昼寝するなら
(…昼寝か…)
とんと御無沙汰になっちまったな、とハーレイが思い出した、心地よいこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(どのくらい、御無沙汰してるんだ?)
いつから昼寝をしていないやら、と指を折りながら時を遡ってみる。
今年の夏休みは、全くしてはいなかった。
大抵はブルーの家で過ごして、そうでない日は柔道部の活動などで出掛けてばかり。
家でのんびり昼寝する暇は、まるで無かったと言うべきか。
(しかし、柔道部だとか、学校関係の方はともかく…)
ブルーの家に行っていた日は、「暇が無かった」では通らない。
暇だからこそ、前の生からの恋人の家に出掛けて行って…。
(あいつと話して、一緒に飯を食ったりもして…)
朝から晩までいたわけなのだし、暇だからこそできることだろう。
その代わり、昼寝が出来なかったというだけで。
訪問先の家で寝るなど、失礼でしかないのだから。
(学生時代なら、そいつも充分、アリだったんだが…)
現に友達の家で寝てたぞ、と思うけれども、今は学生時代ではない。
ブルーも友達ではなくて教え子、ブルーの両親は保護者なのだし、ハーレイが行けば…。
(立派に「お客様」でだな…)
お客様な以上、「どうぞ」と勧められない限りは、昼寝は出来ない。
もっとも、昼寝を勧める家など、そうそうありはしないけれども。
(…海辺の家なら、季節によってはあるんだろうが…)
夏になったら海水浴で賑わう場所なら、客人を招いて海に行くことも珍しくない。
海で泳げば、楽しくても体力は消耗するから、海から戻って来た後に…。
(おやつの前に昼寝でも、と涼しい部屋に案内してくれて…)
ごゆっくりどうぞ、と言われそうではある。
もちろん家人も別の部屋で昼寝で、起きているのはペットくらいで…。
(うんとゆったり時間が流れて、おやつの時間も遅めになって…)
夕食も、遅い時間になりそうな感じ。
起き出してくるのが遅かったならば、自然と全てがずれてゆく。
夕方近くに冷えたスイカを切っておやつで、夕食は長い夏の日がとっぷり暮れてから。
(飯を食ったら、花火とかだな)
海辺の夜だと定番だぞ、と思うけれども、ブルーの家は海辺ではない。
当然、海水浴も無いから、昼寝を勧めてくれはしなくて、それで終わった夏休み。
暇はたっぷりあったというのに、一度も昼寝をしないままで。
その前は…、と更に遡ったけども、夏休みの前は、ごくごく普通の一学期。
ついでに途中からの転任、最初の間は、どちらかと言えば忙しかった。
かてて加えて、ブルーのクラスへ授業をしに足を踏み入れた途端…。
(あいつがいきなり、血を流したから…)
腰を抜かさんばかりに驚き、駆け寄った時に記憶が戻った。
自分は何者だったのか。
大量の血を流して倒れたブルーは、自分にとって誰だったのか。
(其処から後は、あいつに付き添って救急車に乗って…)
生きた心地もしなかった上に、聖痕なのだと分かった後は、人生がすっかり変わってしまった。
ブルーと共に生きてゆこう、という方向へ。
今はまだチビの子供だけれども、いずれは一緒に暮らすのだ、と。
(だからだな…)
守り役という役目にかこつけ、せっせとブルーの家に通った。
休日も、仕事が終わった後にも、時間さえあればブルーの家へと出掛けてゆく。
ブルーの家で過ごす間は、当然、「お客様」なのだから…。
(昼寝をどうぞ、と言われるわけもないからなあ…)
すっかり御縁が無くなったものが、忘れ果てていた「昼寝の時間」だった。
昼寝は、心地よいものなのに。
チビのブルーと出会うより前は、昼寝することもよくあった。
休日にジョギングなどをした後、家に帰って、水分と栄養を補給してから横になる。
昼寝する場所は、気分次第。
寝室に行って、カーテンを閉めて、ベッドに潜るのもいいし…。
(レースのカーテンだけにしておいて、窓も開け放して…)
明るい部屋でベッドに入って寝るのも、なかなかにいい具合ではある。
庭の緑の匂いが届けば、山のホテルにいるような気分。
(リビングの床で寝るというのも、悪くないんだ)
絨毯の上にゴロンと転がり、横には飲み物などを乗っけたトレイを置いておく。
ふと目が覚めたら、起き上がって飲み物を口にして…。
(それからコロンと、また転がって…)
夕方まで寝て、「いい日だった」と伸びをして起きて、夕食の支度。
昼寝する前に用意しておいた、食材などを取り出して。
「今日は有意義に過ごせたよな」と、大満足で。
有意義も何も、かなりの時間を「寝ていた」くせに。
昼寝の間は何もしなくて、家事も仕事も、何もこなしてはいなかったのに。
(しかし、昼寝の魅力と良さは、だ…)
そういう所にあるんだよな、と思い返して、「寝ていないな…」と顎に手を当てた。
ずいぶん長く「していない」わけで、これから先も、きっと出来ない。
ブルーの家に出掛けてゆくなら、昼寝している暇は無いから。
暇だからこそ「ブルーの家に出掛ける」勘定、ブルーの家では「出来ない」昼寝。
お客様に昼寝を勧めはしないし、こればっかりは仕方ない。
(…うーむ…)
前の俺だってしていないしな、と自分で自分を慰める。
遠く遥かな時の彼方では、昼寝をしている暇は無かった。
もう文字通りに「無かった」と断言出来るし、昼寝したのは「仮眠」と言う。
白いシャングリラを預かるキャプテン、その立場では、のんびり昼寝をするなどは…。
(言語道断というヤツで…)
けして許されるものではなくて、自分自身でも「許さなかった」。
他の者たちが何と言おうと、「いや、大丈夫だ」とブリッジに立って「起きて」過ごした。
昼寝に相応しい時間に寝たのは、緊張が長く続いて、休息の必要があった時だけ。
「これ以上、起きて立っているより、寝た方がいい」と判断したなら、寝に行った。
「すまないが、少し仮眠してくる」と、ブリッジの仲間に断って。
どれほどの時間で戻って来るのか、それもきちんと伝えてから。
(でもって、部屋に戻ったら…)
起きるべき時間にアラームをセットし、ブリッジの者にも頼んでおいた。
「この時間になったら、起こしてくれ」と。
「俺も目覚ましはかけておくんだが、万一ということがあるからな」と、念のために。
(…あの頃の俺に比べたら…)
昼寝出来ないくらいが何だ、と思うけれども、昼寝していた頃の記憶も「ある」のが今。
どんなに心地よいものなのか、今の自分は「知っている」。
チビのブルーに出会うより前は、何度も昼寝をしていたから。
子供時代から昼寝していたし、学生時代も友人の家で寝ていたもの。
教師の仕事を始めてからは、気ままな一人暮らしなだけに…。
(気が向いた時に、ゆっくり昼寝で…)
好き放題に寝られたんだが、と昼寝出来た頃が懐かしい。
あの心地よい時は当分、自分の許には帰って来ない。
チビのブルーの家に出掛けて、「お客様」をやっている間は。
ブルーの家は海辺の家ではないから、お客様に昼寝を勧めはしないし、どうしようもない。
まさか「昼寝をしたいから」と、ブルーの家には行かないで…。
(家でゆっくり昼寝したなら、あいつ、怒るどころじゃ済まないぞ…)
俺だってそんな気分になれるわけもないしな、と思う以上は、お預けでいるしかないだろう。
どうやら、ブルーと暮らし始めるまで、昼寝するのは無理らしい。
昼寝に割ける時間は無くて、昼寝するような時間があるなら、ブルーのために使うべき。
つまりは、そうする必要が無くなる時が来るまで、昼寝とは縁が遠のいたまま。
(…気持ちよく昼寝出来るようになるのは、あいつと暮らし始めてからで…)
それまで我慢するしかないな、と思った所でハタと気付いた。
「待てよ?」と、ブルーの顔を頭に描いて考える。
ブルーと一緒に暮らしているなら、家には「ブルーがいる」わけで…。
(あいつが同じ家にいるのに、俺は昼寝が出来るのか?)
果たして「それ」は許されるのか、と疑問がフツフツと湧き上がって来た。
ブルーが家にいるというのに、「昼寝してくる」と部屋に戻ろうものなら、どうなるか。
(カーテンを閉めて、ベッドに潜り込む前に…)
怒り狂ったブルーが追い掛けて来て、寝室の扉を開け放ちそう。
バンッ! と凄い勢いで。
「何をするの!」と、「昼寝だなんて、信じられない!」と血相を変えて。
(…あいつを放って、昼寝に行ってしまったら…)
そうなりそうだ、と肩を竦めた。
結婚して一緒に暮らし始めた、前の生から愛したブルー。
それを放って昼寝するなど、デリカシーに欠けた行為でしかない。
ブルーが怒りに燃えていたって、誰も「ハーレイ」に同情してはくれないだろう。
「自業自得だ」とブルーの肩を持ち、ハーレイを責めることはあっても。
「なんという酷い恋人だろう」と、呆れ果てた顔で手を広げはしても。
(…それはマズイぞ…)
どう見ても俺が悪いじゃないか、と思うし、事実、そのように受け取られる。
ブルーにも、耳にした他の人たちにも。
(俺は昼寝をしたいだけだというのに、そうなるのか…?)
今と同じにはいかないのか、と思考を巡らせ、「駄目だな…」とフウと溜息をついた。
ブルーと二人で暮らしているなら、ブルーを放ってはおけないだろう。
「出会う前」のような昼寝のスタイル、それを実行してはいけない。
もれなくブルーは怒るだろうし、世間の意見も、ブルーの方に…。
(同調するってモンだよなあ…?)
多分、と「もう戻らない」昼寝の時間を思う。
好きな時間に、好きなスタイル、それで寝るのが「心地よい」のに。
昼寝の真骨頂とも言っていいのに、ブルーと暮らし始めた後には難しい。
ブルーに合わせてやらないことには、ブルーの機嫌を損ねてしまって、昼寝どころでは…。
(なくなるよなあ、間違いなく…)
寝室まで追い掛けて来られちまって、と思うものだから、工夫するしかないだろう。
ブルーと一緒に暮らし始めた後、昼寝するなら。
縁が遠のいている「心地よい時間」を、もう一度、取り戻したいのなら。
(…そうなると、あいつを誘うしか…)
あいつも一緒に昼寝するしかないんだよな、と答えは直ぐに浮かぶけれども…。
(どうなることやら…)
寝室はともかくリビングの床は、身体の弱いブルーには不向きかもしれない。
下手をしたなら身体が冷えて、体調を崩してしまいかねない。
(それを防ぐには、あいつのための敷物か何かを…)
調達して来て、昼寝の時には床に敷く。
そしてブルーが眠りに落ちたら、上にも何か掛けてやらねば。
(…でないと、風邪を引きそうだしなあ…)
ということは、俺は先には寝られないのか、と気付いて「そうか…」と苦笑した。
前の通りの昼寝のスタイル、それは不可能になるらしい。
一人で気ままに昼寝したのでは、ブルーのためにはならないから。
ブルーが怒るか、体調を崩すか、どちらかに転んでしまう以上は、これからは…。
(昼寝するなら、あいつも誘って、あいつの面倒を見てやりながら…)
寝るしかないっていうことだよな、とガッカリだけれど、それもいい。
ブルーと二人で暮らすためなら、気ままな昼寝は捨てられる。
どうせ遥かな時の彼方では、昼寝などしてはいないから。
昼寝も無ければ、ブルーと二人きりでの暮らしも、夢でしかなかったのだから…。
昼寝するなら・了
※ブルー君と再会してから、昼寝していないハーレイ先生。昼寝が懐かしいですけど…。
これから先に昼寝をするなら、ブルー君より先には寝られないのです。世話してあげないとv
とんと御無沙汰になっちまったな、とハーレイが思い出した、心地よいこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(どのくらい、御無沙汰してるんだ?)
いつから昼寝をしていないやら、と指を折りながら時を遡ってみる。
今年の夏休みは、全くしてはいなかった。
大抵はブルーの家で過ごして、そうでない日は柔道部の活動などで出掛けてばかり。
家でのんびり昼寝する暇は、まるで無かったと言うべきか。
(しかし、柔道部だとか、学校関係の方はともかく…)
ブルーの家に行っていた日は、「暇が無かった」では通らない。
暇だからこそ、前の生からの恋人の家に出掛けて行って…。
(あいつと話して、一緒に飯を食ったりもして…)
朝から晩までいたわけなのだし、暇だからこそできることだろう。
その代わり、昼寝が出来なかったというだけで。
訪問先の家で寝るなど、失礼でしかないのだから。
(学生時代なら、そいつも充分、アリだったんだが…)
現に友達の家で寝てたぞ、と思うけれども、今は学生時代ではない。
ブルーも友達ではなくて教え子、ブルーの両親は保護者なのだし、ハーレイが行けば…。
(立派に「お客様」でだな…)
お客様な以上、「どうぞ」と勧められない限りは、昼寝は出来ない。
もっとも、昼寝を勧める家など、そうそうありはしないけれども。
(…海辺の家なら、季節によってはあるんだろうが…)
夏になったら海水浴で賑わう場所なら、客人を招いて海に行くことも珍しくない。
海で泳げば、楽しくても体力は消耗するから、海から戻って来た後に…。
(おやつの前に昼寝でも、と涼しい部屋に案内してくれて…)
ごゆっくりどうぞ、と言われそうではある。
もちろん家人も別の部屋で昼寝で、起きているのはペットくらいで…。
(うんとゆったり時間が流れて、おやつの時間も遅めになって…)
夕食も、遅い時間になりそうな感じ。
起き出してくるのが遅かったならば、自然と全てがずれてゆく。
夕方近くに冷えたスイカを切っておやつで、夕食は長い夏の日がとっぷり暮れてから。
(飯を食ったら、花火とかだな)
海辺の夜だと定番だぞ、と思うけれども、ブルーの家は海辺ではない。
当然、海水浴も無いから、昼寝を勧めてくれはしなくて、それで終わった夏休み。
暇はたっぷりあったというのに、一度も昼寝をしないままで。
その前は…、と更に遡ったけども、夏休みの前は、ごくごく普通の一学期。
ついでに途中からの転任、最初の間は、どちらかと言えば忙しかった。
かてて加えて、ブルーのクラスへ授業をしに足を踏み入れた途端…。
(あいつがいきなり、血を流したから…)
腰を抜かさんばかりに驚き、駆け寄った時に記憶が戻った。
自分は何者だったのか。
大量の血を流して倒れたブルーは、自分にとって誰だったのか。
(其処から後は、あいつに付き添って救急車に乗って…)
生きた心地もしなかった上に、聖痕なのだと分かった後は、人生がすっかり変わってしまった。
ブルーと共に生きてゆこう、という方向へ。
今はまだチビの子供だけれども、いずれは一緒に暮らすのだ、と。
(だからだな…)
守り役という役目にかこつけ、せっせとブルーの家に通った。
休日も、仕事が終わった後にも、時間さえあればブルーの家へと出掛けてゆく。
ブルーの家で過ごす間は、当然、「お客様」なのだから…。
(昼寝をどうぞ、と言われるわけもないからなあ…)
すっかり御縁が無くなったものが、忘れ果てていた「昼寝の時間」だった。
昼寝は、心地よいものなのに。
チビのブルーと出会うより前は、昼寝することもよくあった。
休日にジョギングなどをした後、家に帰って、水分と栄養を補給してから横になる。
昼寝する場所は、気分次第。
寝室に行って、カーテンを閉めて、ベッドに潜るのもいいし…。
(レースのカーテンだけにしておいて、窓も開け放して…)
明るい部屋でベッドに入って寝るのも、なかなかにいい具合ではある。
庭の緑の匂いが届けば、山のホテルにいるような気分。
(リビングの床で寝るというのも、悪くないんだ)
絨毯の上にゴロンと転がり、横には飲み物などを乗っけたトレイを置いておく。
ふと目が覚めたら、起き上がって飲み物を口にして…。
(それからコロンと、また転がって…)
夕方まで寝て、「いい日だった」と伸びをして起きて、夕食の支度。
昼寝する前に用意しておいた、食材などを取り出して。
「今日は有意義に過ごせたよな」と、大満足で。
有意義も何も、かなりの時間を「寝ていた」くせに。
昼寝の間は何もしなくて、家事も仕事も、何もこなしてはいなかったのに。
(しかし、昼寝の魅力と良さは、だ…)
そういう所にあるんだよな、と思い返して、「寝ていないな…」と顎に手を当てた。
ずいぶん長く「していない」わけで、これから先も、きっと出来ない。
ブルーの家に出掛けてゆくなら、昼寝している暇は無いから。
暇だからこそ「ブルーの家に出掛ける」勘定、ブルーの家では「出来ない」昼寝。
お客様に昼寝を勧めはしないし、こればっかりは仕方ない。
(…うーむ…)
前の俺だってしていないしな、と自分で自分を慰める。
遠く遥かな時の彼方では、昼寝をしている暇は無かった。
もう文字通りに「無かった」と断言出来るし、昼寝したのは「仮眠」と言う。
白いシャングリラを預かるキャプテン、その立場では、のんびり昼寝をするなどは…。
(言語道断というヤツで…)
けして許されるものではなくて、自分自身でも「許さなかった」。
他の者たちが何と言おうと、「いや、大丈夫だ」とブリッジに立って「起きて」過ごした。
昼寝に相応しい時間に寝たのは、緊張が長く続いて、休息の必要があった時だけ。
「これ以上、起きて立っているより、寝た方がいい」と判断したなら、寝に行った。
「すまないが、少し仮眠してくる」と、ブリッジの仲間に断って。
どれほどの時間で戻って来るのか、それもきちんと伝えてから。
(でもって、部屋に戻ったら…)
起きるべき時間にアラームをセットし、ブリッジの者にも頼んでおいた。
「この時間になったら、起こしてくれ」と。
「俺も目覚ましはかけておくんだが、万一ということがあるからな」と、念のために。
(…あの頃の俺に比べたら…)
昼寝出来ないくらいが何だ、と思うけれども、昼寝していた頃の記憶も「ある」のが今。
どんなに心地よいものなのか、今の自分は「知っている」。
チビのブルーに出会うより前は、何度も昼寝をしていたから。
子供時代から昼寝していたし、学生時代も友人の家で寝ていたもの。
教師の仕事を始めてからは、気ままな一人暮らしなだけに…。
(気が向いた時に、ゆっくり昼寝で…)
好き放題に寝られたんだが、と昼寝出来た頃が懐かしい。
あの心地よい時は当分、自分の許には帰って来ない。
チビのブルーの家に出掛けて、「お客様」をやっている間は。
ブルーの家は海辺の家ではないから、お客様に昼寝を勧めはしないし、どうしようもない。
まさか「昼寝をしたいから」と、ブルーの家には行かないで…。
(家でゆっくり昼寝したなら、あいつ、怒るどころじゃ済まないぞ…)
俺だってそんな気分になれるわけもないしな、と思う以上は、お預けでいるしかないだろう。
どうやら、ブルーと暮らし始めるまで、昼寝するのは無理らしい。
昼寝に割ける時間は無くて、昼寝するような時間があるなら、ブルーのために使うべき。
つまりは、そうする必要が無くなる時が来るまで、昼寝とは縁が遠のいたまま。
(…気持ちよく昼寝出来るようになるのは、あいつと暮らし始めてからで…)
それまで我慢するしかないな、と思った所でハタと気付いた。
「待てよ?」と、ブルーの顔を頭に描いて考える。
ブルーと一緒に暮らしているなら、家には「ブルーがいる」わけで…。
(あいつが同じ家にいるのに、俺は昼寝が出来るのか?)
果たして「それ」は許されるのか、と疑問がフツフツと湧き上がって来た。
ブルーが家にいるというのに、「昼寝してくる」と部屋に戻ろうものなら、どうなるか。
(カーテンを閉めて、ベッドに潜り込む前に…)
怒り狂ったブルーが追い掛けて来て、寝室の扉を開け放ちそう。
バンッ! と凄い勢いで。
「何をするの!」と、「昼寝だなんて、信じられない!」と血相を変えて。
(…あいつを放って、昼寝に行ってしまったら…)
そうなりそうだ、と肩を竦めた。
結婚して一緒に暮らし始めた、前の生から愛したブルー。
それを放って昼寝するなど、デリカシーに欠けた行為でしかない。
ブルーが怒りに燃えていたって、誰も「ハーレイ」に同情してはくれないだろう。
「自業自得だ」とブルーの肩を持ち、ハーレイを責めることはあっても。
「なんという酷い恋人だろう」と、呆れ果てた顔で手を広げはしても。
(…それはマズイぞ…)
どう見ても俺が悪いじゃないか、と思うし、事実、そのように受け取られる。
ブルーにも、耳にした他の人たちにも。
(俺は昼寝をしたいだけだというのに、そうなるのか…?)
今と同じにはいかないのか、と思考を巡らせ、「駄目だな…」とフウと溜息をついた。
ブルーと二人で暮らしているなら、ブルーを放ってはおけないだろう。
「出会う前」のような昼寝のスタイル、それを実行してはいけない。
もれなくブルーは怒るだろうし、世間の意見も、ブルーの方に…。
(同調するってモンだよなあ…?)
多分、と「もう戻らない」昼寝の時間を思う。
好きな時間に、好きなスタイル、それで寝るのが「心地よい」のに。
昼寝の真骨頂とも言っていいのに、ブルーと暮らし始めた後には難しい。
ブルーに合わせてやらないことには、ブルーの機嫌を損ねてしまって、昼寝どころでは…。
(なくなるよなあ、間違いなく…)
寝室まで追い掛けて来られちまって、と思うものだから、工夫するしかないだろう。
ブルーと一緒に暮らし始めた後、昼寝するなら。
縁が遠のいている「心地よい時間」を、もう一度、取り戻したいのなら。
(…そうなると、あいつを誘うしか…)
あいつも一緒に昼寝するしかないんだよな、と答えは直ぐに浮かぶけれども…。
(どうなることやら…)
寝室はともかくリビングの床は、身体の弱いブルーには不向きかもしれない。
下手をしたなら身体が冷えて、体調を崩してしまいかねない。
(それを防ぐには、あいつのための敷物か何かを…)
調達して来て、昼寝の時には床に敷く。
そしてブルーが眠りに落ちたら、上にも何か掛けてやらねば。
(…でないと、風邪を引きそうだしなあ…)
ということは、俺は先には寝られないのか、と気付いて「そうか…」と苦笑した。
前の通りの昼寝のスタイル、それは不可能になるらしい。
一人で気ままに昼寝したのでは、ブルーのためにはならないから。
ブルーが怒るか、体調を崩すか、どちらかに転んでしまう以上は、これからは…。
(昼寝するなら、あいつも誘って、あいつの面倒を見てやりながら…)
寝るしかないっていうことだよな、とガッカリだけれど、それもいい。
ブルーと二人で暮らすためなら、気ままな昼寝は捨てられる。
どうせ遥かな時の彼方では、昼寝などしてはいないから。
昼寝も無ければ、ブルーと二人きりでの暮らしも、夢でしかなかったのだから…。
昼寝するなら・了
※ブルー君と再会してから、昼寝していないハーレイ先生。昼寝が懐かしいですけど…。
これから先に昼寝をするなら、ブルー君より先には寝られないのです。世話してあげないとv
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