分けて食べるなら
(ふむ、なかなかに…)
美味しそうだぞ、とハーレイは皿の上に載った菓子を眺めた。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それも菓子の皿の横にある。
これが無ければ、寛ぎの時間は始まらないと言ってもいい。
(何処で飲もうかと、少し迷ったが…)
菓子があるからリビングで、とか、ダイニングで、とかも考えた。
コーヒーを淹れる間も悩んで、結局、来たのは気に入りの書斎。
専用の紙箱から出して来た菓子を、菓子皿に載せて「あそこで食うか」と。
(期間限定だと書いてあったが…)
菓子を買った場所は、帰りに寄った馴染みの食料品店だった。
特設コーナーが設けられていて、並んでいたのはシュークリームたち。
(味が色々、ってわけじゃなくてだ…)
ごくごく普通のカスタード入りで、それがケースの中に沢山。
見れば地元の店ではなくて、酪農で有名な地方から来た店らしい。
その地方では、名前を知られた人気の店。
旅行で出掛けた観光客たちも、買いに行ったりするのだという。
(一週間は出店してると言うから…)
ブルーへの手土産にいいだろう、と思ったけれども、自分が食べたい気持ちもあった。
ズラリと並んだシュークリームを目にした途端に、胃袋を掴まれてしまったらしい。
(…シュークリームの精ってヤツに捕まったかもな?)
買って下さい、食べて下さい、と服の袖を掴んで離さない、シュークリームに宿る妖精。
「美味しいですよ」と、「今日のところは味見に一個、如何ですか?」と。
愛らしい声が耳に届いたのか、ついつい、一個、買ってしまった。
「今晩、食って、試食ってことで」と、店員に「一個下さい」と指差して。
ブルーの家に持って行く時には、一個ではなくて、二個に増えるだろうけれど。
(…そいつは明日に取っておいて、と…)
今日は一個で、自分用。
「試食」というのは、言い訳と言えるかもしれない。
自分が食べたくて買った以上は、純粋な「試食」とは言い難いから。
たまには、そういう日だってあるさ、とハーレイはシュークリームをつついた。
添えて来たフォークで、チョン、と悪戯するかのように。
自分の胃袋を捕まえた妖精、シュークリームの精に「お前さんのせいだからな?」と。
(俺だけ、一人で食ってるだなんて…)
ブルーが知ったら、間違いなくプウッと膨れるだろう。
「ハーレイ、一人で食べてるわけ?」と、「ぼくの分は?」と、フグみたいに。
(…こんな夜遅くに、シュークリームなんぞを喰っちまったら…)
食の細いブルーはお腹が一杯になって、夢見も悪くなってしまいそう。
それでも、きっとブルーなら…。
(狡い、酷い、と膨れっ面で…)
後々まで言うに違いない。
「どうして一人で食べていたの」と、「ぼくにも分けて欲しかったのに」と。
(ほんの一口くらいだったら、胃にもたれたりもしないしなあ…)
とうに歯を磨いた後だったとしても、また磨いたら済むだけのこと。
「ぼくの分は?」と、ブルーの声が聞こえるような気がしてくる。
「分けてくれてもいいでしょ、ケチ!」と。
此処の様子を覗き見ていて、「狡いんだから!」と詰る声が。
(…あいつには、見えやしないんだがなあ…)
サイオンが不器用になっちまったし、と分かってはいても、少し後ろめたい。
明日には、ブルーの分も買って持って行くつもりでも。
「分けて食べる」とか「一口」ではなく、丸ごと一個をプレゼントでも。
(あいつがまるで知らない間に、俺だけ食おうとしてるのがだな…)
どうやら原因らしいよな、と自分でも苦笑するしかない。
悪戯な妖精のせいなのだろうか、こういう気分になったのも。
シュークリームに宿る妖精、それをフォークでチョンとつついて、からかったから。
「お前さんのせいだからな」と心で言ったばかりに、仕返しをされたかもしれない。
妖精が持っている魔法の粉を、パラリと頭に振り掛けられて。
「食べたかったのは、あなたですよね?」と、「私のせいじゃありませんよ」と。
食べたいと思った欲張りな胃袋、それは「あなたの責任でしょう?」と機嫌を損ねた妖精。
「充分、反省して下さいね」と、「恋人さんの分も買いに来てくれるまで」と。
(…妖精に、やられちまったってか?)
そうだとしたなら、明日、二個買うまで、許して貰えないかもしれない。
美味しく一人で食べるつもりが、ブルーで心が占められて。
「狡いってば!」と、「ぼくの分は?」と、責める声が頭から離れなくなって。
(……参ったな……)
どうすりゃいいんだ、とフォークを手にして、シュークリームをまじまじと見る。
ブルーは此処にいないのだから、お裾分けなど出来るわけがない。
シュークリームの妖精がなんと言おうが、ブルーに届けることは不可能。
(ほんの一口、って言われてもだ…)
どうすることも出来ないんだが、とシュークリームを凝視する間に、浮かんだ考え。
「分けて食べるなら、どうなるだろうな?」と。
此処にブルーがいたとしたなら、一個だけのを、どう分けるか、と。
(…俺が一個しか買わずに帰って来るなんてことは…)
ブルーと暮らし始めた後には、絶対に無い、と言い切れる。
必ず「二つ」と注文するし、最後の一個しか店に無ければ、最後の一個はブルー用。
(あいつが喜びそうだから、と…)
その一個を箱に入れて貰って、大切に持って帰るだろう。
「特設コーナーで売ってたんだ」と、「期間限定で、今日までらしい」と。
(次の日も売られているんだったら、その日は買わずに帰って、だ…)
ブルーには欠片も話しはしないで、翌日、急いで買いに出掛ける。
「最後の一個」になってしまわないよう、早めに店に着けるように、と。
ブルーが遠慮しないで済むよう、二つ買うのが一番だから。
(最後の一個だったんだ、って、あいつ用に買って帰っても…)
きっとブルーは、何も考えずに一人で食べてしまいはしない。
「ありがとう!」と嬉しそうな顔をしたって、箱の中身が一個だけだと知ったなら…。
(ハーレイの分は、って…)
尋ねて、顔を曇らせるだろう。
「一個だけしか、もう無かったの?」と。
(俺はいいから、お前が食べろ、と言ったって…)
ブルーは、納得したりはしない。
そういうところが「ブルー」だから。
前のブルーだった頃からそうで、今も魂は全く同じに「ブルー」なのだから。
「独り占めする」という考え方とは、まるで無縁な人間が「ブルー」。
遠く遥かな時の彼方で、ソルジャーだった頃から変わりはしない。
そう、ソルジャーになるよりも前に、既にブルーは「そう」だった。
「自分さえ良ければそれでいい」とは、ブルーは決して考えはしない。
たとえ、相手がシュークリームでも。
たった一個のシュークリームでも、ブルーは独占したりはしない。
「お前の分だ」と手渡されても、「でも…」と食べずにいるのだろう。
「でも、ハーレイの分が無いよ」と、「ぼくだけ一人で食べるなんて」と。
ブルーの悩みを解決するには、分けて食べるしかないだろう。
取り分は減ってしまうけれども、二つに切って。
どうせ食べれば形は崩れてしまうのだから、真っ二つに切っても味わいは同じ。
(皮も中身も、変わりゃしないし…)
二つに切ったシュークリームでも、ブルーは満足に違いない。
「美味しいね」と、フォークを手にして、頬張って。
「ハーレイもそう思うでしょ?」と、「やっぱり食べてみなくっちゃ」と。
一人で食べてもつまらないから、と微笑む姿が目に浮かぶよう。
「こういうのは、分けて食べなくちゃね」と。
そうなるだろうな、と思うけれども、その分け方はどうなるだろう。
なにしろ相手はシュークリームで、パウンドケーキなどとは、かなり異なる。
見た目も、それに構造も。
半分ずつに切ろうとしたって、上手く半分に切れるかどうか。
(…現に、こうしてだな…)
フォークで切ろうとすると、こうだ、と頑固な皮の抵抗に遭った。
ふわふわの雲を思わせる形のくせに、シュークリームの皮は意外に手強い。
綿菓子のように簡単に切れはしなくて、フォークでは、とても歯が立たない。
いや、切ることは出来るけれども、切るというより「引き千切る」感じ。
ギザギザになってしまう断面、綺麗に二つに切るなどは無理。
(でもって、中身もはみ出しちまって…)
フォークや皿にくっついたりして、プリンのようにはいかないカスタードクリーム。
プリンだったら、スプーンで掬えば潰れはしないし、くっつかないのに。
当然、ナイフで切ってやったら、真っ二つにだって出来るのに。
皮も中身も、ちょうど半分に分けて切るのが難しい相手。
シュークリームというお菓子。
(よし、切るぞ、とナイフを手にして挑んでみたって…)
パティシエの技術は持っていないし、真っ二つに切れはしないだろう。
プロのパティシエが挑戦したって、果たして上手くいくのかどうか。
(…そういう菓子を、ブルーと分けて食べるなら…)
大きさが不揃いになってしまうとか、中身が等分にならなかったとか。
そうなる結果が見えているから、どうなるのかが気になるところ。
ハーレイとしては、ブルーに多めに分けてやりたい。
明らかに大きさが違っていたなら、大きい方をブルーに渡す。
皿に乗っけて、「お前は、こっちだ」とフォークを添えて。
「美味そうなんだし、沢山食えよ」と。
(しかしだな…)
ブルーは、その皿を押し返しそう。
「こんなに沢山、貰わなくっても」と、「ぼくはもう、大きくなったんだから」と。
背を伸ばそうとしていた頃と違って、前のブルーと同じ背丈に育ったブルー。
「沢山食べて、大きくなる必要、もう無いんだもの」と、ブルーが口にしそうな正論。
「だから、大きい方はハーレイが食べて」と、「ぼくより身体が大きいものね」と。
(そう言われたって、俺はブルーに…)
せっかくの菓子を多めに食べて欲しいと思うし、ブルーも同じ気持ちだろう。
「ハーレイが買って来たんだから」とも、ブルーは言いそう。
「家まで持って帰って来た分、運んだ御褒美、貰わなくっちゃ」と。
ブルーは家で待っていただけ、シュークリームを多めに貰える理由など無い、と。
(こりゃ困ったぞ…)
大きい方の押し付け合いになっちまうな、と可笑しくなる。
「いっそ量るか」と、「秤で、グラム単位でな」と。
皮も、中身のカスタードクリームも、重さだけなら半分ずつになるように。
たとえ見た目がどうであろうと、皿の上にある量は同じであるように。
(…そうなるかもなあ…)
あいつと分けて食べるなら、とシュークリームにフォークを入れた。
「半分になんか切れやしないし」と、「崩れちまっても、きっちり半分ずつだな」と…。
分けて食べるなら・了
※ブルー君へのお土産にする前に試食、とシュークリームを買ったハーレイ先生。
いつか二人で半分ずつ、ということになったら、本当に秤で量って分けることになりそうv
美味しそうだぞ、とハーレイは皿の上に載った菓子を眺めた。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それも菓子の皿の横にある。
これが無ければ、寛ぎの時間は始まらないと言ってもいい。
(何処で飲もうかと、少し迷ったが…)
菓子があるからリビングで、とか、ダイニングで、とかも考えた。
コーヒーを淹れる間も悩んで、結局、来たのは気に入りの書斎。
専用の紙箱から出して来た菓子を、菓子皿に載せて「あそこで食うか」と。
(期間限定だと書いてあったが…)
菓子を買った場所は、帰りに寄った馴染みの食料品店だった。
特設コーナーが設けられていて、並んでいたのはシュークリームたち。
(味が色々、ってわけじゃなくてだ…)
ごくごく普通のカスタード入りで、それがケースの中に沢山。
見れば地元の店ではなくて、酪農で有名な地方から来た店らしい。
その地方では、名前を知られた人気の店。
旅行で出掛けた観光客たちも、買いに行ったりするのだという。
(一週間は出店してると言うから…)
ブルーへの手土産にいいだろう、と思ったけれども、自分が食べたい気持ちもあった。
ズラリと並んだシュークリームを目にした途端に、胃袋を掴まれてしまったらしい。
(…シュークリームの精ってヤツに捕まったかもな?)
買って下さい、食べて下さい、と服の袖を掴んで離さない、シュークリームに宿る妖精。
「美味しいですよ」と、「今日のところは味見に一個、如何ですか?」と。
愛らしい声が耳に届いたのか、ついつい、一個、買ってしまった。
「今晩、食って、試食ってことで」と、店員に「一個下さい」と指差して。
ブルーの家に持って行く時には、一個ではなくて、二個に増えるだろうけれど。
(…そいつは明日に取っておいて、と…)
今日は一個で、自分用。
「試食」というのは、言い訳と言えるかもしれない。
自分が食べたくて買った以上は、純粋な「試食」とは言い難いから。
たまには、そういう日だってあるさ、とハーレイはシュークリームをつついた。
添えて来たフォークで、チョン、と悪戯するかのように。
自分の胃袋を捕まえた妖精、シュークリームの精に「お前さんのせいだからな?」と。
(俺だけ、一人で食ってるだなんて…)
ブルーが知ったら、間違いなくプウッと膨れるだろう。
「ハーレイ、一人で食べてるわけ?」と、「ぼくの分は?」と、フグみたいに。
(…こんな夜遅くに、シュークリームなんぞを喰っちまったら…)
食の細いブルーはお腹が一杯になって、夢見も悪くなってしまいそう。
それでも、きっとブルーなら…。
(狡い、酷い、と膨れっ面で…)
後々まで言うに違いない。
「どうして一人で食べていたの」と、「ぼくにも分けて欲しかったのに」と。
(ほんの一口くらいだったら、胃にもたれたりもしないしなあ…)
とうに歯を磨いた後だったとしても、また磨いたら済むだけのこと。
「ぼくの分は?」と、ブルーの声が聞こえるような気がしてくる。
「分けてくれてもいいでしょ、ケチ!」と。
此処の様子を覗き見ていて、「狡いんだから!」と詰る声が。
(…あいつには、見えやしないんだがなあ…)
サイオンが不器用になっちまったし、と分かってはいても、少し後ろめたい。
明日には、ブルーの分も買って持って行くつもりでも。
「分けて食べる」とか「一口」ではなく、丸ごと一個をプレゼントでも。
(あいつがまるで知らない間に、俺だけ食おうとしてるのがだな…)
どうやら原因らしいよな、と自分でも苦笑するしかない。
悪戯な妖精のせいなのだろうか、こういう気分になったのも。
シュークリームに宿る妖精、それをフォークでチョンとつついて、からかったから。
「お前さんのせいだからな」と心で言ったばかりに、仕返しをされたかもしれない。
妖精が持っている魔法の粉を、パラリと頭に振り掛けられて。
「食べたかったのは、あなたですよね?」と、「私のせいじゃありませんよ」と。
食べたいと思った欲張りな胃袋、それは「あなたの責任でしょう?」と機嫌を損ねた妖精。
「充分、反省して下さいね」と、「恋人さんの分も買いに来てくれるまで」と。
(…妖精に、やられちまったってか?)
そうだとしたなら、明日、二個買うまで、許して貰えないかもしれない。
美味しく一人で食べるつもりが、ブルーで心が占められて。
「狡いってば!」と、「ぼくの分は?」と、責める声が頭から離れなくなって。
(……参ったな……)
どうすりゃいいんだ、とフォークを手にして、シュークリームをまじまじと見る。
ブルーは此処にいないのだから、お裾分けなど出来るわけがない。
シュークリームの妖精がなんと言おうが、ブルーに届けることは不可能。
(ほんの一口、って言われてもだ…)
どうすることも出来ないんだが、とシュークリームを凝視する間に、浮かんだ考え。
「分けて食べるなら、どうなるだろうな?」と。
此処にブルーがいたとしたなら、一個だけのを、どう分けるか、と。
(…俺が一個しか買わずに帰って来るなんてことは…)
ブルーと暮らし始めた後には、絶対に無い、と言い切れる。
必ず「二つ」と注文するし、最後の一個しか店に無ければ、最後の一個はブルー用。
(あいつが喜びそうだから、と…)
その一個を箱に入れて貰って、大切に持って帰るだろう。
「特設コーナーで売ってたんだ」と、「期間限定で、今日までらしい」と。
(次の日も売られているんだったら、その日は買わずに帰って、だ…)
ブルーには欠片も話しはしないで、翌日、急いで買いに出掛ける。
「最後の一個」になってしまわないよう、早めに店に着けるように、と。
ブルーが遠慮しないで済むよう、二つ買うのが一番だから。
(最後の一個だったんだ、って、あいつ用に買って帰っても…)
きっとブルーは、何も考えずに一人で食べてしまいはしない。
「ありがとう!」と嬉しそうな顔をしたって、箱の中身が一個だけだと知ったなら…。
(ハーレイの分は、って…)
尋ねて、顔を曇らせるだろう。
「一個だけしか、もう無かったの?」と。
(俺はいいから、お前が食べろ、と言ったって…)
ブルーは、納得したりはしない。
そういうところが「ブルー」だから。
前のブルーだった頃からそうで、今も魂は全く同じに「ブルー」なのだから。
「独り占めする」という考え方とは、まるで無縁な人間が「ブルー」。
遠く遥かな時の彼方で、ソルジャーだった頃から変わりはしない。
そう、ソルジャーになるよりも前に、既にブルーは「そう」だった。
「自分さえ良ければそれでいい」とは、ブルーは決して考えはしない。
たとえ、相手がシュークリームでも。
たった一個のシュークリームでも、ブルーは独占したりはしない。
「お前の分だ」と手渡されても、「でも…」と食べずにいるのだろう。
「でも、ハーレイの分が無いよ」と、「ぼくだけ一人で食べるなんて」と。
ブルーの悩みを解決するには、分けて食べるしかないだろう。
取り分は減ってしまうけれども、二つに切って。
どうせ食べれば形は崩れてしまうのだから、真っ二つに切っても味わいは同じ。
(皮も中身も、変わりゃしないし…)
二つに切ったシュークリームでも、ブルーは満足に違いない。
「美味しいね」と、フォークを手にして、頬張って。
「ハーレイもそう思うでしょ?」と、「やっぱり食べてみなくっちゃ」と。
一人で食べてもつまらないから、と微笑む姿が目に浮かぶよう。
「こういうのは、分けて食べなくちゃね」と。
そうなるだろうな、と思うけれども、その分け方はどうなるだろう。
なにしろ相手はシュークリームで、パウンドケーキなどとは、かなり異なる。
見た目も、それに構造も。
半分ずつに切ろうとしたって、上手く半分に切れるかどうか。
(…現に、こうしてだな…)
フォークで切ろうとすると、こうだ、と頑固な皮の抵抗に遭った。
ふわふわの雲を思わせる形のくせに、シュークリームの皮は意外に手強い。
綿菓子のように簡単に切れはしなくて、フォークでは、とても歯が立たない。
いや、切ることは出来るけれども、切るというより「引き千切る」感じ。
ギザギザになってしまう断面、綺麗に二つに切るなどは無理。
(でもって、中身もはみ出しちまって…)
フォークや皿にくっついたりして、プリンのようにはいかないカスタードクリーム。
プリンだったら、スプーンで掬えば潰れはしないし、くっつかないのに。
当然、ナイフで切ってやったら、真っ二つにだって出来るのに。
皮も中身も、ちょうど半分に分けて切るのが難しい相手。
シュークリームというお菓子。
(よし、切るぞ、とナイフを手にして挑んでみたって…)
パティシエの技術は持っていないし、真っ二つに切れはしないだろう。
プロのパティシエが挑戦したって、果たして上手くいくのかどうか。
(…そういう菓子を、ブルーと分けて食べるなら…)
大きさが不揃いになってしまうとか、中身が等分にならなかったとか。
そうなる結果が見えているから、どうなるのかが気になるところ。
ハーレイとしては、ブルーに多めに分けてやりたい。
明らかに大きさが違っていたなら、大きい方をブルーに渡す。
皿に乗っけて、「お前は、こっちだ」とフォークを添えて。
「美味そうなんだし、沢山食えよ」と。
(しかしだな…)
ブルーは、その皿を押し返しそう。
「こんなに沢山、貰わなくっても」と、「ぼくはもう、大きくなったんだから」と。
背を伸ばそうとしていた頃と違って、前のブルーと同じ背丈に育ったブルー。
「沢山食べて、大きくなる必要、もう無いんだもの」と、ブルーが口にしそうな正論。
「だから、大きい方はハーレイが食べて」と、「ぼくより身体が大きいものね」と。
(そう言われたって、俺はブルーに…)
せっかくの菓子を多めに食べて欲しいと思うし、ブルーも同じ気持ちだろう。
「ハーレイが買って来たんだから」とも、ブルーは言いそう。
「家まで持って帰って来た分、運んだ御褒美、貰わなくっちゃ」と。
ブルーは家で待っていただけ、シュークリームを多めに貰える理由など無い、と。
(こりゃ困ったぞ…)
大きい方の押し付け合いになっちまうな、と可笑しくなる。
「いっそ量るか」と、「秤で、グラム単位でな」と。
皮も、中身のカスタードクリームも、重さだけなら半分ずつになるように。
たとえ見た目がどうであろうと、皿の上にある量は同じであるように。
(…そうなるかもなあ…)
あいつと分けて食べるなら、とシュークリームにフォークを入れた。
「半分になんか切れやしないし」と、「崩れちまっても、きっちり半分ずつだな」と…。
分けて食べるなら・了
※ブルー君へのお土産にする前に試食、とシュークリームを買ったハーレイ先生。
いつか二人で半分ずつ、ということになったら、本当に秤で量って分けることになりそうv
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