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仕切り直すのは
「ねえ、ハーレイ。仕切り直すのは…」
 大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 仕切り直すって…」
 大切って、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
「なんだ、いきなりどうしたんだ?」
「えっとね…。ぼくの体験談かな」
 ちょっぴり恥ずかしいけどね、とブルーは肩を竦めた。
 「あんまり言いたくないんだけれど」と、恥ずかしそうに。
「ほほう…。何かやらかしかんだな、その様子だと」
 是非とも聞かせて欲しいモンだ、とハーレイは片目を瞑る。
 「お前の失敗談を聞けるチャンスは、貴重だしな」と。
「そうかもね…。おまけに数学の話なんだよ、コレ」
 この前、家で復習してて…、とブルーは話し始めた。


「あのね、問題を解き始めた時は、よかったんだよ」
「ふむふむ、それで?」
 何処で失敗しちまったんだ、とハーレイは興味津々。
 ブルーの方は「だから…」と言い淀みつつも、こう言った。
「最後に答えを出したら、なんだか変な数字で…」
「変だって?」
「そう! 学校で解いた時には、綺麗だったのに…」
 ズラズラ続いて終わらないわけ、とブルーは溜息をつく。
 「小数点の後に、ズラリと数字なんだよ」と。
「ほう…。数字の行列が終わってくれなかった、と…」
「うん。こんな答えじゃなかったよね、って見てみたら…」
 ノートの答えは、キッチリ綺麗だったわけ、と零れる苦笑。
「何処かで計算を間違えたんだよ、多分」
「なるほど、ありそうな話だな」
「でしょ? だから何度も解き直したのに…」
 何度やっても、全部おんなじ、とブルーは両手を広げた。
 いわゆる「お手上げ」、そういうポーズで。


「流石に頭が痛くなって来て、もう降参で…」
 一休みしてホットミルクを飲みに下まで、とブルーは笑う。
 「だって、どうにもならないしね?」と同意を求める顔で。
「そりゃまあ、なあ…。ミルクで解き方、閃いたのか?」
 休んだ効果はどうだったんだ、とハーレイは身を乗り出す。
「お前のことだし、結果的には解けたんだろうが…」
「其処なんだよね…。部屋に戻っても、まだ駄目で…」
 仕方ないからヤケになっちゃって、とブルーは特大の溜息。
「いっぺん、ノートをパタンと閉じちゃって…」
「放り投げたのか、ゴミ箱に?」
「そこまでは、やっていないけど…」
 気分はソレかな、と嘆くブルーは、相当、苦労したらしい。
 普段なら直ぐに終わる筈の復習、それが全く終わらなくて。
「ベッドにコロンと仰向けになって、ボーッとしてて…」
 それから机に戻ったわけ、と説明が続く。
「でね、真っ白な紙を一枚出して、そこで一から…」
「解き直すことにしたんだな?」
「ノートの呪いにかかったかも、って思うじゃない!」
 まず罫線から逃げなくちゃ、という気持ちは、よくわかる。
 ブルーがノートを捨てなかっただけでも、上等だろう。


「白紙の効果はあったのか?」
 ノートの呪いは無事に解けたか、とハーレイは訊いた。
 仕切り直しをしたのだったら、呪いは其処で解けたろう。
「バッチリと…。白紙に問題、書き直したら…」
「どうなった?」
「三つ目の数字を、ぼくが書き写し間違えてたんだよ!」
 答えが変になる筈だよね、とブルーは嘆くのだけれど…。
「お前、そいつは、うっかりミスっていうヤツで…」
「まさか、そうだなんて思わないじゃない!」
 でも、痛烈に思い知ったんだよね、と話は最初に繋がった。
 仕切り直すのは大切なことで、一事が万事、と。
「確かになあ…。まあ、料理だとそうはいかんが…」
 塩と砂糖を間違えてもな、とハーレイも失敗談で応じる。
「肉も野菜も、切って煮込んじまった後なんかだと…」
「仕切り直しは出来ないね…」
 もう材料も残ってないし、とブルーはクスクス笑った。
 「ハーレイだって、やっちゃうんだ?」と。
「たまにはな。だが、料理以外なら、仕切り直すぞ」
 俺だって、とハーレイは苦笑いしつつ、体験談を披露する。
「どうも妙だな、と思った書類は最初から作り直すとか」
 学生時代ならレポートとかも、と自分が仕切り直した話を。


 ブルーは楽しそうに体験談に聞き入り、笑顔になった。
「やっぱり、仕切り直すってことは大切だよね?」
「もちろんだ。お前も、その経験を次にだな…」
 ちゃんと活かしていかんとな、とハーレイは大きく頷く。
 「しくじった時は、潔く仕切り直すってヤツが一番だ」と。
「でしょ? だったら、一緒に仕切り直さない?」
「何だって?」
 一緒にとは、とハーレイは首を傾げて尋ねた。
「ティータイムを仕切り直すのか?」
 紅茶をコーヒーに換えるとか、と紅茶のポットを指差す。
「違うよ、ぼくたちの関係だってば! 最初から!」
 出会ったトコから仕切り直しで、とブルーは笑んだ。
「まず、再会のキスを交わして、そこから!」
「馬鹿野郎!」
 誰が、とハーレイは銀色の頭を、拳で軽くコツンと叩いた。
 「そういう仕切り直しは要らん!」と、ブルーを睨んで。
 「今の関係で正解なんだ」と、「チビのくせに」と…。



       仕切り直すのは・了







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