魔物だったら
(前の俺たちが生きた頃でさえ、とうに昔話で…)
伝説というヤツだったんだが…、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに熱い淹れたコーヒー、それをお供に。
(人間が宇宙に出てゆくようになった時代も、まだある程度は…)
残っていたかもしれないな、と頭に描くのは、かつて人間の側にいたモノたち。
妖精や魔物や、怪物といった類の存在、彼らは確かに息づいていた。
人間が地球しか知らなかった頃には、とても身近に。
夜の闇やら、人の近付かない森の奥やら、様々な場所に潜みながら。
彼らが姿を消してしまってから、もうどのくらいになるのだろうか。
SD体制が始まる前には、消えてしまっていただろう。
地球が滅びてゆこうというのに、彼らが「いられる」わけもない。
彼らのことを語る者さえ、滅びゆく地球には、いなかったろう。
(…その後に、SD体制が来て…)
死の星になった地球を蘇らせようと、様々な試みがなされてはいた。
けれど実を結ぶことなどは無くて、前の自分が辿り着いた時にも、死の星のまま。
SD体制が崩壊した後、長い時をかけて青く蘇って、今の地球がある。
その地球に「彼ら」は戻って来たのか、戻ることなく伝説の中か。
(…どっちなんだろうなあ…?)
噂さえも聞きやしないしな、とハーレイは首を捻った。
「幽霊が出た」という話ならば、前の自分が生きた頃から絶えてはいない。
人間が全てミュウになっても、やはり幽霊は「出る」らしい。
(しかし妖精やら、魔物の類が出たって話は…)
全く聞いたことが無いから、彼らは滅びてしまったろうか。
元々、神話や伝説の中の存在なのだし、今の時代まで生き残るには…。
(弱すぎたのかもしれないなあ…)
存在自体が希薄すぎて、という気がする。
幽霊は「ヒトの魂」だから、人間がいれば「生き残れる」。
死んでいるモノに「生き残る」も何も無いのだけれども、理屈から言えばそうだろう。
ヒトがいるなら魂はあるし、無くなることは無いのだから。
ところが、妖精や魔物は違う。
住める所を失ったならば、儚く消えてゆくしかない。
地球が滅びに向かった時から、彼らの姿は薄れ始めて、存在を保てなくなった。
そうして消えて「戻れないまま」、今は伝説の中にだけ「いる」。
彼らが戻れる場所が生まれて、其処へ戻ろうにも彼ら自身の欠片さえ全く残っていなくて。
(…そんなトコだな、今ならヤツらが住むトコだって…)
地球の上にはあるんだが、と思いはしても、彼らは「いない」。
どんなに綺麗な湖があろうと、水の精霊が住んでいるとは聞かないから。
(…なんとも残念な話だよなあ…)
せっかくの青い地球なのに、と心の底から残念に思う。
今の地球なら、妖精も魔物も、生き生きとしていられるだろうに。
彼らを迎える人間の方も、退治しようとするよりも先に、まずは接触する所から。
友好的に暮らせるのならば、それが一番いいと考えるのが今の時代の人間たち。
(流石に、人間を食って生きている怪物なんかは…)
ちと困るがな、と苦笑していて、とある言葉が浮かんで来た。
人間を食べて生きるとまではいかないけれども、人間を糧にしていたモノ。
(……吸血鬼……)
人の生き血を吸うという魔物、彼らがいたなら、どうなるだろう。
良い関係を築いてゆけるか、あるいは退治するしか無いか。
(…ちっとくらいなら、血を吸われても…)
死にはしないと伝わるのだから、献血をするような感覚で…。
(血の余ってるヤツが、順番にだな…)
自分の血を分けてやりさえすれば、彼らは無害かもしれない。
無差別に人を襲いはしないで、昼間は暗い場所に潜んで眠って…。
(夜になったら「お世話になります」と、血を分けてくれるヤツらの所に…)
姿を現し、血を吸った後は、彼らと歓談してから帰る。
「次回もよろしくお願いします」と、お礼の品も置いていったりして。
(…ふうむ…)
上手い具合にいきそうじゃないか、と思いはしても、彼らは「いない」。
吸血鬼が最後に現れたのは、いつだったのか。
地球が滅びに向かった頃には、とうに姿が消えていたのか、それさえも謎。
(…そういう研究をしているヤツなら、分かるんだろうが…)
生憎と俺は素人で…、と素人なりに考えてみる。
住む場所を失くして消えた吸血鬼は、どうなったのか。
彼らが消えてしまった後には、何も残らなかったのだろうか、と。
(…吸血鬼ってヤツを退治するには、心臓に杭を打ち込むだとか…)
銀の弾で撃つとか、倒す方法が幾つか伝わっていたという。
見事、吸血鬼を仕留めたとしても、退治は其処で終わりではない。
彼らが二度と蘇らぬよう、死体を燃やして、完全に灰にしてしまって…。
(川に流すんだったよな?)
そうすれば彼らは、宿にしていた「死体」が無いから、もう戻れない。
彼らが「血を吸う」ことは無くなり、新しい吸血鬼が増えたりもしない。
(…しかしだな…)
そうやって倒し続けていたのに、吸血鬼は何度も現れていた。
昔話や伝説の中で、彼らは長く語られ続けて…。
(それこそ何千年って時間を、滅びることなく生き抜いたんだぞ?)
灰になっても、実は復活出来たんじゃあ…、と素人ならではの説を出してみた。
燃やされ、ただの灰にされても、その灰が長い時間をかけて蘇って来る。
死の星だった地球が蘇ったように、吸血鬼の灰も時間が経てば…。
(でもって、宿れる死体さえあれば…)
それに宿って、また「吸血鬼になる」のかもしれない。
新しく「吸血鬼になった」死体は、血を吸われたことは無かったとしても。
生きていた間に「血を吸った」経験なども全く無くて、普通に生きて死んだ者でも。
(…大いにありそうな話だぞ?)
でないと説明がつかんじゃないか、と吸血鬼の伝説の多さに思いを馳せる。
「灰にしてしまえば、それで終わり」なら、あんなに沢山いるわけがない、と。
その説でゆくなら、吸血鬼は地球が滅びた後にも、残れた可能性がある。
地球が滅びて死の星になって、宿れる死体が「何処にも無い」から、いなかっただけで。
(…吸血鬼にも、生存本能ってヤツがあるのなら…)
死の星の地球で「宿れる死体」を待ち続ける間に、見切りをつけてしまったろうか。
「もう、この星ではどうにもならない」と、人間が地球を離れたのと同じ考え方に至って。
(そうなりゃ、ただの灰なんだから…)
地球という星へのこだわりを捨てれば、宇宙に流れ出せただろう。
宿るべき「新しい死体」を探しに、吸血鬼の灰は地球の空へと舞い上がって…。
(流れ流れて、ソル太陽系からも出て行って…)
何処かで「死体」を見付けるんだ、と思った所で、ハタと気付いた。
ソル太陽系さえも離れて、死体探しの旅をしてゆくのなら…。
(…とてもいいモノがあったんじゃないか?)
ジルベスター星系まで流れて行けばな、と頭の中に浮かんで来たのはメギドの残骸。
前のブルーが命を捨てて壊した、惑星破壊兵器。
つまり其処には、前のブルーの…。
(…死体ってヤツが…)
あった筈だ、と大きく頷く。
メギドと共に砕けて散ったと、誰もが思っているけれど。
今のブルーも、そうだと頭から思い込んで、疑いもしないけれども…。
(…なんたって、伝説のタイプ・ブルー・オリジンだったんだぞ?)
本当に爆死したのかどうか、それは誰にも分かりはしない。
命は確かに失せたけれども、身体は「残っていた」かもしれない。
キースに撃たれた傷はあっても、そこそこ「綺麗な」状態で。
人類軍が「戻って」メギドの残骸を調べるまでには、かなりの時間があったという。
それまでの間に、死体探しの旅の途中の、吸血鬼の灰が流れて来たら…。
(お誂え向きの死体だぞ、これは…)
なにしろ、前のブルーといったら、神々しいほどの美しさ。
それは気高く、目にした者は、惹かれ、魅了され、虜になる。
もしも吸血鬼に生まれ変わったなら、人を惑わすにはもってこいの姿と言えるだろう。
吸血鬼の灰が「ブルーを見逃す」わけがない。
もう早速に宿って、肉体の傷を治して、新しい宿主に仕立てなくては。
(…心臓に杭を打ち込まなければ、死なないってヤツが吸血鬼だし…)
前のブルーの傷を治すのは、とても簡単に違いない。
キースが砕いた右の瞳も、すぐに治って、元の輝きを取り戻す。
そうして「ブルー」の肉体は癒えて、真っ暗な宇宙で、目を覚まして…。
(…生きているのか、って自分の手とかを眺め回して…)
驚く間に、今の自分が「何になったのか」、前のブルーは、ようやく気付く。
「ぼくはもう、人間なんかじゃない」と。
ミュウでもなくて人類でもない、ヒトの血を吸って生きてゆく魔物。
(…吸血鬼になってしまったんだ、と気が付いたら、だ…)
前のブルーがすることは、きっと、一つだけしか無いだろう。
けしてヒトの血を吸ったりはせずに、ただただ、眠り続けること。
眠っていたなら、血を吸わなくても生き続けることが出来るから。
誰にも迷惑をかけることなく、自分だけが一人、孤独に耐えてゆけばいいから。
(そうやって眠って、長い長い時間を眠り続けて…)
ある時、不意に目覚めたブルーは、ミュウならではの思念で「地球」のことを知る。
ブルーが隠れ住む星の近くを、青い地球にゆく宇宙船が飛んでいたりして。
(地球に行くんだ、って大勢の子供が、はしゃぎながら乗っていたりすりゃあ…)
ブルーの眠りがいくら深くても、心まで届くことだろう。
地球と聞いたら、前のブルーなら、目覚めないではいられない。
その宇宙船には間に合わなくても、次に地球に行く船が近くを通り掛かったら…。
(どんなにあいつが我慢強くても…)
船を追い掛け、中に忍び込むことだろう。
地球まで運んで貰うだけなら、ヒトの血を吸う必要は無い。
どうしても「血が要る」ことになっても、ほんの少しだけ吸えば充分。
「要る分だけ」と自分に強く言い聞かせて、それを守って、青い地球まで辿り着く。
前のブルーが焦がれ続けた、水の星まで。
(青い地球を見たら、きっとあいつは…)
涙を流して、「やっと来られた」と喜ぶのだろう。
宇宙船が地球に着陸したなら、ブルーは再び、眠りに就く。
二度とヒトの血を吸わないように、吸血鬼になってしまった自分を封印して。
誰にも出会うことが無いよう、深い地の底にでも潜り込んで。
(…そうやって、ずっと眠り続けて…)
生まれ変わった俺に気付いて、起きてくれりゃな、とマグカップを指でカチンと弾く。
「そんな魔物なら大歓迎だ」と、「俺の血だったら、いくらでも分けてやれるから」と。
(…前のあいつが、今の俺に会いに来てくれて…)
自分の正体が魔物だったら、嫌いになるか、と尋ねられたら、答えは「否」。
魔物だろうが、吸血鬼だろうが、まるで全く構いはしない。
ブルーに会えて、一緒に生きてゆけるなら。
吸血鬼になってしまったブルーは、「ハーレイの血が無いと眠ってしまう」のだとしても。
(もしもあいつが、魔物だったら…)
俺だって、それに合わせてやるさ、と浮かべた笑み。
「俺の血さえありゃ、元気に生きてゆけるというんだったら、献血だ」と。
ブルーが充分、血を吸えるように、食事の量を増やしたりして。
身体も今より更に鍛えて、ブルーに「いくらでも」血をやれるように…。
魔物だったら・了
※前のブルーが吸血鬼だったら、と考えてみたハーレイ先生。吸血鬼に相応しい美しい姿。
吸血鬼になってしまったブルーが来たら、迷わず、一緒に暮らすのです。血を分け与えてv
伝説というヤツだったんだが…、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに熱い淹れたコーヒー、それをお供に。
(人間が宇宙に出てゆくようになった時代も、まだある程度は…)
残っていたかもしれないな、と頭に描くのは、かつて人間の側にいたモノたち。
妖精や魔物や、怪物といった類の存在、彼らは確かに息づいていた。
人間が地球しか知らなかった頃には、とても身近に。
夜の闇やら、人の近付かない森の奥やら、様々な場所に潜みながら。
彼らが姿を消してしまってから、もうどのくらいになるのだろうか。
SD体制が始まる前には、消えてしまっていただろう。
地球が滅びてゆこうというのに、彼らが「いられる」わけもない。
彼らのことを語る者さえ、滅びゆく地球には、いなかったろう。
(…その後に、SD体制が来て…)
死の星になった地球を蘇らせようと、様々な試みがなされてはいた。
けれど実を結ぶことなどは無くて、前の自分が辿り着いた時にも、死の星のまま。
SD体制が崩壊した後、長い時をかけて青く蘇って、今の地球がある。
その地球に「彼ら」は戻って来たのか、戻ることなく伝説の中か。
(…どっちなんだろうなあ…?)
噂さえも聞きやしないしな、とハーレイは首を捻った。
「幽霊が出た」という話ならば、前の自分が生きた頃から絶えてはいない。
人間が全てミュウになっても、やはり幽霊は「出る」らしい。
(しかし妖精やら、魔物の類が出たって話は…)
全く聞いたことが無いから、彼らは滅びてしまったろうか。
元々、神話や伝説の中の存在なのだし、今の時代まで生き残るには…。
(弱すぎたのかもしれないなあ…)
存在自体が希薄すぎて、という気がする。
幽霊は「ヒトの魂」だから、人間がいれば「生き残れる」。
死んでいるモノに「生き残る」も何も無いのだけれども、理屈から言えばそうだろう。
ヒトがいるなら魂はあるし、無くなることは無いのだから。
ところが、妖精や魔物は違う。
住める所を失ったならば、儚く消えてゆくしかない。
地球が滅びに向かった時から、彼らの姿は薄れ始めて、存在を保てなくなった。
そうして消えて「戻れないまま」、今は伝説の中にだけ「いる」。
彼らが戻れる場所が生まれて、其処へ戻ろうにも彼ら自身の欠片さえ全く残っていなくて。
(…そんなトコだな、今ならヤツらが住むトコだって…)
地球の上にはあるんだが、と思いはしても、彼らは「いない」。
どんなに綺麗な湖があろうと、水の精霊が住んでいるとは聞かないから。
(…なんとも残念な話だよなあ…)
せっかくの青い地球なのに、と心の底から残念に思う。
今の地球なら、妖精も魔物も、生き生きとしていられるだろうに。
彼らを迎える人間の方も、退治しようとするよりも先に、まずは接触する所から。
友好的に暮らせるのならば、それが一番いいと考えるのが今の時代の人間たち。
(流石に、人間を食って生きている怪物なんかは…)
ちと困るがな、と苦笑していて、とある言葉が浮かんで来た。
人間を食べて生きるとまではいかないけれども、人間を糧にしていたモノ。
(……吸血鬼……)
人の生き血を吸うという魔物、彼らがいたなら、どうなるだろう。
良い関係を築いてゆけるか、あるいは退治するしか無いか。
(…ちっとくらいなら、血を吸われても…)
死にはしないと伝わるのだから、献血をするような感覚で…。
(血の余ってるヤツが、順番にだな…)
自分の血を分けてやりさえすれば、彼らは無害かもしれない。
無差別に人を襲いはしないで、昼間は暗い場所に潜んで眠って…。
(夜になったら「お世話になります」と、血を分けてくれるヤツらの所に…)
姿を現し、血を吸った後は、彼らと歓談してから帰る。
「次回もよろしくお願いします」と、お礼の品も置いていったりして。
(…ふうむ…)
上手い具合にいきそうじゃないか、と思いはしても、彼らは「いない」。
吸血鬼が最後に現れたのは、いつだったのか。
地球が滅びに向かった頃には、とうに姿が消えていたのか、それさえも謎。
(…そういう研究をしているヤツなら、分かるんだろうが…)
生憎と俺は素人で…、と素人なりに考えてみる。
住む場所を失くして消えた吸血鬼は、どうなったのか。
彼らが消えてしまった後には、何も残らなかったのだろうか、と。
(…吸血鬼ってヤツを退治するには、心臓に杭を打ち込むだとか…)
銀の弾で撃つとか、倒す方法が幾つか伝わっていたという。
見事、吸血鬼を仕留めたとしても、退治は其処で終わりではない。
彼らが二度と蘇らぬよう、死体を燃やして、完全に灰にしてしまって…。
(川に流すんだったよな?)
そうすれば彼らは、宿にしていた「死体」が無いから、もう戻れない。
彼らが「血を吸う」ことは無くなり、新しい吸血鬼が増えたりもしない。
(…しかしだな…)
そうやって倒し続けていたのに、吸血鬼は何度も現れていた。
昔話や伝説の中で、彼らは長く語られ続けて…。
(それこそ何千年って時間を、滅びることなく生き抜いたんだぞ?)
灰になっても、実は復活出来たんじゃあ…、と素人ならではの説を出してみた。
燃やされ、ただの灰にされても、その灰が長い時間をかけて蘇って来る。
死の星だった地球が蘇ったように、吸血鬼の灰も時間が経てば…。
(でもって、宿れる死体さえあれば…)
それに宿って、また「吸血鬼になる」のかもしれない。
新しく「吸血鬼になった」死体は、血を吸われたことは無かったとしても。
生きていた間に「血を吸った」経験なども全く無くて、普通に生きて死んだ者でも。
(…大いにありそうな話だぞ?)
でないと説明がつかんじゃないか、と吸血鬼の伝説の多さに思いを馳せる。
「灰にしてしまえば、それで終わり」なら、あんなに沢山いるわけがない、と。
その説でゆくなら、吸血鬼は地球が滅びた後にも、残れた可能性がある。
地球が滅びて死の星になって、宿れる死体が「何処にも無い」から、いなかっただけで。
(…吸血鬼にも、生存本能ってヤツがあるのなら…)
死の星の地球で「宿れる死体」を待ち続ける間に、見切りをつけてしまったろうか。
「もう、この星ではどうにもならない」と、人間が地球を離れたのと同じ考え方に至って。
(そうなりゃ、ただの灰なんだから…)
地球という星へのこだわりを捨てれば、宇宙に流れ出せただろう。
宿るべき「新しい死体」を探しに、吸血鬼の灰は地球の空へと舞い上がって…。
(流れ流れて、ソル太陽系からも出て行って…)
何処かで「死体」を見付けるんだ、と思った所で、ハタと気付いた。
ソル太陽系さえも離れて、死体探しの旅をしてゆくのなら…。
(…とてもいいモノがあったんじゃないか?)
ジルベスター星系まで流れて行けばな、と頭の中に浮かんで来たのはメギドの残骸。
前のブルーが命を捨てて壊した、惑星破壊兵器。
つまり其処には、前のブルーの…。
(…死体ってヤツが…)
あった筈だ、と大きく頷く。
メギドと共に砕けて散ったと、誰もが思っているけれど。
今のブルーも、そうだと頭から思い込んで、疑いもしないけれども…。
(…なんたって、伝説のタイプ・ブルー・オリジンだったんだぞ?)
本当に爆死したのかどうか、それは誰にも分かりはしない。
命は確かに失せたけれども、身体は「残っていた」かもしれない。
キースに撃たれた傷はあっても、そこそこ「綺麗な」状態で。
人類軍が「戻って」メギドの残骸を調べるまでには、かなりの時間があったという。
それまでの間に、死体探しの旅の途中の、吸血鬼の灰が流れて来たら…。
(お誂え向きの死体だぞ、これは…)
なにしろ、前のブルーといったら、神々しいほどの美しさ。
それは気高く、目にした者は、惹かれ、魅了され、虜になる。
もしも吸血鬼に生まれ変わったなら、人を惑わすにはもってこいの姿と言えるだろう。
吸血鬼の灰が「ブルーを見逃す」わけがない。
もう早速に宿って、肉体の傷を治して、新しい宿主に仕立てなくては。
(…心臓に杭を打ち込まなければ、死なないってヤツが吸血鬼だし…)
前のブルーの傷を治すのは、とても簡単に違いない。
キースが砕いた右の瞳も、すぐに治って、元の輝きを取り戻す。
そうして「ブルー」の肉体は癒えて、真っ暗な宇宙で、目を覚まして…。
(…生きているのか、って自分の手とかを眺め回して…)
驚く間に、今の自分が「何になったのか」、前のブルーは、ようやく気付く。
「ぼくはもう、人間なんかじゃない」と。
ミュウでもなくて人類でもない、ヒトの血を吸って生きてゆく魔物。
(…吸血鬼になってしまったんだ、と気が付いたら、だ…)
前のブルーがすることは、きっと、一つだけしか無いだろう。
けしてヒトの血を吸ったりはせずに、ただただ、眠り続けること。
眠っていたなら、血を吸わなくても生き続けることが出来るから。
誰にも迷惑をかけることなく、自分だけが一人、孤独に耐えてゆけばいいから。
(そうやって眠って、長い長い時間を眠り続けて…)
ある時、不意に目覚めたブルーは、ミュウならではの思念で「地球」のことを知る。
ブルーが隠れ住む星の近くを、青い地球にゆく宇宙船が飛んでいたりして。
(地球に行くんだ、って大勢の子供が、はしゃぎながら乗っていたりすりゃあ…)
ブルーの眠りがいくら深くても、心まで届くことだろう。
地球と聞いたら、前のブルーなら、目覚めないではいられない。
その宇宙船には間に合わなくても、次に地球に行く船が近くを通り掛かったら…。
(どんなにあいつが我慢強くても…)
船を追い掛け、中に忍び込むことだろう。
地球まで運んで貰うだけなら、ヒトの血を吸う必要は無い。
どうしても「血が要る」ことになっても、ほんの少しだけ吸えば充分。
「要る分だけ」と自分に強く言い聞かせて、それを守って、青い地球まで辿り着く。
前のブルーが焦がれ続けた、水の星まで。
(青い地球を見たら、きっとあいつは…)
涙を流して、「やっと来られた」と喜ぶのだろう。
宇宙船が地球に着陸したなら、ブルーは再び、眠りに就く。
二度とヒトの血を吸わないように、吸血鬼になってしまった自分を封印して。
誰にも出会うことが無いよう、深い地の底にでも潜り込んで。
(…そうやって、ずっと眠り続けて…)
生まれ変わった俺に気付いて、起きてくれりゃな、とマグカップを指でカチンと弾く。
「そんな魔物なら大歓迎だ」と、「俺の血だったら、いくらでも分けてやれるから」と。
(…前のあいつが、今の俺に会いに来てくれて…)
自分の正体が魔物だったら、嫌いになるか、と尋ねられたら、答えは「否」。
魔物だろうが、吸血鬼だろうが、まるで全く構いはしない。
ブルーに会えて、一緒に生きてゆけるなら。
吸血鬼になってしまったブルーは、「ハーレイの血が無いと眠ってしまう」のだとしても。
(もしもあいつが、魔物だったら…)
俺だって、それに合わせてやるさ、と浮かべた笑み。
「俺の血さえありゃ、元気に生きてゆけるというんだったら、献血だ」と。
ブルーが充分、血を吸えるように、食事の量を増やしたりして。
身体も今より更に鍛えて、ブルーに「いくらでも」血をやれるように…。
魔物だったら・了
※前のブルーが吸血鬼だったら、と考えてみたハーレイ先生。吸血鬼に相応しい美しい姿。
吸血鬼になってしまったブルーが来たら、迷わず、一緒に暮らすのです。血を分け与えてv
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