鮮度の良さって
「ねえ、ハーレイ。鮮度の良さって…」
大事なんでしょ、とブルーがぶつけて来た質問。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 鮮度って…」
何の話だ、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いきなり問いを投げ掛けられても、返事に困る。
鮮度というのは、食べ物などの鮮度でいいのだろうか。
(他に鮮度ってヤツがだな…)
あっただろうか、と考える内に、ブルーが再び言った。
「鮮度と言ったら、鮮度だってば!」
ハーレイ、料理は得意なんでしょ、と焦れた口調で。
「なんだ、そいつで合っているのか」
急に言われても分からなくてな、とハーレイは苦笑した。
実際、頭を悩ませたのだし、仕方ない。
「ハーレイったら…。まあいいけれど…」
それでどうなの、とブルーが問い掛けて来る。
鮮度の良さは大事なのかと、さっきと同じ内容を。
「そうだな、鮮度は大事なのかと聞かれたら…」
とても大事な点になるな、とハーレイは大きく頷いた。
魚はもちろん、野菜などを選ぶ時にも、鮮度は大切。
どれを買うべきか店で見極め、新鮮なものを選び出す。
いくら安くても、鮮度が落ちた食材は避けた方がいい。
味や香りが逃げてしまって、素材が台無しな場合がある。
ただし、お得に買いたいのならば、それもまた良し。
「えっと…。そんな食材、買ったって…」
あまり美味しくないんじゃあ、とブルーが首を傾げる。
鮮度が落ちてしまっているなら、味わいだって同じこと。
安く買えたという以外には、良い所などは無いのだから。
「それが、そうとも言い切れなくてな」
料理人の腕の見せどころだ、とハーレイは親指を立てた。
素材を活かすのが料理人だし、食材は無駄なく使うもの。
風味が落ちて来ているのならば、補ってやれば解決する。
スパイスを効かせて調理するとか、酒に漬け込むとか。
そうすれば、ただ新鮮なだけの食材よりも…。
「美味く仕上がるというもんだ」と、ハーレイは笑む。
鮮度だけではないんだぞ、と。
ブルーは「うーん…」と小さく唸って、俯いてしまった。
何故、そうなるのかが、ハーレイには全く分からない。
鮮度は大事か尋ねて来るから、答えてやっただけなのに。
(なんで、こいつが俯くんだ?)
俺の話に乗って来たっていいだろう、と膨れたくなる。
いつもブルーがやっているように、頬っぺたを…。
(こう、フグみたいに、プウッとだな…)
膨らますのが、こいつの得意技だ、と思った所で閃いた。
ブルーに問われた、鮮度の良さという問題。
それが指すのは、本当は、食材のことではなくて…。
(こいつの鮮度のことなんだな?)
新鮮な間に食わせるつもりなんだ、と読めた魂胆。
「大事なんだ」とだけ答えていたなら、その瞬間に…。
(鮮度の良さが大事なんでしょ、と逆手に取って…)
俺にキスさせる気だったわけか、と合点がいった。
ところがどっこい、ハーレイが返した答えの方には…。
(鮮度が落ちた食材だって、使いようで…)
美味しくなる、という余計なオマケがついていた。
これではブルーは、どうにも出来ない。
唸るしかなくて、現に唸って俯いているというわけで…。
(よしよし、そういうことならば、だ…)
トドメを刺してやるとするか、とハーレイは口を開いた。
ブルーの目論見が外れたのなら、逆襲せねば。
「なあ、ブルー。鮮度は確かに大事なんだが…」
他にも大事な点があってな、と指でテーブルを軽く叩く。
「こっちを見ろよ」と、「俺の話を最後まで聞け」と。
ブルーは渋々といった体で、「なあに?」と尋ねて来た。
「鮮度の話で、まだ何かあるの?」
「あるとも、食材によっては、だ…」
新しいだけじゃ駄目なんだよな、と説明を始める。
食材によっては、直ぐに食べずに、貯蔵しておく、と。
いわゆる追熟、キウイフルーツなどが有名。
収穫直後は美味しくなくて、保存する間に美味しくなる。
肉にしたって、捌いて直ぐには店に出さない。
「えっ、お肉も?」
そうだったの、とブルーの瞳が真ん丸になる。
これは間違いなく、ハーレイの読みの通りだから…。
「残念ながら、そうなんだ」
そりゃ、新鮮なのも食うんだがな、とハーレイは笑んだ。
けれど熟成した肉の方が、舌は美味しく感じる、と。
「というわけだし、俺は鮮度の良さよりも、だ…」
味を優先したいんでな、とブルーにウインクして見せる。
「今すぐ食うより、前と同じに育って、だ…」
熟成したお前の方がいい、と言うと、ブルーは膨れっ面。
それはもう見事に、フグみたいに。
「あんまりだよ!」と文句たらたら、不満だらけで。
とはいえ放っておけば充分、ハーレイの方は知らん顔。
まさにブルーの自業自得、と紅茶のカップを傾ける。
「お前の熟成、まだまだかかりそうだよな」と。
「俺は気長に待つだけだ」と、「美味いのがいい」と…。
鮮度の良さって・了
大事なんでしょ、とブルーがぶつけて来た質問。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 鮮度って…」
何の話だ、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いきなり問いを投げ掛けられても、返事に困る。
鮮度というのは、食べ物などの鮮度でいいのだろうか。
(他に鮮度ってヤツがだな…)
あっただろうか、と考える内に、ブルーが再び言った。
「鮮度と言ったら、鮮度だってば!」
ハーレイ、料理は得意なんでしょ、と焦れた口調で。
「なんだ、そいつで合っているのか」
急に言われても分からなくてな、とハーレイは苦笑した。
実際、頭を悩ませたのだし、仕方ない。
「ハーレイったら…。まあいいけれど…」
それでどうなの、とブルーが問い掛けて来る。
鮮度の良さは大事なのかと、さっきと同じ内容を。
「そうだな、鮮度は大事なのかと聞かれたら…」
とても大事な点になるな、とハーレイは大きく頷いた。
魚はもちろん、野菜などを選ぶ時にも、鮮度は大切。
どれを買うべきか店で見極め、新鮮なものを選び出す。
いくら安くても、鮮度が落ちた食材は避けた方がいい。
味や香りが逃げてしまって、素材が台無しな場合がある。
ただし、お得に買いたいのならば、それもまた良し。
「えっと…。そんな食材、買ったって…」
あまり美味しくないんじゃあ、とブルーが首を傾げる。
鮮度が落ちてしまっているなら、味わいだって同じこと。
安く買えたという以外には、良い所などは無いのだから。
「それが、そうとも言い切れなくてな」
料理人の腕の見せどころだ、とハーレイは親指を立てた。
素材を活かすのが料理人だし、食材は無駄なく使うもの。
風味が落ちて来ているのならば、補ってやれば解決する。
スパイスを効かせて調理するとか、酒に漬け込むとか。
そうすれば、ただ新鮮なだけの食材よりも…。
「美味く仕上がるというもんだ」と、ハーレイは笑む。
鮮度だけではないんだぞ、と。
ブルーは「うーん…」と小さく唸って、俯いてしまった。
何故、そうなるのかが、ハーレイには全く分からない。
鮮度は大事か尋ねて来るから、答えてやっただけなのに。
(なんで、こいつが俯くんだ?)
俺の話に乗って来たっていいだろう、と膨れたくなる。
いつもブルーがやっているように、頬っぺたを…。
(こう、フグみたいに、プウッとだな…)
膨らますのが、こいつの得意技だ、と思った所で閃いた。
ブルーに問われた、鮮度の良さという問題。
それが指すのは、本当は、食材のことではなくて…。
(こいつの鮮度のことなんだな?)
新鮮な間に食わせるつもりなんだ、と読めた魂胆。
「大事なんだ」とだけ答えていたなら、その瞬間に…。
(鮮度の良さが大事なんでしょ、と逆手に取って…)
俺にキスさせる気だったわけか、と合点がいった。
ところがどっこい、ハーレイが返した答えの方には…。
(鮮度が落ちた食材だって、使いようで…)
美味しくなる、という余計なオマケがついていた。
これではブルーは、どうにも出来ない。
唸るしかなくて、現に唸って俯いているというわけで…。
(よしよし、そういうことならば、だ…)
トドメを刺してやるとするか、とハーレイは口を開いた。
ブルーの目論見が外れたのなら、逆襲せねば。
「なあ、ブルー。鮮度は確かに大事なんだが…」
他にも大事な点があってな、と指でテーブルを軽く叩く。
「こっちを見ろよ」と、「俺の話を最後まで聞け」と。
ブルーは渋々といった体で、「なあに?」と尋ねて来た。
「鮮度の話で、まだ何かあるの?」
「あるとも、食材によっては、だ…」
新しいだけじゃ駄目なんだよな、と説明を始める。
食材によっては、直ぐに食べずに、貯蔵しておく、と。
いわゆる追熟、キウイフルーツなどが有名。
収穫直後は美味しくなくて、保存する間に美味しくなる。
肉にしたって、捌いて直ぐには店に出さない。
「えっ、お肉も?」
そうだったの、とブルーの瞳が真ん丸になる。
これは間違いなく、ハーレイの読みの通りだから…。
「残念ながら、そうなんだ」
そりゃ、新鮮なのも食うんだがな、とハーレイは笑んだ。
けれど熟成した肉の方が、舌は美味しく感じる、と。
「というわけだし、俺は鮮度の良さよりも、だ…」
味を優先したいんでな、とブルーにウインクして見せる。
「今すぐ食うより、前と同じに育って、だ…」
熟成したお前の方がいい、と言うと、ブルーは膨れっ面。
それはもう見事に、フグみたいに。
「あんまりだよ!」と文句たらたら、不満だらけで。
とはいえ放っておけば充分、ハーレイの方は知らん顔。
まさにブルーの自業自得、と紅茶のカップを傾ける。
「お前の熟成、まだまだかかりそうだよな」と。
「俺は気長に待つだけだ」と、「美味いのがいい」と…。
鮮度の良さって・了
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