恋敵がいたら
(今日は会えずに終わっちまったが…)
きっと明日には会える筈だ、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎でコーヒー片手に。
今日は学校で、一度もブルーを見なかった。
ブルーの方でも「ハーレイを見てはいない」だろう。
(もしかしたら、俺の知らない間に…)
窓から見たとか、そういうことはあるかもしれない。
そうそう余所見はしていられないし、ブルーばかりを探せもしないし…。
(こればかりは、分からないってな)
姿だけでも見てくれていたらいいんだが、と小さな恋人を思う。
「ハーレイに会えずに終わった」上に、姿さえも見ていないのなら、今頃、ブルーは…。
(まだ寝てないなら、仏頂面で不満たらたらで…)
ツキの無さを嘆いているだろうから、姿だけでも見ていて欲しい。
立派な大人の自分と違って、ブルーはまだ幼いとも言える少年。
「明日は会えるから、今日は我慢」と、切り替えることは難しい。
(会えない日だって、立派な恋のスパイスで…)
会えなかった分、互いに想いが募るのだけれど、ブルーに説いても無駄だろう。
なんと言っても子供なのだし、下手をしたなら怒りかねない。
「どうして、そんな意地悪を言うの」と、フグみたいに頬っぺたを膨らませて。
(…そうなるよなあ…)
でもまあ、それも今ならではだ、とコーヒーのカップを傾ける。
前の生では「ブルーの顔を見ない日」などは一度も無かった。
それこそ初めて出会った時から、ブルーの命が消えたその日まで。
(あいつの方は、十五年間も眠っちまって…)
恋人を放って行ったけれども、ハーレイの方は、そうではなかった。
昏々と眠り続けるブルーの部屋まで、毎晩、足を運んでいた。
その枕元で、一日の出来事を語ろうと。
明日こそ目覚めてくれるだろうと、毎夜、心から祈り続けて。
前の生では一度も無かった、「ブルーと会えないままで終わる」日。
それがあるのが今の人生、こちらの方が、多分、正しい。
(恋人同士ってヤツは、一緒に暮らし始めるまでは…)
別の家で暮らしているのが常で、毎日、会えないことだって多い。
(同じ職場で働いてるとか…)
そういう恋人同士を除けば、普通は「会えない」ものだと思う。
週末はデートや旅行に行けても、平日は離れ離れになる。
だからこそ、互いに会えない日だって、恋のスパイス。
次に会える日を指折り数えて、会えた時には想いが深まる。
「やっぱり、二人でいるのがいい」と。
「この人と、ずっと一緒にいたい」と、「早く一緒に暮らしたいのに」と。
そうやってゴールに向かって走って、結婚式を迎える恋人たちは多いだろう。
今度の「自分たち」も、彼らに倣うことになる。
小さなブルーが大きくなったら、プロポーズして。
「俺の嫁さんになって欲しい」と、最高の舞台でブルーの手を握り締めて。
(まだまだ先の話なんだが…)
楽しみだよな、と「その日」を頭に描く。
ブルーが断るわけがないから、プロポーズしたら、次は結婚式だ、と。
(あいつには、俺しか見えていないし…)
横から攫ってゆくヤツもいないし、とコーヒーのカップを指でカチンと弾く。
ゴールまでは何年もかかるけれども、ブルーを「盗られる」心配は無い。
ブルーは「誰にも惚れたりしない」し、口説く人間が現れたって…。
(俺しか見えていないんだから…)
別の「誰か」について行ったりするわけがない。
恋敵に盗られる心配など無い、とても安心、安全なブルー。
(その分、チビで待たされるんだが…)
十八歳までは長いんだがな、と思うけれども、盗られないならいいだろう。
たまに会えない日があったところで、ブルーが膨れるだけなのだから。
(恋敵がいたら、そういうわけにはいかないんだが…)
毎日、ハラハラさせられるんだが…、と苦笑する。
生憎と自分たちの場合は、恋敵など「出来はしない」から。
前の生から恋人同士で、長い長い時を越えて再び巡り会ったのが「自分たち」。
青い地球の上で新しい命を貰って、今度こそ共に生きてゆく。
恋敵などがいるわけもないし、現れるわけもない恋路。
自分もブルーも、お互い、「相手だけ」しか見えていないから。
他の誰かが現れたって、目に入るわけもないのだから。
(ブルーに惚れて、ラブレターを渡すヤツがいたって…)
手紙を貰ったブルーの方は、興味を抱きもしないだろう。
「なんで?」と首を傾げるだけで、相手の想いに応えはしない。
返事を下さい、と書いてあったなら、律儀に返事を書くのだと思う。
「好きな人がいるので、付き合えません」と、大真面目に。
それで相手が失恋したって、ブルーは「悪かったかな?」と肩を竦める程度。
付き合えないものは仕方ないのだし、ブルーに勝手に惚れ込んだ方が悪いのだから。
(うんうん、でもって、その一件を…)
ブルーは「ハーレイ」に話してくれるかもしれない。
「ちょっぴり悪いことをしたかも」と、「仕方ないよね?」と、ちょっぴり可笑しそうに。
「だって、ハーレイがいるんだもの」と、赤い瞳を瞬かせて。
(そんなトコだな、ブルーに惚れたヤツの末路は…)
俺たちの間で話の種になって終わりだ、と容易に分かる。
ブルーは「他の者など見ない」し、ついて行ったりもしないのだから。
(これがブルーでなかったら…)
恋敵がいたら大変だよな、と逆の場合を考えてみる。
普通の恋人同士だったら大いに有り得る、恋敵が登場してくるケース。
何日か会えずに離れていたら、横から誰かが想いを打ち明け、二人の間に割り込んで来る。
恋人の方でも、まんざらでもなくて、「ちょっと付き合ってみようかな」と考えもする。
さっさと一人に決めてしまうより、比べてみるのも良さそうだから。
せっかく現れた「新しい人」を、よく知るのも悪くないだろう。
もしかしたら、そちらの方が「自分に合う」人なのかもしれない。
今まで出会わなかったというだけ、運命の相手は「その人」なのかも、と。
幸いなことに、ブルーには、その心配が無い。
誰にも盗られたりはしないし、今日のように会えない日があったって…。
(恋のスパイス、などと言えるんだがなあ…)
普通の恋だと厄介だぞ、と世界中の「普通の恋人たち」に同情してしまう。
「会えない日なんて、気が気じゃないよな」と、心の底から。
(…俺たちの場合は、そんな心配は…)
まるで無いが、と思ったところで、ハタと気付いた。
無いと思っているのだけれども、可能性なら「ある」ことに。
「今のブルー」が他の誰かに、恋をしないとは言い切れない。
ただし、条件があるけれど。
「前の生の記憶」を持っていること、これが大切なポイントになる。
前のブルーと同じ時代に、同じ世界に生きていたなら、ブルーの心に入れるだろう。
「あの頃は、お互い、自分の役目があったけれども、今だったら…」と、想いを打ち明けて。
ブルーの方では、どんな風に思っていただろうか、と探りを入れることだって。
(…うーむ…)
そいつはマズイ、とハーレイの肝が冷えてゆく。
前の生では「自分がブルーの恋人」だったし、ブルーも他など見ていなかった。
けれど、今度はどうだろう。
今の生で再び巡り会うようなことがあったら、出会いからして違ってくる。
(…あいつ、変な夢、見てたよなあ…?)
シリーズになってた結婚モノ、と「キース・アニアン」のことを思い出した。
前のブルーを撃った男で、殺したと言ってもいい憎い人間。
ところがブルーは、キースを全く恨んではいない。
(俺が悪口を言う度に…)
なにかとキースを庇っているし、結婚シリーズの夢も見ていた。
「キースのお嫁さんにされちゃいそうになるんだよ!」と、ブルーは嘆いていたけれど…。
(嫌っているなら、あんな夢なんか見やしないんだ…)
むしろキースに惹かれているから、あの夢を見る、と考える方が自然だろう。
違う出会いをしていたならば、ブルーは「キース」を選んでいたかもしれない。
残り少ない命であろうと、恋人同士になった二人に、それがどうだと言うのだろう。
ブルーの寿命が尽きるのであれば、それまでの短い時間を一緒に生き抜いてこそ、と。
(…キースがいたら、とてもマズイぞ…)
俺はブルーを盗られちまうかも、と思わず身震いしてしまった。
登場したなら、強敵になるだろう恋敵。
今も憎くてたまらないけれど、それどころではない騒ぎになる。
(一発殴ってやりたいどころか…)
殴って蹴って、ブルーの前から追い払ってやりたいくらいだけれども、そうはいかない。
それをやったら、ブルーに愛想を尽かされてしまう。
「何をするの!」と、赤い瞳で睨み付けられ、詰られて。
ブルーにとっては、「キース」も「大事な人」なのだから。
(…違う出会いをするってことは、キースの野郎は、俺と違って…)
社会人にはなっていなくて、学生だということもある。
ブルーよりも年上で、自由が利く上の学校の生徒で、運転免許も持っているかもしれない。
(上の学校だと、授業が詰まっていない日だったら…)
いつでもブルーに会いに来られて、免許と車を持っているなら、送り迎えも可能になる。
家や学校の前で待ち構えていて、「俺が送ってやる」といった具合に。
(そうなると毎日、デートみたいなモンでだな…)
学校の帰りに喫茶店に寄ったりするなら、もう文字通りに本物のデート。
「ハーレイ」は大きく出遅れてしまい、ブルーは「キース」を待つようになって…。
(俺が仕事の帰りに、ブルーの家に寄ったら…)
ブルーはキースと何処かに行ってしまって、帰っていない日が増えて来る。
もっと悲しい展開としては、ブルーの家の玄関に…。
(若者向けの靴が揃えられてて、キースの野郎が…)
先客として、ブルーの部屋でお茶を飲みながら歓談中な日も来るだろう。
其処でブルーが「ハーレイも一緒に」と誘ってくれたら、まだマシだけれど…。
(キースは憎いが、グッと飲み込んで差し向かいで…)
茶を飲んだっていいんだがな、と思うけれども、「今日は帰って」と言われかねない。
「お客さんが来ているから」と、「ハーレイとお茶は、今度にしてね」と。
(最悪じゃないか…!)
それが続いたら、俺はすっかりお払い箱になっちまう、と泣きそうな気分。
ブルーに聖痕をくれた神様、その神様が「新しい出会いもいいだろう」と用意をしていたら。
(そりゃ、新しい恋をしたって、新しい恋人が出来たって…)
ブルーが幸せになれるのだったら「ハーレイ」は黙って身を引くけれども、出来るなら…。
(今度もブルーは、俺だけを見て、俺だけを選んでくれてだな…)
何処までも一緒に生きてゆきたいから、そのコースは御免蒙りたい。
恋敵がいたら、大変だから。
もしも恋敵が「キース」だったら、敗北するかもしれないから…。
恋敵がいたら・了
※ハーレイ先生とブルー君の恋。間には誰も入れやしない、と思ったハーレイ先生ですけど。
恋敵としてキースが登場したら、立場が危うくなってしまうかも。お払い箱は御免ですよねv
きっと明日には会える筈だ、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎でコーヒー片手に。
今日は学校で、一度もブルーを見なかった。
ブルーの方でも「ハーレイを見てはいない」だろう。
(もしかしたら、俺の知らない間に…)
窓から見たとか、そういうことはあるかもしれない。
そうそう余所見はしていられないし、ブルーばかりを探せもしないし…。
(こればかりは、分からないってな)
姿だけでも見てくれていたらいいんだが、と小さな恋人を思う。
「ハーレイに会えずに終わった」上に、姿さえも見ていないのなら、今頃、ブルーは…。
(まだ寝てないなら、仏頂面で不満たらたらで…)
ツキの無さを嘆いているだろうから、姿だけでも見ていて欲しい。
立派な大人の自分と違って、ブルーはまだ幼いとも言える少年。
「明日は会えるから、今日は我慢」と、切り替えることは難しい。
(会えない日だって、立派な恋のスパイスで…)
会えなかった分、互いに想いが募るのだけれど、ブルーに説いても無駄だろう。
なんと言っても子供なのだし、下手をしたなら怒りかねない。
「どうして、そんな意地悪を言うの」と、フグみたいに頬っぺたを膨らませて。
(…そうなるよなあ…)
でもまあ、それも今ならではだ、とコーヒーのカップを傾ける。
前の生では「ブルーの顔を見ない日」などは一度も無かった。
それこそ初めて出会った時から、ブルーの命が消えたその日まで。
(あいつの方は、十五年間も眠っちまって…)
恋人を放って行ったけれども、ハーレイの方は、そうではなかった。
昏々と眠り続けるブルーの部屋まで、毎晩、足を運んでいた。
その枕元で、一日の出来事を語ろうと。
明日こそ目覚めてくれるだろうと、毎夜、心から祈り続けて。
前の生では一度も無かった、「ブルーと会えないままで終わる」日。
それがあるのが今の人生、こちらの方が、多分、正しい。
(恋人同士ってヤツは、一緒に暮らし始めるまでは…)
別の家で暮らしているのが常で、毎日、会えないことだって多い。
(同じ職場で働いてるとか…)
そういう恋人同士を除けば、普通は「会えない」ものだと思う。
週末はデートや旅行に行けても、平日は離れ離れになる。
だからこそ、互いに会えない日だって、恋のスパイス。
次に会える日を指折り数えて、会えた時には想いが深まる。
「やっぱり、二人でいるのがいい」と。
「この人と、ずっと一緒にいたい」と、「早く一緒に暮らしたいのに」と。
そうやってゴールに向かって走って、結婚式を迎える恋人たちは多いだろう。
今度の「自分たち」も、彼らに倣うことになる。
小さなブルーが大きくなったら、プロポーズして。
「俺の嫁さんになって欲しい」と、最高の舞台でブルーの手を握り締めて。
(まだまだ先の話なんだが…)
楽しみだよな、と「その日」を頭に描く。
ブルーが断るわけがないから、プロポーズしたら、次は結婚式だ、と。
(あいつには、俺しか見えていないし…)
横から攫ってゆくヤツもいないし、とコーヒーのカップを指でカチンと弾く。
ゴールまでは何年もかかるけれども、ブルーを「盗られる」心配は無い。
ブルーは「誰にも惚れたりしない」し、口説く人間が現れたって…。
(俺しか見えていないんだから…)
別の「誰か」について行ったりするわけがない。
恋敵に盗られる心配など無い、とても安心、安全なブルー。
(その分、チビで待たされるんだが…)
十八歳までは長いんだがな、と思うけれども、盗られないならいいだろう。
たまに会えない日があったところで、ブルーが膨れるだけなのだから。
(恋敵がいたら、そういうわけにはいかないんだが…)
毎日、ハラハラさせられるんだが…、と苦笑する。
生憎と自分たちの場合は、恋敵など「出来はしない」から。
前の生から恋人同士で、長い長い時を越えて再び巡り会ったのが「自分たち」。
青い地球の上で新しい命を貰って、今度こそ共に生きてゆく。
恋敵などがいるわけもないし、現れるわけもない恋路。
自分もブルーも、お互い、「相手だけ」しか見えていないから。
他の誰かが現れたって、目に入るわけもないのだから。
(ブルーに惚れて、ラブレターを渡すヤツがいたって…)
手紙を貰ったブルーの方は、興味を抱きもしないだろう。
「なんで?」と首を傾げるだけで、相手の想いに応えはしない。
返事を下さい、と書いてあったなら、律儀に返事を書くのだと思う。
「好きな人がいるので、付き合えません」と、大真面目に。
それで相手が失恋したって、ブルーは「悪かったかな?」と肩を竦める程度。
付き合えないものは仕方ないのだし、ブルーに勝手に惚れ込んだ方が悪いのだから。
(うんうん、でもって、その一件を…)
ブルーは「ハーレイ」に話してくれるかもしれない。
「ちょっぴり悪いことをしたかも」と、「仕方ないよね?」と、ちょっぴり可笑しそうに。
「だって、ハーレイがいるんだもの」と、赤い瞳を瞬かせて。
(そんなトコだな、ブルーに惚れたヤツの末路は…)
俺たちの間で話の種になって終わりだ、と容易に分かる。
ブルーは「他の者など見ない」し、ついて行ったりもしないのだから。
(これがブルーでなかったら…)
恋敵がいたら大変だよな、と逆の場合を考えてみる。
普通の恋人同士だったら大いに有り得る、恋敵が登場してくるケース。
何日か会えずに離れていたら、横から誰かが想いを打ち明け、二人の間に割り込んで来る。
恋人の方でも、まんざらでもなくて、「ちょっと付き合ってみようかな」と考えもする。
さっさと一人に決めてしまうより、比べてみるのも良さそうだから。
せっかく現れた「新しい人」を、よく知るのも悪くないだろう。
もしかしたら、そちらの方が「自分に合う」人なのかもしれない。
今まで出会わなかったというだけ、運命の相手は「その人」なのかも、と。
幸いなことに、ブルーには、その心配が無い。
誰にも盗られたりはしないし、今日のように会えない日があったって…。
(恋のスパイス、などと言えるんだがなあ…)
普通の恋だと厄介だぞ、と世界中の「普通の恋人たち」に同情してしまう。
「会えない日なんて、気が気じゃないよな」と、心の底から。
(…俺たちの場合は、そんな心配は…)
まるで無いが、と思ったところで、ハタと気付いた。
無いと思っているのだけれども、可能性なら「ある」ことに。
「今のブルー」が他の誰かに、恋をしないとは言い切れない。
ただし、条件があるけれど。
「前の生の記憶」を持っていること、これが大切なポイントになる。
前のブルーと同じ時代に、同じ世界に生きていたなら、ブルーの心に入れるだろう。
「あの頃は、お互い、自分の役目があったけれども、今だったら…」と、想いを打ち明けて。
ブルーの方では、どんな風に思っていただろうか、と探りを入れることだって。
(…うーむ…)
そいつはマズイ、とハーレイの肝が冷えてゆく。
前の生では「自分がブルーの恋人」だったし、ブルーも他など見ていなかった。
けれど、今度はどうだろう。
今の生で再び巡り会うようなことがあったら、出会いからして違ってくる。
(…あいつ、変な夢、見てたよなあ…?)
シリーズになってた結婚モノ、と「キース・アニアン」のことを思い出した。
前のブルーを撃った男で、殺したと言ってもいい憎い人間。
ところがブルーは、キースを全く恨んではいない。
(俺が悪口を言う度に…)
なにかとキースを庇っているし、結婚シリーズの夢も見ていた。
「キースのお嫁さんにされちゃいそうになるんだよ!」と、ブルーは嘆いていたけれど…。
(嫌っているなら、あんな夢なんか見やしないんだ…)
むしろキースに惹かれているから、あの夢を見る、と考える方が自然だろう。
違う出会いをしていたならば、ブルーは「キース」を選んでいたかもしれない。
残り少ない命であろうと、恋人同士になった二人に、それがどうだと言うのだろう。
ブルーの寿命が尽きるのであれば、それまでの短い時間を一緒に生き抜いてこそ、と。
(…キースがいたら、とてもマズイぞ…)
俺はブルーを盗られちまうかも、と思わず身震いしてしまった。
登場したなら、強敵になるだろう恋敵。
今も憎くてたまらないけれど、それどころではない騒ぎになる。
(一発殴ってやりたいどころか…)
殴って蹴って、ブルーの前から追い払ってやりたいくらいだけれども、そうはいかない。
それをやったら、ブルーに愛想を尽かされてしまう。
「何をするの!」と、赤い瞳で睨み付けられ、詰られて。
ブルーにとっては、「キース」も「大事な人」なのだから。
(…違う出会いをするってことは、キースの野郎は、俺と違って…)
社会人にはなっていなくて、学生だということもある。
ブルーよりも年上で、自由が利く上の学校の生徒で、運転免許も持っているかもしれない。
(上の学校だと、授業が詰まっていない日だったら…)
いつでもブルーに会いに来られて、免許と車を持っているなら、送り迎えも可能になる。
家や学校の前で待ち構えていて、「俺が送ってやる」といった具合に。
(そうなると毎日、デートみたいなモンでだな…)
学校の帰りに喫茶店に寄ったりするなら、もう文字通りに本物のデート。
「ハーレイ」は大きく出遅れてしまい、ブルーは「キース」を待つようになって…。
(俺が仕事の帰りに、ブルーの家に寄ったら…)
ブルーはキースと何処かに行ってしまって、帰っていない日が増えて来る。
もっと悲しい展開としては、ブルーの家の玄関に…。
(若者向けの靴が揃えられてて、キースの野郎が…)
先客として、ブルーの部屋でお茶を飲みながら歓談中な日も来るだろう。
其処でブルーが「ハーレイも一緒に」と誘ってくれたら、まだマシだけれど…。
(キースは憎いが、グッと飲み込んで差し向かいで…)
茶を飲んだっていいんだがな、と思うけれども、「今日は帰って」と言われかねない。
「お客さんが来ているから」と、「ハーレイとお茶は、今度にしてね」と。
(最悪じゃないか…!)
それが続いたら、俺はすっかりお払い箱になっちまう、と泣きそうな気分。
ブルーに聖痕をくれた神様、その神様が「新しい出会いもいいだろう」と用意をしていたら。
(そりゃ、新しい恋をしたって、新しい恋人が出来たって…)
ブルーが幸せになれるのだったら「ハーレイ」は黙って身を引くけれども、出来るなら…。
(今度もブルーは、俺だけを見て、俺だけを選んでくれてだな…)
何処までも一緒に生きてゆきたいから、そのコースは御免蒙りたい。
恋敵がいたら、大変だから。
もしも恋敵が「キース」だったら、敗北するかもしれないから…。
恋敵がいたら・了
※ハーレイ先生とブルー君の恋。間には誰も入れやしない、と思ったハーレイ先生ですけど。
恋敵としてキースが登場したら、立場が危うくなってしまうかも。お払い箱は御免ですよねv
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