昼寝するんなら
(……お昼寝かあ……)
なんだか縁が遠くなったよね、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…お昼寝するより、ハーレイと話していたいから…)
すっかり御無沙汰になっちゃった、と昼寝というものを思い返してみる。
昼寝をしなくなった、とは言わないけれども、時間は減った。
ハーレイと再会する前だったら、昼寝をするなら、ぐっすり、たっぷりだったのに。
(…今だと、ハーレイが来ない時しか…)
そういう昼寝は出来ないわけで、ついでにハーレイが来ないとなると、落ち着かない。
ハーレイが来ない休日となったら、頭の中がぐるぐる回って、昼寝するような気分には…。
(全然、なって来ないんだってば!)
ホントにダメ、と自分の頭をポカポカと叩く。
なんとも子供じみた幼い感情、独占欲とも言うかもしれない。
それが昼寝の邪魔をするせいで、ハーレイが来ない日は起きたまま。
「今、ハーレイはどうしてるかな?」と気になって。
研修だったら、まだマシだけれど、柔道部の活動で来ないとなったら酷くなる。
柔道部員が「ハーレイ先生」を独占していて、寄越してくれないわけだから。
ハーレイの方も、柔道部の生徒にかかりっきりで、面倒を見ているに違いない。
練習や試合を熱心に指導し、終わった後には、食事にだって連れて行く。
「よく頑張ったな」と、ブルーも好きでたまらない笑顔を、柔道部員たちに振り撒いて。
一人一人に言葉を掛けて、肩を叩いてやったりもして。
(それから、みんなでお店に入って…)
ハーレイが「何でも好きに注文しろよ」と、気前よく皆に言うのだろう。
「支払いのことは気にするなよな」と、「食べ盛りなんだから、好きなだけ食え」と。
(…きっとそうだ、って考え始めてしまったら…)
眠気なんかは消えてしまって、昼寝をしているどころではない。
逆に目が冴え、窓の外に何度も視線をやっては、苛立つばかりで昼寝なんかしていられない。
窓からの風が気持ち良くても、昼寝にピッタリの天気でも。
ハーレイと再会する前だったら、「ちょっとお昼寝」と、横になっていたのは確実でも。
(……ぼくって、心が狭いわけ?)
そうじゃないよね、と自分自身を振り返ってみて、「違うと思う」と結論を出す。
前の自分の頃と違って、ハーレイを独占出来ないせいで、そうなるのだろう。
ソルジャー・ブルーだった頃なら、ハーレイは「当たり前に」側にいたのだから。
そうだったよね、と時の彼方を思うけれども、果たして本当に「そう」だったのか。
ハーレイは常に側にいたのか、違ったのか。
(…ずっと側にいたなんてことは、なかったっけ…)
だってキャプテンだったんだしね、と答えは簡単にポンと出て来た。
前のハーレイは白いシャングリラを預かるキャプテン、今よりも遥かに多忙だった。
それこそ昼寝をする時間も無く、いつもブリッジにいたと言ってもいいだろう。
(…前のハーレイが昼間に寝たのは、仮眠くらいで…)
昼寝などしていなかったのだし、暇だったという筈がない。
当然、「ソルジャー・ブルーの側にいる」のは、空き時間か、報告などの用がある時。
それ以外は、仕事が終わる時間まで、青の間には来ないで、ブリッジにいた。
(…そうなんだけど、でも…)
前のハーレイが何処にいようと、前の自分には「安心出来る」理由があった。
文字通りに最強のタイプ・ブルーで、強大なサイオンを誇っていたからこその裏技。
(…シャングリラ中に、サイオンの糸を張っていたほど…)
前の自分はサイオンの扱いに優れていたから、何の心配もしていなかった。
ハーレイが船の何処にいたって、知ろうと思えば直ぐに分かったし、姿も見られた。
「今はブリッジにいるんだよね」とか、「食堂なんだ」といった具合に。
(…そういうの、出来なくなっちゃったから…)
今のぼくは、気になりすぎて昼寝も出来ないんだよ、と溜息をつく。
もっとも、人間が全てミュウになっている、今の時代だと…。
(知りたくっても、サイオンで調べたりするのは、マナー違反で…)
やったら駄目だと言われちゃう、と思いはしても、やっている人はいる気がする。
恋人が来てくれなかった日に、つい探ってしまう人は、この世の中に…。
(絶対いない、ってわけがないって!)
人間、そこまで立派じゃないし、と自分自身に言い訳してから気が付いた。
「そういう人は、きっといるから」と真似をしようにも、今の自分には出来ないらしい。
不器用になってしまったサイオン、それを使って探ろうとしても…。
(努力するだけ、無駄なんだってば…!)
ハーレイの姿も見えて来ないよ、と悔しくなって涙が出そう。
「これじゃ昼寝は出来やしない」と、「ハーレイがいないと、落ち着かなくて」と。
更に言うなら、ハーレイが訪ねて来てくれた日は…。
(どんなに具合が悪い時でも、頑張って起きていたいほど…)
時間が惜しくて寝たくないから、「寝ろ」と言われて、渋々眠ることになる。
ハーレイが「俺が起こしてやるから」と言ってくれても、ベッドの側にいてくれても。
そっと手を握って「ぐっすり眠れ」と、優しい声で告げてくれても。
(……うーん……)
そうなってくると、昼寝は当分、出来ないらしい。
まるで出来ないわけではなくても、ハーレイが来てくれている時に限定で…。
(ちゃんと早めに起こしてよね、って念を押すから、寝てる時間も…)
ぐっすり、たっぷりとはいかない勘定。
ハーレイの声で起こされるまでの、限られた時間しか昼寝は出来ない。
(じゃあ、どうしたら…)
前みたいにゆっくり、お昼寝出来るの、と「これから先」を考えてみたら、長かった。
結婚出来る年を迎えて、ハーレイと一緒に暮らし始めるまで無理だろう。
それまではきっと、今と同じで、「ハーレイのことが気になりすぎて」眠れない。
たとえ婚約したとしたって、ハーレイには仕事があるのだから。
(…柔道部の活動でお出掛けしちゃう日も、きっとあるよね…?)
そういった時は、今の自分と同じ状態になってしまって、気に掛かるのに違いない。
「ハーレイは、今、何をしてるの?」と、「部員のみんなと、食事なのかな?」などと。
なんとも心が狭いけれども、こればかりは自分でも、どうにもならない。
気にしないでいられる強さは無いし、マナー違反をしてでも探るサイオンも持ってはいない。
(お昼寝、うんと先まで、お預け…)
ハーレイと結婚するまでは…、と悲しい気分で、その一方で楽しみでもある。
前の生では、ハーレイは昼寝が出来ない仕事に就いていた。
シャングリラのキャプテンに昼寝は無理で、昼間に寝たのは「仮眠」だけ。
(…前のぼくは、お昼寝していたけれど…)
身体が弱るよりも前から、昼寝は好きな時間にしていた。
「ちょっと寝よう」とベッドに入って、ぐっすり、たっぷり、気が向くままに。
(でも、ハーレイには…)
そんな余暇など無かったのだし、今度はゆっくり眠って欲しい。
好きな時間に、好きなだけ。
気が向いた時にベッドに出掛けて、自然に目が覚める時間まで。
(うん、いいよね…)
前のハーレイには出来なかったんだもの、と頬を緩めて嬉しくなる。
青い地球まで二人で来たから、「昼寝するハーレイ」を見ることが出来る。
今はまだ、ずっと先の話で、結婚するまで、目にすることは出来ないけれど。
ハーレイと一緒に暮らす家でしか、その光景は見られないけれど。
(…よく寝てるよね、って側で眺めて…)
ぼくは本でも読んでいようかな、と幸せな気持ちで一杯になった。
今は「ハーレイがやってくれている」立場を、「今度は、ぼくがやるんだよ」と。
ハーレイの寝顔を見守りながら、読書をしたり、お茶を飲んだりといった具合に。
とても素敵な未来の時間。
前の生では見られなかった「ハーレイの昼寝」を、ベッドの側に座って眺める。
顔立ちをよくよく観察したり、寝息に耳を傾けたりと、飽きもしないで、のんびりと。
(…ホントに幸せ…)
うんと幸せ、と思ったけれども、どうだろう。
一緒に暮らし始めて直ぐなら、確かに飽きずに、幸せたっぷりだろうけれども…。
(ハーレイのお昼寝、その内、当たり前のことになっちゃうんだよね…?)
もう珍しくもなくなって…、と「それ」は容易に想像がついた。
最初の間は新鮮な時間で、驚きも発見も、きっと沢山。
けれども、当たり前になったら、飽きてしまうのは時間の問題かもしれない。
そして飽きたら、ブルーを待っているものは…。
(…なんでいつまでも寝ているの、って…)
ハーレイの横でイライラしながら、「まだ起きないの?」と腹を立て始めるという現象。
「起きたら一緒に散歩に行こう、って寝る前に約束していなかった?」と。
あるいは「おやつの時間で、お茶の支度も出来てるのに!」などと、眉を吊り上げて。
(…ホントにありそう…)
二人で朝からケーキを焼いて、「おやつに食べよう」という時だってあるだろう。
ハーレイが昼寝をしている間に、ケーキを切って、お茶の支度も整えたのに…。
(起きてこなくて、気持ちよさそうに寝ちゃってて…)
ぼくだけケーキを食べるわけにも…、と思うものだから、困った事態になりそうではある。
寝ているハーレイを叩き起こすか、ケーキを食べるのは諦めるか。
(…二人で作ったケーキだったら、まだいいんだけど…!)
今のハーレイの大好物は、パウンドケーキというヤツだった。
それも「ブルーの母が焼いたケーキ」で、ハーレイの母のと全く同じ味らしい。
いわゆる「おふくろの味」だと聞いて、それをブルーも作りたくなった。
ハーレイに喜んで食べて欲しくて、「ぼくも作れるようになるんだ」と決意している。
いずれ母からレシピと作り方を教わり、上手に焼くために練習をして…。
(ハーレイのために焼くんだから、って…)
大きな夢を描いているわけで、結婚する頃には、作れるようになっているだろう。
だから二人で暮らす家では、何度も焼いて、ハーレイと食べて…。
(ハーレイが「やっぱり、これが最高だよな」って…)
褒めてくれるのが嬉しくて、その日も朝から頑張って焼いて、お茶の時間になったのに…。
(…そのハーレイが、お昼寝中で…)
起きて来ないなんて最悪だから、と涙が出そう。
せっかく作ったパウンドケーキが、テーブルの上で待ちぼうけなんて。
ケーキどころか、ケーキを焼いたブルー自身も、一人きりで放っておかれるなんて。
(あんまりだってば…!)
それって酷い、と思いはしても、昼寝するのはハーレイの自由。
現に自分も、ついさっきまで「当分、縁が無さそうだよね」と昼寝を懐かしんでいた。
「ハーレイと結婚するまでは無理」と、「それまでは時間限定みたい」と。
(…じゃあ、どうしたら…?)
どうすればいいの、と悩んでしまう。
昼寝の時間は、どうすれば戻って来るのだろうか。
思い付いた時にベッドに入って、好きなだけ、ぐっすり、たっぷり眠れる昼寝。
今の自分には出来ない昼寝を取り戻すには、結婚するしか無さそうではある。
ところがどっこい、結婚したら、ハーレイにも「昼寝する権利」があって…。
(…前のハーレイには出来なかったこと、ぼくは誰よりも知っているから…)
ハーレイに向かって「昼寝しちゃダメ!」などと言えはしないし、叩き起こすのも…。
(なんだか悪いし、昼寝するんなら、どうするのが…)
いいのかな、と頭を抱えてしまったけれども、閃きが天から降って来た。
「一緒に寝ればいいんだよ!」と。
ハーレイと一緒に昼寝するなら、お互い様になるだろう。
どっちが後まで寝ていたとしても、それは「その時の条件次第」。
時によっては、ハーレイの方が先に目覚めて、夕方になっても起きないブルーを…。
(よく寝てるよな、ってクスクス笑って…)
何度も寝顔を覗いたりしながら、夕食の支度をするかもしれない。
「今日のおやつは、デザートになってしまいそうだな」などと、鼻歌交じりに。
「自分でケーキを焼いてたくせに」と、「まあ、いいんだが」と、可笑しそうに。
(…ぼくの方が先に起きちゃった時も…)
たまにはこういう時もあるよね、とハーレイの鼻をつまんだりして、のんびりと待つ。
「パウンドケーキは日持ちするから」と、「明日の方が美味しいくらいかもね」と。
(味が馴染んで、うんと美味しく…)
食べられる類のケーキもあるから、二人でケーキを焼いた時でも、ゆったり待てそう。
二人で昼寝を始めたのなら、一緒に昼寝していたのなら。
(うん、ハーレイと昼寝するんなら…)
一緒が一番、と答えは出たから、もう困らない。
ハーレイと二人で暮らし始めたら、ゆっくり昼寝で、ハーレイも一緒に昼寝だから…。
昼寝するんなら・了
※ハーレイ先生と暮らし始めるまで、ゆっくり昼寝は出来そうにないブルー君ですけど。
結婚したら、ハーレイ先生にも昼寝の権利があるのです。一緒に昼寝をするのが良さそうv
なんだか縁が遠くなったよね、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…お昼寝するより、ハーレイと話していたいから…)
すっかり御無沙汰になっちゃった、と昼寝というものを思い返してみる。
昼寝をしなくなった、とは言わないけれども、時間は減った。
ハーレイと再会する前だったら、昼寝をするなら、ぐっすり、たっぷりだったのに。
(…今だと、ハーレイが来ない時しか…)
そういう昼寝は出来ないわけで、ついでにハーレイが来ないとなると、落ち着かない。
ハーレイが来ない休日となったら、頭の中がぐるぐる回って、昼寝するような気分には…。
(全然、なって来ないんだってば!)
ホントにダメ、と自分の頭をポカポカと叩く。
なんとも子供じみた幼い感情、独占欲とも言うかもしれない。
それが昼寝の邪魔をするせいで、ハーレイが来ない日は起きたまま。
「今、ハーレイはどうしてるかな?」と気になって。
研修だったら、まだマシだけれど、柔道部の活動で来ないとなったら酷くなる。
柔道部員が「ハーレイ先生」を独占していて、寄越してくれないわけだから。
ハーレイの方も、柔道部の生徒にかかりっきりで、面倒を見ているに違いない。
練習や試合を熱心に指導し、終わった後には、食事にだって連れて行く。
「よく頑張ったな」と、ブルーも好きでたまらない笑顔を、柔道部員たちに振り撒いて。
一人一人に言葉を掛けて、肩を叩いてやったりもして。
(それから、みんなでお店に入って…)
ハーレイが「何でも好きに注文しろよ」と、気前よく皆に言うのだろう。
「支払いのことは気にするなよな」と、「食べ盛りなんだから、好きなだけ食え」と。
(…きっとそうだ、って考え始めてしまったら…)
眠気なんかは消えてしまって、昼寝をしているどころではない。
逆に目が冴え、窓の外に何度も視線をやっては、苛立つばかりで昼寝なんかしていられない。
窓からの風が気持ち良くても、昼寝にピッタリの天気でも。
ハーレイと再会する前だったら、「ちょっとお昼寝」と、横になっていたのは確実でも。
(……ぼくって、心が狭いわけ?)
そうじゃないよね、と自分自身を振り返ってみて、「違うと思う」と結論を出す。
前の自分の頃と違って、ハーレイを独占出来ないせいで、そうなるのだろう。
ソルジャー・ブルーだった頃なら、ハーレイは「当たり前に」側にいたのだから。
そうだったよね、と時の彼方を思うけれども、果たして本当に「そう」だったのか。
ハーレイは常に側にいたのか、違ったのか。
(…ずっと側にいたなんてことは、なかったっけ…)
だってキャプテンだったんだしね、と答えは簡単にポンと出て来た。
前のハーレイは白いシャングリラを預かるキャプテン、今よりも遥かに多忙だった。
それこそ昼寝をする時間も無く、いつもブリッジにいたと言ってもいいだろう。
(…前のハーレイが昼間に寝たのは、仮眠くらいで…)
昼寝などしていなかったのだし、暇だったという筈がない。
当然、「ソルジャー・ブルーの側にいる」のは、空き時間か、報告などの用がある時。
それ以外は、仕事が終わる時間まで、青の間には来ないで、ブリッジにいた。
(…そうなんだけど、でも…)
前のハーレイが何処にいようと、前の自分には「安心出来る」理由があった。
文字通りに最強のタイプ・ブルーで、強大なサイオンを誇っていたからこその裏技。
(…シャングリラ中に、サイオンの糸を張っていたほど…)
前の自分はサイオンの扱いに優れていたから、何の心配もしていなかった。
ハーレイが船の何処にいたって、知ろうと思えば直ぐに分かったし、姿も見られた。
「今はブリッジにいるんだよね」とか、「食堂なんだ」といった具合に。
(…そういうの、出来なくなっちゃったから…)
今のぼくは、気になりすぎて昼寝も出来ないんだよ、と溜息をつく。
もっとも、人間が全てミュウになっている、今の時代だと…。
(知りたくっても、サイオンで調べたりするのは、マナー違反で…)
やったら駄目だと言われちゃう、と思いはしても、やっている人はいる気がする。
恋人が来てくれなかった日に、つい探ってしまう人は、この世の中に…。
(絶対いない、ってわけがないって!)
人間、そこまで立派じゃないし、と自分自身に言い訳してから気が付いた。
「そういう人は、きっといるから」と真似をしようにも、今の自分には出来ないらしい。
不器用になってしまったサイオン、それを使って探ろうとしても…。
(努力するだけ、無駄なんだってば…!)
ハーレイの姿も見えて来ないよ、と悔しくなって涙が出そう。
「これじゃ昼寝は出来やしない」と、「ハーレイがいないと、落ち着かなくて」と。
更に言うなら、ハーレイが訪ねて来てくれた日は…。
(どんなに具合が悪い時でも、頑張って起きていたいほど…)
時間が惜しくて寝たくないから、「寝ろ」と言われて、渋々眠ることになる。
ハーレイが「俺が起こしてやるから」と言ってくれても、ベッドの側にいてくれても。
そっと手を握って「ぐっすり眠れ」と、優しい声で告げてくれても。
(……うーん……)
そうなってくると、昼寝は当分、出来ないらしい。
まるで出来ないわけではなくても、ハーレイが来てくれている時に限定で…。
(ちゃんと早めに起こしてよね、って念を押すから、寝てる時間も…)
ぐっすり、たっぷりとはいかない勘定。
ハーレイの声で起こされるまでの、限られた時間しか昼寝は出来ない。
(じゃあ、どうしたら…)
前みたいにゆっくり、お昼寝出来るの、と「これから先」を考えてみたら、長かった。
結婚出来る年を迎えて、ハーレイと一緒に暮らし始めるまで無理だろう。
それまではきっと、今と同じで、「ハーレイのことが気になりすぎて」眠れない。
たとえ婚約したとしたって、ハーレイには仕事があるのだから。
(…柔道部の活動でお出掛けしちゃう日も、きっとあるよね…?)
そういった時は、今の自分と同じ状態になってしまって、気に掛かるのに違いない。
「ハーレイは、今、何をしてるの?」と、「部員のみんなと、食事なのかな?」などと。
なんとも心が狭いけれども、こればかりは自分でも、どうにもならない。
気にしないでいられる強さは無いし、マナー違反をしてでも探るサイオンも持ってはいない。
(お昼寝、うんと先まで、お預け…)
ハーレイと結婚するまでは…、と悲しい気分で、その一方で楽しみでもある。
前の生では、ハーレイは昼寝が出来ない仕事に就いていた。
シャングリラのキャプテンに昼寝は無理で、昼間に寝たのは「仮眠」だけ。
(…前のぼくは、お昼寝していたけれど…)
身体が弱るよりも前から、昼寝は好きな時間にしていた。
「ちょっと寝よう」とベッドに入って、ぐっすり、たっぷり、気が向くままに。
(でも、ハーレイには…)
そんな余暇など無かったのだし、今度はゆっくり眠って欲しい。
好きな時間に、好きなだけ。
気が向いた時にベッドに出掛けて、自然に目が覚める時間まで。
(うん、いいよね…)
前のハーレイには出来なかったんだもの、と頬を緩めて嬉しくなる。
青い地球まで二人で来たから、「昼寝するハーレイ」を見ることが出来る。
今はまだ、ずっと先の話で、結婚するまで、目にすることは出来ないけれど。
ハーレイと一緒に暮らす家でしか、その光景は見られないけれど。
(…よく寝てるよね、って側で眺めて…)
ぼくは本でも読んでいようかな、と幸せな気持ちで一杯になった。
今は「ハーレイがやってくれている」立場を、「今度は、ぼくがやるんだよ」と。
ハーレイの寝顔を見守りながら、読書をしたり、お茶を飲んだりといった具合に。
とても素敵な未来の時間。
前の生では見られなかった「ハーレイの昼寝」を、ベッドの側に座って眺める。
顔立ちをよくよく観察したり、寝息に耳を傾けたりと、飽きもしないで、のんびりと。
(…ホントに幸せ…)
うんと幸せ、と思ったけれども、どうだろう。
一緒に暮らし始めて直ぐなら、確かに飽きずに、幸せたっぷりだろうけれども…。
(ハーレイのお昼寝、その内、当たり前のことになっちゃうんだよね…?)
もう珍しくもなくなって…、と「それ」は容易に想像がついた。
最初の間は新鮮な時間で、驚きも発見も、きっと沢山。
けれども、当たり前になったら、飽きてしまうのは時間の問題かもしれない。
そして飽きたら、ブルーを待っているものは…。
(…なんでいつまでも寝ているの、って…)
ハーレイの横でイライラしながら、「まだ起きないの?」と腹を立て始めるという現象。
「起きたら一緒に散歩に行こう、って寝る前に約束していなかった?」と。
あるいは「おやつの時間で、お茶の支度も出来てるのに!」などと、眉を吊り上げて。
(…ホントにありそう…)
二人で朝からケーキを焼いて、「おやつに食べよう」という時だってあるだろう。
ハーレイが昼寝をしている間に、ケーキを切って、お茶の支度も整えたのに…。
(起きてこなくて、気持ちよさそうに寝ちゃってて…)
ぼくだけケーキを食べるわけにも…、と思うものだから、困った事態になりそうではある。
寝ているハーレイを叩き起こすか、ケーキを食べるのは諦めるか。
(…二人で作ったケーキだったら、まだいいんだけど…!)
今のハーレイの大好物は、パウンドケーキというヤツだった。
それも「ブルーの母が焼いたケーキ」で、ハーレイの母のと全く同じ味らしい。
いわゆる「おふくろの味」だと聞いて、それをブルーも作りたくなった。
ハーレイに喜んで食べて欲しくて、「ぼくも作れるようになるんだ」と決意している。
いずれ母からレシピと作り方を教わり、上手に焼くために練習をして…。
(ハーレイのために焼くんだから、って…)
大きな夢を描いているわけで、結婚する頃には、作れるようになっているだろう。
だから二人で暮らす家では、何度も焼いて、ハーレイと食べて…。
(ハーレイが「やっぱり、これが最高だよな」って…)
褒めてくれるのが嬉しくて、その日も朝から頑張って焼いて、お茶の時間になったのに…。
(…そのハーレイが、お昼寝中で…)
起きて来ないなんて最悪だから、と涙が出そう。
せっかく作ったパウンドケーキが、テーブルの上で待ちぼうけなんて。
ケーキどころか、ケーキを焼いたブルー自身も、一人きりで放っておかれるなんて。
(あんまりだってば…!)
それって酷い、と思いはしても、昼寝するのはハーレイの自由。
現に自分も、ついさっきまで「当分、縁が無さそうだよね」と昼寝を懐かしんでいた。
「ハーレイと結婚するまでは無理」と、「それまでは時間限定みたい」と。
(…じゃあ、どうしたら…?)
どうすればいいの、と悩んでしまう。
昼寝の時間は、どうすれば戻って来るのだろうか。
思い付いた時にベッドに入って、好きなだけ、ぐっすり、たっぷり眠れる昼寝。
今の自分には出来ない昼寝を取り戻すには、結婚するしか無さそうではある。
ところがどっこい、結婚したら、ハーレイにも「昼寝する権利」があって…。
(…前のハーレイには出来なかったこと、ぼくは誰よりも知っているから…)
ハーレイに向かって「昼寝しちゃダメ!」などと言えはしないし、叩き起こすのも…。
(なんだか悪いし、昼寝するんなら、どうするのが…)
いいのかな、と頭を抱えてしまったけれども、閃きが天から降って来た。
「一緒に寝ればいいんだよ!」と。
ハーレイと一緒に昼寝するなら、お互い様になるだろう。
どっちが後まで寝ていたとしても、それは「その時の条件次第」。
時によっては、ハーレイの方が先に目覚めて、夕方になっても起きないブルーを…。
(よく寝てるよな、ってクスクス笑って…)
何度も寝顔を覗いたりしながら、夕食の支度をするかもしれない。
「今日のおやつは、デザートになってしまいそうだな」などと、鼻歌交じりに。
「自分でケーキを焼いてたくせに」と、「まあ、いいんだが」と、可笑しそうに。
(…ぼくの方が先に起きちゃった時も…)
たまにはこういう時もあるよね、とハーレイの鼻をつまんだりして、のんびりと待つ。
「パウンドケーキは日持ちするから」と、「明日の方が美味しいくらいかもね」と。
(味が馴染んで、うんと美味しく…)
食べられる類のケーキもあるから、二人でケーキを焼いた時でも、ゆったり待てそう。
二人で昼寝を始めたのなら、一緒に昼寝していたのなら。
(うん、ハーレイと昼寝するんなら…)
一緒が一番、と答えは出たから、もう困らない。
ハーレイと二人で暮らし始めたら、ゆっくり昼寝で、ハーレイも一緒に昼寝だから…。
昼寝するんなら・了
※ハーレイ先生と暮らし始めるまで、ゆっくり昼寝は出来そうにないブルー君ですけど。
結婚したら、ハーレイ先生にも昼寝の権利があるのです。一緒に昼寝をするのが良さそうv
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