
(せめて料理、って思っても…)
もう手遅れで、ハーレイの心を掴む道など残ってはいない。
慌てて料理の腕を磨いても、披露出来る頃には、ハーレイは、とっくに…。
(新しい恋人にすっかり夢中で、招待しても…)
断られてしまって、それでおしまい。
「招待しても、駄目なんだったら…」と、作って、家に届けても…。
(すまんな、って受け取ってはくれるだろうけど…)
下手にお菓子でも届けようものなら、新しい恋人と一緒に食べるのかもしれない。
沢山作って、持って行ったら。
「一人で食うより、あいつと食うのが一番だよな」と、取っておかれて。
(…今のハーレイの大好物の、パウンドケーキ…)
それを頑張ってマスターしたなら、本当に、「新しい恋人」と食べられてしまうかも。
ハーレイが、いそいそ、切り分けて。
「美味いんだぞ」と、「俺のおふくろの味と同じなんだ」と、お揃いの皿に乗っけて。
(…あんまりだから…!)
でも、本当にありそうだよね、と怖くなるから、それだけは勘弁して欲しい。
今のハーレイなら、違うタイプにも惚れて不思議は無いのだけれど…。
(……神様、お願い……!)
ぼくだけが好みにしておいて、と懸命に祈る。
今のハーレイに違うタイプの「恋人」が出来たら、「ブルー」では勝てはしないから。
どう頑張っても「最初から駄目」で、どうにもなりはしないから。
出来るのは神に祈ることだけ、「今のハーレイも、ぼくが好みでありますように」と…。
違うタイプにも・了
※前のハーレイとは違う人生を歩んでいるのが、ハーレイ先生。前とは違う部分も沢山。
もしかしたら好みのタイプも、ブルー君ではないのかも。それは勘弁して欲しいですよねv
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