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子供の意見は
「ねえ、ハーレイ。子供の意見は…」
 尊重すべきでしょ、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 子供って…」
 意見って何だ、とハーレイは目を丸くした。
 ブルーが質問して来た意図が、まるで全く分からない。
 この部屋に子供などはいないし、窓の外を見ても…。
(子供なんか、何処にもいないよなあ…?)
 何処から子供が出て来たんだ、と謎は深まる一方。
 質問が出て来る前の話題も、子供とは無関係だった。
(しかも、尊重すべきとか…)
 そいつは子供が前提では、とハーレイは首を捻り続ける。
 ブルーの問いに対する答えを、一つも見付けられなくて。


(弱ったな…)
 なんと答えてやればいいんだ、と頭の中に渦巻く疑問。
 ブルーが何を尋ねたいのか、片鱗だけでも掴まないと…。
(いつまで黙っているつもりなの、って…)
 怒り出すのは確実なんだ、と思いはしても謎は解けない。
 けれど、ブルーの機嫌を損ねてしまったら…。
(膨れてフグになっちまうしなあ…)
 此処は降参するしかない、とハーレイは腹を括った。
 「分からないの?」と詰られようとも、訊く方がマシ。
 だからブルーを真っ直ぐ見詰めて、頼むことにした。
「すまんが、俺に分かるように、だ…」
 意味を教えてくれないか、とブルーの問いに返した質問。
 子供の意見とは何を指すのか、尊重とは…、と。
「…分からないの?」
 案の定、ブルーは呆れた表情になった。
 「大人なのに」と、「それに、先生だよね?」とも。


 呆れられたのは無理もないけれど、二つ目に傷付く。
 「先生だよね?」という、ブルーの指摘。
 ハーレイは学校の教師なのだし、子供相手の仕事になる。
 言われてみれば、生徒の意見というものは…。
(頭ごなしに否定しないで…)
 尊重すべきものだった、と今更のように気付かされた。
 生徒の言い分をよく聞いてやって、動くのは、それから。
 「そいつは駄目だな」と、否定することになろうとも。
(…うーむ…)
 痛い所を突かれたな、と思いながらも、まず謝った。
 「申し訳ない」と、潔く。
 小さな恋人に頭を下げて、「俺が鈍すぎた」と。
「確かに、お前の言う通りだ。子供の意見は…」
 尊重しないと駄目だったな、と苦笑する。
 「俺の仕事の鉄則なのに、すっかり忘れちまってた」と。


「やっぱりね…。学校の生徒もそうなんだけど…」
 子供全般に言えることでしょ、とブルーは溜息をつく。
 「例えば、お菓子を分ける時とか、どうするの?」と。
「そういや、そうだな…。子供が混じっているんなら…」
 先に子供に選ばせないと、とハーレイは大きく頷いた。
 切り分けたケーキを分ける時には、子供が優先。
 大きさや、それにデコレーションやら、フルーツやら。
 子供が欲しい部分は何処か、意見を尊重しなければ。
(いろんな種類の菓子がある時も…)
 子供の意見が最優先で、大人はじっと待つことになる。
 「どれが食べたい?」と尋ねてやって、選ぶのを。
 どんなに待たされる羽目になろうと、尊重すべき意見。
 ブルーの言葉は、実に正しい。
 何処も間違っていないわけだし、ハーレイは笑んだ。
 「お前、なかなか考えてるな」と。
 「いつもは我儘ばかりのくせに、見直したぞ」と。


「そりゃ、ぼくだって、たまにはね…」
 物事ってヤツを考えるもの、とブルーは得意げ。
 「これでも昔は、ソルジャーをやっていたんだし」と。
「なるほどなあ…。それで、昔に返ってみた、と」
 お前は子供たちと仲が良かったし、と遠い昔が懐かしい。
 前のブルーは、よく子供たちと遊んでいたから…。
(子供の意見は尊重すべき、って考えるよなあ…)
 そんな場面が幾つもあった、と思い出すキャプテン時代。
 「子供たちのために」と、前のブルーは、よく提案した。
 子供たちがそれを望んでいるから、そのように、と。
(…本当に色々あったっけなあ…)
 懐かしいな、と感慨に耽っていたら、ブルーが言った。
 「分かったんなら、尊重してよね」と。


「…はあ?」
 また丸くなった、鳶色の瞳。
 二度目の「はあ?」に合わせて、再び真ん丸に。
「まだ分からないの? ぼくも今は、子供なんだから…」
 尊重してよ、とブルーはキスを強請って来た。
 「唇にね」と、「額や頬じゃ駄目だよ」と。
「馬鹿野郎!」
 それとこれとは話が別だ、とハーレイは軽く拳を握る。
 悪知恵が回るブルーの頭を、コツンと叩いてやるために。
 十四歳の小さなブルーに、唇へのキスは早すぎるから…。



           子供の意見は・了












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