もっと素直に
「もっと素直になれないのかなあ…」
ホントに損な性分だよね、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 損な性分って…」
この俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
いきなりブルーに指摘されても、心当たりが全く無い。
損な性分だと思ったことも無ければ、言われたことも…。
(…俺の人生、一度も無いと思うんだが…?)
はて、と首を捻ったけれども、前の人生なら事情は違う。
厨房時代はともかくとして、キャプテンになった後は…。
(自分を押さえ付けてた部分が、まるで無かったとは…)
言えないよな、と自分でも自覚している。
押さえ切れずに、仲間を殴ってしまった経験もあった。
けれど、あそこで殴らなければ…。
(皆がバラバラになってしまって、大変なことに…)
なっちまうしな、と分かっているから、後悔は無い。
とはいえ、それを逆の方から考えたなら…。
(普段の俺は我慢だらけで、自分を押さえ付けていて…)
何もかも一人で抱えてたんだ、と前の自分の苦労を思う。
キャプテンという立場と、その職務上、それは仕方ない。
前の自分が思いのままに振舞ったならば、あの船は…。
(とても地球まで辿り着けなくて、途中で沈んで…)
おしまいだよな、と肩を竦める。
「俺がゼルみたいな性分だったら、そうなってたぞ」と。
(…前の俺なら、確かに損な性分なんだが…)
果たして今の俺はそうか、と自分で自分に問い掛ける。
我慢ばかりが続く毎日なのか、そうではないのか。
(…強いて我慢と言うんだったら…)
ブルーの家に寄れない日ならば、我慢している方だろう。
本当は飛んで帰りたいのに、会議や部活や、会食など。
(…いつもだったら、今頃は、と…)
溜息をつきたい気持ちになるのを、グッと堪える。
会議や部活は大事な仕事で、会食も同僚との大切な時間。
(我慢だなんて言えやしないし、正直を言えば…)
同僚たちと食事の時には、ブルーを忘れていたりもする。
久々に仲間と過ごす時間が、心地よすぎて、ウッカリと。
つまり、損とは全く言えない、今の自分の性分なるもの。
とても自分に正直なわけで、会議を我慢する時も…。
(前の俺とはまるで違って、終わった後の算段を…)
頭の中でコッソリ組み立て、密かに準備していたりする。
「終わったら本屋に行くとするか」とか、夕食の計画。
いつもの店で買い込む食材、時間をかけて作りたい料理。
(ブルーの家に来るようになってから、そういう飯は…)
滅多に作る機会が無いから、張り切りたくなる。
たった一人の食卓だけれど、あれこれ並べて食べたくて。
「こういう時に」と頭にメモしておいた、料理の数々。
それを端から作るのもいいし、じっくり作る一品もいい。
(…会議の中身を聞いてはいても…)
発言してメモも取ってはいても、心の方は脱線している。
キャプテンだった前の生なら、決して許されない姿勢。
(そいつを、何の罪悪感も無く平然と、だ…)
やってしまえる今の自分は、損な性分などではない。
自信を持って言い切れるから、ブルーに宣言しなければ。
「おい、ブルー。…お前、勘違いをしているぞ?」
今の俺は前とは違うんだ、とハーレイはニヤリと笑った。
損な性分だった頃と違って、今は自由で気ままな人生。
「我慢ばかりのキャプテン時代は、とうに過去だ」と。
「ぼくには、そうは見えないんだけど…」
もっと素直になるべきだよ、とブルーは納得しなかった。
「今のハーレイも我慢ばかり」と、「もっと素直に」と。
「俺は充分、素直で自分に正直なんだが?」
いったい何処が違うと言うんだ、とハーレイが訊くと…。
「今だって、我慢してるでしょ? ぼくがいるのに」
もっと欲望に正直に…、と赤い瞳が煌めいた。
「キスしてもいいし、もっと大胆なことも…」
してくれて構わないんだけれど…、とブルーは微笑む。
「今の時間ならママは来ないよ」と、「夕食までね」と。
(そういうことか…!)
ならば、こうする、とハーレイはサッと椅子から立った。
してやったり、とブルーは嬉しそうだけれども…。
「有難い。だったら、今日は帰らせて貰う」」
「えっ?」
ブルーの瞳が丸くなるのを、勝ち誇った顔で見詰め返す。
「この間から、作りたいと思っていた料理があってな…」
ちっと時間がかかるヤツで…、と顎に手を当てた。
「今から帰って買い出しをすれば、今夜には…」
出来るからな、と告げると、ブルーの顔色が変わる。
「ちょ、待って! そうじゃなくって…!」
帰らないで、とブルーが上げる悲鳴が面白い。
(自分で蒔いた種なんだがな…?)
さて、どうするか…、と思うけれども、帰りはしない。
今の自分は素直だから。
「ブルーと一緒にいたい」気持ちが、本音だから…。
もっと素直に・了
ホントに損な性分だよね、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 損な性分って…」
この俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
いきなりブルーに指摘されても、心当たりが全く無い。
損な性分だと思ったことも無ければ、言われたことも…。
(…俺の人生、一度も無いと思うんだが…?)
はて、と首を捻ったけれども、前の人生なら事情は違う。
厨房時代はともかくとして、キャプテンになった後は…。
(自分を押さえ付けてた部分が、まるで無かったとは…)
言えないよな、と自分でも自覚している。
押さえ切れずに、仲間を殴ってしまった経験もあった。
けれど、あそこで殴らなければ…。
(皆がバラバラになってしまって、大変なことに…)
なっちまうしな、と分かっているから、後悔は無い。
とはいえ、それを逆の方から考えたなら…。
(普段の俺は我慢だらけで、自分を押さえ付けていて…)
何もかも一人で抱えてたんだ、と前の自分の苦労を思う。
キャプテンという立場と、その職務上、それは仕方ない。
前の自分が思いのままに振舞ったならば、あの船は…。
(とても地球まで辿り着けなくて、途中で沈んで…)
おしまいだよな、と肩を竦める。
「俺がゼルみたいな性分だったら、そうなってたぞ」と。
(…前の俺なら、確かに損な性分なんだが…)
果たして今の俺はそうか、と自分で自分に問い掛ける。
我慢ばかりが続く毎日なのか、そうではないのか。
(…強いて我慢と言うんだったら…)
ブルーの家に寄れない日ならば、我慢している方だろう。
本当は飛んで帰りたいのに、会議や部活や、会食など。
(…いつもだったら、今頃は、と…)
溜息をつきたい気持ちになるのを、グッと堪える。
会議や部活は大事な仕事で、会食も同僚との大切な時間。
(我慢だなんて言えやしないし、正直を言えば…)
同僚たちと食事の時には、ブルーを忘れていたりもする。
久々に仲間と過ごす時間が、心地よすぎて、ウッカリと。
つまり、損とは全く言えない、今の自分の性分なるもの。
とても自分に正直なわけで、会議を我慢する時も…。
(前の俺とはまるで違って、終わった後の算段を…)
頭の中でコッソリ組み立て、密かに準備していたりする。
「終わったら本屋に行くとするか」とか、夕食の計画。
いつもの店で買い込む食材、時間をかけて作りたい料理。
(ブルーの家に来るようになってから、そういう飯は…)
滅多に作る機会が無いから、張り切りたくなる。
たった一人の食卓だけれど、あれこれ並べて食べたくて。
「こういう時に」と頭にメモしておいた、料理の数々。
それを端から作るのもいいし、じっくり作る一品もいい。
(…会議の中身を聞いてはいても…)
発言してメモも取ってはいても、心の方は脱線している。
キャプテンだった前の生なら、決して許されない姿勢。
(そいつを、何の罪悪感も無く平然と、だ…)
やってしまえる今の自分は、損な性分などではない。
自信を持って言い切れるから、ブルーに宣言しなければ。
「おい、ブルー。…お前、勘違いをしているぞ?」
今の俺は前とは違うんだ、とハーレイはニヤリと笑った。
損な性分だった頃と違って、今は自由で気ままな人生。
「我慢ばかりのキャプテン時代は、とうに過去だ」と。
「ぼくには、そうは見えないんだけど…」
もっと素直になるべきだよ、とブルーは納得しなかった。
「今のハーレイも我慢ばかり」と、「もっと素直に」と。
「俺は充分、素直で自分に正直なんだが?」
いったい何処が違うと言うんだ、とハーレイが訊くと…。
「今だって、我慢してるでしょ? ぼくがいるのに」
もっと欲望に正直に…、と赤い瞳が煌めいた。
「キスしてもいいし、もっと大胆なことも…」
してくれて構わないんだけれど…、とブルーは微笑む。
「今の時間ならママは来ないよ」と、「夕食までね」と。
(そういうことか…!)
ならば、こうする、とハーレイはサッと椅子から立った。
してやったり、とブルーは嬉しそうだけれども…。
「有難い。だったら、今日は帰らせて貰う」」
「えっ?」
ブルーの瞳が丸くなるのを、勝ち誇った顔で見詰め返す。
「この間から、作りたいと思っていた料理があってな…」
ちっと時間がかかるヤツで…、と顎に手を当てた。
「今から帰って買い出しをすれば、今夜には…」
出来るからな、と告げると、ブルーの顔色が変わる。
「ちょ、待って! そうじゃなくって…!」
帰らないで、とブルーが上げる悲鳴が面白い。
(自分で蒔いた種なんだがな…?)
さて、どうするか…、と思うけれども、帰りはしない。
今の自分は素直だから。
「ブルーと一緒にいたい」気持ちが、本音だから…。
もっと素直に・了
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