好物は最後に
「ねえ、ハーレイ。…ハーレイって、好物は…」
最後に食べるタイプなの、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 好物って…」
いきなり何の話なんだ、とハーレイは目を丸くした。
テーブルの上を見回してみたが、これといったものは…。
(…出ていないよなあ?)
菓子はパウンドケーキじゃないし、と疑問が湧き上がる。
ブルーの母が焼くパウンドケーキは、確かに美味しい。
しかもハーレイの母が焼くのと、全く同じ味がする。
(アレが出てるんなら、まだ分かるんだが…)
とはいえ、最後に食べるも何も、ケーキの場合は…。
(好物かどうかとは、別の次元で…)
食べる順序が決まってるよな、とハーレイは首を捻った。
パウンドケーキは、いわゆる「菓子」の範疇になる。
今のような「お茶の時間」なら、自由に口に運んでいい。
紅茶やコーヒーの合間に食べても、誰も気にしない。
むしろ、そういう風に食べるのが普通で、大抵は、そう。
(先にバクバク食っちまうヤツも、中にはいるが…)
よっぽど好きな菓子なんだな、と温かい目で見て貰える。
マナー違反と言われはしないし、叱られもしない。
ところが、正式な食事の席となったら、事情が違う。
(ケーキが出るのは、一番最後で…)
飲み物と一緒に供される菓子は、食事を締め括るもの。
「これで食事は終わりですよ」と示す、サインでもある。
だから、料理がテーブルに纏めて出て来る場合には…。
(菓子から先に食うんじゃなくて、他のを食って…)
食べ終わってから、最後に菓子に手を伸ばすべき。
ついでに言うなら、他の人が料理を食べている間は…。
(自分だけ先に、菓子を食うのはマナー違反で…)
全員が料理を食べ終わってから、菓子を取るのが正しい。
そういう「少々、難しい面」はあるのだけれど…。
(しかし、今のブルーの尋ね方だと…)
マナーの話ではない気がする。
菓子を最後に食べるかどうかなら、そう訊くだろう。
(そうなってくると、言葉通りに好物なのか?)
此処にパウンドケーキは無いが、と思うけれども…。
(突然、妙なことを訊くのは、ありがちだしな?)
でもってロクな結果にならん、と慎重にいくことにした。
ブルーの意図が読めないからには、まず、確認を取る。
「おい。好物というのは、好き嫌いとは別件なのか?」
俺には好き嫌いが無いんだが、と赤い瞳を覗き込んだ。
「お前もそうだろ?」と、前の生の副産物を挙げて。
「そうだよ。だから、お気に入りの食べ物の話だってば」
最後に食べるか、違うのか、どっち、とブルーは尋ねた。
なるほど、それなら答えは一つしかない。
「気分次第ってヤツだな、うん」
その日の俺の気分で決まる、とハーレイは即答した。
先に食べる日もあれば、最後の日もある、と。
そうしたら…。
「じゃあ、気分次第で、ぼくを食べても…」
かまわないから、とブルーは笑んだ。
「ぼくはちっとも気にしないから、いつでも食べて」と。
(そう来やがったか…!)
悪ガキめが、とハーレイは軽く拳を握って、恋人を睨む。
「熟していない果物とかを、食う趣味は無い!」
俺は味にはうるさいからな、と銀色の頭をコンと叩いた。
「いくら好物でも、熟してないのは不味いんだ」と。
「俺はグルメだ」と、「好き嫌いとは、別件でな」と…。
好物は最後に・了
最後に食べるタイプなの、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 好物って…」
いきなり何の話なんだ、とハーレイは目を丸くした。
テーブルの上を見回してみたが、これといったものは…。
(…出ていないよなあ?)
菓子はパウンドケーキじゃないし、と疑問が湧き上がる。
ブルーの母が焼くパウンドケーキは、確かに美味しい。
しかもハーレイの母が焼くのと、全く同じ味がする。
(アレが出てるんなら、まだ分かるんだが…)
とはいえ、最後に食べるも何も、ケーキの場合は…。
(好物かどうかとは、別の次元で…)
食べる順序が決まってるよな、とハーレイは首を捻った。
パウンドケーキは、いわゆる「菓子」の範疇になる。
今のような「お茶の時間」なら、自由に口に運んでいい。
紅茶やコーヒーの合間に食べても、誰も気にしない。
むしろ、そういう風に食べるのが普通で、大抵は、そう。
(先にバクバク食っちまうヤツも、中にはいるが…)
よっぽど好きな菓子なんだな、と温かい目で見て貰える。
マナー違反と言われはしないし、叱られもしない。
ところが、正式な食事の席となったら、事情が違う。
(ケーキが出るのは、一番最後で…)
飲み物と一緒に供される菓子は、食事を締め括るもの。
「これで食事は終わりですよ」と示す、サインでもある。
だから、料理がテーブルに纏めて出て来る場合には…。
(菓子から先に食うんじゃなくて、他のを食って…)
食べ終わってから、最後に菓子に手を伸ばすべき。
ついでに言うなら、他の人が料理を食べている間は…。
(自分だけ先に、菓子を食うのはマナー違反で…)
全員が料理を食べ終わってから、菓子を取るのが正しい。
そういう「少々、難しい面」はあるのだけれど…。
(しかし、今のブルーの尋ね方だと…)
マナーの話ではない気がする。
菓子を最後に食べるかどうかなら、そう訊くだろう。
(そうなってくると、言葉通りに好物なのか?)
此処にパウンドケーキは無いが、と思うけれども…。
(突然、妙なことを訊くのは、ありがちだしな?)
でもってロクな結果にならん、と慎重にいくことにした。
ブルーの意図が読めないからには、まず、確認を取る。
「おい。好物というのは、好き嫌いとは別件なのか?」
俺には好き嫌いが無いんだが、と赤い瞳を覗き込んだ。
「お前もそうだろ?」と、前の生の副産物を挙げて。
「そうだよ。だから、お気に入りの食べ物の話だってば」
最後に食べるか、違うのか、どっち、とブルーは尋ねた。
なるほど、それなら答えは一つしかない。
「気分次第ってヤツだな、うん」
その日の俺の気分で決まる、とハーレイは即答した。
先に食べる日もあれば、最後の日もある、と。
そうしたら…。
「じゃあ、気分次第で、ぼくを食べても…」
かまわないから、とブルーは笑んだ。
「ぼくはちっとも気にしないから、いつでも食べて」と。
(そう来やがったか…!)
悪ガキめが、とハーレイは軽く拳を握って、恋人を睨む。
「熟していない果物とかを、食う趣味は無い!」
俺は味にはうるさいからな、と銀色の頭をコンと叩いた。
「いくら好物でも、熟してないのは不味いんだ」と。
「俺はグルメだ」と、「好き嫌いとは、別件でな」と…。
好物は最後に・了
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