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慎重すぎだよ
「ハーレイってさあ…」
 慎重すぎだよ、と小さなブルーが零した溜息。
 二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 慎重って…」
 この俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
 いきなりそんな風に言われても、心当たりが全く無い。
 教師という職業柄、慎重な部分はあるのだけれど…。
(でないと、生徒を傷付けかねんし…)
 理由も聞かずに叱り付けたりは、してはならない。
 どう見ても生徒に非がある時でも、まず事情を聞く。
 それから叱るか、厳重注意か、対処を考えて動かねば。
(悪く見えても、そうじゃないこともあるからなあ…)
 その生徒なりの考えがあって、やった結果が裏目に出る。
 実際、そうしたことも多いし、慎重にならざるを得ない。
 けれど、ブルーが溜息を零すほどには…。
(慎重すぎないと思うんだがな?)
 誤差の範囲ってトコだろうが、と不本意ではある。
 どちらかと言えば大胆な方で、周りの評価もそうだから。


 なんとも不当な、「慎重すぎだ」というブルーの評。
 此処は否定をしておかねば、とハーレイは即、行動した。
 真正面からブルーを見詰めて、「それは違うな」と。
「お前から見れば、そうなるのかもしれないが…」
 俺の職業を考えてくれ、と順を追って話す。
 教師なら誰でもそうあるべきだし、そう見えるだけ。
 違う部分も多い筈だし、学校でも大胆な面があるぞ、と。
 特に柔道部の指導などでは、そうなってるな、と笑う。
 「お前は現場に来てはいないし、知らないだけだ」と。
「それにだ、他の先生方にも…」
 大胆で豪胆だと言われているが、とブルーに説明する。
 「教師仲間も、そう言うんだしな?」と、自信を持って。
 ところがブルーは、「違うんだよね…」と更に溜息。
 「なんで、そんなに慎重なわけ?」と、呆れたように。
 「もう、キャプテンじゃないんだよ?」と。


「…キャプテンって…。お前、そうは言うがな…」
 あの頃だって大胆だった、とハーレイは指を一本立てた。
 「前のお前が知らないだけだ」と、自慢話をするために。
 前のブルーが長い眠りに就いていた時、それは起こった。
 人類軍の船に追われて、三連恒星に追い込まれて…。
「物凄い重力場の中で、ワープを敢行したんだぞ?」
 重力の緩衝点からな、と誇らしげな顔で当時を語る。
 「一歩間違えれば、宇宙の藻屑って局面だったが?」と。
 今、思っても、前の自分の大胆さに感動してしまう。
 「よくぞやった」と、手放しで褒めてやりたいほどに。
 なのにブルーは、「知ってるってば」と溜息で応えた。
 「その話だったら何度も聞いたよ」と、つまらなそうに。
「それにさ、前も大胆だったって言うのなら…」
 ますます慎重すぎるってば、とブルーは頬を膨らませる。
 「もっと大胆に動くべきだよ」と、不満に満ちた顔で。



(…なるほどな…)
 こいつの考えが読めて来たぞ、とハーレはピンと閃いた。
 もっと大胆に、今のブルーにキスをするとか…。
(押し倒すだとか、そういった、けしからぬことを…)
 この俺にやれと言うんだな、とブルーを改めて観察する。
 フグみたいに膨らんだ頬っぺたといい、顔付きといい…。
(うん、その方向で間違いないな)
 こいつがそういう魂胆なら…、と取るべき策を弾き出す。
 「大胆になれ」との注文なのだし、此処は早速…。
「そうか、分かった。なら、大胆に動くとするか」
 俺は帰るぞ、とハーレイは椅子から立ち上がった。
「えっ、帰るって…。なんで?」
 お茶の時間の途中なのに、とブルーの瞳が丸くなる。
「何か用事を思い出したの? 今の話で?」
 それでも、お茶くらい飲んで行けば、とブルーは慌てた。
 「そんなに急いで帰らなくても」と、引き留めるように。
「いや、大胆に、と言ったろう?」
 俺は運動したいんだ、とハーレイはニヤリと笑った。
 「朝から、ずっと座ってるしな」と、「運動不足だ」と。


 じゃあな、とサッと踵を返して、扉に向かう。
「俺の性分じゃないんだよなあ、午後のお茶はな」
 それより走って、走りながらの水分補給、と言い捨てる。
 「そいつが性に合ってるんだ」と、ブルーに背を向けて。
「待ってよ、酷いよ!」
 帰らないで、とブルーの泣きそうな声が追い掛けて来る。
 「お願いだから、其処は慎重になって欲しいって!」と。
 「ぼくの気持ちも考えてよ」と、「慎重でいい」と…。



            慎重すぎだよ・了








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