閉じ込められちゃっても
(閉じ込められちゃう、っていうことが…)
あるらしいよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(エレベーターに乗ってる時とかに…)
止まってしまって外に出られず、閉じ込められるというケースがある。
人間が全てミュウになっても、その手のトラブルは無くなっていない。
(閉じ込められた人が、タイプ・ブルーだったら…)
瞬間移動で出てゆくことは可能だけれど、面白いことに、そうではなかった。
閉じ込められたら、係を呼んで「出して貰う」のが社会のルール。
(サイオンは、使わないのがマナーで…)
他の手段があるのだったら、そちらを使うべきだとされる。
エレベーターなどの閉じ込めだったら、係が来るまで「出ないで」待つ。
たとえ急いでいたとしたって、慌てて出てゆくべきではない。
(よっぽど急ぎで、係を待ってる場合じゃなくて…)
なんとかせねば、という時にしても、出てゆく前に通報はしておかねばならない。
係を呼び出し、「閉じ込められてしまいました」と、現場や自分の状況などを。
「とても急ぐので、自分で出ます」と伝えて、それから外へ出てゆく。
でないと後で、乗ろうとした人が困ってしまうことになる。
(エレベーターが来ないんだけど、って…)
いつまでも待つとか、代わりに階段を使うとか。
係が気付けばいいのだけれども、気付かなかったら、大勢の人が迷惑する。
故障が直って、エレベーターが動き出すまでの時間が伸びて。
誰かが係に「おかしいですよ」と伝えない限り、修理係は来ないのだから。
(…そうならないように、きちんと係に連絡をして…)
それが済んだら瞬間移動で外に出るのが、今の時代の正しいやり方。
(おまけに、急いでないんなら…)
瞬間移動の能力を持っていたって、「出して貰える」まで、じっと待つべき。
焦って外へ出てゆくようでは、まだまだ立派な大人と言えない。
(それをやっても「仕方ないな」で許されるのは…)
多分、学生までなんだよね、と子供のブルーでも知っている。
上の学校の生徒までなら、待ち合わせの時間に遅れそうだ、と飛び出すこともあるだろう。
ところが大人は、そうはいかない。
社会のマナーやルールというものを、ちゃんと守れるのが「一人前の大人」だから。
瞬間移動が出来る人間には、少々、不便な今の世の中。
閉じ込められてしまったが最後、自分の力ではどうにもならない。
(正確に言えば、どうにか出来る方法は、持っているんだけれど…)
使いたくても使えないわけで、苛立つ場面もあるかもしれない。
「待ち合わせの時間が、すぐそこなのに」と腕時計を見て、舌打ちをして。
係が来るのを待っている間も、踵で床をコツコツと蹴って。
(だけど、それでも出て行かないのが…)
マナーでルールになっているから、待たされた方も、その件について怒りはしない。
たとえ半時間、一時間などと待たされようと。
(ホントは思念波も、使わないのがマナーだけれど…)
そうした時なら、連絡手段に使ってもいいとされている。
「閉じ込められてしまって、遅くなります」と相手に伝えて、待っていて貰う。
(連絡ついでに、思念でお喋り出来たなら…)
いい暇つぶしになりそうだけれど、そちらの方は…。
(マナー違反になっちゃうみたい…)
子供だったら別だけれど、とブルーにも充分、分かっている。
「遅れそうです」と伝えた後は、「係を待つ」しか無いらしい。
待たせている人と思念で話しはしないで、他のことをして待っているしかない。
本でも持っているのだったら、それを読みながら。
時間つぶしの種が無いなら、ただただ不運を呪いながら。
(…厄介だけれど、今のぼくだと…)
最初っから、そうなっちゃうんだよ、と苦笑する。
タイプ・ブルーには違いなくても、今の自分はサイオンを上手く扱えない。
「ソルジャー・ブルー」だった頃には、息をするように自然に、あれこれ出来たのに。
瞬間移動も簡単に出来て、アルテメシアの雲海に潜むシャングリラから…。
(地上に向かって、一気に飛んで…)
一瞬でヒョイと出てゆけたのに、今の自分はエレベーターから出られもしない。
閉じ込められてしまった時には、社会のマナーやルールを守る以前に、自分のために…。
(出られなくなってしまったんです、って通報しないと…)
エレベーターの中から出られないまま、閉じ込められているしかない。
待ち合わせの時間に遅れるだとか、贅沢を言える立場でさえない。
なにしろ「自分では出られない」のだから。
出てゆきたくても出てゆけなくて、係に出して貰うしかない。
瞬間移動でヒョイと出るなど、今の自分には無理だから。
逆立ちしたって出来はしなくて、「出られないんです」と通報するのが精一杯で。
なんとも困った、と思うけれども、幸い今まで、閉じ込められた経験は無い。
ついでに「社会のマナー」で言うなら、自分では「出られない」のだし…。
(まだ子供なのに、ちゃんと係に連絡をして、じっと待ってるタイプ・ブルーで…)
良い子の見本になれそうではある。
サイオンが不器用で「出られない」ことさえ知られなければ、係に褒めて貰えるだろう。
「タイプ・ブルーなのに、待っていたの?」と、「我慢強いね」と、手放しで。
(それはとっても嬉しいんだけど…)
閉じ込められるのは困るよね、と顎に手を当てる。
学校やデパートのエレベーターなら、係が直ぐに来そうだけれど…。
(本屋さんとかだと、係は常駐してなくて…)
何処かの会社から駆け付けることになるだろうから、かなり時間がかかりそう。
半時間で済めばいいのだけれども、一時間も出られないだとか。
(そんなの、困る…)
待ち合わせの予定が無くても困っちゃうよ、と思った所でハタと気付いた。
今はチビだから、ハーレイとデートは出来ないけれど…。
(大きくなったら、もちろんデートに行けるから…)
ハーレイの仕事が終わるのを待って、それからデートもあるかもしれない。
喫茶店などで待ち合わせをして、ハーレイが来たら、デートの始まり。
(ワクワクしちゃって、うんと早めに家を出て…)
待ち合わせの場所に早く着き過ぎるようなら、時間を調整しなくては。
喫茶店で待ってもいいのだけれども、紅茶だけでは長居は出来ない。
(ぼくが、沢山食べても平気なタイプだったら…)
注文を重ねて待てば良くても、生憎、それは出来そうにない。
出来たとしても、ハーレイが店に着いた時には…。
(お腹一杯で、なんにも食べられなくって…)
せっかくのデートが、台無しになってしまいそう。
ハーレイが予約を入れている店で、食事したくても食べられなくて。
待ち合わせ場所の喫茶店でも、ハーレイのお勧めのケーキやタルトやパイなどが…。
(色々あるのに、どれもお腹に入らなくって…)
ハーレイが注文して「味見するか?」と尋ねてくれても、味見も出来ない。
その上、ハーレイのお勧めのお菓子は…。
(ぼくが注文して食べた中には、一つも入ってないんだよ…!)
悲劇だよね、と泣きたくなるから、喫茶店で長居をしてはいけない。
他の場所に出掛けて時間調整、書店に行くとか、歩きすぎて疲れないコースを選んで。
(ぼくが選んで入りそうなのは、本屋さん…)
色々なフロアで棚にある本を眺める間に、時間はかなり潰せるだろう。
じっくり本を選びたい人が座るための椅子も、テーブルも用意されている。
(疲れずに待てて、ゆっくり出来て…)
丁度いいけれど、フロアからフロアへ移動するには、エレベーターに乗ることになる。
エスカレーターも設置されてはいても、一気に何階か移動するなら…。
(エレベーターの方が、断然、便利で…)
速いものだから、そっちを選んで乗るのが定番。
特に書店に入った直後は、一番上にあるフロアまで…。
(エレベーターに乗って上がって、其処から下のフロアを順に…)
回ってゆくのがお気に入りだし、時間つぶしに入った場合も、きっと変わらない。
一気に上まで、そういうつもりで乗り込んで…。
(途中で乗って来る人もいなくて、ぼく一人だけで…)
貸し切り状態で上昇中に、エレベーターが止まってしまったら…。
(どうするわけ!?)
大変じゃない、と青ざめた。
ハーレイとの待ち合わせ時間には、まだ早いから、と書店に入ったまではいい。
ところが「エレベーターに閉じ込められてしまった」わけで、今の自分の力では…。
(出られなくって、係の人を呼ぶしかなくて…)
閉じ込められたのが書店のエレベーターでは、係の到着は遅くなりそう。
これが学校やデパートだったら、係は直ぐに来てくれるのに。
修理に時間がかかったとしても、一時間も待たずに済みそうなのに。
(でも、本屋さんのエレベーターだと…)
修理係が何処から来るのか分からないから、場合によっては一時間経っても…。
(お待たせしました、今、着きました、って…)
連絡が入って、それから修理が始まることもあるかもしれない。
そうなったならば、待ち合わせの時間は、ぐんぐん迫って、もしかしたなら…。
(過ぎてしまうかも…!)
そんなの困る、と泣きたいけれども、どうすることも出来ないらしい。
ハーレイに「ごめん、閉じ込められちゃって…」と思念で伝えることも出来ない。
(今のぼくには、非常事態でも、思念で連絡なんかは無理で…)
自分がどういう状況にあるか、ハーレイに知らせる手段は無い。
ハーレイが時間通りに喫茶店に着いたら、其処に「ブルー」の姿は無くて…。
(遅れてるんだな、って腰を下ろして、コーヒーを頼んで…)
ブルーが来るのを、のんびりと待つことになるだろう。
いったい何が起きているのか、まるで全く知らないままで。
(…どうすればいいの…!?)
出られない上に、連絡だって出来ないんだよ、と涙が出そう。
今の自分は、どうしようもなく駄目らしい。
タイプ・ブルーに相応しく「とても急いでいますので」と、係に告げて「出る」のも無理。
その「出られない状況」について、ハーレイに伝えるための思念も紡げはしない。
(泣きながら待っているしか無いの…?)
外に出られるようになるまで…、とパニックだけれど、係と連絡は出来るのだから…。
(泣いていないで、落ち着いて…)
すみませんが、と頼めばいいんだ、と閃いた。
「閉じ込められてしまって出られない」ことを、ハーレイに伝えて貰えるように。
待ち合わせの時間が近付いて来たら、そうすればいい。
「この店で、待ち合わせの約束をしているんです」と、まずは喫茶店の名前を告げる。
場所も伝えれば、より正確な情報になることだろう。
そして、その店を探して貰って、待ち合わせの時間に現れたハーレイを見付けて貰って…。
(待ち合わせのお相手が、閉じ込められておられるようです、って…)
閉じ込められた書店の名前と場所を、ハーレイに伝えて貰えばいい。
「暫く時間がかかるそうです」と、「おいでになるまで、お待ち下さい」と。
(そしたらハーレイも、ぼくも安心…)
出られるようになったら、大急ぎで喫茶店に走って行くよ、と思ったけれど。
店に着いたら、「遅れてごめんね」と、息を切らせて謝ろう、とも考えたけれど…。
(ううん、ぼくが閉じ込められてる時に…)
ハーレイがのんびりコーヒーを飲んで、店で待っているわけがない。
今も昔も、ハーレイはそういうタイプではなくて、判断も行動も、うんと早くて…。
(気配りだって、人一倍で、だからキャプテンをやってたわけで…)
コーヒーなんか、絶対、飲んでる場合じゃないよ、と顔が綻ぶ。
「ハーレイだったら、きっと思念が飛んで来るよね」と、その時の自分を想像して。
ブルーがどうなってしまったのかを、今のハーレイが知ったなら…。
(待ってろ、直ぐに行くからな、って…)
喫茶店を飛び出して、書店に駆け付けて来てくれる。
エレベーターから出られた時に、「ハーレイ」が其処にいられるように。
長い間、閉じ込められてしまったブルーを、慰め、デートに連れてゆくために。
(うん、ハーレイなら、きっとそう…)
閉じ込められちゃっても、そんなショックは吹っ飛んじゃうよ、と断言出来る。
ハーレイからの思念が「待ってろ」と届いた瞬間に。
「直ぐに行くから」と聞こえた途端に、そして出られて会えた時には、もう完全に…。
閉じ込められちゃっても・了
※エレベーターなどに閉じ込められても、自分の力では出られないのが今のブルー君。
ハーレイ先生とデートの時に、そうなったら…。ハーレイ先生、駆け付けてくれますよねv
あるらしいよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(エレベーターに乗ってる時とかに…)
止まってしまって外に出られず、閉じ込められるというケースがある。
人間が全てミュウになっても、その手のトラブルは無くなっていない。
(閉じ込められた人が、タイプ・ブルーだったら…)
瞬間移動で出てゆくことは可能だけれど、面白いことに、そうではなかった。
閉じ込められたら、係を呼んで「出して貰う」のが社会のルール。
(サイオンは、使わないのがマナーで…)
他の手段があるのだったら、そちらを使うべきだとされる。
エレベーターなどの閉じ込めだったら、係が来るまで「出ないで」待つ。
たとえ急いでいたとしたって、慌てて出てゆくべきではない。
(よっぽど急ぎで、係を待ってる場合じゃなくて…)
なんとかせねば、という時にしても、出てゆく前に通報はしておかねばならない。
係を呼び出し、「閉じ込められてしまいました」と、現場や自分の状況などを。
「とても急ぐので、自分で出ます」と伝えて、それから外へ出てゆく。
でないと後で、乗ろうとした人が困ってしまうことになる。
(エレベーターが来ないんだけど、って…)
いつまでも待つとか、代わりに階段を使うとか。
係が気付けばいいのだけれども、気付かなかったら、大勢の人が迷惑する。
故障が直って、エレベーターが動き出すまでの時間が伸びて。
誰かが係に「おかしいですよ」と伝えない限り、修理係は来ないのだから。
(…そうならないように、きちんと係に連絡をして…)
それが済んだら瞬間移動で外に出るのが、今の時代の正しいやり方。
(おまけに、急いでないんなら…)
瞬間移動の能力を持っていたって、「出して貰える」まで、じっと待つべき。
焦って外へ出てゆくようでは、まだまだ立派な大人と言えない。
(それをやっても「仕方ないな」で許されるのは…)
多分、学生までなんだよね、と子供のブルーでも知っている。
上の学校の生徒までなら、待ち合わせの時間に遅れそうだ、と飛び出すこともあるだろう。
ところが大人は、そうはいかない。
社会のマナーやルールというものを、ちゃんと守れるのが「一人前の大人」だから。
瞬間移動が出来る人間には、少々、不便な今の世の中。
閉じ込められてしまったが最後、自分の力ではどうにもならない。
(正確に言えば、どうにか出来る方法は、持っているんだけれど…)
使いたくても使えないわけで、苛立つ場面もあるかもしれない。
「待ち合わせの時間が、すぐそこなのに」と腕時計を見て、舌打ちをして。
係が来るのを待っている間も、踵で床をコツコツと蹴って。
(だけど、それでも出て行かないのが…)
マナーでルールになっているから、待たされた方も、その件について怒りはしない。
たとえ半時間、一時間などと待たされようと。
(ホントは思念波も、使わないのがマナーだけれど…)
そうした時なら、連絡手段に使ってもいいとされている。
「閉じ込められてしまって、遅くなります」と相手に伝えて、待っていて貰う。
(連絡ついでに、思念でお喋り出来たなら…)
いい暇つぶしになりそうだけれど、そちらの方は…。
(マナー違反になっちゃうみたい…)
子供だったら別だけれど、とブルーにも充分、分かっている。
「遅れそうです」と伝えた後は、「係を待つ」しか無いらしい。
待たせている人と思念で話しはしないで、他のことをして待っているしかない。
本でも持っているのだったら、それを読みながら。
時間つぶしの種が無いなら、ただただ不運を呪いながら。
(…厄介だけれど、今のぼくだと…)
最初っから、そうなっちゃうんだよ、と苦笑する。
タイプ・ブルーには違いなくても、今の自分はサイオンを上手く扱えない。
「ソルジャー・ブルー」だった頃には、息をするように自然に、あれこれ出来たのに。
瞬間移動も簡単に出来て、アルテメシアの雲海に潜むシャングリラから…。
(地上に向かって、一気に飛んで…)
一瞬でヒョイと出てゆけたのに、今の自分はエレベーターから出られもしない。
閉じ込められてしまった時には、社会のマナーやルールを守る以前に、自分のために…。
(出られなくなってしまったんです、って通報しないと…)
エレベーターの中から出られないまま、閉じ込められているしかない。
待ち合わせの時間に遅れるだとか、贅沢を言える立場でさえない。
なにしろ「自分では出られない」のだから。
出てゆきたくても出てゆけなくて、係に出して貰うしかない。
瞬間移動でヒョイと出るなど、今の自分には無理だから。
逆立ちしたって出来はしなくて、「出られないんです」と通報するのが精一杯で。
なんとも困った、と思うけれども、幸い今まで、閉じ込められた経験は無い。
ついでに「社会のマナー」で言うなら、自分では「出られない」のだし…。
(まだ子供なのに、ちゃんと係に連絡をして、じっと待ってるタイプ・ブルーで…)
良い子の見本になれそうではある。
サイオンが不器用で「出られない」ことさえ知られなければ、係に褒めて貰えるだろう。
「タイプ・ブルーなのに、待っていたの?」と、「我慢強いね」と、手放しで。
(それはとっても嬉しいんだけど…)
閉じ込められるのは困るよね、と顎に手を当てる。
学校やデパートのエレベーターなら、係が直ぐに来そうだけれど…。
(本屋さんとかだと、係は常駐してなくて…)
何処かの会社から駆け付けることになるだろうから、かなり時間がかかりそう。
半時間で済めばいいのだけれども、一時間も出られないだとか。
(そんなの、困る…)
待ち合わせの予定が無くても困っちゃうよ、と思った所でハタと気付いた。
今はチビだから、ハーレイとデートは出来ないけれど…。
(大きくなったら、もちろんデートに行けるから…)
ハーレイの仕事が終わるのを待って、それからデートもあるかもしれない。
喫茶店などで待ち合わせをして、ハーレイが来たら、デートの始まり。
(ワクワクしちゃって、うんと早めに家を出て…)
待ち合わせの場所に早く着き過ぎるようなら、時間を調整しなくては。
喫茶店で待ってもいいのだけれども、紅茶だけでは長居は出来ない。
(ぼくが、沢山食べても平気なタイプだったら…)
注文を重ねて待てば良くても、生憎、それは出来そうにない。
出来たとしても、ハーレイが店に着いた時には…。
(お腹一杯で、なんにも食べられなくって…)
せっかくのデートが、台無しになってしまいそう。
ハーレイが予約を入れている店で、食事したくても食べられなくて。
待ち合わせ場所の喫茶店でも、ハーレイのお勧めのケーキやタルトやパイなどが…。
(色々あるのに、どれもお腹に入らなくって…)
ハーレイが注文して「味見するか?」と尋ねてくれても、味見も出来ない。
その上、ハーレイのお勧めのお菓子は…。
(ぼくが注文して食べた中には、一つも入ってないんだよ…!)
悲劇だよね、と泣きたくなるから、喫茶店で長居をしてはいけない。
他の場所に出掛けて時間調整、書店に行くとか、歩きすぎて疲れないコースを選んで。
(ぼくが選んで入りそうなのは、本屋さん…)
色々なフロアで棚にある本を眺める間に、時間はかなり潰せるだろう。
じっくり本を選びたい人が座るための椅子も、テーブルも用意されている。
(疲れずに待てて、ゆっくり出来て…)
丁度いいけれど、フロアからフロアへ移動するには、エレベーターに乗ることになる。
エスカレーターも設置されてはいても、一気に何階か移動するなら…。
(エレベーターの方が、断然、便利で…)
速いものだから、そっちを選んで乗るのが定番。
特に書店に入った直後は、一番上にあるフロアまで…。
(エレベーターに乗って上がって、其処から下のフロアを順に…)
回ってゆくのがお気に入りだし、時間つぶしに入った場合も、きっと変わらない。
一気に上まで、そういうつもりで乗り込んで…。
(途中で乗って来る人もいなくて、ぼく一人だけで…)
貸し切り状態で上昇中に、エレベーターが止まってしまったら…。
(どうするわけ!?)
大変じゃない、と青ざめた。
ハーレイとの待ち合わせ時間には、まだ早いから、と書店に入ったまではいい。
ところが「エレベーターに閉じ込められてしまった」わけで、今の自分の力では…。
(出られなくって、係の人を呼ぶしかなくて…)
閉じ込められたのが書店のエレベーターでは、係の到着は遅くなりそう。
これが学校やデパートだったら、係は直ぐに来てくれるのに。
修理に時間がかかったとしても、一時間も待たずに済みそうなのに。
(でも、本屋さんのエレベーターだと…)
修理係が何処から来るのか分からないから、場合によっては一時間経っても…。
(お待たせしました、今、着きました、って…)
連絡が入って、それから修理が始まることもあるかもしれない。
そうなったならば、待ち合わせの時間は、ぐんぐん迫って、もしかしたなら…。
(過ぎてしまうかも…!)
そんなの困る、と泣きたいけれども、どうすることも出来ないらしい。
ハーレイに「ごめん、閉じ込められちゃって…」と思念で伝えることも出来ない。
(今のぼくには、非常事態でも、思念で連絡なんかは無理で…)
自分がどういう状況にあるか、ハーレイに知らせる手段は無い。
ハーレイが時間通りに喫茶店に着いたら、其処に「ブルー」の姿は無くて…。
(遅れてるんだな、って腰を下ろして、コーヒーを頼んで…)
ブルーが来るのを、のんびりと待つことになるだろう。
いったい何が起きているのか、まるで全く知らないままで。
(…どうすればいいの…!?)
出られない上に、連絡だって出来ないんだよ、と涙が出そう。
今の自分は、どうしようもなく駄目らしい。
タイプ・ブルーに相応しく「とても急いでいますので」と、係に告げて「出る」のも無理。
その「出られない状況」について、ハーレイに伝えるための思念も紡げはしない。
(泣きながら待っているしか無いの…?)
外に出られるようになるまで…、とパニックだけれど、係と連絡は出来るのだから…。
(泣いていないで、落ち着いて…)
すみませんが、と頼めばいいんだ、と閃いた。
「閉じ込められてしまって出られない」ことを、ハーレイに伝えて貰えるように。
待ち合わせの時間が近付いて来たら、そうすればいい。
「この店で、待ち合わせの約束をしているんです」と、まずは喫茶店の名前を告げる。
場所も伝えれば、より正確な情報になることだろう。
そして、その店を探して貰って、待ち合わせの時間に現れたハーレイを見付けて貰って…。
(待ち合わせのお相手が、閉じ込められておられるようです、って…)
閉じ込められた書店の名前と場所を、ハーレイに伝えて貰えばいい。
「暫く時間がかかるそうです」と、「おいでになるまで、お待ち下さい」と。
(そしたらハーレイも、ぼくも安心…)
出られるようになったら、大急ぎで喫茶店に走って行くよ、と思ったけれど。
店に着いたら、「遅れてごめんね」と、息を切らせて謝ろう、とも考えたけれど…。
(ううん、ぼくが閉じ込められてる時に…)
ハーレイがのんびりコーヒーを飲んで、店で待っているわけがない。
今も昔も、ハーレイはそういうタイプではなくて、判断も行動も、うんと早くて…。
(気配りだって、人一倍で、だからキャプテンをやってたわけで…)
コーヒーなんか、絶対、飲んでる場合じゃないよ、と顔が綻ぶ。
「ハーレイだったら、きっと思念が飛んで来るよね」と、その時の自分を想像して。
ブルーがどうなってしまったのかを、今のハーレイが知ったなら…。
(待ってろ、直ぐに行くからな、って…)
喫茶店を飛び出して、書店に駆け付けて来てくれる。
エレベーターから出られた時に、「ハーレイ」が其処にいられるように。
長い間、閉じ込められてしまったブルーを、慰め、デートに連れてゆくために。
(うん、ハーレイなら、きっとそう…)
閉じ込められちゃっても、そんなショックは吹っ飛んじゃうよ、と断言出来る。
ハーレイからの思念が「待ってろ」と届いた瞬間に。
「直ぐに行くから」と聞こえた途端に、そして出られて会えた時には、もう完全に…。
閉じ込められちゃっても・了
※エレベーターなどに閉じ込められても、自分の力では出られないのが今のブルー君。
ハーレイ先生とデートの時に、そうなったら…。ハーレイ先生、駆け付けてくれますよねv
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