別の種族なら
(俺は幸せ者だよなあ…)
今日はツイてなかったんだが、とハーレイは此処にはいない恋人を想う。
夜の書斎でコーヒー片手に、寛ぎの時間を過ごしながら。
生憎と今日は会えずに終わった、小さなブルー。
前の生から愛した人は、生まれ変わって再び帰って来てくれた。
まだ十四歳の子供なせいで、一緒には暮らせないけれど。
(学校で会えずに終わっちまって、あいつの家にも寄れなくて…)
ツイていない、とガッカリだけれど、幸せ者だとも自覚させられる。
きっと明日にはブルーに会えるし、明日が駄目でも、また明後日といった具合に次がある。
会える機会は幾らでもあって、いつかは二人で暮らしてゆける。
前の生では叶わなかった結婚式を挙げて、この家で。
(…そういう幸せが手に入ったのは…)
神様のお蔭というヤツなんだ、と幸せな今を噛み締める。
ブルーに聖痕を刻んだ神は、ブルーと自分に、新しい命と身体をくれた。
しかもブルーが焦がれ続けた、本物の青い地球の上で。
(地球が蘇った時代というのも粋だし、前とそっくりに育つ身体も凄いんだ…)
流石に神というだけはある、と心から感嘆せざるを得ない。
今度の人生は、素晴らしいものになるだろう。
辛い記憶が山ほど詰まった、時の彼方の前の生とは違って。
(俺も、あいつも、幸せ一杯で…)
時には喧嘩もするだろうけれど、トラブルはきっと、その程度。
シャングリラで暮らした時代のように、人類に追われる心配も無い。
(なんたって今は、人間はみんな、ミュウなんだしな?)
忌み嫌われることもないさ、と思った所で、不意に頭を掠めた考え。
同じ人間に生まれて来たから、ブルーと一緒に暮らしてゆける。
けれども、これが違っていたなら、どうだろう。
今の時代の人間は全てミュウなのだから、人間に生まれた場合は同じ人間になる。
(違うとなったら、別の種族ということだよな?)
あいつと俺が、と顎に手を当てた。
「そいつは、どんな具合になるんだ?」と首を捻って。
青い地球の上に生まれ変わった、今の自分と、小さなブルー。
どちらも同じ人間だけれど、別の種族なら、色々と変わって来るだろう。
(俺は人間に生まれて来たのに、ブルーは人間と違ってだな…)
ウサギだろうか、と白くて赤い瞳の愛らしい動物を思い描いた。
なにしろ今のブルーときたら、将来の夢がウサギだった頃があるらしい。
今度も虚弱に生まれたブルーは、幼稚園にいたウサギたちがとても羨ましくて…。
(あんな風に、元気に跳ね回りたくて…)
ウサギになりたい、と本気で夢を見ていたという。
ついでに今の時代ならではの干支もウサギで、正真正銘、ウサギな部分も持っている。
(よし、ブルーがウサギだったってことで…)
考えてみよう、と想像の翼を羽ばたかせた。
ブルーがウサギなら、生きている環境は何通りかある。
大きく分ければ、野生のウサギか、人間に飼われているウサギか。
(野生のウサギだったなら…)
休日に山にでも出掛けて行ったら、其処でブルーと会うのだろうか。
歩いている所へヒョッコリ姿を現すだとか、あるいは休んでいる時に…。
(俺が弁当を広げていたら、ウサギのあいつが…)
ヒョイと顔を出して、その瞬間に、お互い、相手に気付くのだろう。
遠く遥かな時の彼方で、共に暮らした愛おしい人。
その人が今、目の前にいるということに。
(ウサギのブルーは、喋れなくても…)
赤い瞳をクルクルとさせて、弁当を広げる「ハーレイ」の側に寄って来る。
「ぼくだよ」、「ブルーだよ、覚えていない?」と耳をピクピクさせながら。
(もちろん、ブルーだと分かっているとも…!)
分からないわけがないだろう、と自信の方はたっぷりとある。
野生のウサギのブルーに会ったら、まずは弁当の中身を眺め回して…。
(ウサギが食っても、大丈夫なヤツが入っていたら…)
それを手にして「食うか?」とブルーに差し出してやる。
生野菜だとか、生のフルーツなどを。
ブルーが美味しそうに食べる間に、「なあ、ブルー」と優しく呼んで、こう語り掛ける。
「俺と一緒に家に帰ろう」と、「心配しなくても、家には庭があるからな」と。
野生のウサギだったブルーは、こうして「家族の一員」になる。
宝物みたいに大切に抱いて、家まで連れて帰って来て。
庭には野菜を沢山植えて、ブルーがいつでも食べられるように、日々の手入れを欠かさない。
(しかし、ブルーが暮らす家は、だ…)
庭に作った小屋ではなくて、ハーレイと同じ家の中。
「ハーレイの部屋」の居心地の良さそうな場所に、ブルーの寝床を置いてやる。
夜には其処に入って眠って、昼間は好きに歩き回って、庭に出るための扉も作って貰って…。
(毎日、のびのび暮らすといいさ)
そんなあいつを見ているだけで幸せだよな、と心の中が温かくなる。
「別に、ウサギでも構わないんだ」と、「一緒に暮らしていけるんなら」と。
けれどブルーが、人に飼われているウサギだったら…。
(少しばかり、困ったことになるよなあ…?)
幼稚園などにいるウサギだったら、頼めば譲って貰えるだろう。
ウサギとの触れ合いが売りの公園だとか動物園でも、頼み込んだら、なんとかなりそう。
せっせと通って「ブルー」に会って、うんと仲良く過ごす所を、しっかり印象付けたなら。
(どうしても、こいつがいいんです、と…)
大の男が頭を下げれば、飼育係も苦笑しながら「いいですよ」と言うしかない。
あちらにとっては、ブルーはウサギたちの中の一匹なのだし、こだわる理由は何も無いから。
「ブルー」を譲って一匹減っても、代わりのウサギは直ぐに見付かるから。
(そういう場所で、飼ってるヤツならいいんだが…)
誰かの家のウサギだったらどうしよう、と考え込む。
今のブルーが夢に見ていた「いつか、ウサギになるんだよ」が実現していた場合みたいに…。
(通り掛かった家の庭で、白いウサギが跳ねていて…)
それがこちらに目を向けた途端、互いの記憶が蘇る。
ウサギのブルーは「ハーレイだ!」と気付くなり、跳ねて来るのだろうけれど…。
(野生のウサギの時と違って、その場で連れて帰るわけには…)
いかないどころか、果たして譲って貰えるかどうか。
大人が飼っているウサギだったら、頼めば可能かもしれないけれど…。
(その家の子供が可愛がってる、大切なペットだったなら…)
どう頑張っても、飼い主の方は「ブルー」を譲ってくれないだろう。
ウサギのブルーが「ハーレイ」に懐いて、離れたくなくて大騒ぎしても。
(…そいつは困るな…)
悲恋じゃないか、と頭を抱えたくなるような展開。
せっかく再び巡り会えても、けして一緒に暮らせはしない。
ブルーは飼われている家の庭から、外へ出ることは出来なくて。
ハーレイの方も、何度その家を訪ねて行っても、ブルーを独占出来るどころか…。
(家の人と仲良くなって、お茶を飲んだり、飯を食ったり…)
時には「ブルーの飼い主」の子供を連れて、遊びに行ったりという羽目に陥るだろう。
運が良ければ、遊びにゆく時、「ブルー」も一緒かもしれないけれど。
ただし、ペット専用の籠に入って、飼い主の手で運ばれて。
ウサギの「ブルー」に餌をやるのも、あくまで飼い主の役目のままで。
(…ごくごくたまに、「おじさんも、やる?」と、ブルー用のおやつを渡されて…)
ブルーに食べさせてやることは出来ても、それが限界に違いない。
どんなに足繁く通って行っても、「ウサギのブルー」は手に入らない。
いつか「ブルー」が寿命を迎えて、神様の許に帰って行ってしまっても…。
(ブルーの墓は、その家の庭に作られて…)
亡骸さえも、ハーレイの家に来てはくれない。
前のブルーが、メギドへと飛んで、二度と帰って来なかったように。
冷たくなったブルーの身体を抱き締め、弔いたくても、それさえ叶わなかったのと同じ。
(その家に行って庭を眺めたら、あいつの墓が…)
あるってだけでもマシなんだがな、と思うけれども、辛すぎる。
前のブルーと比べてみたなら、「ブルー」が眠っている墓がある分、マシであっても。
(…別の種族なら、そうなっちまうことも…)
あるらしいな、と悲しい気分になって来た。
愛おしい人と再会したって、一緒には暮らせない人生。
(人間とウサギっていう、うんと平和なケースでも…)
そうなっちまうか、と眉間を指でトントンと叩く。
「これだと、俺まで人間じゃなければ、もっと厄介になっちまう」と。
別の種族に生まれて来るなら、ハーレイの方も「人間ではない」ことだってある。
ブルーは同じに「ウサギ」だけれども、ハーレイは「人間」ではなくて…。
(ウサギを見付けたら、襲い掛かって…)
食っちまう種族だったとか、というケースも考えられるのだから。
大人しいウサギの天敵は多い。
空を舞っている鷹などはもちろん、地域によってはオオカミもいる。
(俺が鷹なら、ブルーを見付けちまっても…)
狩らずに逃がせばいいだけのことで、上手く運べば、友達にだってなれるだろう。
「ウサギのブルー」も、「ハーレイ」のことを知っているから。
今の姿は恐ろしい鷹でも、中身は優しい「ハーレイ」のまま。
けしてブルーを食べはしないし、鷹のハーレイが側にいたなら、他の鷹には襲われない。
(ウサギのブルーも、安心して野原を跳ね回れて…)
とても喜んでくれそうだけれど、オオカミだったら、事情が異なるかもしれない。
野生のオオカミは、群れを作って狩りをする。
だから「ハーレイ」も群れの一員、ある時、皆と狩りをしていて…。
(ウサギがいるぞ、と誰かが叫んで、一斉に追い掛け始めてから…)
オオカミの自分が追っている獲物が、「ブルー」なのだと気付いてしまう。
突然、記憶が戻って来て。
懸命に逃げる白いウサギが、愛おしい人と重なって。
(そうなっちまったら、オオカミの俺に出来ることはだな…)
ウサギのブルーを「逃がす」ことだけれど、仲間の獲物を「逃がす」のは野生の掟に反する。
その上、群れで狩りの最中、他の仲間は怒り狂って「ハーレイ」に襲い掛かるだろう。
群れから弾き出すために。
更には「掟を破った」者はどうなるか、若い仲間たちに示すためにも。
(…そうなる前に、俺は必死に駆け抜けて…)
ウサギのブルーをパッと咥えて、力の続く限りに走る。
二度と群れには戻れなくても、「ブルー」の方が大切だから。
「ブルー」を逃がして命を守って、何処かで「ウサギのブルー」と一緒に…。
(ひっそり暮らして、俺はブルーを守り続けて…)
一生を終えてゆくんだろうな、と大きく頷く。
「その人生で悔いは無いさ」と、「オオカミだから、オオカミ生だが」と。
ウサギのブルーは、オオカミに咥えられたショックで、気絶してしまうかもしれない。
いくら「ハーレイ」だと分かっていたって、オオカミだから。
咥えて逃げようと開けた口には、鋭い牙が生えているから。
(それでも、俺が咥えて逃げて…)
洞穴の中か何処かで意識が戻れば、ブルーはきっと大喜びしてくれる。
「助けてくれたのに、知らずに気絶しちゃってごめんね」と泣き笑いのような表情で。
「ハーレイがオオカミでも会えて良かった」と、「もう離れない」と。
(ウサギのブルーと、オオカミの俺か…)
それはそれで素敵なカップルかもな、と笑みを浮かべて、コーヒーのカップを傾ける。
「別の種族なら、そんな出会いもあったかもしれん」と。
「そいつもなかなか、いいかもしれん」と、嬉しくもなる。
どんな出会いになったとしても、ブルーと生きてゆけるなら。
オオカミなのに肉を食べずに、一生、ブルーと、草を食べて暮らす毎日でも…。
別の種族なら・了
※ブルー君と自分が別の種族に生まれていたら、と想像してみたハーレイ先生。
人間とウサギだった場合は、悲恋になってしまう可能性。オオカミとウサギなら幸せかもv
今日はツイてなかったんだが、とハーレイは此処にはいない恋人を想う。
夜の書斎でコーヒー片手に、寛ぎの時間を過ごしながら。
生憎と今日は会えずに終わった、小さなブルー。
前の生から愛した人は、生まれ変わって再び帰って来てくれた。
まだ十四歳の子供なせいで、一緒には暮らせないけれど。
(学校で会えずに終わっちまって、あいつの家にも寄れなくて…)
ツイていない、とガッカリだけれど、幸せ者だとも自覚させられる。
きっと明日にはブルーに会えるし、明日が駄目でも、また明後日といった具合に次がある。
会える機会は幾らでもあって、いつかは二人で暮らしてゆける。
前の生では叶わなかった結婚式を挙げて、この家で。
(…そういう幸せが手に入ったのは…)
神様のお蔭というヤツなんだ、と幸せな今を噛み締める。
ブルーに聖痕を刻んだ神は、ブルーと自分に、新しい命と身体をくれた。
しかもブルーが焦がれ続けた、本物の青い地球の上で。
(地球が蘇った時代というのも粋だし、前とそっくりに育つ身体も凄いんだ…)
流石に神というだけはある、と心から感嘆せざるを得ない。
今度の人生は、素晴らしいものになるだろう。
辛い記憶が山ほど詰まった、時の彼方の前の生とは違って。
(俺も、あいつも、幸せ一杯で…)
時には喧嘩もするだろうけれど、トラブルはきっと、その程度。
シャングリラで暮らした時代のように、人類に追われる心配も無い。
(なんたって今は、人間はみんな、ミュウなんだしな?)
忌み嫌われることもないさ、と思った所で、不意に頭を掠めた考え。
同じ人間に生まれて来たから、ブルーと一緒に暮らしてゆける。
けれども、これが違っていたなら、どうだろう。
今の時代の人間は全てミュウなのだから、人間に生まれた場合は同じ人間になる。
(違うとなったら、別の種族ということだよな?)
あいつと俺が、と顎に手を当てた。
「そいつは、どんな具合になるんだ?」と首を捻って。
青い地球の上に生まれ変わった、今の自分と、小さなブルー。
どちらも同じ人間だけれど、別の種族なら、色々と変わって来るだろう。
(俺は人間に生まれて来たのに、ブルーは人間と違ってだな…)
ウサギだろうか、と白くて赤い瞳の愛らしい動物を思い描いた。
なにしろ今のブルーときたら、将来の夢がウサギだった頃があるらしい。
今度も虚弱に生まれたブルーは、幼稚園にいたウサギたちがとても羨ましくて…。
(あんな風に、元気に跳ね回りたくて…)
ウサギになりたい、と本気で夢を見ていたという。
ついでに今の時代ならではの干支もウサギで、正真正銘、ウサギな部分も持っている。
(よし、ブルーがウサギだったってことで…)
考えてみよう、と想像の翼を羽ばたかせた。
ブルーがウサギなら、生きている環境は何通りかある。
大きく分ければ、野生のウサギか、人間に飼われているウサギか。
(野生のウサギだったなら…)
休日に山にでも出掛けて行ったら、其処でブルーと会うのだろうか。
歩いている所へヒョッコリ姿を現すだとか、あるいは休んでいる時に…。
(俺が弁当を広げていたら、ウサギのあいつが…)
ヒョイと顔を出して、その瞬間に、お互い、相手に気付くのだろう。
遠く遥かな時の彼方で、共に暮らした愛おしい人。
その人が今、目の前にいるということに。
(ウサギのブルーは、喋れなくても…)
赤い瞳をクルクルとさせて、弁当を広げる「ハーレイ」の側に寄って来る。
「ぼくだよ」、「ブルーだよ、覚えていない?」と耳をピクピクさせながら。
(もちろん、ブルーだと分かっているとも…!)
分からないわけがないだろう、と自信の方はたっぷりとある。
野生のウサギのブルーに会ったら、まずは弁当の中身を眺め回して…。
(ウサギが食っても、大丈夫なヤツが入っていたら…)
それを手にして「食うか?」とブルーに差し出してやる。
生野菜だとか、生のフルーツなどを。
ブルーが美味しそうに食べる間に、「なあ、ブルー」と優しく呼んで、こう語り掛ける。
「俺と一緒に家に帰ろう」と、「心配しなくても、家には庭があるからな」と。
野生のウサギだったブルーは、こうして「家族の一員」になる。
宝物みたいに大切に抱いて、家まで連れて帰って来て。
庭には野菜を沢山植えて、ブルーがいつでも食べられるように、日々の手入れを欠かさない。
(しかし、ブルーが暮らす家は、だ…)
庭に作った小屋ではなくて、ハーレイと同じ家の中。
「ハーレイの部屋」の居心地の良さそうな場所に、ブルーの寝床を置いてやる。
夜には其処に入って眠って、昼間は好きに歩き回って、庭に出るための扉も作って貰って…。
(毎日、のびのび暮らすといいさ)
そんなあいつを見ているだけで幸せだよな、と心の中が温かくなる。
「別に、ウサギでも構わないんだ」と、「一緒に暮らしていけるんなら」と。
けれどブルーが、人に飼われているウサギだったら…。
(少しばかり、困ったことになるよなあ…?)
幼稚園などにいるウサギだったら、頼めば譲って貰えるだろう。
ウサギとの触れ合いが売りの公園だとか動物園でも、頼み込んだら、なんとかなりそう。
せっせと通って「ブルー」に会って、うんと仲良く過ごす所を、しっかり印象付けたなら。
(どうしても、こいつがいいんです、と…)
大の男が頭を下げれば、飼育係も苦笑しながら「いいですよ」と言うしかない。
あちらにとっては、ブルーはウサギたちの中の一匹なのだし、こだわる理由は何も無いから。
「ブルー」を譲って一匹減っても、代わりのウサギは直ぐに見付かるから。
(そういう場所で、飼ってるヤツならいいんだが…)
誰かの家のウサギだったらどうしよう、と考え込む。
今のブルーが夢に見ていた「いつか、ウサギになるんだよ」が実現していた場合みたいに…。
(通り掛かった家の庭で、白いウサギが跳ねていて…)
それがこちらに目を向けた途端、互いの記憶が蘇る。
ウサギのブルーは「ハーレイだ!」と気付くなり、跳ねて来るのだろうけれど…。
(野生のウサギの時と違って、その場で連れて帰るわけには…)
いかないどころか、果たして譲って貰えるかどうか。
大人が飼っているウサギだったら、頼めば可能かもしれないけれど…。
(その家の子供が可愛がってる、大切なペットだったなら…)
どう頑張っても、飼い主の方は「ブルー」を譲ってくれないだろう。
ウサギのブルーが「ハーレイ」に懐いて、離れたくなくて大騒ぎしても。
(…そいつは困るな…)
悲恋じゃないか、と頭を抱えたくなるような展開。
せっかく再び巡り会えても、けして一緒に暮らせはしない。
ブルーは飼われている家の庭から、外へ出ることは出来なくて。
ハーレイの方も、何度その家を訪ねて行っても、ブルーを独占出来るどころか…。
(家の人と仲良くなって、お茶を飲んだり、飯を食ったり…)
時には「ブルーの飼い主」の子供を連れて、遊びに行ったりという羽目に陥るだろう。
運が良ければ、遊びにゆく時、「ブルー」も一緒かもしれないけれど。
ただし、ペット専用の籠に入って、飼い主の手で運ばれて。
ウサギの「ブルー」に餌をやるのも、あくまで飼い主の役目のままで。
(…ごくごくたまに、「おじさんも、やる?」と、ブルー用のおやつを渡されて…)
ブルーに食べさせてやることは出来ても、それが限界に違いない。
どんなに足繁く通って行っても、「ウサギのブルー」は手に入らない。
いつか「ブルー」が寿命を迎えて、神様の許に帰って行ってしまっても…。
(ブルーの墓は、その家の庭に作られて…)
亡骸さえも、ハーレイの家に来てはくれない。
前のブルーが、メギドへと飛んで、二度と帰って来なかったように。
冷たくなったブルーの身体を抱き締め、弔いたくても、それさえ叶わなかったのと同じ。
(その家に行って庭を眺めたら、あいつの墓が…)
あるってだけでもマシなんだがな、と思うけれども、辛すぎる。
前のブルーと比べてみたなら、「ブルー」が眠っている墓がある分、マシであっても。
(…別の種族なら、そうなっちまうことも…)
あるらしいな、と悲しい気分になって来た。
愛おしい人と再会したって、一緒には暮らせない人生。
(人間とウサギっていう、うんと平和なケースでも…)
そうなっちまうか、と眉間を指でトントンと叩く。
「これだと、俺まで人間じゃなければ、もっと厄介になっちまう」と。
別の種族に生まれて来るなら、ハーレイの方も「人間ではない」ことだってある。
ブルーは同じに「ウサギ」だけれども、ハーレイは「人間」ではなくて…。
(ウサギを見付けたら、襲い掛かって…)
食っちまう種族だったとか、というケースも考えられるのだから。
大人しいウサギの天敵は多い。
空を舞っている鷹などはもちろん、地域によってはオオカミもいる。
(俺が鷹なら、ブルーを見付けちまっても…)
狩らずに逃がせばいいだけのことで、上手く運べば、友達にだってなれるだろう。
「ウサギのブルー」も、「ハーレイ」のことを知っているから。
今の姿は恐ろしい鷹でも、中身は優しい「ハーレイ」のまま。
けしてブルーを食べはしないし、鷹のハーレイが側にいたなら、他の鷹には襲われない。
(ウサギのブルーも、安心して野原を跳ね回れて…)
とても喜んでくれそうだけれど、オオカミだったら、事情が異なるかもしれない。
野生のオオカミは、群れを作って狩りをする。
だから「ハーレイ」も群れの一員、ある時、皆と狩りをしていて…。
(ウサギがいるぞ、と誰かが叫んで、一斉に追い掛け始めてから…)
オオカミの自分が追っている獲物が、「ブルー」なのだと気付いてしまう。
突然、記憶が戻って来て。
懸命に逃げる白いウサギが、愛おしい人と重なって。
(そうなっちまったら、オオカミの俺に出来ることはだな…)
ウサギのブルーを「逃がす」ことだけれど、仲間の獲物を「逃がす」のは野生の掟に反する。
その上、群れで狩りの最中、他の仲間は怒り狂って「ハーレイ」に襲い掛かるだろう。
群れから弾き出すために。
更には「掟を破った」者はどうなるか、若い仲間たちに示すためにも。
(…そうなる前に、俺は必死に駆け抜けて…)
ウサギのブルーをパッと咥えて、力の続く限りに走る。
二度と群れには戻れなくても、「ブルー」の方が大切だから。
「ブルー」を逃がして命を守って、何処かで「ウサギのブルー」と一緒に…。
(ひっそり暮らして、俺はブルーを守り続けて…)
一生を終えてゆくんだろうな、と大きく頷く。
「その人生で悔いは無いさ」と、「オオカミだから、オオカミ生だが」と。
ウサギのブルーは、オオカミに咥えられたショックで、気絶してしまうかもしれない。
いくら「ハーレイ」だと分かっていたって、オオカミだから。
咥えて逃げようと開けた口には、鋭い牙が生えているから。
(それでも、俺が咥えて逃げて…)
洞穴の中か何処かで意識が戻れば、ブルーはきっと大喜びしてくれる。
「助けてくれたのに、知らずに気絶しちゃってごめんね」と泣き笑いのような表情で。
「ハーレイがオオカミでも会えて良かった」と、「もう離れない」と。
(ウサギのブルーと、オオカミの俺か…)
それはそれで素敵なカップルかもな、と笑みを浮かべて、コーヒーのカップを傾ける。
「別の種族なら、そんな出会いもあったかもしれん」と。
「そいつもなかなか、いいかもしれん」と、嬉しくもなる。
どんな出会いになったとしても、ブルーと生きてゆけるなら。
オオカミなのに肉を食べずに、一生、ブルーと、草を食べて暮らす毎日でも…。
別の種族なら・了
※ブルー君と自分が別の種族に生まれていたら、と想像してみたハーレイ先生。
人間とウサギだった場合は、悲恋になってしまう可能性。オオカミとウサギなら幸せかもv
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