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修理するのは
「ねえ、ハーレイ。…ハーレイって…」
 修理するのは得意なの、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 修理って…」
 どういうヤツだ、とハーレイはブルーに問い返した。
 一口に修理と纏められても、修理の中にも色々とある。
 家にある道具で、誰でもヒョイと直せるもの。
 直す道具が家にあっても、少々、技術が必要なもの。
(技術が要るって方になったら、得意分野の方もだな…)
 人それぞれで変わって来るから、難しい。
 大工仕事が得意な人なら、家具や建具はお手のものだろう。
 けれど、敷物の端がほつれそうだとか、そういうものは…。
(大工仕事じゃ、どうにもならんぞ…)
 まるで分野が違うからな、と考えただけで答えが出て来る。
 ブルーが言う修理がどの分野なのか、まず聞かないと。


 ハーレイに尋ねられたブルーは、首を捻った。
「えっと…? 修理は修理で、そのまんまだよ?」
 壊れたものを直すヤツなんだけど、と答えに困った様子。
「そいつは、ただの思い付きなのか?」
 修理したい何かがあるんじゃなくて…、とハーレイは返す。
 「机の引き出しが壊れちまったとか、そういうのだ」と。
「引き出しだったら、壊れてないよ?」
 でも、そういうのも直せるの、とブルーの赤い瞳が瞬く。
 「引き出しなんかも、直せちゃうの?」と驚いた顔で。
「そりゃまあ、なあ…?」
 家にある道具で間に合う程度なら、とハーレイは笑んだ。
 実際、その手の修理だったら、別に大したことではない。
 自分の家でも、棚などを直したりもする。
 だから、ブルーにそう言ってやった。
「引き出しとかが壊れそうなら、壊れる前に、だ…」
 俺に言えよ、と片目をパチンと瞑って。


「ありがとう! 壊れる前でも、頼んでいいんだね!」
 流石、ハーレイ、とブルーは大きく頷く。
 「前はキャプテンをやっていたから、早めなんだね」と。
 言われてみれば、時の彼方ではそうだった。
 白いシャングリラに、故障が起きてからでは遅い。
 修理が必要になってしまう前に、必ず、メンテナンス。
 定期的に行う分はもちろん、予定外のも何度もやった。
(宇宙船ってヤツは繊細な上に、デカイ船だし…)
 何が原因で、どう壊れるかは、予測不能な部分も大きい。
 それだけに故障は未然に防いで、修理班は出ないのが理想。
(…とはいえ、それだけやっていても、だ…)
 やっぱり故障は起きたんだよな、と思い返して苦笑する。
 「修理班ってヤツも、あの船には必須だったよなあ…」と。


 ところでブルーは、何かを修理したいのだろうか。
 机の引き出しは無事らしいけれど、他の何かが壊れたとか。
(俺で直せるヤツならいいが…)
 聞いてみるか、とハーレイはブルーを見詰めて言った。
「それで、何かが壊れちまったのか?」
 俺に直せるなら直してやるが、と付け加えるのも忘れない。
 「難しいヤツは無理だし、専門外のも無理だがな」と。
 するとブルーは、「大丈夫だと思うけど…」と即答だった。
 「ハーレイだったら、きっと得意だと思うんだ」とも。
「…今の俺だ、ってトコを忘れてくれるなよ?」
 もうキャプテンじゃないんだからな、とハーレイは慌てた。
 部屋の空調を直してくれとか、頼まれたって困ってしまう。
 キャプテン・ハーレイだった頃なら、ある程度なら…。
(門前の小僧ってヤツで、船の設備も、そこそこは…)
 応急修理が出来たけれども、今では無理。
 ただの古典の教師なのだし、腕も知識も持ってはいない。


 「簡単なヤツしか直せないぞ」と、ハーレイは念を押した。
 今の自分に直せるものは、ごく単純なものだけだ、と。
「うん。でも、簡単なものだから…」
 それに、ハーレイにしか直せないしね、とブルーが微笑む。
 「他の人だと、絶対に無理」と、赤い瞳を輝かせて。
「おい、ちょっと待て!」
 いったい何の修理なんだ、とハーレイが覚えた不吉な予感。
 もしや自分は、とんでもない修理を請け負ったのでは…。
(いや、まさか…。しかしだな…!)
 嫌な予感しかしないんだが、と焦る間に、ブルーは言った。
「頼みたいのは、ぼくの心の修理だよ?」
 だって、キスしてくれないからね、とブルーは膨れっ面。
 「修理するなら、早めの方がいいんでしょ?」と睨んで。


(そう来たか…!)
 揚げ足まで取って来やがった、とハーレイは軽く拳を握る。
 ブルーの頭を、軽くコツンとやるために。
「そんなもの、修理の必要なんぞは無いからな!」
 壊れたって死にやしないだろうが、と叱って、頭をコツン。
 なにしろ、ブルーの心と来たら、壊れるどころか…。
(うんと太々しく、俺を陥れるような計画を…)
 着々と練ってやがるんだしな、と容赦はしない。
 手加減するのは忘れないけれど、此処は叱っておかないと。
 修理するなら魂胆の方で、よからぬ企てを防ぐためにも…。


         修理するのは・了








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