恋敵がいたなら
(今日はハーレイ、来てくれなかったんだけど…)
学校でも会えなかったんだけど、と小さなブルーが頭の中に描いた恋人の顔。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わってしまった、前の生から愛した人。
姿さえも全く見られないままで、下校の時間になってしまった。
(おまけに、家にも来てくれなくって…)
どんなスーツを着ていたのかも分からないや、と残念だけれど、じきに明日が来る。
ベッドで一晩ぐっすり眠れば、明日の朝がやって来るのだから…。
(明日には、きっと会えるよね?)
会えない日はそんなに続かないから、と思考を前向きに切り替えた。
今日のハーレイは、多分、忙しかったのだろう。
柔道部の部活が長引いたとか、急な会議が入っただとか。
(…他の先生たちと食事に行った、っていう可能性もゼロじゃないけど…)
それも仕方のないことだろう。
ハーレイは「ブルーの恋人」だけれど、ブルーが通う学校の古典の教師でもある。
先生同士の付き合いの方も、やはり大切にしなくては。
(それに、ハーレイに会えなくっても…)
他の誰かに盗られちゃうことはないものね、と唇に笑みを湛える。
なんと言っても、前の生からの恋人同士な二人なのだし、お互い、運命の相手。
青い地球の上で新しい命を貰って、今度こそ一緒に生きてゆく。
(これが普通の恋人同士、っていうヤツだったら…)
今日のように会えずに終わった時には、気が気ではないことだろう。
「ハーレイ、今日は何の用事があったんだろう」と詮索だってするに違いない。
本当に学校の用事だったのか、他に何かがあったのか、と。
(…ぼくの知らない、他の誰かと…)
食事に出掛けてしまったのなら、それは由々しき問題と言える。
「ブルーよりも優先される、誰か」が、ハーレイの周りにいるのだから。
家で待っている恋人を放って、その人と出掛けてしまうほどに価値のある人が。
(そういうの、確か、恋敵、って…)
言うんだよね、とブルーは首を竦めた。
「そんな人がホントにいたら大変」と、「恋敵がいなくて良かったよ」と。
ハーレイは「ブルー」しか見てはいないし、恋敵などは出て来ない。
会えない日だって安心、安全、誰かが奪って行ったりはしない。
(ぼくと再会する前だって、恋人なんかはいなかったんだし…)
この先だって、恋敵などは現れない。
前の生の記憶が無かった間も、ハーレイは誰にも心を奪われなかったのだから。
(普通の恋人同士じゃなくって、ホントに良かった…)
でないと心配で堪らないもの、と「今日のハーレイ」について考えてみる。
「他の誰か」が関わっていたら、心穏やかではいられはしない。
(柔道部の生徒は、ただの教え子だったとしても…)
教師仲間の中の一人が、ハーレイに夢中になっていたなら、危ないどころの話ではない。
毎日、学校で顔を合わせる分、「その人」は「ブルー」よりも遥かに優位。
昼休みだって、「ハーレイ先生、一緒に食事にしませんか?」と声を掛けられる。
仕事が終わった後は当然、夕食に誘うことだって可能。
場合によっては家に招いて、手作りの御馳走を出すことさえも。
(…危なすぎるから…!)
そんな人がいたら、盗られちゃうよ、とブルッと肩を震わせた。
「待つことしか出来ない」チビの自分は、「ハーレイの同僚」に負けそうな感じ。
いくらハーレイが「ブルー」に恋をしてくれていても、気持ちが揺らぐことだってある。
「運命の恋人同士」ではなくて、「普通の恋人同士」なら。
お互い、相手に恋をしていても、其処に割り込むのが「恋敵」。
「奪ってやろう」という悪意は無くても、結果的にはそうなってしまう。
二人の間に「他の誰か」が現れたなら。
ハーレイの心が「新しい人」の方へと傾いて行って、「ブルー」を放ってゆくのなら。
(…そうなっちゃっても、ぼくには、なんにも出来なくて…)
ただ泣き暮らすことしか出来そうにないし、「運命の相手」で良かったと思う。
今日のように会えずに終わった時でも、心配は全く要らないから。
「明日には、きっと会えるんだから」と、明日を待っていればいいのだから。
心の底から「良かった」と思える、恋敵が登場しないこと。
会えない日が何日も続いたとしても、ハーレイを誰かに盗られはしない。
(普通の恋人同士の人って、ホントに大変…)
きっと心も強いんだよね、と世界中にいる「普通の恋人たち」を思わず尊敬してしまう。
「ぼくには、そんなの無理だと思う」と、恋敵と戦う戦士たちの雄姿を思い描いて。
(恋人を盗られないようにするには、戦うしか道が無いんだものね…)
ライバルが登場した時は、と分かっているから、もしも自分が「そうなった」なら…。
(戦うどころか、負けて泣くしか…)
ホントに出来そうにないんだから、と「チビの自分」の不利さを思う。
ハーレイとの間に「恋敵」がいたなら、負け戦になることは明らか。
恋敵が「ハーレイと同じ教師」で同僚だったら、呆気なく勝負がつくことだろう。
ハーレイの近くで過ごせる時間が、まるで比較にならないから。
その上、恋敵は「立派な大人」で、ハーレイの心も、そちらに傾いてゆきそうだから。
(…なんにも出来ない、チビのぼくより…)
デートが出来て、唇へのキスを断る理由も要らない「誰か」は、魅力的なのに違いない。
普通の恋人同士だった場合は、「前の生」には縛られないから。
「チビのブルー」とは、たまたま出会って、たまたま恋に落ちただけ。
一生、一緒に生きてゆこう、と「ハーレイ」が約束していたとしても、それだけのこと。
「他の誰か」が割って入って、ハーレイの心を奪って行ったら、約束は何の役にも立たない。
ある日、ハーレイから別れを告げられ、「ブルー」は一人で置いてゆかれる。
ハーレイには「新しい恋人」が出来て、その人に夢中になってしまって。
一緒に生きてゆきたい相手も、その人に変更されてしまって。
(そんなの、ホントに困っちゃうから…!)
恋敵がいたなら、負けちゃうんだ、と背筋がゾクリと冷えた。
「チビのブルー」では勝負にならない、強力なライバルが「恋敵」。
どう頑張っても勝てはしなくて、涙を飲んで見送るしかない。
「すまない」と別れを告げて去ってゆく、大好きだった人の背中を。
諦めることなど出来はしないのに、「他の誰か」に心を移した「ハーレイ」を。
そして涙に暮れる間に、結婚式の噂が耳に入って、更に大泣きすることになる。
友達の誰かが、「ハーレイ先生、今度、結婚式だってさ」と最新ニュースを持って来て。
(…もう、泣くどころじゃなくなっちゃうかも…)
学校にも行けなくなっちゃいそうだよ、と恐ろしくなる「もしも」の世界。
ハーレイの教師仲間の誰かが、恋敵だという最悪のケース。
(…学校に行ったらハーレイがいて、恋敵の先生もいるってだけでも…)
酷いというのに、結婚となったらどうしよう。
学校を辞めてしまうのは無理だし、転校するしか無いのだろうか。
(だけど、パパとママには、なんて言ったらいいのかも…)
分からないから、通い続けるしか無いかもしれない。
結婚したと分かっていても、諦められない「ハーレイ」がいる学校へ。
「ハーレイ」が「ブルー」を捨てて選んだ、恋敵までが勤務している悲しい場所へ。
(…恋敵の先生の授業があったりしたら、どうしたらいいの…?)
どんな顔をして行けばいいの、と学校が怖い所になりそう。
ハーレイと恋人同士だった間は、胸を弾ませて通っていたのに、失恋した後は生き地獄。
毎日、ハーレイと、恋敵を目にすることになるから。
二人の間に割って入ろうにも、とうに惨敗、負けた結果を突き付けられる。
「ハーレイはもう、ぼくの恋人じゃないんだよ」と。
恋敵が奪い去ってしまって、ハーレイも「ブルー」に目を向けはしない。
教え子としては、前と同じに接してくれても。
「元気そうだな」と笑顔を向けてくれても、たったそれだけ。
もう「恋人」ではないのだから。
ハーレイが心から愛する相手は、結婚式を挙げた人なのだから。
(でも、恋敵なんか、絶対に…)
現われやしないから大丈夫、と思った所で、ハタと気付いた。
「本当に?」と。
本当に恋敵が出て来ないとは限らないかも、という可能性に。
(可能性ってヤツは、ゼロじゃないよね…)
有り得ない話とは言い切れないよ、と頭から水を浴びせられたような気分になった。
ハーレイとの間に、恋敵が割って入って来るという可能性なら、ゼロではない。
ただし、条件があるけれど。
それを満たせる人間だけしか、間には入れないのだけれど。
(今のぼくや、今のハーレイみたいに…)
遠く遥かな時の彼方の、記憶を持っている人間。
前の自分たちと同じ時間を共有していて、同じ世界を生きていた「誰か」。
そういう人間が登場したなら、「ハーレイ」が「その人」を見る視線も変わる。
今は「ブルー」としか語らうことが出来ない、様々な思い出を語り合うことが出来る人。
(…ヒルマンやゼルなら、楽しく喋って、また仲のいい友達になって…)
ハーレイの親友になりそうだけれど、女性だと違ってくるかもしれない。
シャングリラの時代と今は違うし、出会いからして全く違う。
だからこそ、侮ることは出来ない。
(…前のハーレイ、ブラウと馬が合ったんだよね…)
ブリッジで、食堂で、船のあちこちで、笑い合いながら話していた。
シャングリラが白い鯨になるよりも前から、二人は「仲のいい友達同士」。
(きっと二人とも、異性だとは意識していなくって…)
気の合う友達だったように思えるけれども、それが「今」ならどうなるだろう。
平和になって、もうシャングリラも用済みな時代、そんな世界で出会ったならば。
(ブラウも何処かに生まれ変わっていて、ぼくたちみたいに記憶が戻って…)
それから「ハーレイ」にバッタリ会ったら、前の生とは別の方へと進みかねない。
ブラウはもちろん、ハーレイの方も、違う道を歩むかもしれない。
最初の出会いは、お互い、驚き合っての再会、お茶でも飲みながら話して終わりでも。
その再会を果たした後で、ハーレイが笑顔で報告してくれても。
「俺は今日、誰に会ったと思う?」と、「ブラウだ、懐かしいだろう?」と。
また会う約束もして来たんだ、とハーレイとブラウは連絡先の交換もしていそう。
(いいなあ、ぼくもブラウに会いたいな、って言ったって…)
ハーレイは「駄目だろ、そいつは俺とのデートになっちまうしな?」と苦笑するだけ。
それは確かに間違いないから、「そうだね、ぼくはお留守番…」と自分も素直に納得する。
そして二人は何処かで待ち合わせをして、食事にでも出掛けてゆくのだろう。
(…最初の間は、ホントに食事と思い出話で…)
全く他意は無かったとしても、いつの間にやら、互いに意識し始めて…。
(お留守番している、チビのぼくは忘れられちゃって…)
気付けばハーレイは「ブラウ」を見ていて、「ブルー」は置き去りになるかもしれない。
前の生とは違った世界で、ハーレイは生きているのだから。
(…それって、困る…!)
とっても困る、と思うけれども、そうなった時には勝ち目など無い。
「ハーレイの同僚の先生」に負けてしまうのと同じ理屈で、ブラウに敗北することになる。
なんと言っても立派な大人で、ハーレイを家に食事に招いて、手料理だって作れるブラウ。
(ハーレイも料理が得意なんだし、一緒に料理を作ったりして…)
どんどん二人の距離が近付き、気持ちの方も近付いてゆく。
「この人と一緒なら楽しそうだ」と、「きっと最高の人生になる」と思い始めて。
(…駄目だってば…!)
そんなの嫌だ、と泣きたい気持ちになって来るから、誰も出て来て欲しくはない。
ハーレイとの間に恋敵がいたなら、負けてしまうのは明らかだから。
「すまん」と去ってゆくハーレイの背中を、見送るのなんて御免だから…。
恋敵がいたなら・了
※ハーレイ先生との恋路に恋敵が登場したら困る、と思ったブルー君。敗北は必至。
恋敵が出て来るわけがない、と考えたものの、可能性はあるかも。ブラウだと負けそうv
学校でも会えなかったんだけど、と小さなブルーが頭の中に描いた恋人の顔。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わってしまった、前の生から愛した人。
姿さえも全く見られないままで、下校の時間になってしまった。
(おまけに、家にも来てくれなくって…)
どんなスーツを着ていたのかも分からないや、と残念だけれど、じきに明日が来る。
ベッドで一晩ぐっすり眠れば、明日の朝がやって来るのだから…。
(明日には、きっと会えるよね?)
会えない日はそんなに続かないから、と思考を前向きに切り替えた。
今日のハーレイは、多分、忙しかったのだろう。
柔道部の部活が長引いたとか、急な会議が入っただとか。
(…他の先生たちと食事に行った、っていう可能性もゼロじゃないけど…)
それも仕方のないことだろう。
ハーレイは「ブルーの恋人」だけれど、ブルーが通う学校の古典の教師でもある。
先生同士の付き合いの方も、やはり大切にしなくては。
(それに、ハーレイに会えなくっても…)
他の誰かに盗られちゃうことはないものね、と唇に笑みを湛える。
なんと言っても、前の生からの恋人同士な二人なのだし、お互い、運命の相手。
青い地球の上で新しい命を貰って、今度こそ一緒に生きてゆく。
(これが普通の恋人同士、っていうヤツだったら…)
今日のように会えずに終わった時には、気が気ではないことだろう。
「ハーレイ、今日は何の用事があったんだろう」と詮索だってするに違いない。
本当に学校の用事だったのか、他に何かがあったのか、と。
(…ぼくの知らない、他の誰かと…)
食事に出掛けてしまったのなら、それは由々しき問題と言える。
「ブルーよりも優先される、誰か」が、ハーレイの周りにいるのだから。
家で待っている恋人を放って、その人と出掛けてしまうほどに価値のある人が。
(そういうの、確か、恋敵、って…)
言うんだよね、とブルーは首を竦めた。
「そんな人がホントにいたら大変」と、「恋敵がいなくて良かったよ」と。
ハーレイは「ブルー」しか見てはいないし、恋敵などは出て来ない。
会えない日だって安心、安全、誰かが奪って行ったりはしない。
(ぼくと再会する前だって、恋人なんかはいなかったんだし…)
この先だって、恋敵などは現れない。
前の生の記憶が無かった間も、ハーレイは誰にも心を奪われなかったのだから。
(普通の恋人同士じゃなくって、ホントに良かった…)
でないと心配で堪らないもの、と「今日のハーレイ」について考えてみる。
「他の誰か」が関わっていたら、心穏やかではいられはしない。
(柔道部の生徒は、ただの教え子だったとしても…)
教師仲間の中の一人が、ハーレイに夢中になっていたなら、危ないどころの話ではない。
毎日、学校で顔を合わせる分、「その人」は「ブルー」よりも遥かに優位。
昼休みだって、「ハーレイ先生、一緒に食事にしませんか?」と声を掛けられる。
仕事が終わった後は当然、夕食に誘うことだって可能。
場合によっては家に招いて、手作りの御馳走を出すことさえも。
(…危なすぎるから…!)
そんな人がいたら、盗られちゃうよ、とブルッと肩を震わせた。
「待つことしか出来ない」チビの自分は、「ハーレイの同僚」に負けそうな感じ。
いくらハーレイが「ブルー」に恋をしてくれていても、気持ちが揺らぐことだってある。
「運命の恋人同士」ではなくて、「普通の恋人同士」なら。
お互い、相手に恋をしていても、其処に割り込むのが「恋敵」。
「奪ってやろう」という悪意は無くても、結果的にはそうなってしまう。
二人の間に「他の誰か」が現れたなら。
ハーレイの心が「新しい人」の方へと傾いて行って、「ブルー」を放ってゆくのなら。
(…そうなっちゃっても、ぼくには、なんにも出来なくて…)
ただ泣き暮らすことしか出来そうにないし、「運命の相手」で良かったと思う。
今日のように会えずに終わった時でも、心配は全く要らないから。
「明日には、きっと会えるんだから」と、明日を待っていればいいのだから。
心の底から「良かった」と思える、恋敵が登場しないこと。
会えない日が何日も続いたとしても、ハーレイを誰かに盗られはしない。
(普通の恋人同士の人って、ホントに大変…)
きっと心も強いんだよね、と世界中にいる「普通の恋人たち」を思わず尊敬してしまう。
「ぼくには、そんなの無理だと思う」と、恋敵と戦う戦士たちの雄姿を思い描いて。
(恋人を盗られないようにするには、戦うしか道が無いんだものね…)
ライバルが登場した時は、と分かっているから、もしも自分が「そうなった」なら…。
(戦うどころか、負けて泣くしか…)
ホントに出来そうにないんだから、と「チビの自分」の不利さを思う。
ハーレイとの間に「恋敵」がいたなら、負け戦になることは明らか。
恋敵が「ハーレイと同じ教師」で同僚だったら、呆気なく勝負がつくことだろう。
ハーレイの近くで過ごせる時間が、まるで比較にならないから。
その上、恋敵は「立派な大人」で、ハーレイの心も、そちらに傾いてゆきそうだから。
(…なんにも出来ない、チビのぼくより…)
デートが出来て、唇へのキスを断る理由も要らない「誰か」は、魅力的なのに違いない。
普通の恋人同士だった場合は、「前の生」には縛られないから。
「チビのブルー」とは、たまたま出会って、たまたま恋に落ちただけ。
一生、一緒に生きてゆこう、と「ハーレイ」が約束していたとしても、それだけのこと。
「他の誰か」が割って入って、ハーレイの心を奪って行ったら、約束は何の役にも立たない。
ある日、ハーレイから別れを告げられ、「ブルー」は一人で置いてゆかれる。
ハーレイには「新しい恋人」が出来て、その人に夢中になってしまって。
一緒に生きてゆきたい相手も、その人に変更されてしまって。
(そんなの、ホントに困っちゃうから…!)
恋敵がいたなら、負けちゃうんだ、と背筋がゾクリと冷えた。
「チビのブルー」では勝負にならない、強力なライバルが「恋敵」。
どう頑張っても勝てはしなくて、涙を飲んで見送るしかない。
「すまない」と別れを告げて去ってゆく、大好きだった人の背中を。
諦めることなど出来はしないのに、「他の誰か」に心を移した「ハーレイ」を。
そして涙に暮れる間に、結婚式の噂が耳に入って、更に大泣きすることになる。
友達の誰かが、「ハーレイ先生、今度、結婚式だってさ」と最新ニュースを持って来て。
(…もう、泣くどころじゃなくなっちゃうかも…)
学校にも行けなくなっちゃいそうだよ、と恐ろしくなる「もしも」の世界。
ハーレイの教師仲間の誰かが、恋敵だという最悪のケース。
(…学校に行ったらハーレイがいて、恋敵の先生もいるってだけでも…)
酷いというのに、結婚となったらどうしよう。
学校を辞めてしまうのは無理だし、転校するしか無いのだろうか。
(だけど、パパとママには、なんて言ったらいいのかも…)
分からないから、通い続けるしか無いかもしれない。
結婚したと分かっていても、諦められない「ハーレイ」がいる学校へ。
「ハーレイ」が「ブルー」を捨てて選んだ、恋敵までが勤務している悲しい場所へ。
(…恋敵の先生の授業があったりしたら、どうしたらいいの…?)
どんな顔をして行けばいいの、と学校が怖い所になりそう。
ハーレイと恋人同士だった間は、胸を弾ませて通っていたのに、失恋した後は生き地獄。
毎日、ハーレイと、恋敵を目にすることになるから。
二人の間に割って入ろうにも、とうに惨敗、負けた結果を突き付けられる。
「ハーレイはもう、ぼくの恋人じゃないんだよ」と。
恋敵が奪い去ってしまって、ハーレイも「ブルー」に目を向けはしない。
教え子としては、前と同じに接してくれても。
「元気そうだな」と笑顔を向けてくれても、たったそれだけ。
もう「恋人」ではないのだから。
ハーレイが心から愛する相手は、結婚式を挙げた人なのだから。
(でも、恋敵なんか、絶対に…)
現われやしないから大丈夫、と思った所で、ハタと気付いた。
「本当に?」と。
本当に恋敵が出て来ないとは限らないかも、という可能性に。
(可能性ってヤツは、ゼロじゃないよね…)
有り得ない話とは言い切れないよ、と頭から水を浴びせられたような気分になった。
ハーレイとの間に、恋敵が割って入って来るという可能性なら、ゼロではない。
ただし、条件があるけれど。
それを満たせる人間だけしか、間には入れないのだけれど。
(今のぼくや、今のハーレイみたいに…)
遠く遥かな時の彼方の、記憶を持っている人間。
前の自分たちと同じ時間を共有していて、同じ世界を生きていた「誰か」。
そういう人間が登場したなら、「ハーレイ」が「その人」を見る視線も変わる。
今は「ブルー」としか語らうことが出来ない、様々な思い出を語り合うことが出来る人。
(…ヒルマンやゼルなら、楽しく喋って、また仲のいい友達になって…)
ハーレイの親友になりそうだけれど、女性だと違ってくるかもしれない。
シャングリラの時代と今は違うし、出会いからして全く違う。
だからこそ、侮ることは出来ない。
(…前のハーレイ、ブラウと馬が合ったんだよね…)
ブリッジで、食堂で、船のあちこちで、笑い合いながら話していた。
シャングリラが白い鯨になるよりも前から、二人は「仲のいい友達同士」。
(きっと二人とも、異性だとは意識していなくって…)
気の合う友達だったように思えるけれども、それが「今」ならどうなるだろう。
平和になって、もうシャングリラも用済みな時代、そんな世界で出会ったならば。
(ブラウも何処かに生まれ変わっていて、ぼくたちみたいに記憶が戻って…)
それから「ハーレイ」にバッタリ会ったら、前の生とは別の方へと進みかねない。
ブラウはもちろん、ハーレイの方も、違う道を歩むかもしれない。
最初の出会いは、お互い、驚き合っての再会、お茶でも飲みながら話して終わりでも。
その再会を果たした後で、ハーレイが笑顔で報告してくれても。
「俺は今日、誰に会ったと思う?」と、「ブラウだ、懐かしいだろう?」と。
また会う約束もして来たんだ、とハーレイとブラウは連絡先の交換もしていそう。
(いいなあ、ぼくもブラウに会いたいな、って言ったって…)
ハーレイは「駄目だろ、そいつは俺とのデートになっちまうしな?」と苦笑するだけ。
それは確かに間違いないから、「そうだね、ぼくはお留守番…」と自分も素直に納得する。
そして二人は何処かで待ち合わせをして、食事にでも出掛けてゆくのだろう。
(…最初の間は、ホントに食事と思い出話で…)
全く他意は無かったとしても、いつの間にやら、互いに意識し始めて…。
(お留守番している、チビのぼくは忘れられちゃって…)
気付けばハーレイは「ブラウ」を見ていて、「ブルー」は置き去りになるかもしれない。
前の生とは違った世界で、ハーレイは生きているのだから。
(…それって、困る…!)
とっても困る、と思うけれども、そうなった時には勝ち目など無い。
「ハーレイの同僚の先生」に負けてしまうのと同じ理屈で、ブラウに敗北することになる。
なんと言っても立派な大人で、ハーレイを家に食事に招いて、手料理だって作れるブラウ。
(ハーレイも料理が得意なんだし、一緒に料理を作ったりして…)
どんどん二人の距離が近付き、気持ちの方も近付いてゆく。
「この人と一緒なら楽しそうだ」と、「きっと最高の人生になる」と思い始めて。
(…駄目だってば…!)
そんなの嫌だ、と泣きたい気持ちになって来るから、誰も出て来て欲しくはない。
ハーレイとの間に恋敵がいたなら、負けてしまうのは明らかだから。
「すまん」と去ってゆくハーレイの背中を、見送るのなんて御免だから…。
恋敵がいたなら・了
※ハーレイ先生との恋路に恋敵が登場したら困る、と思ったブルー君。敗北は必至。
恋敵が出て来るわけがない、と考えたものの、可能性はあるかも。ブラウだと負けそうv
PR
COMMENT