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留守番するんなら
(こういう、独りぼっちの夜は…)
 その内に無くなるんだよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…十八歳になったら、ハーレイと結婚出来るから…)
 誕生日が来たら、直ぐにでも結婚式を挙げることだろう。
 そしたら、ハーレイの家に引っ越し、一緒に暮らす。
 夜になっても、一人きりにはなったりしない、同じ家での日々が始まる。
(昼間は、ハーレイ、お仕事だけれど…)
 夜は必ず帰って来るから、今夜のように一人の夜など、消えて無くなる。
 家の何処かにハーレイがいて、呼べば答えてくれるから。
 返事が無くても捜しに行ったら、ハーレイの姿が見付かるから。
(幸せだよね…)
 昼間はお留守番だけど、と結婚出来る日が待ち遠しい。
 どんな時でもハーレイと一緒で、何処へ行くにも二人が普通な、幸せな日々がやって来る。
 休日となれば、朝から晩まで離れはしないし、ドライブも旅行も、二人で出掛ける。
 ハーレイが「行くか?」と誘ってくれて、運転したり、旅の手配をしてくれたりして。
(…ホントに朝から晩まで一緒…)
 夏休みとかなら、長い旅行も出来るよね、と顔が綻ぶ。
 船旅だって、他の星へと宇宙船で出掛けることだって、長い休暇の時なら簡単。
 アルテメシアにも行ってみたいし、地球一周の船旅もいい。
(だけど、普段は、お留守番…)
 昼の間は、と結婚してからの日常を思う。
 ハーレイは毎朝、スーツに着替えて、学校へ出勤しないといけない。
 柔道部などの指導もあるから、朝はかなり早いことだろう。
(…ぼくが寝ている間に行っちゃう?)
 寝坊してたら、そうなるよね、と肩を竦めた。
 「それが嫌なら、早起きしなくちゃ」と。
 ハーレイと朝食を食べたいのならば、眠くても、朝は起きなくては、と。


 早く出勤するハーレイに合わせて、毎朝、早起き。
 頑張って起きて、顔を洗って、着替えをしたりしている間に…。
(今と同じで、朝御飯、出来てるんだよね、きっと…)
 母の代わりに、ハーレイが作る朝食が待っているだろう。
 美味しそうな匂いが漂って来て、オムレツが焼けていたりして。
(きっとハーレイは、朝から、たっぷり食べるから…)
 ソーセージなどもあるのだろうし、もちろんサラダも。
 それらが載ったテーブルを前に、ハーレイがとびきりの笑顔を向けて来る。
 「おはよう、朝飯、出来ているぞ」と。
 「早く食べろよ」と、「トーストも、直ぐに焼けるから」などと。
(…ぼくが大きく育った後でも、朝御飯、そんなに沢山は…)
 食べられない気がするのだけれども、ハーレイは「食べろ」と勧めて来そう。
 「お前、身体が弱いからな」と、「食える時に、食べておかないと」と。
(寝込んじゃったら、食べないもんね…)
 そうなった時のために体力、と食べさせられる朝御飯。
 「このくらいは、食える筈だしな?」と、ハーレイが皿に盛り付けてくれて。
 「そんなに無理だよ!」と膨れてみたって、「駄目だ」と怖い顔で睨み返されて。
(…朝から、お腹一杯になって…)
 もう動くのも大変だよ、と文句を言っても、ハーレイは、きっと笑うだけ。
 「だったら、軽く運動しろよ」と、「後片付けは、お前がやって」と。
(わざわざ、言われなくっても…)
 後片付けくらい、毎朝、担当するだろう。
 ハーレイが作ってくれたのだから、そのくらいのことはしなくては。
(それから、お掃除…)
 出掛けるハーレイを玄関先で見送った後は、自分の役目に取り掛かる時間。
 掃除に洗濯、「お嫁さん」らしく、こなしてゆく家事。
(午前中の時間は、あっという間に…)
 終わっちゃうかな、と思うけれども、じきに家事にも馴れそうだから…。
(…早く終わって、自由時間が出来ちゃいそう…)
 ハーレイが出るのも早いものね、と壁の時計を眺めてみた。
 「十時頃には終わっていそう」と、「午前中のお茶の時間までには」と。


 午前中の分の家事が済んだら、どうやって時間を過ごそうか。
 留守番なのだし、出掛けないで家にいるべきだろう。
 どうしても買いに行きたい物があるとか、特別な事情が無い限りは。
(まず、お茶を淹れて…)
 それからダイニングで、椅子に座って一休み。
 新聞を広げて、気になる記事を読んでゆく。
(ハーレイは、朝から読んだだろうから…)
 朝食を一緒に食べる間に、教えてくれた記事があるかもしれない。
 「今日は、こんなのが載っていたぞ」と、「面白いから、読んでおくといい」と。
(そういうのがあったら、一番に読んで…)
 ハーレイが感想を言っていたなら、「なるほど」と納得しながら読む。
 何も言わずに出掛けたのなら、ハーレイが仕事から戻った後に…。
(あのね、って…)
 夕食の席などで記事の話題を持ち出し、あれこれと二人で話すのもいい。
 記事によっては、おねだりだって出来ることだろう。
 「書いてあった場所に行ってみたいよ」とか、「あの料理、家で作れそう?」とか。
(お料理の記事もあるもんね?)
 他の地域の名物料理を紹介したり、食べ歩いたりしている記事。
 そんな記事なら、「其処に行きたい」と強請られたって、ハーレイは嫌な顔などはしない。
 「そうだな」と優しい笑みを浮かべて、「いつか行こうか」と相槌を打ってくれる筈。
 名物料理を作れそうか、と尋ねられても、同じこと。
 「それじゃ、作ってみるとするかな」と、「まずはレシピを探さないと」と頷いて。
(…ハーレイが、なんにも言ってなくても…)
 新聞をじっくり読み込んでいけば、色々な発見がありそうな感じ。
 「これは、ハーレイに話さなくっちゃ」と、夕方まで覚えていたい何かが。
 あるいは「これ、ハーレイなら、作れるよね?」と、目を留めてしまうレシピとか。
(…ハーレイが帰るまで、忘れないように…)
 メモしておいたり、新聞の記事を色のついたペンで囲んだりする。
 レシピの場合は、切り抜いても支障が無い場所だったら、切り抜いておこう。
 裏をチェックして広告だったら、ハサミを持って来て、もう早速に。


 午前中の時間は穏やかに過ぎて、お昼になったら、昼御飯。
(ハーレイが、何か作っておいてくれそう…)
 朝食のついでに拵えるとか、前の晩から作ってあるとか。
 なんと言っても、前のハーレイは厨房出身、今のハーレイも料理が得意なのだから。
(ぼくの昼御飯を作るついでに、自分のお弁当だって…)
 手際よく作って持って行きそうな、料理上手な今のハーレイ。
 学校の食堂でも姿を見かけるけれども、お弁当を持って来ることもある。
(一人暮らしでも、お弁当を作っているんだし…)
 結婚して「ブルーのお昼御飯」を作るとなったら、毎日、お弁当かもしれない。
 もしかしたら、用意して行くお昼御飯も…。
(お弁当箱に入っているかも!)
 ハーレイとお揃いのお弁当箱で、中身もお揃い、と胸がときめく。
 お昼になったら、ハーレイは学校で、自分は家で、それぞれ、お弁当箱の蓋を開けて…。
(いただきます、って…)
 一緒に食べている気分になって、楽しんで味わうお弁当。
 ハーレイが仕事から帰って来たなら、お弁当の話も出来るだろう。
 「今日のお弁当に入ってた、あれ、いいよね」などと、味や切り方について和やかに。
(…ウサギの形をしたリンゴとか、タコの形のウインナーとか…)
 ハーレイなら入れてくれそうだけれど、ハーレイの分のお弁当箱には…。
(タコもウサギも、いない気がする…)
 普通のリンゴやウインナーが入って、ごくごく平凡なお弁当。
 職場で食べるお弁当だし、ウサギやタコは似合わないから。
(…ぼくが作ったら、入れちゃうんだけど…)
 愛妻弁当って言うんだよね、と憧れるけれど、入れるチャンスは来そうにない。
 早く起きて出掛けるハーレイよりも、早く起きないと作れないのが大問題。
(うんと早起きして、作ろうとしても…)
 ハーレイなら、きっと目を覚ます。
 「ブルーがいないぞ」と気配で気付いて、キッチンに来るに違いない。
 「おい、お前、何をしてるんだ?」と、お弁当作りをチェックしに。
 「リンゴのウサギを入れちゃ駄目だぞ」と、「ウインナーのタコも駄目だからな?」と。


(…どうせ、そうなっちゃうんだから…)
 お昼御飯だの、お弁当だのは、ハーレイに全部任せてしまおう。
 留守番しながら美味しく食べて、後片付けをすれば充分。
(後は、ハーレイが帰って来るまで…)
 洗濯物を取り込んで、畳んで仕舞うくらいだろうか。
 他にするべき家事と言ったら、買い物や夕食の支度だけれど…。
(そっちも、ハーレイがやっちゃうしね?)
 仕事の帰りに買い物をして、帰宅してから夕食作り。
 今のハーレイの暮らしと変わらないから、結婚した後も同じやり方。
 留守番をするブルーの仕事は、少しだけしか無い毎日。
(…留守番するんなら、もっと頑張りたいけれど…)
 なんにも思い付かないよね、とフウと溜息が零れてしまう。
 「だって、ハーレイが凄すぎるから」と、「ぼくには何も出来ないもの」と。
 頑張って夕食を作ってみたって、出来栄えはハーレイに敵いはしない。
 いくらハーレイが褒めてくれても、自分の腕前は、自分が一番良く分かる。
(お弁当を作っても、ウサギのリンゴは入れちゃ駄目だ、って言われるし…)
 出来そうなことは、パウンドケーキを焼くくらい。
 ハーレイの母が作るのと同じ味がする、大好物のレシピを母に習って、練習して。
(…ホントのホントに、それくらいしか…)
 出来やしない、と嘆いてみたって、どうしようもない今の自分。
 ハーレイよりも遅く生まれて来た分、経験値が足りなさすぎるから。
 どれほど努力を重ねてみたって、ハーレイが先をゆくのだから。
(…もっと何か、ぼくに出来そうなこと…)
 同じ留守番するんなら、と思ったはずみに、ハタと気付いた。
 留守番するのは、昼間だけとは限らないのだ、と。
 ハーレイが仕事で遅くなったら、夕食も外で食べて来る。
 会議が長引いたような時には、他の先生たちと外食。
(いくら結婚してたって…)
 毎回、断ることは無理だし、付き合いで食べに行くこともある。
 そうなった時は、夕食も一人きりで食べて、帰宅を待っているしかない。
 急に決まって遅くなったら、「すまん」と連絡が入ったきりで、独りぼっちで。


(えっと…?)
 ぼくの晩御飯はどうするの、と困った途端に頭に浮かんだ、両親の顔。
 何ブロックも離れていたって、この家は、ちゃんとあるのだから…。
(…食べさせて、って家に帰って、ハーレイの食事とかが終わったら…)
 家まで迎えに来て貰うとか、と大きく頷く。
 「どうせ役には立たないんだし」と、「下手に作ったら、焦がしそうだし」と。
(ハーレイに迷惑かけちゃうよりは、迎えに来て貰う方がいいよね?)
 連絡があった時に「じゃあ、晩御飯は、ぼくの家に行くね」と、言っておいたら大丈夫。
 ハーレイが車で迎えに来るまで、家で晩御飯を御馳走になって…。
(お土産に、ママが作ったケーキとかを貰って…)
 お礼を言って、ハーレイの車で帰ってゆくのが一番いい。
 誰にも迷惑はかからない上、両親だって喜ぶから。
(うん、夜も留守番するんなら…)
 ぼくの家に行って待つのがいいよ、とニッコリと笑う。
 「お土産、ママのパウンドケーキがあったら、ホントに最高なんだけど」と。
 帰りの車で、ハーレイに自慢出来るから。
 「ママのケーキを貰って来たよ」と、「ハーレイの大好きな、パウンドケーキ」と…。



           留守番するんなら・了


※ハーレイ先生と結婚した後、どうやって留守番しようかな、と考えてみたブルー君。
 出来ることは殆ど無さそうな上に、留守番が夜まで続く時には、実家で晩御飯らしいですv










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