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魔物だったなら
(今よりも、うんと昔の地球には…)
 色々なものが住んでた筈なんだけど、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(だけど、今では…)
 何の話も聞かないよね、と頭に描いているのは、今の時代はいないらしいもの。
 魔物や怪物、妖精といった、神話や伝説に出て来る存在。
(まるっきりの嘘じゃない筈なんだよ)
 だって神様はいるんだから、と自分の右の手を見詰める。
 前の生の終わりに、その手はハーレイの温もりを落として失くしてしまった。
 「もうハーレイには二度と会えない」と泣きじゃくりながら、前の自分はメギドで死んだ。
 なのに「自分」は、新しい身体と命を貰って、青く蘇った地球の上にいる。
 神からの贈り物の聖痕、それを背負って生まれて来た。
(お蔭で前の記憶が戻って、今のハーレイにも会えたんだから…)
 神は確かにいるわけなのだし、神がいるなら、神話や伝説に出て来る「モノ」も…。
(本当にいた可能性ってヤツは、ゼロじゃないよね?)
 それなのに今は何もいない、と顎に当てた手。
 「ああいうものは、何処に行ったんだろう」と、「まさか、絶滅しちゃったとか?」と。
(…そうなのかも…?)
 彼らが「地球でしか生きられない」なら、地球が滅びてしまった時に消えただろう。
 死の星と化してしまった地球では、魔物も怪物も生きてゆくことが出来なくて。
(…幽霊だったら、どんな場所でも…)
 いられそうだから、彼らが滅びることはなかった。
 元々、死んでいるわけなのだし、地球に残された廃墟を彷徨い、他の場所でも…。
(現れてたから、前のぼくたちの時代にだって…)
 幽霊の噂は流れ続けて、彼らを巡る怪談もあった。
 もっとも、地球に幽霊が出るとは、一度も聞かなかったけれども。


(それはそうだと思うんだよ…)
 地球が再生していないことは、当時の最高機密の一つ。
 人類は機械に「地球は青い」と騙され続けて、地球という星を中心に据えて生きていた。
 だから、その地球に幽霊がいても、誰も噂をしたりはしない。
 地球に降りることを許可されていた、地球再生機構、リボーンの職員たちも。
(仕事で廃墟を回っていたら、其処に幽霊…)
 いる筈もない遠い昔の人間たちが、現れたこともあるかもしれない。
 歴史書でしか見ないような服、それを着た人が朽ちた高層ビルの谷間にいただとか。
(ありそうだけれど、幽霊を見た、って、仲間内では噂になっても…)
 外部に流出させることなど、彼らに許されるわけもない。
 当然、記録することも出来ず、噂は埋もれて、それきりになって…。
(人類もミュウも、何も知らないままで終わって…)
 今の時代にも伝わることなく、それで「おしまい」になったのだろう。
 幽霊は、いたと思うのに。
 死の星になった地球だからこそ、彼らにとっては「死の国」そのもので、似合いの場所で。
(…幽霊は、そうやって生き続けたけど…)
 死んでるのに、生きているなんて、と可笑しいけれども、いい表現を思い付かない。
 とにかく幽霊は滅びることなく、SD体制の時代を乗り越え、今だって「いる」。
 ところが魔物や怪物などは「とうの昔に」消えてしまって、SD体制が敷かれる前にも…。
(もう、いなかったみたいだから…)
 彼らはとても繊細すぎて、滅びに向かい始めた地球では、生き辛かったに違いない。
 汚染された水では妖精は生きてゆけないだろうし、魔物たちにも厳しい環境。
 隠れ住む森や深い暗闇、そういった場所が無くなっていって。
(頑張って、何処かで息を潜めて…)
 滅びの時代を乗り越えていたら、青い水の星が蘇った後、戻って来ることも出来ただろう。
 今の地球には、お誂え向きの住処が幾つも出来ているから。
(…それなのに、噂が無いんだし…)
 やっぱり滅びちゃったんだ、と溜息をついて、ハタと気付いた。
 人間が退治し続けたのに、長い長い間、根絶出来ずに、出現し続けた魔物がいた、と。


 遠い昔から人が恐れた、吸血鬼。
 人の血を吸って生き続ける上、血を吸い尽くされて死んだ人間は…。
(同じ吸血鬼になってしまって、人の血を吸って…)
 更に仲間が増えてゆくから、そうならないよう、昔の人間は彼らと戦い続けた。
 様々な方法を編み出し、それを実践して。
 二度と吸血鬼が現れないよう、あの手この手で防御もして。
(…それだけやっても、滅ぼせなくって…)
 何千年も人は戦い続けて、今は「吸血鬼がいない」地球がある。
 彼らも地球と一緒に滅びて、蘇ることはなかったろうか。
(…何千年も退治し続けていても、滅ぼすことが出来なかったのに…?)
 そう簡単に滅びるかな、と不思議になる。
 たとえ滅びた地球であろうが、幽霊と同じで「残っていそう」。
 もっとも、リボーンの人間だけしかいない地球では、血を吸うことが出来なくて…。
(棺桶の中で眠っているしかなかったとか…?)
 それとも灰になってたかもね、と吸血鬼を退治する方法を思い出す。
 心臓に杭を打ち込んで息の根を止め、蘇らないよう、燃やして灰にしてしまう。
 それでも彼らは「滅びることなく」何千年も生き永らえたのだし、灰になっても…。
(何年か経ったら、また目を覚まして…)
 新しい死体を探しに出掛けて、その中に入り込んだだろうか。
 そういう仕組みになっていたなら、何千年も退治し続けていても、けして滅ぼせはしない。
 灰が再び吸血鬼になり、人の血を吸い始めるのなら。
(…だったら、今の時代にだって…)
 ひっそりと生きているのかもね、と思ったはずみに、頭を掠めていった考え。
 「前のハーレイなんかは、どう?」と。
 死の星だった地球が燃え上がった時、前のハーレイは…。
(深い地の底で、崩れ落ちて来た瓦礫の下敷きになって…)
 死んでいったのだし、死体は「地球にあった」ということになる。
 燃え盛る地球と一緒に燃えてしまう前に、吸血鬼が目を付けたなら…。
(吸血鬼になってしまったかも?)
 だって、新しい死体だものね、と大きく頷く。
 かなり傷んでいたにしたって、吸血鬼なら平気だったかも、と。


 吸血鬼の灰は、前のハーレイの死体が気に入るのでは、という気がする。
 他の長老たちの死体もあったけれども、一つだけ選び出すのだったら、ハーレイ。
(…前のハーレイ、モテなかったから、其処の所は…)
 少し問題ではあるのだけれども、他の要素も考慮するなら、一番良さそう。
 虚弱なミュウには珍しく頑丈な身体だったし、年を取り過ぎてもいない。
 ついでにレトロな趣味をしていて、木の机だの、羽根ペンだのを愛用したほど。
(…吸血鬼とは、うんと相性、良さそうだよね?)
 だから選ばれちゃいそうだよ、と顎に当てた手。
 「長老たちの中から、一人選ぶのなら、ハーレイだよね」と。
 もっと深い場所では、ジョミーとキースも「死体になっていた」のだけれど…。
(…そこまでは、流石に深すぎて…)
 吸血鬼の灰は辿り着けなくて、前のハーレイの死体に宿る。
 「いいものがあった」と入り込んで。
 「傷んだ部分は治せばいいさ」と、いそいそと。
(…そうやって灰が入り込んだら…)
 地球が劫火に包まれようとも、死体は燃えはしないだろう。
 吸血鬼ならではの神秘の力で守られ、シールドされたみたいになって。
(でもって、その中で傷を治して…)
 すっかり傷が癒えてしまったならば、前のハーレイが目を覚ます。
 「此処は何処だ?」と、鳶色の瞳を瞬かせて。
 「俺は確かに死んだ筈だが」と、「ブルーは何処だ?」と。
(…死の国に来た、って思うよね?)
 天国にしては暗すぎたって…、と地の底の暗さに思いを馳せる。
 其処で「ハーレイ」は「ブルー」を探して、あちこち歩く間に気付く。
 「俺は死んではいないらしい」と、其処が死の国ではないことに。
 おまけに「自分」が、もう人間ではないことにも。
(…ミュウでも、人類でもなくて…)
 吸血鬼になってしまったのだ、と真実を知ったら、前のハーレイはどうするだろう。
 ショックで暫く落ち込んだ後は、血を吸いに出掛けてゆくのだろうか。
 吸血鬼には、血が必要だから。
 人間の血を吸わないことには、活動する力を失うから。


 前のハーレイが意識を取り戻した時、地球が青く蘇っていたなら、人間はいる。
 深い地の底から外に出たなら、前のハーレイは血を吸えるけれども…。
(…ハーレイ、そんなこと、しないと思う…)
 どんなに喉が渇いていようと、自分自身が生き延びるために、人の血を吸うとは思えない。
 きっとハーレイなら、そうする代わりに…。
(地球の地の底で、もう一度…)
 深い眠りに就いてしまって、二度と目覚めはしないのだろう。
 眠っていたなら、血は一滴も要りはしなくて、人を傷付けはしないから。
 吸血鬼の自分を封印すれば、平和な時代が続くのだから。
(そうやって、ずっと眠り続けて…)
 ぼくが生まれたことに気付いて目が覚めるんだ、と赤い瞳を煌めかせる。
 「だって、ハーレイだよ?」と、「ぼくに気付かないわけがないもの」と。
 けれども、生まれ変わったブルーは、まだ赤ん坊。
 前の生の記憶も戻っていなくて、会いにゆくには早すぎる。
(だからハーレイ、また眠って…)
 青い地球の上に生まれた「ブルー」が大きくなったら、目を覚ます。
 「もういいだろう」と、生まれ変わって来た「ブルー」に会いにゆくために。
 其処まで出掛けてゆくだけだったら、血を吸わなくても大丈夫だろう、と。
(ぼくの年は、きっと十八歳だよ)
 前のぼくと同じ姿に育った頃、と想像の翼を羽ばたかせる。
 ある夜、今よりも大きく育った自分が、ベッドの中で眠っていたら…。
(窓のカーテンが、ふわって揺れて…)
 ハーレイが入って来るんだよね、と吸血鬼が持つ魔力を思う。
 窓には鍵がかかっていたって、ハーレイには意味が無いだろう、と。
 難なく開けて、前のハーレイが着ていたキャプテンの服で、「ブルー」の部屋に現れる。
 「ブルー?」と、耳元で呼び掛けて。
 「覚えていますか、私ですよ」と、「あなたに会いに来たのですよ」と。
(ハーレイの声を聞いた途端に、ぼくの記憶が戻るんだ)
 聖痕なんか無くっても…、と運命の恋人との絆の強さには自信がある。
 前のハーレイの温もりを失くして死んだ自分だけれども、絆は切れていなくって、と。


 そうしてハーレイと再会を遂げた自分は、結婚出来る年になっている。
 前の自分と同じ姿に育ってもいるし、もう早速に、恋人同士のキスを交わして…。
(ハーレイと、ちゃんと恋人同士に…)
 なれる筈だよ、と思ったけれども、ハーレイは吸血鬼として蘇ったから、其処が問題。
 「ブルーの家まで、会いに来る」のが精一杯で、力は残ってなどはいなくて…。
(…もう戻らなくてはいけませんから、お元気で、って…)
 優しい微笑みを浮かべた後に、別れを告げて帰るのだろうか。
 ハーレイが長く眠り続けた、地の底へ。
 人の血を吸わずにいられるように、自分自身を封印しに。
(そんなの、嫌だよ…!)
 もっとハーレイと一緒にいたい、と願うのだったら、その分の血を捧げるより他に道は無い。
 ハーレイの身体を動かすためには、充分な量の血が要るのだから。
(…ぼくの血を吸っていいよ、って…)
 ハーレイに言うのは簡単だけれど、必要な血はどれほどなのか。
 それに自分の血を吸って貰っても、ハーレイは吸血鬼なのだから…。
(昼の間は寝てるしかなくて、夜しか動き回れなくって…)
 デート出来るのは日が暮れてからで、それでハーレイが疲れ果てたら、後は寝るだけ。
 働くことも出来ないだろうし、ハーレイと暮らしてゆきたいのなら…。
(学校を卒業したら、ぼくが頑張って働いて…)
 ハーレイと暮らす家を守って、おまけにハーレイに血を分け与えないといけない生活。
 吸血鬼のハーレイは食事もしないし、「働きに出ているブルー」の食事を作ろうにも…。
(昼間は外に出られないから、買い物にだって行けなくて…)
 もしかして、買い物もぼくがするわけ、と愕然とする。
(ハーレイが吸血鬼になって戻って来たなら、ぼくは、とっても大変じゃない!)
 血を分けられる分の元気は残ってるかな、と不安だけれども、それでも頑張ることだろう。
 ハーレイが、魔物だったなら。
 吸血鬼になってしまっていようと、ハーレイが好きで堪らないから。
(…ハーレイが、魔物だったなら…)
 苦労しか無さそうな日に思えたって、まるで少しも構いはしない。
 ハーレイと一緒に生きてゆけるのなら、貧血気味でも、ハーレイのために働く毎日でも…。



             魔物だったなら・了


※前のハーレイが魔物だったなら、と想像してみたブルー君。吸血鬼になったハーレイ。
 十八歳の姿で再会ですけど、ハーレイと暮らしてゆくのは大変そう。働くのもブルー君v








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