足りない力は
「ねえ、ハーレイ。足りない力は…」
人に借りてもいいんだよね、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
どういう意味だ、とハーレイはブルーをまじまじと見た。
いったい何を聞かれているのか、意味が全く掴めない。
足りない力というのは何で、人に借りるとは何だろう。
質問の意味が分からなければ、当然、答えを返せはしない。
だからハーレイは、ブルーに向かって注文した。
「今の質問なんだが、俺にも分かるように言ってくれ」
足りない力と、人に借りるというのを詳しく説明しろ、と。
ブルーは「分かったよ」と、直ぐに頷いて話し始めた。
「えっとね…。ぼくが、大きな荷物を運ぶとするでしょ?」
例えば、学校の倉庫から教室まで、とブルーが挙げた例。
学校には体育用具などの他にも、幾つも倉庫がある。
授業で使う様々なものを、生徒が教室まで運ぶことも多い。
「ああ、お前が当番になった時だな?」
「そう! ぼく一人だと持ち切れないとか、そんな時…」
他の人の力を借りてもいいんでしょ、とブルーは尋ねた。
当番がブルーしかいない時なら、誰か他の人、という質問。
「そりゃそうだ。いいとか、悪いとか以前の問題だろう」
人間、助け合わないとな、とハーレイは笑顔で答える。
当番の生徒が困っていたなら、頼まれなくても助けるべき。
「ぼくも手伝うよ」と名乗りを上げて、二人で荷物を運ぶ。
手の空いている生徒が他にもいるなら、その生徒だって。
「そうだよね? 目に見える力の方だと、それかな」
「目に見える力?」
物理的な力のことか、とハーレイはブルーに確認をする。
荷物を運ぶ力といったら、そういう類の力だから。
ブルーは「うん」と即答した後、二つ目の例を挙げて来た。
「あのね…。誰かがポロポロ涙を流して…」
一人で泣いているような時、とブルーは真剣な表情で言う。
「そういった時に、どうしたの、って聞いてあげる人…」
うんと優しい人がいるでしょ、とブルーの説明は続く。
声を掛けた人は、泣いている人の心に寄り添うことになる。
泣いている理由に耳を傾け、慰めたり、一緒に泣いたりも。
そうやって心を癒すけれども、それも力の一種だろう、と。
「ねえ、ハーレイは、そうは思わない?」
どう思う、とブルーが訊いて、今度はハーレイが即答した。
「その通りだと俺も思うぞ」
確かに、そいつも力だよな、とブルーに微笑み掛ける。
「なかなか、いいことを言うじゃないか」と。
「そういう力も、もちろん借りてもいいよな、うん」
むしろ、大いに借りるべきだろう、と太鼓判を押してやる。
「一人であれこれ悩んでいるより、そうするべきだ」と。
誰かに話を聞いて貰えば、心の中が整理されてゆく。
悲しみで一杯になっていたって、心の中を整理したなら…。
「心に余裕って空きが生まれて、他の色々なことをだな…」
考えられるようになるってモンだ、とハーレイは言った。
「そうすりゃ涙も早く止まるし、気分も落ち着く」と。
「やっぱりね! 足りない力は、人に借りてもよくて…」
借りた方がいい時もあるんだよね、とブルーの瞳が瞬く。
「そうだとも。見える力の方も、理屈は同じだな」
荷物を無理して運べばどうなる、とハーレイは問い掛けた。
「重たいヤツとか、持ち切れないのを、一人で運べば…」
「落っことしちゃって、壊しちゃうかも…」
「正解だ。そうなるよりかは、誰かに頼んで…」
手伝って貰うのが正しいんだぞ、と説いてやる。
見える力も借りるべきだし、少しも恥じることはない、と。
「じゃあ、ハーレイも、そういう人を見掛けたら…」
力を貸すの、とブルーが訊くから、「ああ」と答えた。
「其処で力を貸さないようなら、話にならん」と。
教師としても、人間としても失格だろう、と苦笑しながら。
するとブルーは、それは嬉しそうにニッコリと笑んだ。
「それなら、ぼくに力を貸して」と、赤い瞳を煌めかせて。
「力って…。模様替えでも始めるのか?」
この部屋の、とハーレイが見回すと、ブルーが微笑む。
「違うよ、見えない力だってば!」
心に寄り添ってくれるんでしょ、とニコニコと。
「キスをちょうだい」と、「それで元気になれるから」と。
「馬鹿野郎!」
誰がするか、とハーレイは頼みを蹴り飛ばした。
そんな力は貸せないから。
模様替えなら手伝うけども、キスは断じてお断りだ、と…。
足りない力は・了
人に借りてもいいんだよね、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
どういう意味だ、とハーレイはブルーをまじまじと見た。
いったい何を聞かれているのか、意味が全く掴めない。
足りない力というのは何で、人に借りるとは何だろう。
質問の意味が分からなければ、当然、答えを返せはしない。
だからハーレイは、ブルーに向かって注文した。
「今の質問なんだが、俺にも分かるように言ってくれ」
足りない力と、人に借りるというのを詳しく説明しろ、と。
ブルーは「分かったよ」と、直ぐに頷いて話し始めた。
「えっとね…。ぼくが、大きな荷物を運ぶとするでしょ?」
例えば、学校の倉庫から教室まで、とブルーが挙げた例。
学校には体育用具などの他にも、幾つも倉庫がある。
授業で使う様々なものを、生徒が教室まで運ぶことも多い。
「ああ、お前が当番になった時だな?」
「そう! ぼく一人だと持ち切れないとか、そんな時…」
他の人の力を借りてもいいんでしょ、とブルーは尋ねた。
当番がブルーしかいない時なら、誰か他の人、という質問。
「そりゃそうだ。いいとか、悪いとか以前の問題だろう」
人間、助け合わないとな、とハーレイは笑顔で答える。
当番の生徒が困っていたなら、頼まれなくても助けるべき。
「ぼくも手伝うよ」と名乗りを上げて、二人で荷物を運ぶ。
手の空いている生徒が他にもいるなら、その生徒だって。
「そうだよね? 目に見える力の方だと、それかな」
「目に見える力?」
物理的な力のことか、とハーレイはブルーに確認をする。
荷物を運ぶ力といったら、そういう類の力だから。
ブルーは「うん」と即答した後、二つ目の例を挙げて来た。
「あのね…。誰かがポロポロ涙を流して…」
一人で泣いているような時、とブルーは真剣な表情で言う。
「そういった時に、どうしたの、って聞いてあげる人…」
うんと優しい人がいるでしょ、とブルーの説明は続く。
声を掛けた人は、泣いている人の心に寄り添うことになる。
泣いている理由に耳を傾け、慰めたり、一緒に泣いたりも。
そうやって心を癒すけれども、それも力の一種だろう、と。
「ねえ、ハーレイは、そうは思わない?」
どう思う、とブルーが訊いて、今度はハーレイが即答した。
「その通りだと俺も思うぞ」
確かに、そいつも力だよな、とブルーに微笑み掛ける。
「なかなか、いいことを言うじゃないか」と。
「そういう力も、もちろん借りてもいいよな、うん」
むしろ、大いに借りるべきだろう、と太鼓判を押してやる。
「一人であれこれ悩んでいるより、そうするべきだ」と。
誰かに話を聞いて貰えば、心の中が整理されてゆく。
悲しみで一杯になっていたって、心の中を整理したなら…。
「心に余裕って空きが生まれて、他の色々なことをだな…」
考えられるようになるってモンだ、とハーレイは言った。
「そうすりゃ涙も早く止まるし、気分も落ち着く」と。
「やっぱりね! 足りない力は、人に借りてもよくて…」
借りた方がいい時もあるんだよね、とブルーの瞳が瞬く。
「そうだとも。見える力の方も、理屈は同じだな」
荷物を無理して運べばどうなる、とハーレイは問い掛けた。
「重たいヤツとか、持ち切れないのを、一人で運べば…」
「落っことしちゃって、壊しちゃうかも…」
「正解だ。そうなるよりかは、誰かに頼んで…」
手伝って貰うのが正しいんだぞ、と説いてやる。
見える力も借りるべきだし、少しも恥じることはない、と。
「じゃあ、ハーレイも、そういう人を見掛けたら…」
力を貸すの、とブルーが訊くから、「ああ」と答えた。
「其処で力を貸さないようなら、話にならん」と。
教師としても、人間としても失格だろう、と苦笑しながら。
するとブルーは、それは嬉しそうにニッコリと笑んだ。
「それなら、ぼくに力を貸して」と、赤い瞳を煌めかせて。
「力って…。模様替えでも始めるのか?」
この部屋の、とハーレイが見回すと、ブルーが微笑む。
「違うよ、見えない力だってば!」
心に寄り添ってくれるんでしょ、とニコニコと。
「キスをちょうだい」と、「それで元気になれるから」と。
「馬鹿野郎!」
誰がするか、とハーレイは頼みを蹴り飛ばした。
そんな力は貸せないから。
模様替えなら手伝うけども、キスは断じてお断りだ、と…。
足りない力は・了
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