閉じ込められても
(閉じ込めか…)
こればっかりは無くならんよな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
どういうわけだか、ポンと頭に浮かんで来たのが「閉じ込め」という言葉。
今の時代も、「閉じ込められる」ことは無くなっていない。
(人間が全て、ミュウになっても、この手のヤツは…)
現役で健在なんだよな、と思うと少し可笑しくなる。
ミュウがいなかった時代はまだしも、今なら閉じ込められたって…。
(タイプ・ブルーだったら、瞬間移動で…)
ヒョイと出られるから、騒ぐ必要など何処にも無い。
ところがどっこい、タイプ・ブルーでも「閉じ込められてしまう」のが今の世の中。
(全員がミュウになるまでの間の、移行期だったら…)
タイプ・ブルーが「閉じ込められる」ケースは無かっただろう。
その時代ならば、彼らは「自力で」脱出した上、一緒に閉じ込められた人がいたなら…。
(能力次第で、一緒に連れて出てやれば…)
閉じ込めの問題はそれで解決、後は救助を待てば良かった。
流石に「何人も」連れて出るのは疲れることだし、サイオンだって減少してしまう。
だからその場で「助けを待つ」のが、賢明だったことだろう。
その内に救助の人が到着、水も食料も、乗り物も運んで来てくれるから。
(しかし、今では…)
サイオンは「使わない」のが社会のマナーで、誰もがそれを心得ている。
閉じ込められてしまった場合も、命の危険が無い限りは…。
(救助を待て、ってことになってて…)
待たずに出られるタイプ・ブルーも、サイオンは使わないで「待つ」。
閉じ込められたのが、自分一人でも。
他には誰もいない状況、見ている人さえいない時でも、待っているのが正しい方法。
(エレベーターに乗ってて、目的の場所が自分の家でも…)
家がある階まで残り僅かでも、「閉じ込められてしまいました」と、係を呼び出す。
エレベーターが再び動き出すまで、半時間ほどかかったとしても。
係が直ぐには来られないなら、「出て下さっていいですよ」というケースはあるけれど…。
(それでも出ないで、じっと待つのが今なんだよなあ…)
待てるのが立派な大人ってヤツで…、と苦笑する。
「出て下さっていいですよ」でパッと出るのは、学生までだ、と。
なんとも愉快な、ミュウしかいない世界のルール。
「サイオンは使わない」のがマナーだからと、閉じ込められても「待つ」なんて。
(こいつが、前の俺の時代なら…)
もう我先に出ちまったよな、と考えなくても答えは出る。
もっとも、当時に「出られた」者など、数えるほどしかいなかった。
前のブルーと、それからジョミー、ナスカで生まれた子供たちだけで、たったの九人。
(トォニィたちなら、絶対、出たぞ)
まあ、子供ではあったがな、と顎に手を当て、「うん」と頷く。
身体は大人になっていたって、彼らの中身は子供だったし、今の学生と変わらない。
「出て下さってもいいですよ」と言われなくても、勝手に出ていたことだろう。
それこそ自分の判断で。
「救助なんかを待っているより、出た方が遥かに早いじゃないか」と。
(…今の時代も、そういう輩は少なくなくて…)
「閉じ込められた」と通報もせずに、出て行ってしまって、それでおしまいなこともある。
社会のルールやマナーを身につけるには、まだ充分ではない年の子ならば、そうなってしまう。
(でもって、自分が出られさえすりゃ…)
それで問題は解決するから、周りの大人に話しもしない。
閉じ込められたことなど忘れて、遊びに行ったり、家に帰っておやつを食べたり。
(そんなわけだから、エレベーターが故障してたって…)
次に乗ろうとした誰かが気付くか、管理している係が気付く時まで、直りはしない。
閉じ込められた子が、たった一言、「止まってますよ」と知らせれば、じきに直ったのに。
(でもまあ、子供のやることだから…)
そんなモンだ、と理解出来るし、大人だったら、誰でも同じに理解する。
「仕方ないな」と笑って許して、子供を呼んで叱りはしない。
(だが、そういった子供でも…)
育つ間に、自然と学んで、通報するようになってゆく。
「出られさえすれば、それでいいや」と考える代わりに、「次に乗る人もいるんだから」と。
もっと大きく育っていったら、もう勝手には出てゆかない。
係を呼んで「大人しく待って」、エレベーターが動き出したら、御礼を言って去ってゆく。
閉じ込められていた時間が長くて、自分の持ち時間が大きく削られていても。
遊びに行くのが遅くなろうが、会議に遅刻する羽目になろうが。
(それで文句を言うわけじゃなくて、待たされちまったりした方だって…)
もちろん文句を言いはしないし、「仕方ないな」と許してくれる。
許すどころか、「大変な目に遭いましたね」と同情しきりで、何か奢ってくれたりもして。
そうした時代になっているから、「閉じ込められる」ことは無くなっていない。
エレベーターだの、遊園地にある観覧車だの、と様々な場所で「閉じ込められる」。
(山の上の風景を堪能しよう、とゴンドラとかに乗って行ったら…)
閉じ込められてしまう時があったりするのも、よくある話で珍しくない。
そういう時でも、地上から遠く離れた所で、救助が来るまで「待っている」もの。
「タイプ・ブルーだから」とサッサと出ないで、まずは通報、それから「待つ」。
悪天候で止まってしまって閉じ込められても、故障で止まってしまった時も。
(係の方から、出られるお客様は出て下さい、と言って来たなら…)
該当する者はサイオンを使い、能力があったら救助もする。
自分がヒョイと出てゆく代わりに、子供や、具合が悪くなった客を先に出したりもして。
(いい時代だよなあ…)
本当にいい時代になった、と感慨深いものがある。
誰もが他人を思い遣るのが、今の時代は「当たり前」。
「自分さえ良ければ」と思いはしないで、助け合える時には助け合う。
(俺とブルーが、そんな具合に閉じ込められても…)
やっぱり同じに助け合ったり、譲り合ったりすることだろう。
二人で暮らし始めた未来に、そうなったなら。
エレベーターだの、ゴンドラだので、閉じ込められてしまった時は。
(俺たちの他には、誰もいなくても…)
もちろん勝手に出てゆかないさ、と思うけれども、その前に「それ」は無理な相談。
今のブルーは、前のブルーとそっくり同じに、タイプ・ブルー生まれてはいても…。
(…サイオンが不器用になっちまってて…)
思念波もろくに紡げないほどだし、瞬間移動など出来るわけがない。
自分だけ先に出られはしないし、もちろん「ハーレイ」を脱出させられもしない。
(つまりは二人で、じっと待つだけ…)
助けがやって来るのをな、と想像すると笑いがこみ上げて来る。
「なんてこった」と、「ソルジャー・ブルーが、閉じ込められてしまうなんて」と。
今も伝説になっているのが、前のブルーで「ソルジャー・ブルー」。
前のブルーが存命だった時代でさえも、人類はブルーを「伝説のタイプ・ブルー」と呼んだ。
ブルーの他には「タイプ・ブルー」が誰もいなくて、その能力は脅威だったから。
けれども、今のブルーは「違う」。
閉じ込められても「出られもしない」し、他の者を代わりに脱出させることも出来ない始末。
いつか「閉じ込められた」時には、たちまち困ることだろう。
「閉じ込められちゃったよ、どうしよう」と、「ハーレイ」に助けを求めるだけで。
(俺が係に通報するしか無いだろうなあ…)
二人で閉じ込められた時には、とマグカップの縁を指先で弾く。
今は「ハーレイ」の方が年上なのだし、ブルーの保護者的な存在でもある。
ブルーが前のブルーと同じ姿に育っていようと、その構図はきっと変わりはしない。
(通報したら、まずはブルーを落ち着かせて、だ…)
それから救助を待つのだけれども、直ぐには来ないかもしれない。
エレベーターなら、半時間も待てば大抵は解決するけれど…。
(…悪天候で止まったゴンドラだったら…)
もっと時間がかかることだろう。
場合によっては「お客様は、タイプ・ブルーでらっしゃいますか?」と聞かれる可能性もある。
「天候が回復しそうにないので、出られそうなら出て下さい」と、脱出の許可が出て。
(そう言われてもなあ…?)
こっちも困っちまうんだが…、とコーヒーを一口、喉の奥へと送り込む。
「タイプ・ブルーは一人いるんだが、どうにもならん」と。
今のブルーは出られはしないし、ハーレイを先に出すことも出来ない。
だから係の者への答えは、「いるにはいるんだが、いるってだけだ」になるだろう。
「タイプ・ブルーには違いないんだが、サイオンが不器用で駄目なんだ」と。
(…俺がそう言ったら、ブルーの方は…)
たちまち泣きそうな表情になって、「ごめんね」と詫びて来るのだろうか。
「ぼくのせいだ」と、「ぼくのサイオンが普通だったら、出られたのに」と。
(泣きそうどころか、泣いちまうかもなあ…)
閉じ込められてる時間が長くなったらな、という気がする。
天候が回復するかどうかは神様次第で、かかる時間も全く読めない。
天気予報が進歩したって、其処の所は今も昔も…。
(ちっとも変わっちゃいないんだ…)
俺がキャプテンだった頃から…、と承知している。
天気は急に変わるものだし、そのせいで「ゴンドラに閉じ込められる」。
運行している会社や係が、常に気を付け、細心の注意を払って動かしていても。
(待てど暮らせど、動かなくって…)
一定の時間が経過したなら、救助の係がやって来る。
まずはサイオン抜きでの救出、それが無理なら、瞬間移動のエキスパートの登場になる。
ゴンドラの中にヒョイと現れ、乗客を瞬間移動で救助。
一人ずつ抱えて、順番に。
安全な所まで一気に運ぶケースもあれば、下に降ろすだけのこともある。
どちらにしたって、待てば助けは来るのだけれど…。
(あいつ、本当に泣いちまうよなあ…)
助けがやって来るまでに、と「その光景」がまざまざと目に浮かぶよう。
「ごめんね、ハーレイ」と、「出られないの、ぼくのせいだもの」と泣きじゃくるブルー。
下手をしたなら、泣き崩れてしまうことだろう。
「ぼくが悪いんだ」と、「ゴンドラに乗ってみたいよね、って誘ったから」などと言い出して。
(あいつは、少しも悪くないのに…)
悪いのは天気のせいなんだがな、と思いはしても、ブルーには、きっと通じない。
タイプ・ブルーのサイオンさえあれば、「外に出られた」筈なのだから。
(そうならないよう、閉じ込められても…)
あいつが泣かずに済むような工夫をしてやらないと…、と考えをゆっくり巡らせてゆく。
「落ち込んじまう前に、手を打たないと」と。
(あいつと何処かへ出掛ける時には、非常食を持っておくべきかもな?)
甘い物はストレス解消にもなるし、とチョコレートなどを挙げて思案する。
「そういうのを持っていなかった時は、どうするかな?」とも。
閉じ込められても、ブルーには「ハーレイと一緒なら安心だよね」と笑顔でいて欲しいから…。
閉じ込められても・了
※タイプ・ブルーでも「閉じ込められてしまう」のが、人間が全てミュウになった時代。
ハーレイ先生とブルー君も、閉じ込められてしまうかも。ハーレイ先生、頼りになりそうv
こればっかりは無くならんよな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
どういうわけだか、ポンと頭に浮かんで来たのが「閉じ込め」という言葉。
今の時代も、「閉じ込められる」ことは無くなっていない。
(人間が全て、ミュウになっても、この手のヤツは…)
現役で健在なんだよな、と思うと少し可笑しくなる。
ミュウがいなかった時代はまだしも、今なら閉じ込められたって…。
(タイプ・ブルーだったら、瞬間移動で…)
ヒョイと出られるから、騒ぐ必要など何処にも無い。
ところがどっこい、タイプ・ブルーでも「閉じ込められてしまう」のが今の世の中。
(全員がミュウになるまでの間の、移行期だったら…)
タイプ・ブルーが「閉じ込められる」ケースは無かっただろう。
その時代ならば、彼らは「自力で」脱出した上、一緒に閉じ込められた人がいたなら…。
(能力次第で、一緒に連れて出てやれば…)
閉じ込めの問題はそれで解決、後は救助を待てば良かった。
流石に「何人も」連れて出るのは疲れることだし、サイオンだって減少してしまう。
だからその場で「助けを待つ」のが、賢明だったことだろう。
その内に救助の人が到着、水も食料も、乗り物も運んで来てくれるから。
(しかし、今では…)
サイオンは「使わない」のが社会のマナーで、誰もがそれを心得ている。
閉じ込められてしまった場合も、命の危険が無い限りは…。
(救助を待て、ってことになってて…)
待たずに出られるタイプ・ブルーも、サイオンは使わないで「待つ」。
閉じ込められたのが、自分一人でも。
他には誰もいない状況、見ている人さえいない時でも、待っているのが正しい方法。
(エレベーターに乗ってて、目的の場所が自分の家でも…)
家がある階まで残り僅かでも、「閉じ込められてしまいました」と、係を呼び出す。
エレベーターが再び動き出すまで、半時間ほどかかったとしても。
係が直ぐには来られないなら、「出て下さっていいですよ」というケースはあるけれど…。
(それでも出ないで、じっと待つのが今なんだよなあ…)
待てるのが立派な大人ってヤツで…、と苦笑する。
「出て下さっていいですよ」でパッと出るのは、学生までだ、と。
なんとも愉快な、ミュウしかいない世界のルール。
「サイオンは使わない」のがマナーだからと、閉じ込められても「待つ」なんて。
(こいつが、前の俺の時代なら…)
もう我先に出ちまったよな、と考えなくても答えは出る。
もっとも、当時に「出られた」者など、数えるほどしかいなかった。
前のブルーと、それからジョミー、ナスカで生まれた子供たちだけで、たったの九人。
(トォニィたちなら、絶対、出たぞ)
まあ、子供ではあったがな、と顎に手を当て、「うん」と頷く。
身体は大人になっていたって、彼らの中身は子供だったし、今の学生と変わらない。
「出て下さってもいいですよ」と言われなくても、勝手に出ていたことだろう。
それこそ自分の判断で。
「救助なんかを待っているより、出た方が遥かに早いじゃないか」と。
(…今の時代も、そういう輩は少なくなくて…)
「閉じ込められた」と通報もせずに、出て行ってしまって、それでおしまいなこともある。
社会のルールやマナーを身につけるには、まだ充分ではない年の子ならば、そうなってしまう。
(でもって、自分が出られさえすりゃ…)
それで問題は解決するから、周りの大人に話しもしない。
閉じ込められたことなど忘れて、遊びに行ったり、家に帰っておやつを食べたり。
(そんなわけだから、エレベーターが故障してたって…)
次に乗ろうとした誰かが気付くか、管理している係が気付く時まで、直りはしない。
閉じ込められた子が、たった一言、「止まってますよ」と知らせれば、じきに直ったのに。
(でもまあ、子供のやることだから…)
そんなモンだ、と理解出来るし、大人だったら、誰でも同じに理解する。
「仕方ないな」と笑って許して、子供を呼んで叱りはしない。
(だが、そういった子供でも…)
育つ間に、自然と学んで、通報するようになってゆく。
「出られさえすれば、それでいいや」と考える代わりに、「次に乗る人もいるんだから」と。
もっと大きく育っていったら、もう勝手には出てゆかない。
係を呼んで「大人しく待って」、エレベーターが動き出したら、御礼を言って去ってゆく。
閉じ込められていた時間が長くて、自分の持ち時間が大きく削られていても。
遊びに行くのが遅くなろうが、会議に遅刻する羽目になろうが。
(それで文句を言うわけじゃなくて、待たされちまったりした方だって…)
もちろん文句を言いはしないし、「仕方ないな」と許してくれる。
許すどころか、「大変な目に遭いましたね」と同情しきりで、何か奢ってくれたりもして。
そうした時代になっているから、「閉じ込められる」ことは無くなっていない。
エレベーターだの、遊園地にある観覧車だの、と様々な場所で「閉じ込められる」。
(山の上の風景を堪能しよう、とゴンドラとかに乗って行ったら…)
閉じ込められてしまう時があったりするのも、よくある話で珍しくない。
そういう時でも、地上から遠く離れた所で、救助が来るまで「待っている」もの。
「タイプ・ブルーだから」とサッサと出ないで、まずは通報、それから「待つ」。
悪天候で止まってしまって閉じ込められても、故障で止まってしまった時も。
(係の方から、出られるお客様は出て下さい、と言って来たなら…)
該当する者はサイオンを使い、能力があったら救助もする。
自分がヒョイと出てゆく代わりに、子供や、具合が悪くなった客を先に出したりもして。
(いい時代だよなあ…)
本当にいい時代になった、と感慨深いものがある。
誰もが他人を思い遣るのが、今の時代は「当たり前」。
「自分さえ良ければ」と思いはしないで、助け合える時には助け合う。
(俺とブルーが、そんな具合に閉じ込められても…)
やっぱり同じに助け合ったり、譲り合ったりすることだろう。
二人で暮らし始めた未来に、そうなったなら。
エレベーターだの、ゴンドラだので、閉じ込められてしまった時は。
(俺たちの他には、誰もいなくても…)
もちろん勝手に出てゆかないさ、と思うけれども、その前に「それ」は無理な相談。
今のブルーは、前のブルーとそっくり同じに、タイプ・ブルー生まれてはいても…。
(…サイオンが不器用になっちまってて…)
思念波もろくに紡げないほどだし、瞬間移動など出来るわけがない。
自分だけ先に出られはしないし、もちろん「ハーレイ」を脱出させられもしない。
(つまりは二人で、じっと待つだけ…)
助けがやって来るのをな、と想像すると笑いがこみ上げて来る。
「なんてこった」と、「ソルジャー・ブルーが、閉じ込められてしまうなんて」と。
今も伝説になっているのが、前のブルーで「ソルジャー・ブルー」。
前のブルーが存命だった時代でさえも、人類はブルーを「伝説のタイプ・ブルー」と呼んだ。
ブルーの他には「タイプ・ブルー」が誰もいなくて、その能力は脅威だったから。
けれども、今のブルーは「違う」。
閉じ込められても「出られもしない」し、他の者を代わりに脱出させることも出来ない始末。
いつか「閉じ込められた」時には、たちまち困ることだろう。
「閉じ込められちゃったよ、どうしよう」と、「ハーレイ」に助けを求めるだけで。
(俺が係に通報するしか無いだろうなあ…)
二人で閉じ込められた時には、とマグカップの縁を指先で弾く。
今は「ハーレイ」の方が年上なのだし、ブルーの保護者的な存在でもある。
ブルーが前のブルーと同じ姿に育っていようと、その構図はきっと変わりはしない。
(通報したら、まずはブルーを落ち着かせて、だ…)
それから救助を待つのだけれども、直ぐには来ないかもしれない。
エレベーターなら、半時間も待てば大抵は解決するけれど…。
(…悪天候で止まったゴンドラだったら…)
もっと時間がかかることだろう。
場合によっては「お客様は、タイプ・ブルーでらっしゃいますか?」と聞かれる可能性もある。
「天候が回復しそうにないので、出られそうなら出て下さい」と、脱出の許可が出て。
(そう言われてもなあ…?)
こっちも困っちまうんだが…、とコーヒーを一口、喉の奥へと送り込む。
「タイプ・ブルーは一人いるんだが、どうにもならん」と。
今のブルーは出られはしないし、ハーレイを先に出すことも出来ない。
だから係の者への答えは、「いるにはいるんだが、いるってだけだ」になるだろう。
「タイプ・ブルーには違いないんだが、サイオンが不器用で駄目なんだ」と。
(…俺がそう言ったら、ブルーの方は…)
たちまち泣きそうな表情になって、「ごめんね」と詫びて来るのだろうか。
「ぼくのせいだ」と、「ぼくのサイオンが普通だったら、出られたのに」と。
(泣きそうどころか、泣いちまうかもなあ…)
閉じ込められてる時間が長くなったらな、という気がする。
天候が回復するかどうかは神様次第で、かかる時間も全く読めない。
天気予報が進歩したって、其処の所は今も昔も…。
(ちっとも変わっちゃいないんだ…)
俺がキャプテンだった頃から…、と承知している。
天気は急に変わるものだし、そのせいで「ゴンドラに閉じ込められる」。
運行している会社や係が、常に気を付け、細心の注意を払って動かしていても。
(待てど暮らせど、動かなくって…)
一定の時間が経過したなら、救助の係がやって来る。
まずはサイオン抜きでの救出、それが無理なら、瞬間移動のエキスパートの登場になる。
ゴンドラの中にヒョイと現れ、乗客を瞬間移動で救助。
一人ずつ抱えて、順番に。
安全な所まで一気に運ぶケースもあれば、下に降ろすだけのこともある。
どちらにしたって、待てば助けは来るのだけれど…。
(あいつ、本当に泣いちまうよなあ…)
助けがやって来るまでに、と「その光景」がまざまざと目に浮かぶよう。
「ごめんね、ハーレイ」と、「出られないの、ぼくのせいだもの」と泣きじゃくるブルー。
下手をしたなら、泣き崩れてしまうことだろう。
「ぼくが悪いんだ」と、「ゴンドラに乗ってみたいよね、って誘ったから」などと言い出して。
(あいつは、少しも悪くないのに…)
悪いのは天気のせいなんだがな、と思いはしても、ブルーには、きっと通じない。
タイプ・ブルーのサイオンさえあれば、「外に出られた」筈なのだから。
(そうならないよう、閉じ込められても…)
あいつが泣かずに済むような工夫をしてやらないと…、と考えをゆっくり巡らせてゆく。
「落ち込んじまう前に、手を打たないと」と。
(あいつと何処かへ出掛ける時には、非常食を持っておくべきかもな?)
甘い物はストレス解消にもなるし、とチョコレートなどを挙げて思案する。
「そういうのを持っていなかった時は、どうするかな?」とも。
閉じ込められても、ブルーには「ハーレイと一緒なら安心だよね」と笑顔でいて欲しいから…。
閉じ込められても・了
※タイプ・ブルーでも「閉じ込められてしまう」のが、人間が全てミュウになった時代。
ハーレイ先生とブルー君も、閉じ込められてしまうかも。ハーレイ先生、頼りになりそうv
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