君の他には
(今日はハーレイに会えなかったよ…)
後ろ姿さえ見ていないよね、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は古典の授業も無い日だったから、運が悪かったと言えるだろう。
授業さえあれば、たとえ当てては貰えなくても、ハーレイの顔は見ることが出来た。
声も聞けたし、姿にしたって見放題なのに、それも無かった。
(仕事の帰りに、寄ってくれるかと思ってたのに…)
濃い緑色をした車は来なくて、ハーレイには会えず終いの一日。
残念な限りなのだけれども、あと何年か経ったなら…。
(今日みたいな日は、もう無くなって…)
ハーレイとは毎日、嫌というほど顔を合わせて、朝から晩まで、何処かで会える。
同じ家の中で暮らしているから、喧嘩をしたって、まるで会わずに過ごすことなど…。
(…出来ないよね?)
絶対、何処かで会っちゃうんだよ、とクスクスと笑う。
「ハーレイのことなんか、もう知らない!」と怒っていたって、廊下や洗面所でバッタリと。
お互い、プイッと顔を背けても、また直ぐに会ってしまうだろう。
「何か飲みたいな」とキッチンに行ったら、其処にハーレイがいたりして。
(…ぼくと喧嘩中なのに、のんびりコーヒーなんか淹れてて…)
鼻歌交じりに、菓子を作っているかもしれない。
それは美味しそうな匂いが漂う、アップルパイとか、チョコレートの入ったケーキとか。
(…お前には食わせてやらないからな、って…)
ハーレイの顔には書いてあるから、キッチンの扉をバタンと閉めて、そのまま戻る。
飲み物が欲しかったのは確かだけれども、あんなハーレイのいる所では…。
(欲しい気持ちも失せるってば!)
水道の水で充分だよ、とズンズン歩いて、洗面所のカップからゴクゴクと飲む。
カップは歯磨き用のカップで、水を飲むカップとは違うのに。
水には味などついていなくて、喉が湿るというだけなのに。
そういう出会いばかりの日になったって、ハーレイとは、いずれ一緒に暮らせる。
喧嘩して口も利かなくなっても、それも長くは続かないだろう。
(ぼくが怒って、キッチンの扉を思いっ切り…)
叩き付けるように閉めて去ったら、ハーレイは笑い転げていそう。
「大きくなっても、まだまだ子供だ」と、「中身はガキのまんまだよな」と。
機嫌を取りにはやって来ないで、コーヒーを淹れて味わいながら…。
(お菓子作りを進めていって、合間に、食事の支度とかもして…)
空いた時間に新聞を広げて読んだりもして、「ブルーがいない」のを逆に楽しむ。
独身時代に戻ったみたいに、勝手気ままに。
以前は一人で暮らしていた家、その空間を満喫して。
(…考えただけで、腹が立つけど…)
喧嘩中の未来の自分もプンスカ怒っていそうだけれども、その内に、声が聞こえるだろう。
立て籠っている部屋の扉が、ノックされて。
「おい、ブルー?」と、揶揄うようなハーレイの口調。
「飯が出来たが、食わないのか?」と。
(…返事をしないで、黙っていたら…)
ハーレイは「そうか」と踵を返して、スタスタと戻ってゆきそうな感じ。
「だったら、一人で食うとするかな」と、聞こえよがしに独り言を漏らして。
「デザートは、アップルパイが出来ているし」と、「アイスも添えると美味いんだよな」と。
(ぼくのことなんか、知るもんか、って…)
去ったら最後、ハーレイは一人で食事を摂って、アップルパイも食べてしまいそう。
かなり経った頃に「お腹が空いた…」とダイニングに行っても、既に手遅れ。
パイは欠片も残っていなくて、テーブルの上には…。
(アップルパイは食っちまった、って書かれたメモと、如何にも残り物っぽい…)
ブルー用の料理が皿に盛られて、「温めて食え」と書いてある。
嫌味ったらしく、「出来立てが一番、美味しそうな料理」が、すっかりと冷めて。
しぼんでしまったスフレオムレツとか、冷えて固まった脂を纏ったハンバーグとか。
(やりそうなんだよ…!)
ハーレイならね、と分かっているから、喧嘩はサッサと切り上げないと。
お菓子や食事に釣られてしまって、出て来たことを笑われても。
「なんだ、来たのか」と、チラと見られても、ハーレイが盛大に噴き出しても。
(…今のハーレイなら、ホントにやりそう…)
ぼくを苛めて楽しむヤツ、と思いはしても、それも素敵な未来ではある。
ハーレイと一緒に暮らしているから、喧嘩もするし、仕返しもされる。
「ハーレイのことなんか、もう知らない!」と言おうものなら、独身生活に戻られて。
「元々、俺の家なんだしな?」と、「ブルーのいない暮らし」をされてしまって。
(それでも、ぼくが食べる分の食事や、お菓子は…)
きっと作ってくれるだろうから、さっき考えたようなことも大いに有り得る。
お菓子は食べ尽くされてしまって、食事は「冷めたら美味しくなくなる」残り物ばかり。
怒るしかない仕打ちなのだし、ハーレイの所へ怒鳴り込んだら…。
(お前が食いに来なかったんだろ、と鼻で笑われて…)
グウの音も出なくて、其処へハーレイが追い打ちをかける。
「第一、喧嘩中なんだぞ、今は」と。
「喧嘩中なら、仕返しされるのは当然だろうが」と、可笑しそうに。
(…そう言われたら、悔しくても、黙るしか無くて…)
「降参だよ!」と言わない限りは、ハーレイの仕返しが続いてゆく。
午後のお茶の時間も、ハーレイは全く呼んでくれずに、一人、ゆっくりコーヒーを飲む。
「ブルーとお茶」なら、コーヒーではなくて、紅茶なのに。
喧嘩中のブルーが「何か飲みたい」と出掛けて行っても、キッチンにドッカリ居座り続けて。
お湯を沸かそうにも、紅茶のポットを用意しようにも、ハーレイがいては、どうにもならない。
「ぼくも、紅茶を飲みたいんだけど」と声を掛けたら、負けを認めるようなもの。
「お願いだから、どいて下さい」と、頭を下げるのと同じだから。
(喧嘩してなきゃ、なんでもないことなんだれどね…)
「ちょっとごめん」と横を通るとか、ハーレイの動きを遮ることは、ごくごく日常。
それが出来ないのが「喧嘩の最中」、負けを認めるか、紅茶の代わりに…。
(洗面所に行って、水道の水…)
歯磨き用のカップから飲んで、部屋に立て籠もって、怒り続けて…。
(御飯の時間になったなら…)
またハーレイが部屋の扉をノックする。
「飯が出来たが、お前、今度も食わないのか?」と笑いながら。
「デザートも出来てるんだがな?」と。
「今なら飯も熱々なんだ」と、「冷めたら、きっと不味いだろうなあ…」などと。
(ホントにありそうなんだよね…)
そういう未来、と思うけれども、未来の自分は、それでも幸せなことだろう。
ハーレイと二人で暮らしているから、喧嘩もするし、仕返しもされる。
盛大に喧嘩をしている時間は、そうそう長くは続かなくても。
仕返しに懲りた「未来の自分」が、「ごめんなさい…」と詫びる羽目になっても。
(謝らなくても、ハーレイの前へ出ていくだけで…)
ハーレイは許してくれるよね、という気がする。
「飯に釣られて出て来たんだな」と、腹を抱えて笑っていたって。
「色気より食い気というヤツだよな」と、「これに限る」と勝ち誇られても。
(ムカッとしたって、それは、一瞬…)
ハーレイが「美味いんだぞ?」と料理を盛り付けてゆくのを見たら、怒りは溶けてしまいそう。
酷い仕返しを受けたことだって、頭から消えてしまうと思う。
何故なら、「ハーレイが、其処にいる」から。
つまらないことで喧嘩になって、うんと怒って、立て籠もったりしたけれど…。
(やっぱり、ハーレイがいるのが一番…)
顔を見られて、一緒に食事のテーブルを囲んで、食後は紅茶やコーヒーを淹れて…。
(ハーレイが作ったお菓子を食べて、昼間にやられた仕返しのことを…)
二人で話して、ハーレイが一人で食べてしまったアップルパイなどの感想も…。
(聞かせて貰って、食べ損なったのを悔しがって…)
「分かった、また今度、作ってやるから」と約束を取り付けて、満足する。
ハーレイの料理も、作るお菓子も、美味しいに決まっているのだから。
前のハーレイは厨房出身、今のハーレイも料理が好きで、腕を磨いていると聞く。
(何を作らせても、きっと、とっても美味しくて…)
頬っぺたが落ちそうになるんだよ、と思うものだから、未来の自分が羨ましい。
そのハーレイが作る料理を、毎日のように食べて暮らして、喧嘩もする。
仕返しで「冷めたら不味い料理」を食べさせられたり、お菓子を食べ尽くされてしまったり。
そうして怒って、でも仲直りで、同じ料理を作って貰える。
「熱々の間に食うのがいいんだ」と、日を改めて、ハーレイがキッチンに立って。
「お前も、すっかり懲りただろうが」と、「そうは言っても、またやりそうだが」と。
「次があったら、どんな料理を作るとするかな」と、ハーレイは計画をひけらかしそう。
冷めたら不味い料理を挙げて、「お前は、どれを作って欲しい?」と聞いたりもして。
(そういう仕返し、たっぷりやられてしまっても…)
何度、酷い目に遭ってしまっても、未来の自分は、間違いなく幸せ一杯の日々。
其処に「ハーレイがいる」だけで。
毎日、ハーレイと顔を合わせて、会えない日などは一日も無くて、時には喧嘩するほどで。
(…だって、前のぼくは…)
その「ハーレイ」を失くしちゃったから、と右の手をキュッと強く握り締める。
今はお風呂で温まった後で、部屋も暖かくて、幸せな未来も夢見ていたから、温かい右手。
その手は、前の生の終わりに、冷たく冷えて凍えてしまった。
最後まで持っていたいと願った、ハーレイの温もりを落として、失くして。
「ハーレイとの絆が切れてしまった」と泣きじゃくりながら、前の自分はメギドで死んだ。
それから長い時が流れて、気付けば、青い地球の上にいた。
新しい命と身体を貰って、ハーレイまでが戻って来てくれた。
(ぼくよりも先に生まれて来ていて、聖痕を見て記憶が戻って…)
今では会えなかった日を嘆くくらいに、「ハーレイがいる」のが当たり前の毎日。
学校で顔を合わせるだけでも、本当は充分だと言えるだろう。
「二度と会えない」と思いながら死んで、それきりになる筈だったのだから。
(だから、ハーレイさえいれば…)
それで充分なんだよね、と神様に御礼を言うべきだろうし、そうだと思う。
未来のハーレイに仕返しされても、怒っている場合などではない。
(立て籠もってプンスカ怒っていたって、心の中では…)
分かっているから、ハーレイを嫌ってなどはいないし、怒ってもいない。
「君の他には、何も要らない」と痛感していて、喧嘩中の自分を叱ってもいそう。
「そのハーレイを失くしてしまった、前のお前を忘れたのか?」と。
「一人ぼっちになりたいのか」と、「またハーレイを失くしたいのか?」と問い掛けて。
(…そんなことないし、失くしたくもなくて…)
ハーレイさえいれば、それで充分、他には本当に何も要らない。
冷めてしまったら不味い料理で仕返しされても、お菓子を食べ尽くされてしまっても…。
(君の他には、ぼくは、なんにも…)
要らないんだよ、と思うけれども、未来の自分は、きっとやらかすことだろう。
喧嘩も、仕返しをされた文句を言うのも、思いのままに。
ハーレイにすっかり甘えてしまって、前の生よりも、うんと我儘になって…。
君の他には・了
※ハーレイさえいれば、他には何も要らない、と思うブルー君。前の生の最期が悲しすぎて。
けれど未来には、きっと忘れて、ハーレイ先生と喧嘩するのです。幸せすぎて我儘になってv
後ろ姿さえ見ていないよね、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は古典の授業も無い日だったから、運が悪かったと言えるだろう。
授業さえあれば、たとえ当てては貰えなくても、ハーレイの顔は見ることが出来た。
声も聞けたし、姿にしたって見放題なのに、それも無かった。
(仕事の帰りに、寄ってくれるかと思ってたのに…)
濃い緑色をした車は来なくて、ハーレイには会えず終いの一日。
残念な限りなのだけれども、あと何年か経ったなら…。
(今日みたいな日は、もう無くなって…)
ハーレイとは毎日、嫌というほど顔を合わせて、朝から晩まで、何処かで会える。
同じ家の中で暮らしているから、喧嘩をしたって、まるで会わずに過ごすことなど…。
(…出来ないよね?)
絶対、何処かで会っちゃうんだよ、とクスクスと笑う。
「ハーレイのことなんか、もう知らない!」と怒っていたって、廊下や洗面所でバッタリと。
お互い、プイッと顔を背けても、また直ぐに会ってしまうだろう。
「何か飲みたいな」とキッチンに行ったら、其処にハーレイがいたりして。
(…ぼくと喧嘩中なのに、のんびりコーヒーなんか淹れてて…)
鼻歌交じりに、菓子を作っているかもしれない。
それは美味しそうな匂いが漂う、アップルパイとか、チョコレートの入ったケーキとか。
(…お前には食わせてやらないからな、って…)
ハーレイの顔には書いてあるから、キッチンの扉をバタンと閉めて、そのまま戻る。
飲み物が欲しかったのは確かだけれども、あんなハーレイのいる所では…。
(欲しい気持ちも失せるってば!)
水道の水で充分だよ、とズンズン歩いて、洗面所のカップからゴクゴクと飲む。
カップは歯磨き用のカップで、水を飲むカップとは違うのに。
水には味などついていなくて、喉が湿るというだけなのに。
そういう出会いばかりの日になったって、ハーレイとは、いずれ一緒に暮らせる。
喧嘩して口も利かなくなっても、それも長くは続かないだろう。
(ぼくが怒って、キッチンの扉を思いっ切り…)
叩き付けるように閉めて去ったら、ハーレイは笑い転げていそう。
「大きくなっても、まだまだ子供だ」と、「中身はガキのまんまだよな」と。
機嫌を取りにはやって来ないで、コーヒーを淹れて味わいながら…。
(お菓子作りを進めていって、合間に、食事の支度とかもして…)
空いた時間に新聞を広げて読んだりもして、「ブルーがいない」のを逆に楽しむ。
独身時代に戻ったみたいに、勝手気ままに。
以前は一人で暮らしていた家、その空間を満喫して。
(…考えただけで、腹が立つけど…)
喧嘩中の未来の自分もプンスカ怒っていそうだけれども、その内に、声が聞こえるだろう。
立て籠っている部屋の扉が、ノックされて。
「おい、ブルー?」と、揶揄うようなハーレイの口調。
「飯が出来たが、食わないのか?」と。
(…返事をしないで、黙っていたら…)
ハーレイは「そうか」と踵を返して、スタスタと戻ってゆきそうな感じ。
「だったら、一人で食うとするかな」と、聞こえよがしに独り言を漏らして。
「デザートは、アップルパイが出来ているし」と、「アイスも添えると美味いんだよな」と。
(ぼくのことなんか、知るもんか、って…)
去ったら最後、ハーレイは一人で食事を摂って、アップルパイも食べてしまいそう。
かなり経った頃に「お腹が空いた…」とダイニングに行っても、既に手遅れ。
パイは欠片も残っていなくて、テーブルの上には…。
(アップルパイは食っちまった、って書かれたメモと、如何にも残り物っぽい…)
ブルー用の料理が皿に盛られて、「温めて食え」と書いてある。
嫌味ったらしく、「出来立てが一番、美味しそうな料理」が、すっかりと冷めて。
しぼんでしまったスフレオムレツとか、冷えて固まった脂を纏ったハンバーグとか。
(やりそうなんだよ…!)
ハーレイならね、と分かっているから、喧嘩はサッサと切り上げないと。
お菓子や食事に釣られてしまって、出て来たことを笑われても。
「なんだ、来たのか」と、チラと見られても、ハーレイが盛大に噴き出しても。
(…今のハーレイなら、ホントにやりそう…)
ぼくを苛めて楽しむヤツ、と思いはしても、それも素敵な未来ではある。
ハーレイと一緒に暮らしているから、喧嘩もするし、仕返しもされる。
「ハーレイのことなんか、もう知らない!」と言おうものなら、独身生活に戻られて。
「元々、俺の家なんだしな?」と、「ブルーのいない暮らし」をされてしまって。
(それでも、ぼくが食べる分の食事や、お菓子は…)
きっと作ってくれるだろうから、さっき考えたようなことも大いに有り得る。
お菓子は食べ尽くされてしまって、食事は「冷めたら美味しくなくなる」残り物ばかり。
怒るしかない仕打ちなのだし、ハーレイの所へ怒鳴り込んだら…。
(お前が食いに来なかったんだろ、と鼻で笑われて…)
グウの音も出なくて、其処へハーレイが追い打ちをかける。
「第一、喧嘩中なんだぞ、今は」と。
「喧嘩中なら、仕返しされるのは当然だろうが」と、可笑しそうに。
(…そう言われたら、悔しくても、黙るしか無くて…)
「降参だよ!」と言わない限りは、ハーレイの仕返しが続いてゆく。
午後のお茶の時間も、ハーレイは全く呼んでくれずに、一人、ゆっくりコーヒーを飲む。
「ブルーとお茶」なら、コーヒーではなくて、紅茶なのに。
喧嘩中のブルーが「何か飲みたい」と出掛けて行っても、キッチンにドッカリ居座り続けて。
お湯を沸かそうにも、紅茶のポットを用意しようにも、ハーレイがいては、どうにもならない。
「ぼくも、紅茶を飲みたいんだけど」と声を掛けたら、負けを認めるようなもの。
「お願いだから、どいて下さい」と、頭を下げるのと同じだから。
(喧嘩してなきゃ、なんでもないことなんだれどね…)
「ちょっとごめん」と横を通るとか、ハーレイの動きを遮ることは、ごくごく日常。
それが出来ないのが「喧嘩の最中」、負けを認めるか、紅茶の代わりに…。
(洗面所に行って、水道の水…)
歯磨き用のカップから飲んで、部屋に立て籠もって、怒り続けて…。
(御飯の時間になったなら…)
またハーレイが部屋の扉をノックする。
「飯が出来たが、お前、今度も食わないのか?」と笑いながら。
「デザートも出来てるんだがな?」と。
「今なら飯も熱々なんだ」と、「冷めたら、きっと不味いだろうなあ…」などと。
(ホントにありそうなんだよね…)
そういう未来、と思うけれども、未来の自分は、それでも幸せなことだろう。
ハーレイと二人で暮らしているから、喧嘩もするし、仕返しもされる。
盛大に喧嘩をしている時間は、そうそう長くは続かなくても。
仕返しに懲りた「未来の自分」が、「ごめんなさい…」と詫びる羽目になっても。
(謝らなくても、ハーレイの前へ出ていくだけで…)
ハーレイは許してくれるよね、という気がする。
「飯に釣られて出て来たんだな」と、腹を抱えて笑っていたって。
「色気より食い気というヤツだよな」と、「これに限る」と勝ち誇られても。
(ムカッとしたって、それは、一瞬…)
ハーレイが「美味いんだぞ?」と料理を盛り付けてゆくのを見たら、怒りは溶けてしまいそう。
酷い仕返しを受けたことだって、頭から消えてしまうと思う。
何故なら、「ハーレイが、其処にいる」から。
つまらないことで喧嘩になって、うんと怒って、立て籠もったりしたけれど…。
(やっぱり、ハーレイがいるのが一番…)
顔を見られて、一緒に食事のテーブルを囲んで、食後は紅茶やコーヒーを淹れて…。
(ハーレイが作ったお菓子を食べて、昼間にやられた仕返しのことを…)
二人で話して、ハーレイが一人で食べてしまったアップルパイなどの感想も…。
(聞かせて貰って、食べ損なったのを悔しがって…)
「分かった、また今度、作ってやるから」と約束を取り付けて、満足する。
ハーレイの料理も、作るお菓子も、美味しいに決まっているのだから。
前のハーレイは厨房出身、今のハーレイも料理が好きで、腕を磨いていると聞く。
(何を作らせても、きっと、とっても美味しくて…)
頬っぺたが落ちそうになるんだよ、と思うものだから、未来の自分が羨ましい。
そのハーレイが作る料理を、毎日のように食べて暮らして、喧嘩もする。
仕返しで「冷めたら不味い料理」を食べさせられたり、お菓子を食べ尽くされてしまったり。
そうして怒って、でも仲直りで、同じ料理を作って貰える。
「熱々の間に食うのがいいんだ」と、日を改めて、ハーレイがキッチンに立って。
「お前も、すっかり懲りただろうが」と、「そうは言っても、またやりそうだが」と。
「次があったら、どんな料理を作るとするかな」と、ハーレイは計画をひけらかしそう。
冷めたら不味い料理を挙げて、「お前は、どれを作って欲しい?」と聞いたりもして。
(そういう仕返し、たっぷりやられてしまっても…)
何度、酷い目に遭ってしまっても、未来の自分は、間違いなく幸せ一杯の日々。
其処に「ハーレイがいる」だけで。
毎日、ハーレイと顔を合わせて、会えない日などは一日も無くて、時には喧嘩するほどで。
(…だって、前のぼくは…)
その「ハーレイ」を失くしちゃったから、と右の手をキュッと強く握り締める。
今はお風呂で温まった後で、部屋も暖かくて、幸せな未来も夢見ていたから、温かい右手。
その手は、前の生の終わりに、冷たく冷えて凍えてしまった。
最後まで持っていたいと願った、ハーレイの温もりを落として、失くして。
「ハーレイとの絆が切れてしまった」と泣きじゃくりながら、前の自分はメギドで死んだ。
それから長い時が流れて、気付けば、青い地球の上にいた。
新しい命と身体を貰って、ハーレイまでが戻って来てくれた。
(ぼくよりも先に生まれて来ていて、聖痕を見て記憶が戻って…)
今では会えなかった日を嘆くくらいに、「ハーレイがいる」のが当たり前の毎日。
学校で顔を合わせるだけでも、本当は充分だと言えるだろう。
「二度と会えない」と思いながら死んで、それきりになる筈だったのだから。
(だから、ハーレイさえいれば…)
それで充分なんだよね、と神様に御礼を言うべきだろうし、そうだと思う。
未来のハーレイに仕返しされても、怒っている場合などではない。
(立て籠もってプンスカ怒っていたって、心の中では…)
分かっているから、ハーレイを嫌ってなどはいないし、怒ってもいない。
「君の他には、何も要らない」と痛感していて、喧嘩中の自分を叱ってもいそう。
「そのハーレイを失くしてしまった、前のお前を忘れたのか?」と。
「一人ぼっちになりたいのか」と、「またハーレイを失くしたいのか?」と問い掛けて。
(…そんなことないし、失くしたくもなくて…)
ハーレイさえいれば、それで充分、他には本当に何も要らない。
冷めてしまったら不味い料理で仕返しされても、お菓子を食べ尽くされてしまっても…。
(君の他には、ぼくは、なんにも…)
要らないんだよ、と思うけれども、未来の自分は、きっとやらかすことだろう。
喧嘩も、仕返しをされた文句を言うのも、思いのままに。
ハーレイにすっかり甘えてしまって、前の生よりも、うんと我儘になって…。
君の他には・了
※ハーレイさえいれば、他には何も要らない、と思うブルー君。前の生の最期が悲しすぎて。
けれど未来には、きっと忘れて、ハーレイ先生と喧嘩するのです。幸せすぎて我儘になってv
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