旬を逃すのは
「ねえ、ハーレイ。旬を逃すのは…」
嫌な方でしょ、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 旬って…」
何のことだ、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いきなり「旬」と口にされても、困ってしまう。
(…旬と言ったら、普通はだな…)
魚や野菜や、果物などの出盛りを指す。
同時に最も美味しい季節で、好物ならば逃す手は無い。
(今の俺にも、好き嫌いってヤツは無いんだが…)
旬の食材は取り入れたいし、当然、美味だとも思う。
(ブルーが言うのは、その旬なのか?)
よく分からんが、と首を捻っていたら、ブルーが尋ねた。
「ハーレイ、お魚とかの旬は気にならないの?」
旬の時期が美味しいものなんでしょ、と赤い瞳が瞬く。
「今のハーレイ、自分でお料理するじゃない」と。
「なんだ、やっぱり、その旬なのか」
それでいいのか、とハーレイは苦笑する。
「お前、料理とは無縁だからなあ、悩んじまった」と。
そういう旬なら、ハーレイは、もちろんこだわるタイプ。
食材を買いに店に行ったら、いい品が無いか棚を見回す。
今の季節は何があるのか、旬の食材をチェックして…。
(それから献立を決めるってことも、多いしな?)
なにしろ旬の品ともなれば、何処でも人気が高いもの。
入荷するなり買う人も多くて、ライバルは多い。
(仕事の帰りに店に寄ったら、売り切れちまって…)
棚が空っぽでガッカリする日も、珍しくはないわけで…。
「旬は逃したくはないな、確かに」
逃げられることも多いんだが…、と軽く両手を広げる。
「仕事が終わって買いに行ったら、売れた後で」と。
するとブルーは、「次があるでしょ?」と首を傾げた。
「次の日に買えばいいじゃない」と、不思議そうに。
「次だって? お前、分かってないんだなあ…」
料理なんかはしないから、とハーレイはクックッと笑う。
「旬なんだぞ?」と、「期間限定みたいなモンだ」と。
「いいか、その時期が短いからこそ、旬なわけでだ…」
魚だったら漁期が終われば、入荷もしない、と説明して。
野菜や果物も、天候次第で旬は早々に終わってしまう。
一番美味しい時期が過ぎたら、それでおしまい。
「だからだな…。棚から消えるか、置いてあっても…」
味が落ちてて駄目なんだ、とブルーに教えてやった。
「旬を逃すと、そうなっちまう。俺は勘弁願いたいな」
出来れば旬の間に食いたい、とブルーの問いへの答えも。
「ふうん…。じゃあ、急がないと駄目なんだね?」
旬になったら…、とブルーは瞳をパチクリとさせた。
「買い損ねちゃったら、食べ損なって終わりだし…」
「そうなんだ。来年の旬までさようなら、と…」
消えてしまって食えないからな、とハーレイは頷く。
「そいつは御免だ」と、「逃すわけにはいかないな」と。
「ハーレイらしいね、お料理するのが好きだから…」
前のハーレイとおんなじだよね、とブルーが微笑む。
「旬がある分、前より楽しい?」
「そうだな、シャングリラじゃあ、旬は無かったなあ…」
今ならではだ、と感慨をこめて相槌を打つと…。
「だったら、旬を逃しちゃ駄目だよ!」
十四歳のぼくの旬、今なんだしね、とブルーは笑んだ。
「早く食べなきゃ」と、「育っちゃったら駄目」と。
「馬鹿野郎!」
今のお前は旬とは言わん、とハーレイは軽く拳を握った。
銀色の頭に、コツンとお見舞いするために。
「お前は旬を迎えてないぞ」と、「小さすぎだ」と。
旬の魚の漁にしたって、小さい魚は逃がすモンだ、と…。
旬を逃すのは・了
嫌な方でしょ、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 旬って…」
何のことだ、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いきなり「旬」と口にされても、困ってしまう。
(…旬と言ったら、普通はだな…)
魚や野菜や、果物などの出盛りを指す。
同時に最も美味しい季節で、好物ならば逃す手は無い。
(今の俺にも、好き嫌いってヤツは無いんだが…)
旬の食材は取り入れたいし、当然、美味だとも思う。
(ブルーが言うのは、その旬なのか?)
よく分からんが、と首を捻っていたら、ブルーが尋ねた。
「ハーレイ、お魚とかの旬は気にならないの?」
旬の時期が美味しいものなんでしょ、と赤い瞳が瞬く。
「今のハーレイ、自分でお料理するじゃない」と。
「なんだ、やっぱり、その旬なのか」
それでいいのか、とハーレイは苦笑する。
「お前、料理とは無縁だからなあ、悩んじまった」と。
そういう旬なら、ハーレイは、もちろんこだわるタイプ。
食材を買いに店に行ったら、いい品が無いか棚を見回す。
今の季節は何があるのか、旬の食材をチェックして…。
(それから献立を決めるってことも、多いしな?)
なにしろ旬の品ともなれば、何処でも人気が高いもの。
入荷するなり買う人も多くて、ライバルは多い。
(仕事の帰りに店に寄ったら、売り切れちまって…)
棚が空っぽでガッカリする日も、珍しくはないわけで…。
「旬は逃したくはないな、確かに」
逃げられることも多いんだが…、と軽く両手を広げる。
「仕事が終わって買いに行ったら、売れた後で」と。
するとブルーは、「次があるでしょ?」と首を傾げた。
「次の日に買えばいいじゃない」と、不思議そうに。
「次だって? お前、分かってないんだなあ…」
料理なんかはしないから、とハーレイはクックッと笑う。
「旬なんだぞ?」と、「期間限定みたいなモンだ」と。
「いいか、その時期が短いからこそ、旬なわけでだ…」
魚だったら漁期が終われば、入荷もしない、と説明して。
野菜や果物も、天候次第で旬は早々に終わってしまう。
一番美味しい時期が過ぎたら、それでおしまい。
「だからだな…。棚から消えるか、置いてあっても…」
味が落ちてて駄目なんだ、とブルーに教えてやった。
「旬を逃すと、そうなっちまう。俺は勘弁願いたいな」
出来れば旬の間に食いたい、とブルーの問いへの答えも。
「ふうん…。じゃあ、急がないと駄目なんだね?」
旬になったら…、とブルーは瞳をパチクリとさせた。
「買い損ねちゃったら、食べ損なって終わりだし…」
「そうなんだ。来年の旬までさようなら、と…」
消えてしまって食えないからな、とハーレイは頷く。
「そいつは御免だ」と、「逃すわけにはいかないな」と。
「ハーレイらしいね、お料理するのが好きだから…」
前のハーレイとおんなじだよね、とブルーが微笑む。
「旬がある分、前より楽しい?」
「そうだな、シャングリラじゃあ、旬は無かったなあ…」
今ならではだ、と感慨をこめて相槌を打つと…。
「だったら、旬を逃しちゃ駄目だよ!」
十四歳のぼくの旬、今なんだしね、とブルーは笑んだ。
「早く食べなきゃ」と、「育っちゃったら駄目」と。
「馬鹿野郎!」
今のお前は旬とは言わん、とハーレイは軽く拳を握った。
銀色の頭に、コツンとお見舞いするために。
「お前は旬を迎えてないぞ」と、「小さすぎだ」と。
旬の魚の漁にしたって、小さい魚は逃がすモンだ、と…。
旬を逃すのは・了
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