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謝るためには
「ねえ、ハーレイ。謝るためには…」
 誠意を見せるのが大切だよね、とブルーは顔を曇らせた。
 二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 謝るって…」
 どうしたんだ、とハーレイは慌てて問い掛けた。
 ブルーは何もしてはいないし、思い当たる節が全く無い。
 朝にブルーの家に来てから、謝られるようなことは…。
(何も無いよな…?)
 ということは、友達と何かあったのか、と推測してみる。
 ブルーが友達を怒らせることなど、無さそうだけれど…。
(場合によっては、有り得るかもなあ…)
 なにしろ、学校という場所は生徒で溢れ返っている。
 ブルーに悪気は無かったとしても、廊下か何処かで…。
(すれ違いざまにぶつかっちまって、そのはずみに…)
 友達が持っていた鞄が落ちて、中身が壊れてしまうとか。
(壊れなくても、まだ食っていない弁当が…)
 グチャグチャになるってこともあるか、と考えた。
 昼に食べようと楽しみに買った、パンがペシャンコとか。
(…食い物の恨みは怖いモンだし…)
 まして食べ盛りの年頃だしな、と苦笑いする。
 「そういうことか」と、「原因は多分、弁当だろう」と。


 きっとそうだ、と気が付いたから、ブルーに尋ねた。
「友達に、何か、やらかしちまったのか?」
「うん、友達と言えば、友達かも…」
 やっちゃったんだ、とブルーは肩を落とした。
「渡す筈のもの、渡さずに放って来ちゃったんだよ」
「なんだって!?」
 お前がか、とハーレイは目を丸くした。
 ブルーは今も昔も真面目で、約束を破ることなどしない。
 「明日、渡すね」と約束したなら、必ず守る。
 なのに渡さずに放って来たとは、と驚いたけれど…。
(待てよ、今日は土曜で、学校は休みで…)
 明日も日曜で休みだよな、と破った原因に思い当たった。
 多分、ブルーは、昨日に渡す気だったのだろう。
 ところが、たまたま何かが起こって…。
(渡す相手に会い損なって、そのまま帰るしかなくて…)
 渡せないままになったんだな、と納得した。
 そういうことなら、ブルーに落ち度は無いのだけれど…。
(ついでに、こいつの年頃だったら、ありがちで…)
 相手も気にしちゃいない筈だが、と可笑しくなる。
 もしかすると、相手も忘れているかもしれない。
 ブルーに何かを頼んだことも、それを受け取る約束も。


(子供には、よくあることなんだがなあ…)
 ブルーの場合は事情が少し違ったっけな、と苦笑した。
 前の生での記憶がある分、失敗したと思うのだろう。
 普通の子ならば気にしないのに、気に病んで。
 それなら、ブルーの心が軽くなるよう、手を貸さねば。
「気にしすぎだと思うぞ、俺は」
 次に会ったら渡せばいいだろ、とウインクする。
 「相手も忘れちまってるかもしれんし、気にするな」と。
「…そうなのかな…?」
 それで誠意は見せられるかな、とブルーは心配そうな顔。
 「ごめんって言って、渡せばいいの?」と瞳を瞬かせて。
「そうだとも。お前くらいの年の頃なら、充分だ」
 大人だと、少々、ややこしい時もあるけどな、と笑う。
「謝るだけではマズイかも、ってお詫びに飯を…」
 ご馳走したりもするんだが、と教えて、更に付け足した。
 「子供の場合は、それは要らん」と、「渡せばいい」と。
「…そっか、渡すの、忘れたものを…」
「ごめん、と謝って、渡しておけば大丈夫だ」
 相手も怒っちゃいないだろうさ、と微笑んでやる。
 「それで充分、誠意は伝わる筈だからな」と。


「分かった、ごめん、って謝ってから…」
 渡すんだね、とブルーは椅子から立ち上がった。
 忘れない内に、渡す筈のものを鞄に入れるのだろうか。
 それともメモに書いておくとか、鞄に結び付けるとか。
(…前のあいつも真面目だったが、今のこいつも…)
 真面目だよな、とハーレイが感心していると…。
「ごめんね、ハーレイ」
 渡せなくって、とブルーが側にやって来た。
「遅くなっちゃったけど、さよならのキス…」
 メギドに飛ぶ前に、渡せずに行っちゃったから、と。
「なんだって!?」
 ソレか、とブルーの魂胆に気付いて、パッと身を引く。
 確かに貰い損なったけれど、今頃、渡して貰っても…。
(第一、こいつはチビでだな…!)
 唇へのキスは許していない、とブルーを睨んで…。
「ほほう、さよならのキスなんだな?」
 それを貰ってお別れなのか、とブルーに顔を近付けた。
 「なら、お別れだ」と、「二度と来ない」と。
「ちょ、ちょっと…!」
 それは困るよ、とブルーは悲鳴だけれども、知らん顔。
 「早く、寄越せ」と。
 「さよならのキスを貰って、俺はさよならだな」と…。


        謝るためには・了







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