違うタイプに
(俺とあいつは、生まれ変わって…)
うんと幸せになるんだよな、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
遠く遥かな時の彼方では、ブルーとの恋は成就しなかった。
二人だけの間の秘密で終わって、おまけにブルーを失くしてしまった。
(しかし今度は、何の支障も無いわけで…)
チビのブルーが結婚出来る年になったら、この家で一緒に暮らしてゆける。
あと何年かの間の辛抱、それからは幸せ一杯の日々が続いてゆく。
家に帰ればブルーがいるし、朝もブルーに送り出されて仕事に行ける。
休みの時には、ドライブに行ったり、旅行したりと、この青い地球を満喫する。
前の生でブルーと交わした約束、それを叶えてゆくために。
(約束、山ほどしたからなあ…)
どれを最初にすればいいやら、と可笑しくなってしまうけれども、それも楽しい。
ブルーと色々相談しながら、夢だったことを現実にする。
高山に咲く青いケシを見るとか、本物のサトウカエデの森を訪ねるとか。
(忙しくなるぞ、結婚したら)
休みは全部、あちこち飛び回る間に終わりそうだ、と苦笑する。
とはいえ、今のブルーも身体が弱いし、休みも取らねばならないだろう。
休養する間が、実質上の休みという勘定になりそうだ。
(あいつは家でのんびり過ごして、俺はジョギングに出掛けて行って…)
ジムのプールで軽く泳いで、それから家に帰って来る。
帰る頃には、ちょうど昼前くらいだろうか。
(そこから俺が飯を作って、二人で食べて…)
ブルーは午後もゆっくり昼寝で、ハーレイの方も自分だけの時間を過ごせそう。
書斎で本を広げて読むとか、リビングの床で昼寝だとか。
(きっと、そういう未来だよなあ…)
結婚したら、と頬を緩めて、早く時間が経って欲しい、と願ってしまう。
待つのは苦にはならないけれども、ブルーと一緒に暮らす日だって、待ち遠しい。
(あいつの前では、ゆったり構えているんだが…)
実は一日千秋かもな、とコーヒーのカップを傾ける。
「俺だって、早く結婚したいんだ」と。
せっかく生まれ変わって来たのに、ブルーとの恋が成就するのは、何年も先になるのだから。
そうは言っても、この待ち時間も、生まれ変わって来たからこそ。
前のブルーとの恋の続きを、青い地球の上で、という神様の粋な計らい。
(新しい命と身体を貰って、新しい人生を生きてるわけで…)
いわば白紙のようにまっさら、真っ白な上に新しい恋を描いてゆく。
今のブルーと、あれこれ夢を叶えて、旅行をして。
時には喧嘩をしてしまったりと、様々なことが起きるのだろう。
前の生では、夢にも思いはしなかったことが、ヒョッコリと降って来たりもして。
(…なんたって、平和な世界なんだし…)
何が起きても知れてはいるが…、と考えてみる。
「ヒョッコリと起きる」何かについて、「例えば、どんな?」と首を捻って。
(…ペットなんかは、あるかもなあ…)
今のブルーは、今のハーレイが子供の頃に飼っていた猫に興味がある。
本当の飼い主はハーレイの母だったけれど、ブルーにとっては、大事なことではない。
「ハーレイの家には、猫がいた」という所がポイントと言えるだろう。
(ミーシャの話をしてやると、いつも嬉しそうだし…)
もしかしたら「ぼくもペットを飼ってみたい」と、ある日、強請ってくるかもしれない。
「飼っていいなら猫がいいな」と、「ミーシャみたいに、真っ白なのを」と。
(…そう強請られたら、反対する理由は無いからなあ…)
ペットの寿命は長くはないし、いずれ別れの時が来る。
ブルーがそれを承知で言うなら、ペットを飼うのを許してやって…。
(家に真っ白な猫が一匹…)
新しい家族になって加わり、ブルーの愛を奪ってゆく。
ハーレイが「ただいま」と帰宅したって、ブルーは猫をしっかりと抱いて…。
(おかえりなさい、と出て来るだけで、下手をしたなら…)
出て来る代わりに、猫と遊んでいるかもしれない。
あるいは毛皮の手入れに夢中で、ハーレイが家に帰ったことにも気が付かないとか。
(……うーむ……)
そいつはキツイ、と泣きそうだけれど、仕方ない。
ブルーには新しい人生を楽しむ権利があって、ペットとの日々も、その一つ。
前の生からの恋人がいても、新しい家族がいるのなら…。
(そっちに愛情、移っちまっても…)
何も文句は言えないよな、と溜息が一つ零れてしまった。
「ヒョッコリ降って来るのは、コレか」と、新しい人生ならではの試練を思って。
「他にも何かありそうだよな」と、こめかみを軽く揉んだりもして。
新しい命を貰ったブルーは、新しい人生を歩んでゆく。
前のブルーとは違う人生になって当然、それが自然なことだろう。
(ペットと暮らして、うんと可愛がって…)
ハーレイのことがお留守になるのも、おかしくはないし、責められもしない。
(むしろ喜ぶべきことで…)
温かく見守ってやるべきなんだよな、と分かってはいる。
前のブルーには、ペットを飼うことは不可能だった。
「青い鳥が欲しい」という細やかな夢も、白いシャングリラでは叶わなかった。
(だから、あいつは…)
青い鳥の代わりに、青い毛皮のナキネズミで我慢するしかなくて、そのナキネズミも…。
(ペットには出来なかったんだ…)
色々と事情があったからな、と時の彼方を思い出す。
それを鮮やかに覚えているから、ブルーの愛をペットに奪われたって、耐えるしかない。
前のブルーには出来なかったことを、今のブルーがするというなら、それだって…。
(約束したことを叶えてゆくのと同じで、前のあいつの夢だから…)
仕方ないさ、とフウと溜息、ペットが来た時は諦めるしかないだろう。
ブルーを盗られてしまっても。
「あれっ、ハーレイ、帰っていたの?」と、かなり経つまで気付かれなくても。
(…俺は晩飯の支度をしながら、ブルーが気付いてくれるまで…)
待つしか道は無いんだよな、と情けないけれど、我慢しなければ。
今のブルーが歩む人生、それを横から邪魔してはいけない。
何故なら、ブルーの人生だから。
新しい命と身体を貰って、生きているのは「ブルー」だから。
(…俺だって、ブルーに出会うまで…)
好き放題に生きて来たわけなのだし、ブルーにしても同じこと。
「ハーレイ」が現れるのが早かっただけで、もっと遅くに出会うのならば…。
(あいつも人生を満喫してから、俺と再会出来たんだしな…)
俺の勝手で縛っちゃ駄目だ、と自分自身に言い聞かせる。
ペットにブルーを盗られようとも、グッと我慢で、見守るべきだ、と。
(俺の方が年上なんだしなあ…)
しかし、ペットはキツイよな、と肩を竦める。
ブルーの愛を、横から奪ってゆくなんて。
よりにもよって白い猫なんかに、大事なブルーを盗られるなんて。
(猫だぞ、猫…!)
おまけに名前はミーシャかもな、と頭の中がクラクラしそう。
相手が同じ人間だったら、此処は一発、勝負を挑んで、ブルーの心を…。
(取り戻す、ってことも出来るんだろうが、猫ではなあ…)
そもそも勝負になりやしない、と頭を抱えたくもなる。
同じ土俵に立てない猫には、どう頑張っても敵いはしない。
ついでに、同じ家で暮らしているわけなのだし、分が悪すぎる。
(ブルーが「今夜は、ミーシャと寝るよ」と抱いてベッドに行っちまったら…)
俺はベッドでも一人じゃないか、と軽くショックを受けてしまった。
なんという手強い恋敵だろう、ペットを飼われてしまったら。
(…だが、飼いたいと言われたら…)
許してやるしかないんだよな、と悲しい気持ちがこみ上げてくる。
「なんてこった」と、「しかし、あいつの人生なんだ」と、泣きたい気分になって来た。
(頼むから、ペットを飼いたいだなんて…)
言ってくれるなよ、と祈りたいけれど、ブルーの人生の邪魔は出来ない。
新しい人生の邪魔をするなど、絶対にしてはいけないこと。
(…相手が人間様じゃなかった分だけ、マシだと思って…)
猫は我慢だ、と自分の心を宥め、懇々と諭した所で、ハタと気付いた。
今のブルーが新しい人生を歩んでゆくなら、前のブルーとは色々な部分が違って来る。
本物の両親から生まれた上に、幸せ一杯に育ったのだから…。
(もしかしなくても、好みも前とは違うってわけで…)
人間様の好みの方でも、そうなるのかも、とクラリと来た。
今のブルーは、たまたま「ハーレイと再会した」から、今はハーレイに「惚れている」。
前の生からの恋人に夢中で、ハーレイしか見えていないのだけれど…。
(…ひょっとしたら、俺とは違うタイプの人間が…)
今のあいつの好みなのかも、と恐ろしい考えに背筋がゾクリと冷えてゆく。
これから人生を歩んでゆく間に、ブルーは「出会う」のかもしれない。
今のブルーの好みにピッタリ、そういうタイプの人間に。
「ハーレイよりも、カッコよくない?」と、思わず惹かれてしまう「誰か」に。
(…俺とは全く、違うタイプに…)
目を向けないとは言い切れないぞ、と本当に怖くなって来た。
違う人生を歩んでいるなら、好みだって変わりもするだろう。
前のブルーが生きた人生の場合だったら、「ハーレイが一番」なのだけれども…。
(…今のあいつだと、違うタイプに…)
惚れちまうこともあるんだよな、と足元が崩れ落ちてゆきそう。
ペットどころか、自分以外の「人間様」に、ブルーを盗られてしまうのかも、と。
それだけは無い、と思いたい。
今の自分には「ブルーだけ」だし、ブルーもきっと、そうなるように…。
(神様が計らって下さったからこそ、聖痕があって…)
俺たちは出会えたんだしな、と思いはしても、確証があるわけではない。
神から「そうだ」と聞いてはいないし、証文だって貰っていない。
(…まさか、まさか…な…?)
今のブルーは違うタイプに惚れちまうとか、と怖い考えが止まらない。
「そうではない」とは、誰も言ってはくれないから。
新しい人生を歩むブルーが、「違うタイプに」惚れない保証は何処にも無くて…。
(そうなった時は、俺は一人で…)
ポツンと残されちまうのか、と身体が震え出しそう。
ある日、ブルーが、違うタイプに惚れたなら。
まだ結婚もしていないのなら、ブルーは新しく「惚れた」相手に心を移して去ってゆく。
前の生からの恋人のことは、もはや、どうでもよくなって。
新しく見付けた恋に夢中になって、「ハーレイ」は頭から消えてしまって。
(そいつは困る…!)
大いに困る、と思うものだから、今のブルーには、ペットで済ませて貰いたい。
新しく愛情を注ぐ相手を作るのだったら、人間様ではなくて、ペットで。
(…あいつの人生、縛っちゃ駄目だと思いはするが…)
違うタイプに惚れるのだけは勘弁してくれ、と強く目を閉じ、神に祈らずにはいられない。
青い地球の上で、ブルーと生きてゆきたいから。
ペットにブルーを盗られようとも、同じ家で暮らしてゆきたいから…。
違うタイプに・了
※ブルー君の好みが「ハーレイ」とは違うタイプかも、と思ってしまったハーレイ先生。
違う人生を生きているなら、そういうことも有り得そう。それは勘弁して欲しいですよねv
うんと幸せになるんだよな、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
遠く遥かな時の彼方では、ブルーとの恋は成就しなかった。
二人だけの間の秘密で終わって、おまけにブルーを失くしてしまった。
(しかし今度は、何の支障も無いわけで…)
チビのブルーが結婚出来る年になったら、この家で一緒に暮らしてゆける。
あと何年かの間の辛抱、それからは幸せ一杯の日々が続いてゆく。
家に帰ればブルーがいるし、朝もブルーに送り出されて仕事に行ける。
休みの時には、ドライブに行ったり、旅行したりと、この青い地球を満喫する。
前の生でブルーと交わした約束、それを叶えてゆくために。
(約束、山ほどしたからなあ…)
どれを最初にすればいいやら、と可笑しくなってしまうけれども、それも楽しい。
ブルーと色々相談しながら、夢だったことを現実にする。
高山に咲く青いケシを見るとか、本物のサトウカエデの森を訪ねるとか。
(忙しくなるぞ、結婚したら)
休みは全部、あちこち飛び回る間に終わりそうだ、と苦笑する。
とはいえ、今のブルーも身体が弱いし、休みも取らねばならないだろう。
休養する間が、実質上の休みという勘定になりそうだ。
(あいつは家でのんびり過ごして、俺はジョギングに出掛けて行って…)
ジムのプールで軽く泳いで、それから家に帰って来る。
帰る頃には、ちょうど昼前くらいだろうか。
(そこから俺が飯を作って、二人で食べて…)
ブルーは午後もゆっくり昼寝で、ハーレイの方も自分だけの時間を過ごせそう。
書斎で本を広げて読むとか、リビングの床で昼寝だとか。
(きっと、そういう未来だよなあ…)
結婚したら、と頬を緩めて、早く時間が経って欲しい、と願ってしまう。
待つのは苦にはならないけれども、ブルーと一緒に暮らす日だって、待ち遠しい。
(あいつの前では、ゆったり構えているんだが…)
実は一日千秋かもな、とコーヒーのカップを傾ける。
「俺だって、早く結婚したいんだ」と。
せっかく生まれ変わって来たのに、ブルーとの恋が成就するのは、何年も先になるのだから。
そうは言っても、この待ち時間も、生まれ変わって来たからこそ。
前のブルーとの恋の続きを、青い地球の上で、という神様の粋な計らい。
(新しい命と身体を貰って、新しい人生を生きてるわけで…)
いわば白紙のようにまっさら、真っ白な上に新しい恋を描いてゆく。
今のブルーと、あれこれ夢を叶えて、旅行をして。
時には喧嘩をしてしまったりと、様々なことが起きるのだろう。
前の生では、夢にも思いはしなかったことが、ヒョッコリと降って来たりもして。
(…なんたって、平和な世界なんだし…)
何が起きても知れてはいるが…、と考えてみる。
「ヒョッコリと起きる」何かについて、「例えば、どんな?」と首を捻って。
(…ペットなんかは、あるかもなあ…)
今のブルーは、今のハーレイが子供の頃に飼っていた猫に興味がある。
本当の飼い主はハーレイの母だったけれど、ブルーにとっては、大事なことではない。
「ハーレイの家には、猫がいた」という所がポイントと言えるだろう。
(ミーシャの話をしてやると、いつも嬉しそうだし…)
もしかしたら「ぼくもペットを飼ってみたい」と、ある日、強請ってくるかもしれない。
「飼っていいなら猫がいいな」と、「ミーシャみたいに、真っ白なのを」と。
(…そう強請られたら、反対する理由は無いからなあ…)
ペットの寿命は長くはないし、いずれ別れの時が来る。
ブルーがそれを承知で言うなら、ペットを飼うのを許してやって…。
(家に真っ白な猫が一匹…)
新しい家族になって加わり、ブルーの愛を奪ってゆく。
ハーレイが「ただいま」と帰宅したって、ブルーは猫をしっかりと抱いて…。
(おかえりなさい、と出て来るだけで、下手をしたなら…)
出て来る代わりに、猫と遊んでいるかもしれない。
あるいは毛皮の手入れに夢中で、ハーレイが家に帰ったことにも気が付かないとか。
(……うーむ……)
そいつはキツイ、と泣きそうだけれど、仕方ない。
ブルーには新しい人生を楽しむ権利があって、ペットとの日々も、その一つ。
前の生からの恋人がいても、新しい家族がいるのなら…。
(そっちに愛情、移っちまっても…)
何も文句は言えないよな、と溜息が一つ零れてしまった。
「ヒョッコリ降って来るのは、コレか」と、新しい人生ならではの試練を思って。
「他にも何かありそうだよな」と、こめかみを軽く揉んだりもして。
新しい命を貰ったブルーは、新しい人生を歩んでゆく。
前のブルーとは違う人生になって当然、それが自然なことだろう。
(ペットと暮らして、うんと可愛がって…)
ハーレイのことがお留守になるのも、おかしくはないし、責められもしない。
(むしろ喜ぶべきことで…)
温かく見守ってやるべきなんだよな、と分かってはいる。
前のブルーには、ペットを飼うことは不可能だった。
「青い鳥が欲しい」という細やかな夢も、白いシャングリラでは叶わなかった。
(だから、あいつは…)
青い鳥の代わりに、青い毛皮のナキネズミで我慢するしかなくて、そのナキネズミも…。
(ペットには出来なかったんだ…)
色々と事情があったからな、と時の彼方を思い出す。
それを鮮やかに覚えているから、ブルーの愛をペットに奪われたって、耐えるしかない。
前のブルーには出来なかったことを、今のブルーがするというなら、それだって…。
(約束したことを叶えてゆくのと同じで、前のあいつの夢だから…)
仕方ないさ、とフウと溜息、ペットが来た時は諦めるしかないだろう。
ブルーを盗られてしまっても。
「あれっ、ハーレイ、帰っていたの?」と、かなり経つまで気付かれなくても。
(…俺は晩飯の支度をしながら、ブルーが気付いてくれるまで…)
待つしか道は無いんだよな、と情けないけれど、我慢しなければ。
今のブルーが歩む人生、それを横から邪魔してはいけない。
何故なら、ブルーの人生だから。
新しい命と身体を貰って、生きているのは「ブルー」だから。
(…俺だって、ブルーに出会うまで…)
好き放題に生きて来たわけなのだし、ブルーにしても同じこと。
「ハーレイ」が現れるのが早かっただけで、もっと遅くに出会うのならば…。
(あいつも人生を満喫してから、俺と再会出来たんだしな…)
俺の勝手で縛っちゃ駄目だ、と自分自身に言い聞かせる。
ペットにブルーを盗られようとも、グッと我慢で、見守るべきだ、と。
(俺の方が年上なんだしなあ…)
しかし、ペットはキツイよな、と肩を竦める。
ブルーの愛を、横から奪ってゆくなんて。
よりにもよって白い猫なんかに、大事なブルーを盗られるなんて。
(猫だぞ、猫…!)
おまけに名前はミーシャかもな、と頭の中がクラクラしそう。
相手が同じ人間だったら、此処は一発、勝負を挑んで、ブルーの心を…。
(取り戻す、ってことも出来るんだろうが、猫ではなあ…)
そもそも勝負になりやしない、と頭を抱えたくもなる。
同じ土俵に立てない猫には、どう頑張っても敵いはしない。
ついでに、同じ家で暮らしているわけなのだし、分が悪すぎる。
(ブルーが「今夜は、ミーシャと寝るよ」と抱いてベッドに行っちまったら…)
俺はベッドでも一人じゃないか、と軽くショックを受けてしまった。
なんという手強い恋敵だろう、ペットを飼われてしまったら。
(…だが、飼いたいと言われたら…)
許してやるしかないんだよな、と悲しい気持ちがこみ上げてくる。
「なんてこった」と、「しかし、あいつの人生なんだ」と、泣きたい気分になって来た。
(頼むから、ペットを飼いたいだなんて…)
言ってくれるなよ、と祈りたいけれど、ブルーの人生の邪魔は出来ない。
新しい人生の邪魔をするなど、絶対にしてはいけないこと。
(…相手が人間様じゃなかった分だけ、マシだと思って…)
猫は我慢だ、と自分の心を宥め、懇々と諭した所で、ハタと気付いた。
今のブルーが新しい人生を歩んでゆくなら、前のブルーとは色々な部分が違って来る。
本物の両親から生まれた上に、幸せ一杯に育ったのだから…。
(もしかしなくても、好みも前とは違うってわけで…)
人間様の好みの方でも、そうなるのかも、とクラリと来た。
今のブルーは、たまたま「ハーレイと再会した」から、今はハーレイに「惚れている」。
前の生からの恋人に夢中で、ハーレイしか見えていないのだけれど…。
(…ひょっとしたら、俺とは違うタイプの人間が…)
今のあいつの好みなのかも、と恐ろしい考えに背筋がゾクリと冷えてゆく。
これから人生を歩んでゆく間に、ブルーは「出会う」のかもしれない。
今のブルーの好みにピッタリ、そういうタイプの人間に。
「ハーレイよりも、カッコよくない?」と、思わず惹かれてしまう「誰か」に。
(…俺とは全く、違うタイプに…)
目を向けないとは言い切れないぞ、と本当に怖くなって来た。
違う人生を歩んでいるなら、好みだって変わりもするだろう。
前のブルーが生きた人生の場合だったら、「ハーレイが一番」なのだけれども…。
(…今のあいつだと、違うタイプに…)
惚れちまうこともあるんだよな、と足元が崩れ落ちてゆきそう。
ペットどころか、自分以外の「人間様」に、ブルーを盗られてしまうのかも、と。
それだけは無い、と思いたい。
今の自分には「ブルーだけ」だし、ブルーもきっと、そうなるように…。
(神様が計らって下さったからこそ、聖痕があって…)
俺たちは出会えたんだしな、と思いはしても、確証があるわけではない。
神から「そうだ」と聞いてはいないし、証文だって貰っていない。
(…まさか、まさか…な…?)
今のブルーは違うタイプに惚れちまうとか、と怖い考えが止まらない。
「そうではない」とは、誰も言ってはくれないから。
新しい人生を歩むブルーが、「違うタイプに」惚れない保証は何処にも無くて…。
(そうなった時は、俺は一人で…)
ポツンと残されちまうのか、と身体が震え出しそう。
ある日、ブルーが、違うタイプに惚れたなら。
まだ結婚もしていないのなら、ブルーは新しく「惚れた」相手に心を移して去ってゆく。
前の生からの恋人のことは、もはや、どうでもよくなって。
新しく見付けた恋に夢中になって、「ハーレイ」は頭から消えてしまって。
(そいつは困る…!)
大いに困る、と思うものだから、今のブルーには、ペットで済ませて貰いたい。
新しく愛情を注ぐ相手を作るのだったら、人間様ではなくて、ペットで。
(…あいつの人生、縛っちゃ駄目だと思いはするが…)
違うタイプに惚れるのだけは勘弁してくれ、と強く目を閉じ、神に祈らずにはいられない。
青い地球の上で、ブルーと生きてゆきたいから。
ペットにブルーを盗られようとも、同じ家で暮らしてゆきたいから…。
違うタイプに・了
※ブルー君の好みが「ハーレイ」とは違うタイプかも、と思ってしまったハーレイ先生。
違う人生を生きているなら、そういうことも有り得そう。それは勘弁して欲しいですよねv
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