別の種族だったら
(今日はハーレイに会えなかったけど…)
きっと明日には会えるよね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は学校でハーレイに一度も会えなかった上、家にも寄ってはくれないまま。
会えずに終わってしまったけれども、明日には会えることだろう。
(明日が駄目でも、明後日もあるし…)
週末になれば家に来てくれるし、待っていたなら必ず会える。
なんと言っても、同じ町で暮らしているのだから。
(おまけに、青い地球なんだよ)
遠く遥かな時の彼方で、前の自分が焦がれ続けた水の星。
其処に、ハーレイと生まれて来られた。
結婚出来る年になったら、今度はハーレイと一緒に暮らせる。
誰にも遠慮しなくていいし、二人の仲を隠さすことなく、堂々と。
(今のハーレイ、ケチなんだけど…)
唇へのキスもくれないけれども、それも背丈が前の自分と同じになるまでの我慢。
大きくなったらキスが貰えて、デートにも行ける。
(あと、ちょっとだけの間の我慢…)
うんと長いような気がするけれど、と思いはしても、文句は言えない。
今の自分が生きているのは、聖痕をくれた神様のお蔭。
その神様から新しい命と、前とそっくり同じに育つ身体を貰った。
ハーレイも青い地球の上にいて、同じ町に住んでいるという素晴らしさ。
(文句なんかは言えないよね…)
こうじゃなかった可能性だってあるんだから、とハタと気付いた。
同じように地球に生まれて来たって、ハーレイが其処にいないとか。
あるいは、ハーレイも地球にいたって…。
(人間じゃない、ってこともあったかも…)
有り得るよね、と顎に手を当てた。
二人で生まれ変わって来ても、今度は人ではなかった、ということもあるのだ、と。
前と同じに育つ身体をくれた神様。
聖痕をくれた神様なのだし、お安い御用だっただろう。
けれど奇跡が起こらなかったら、ハーレイと二人、奇跡的に生まれ変われても…。
(ちゃんと二人とも地球に来られても、人間じゃなくて…)
別の種族の生き物だったのかもしれない。
猫や犬やら、他にも生き物の種類は沢山あるのだから。
(人間以外に生まれて来ても…)
ハーレイと同じ種族の生き物だったら、まだしもマシと言えるだろう。
たとえ砂漠のネズミだろうが、もっと過酷な雪と氷の世界で暮らす動物だろうが。
(ハーレイと一緒に生きてゆけるんだったら…)
砂嵐に追われる日々ばかりでも、きっと幸せだと思う。
見渡す限り雪と氷で、食べ物を探すのが大変な毎日の繰り返しでも。
(だって、ハーレイと一緒なんだから…)
どんな所でも天国だよね、と暮らしてゆける自信はある。
けれども、そうはならなくて…。
(ぼくとハーレイ、別の種族の生き物に生まれて来ちゃったら…)
厄介なことになりそうだ、と深く考えなくても分かる。
種族が違えば、巡り会うことは出来たって…。
(ハーレイと一緒に生きてゆくのは…)
そう簡単なことではない。
なにしろ別種の生き物なのだし、出会えはしても…。
(ぼくはウサギで、ハーレイは人間だったとか?)
幼い頃にウサギになりたいと願っていたから、ウサギがポンと頭の中に飛び出した。
今の自分がウサギだったら、ハーレイとの出会いはどうなるだろう。
(野生のウサギに生まれて来てたら、何処かの山か草原で…)
リュックを背負ったハーレイを見付けることになるかもしれない。
「あっ、ハーレイ!」といった具合に、前の自分の記憶が一気に戻って来て。
そしたら急いで飛び出して行って、ハーレイの周りを跳ね回る。
「ぼくだよ、ブルーだよ、覚えていない?」と。
「お願い、ぼくを思い出してよ、ねえ、ハーレイ!」と、懸命に。
(ハーレイだったら、きっと気付いてくれるよね?)
ピョンピョン必死に跳ねるウサギが、「ブルー」なのだということに。
時の彼方で愛した人が、ウサギになって戻って来た、と。
(きっとそうだよ、ハーレイだって記憶が戻って…)
ウサギの姿の「ブルー」を見詰めた後に、ヒョイと抱き上げてくれるだろう。
「そうか、お前か」と、それは嬉しそうな笑顔になって。
それからリュックを下ろして座って、お弁当を広げるかもしれない。
「ウサギでも食えそうなものが入ってたかな?」と、いそいそと。
(ハーレイが作ったお弁当だよね、何処かで買って来たんじゃなくて…)
今のハーレイも料理が得意なんだから、と想像の翼を羽ばたかせる。
お弁当の中身は、手の込んだものに違いない。
出掛けた先でのんびり食べよう、とハーレイが腕を揮った料理。
(だけどウサギは、そんな料理は食べられないから…)
ハーレイが選んで分けてくれるのは、生の野菜やフルーツなど。
それでも充分、幸せな気分で食べられそう。
またハーレイに出会えた上に、お弁当を分けて貰えたのだから。
(シャングリラの厨房で、前のハーレイが試作品を分けてくれたこととか…)
色々な懐かしいことを思い出して、胸が一杯になってしまいそう。
そしてモグモグ齧っている間に、ハーレイが優しく語り掛けてくるのだろう。
「俺と一緒に帰らないか?」と。
「心配しなくても、家には庭があるんだからな」と、新しい暮らしを提案して。
(もちろん、ハーレイと一緒に行くよ!)
うんと苦労して掘った巣穴は、捨ててしまって構わない。
頑張って見付けた美味しい草が生えている場所も、もう要らない。
(新鮮な草なら、きっと庭でも…)
あるのだろうし、ハーレイだったら「ウサギのブルー」が食べられるように…。
(畑を作って、いろんな野菜を育ててくれて…)
「どれでも好きに食っていいぞ」と、気前良く言うに違いない。
「育つ前に、お前が全部食っても、また植えるから」と。
「足りない分は買って来るから、好きな野菜を選んで食えよ」と胸を叩いて。
野生のウサギに生まれて来たなら、ハーレイと出会えば一緒に暮らせる。
家に帰ってゆくハーレイに連れられ、ハーレイの家がある町へ引っ越しして行って。
ハーレイが一人で住んでいた家の中には、「ウサギのブルー」の寝床も出来ることだろう。
庭にウサギ小屋を作るのではなくて、きっとハーレイと同じ部屋。
(寝心地のいい籠を用意してくれて…)
夜はゆっくり其処で眠って、昼間は家の中で好きに過ごして、庭に出るための…。
(扉も作ってくれるよね?)
ウサギでも簡単に開けられるけれど、意地悪な風や雨などは入って来られないものを。
「どうだ、お前の身体にピッタリだろう?」と、ハーレイが工夫してくれて。
(うんと幸せ…)
ウサギでもね、と思うけれども、野生のウサギではなかった場合は…。
(…ハーレイと出会うことは出来ても、家で一緒には暮らせないかも…)
そうなっちゃうかも、と思い当たるケースは山とある。
幼稚園だの、ウサギとの触れ合いが売りの牧場だので暮らしているウサギだと…。
(運良く、ハーレイを見付けられても…)
ハーレイの方でも気付いてくれても、その場で「一緒に帰ろう」と言えるわけがない。
「ウサギのブルー」には飼い主がいて、まずはその人に頼む所から。
「このウサギを分けて貰えませんか」と、大の大人のハーレイがペコペコ頭を下げて。
(…なんでウサギが欲しいんですか、って…)
飼い主はハーレイに尋ねるだろうし、ウサギを飼った経験の有無も訊くだろう。
挙句に「駄目です」と断られたなら、ハーレイと暮らすどころではない。
せっかく巡り会えたというのに、人間のハーレイは「ウサギではない」ものだから…。
(お休みの日に、せっせと訪ねて来てくれるだけで…)
ニンジンを食べさせてくれたりはしても、「またな」と家へ帰ってゆく。
ハーレイの家は其処ではなくて、「人間のゲスト」の宿泊施設も、其処には無いから。
(それでも、頑張って通っていれば…)
飼い主の方が根負けをして、譲ってくれる日が来るかもしれない。
そうなればハーレイの粘り勝ちだけれど、それさえ出来ないケースもある。
「ウサギのブルー」が、誰かのペットだったなら。
何処かの子供が大事にしている、とても大切な「小さな友達」。
そういう場合は譲るどころか、ハーレイは「ブルー」に触れないかもしれないのだから。
(…小さな子供は、うんとペットを可愛がってて、とても大事な友達で…)
その「友達」を譲るだなんて、とんでもない。
自分と家族以外の誰かに「触らせる」のも嫌がりそう。
(触っちゃ駄目、って…)
「ウサギのブルー」をしっかりと抱いて、ハーレイを睨みそうな「飼い主」。
ウサギになった「ブルー」は、バタバタ暴れるだけ。
ハーレイの側へ行きたくっても、飼い主が離してくれないから。
ウサギの言葉は、人間の耳には届くことなど無いのだから。
(ハーレイと一緒に暮らしたいよ、って泣き叫んでも…)
飼い主も家族も、決して気付くことなどは無くて、代わりに餌を差し出して来る。
「どうしたの?」と御機嫌を取りに、ウサギの好物のおやつなどを。
(…全然、駄目だよ…)
ハーレイと暮らせる日なんて来ない、と涙が出そう。
そうこうする内に、「ウサギのブルー」の寿命は尽きてしまうのだろう。
何と言ってもウサギなのだし、寿命は人間のハーレイよりも短くて…。
(…ハーレイと一緒に暮らしたかったよ、って…)
涙ぐみながら死んでゆく時も、ハーレイは側にいられないのに違いない。
「ウサギのブルー」の飼い主からすれば他人なのだし、いくら仲良くなっていたって…。
(うちのウサギが死にそうなんです、って連絡なんかはしないよね?)
もしハーレイが「そういう時には知らせて下さい」と頼んでいたとしても、所詮はウサギ。
ハーレイが仕事に行っている間に、「ウサギのブルー」が倒れても…。
(今はお仕事中だから、って…)
連絡するのは控えるだろうし、そうなればおしまい。
「ウサギのブルー」は前と同じに、ハーレイに会えずに死んでゆく。
メギドで死んだ時と違って、飼い主の一家が側にいたって、一人ぼっちと同じこと。
(ハーレイに会いたかったよね、って…)
最期に一粒涙を零して、「ウサギのブルー」は死ぬのだろう。
おまけに「大切なペット」で、「家族の一員」だった「ブルー」は…。
(その家の庭に埋められちゃって、ハーレイは、また…)
愛した人の亡骸さえも、その手に抱き締めることは出来ない。
墓標が出来ても、それがある庭を「外から」眺めて、ポロポロと涙を流すだけで。
(…前と同じで、うんと悲しくて寂しいってば…!)
ペットのウサギだった時は、とブルッと震えて、もっと恐ろしい考えになった。
「ハーレイが、人間でもウサギでもなくて、別の種族だったら?」と。
「ブルー」はウサギに生まれて来たのに、「ハーレイ」はウサギでも人間でもない。
考えたくもないのだけれども、よりにもよって「ウサギの天敵」。
空からウサギを狩りに来る鷹や、この地域にはいないオオカミといった獣たち。
(…鷹だったら、まだマシなんだけど…)
きっとハーレイは「獲物」が「ブルー」なのだと気付く。
そうなれば襲い掛かりはしないで、頭上を舞って、怖がらせないように近付いて…。
(地面に降りて、ぼくをじっと見詰めて…)
「怖がるな、俺だ、忘れたのか?」と、首を傾げて尋ねてくる。
「こんな姿になっちまっても、俺は俺だ」と、「お前を食いやしないから」と。
(ぼくも、ギュッと目を瞑ってたのを、恐々と開けて…)
其処に「鷹になったハーレイ」を見付けて、嬉しくなって飛び付きそう。
「ハーレイだよね!」と大喜びで、「もう離れない」と、巣穴に案内して。
(鷹のハーレイ、ぼくの巣穴の側で暮らして、番をしてくれて…)
「ウサギのブルー」は、他の獣に狩られることなく、のびのびと生きてゆけそうな感じ。
だから鷹なら、まだいいけれど…。
(…オオカミだったら…?)
オオカミは群れで狩りをするらしいし、「ウサギのブルー」が彼らに見付かったなら…。
(その群れの中に、ハーレイがいても…)
どうすることも出来ないままに、「ブルー」は狩られるのだろうか。
「せめて、俺が」と、オオカミになった「ハーレイ」の牙が首に食い込んで。
「すまん、ブルー」と、泣きそうなハーレイの心の声が聞こえて来て。
(…ぼくを食べなきゃ、ハーレイ、飢えて死んじゃうんだし…)
そんな最期でも自分は構わないけれど、やっぱりお互い、辛いから…。
(別の種族だったら、とても大変…)
同じ人間が一番だよね、と大きく頷く。
今は二人で暮らせなくても、いつか結婚出来るから。
前のような悲しい別れは来なくて、最後まで、ずっと一緒だから…。
別の種族だったら・了
※ハーレイ先生と今の自分が、別の種族に生まれていたら…、と考えてみたブルー君。
ブルー君がウサギだった場合、色々なケースがありそうです。ハーレイ先生が天敵だとかv
きっと明日には会えるよね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は学校でハーレイに一度も会えなかった上、家にも寄ってはくれないまま。
会えずに終わってしまったけれども、明日には会えることだろう。
(明日が駄目でも、明後日もあるし…)
週末になれば家に来てくれるし、待っていたなら必ず会える。
なんと言っても、同じ町で暮らしているのだから。
(おまけに、青い地球なんだよ)
遠く遥かな時の彼方で、前の自分が焦がれ続けた水の星。
其処に、ハーレイと生まれて来られた。
結婚出来る年になったら、今度はハーレイと一緒に暮らせる。
誰にも遠慮しなくていいし、二人の仲を隠さすことなく、堂々と。
(今のハーレイ、ケチなんだけど…)
唇へのキスもくれないけれども、それも背丈が前の自分と同じになるまでの我慢。
大きくなったらキスが貰えて、デートにも行ける。
(あと、ちょっとだけの間の我慢…)
うんと長いような気がするけれど、と思いはしても、文句は言えない。
今の自分が生きているのは、聖痕をくれた神様のお蔭。
その神様から新しい命と、前とそっくり同じに育つ身体を貰った。
ハーレイも青い地球の上にいて、同じ町に住んでいるという素晴らしさ。
(文句なんかは言えないよね…)
こうじゃなかった可能性だってあるんだから、とハタと気付いた。
同じように地球に生まれて来たって、ハーレイが其処にいないとか。
あるいは、ハーレイも地球にいたって…。
(人間じゃない、ってこともあったかも…)
有り得るよね、と顎に手を当てた。
二人で生まれ変わって来ても、今度は人ではなかった、ということもあるのだ、と。
前と同じに育つ身体をくれた神様。
聖痕をくれた神様なのだし、お安い御用だっただろう。
けれど奇跡が起こらなかったら、ハーレイと二人、奇跡的に生まれ変われても…。
(ちゃんと二人とも地球に来られても、人間じゃなくて…)
別の種族の生き物だったのかもしれない。
猫や犬やら、他にも生き物の種類は沢山あるのだから。
(人間以外に生まれて来ても…)
ハーレイと同じ種族の生き物だったら、まだしもマシと言えるだろう。
たとえ砂漠のネズミだろうが、もっと過酷な雪と氷の世界で暮らす動物だろうが。
(ハーレイと一緒に生きてゆけるんだったら…)
砂嵐に追われる日々ばかりでも、きっと幸せだと思う。
見渡す限り雪と氷で、食べ物を探すのが大変な毎日の繰り返しでも。
(だって、ハーレイと一緒なんだから…)
どんな所でも天国だよね、と暮らしてゆける自信はある。
けれども、そうはならなくて…。
(ぼくとハーレイ、別の種族の生き物に生まれて来ちゃったら…)
厄介なことになりそうだ、と深く考えなくても分かる。
種族が違えば、巡り会うことは出来たって…。
(ハーレイと一緒に生きてゆくのは…)
そう簡単なことではない。
なにしろ別種の生き物なのだし、出会えはしても…。
(ぼくはウサギで、ハーレイは人間だったとか?)
幼い頃にウサギになりたいと願っていたから、ウサギがポンと頭の中に飛び出した。
今の自分がウサギだったら、ハーレイとの出会いはどうなるだろう。
(野生のウサギに生まれて来てたら、何処かの山か草原で…)
リュックを背負ったハーレイを見付けることになるかもしれない。
「あっ、ハーレイ!」といった具合に、前の自分の記憶が一気に戻って来て。
そしたら急いで飛び出して行って、ハーレイの周りを跳ね回る。
「ぼくだよ、ブルーだよ、覚えていない?」と。
「お願い、ぼくを思い出してよ、ねえ、ハーレイ!」と、懸命に。
(ハーレイだったら、きっと気付いてくれるよね?)
ピョンピョン必死に跳ねるウサギが、「ブルー」なのだということに。
時の彼方で愛した人が、ウサギになって戻って来た、と。
(きっとそうだよ、ハーレイだって記憶が戻って…)
ウサギの姿の「ブルー」を見詰めた後に、ヒョイと抱き上げてくれるだろう。
「そうか、お前か」と、それは嬉しそうな笑顔になって。
それからリュックを下ろして座って、お弁当を広げるかもしれない。
「ウサギでも食えそうなものが入ってたかな?」と、いそいそと。
(ハーレイが作ったお弁当だよね、何処かで買って来たんじゃなくて…)
今のハーレイも料理が得意なんだから、と想像の翼を羽ばたかせる。
お弁当の中身は、手の込んだものに違いない。
出掛けた先でのんびり食べよう、とハーレイが腕を揮った料理。
(だけどウサギは、そんな料理は食べられないから…)
ハーレイが選んで分けてくれるのは、生の野菜やフルーツなど。
それでも充分、幸せな気分で食べられそう。
またハーレイに出会えた上に、お弁当を分けて貰えたのだから。
(シャングリラの厨房で、前のハーレイが試作品を分けてくれたこととか…)
色々な懐かしいことを思い出して、胸が一杯になってしまいそう。
そしてモグモグ齧っている間に、ハーレイが優しく語り掛けてくるのだろう。
「俺と一緒に帰らないか?」と。
「心配しなくても、家には庭があるんだからな」と、新しい暮らしを提案して。
(もちろん、ハーレイと一緒に行くよ!)
うんと苦労して掘った巣穴は、捨ててしまって構わない。
頑張って見付けた美味しい草が生えている場所も、もう要らない。
(新鮮な草なら、きっと庭でも…)
あるのだろうし、ハーレイだったら「ウサギのブルー」が食べられるように…。
(畑を作って、いろんな野菜を育ててくれて…)
「どれでも好きに食っていいぞ」と、気前良く言うに違いない。
「育つ前に、お前が全部食っても、また植えるから」と。
「足りない分は買って来るから、好きな野菜を選んで食えよ」と胸を叩いて。
野生のウサギに生まれて来たなら、ハーレイと出会えば一緒に暮らせる。
家に帰ってゆくハーレイに連れられ、ハーレイの家がある町へ引っ越しして行って。
ハーレイが一人で住んでいた家の中には、「ウサギのブルー」の寝床も出来ることだろう。
庭にウサギ小屋を作るのではなくて、きっとハーレイと同じ部屋。
(寝心地のいい籠を用意してくれて…)
夜はゆっくり其処で眠って、昼間は家の中で好きに過ごして、庭に出るための…。
(扉も作ってくれるよね?)
ウサギでも簡単に開けられるけれど、意地悪な風や雨などは入って来られないものを。
「どうだ、お前の身体にピッタリだろう?」と、ハーレイが工夫してくれて。
(うんと幸せ…)
ウサギでもね、と思うけれども、野生のウサギではなかった場合は…。
(…ハーレイと出会うことは出来ても、家で一緒には暮らせないかも…)
そうなっちゃうかも、と思い当たるケースは山とある。
幼稚園だの、ウサギとの触れ合いが売りの牧場だので暮らしているウサギだと…。
(運良く、ハーレイを見付けられても…)
ハーレイの方でも気付いてくれても、その場で「一緒に帰ろう」と言えるわけがない。
「ウサギのブルー」には飼い主がいて、まずはその人に頼む所から。
「このウサギを分けて貰えませんか」と、大の大人のハーレイがペコペコ頭を下げて。
(…なんでウサギが欲しいんですか、って…)
飼い主はハーレイに尋ねるだろうし、ウサギを飼った経験の有無も訊くだろう。
挙句に「駄目です」と断られたなら、ハーレイと暮らすどころではない。
せっかく巡り会えたというのに、人間のハーレイは「ウサギではない」ものだから…。
(お休みの日に、せっせと訪ねて来てくれるだけで…)
ニンジンを食べさせてくれたりはしても、「またな」と家へ帰ってゆく。
ハーレイの家は其処ではなくて、「人間のゲスト」の宿泊施設も、其処には無いから。
(それでも、頑張って通っていれば…)
飼い主の方が根負けをして、譲ってくれる日が来るかもしれない。
そうなればハーレイの粘り勝ちだけれど、それさえ出来ないケースもある。
「ウサギのブルー」が、誰かのペットだったなら。
何処かの子供が大事にしている、とても大切な「小さな友達」。
そういう場合は譲るどころか、ハーレイは「ブルー」に触れないかもしれないのだから。
(…小さな子供は、うんとペットを可愛がってて、とても大事な友達で…)
その「友達」を譲るだなんて、とんでもない。
自分と家族以外の誰かに「触らせる」のも嫌がりそう。
(触っちゃ駄目、って…)
「ウサギのブルー」をしっかりと抱いて、ハーレイを睨みそうな「飼い主」。
ウサギになった「ブルー」は、バタバタ暴れるだけ。
ハーレイの側へ行きたくっても、飼い主が離してくれないから。
ウサギの言葉は、人間の耳には届くことなど無いのだから。
(ハーレイと一緒に暮らしたいよ、って泣き叫んでも…)
飼い主も家族も、決して気付くことなどは無くて、代わりに餌を差し出して来る。
「どうしたの?」と御機嫌を取りに、ウサギの好物のおやつなどを。
(…全然、駄目だよ…)
ハーレイと暮らせる日なんて来ない、と涙が出そう。
そうこうする内に、「ウサギのブルー」の寿命は尽きてしまうのだろう。
何と言ってもウサギなのだし、寿命は人間のハーレイよりも短くて…。
(…ハーレイと一緒に暮らしたかったよ、って…)
涙ぐみながら死んでゆく時も、ハーレイは側にいられないのに違いない。
「ウサギのブルー」の飼い主からすれば他人なのだし、いくら仲良くなっていたって…。
(うちのウサギが死にそうなんです、って連絡なんかはしないよね?)
もしハーレイが「そういう時には知らせて下さい」と頼んでいたとしても、所詮はウサギ。
ハーレイが仕事に行っている間に、「ウサギのブルー」が倒れても…。
(今はお仕事中だから、って…)
連絡するのは控えるだろうし、そうなればおしまい。
「ウサギのブルー」は前と同じに、ハーレイに会えずに死んでゆく。
メギドで死んだ時と違って、飼い主の一家が側にいたって、一人ぼっちと同じこと。
(ハーレイに会いたかったよね、って…)
最期に一粒涙を零して、「ウサギのブルー」は死ぬのだろう。
おまけに「大切なペット」で、「家族の一員」だった「ブルー」は…。
(その家の庭に埋められちゃって、ハーレイは、また…)
愛した人の亡骸さえも、その手に抱き締めることは出来ない。
墓標が出来ても、それがある庭を「外から」眺めて、ポロポロと涙を流すだけで。
(…前と同じで、うんと悲しくて寂しいってば…!)
ペットのウサギだった時は、とブルッと震えて、もっと恐ろしい考えになった。
「ハーレイが、人間でもウサギでもなくて、別の種族だったら?」と。
「ブルー」はウサギに生まれて来たのに、「ハーレイ」はウサギでも人間でもない。
考えたくもないのだけれども、よりにもよって「ウサギの天敵」。
空からウサギを狩りに来る鷹や、この地域にはいないオオカミといった獣たち。
(…鷹だったら、まだマシなんだけど…)
きっとハーレイは「獲物」が「ブルー」なのだと気付く。
そうなれば襲い掛かりはしないで、頭上を舞って、怖がらせないように近付いて…。
(地面に降りて、ぼくをじっと見詰めて…)
「怖がるな、俺だ、忘れたのか?」と、首を傾げて尋ねてくる。
「こんな姿になっちまっても、俺は俺だ」と、「お前を食いやしないから」と。
(ぼくも、ギュッと目を瞑ってたのを、恐々と開けて…)
其処に「鷹になったハーレイ」を見付けて、嬉しくなって飛び付きそう。
「ハーレイだよね!」と大喜びで、「もう離れない」と、巣穴に案内して。
(鷹のハーレイ、ぼくの巣穴の側で暮らして、番をしてくれて…)
「ウサギのブルー」は、他の獣に狩られることなく、のびのびと生きてゆけそうな感じ。
だから鷹なら、まだいいけれど…。
(…オオカミだったら…?)
オオカミは群れで狩りをするらしいし、「ウサギのブルー」が彼らに見付かったなら…。
(その群れの中に、ハーレイがいても…)
どうすることも出来ないままに、「ブルー」は狩られるのだろうか。
「せめて、俺が」と、オオカミになった「ハーレイ」の牙が首に食い込んで。
「すまん、ブルー」と、泣きそうなハーレイの心の声が聞こえて来て。
(…ぼくを食べなきゃ、ハーレイ、飢えて死んじゃうんだし…)
そんな最期でも自分は構わないけれど、やっぱりお互い、辛いから…。
(別の種族だったら、とても大変…)
同じ人間が一番だよね、と大きく頷く。
今は二人で暮らせなくても、いつか結婚出来るから。
前のような悲しい別れは来なくて、最後まで、ずっと一緒だから…。
別の種族だったら・了
※ハーレイ先生と今の自分が、別の種族に生まれていたら…、と考えてみたブルー君。
ブルー君がウサギだった場合、色々なケースがありそうです。ハーレイ先生が天敵だとかv
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