育てる努力を
「ねえ、ハーレイ。育てる努力を…」
怠ってるでしょ、と小さなブルーが口を開いた。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 育てる努力って…」
何のことだ、とハーレイは首を傾げた。
いったい何を言われているのか、まるで全く分からない。
(努力もそうだし、育てるってのも分からんし…)
しかも「怠っている」と指摘されても、心当たりはゼロ。
古典の授業で手抜きはしないし、柔道部の方も全く同じ。
常に全力で生徒を指導し、育てていると自負している。
(…なのにだな…)
何を怠っているとブルーは言うのだろうか。
学校と、この家でしか会っていないし、その範囲しか…。
(怠る部分は無い筈なんだが…?)
授業くらいしか無いじゃないか、と振り出しに戻る。
手抜きなんかはしないというのに、何のことか、と。
指で額を叩いてみても、一向に答えが出て来ない。
ブルーはといえば、呆れた顔でこちらを見詰めている。
「本当に分かっていないわけ?」と書かれた顔で。
(…うーむ…)
これは降参するしかないな、とハーレイは白旗を掲げた。
自分に自覚が無いのだったら、尋ねるしかない。
仕方ない、と腹を括ってブルーに問い掛けた。
「俺が努力を怠ってるって、何のことだ?」
心当たりが無いんだが、と正直に告げると、返った溜息。
「気付いてさえもいないんだ…」と、情けなさそうに。
更にブルーは「そうだろうね」と肩を竦めてみせた。
「自覚があるなら、ちゃんと努力をしてるだろうし」と。
(…おいおいおい…)
これはマズイぞ、とハーレイの背中に冷汗が流れる。
どうやら何か、大失態をしでかしているらしい。
自分では全く気付かない内に、努力するのを怠って。
しかも「育てる努力」なのだし、教師としては大失点。
(…ブルーに言われなかったなら…)
まだまだ怠り続けたわけで、なんとも恥ずかしい限り。
早くブルーから「それ」を聞き出し、直さなければ。
そうするべきだ、とハーレイはブルーに頭を下げた。
「至らない教師で、本当にすまん。それでだな…」
俺が怠ってるのは何だ、と直球で質問した。
「遠慮しないで教えてくれ」と、「すぐ直すから」と。
ブルーは「そう?」と半信半疑といった表情。
「ホントに出来るの?」と、念まで押して。
「当然だろう? 俺には難しそうでも、だ…」
直す努力をしないとな、とハーレイは真剣な顔で答えた。
教師というものはそうあるべきだし、努力する、と。
「それなら、ハッキリ言っちゃうけれど…」
前のハーレイと違って全然ダメ、とブルーは返した。
「ぼくを育ててくれないんだもの」と、頬を膨らませて。
「なんだって?」
前のお前がどうしたって、とハーレイは目を丸くした。
今度こそ、何を言われているのか、もう本当に全くの謎。
前のブルーを育て上げたのは、養父母の筈で…。
(ブルーに記憶が無いというだけで、俺なんかは…)
子育てに関与しちゃいない、と頭が疑問で一杯になる。
なのにどうやったら、前の自分が関係するのだ、と。
(言いがかりにしか、聞こえないんだが…!)
こいつは何を言いたいんだ、とハーレイは首を捻るだけ。
ブルーの意図も分からなければ、言葉の意味も掴めない。
(前の俺が、前のこいつを育てただなんて…)
そんな事実は何処にも無いぞ、と叫びたい気分。
ところがブルーは、「それも忘れた?」と溜息をついた。
「ちゃんと育ててくれていたのに」と、ハーレイを見て。
「前のぼくは、アルタミラで酷い目に遭って…」
成長を止めてしまってたでしょ、とブルーは言った。
それをハーレイたちが育ててくれた、と大真面目に。
「食事をさせて、散歩に、お喋り…。色々とね」
お蔭で大きくなれたのに…、とブルーは続けた。
「そういう努力を、今のハーレイ、怠ってるよね」と。
「…そう言われても…!」
事情が全く違うだろうが、とハーレイは床を指差した。
「いいか、この家は、今のお前の家でだな…」
お前を育てる役目があるのは、俺じゃない、と。
「でも…。ぼくの背、ちっとも伸びないし…」
ハーレイの努力不足だよ、とブルーは尚も言うけれど。
「育てる努力をしてくれないと」と、言い募るけれど…。
「俺は関係無いからな!」
育ちたければ、しっかり食え、とハーレイは突き放した。
「生憎と、今の俺には、育てるお役目は無い」と。
「お母さんが作る料理を、残さずに食え」と説教して。
「今度は自分で努力するんだ」と、「俺は知らん」と…。
育てる努力を・了
怠ってるでしょ、と小さなブルーが口を開いた。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 育てる努力って…」
何のことだ、とハーレイは首を傾げた。
いったい何を言われているのか、まるで全く分からない。
(努力もそうだし、育てるってのも分からんし…)
しかも「怠っている」と指摘されても、心当たりはゼロ。
古典の授業で手抜きはしないし、柔道部の方も全く同じ。
常に全力で生徒を指導し、育てていると自負している。
(…なのにだな…)
何を怠っているとブルーは言うのだろうか。
学校と、この家でしか会っていないし、その範囲しか…。
(怠る部分は無い筈なんだが…?)
授業くらいしか無いじゃないか、と振り出しに戻る。
手抜きなんかはしないというのに、何のことか、と。
指で額を叩いてみても、一向に答えが出て来ない。
ブルーはといえば、呆れた顔でこちらを見詰めている。
「本当に分かっていないわけ?」と書かれた顔で。
(…うーむ…)
これは降参するしかないな、とハーレイは白旗を掲げた。
自分に自覚が無いのだったら、尋ねるしかない。
仕方ない、と腹を括ってブルーに問い掛けた。
「俺が努力を怠ってるって、何のことだ?」
心当たりが無いんだが、と正直に告げると、返った溜息。
「気付いてさえもいないんだ…」と、情けなさそうに。
更にブルーは「そうだろうね」と肩を竦めてみせた。
「自覚があるなら、ちゃんと努力をしてるだろうし」と。
(…おいおいおい…)
これはマズイぞ、とハーレイの背中に冷汗が流れる。
どうやら何か、大失態をしでかしているらしい。
自分では全く気付かない内に、努力するのを怠って。
しかも「育てる努力」なのだし、教師としては大失点。
(…ブルーに言われなかったなら…)
まだまだ怠り続けたわけで、なんとも恥ずかしい限り。
早くブルーから「それ」を聞き出し、直さなければ。
そうするべきだ、とハーレイはブルーに頭を下げた。
「至らない教師で、本当にすまん。それでだな…」
俺が怠ってるのは何だ、と直球で質問した。
「遠慮しないで教えてくれ」と、「すぐ直すから」と。
ブルーは「そう?」と半信半疑といった表情。
「ホントに出来るの?」と、念まで押して。
「当然だろう? 俺には難しそうでも、だ…」
直す努力をしないとな、とハーレイは真剣な顔で答えた。
教師というものはそうあるべきだし、努力する、と。
「それなら、ハッキリ言っちゃうけれど…」
前のハーレイと違って全然ダメ、とブルーは返した。
「ぼくを育ててくれないんだもの」と、頬を膨らませて。
「なんだって?」
前のお前がどうしたって、とハーレイは目を丸くした。
今度こそ、何を言われているのか、もう本当に全くの謎。
前のブルーを育て上げたのは、養父母の筈で…。
(ブルーに記憶が無いというだけで、俺なんかは…)
子育てに関与しちゃいない、と頭が疑問で一杯になる。
なのにどうやったら、前の自分が関係するのだ、と。
(言いがかりにしか、聞こえないんだが…!)
こいつは何を言いたいんだ、とハーレイは首を捻るだけ。
ブルーの意図も分からなければ、言葉の意味も掴めない。
(前の俺が、前のこいつを育てただなんて…)
そんな事実は何処にも無いぞ、と叫びたい気分。
ところがブルーは、「それも忘れた?」と溜息をついた。
「ちゃんと育ててくれていたのに」と、ハーレイを見て。
「前のぼくは、アルタミラで酷い目に遭って…」
成長を止めてしまってたでしょ、とブルーは言った。
それをハーレイたちが育ててくれた、と大真面目に。
「食事をさせて、散歩に、お喋り…。色々とね」
お蔭で大きくなれたのに…、とブルーは続けた。
「そういう努力を、今のハーレイ、怠ってるよね」と。
「…そう言われても…!」
事情が全く違うだろうが、とハーレイは床を指差した。
「いいか、この家は、今のお前の家でだな…」
お前を育てる役目があるのは、俺じゃない、と。
「でも…。ぼくの背、ちっとも伸びないし…」
ハーレイの努力不足だよ、とブルーは尚も言うけれど。
「育てる努力をしてくれないと」と、言い募るけれど…。
「俺は関係無いからな!」
育ちたければ、しっかり食え、とハーレイは突き放した。
「生憎と、今の俺には、育てるお役目は無い」と。
「お母さんが作る料理を、残さずに食え」と説教して。
「今度は自分で努力するんだ」と、「俺は知らん」と…。
育てる努力を・了
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