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断られちゃったら
(今日は会えずに終わっちゃったけど…)
 姿も見掛けていないんだけど、と小さなブルーが頭に浮かべた恋人の顔。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は一度も、ハーレイの姿を見ていない。
 古典の授業は無い日だったし、グラウンドでも廊下でも、ハーレイを全く見掛けなかった。
(寂しいんだけど、こんな日があるのは、今だけで…)
 何年か経ったら変わるもんね、とブルーは思考を前向きに切り替える。
 今の学校を卒業したなら、じきに十八歳の誕生日がやって来る。
 十八歳になれば結婚出来るし、ハーレイも充分、承知だから…。
(誕生日には無理でも、その内に…)
 プロポーズしてくれて、結婚式を挙げることになるだろう。
 そしたら毎日、同じ家で暮らしてゆくから、会えずに終わる日などは無くなる。
 結婚するまでの待ち時間だって、今とは違うものになる筈。
(ハーレイの都合で、会えない日だって…)
 夜になったら、ハーレイから通信が入ると思う。
 「今日も元気にやっていたか?」と、「何処かに遊びに行ったのか?」などと。
(うん、きっと、そう…)
 通信機越しにハーレイの声を聞いている間に、会っている気分になってくるのに違いない。
 「今日はね…」と一日の報告をして、ハーレイの話を聞いたりもして。
(それに、会える日は、デートだってば!)
 ハーレイが何処かに誘ってくれて、愛車で迎えに来てくれる。
 目的地までは、二人だけのためのシャングリラで…。
(地球の上を走って行くんだよ!)
 今のハーレイの車が、今のぼくたちのシャングリラ、と心が弾む。
 濃い緑色の車体だけれども、ハーレイがハンドルを握る以上は、懐かしい船と変わらない。
 「シャングリラ、発進!」と号令をかけて、ハーレイが車をスタートさせる。
 その日のデートの場所に向かって。
 ドライブに出掛ける日だというなら、ハーレイが考えた航路に向けて。


 あと何年か待っている内に、その日が、その時が来てくれる。
 チビの自分の背丈だって伸びて、結婚式に着る衣装を選びにゆく日も来る。
(衣装選びも、デートみたいなものだよね?)
 何日も前から予約を入れて、ドキドキしながら行くんだよ、と考えただけで頬が緩みそう。
 どんな衣装を着るのがいいか、ハーレイと二人で相談しながら決めてゆく。
 ウェディングドレスも素敵だけれども、白無垢だって捨て難い。
(両方、着たって、いいと思うし…)
 着替えが大変そうだけど、と欲張りな夢も描いてしまう。
 ドレスと白無垢、両方を選んで、途中で着替え。
(着替えで、ヘトヘトになっちゃったって…)
 式の間は、気付きもしないことだろう。
 幸せで胸が一杯になって、身体なんかは何処かへ置き去り。
 普段だったら「もう無理だってば…」と、ペシャンと座り込みそうなほどでも、元気一杯。
 ハーレイと並んで記念写真で、招待客と一緒に披露宴なども笑顔でこなす。
 「疲れちゃった」なんて、思いもしないで。
 控室に引っ込むこともしないで、招待客のテーブルを回って写真撮影に応じたりも。
(だって、最高の気分なんだもの!)
 疲れたなんて思うわけない、と確信に満ちた気分になる。
 楽しいことをしている時には、疲労感など覚えもしないし、実際、疲れたりしない。
(後で、ドッと疲れちゃうこともあるけれど…)
 それでも自分は充分満足、寝込む結果が待っていたって、後悔などは微塵も無い。
 いずれハーレイと出掛けるデートも、結婚式と同じで「疲れない」だろう。
 ドライブの途中で酔ってしまって、「何処かで停めてよ」と頼むことはあっても。
 前の晩によく眠れていなくて、助手席で寝てしまう失敗をしても。
(そういうデートも、悪くないもんね?)
 酔って気分が悪くなっても、デート自体は悪くはならない。
 ハーレイが「よし、直ぐに何処かで…」と停められる所を探してくれて、其処で休憩。
 道端でのんびり景色を見たり、喫茶店などに入ったり。
 助手席で眠ってしまった時には、きっとハーレイに優しく揺り起こされる。
 「着いたぞ」と、目的地の駐車場で。
 あるいは「おいおい、景色を見逃しちまうぞ?」と、とても眺めのいい展望台とかで。


 何年か経てば、「ハーレイとデート」が日常になって、あちこちにゆけることだろう。
 結婚式を挙げてしまえば、毎日一緒で、もちろん休日は、二人でデート。
 デートどころか、旅行にだって行けるようになるから、行動範囲はうんと広がる。
(それも素敵だけど、結婚式を挙げるまでの間に…)
 ハーレイとデートに出掛けてゆくのも、毎回、その日を楽しみに待って…。
(デートの日は、ハーレイの車が来るのを…)
 待って、待ち焦がれて、家の前まで行くかもしれない。
 「まだかな?」と、「もうじき来そうだけれど」と。
 約束の時間は少し先でも、両親に「気が早すぎないか」と笑われても。
(だって、デートに行くんだよ?)
 ハーレイが選んでくれた行先へ、と思った所で、頭を掠めていった考え。
 行先も、食事する店やお茶を飲む店も、ハーレイが決めるのもいいけれど…。
(ぼくが決めたって、いいんだよね?)
 今のぼくだと、まだ無理だけど、と未来の自分に思いを馳せる。
 背丈が伸びて、前の自分と同じ姿に成長を遂げた、そういう「自分」。
 今の学校も卒業していて、友達は皆、上の学校に進んでいるだろう。
(…上の学校は、誰でも同じ日に授業じゃなくて…)
 平日でもお休みだったりするんだよね、と上の学校の噂は聞いている。
 授業がある日も、授業と授業の間にぽっかり、空いた時間が出来もするのだ、と。
(そんな時には、同じ日に休みの友達だとか…)
 丁度、授業の合間の時間が空いている、という仲間を誘って、遊んだり食事をするらしい。
 そうなったならば、今の学校を卒業した後、進学しないで家にいる「ブルー」は…。
(遊び友達にピッタリだから…)
 何人もが「ちょっと出て来ないか?」と誘ってくれるようになるだろう。
 「俺は休みだから、何処かに出掛けないか」とか、「空き時間に飯を食おうぜ」だとか。
 誰よりも暇にしている「ブルー」は、格好の遊び相手で、貴重な人材。
 引っ張りだこで、色々な場所に連れてゆかれて、食事に、おやつ。
 当然、今より、ぐんと知識が増えて来る。
 何処に美味しい店があるのか、どんな遊び場所が存在するのか、実体験の裏付け付きで。
 チビの自分には思いもよらない、広い世界に連れ出されて。


(そうやって、知識が増えていったら…)
 デートのコースを、ハーレイに代わって組み立てることも出来ると思う。
 「次のデートは、此処に行きたいな」と提案したなら、ハーレイが反対するわけがない。
 笑顔で「そうだな、次は其処に行くか」と、快諾してくれることだろう。
 何処か子供っぽいコースでも。
 上の学校の学生たちには「とっておきの店」でも、ハーレイには少し物足りなくても。
(ぼくが選んだコースで、デート…)
 それもいいよね、と今からワクワクするのだけれども、ハタと気付いた。
 「ちょっと待ってよ?」と、「ぼくが提案するってことは…」と。
 自分が選んで「この日は、此処」と言えるからには、その日の予定は「決まっていない」。
 予めハーレイから聞いてはいなくて、カレンダーに予定を「書いていない」日。
 自分の方では、空いているつもりでいるのだけれど…。
(ハーレイの方は、他に予定が入っているから…)
 その日は誘っていないだけかも、と「有り得ること」が頭に浮かんで来る。
 「その可能性は、ゼロじゃないよね?」と。
 ハーレイには何か予定があるから、デートには出掛けられない日かも、と。
(そんなの知らずに、頑張って予定を立てちゃって…)
 二人でデートに出掛けた帰りや、通信で話している時に、デートの誘いを持ち掛ける自分。
 胸を高鳴らせて、「あのね…」と期待に満ちた瞳で。
 「次のデートは、此処がいいな」と、ハーレイに相談もせずに決めたコースを挙げて。
 行けるものだと思い込んだまま、ハーレイの返事も聞かずに話す。
 「此処のお店の、これがとっても美味しいんだよ」などと、得意げに。
 「ハーレイは行ったことが無いでしょ」と、「学生で一杯で、人気なんだよ」とか。
 散々、あれこれ話した後に、ハーレイの返事を待つのだけれども、何故か困惑している恋人。
 「いいな」と「よし、この次は其処にしよう」と、パチンとウインクする代わりに。
(どうしちゃったの、って、じっと待っていたら…)
 ハーレイが「すまん」と頭を下げる。
 「悪いが、その日は、他に予定が入っちまってて…」と。
 通信機を通して話していたなら、ハーレイの声は、曇ってしまっているのだろう。
 「申し訳ない」と、「どうしても、其処は無理なんだ」と、ただひたすらに詫びるばかりで。


 練りに練ったデートのためのコースが、台無しになってしまう瞬間。
 「そんな…」と言ったきり言葉を失くして、肩を落とす自分が見えるよう。
(デート、断られちゃったんだ、って…)
 今、起きた「信じられない事実」を受け止めるまでに、かなり時間がかかりそう。
 「いったい何がどうなっちゃったの?」と、頭の中がぐるぐるして。
 「ハーレイがデートを断るなんて」と、「頑張ってコースを考えたのに」と。
(でも、本当に、そうなっちゃうこと…)
 絶対に無いとは言えないものね、と今の自分の頭の中まで、ぐるんぐるんと回り出す。
 「断られちゃったら、どうしよう」と、まだ断られてもいないのに。
 そもそも誘ったわけでもないのに、もう「そうなってしまった」ような気分になる。
 「せっかくデートに誘ってみたって、断られちゃうかもしれないんだ」と。
(何処がいいかな、って、一杯、一杯、考え続けて…)
 紙に書き出したり、友達に「あそこのお店、どうだったっけ?」と営業時間を確認したり。
 期間限定のメニューが気に入ったのなら、いつまでやっているのか、店に問い合わせたりも。
(そうやって、デートのコースを決めて…)
 これ以上は無いと思える所まで練りに練り上げて、ハーレイを誘う。
 「次のデートは、此処がいいな」と、断られるとは夢にも思うことなく。
 間違いなくその日に行けるものだと、頭から信じて思い込んで。
(…もしかしたら、期間限定メニューを逃さないように…)
 人気の料理が売り切れないよう、予約も入れているかもしれない。
 学生だって、店に予約を入れることなら、耳にしている。
 確実に席を押さえたいとか、売り切れ御免の人気料理を人数分だけ確保したい時に。
(そういう話も聞いているから、ぼくだって、うんと張り切って…)
 窓際の眺めのいい席を予約しておいて、「料理は、これでお願いします」と頼んでおく。
 ハーレイと二人で店に入ったのに、席が一杯では駄目だから。
 お目当ての料理が「売り切れました」では、ハーレイを誘った意味が無いから。
(だけど、ハーレイに断られちゃったら…)
 何もかも意味が無くなっちゃうよ、とショックで目の前が暗くなりそう。
 それを言われた未来の自分も、想像してみた今の自分も。


(…もしも、デートを断られちゃったら…)
 ぼくは泣き出しちゃうのかも、と考えただけで震え出しそうだけれど、無いとは言えない。
 未来の自分がデートのコースをせっせと練って、誘ったのに。
 「あのね、次のデートは、此処にしたいんだけど…」と自信満々で案を出したのに。
(そんなの、ホントに嫌すぎるから…!)
 きっとハーレイは、「すまんが、店には友達と行ってくれないか?」などと言うのだろう。
 「料理を予約したんだったら、お前も、その方がいいだろう?」と。
 「期間限定メニューと言ったが、そのメニュー、次のデートじゃ間に合わないしな」などと。
(そんな気遣い、されちゃっても…!)
 ぼくは、ハーレイと行きたかったんだから、と泣き叫ぶしかないのだろうか。
 あまりにも、子供じみた話だけれど。
 結婚式の話も出ているくせに、みっともないとは思うけれども。
(でもでも、すっかり行けるつもりでいたのに、断られちゃったら…)
 そうなっちゃうよ、と分かっているから、そんな未来は来て欲しくない。
 ハーレイにデートコースを告げたら、断られるなんて。
 「すまん」と頭を下げて詫びられ、泣きじゃくることしか出来ない未来だなんて…。



           断られちゃったら・了


※ハーレイ先生とのデートを夢見るブルー君。コースを自分で考えるのもいいかも、と。
 けれど、断られてしまう可能性だってあるのです。友達と行くといい、と気遣われても…。










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