一緒に飲めたら
(…今度のあいつも、駄目そうだよなあ…)
コーヒーってヤツは、とハーレイがフウと零した溜息。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(俺は昔から、コーヒーが好きで…)
本物が無かったシャングリラでも飲んでいたんだ、と今も鮮やかに思い出せる。
キャプテン・ハーレイだった頃にも、休憩のお供はコーヒーだった。
(自給自足の船になる前は、本物のコーヒーがあってだな…)
すっかりコーヒー党だったから、白い鯨になった船でも、コーヒー党。
ただし、本物のコーヒーは無くて、キャロブで作った代用品。
それでも満足だったくらいに、コーヒーと共に生きた人生。
(…そのせいってわけでもないんだろうが…)
青い地球の上に生まれ変わっても、同じコーヒー党に育った。
気付けば、コーヒーと歩む人生、けして紅茶と歩んではいない。
(もちろん紅茶だっていけるし、好き嫌いだって無いんだが…)
選んでいいならコーヒーだよな、と断言出来る。
「どちらになさいますか?」と尋ねられたなら、迷わず選ぶものはコーヒー。
好き嫌いとは違った次元で、好んでいると言えるだろう。
(…そういう点では、今のブルーも…)
前と同じで、好き嫌いの無い子供だけれども、コーヒーよりは紅茶を好む。
好むどころか、前のブルーと全く同じに、どうもコーヒーは苦手な模様。
(俺が飲むから、欲しがったくせに…)
苦すぎて飲めなかった挙句に、眠れなかったと文句たらたら。
カフェインの仕業で、前のブルーも、同じ目に何度も遭っていた。
(今のあいつは、まだチビだから…)
もっと育ったら、カフェインは克服するかもしれない。
けれど、コーヒーを好むようになるかどうか、と考えてみたら…。
(…どうやら、絶望的ってヤツで…)
望みは薄いな、と諦めの境地。
何故なら、自分が子供だった頃には、今のブルーよりもマシだったから。
いくらコーヒー党と言っても、生まれた時からそうではない。
赤ん坊ならミルクなのだし、少し育っても、子供が飲むのはミルクなど。
(ジュースとかを飲む年になっても…)
コーヒーは、まだまだ、大人の飲み物。
紅茶の方なら、両親の友人が来た時などに、お相伴したりもしたけれど…。
(…コーヒーは出て来なかったよなあ…)
チビの頃には、と懐かしく、隣町の家を思い出す。
あの家で飲んだ初めてのコーヒー、それは両親に強請ったもの。
両親が美味しそうに飲んでいるから、「欲しい」とカップを差し出して。
(まだ早い、とは言われたんだが…)
そう言われると、一層、背伸びをしたくなる。
だから強引に注いで貰って、口に含んで、「苦い!」とビックリ仰天した。
そこまでは、今のブルーと同じ。
違うのは、「苦い!」と驚いた後。
(…これが大人の飲み物なんだ、と…)
心の中で噛み締めながら、気取って、ちゃんと飲み干した。
砂糖やミルクを加えたのかは、生憎、覚えていないけれども。
(…それからも、懲りはしなかったよなあ…)
それを思うと、カフェインに負けはしなかったらしい。
昼間は元気に走り回って、夜は疲れてグッスリだった子供なのだし、眠れて当然。
つまりコーヒーは「苦かった」だけで、成長と共に舌だって馴れる。
いつの間にやら、コーヒー党になっていた。
いわゆる「上の学校」時代は、喫茶店などで飲むなら、コーヒー。
そうして今に至るけれども、ブルーの場合は無理な気がする。
(既に苦さに敗北してるし、カフェインの方も惨敗だしなあ…)
今のブルーが飲める「コーヒー」は、前のブルーと同じもの。
砂糖をたっぷり、ミルクも加えて、おまけにホイップクリームまで。
もはや「コーヒー」とは呼べない代物、それがブルーでも飲める「コーヒー」。
前のブルーは最後まで「それ」で、終生、変わりはしなかった。
「ぼくも飲むよ」と言い出した時は、必ず、そういう結末になって。
青い地球の上に生まれたブルーも、恐らく同じことだろう。
まだ子供だから、可能性はゼロではないけれど…。
(…今の時点で、コーヒー党の欠片も無いんだし…)
才能の片鱗さえ見えていないから、大きくなっても、変わるとはあまり思えない。
今は紅茶を好んでいるのが、コーヒー党に育つだなんて、万に一つも無いだろう。
いくら「ハーレイ」がコーヒー党でも、それに合わせて舌を変えるのは…。
(…どう考えても、無理だよなあ?)
殆ど修行になっちまうぞ、とカップの縁をカチンと弾く。
ブルーはコーヒーが「苦手」なのだし、それを克服しないといけない。
気取って飲める子供ならまだしも、そうではないから、修行になる。
「苦いけれども、飲まなければ」と、喉へと無理やり流し込む日々。
それを今から重ねていったら、飲めるようになるかもしれないけれど…。
(今のあいつは、甘えん坊の弱虫なんだし…)
修行なんかは、したくもないに違いない。
第一、前のブルーにしたって、修行を積みはしなかった。
「ハーレイと一緒に飲みたいから」と、コーヒー党になるための努力をしてなどはいない。
前のブルーなら、強い意志と心を持っていたから、修行するなら、出来ただろうに。
「この日までには、飲めるようにする」と、目標を決めて、挑んだならば。
(…前のあいつなら、きっと出来たぞ)
他にやるべきことが多くて、やっていないというだけだ、と確信出来る。
仲間たちを地球まで導くことが、前のブルーの唯一の、そして最大の務め。
そのための努力は惜しまなかったし、それ以外は切り捨ててゆかねばならない。
「コーヒー党になるための修行」なんかは、している暇さえ無かっただろう。
そのための時間はあったとしても、それに割く心の余裕が無くて。
「頑張って、飲めるようになろう」と、思い付きさえしないで生きて。
(…そうして、修行はしないままで、だ…)
前のブルーは逝ってしまって、今のブルーが戻って来た。
甘えん坊で弱虫のブルー、修行なんかは「無理だってば!」と泣き出しそうなブルーが。
修行と聞いただけで逃げ出し、「許して」と悲鳴を上げそうなブルー。
たかが「コーヒー」が相手でも。
コーヒー党になれたとしたら、人生の幅が広がるとしても。
(…其処なんだよなあ…)
あいつがコーヒー党だったなら、と思考が最初の所に戻る。
「もしもブルーが、コーヒー党に育ってくれたら」と、今の自分の願いと共に。
叶う見込みは少ない夢。
今のブルーが、コーヒーを好むタイプになるのは難しい。
分かっているから、夢の世界を追い掛けたくなる。
「あいつの舌が変わってくれたら」と、コーヒー党のブルーがいる世界へと。
ブルーがコーヒーを好きになったら、きっと素敵なことだろう。
前のブルーとは出来なかったこと、その中の一つが今度は出来るようになるから。
寛ぎの時間に二人でコーヒー、そんなひと時が持てる人生。
(あいつと、コーヒーを一緒に飲めたら…)
家での過ごし方も変わるな、と大きく頷く。
二人で一緒に暮らし始めたら、もちろん、食事の時間も一緒。
休日でなくても、食事が済んだら、今夜みたいに…。
(後片付けを済ませて、コーヒーを淹れて…)
ブルーと二人で、ゆっくりとカップを傾ける。
淹れたばかりの熱いコーヒー、香り高い湯気が漂うカップ。
(そいつを、二人で…)
味わいながら、色々と話して、笑い合って、という夜の過ごし方。
ブルーもコーヒー党だったならば、コーヒーについての話だけでも盛り上がるだろう。
いつもと違う豆で淹れたら、あれこれと味を評価して。
淹れ方を変えてみた日だったら、普段に比べてどうなのか、などと。
(一緒に飲めたら、そんな話が出来るんだ)
これはブルーが「飲む」というだけでは、出来ないこと。
ブルーも心底、コーヒーが好きで、味わって飲めるタイプでないと、けして出来ない。
何故なら、コーヒー党でなければ、ブルーはコーヒーを楽しめないから。
「ぼくも飲むよ」と付き合うだけでは、修行するのと変わらない。
ブルーにとっては「苦いだけ」の飲み物、それを無理やり飲み下したって…。
(美味しいね、とは言えやしないんだしなあ…)
残念だ、と思うからこそ、夢の世界で遊びたい。
ブルーがコーヒー党な世界で、ブルーと一緒に飲めたら、と。
そういうブルーになってくれたら、初めてのデートも変わりそう。
チビのブルーが大きく育って、初めて二人で出掛ける時。
(飲まず食わず、ってわけにはいかないんだしな?)
何処かで食事で、お茶にも誘うわけだけれども、そのための店。
厳選したい店の候補に、「コーヒーが美味しい喫茶店」が入ることだろう。
コーヒー党の今の自分の行きつけの店で、雰囲気もいい店を選ばなければ、と。
(…紅茶の方だと、サッパリなんだが…)
何処が評判の店になるのか、調べないと分からないほどだけれども、コーヒーは違う。
なにしろ自分の好きな飲み物、初めて入る店にしたって…。
(だいたい、勘で分かるんだよな)
美味いコーヒーを出すかどうかは、とコーヒー党の勘には自信がある。
紅茶の店だと迷うけれども、コーヒーの店なら迷わない。
「よし、美味そうだ」と思えば入って、それを外したことは無いのが自分。
(だから、あいつと一緒に飲めたら…)
コーヒーの美味しい店を選んで連れてゆく。
「美味いんだぞ?」と、店の表で、小さな看板を指差して。
中に入ったら、ブルーと二人でメニューを広げる。
コーヒーと一緒に頼みたいケーキ、それを選ぶのも大切だけれど…。
(どのコーヒーを注文するのか、も…)
とても重要なことなんだよな、とコーヒーのカップを傾ける。
豆や淹れ方、それでコーヒーは変わるから。
行きつけの店で選ぶにしても、その日の気分で決めたいくらいに、奥の深い世界。
(あいつと二人で、メニューを眺めて…)
コーヒーで決めるか、ケーキに合わせてコーヒーを選ぶか、それも楽しい。
「どっちにする?」と、迷うような店もあるだろう。
美味しそうなケーキが幾つもあって、ブルーの瞳が釘付けになって。
「コーヒーもいいけど、先にケーキかな?」と、訊かれたりして。
そのケーキだって、ブルーの目を惹くものが幾つもあったなら…。
(残したら、俺が食ってやるから、って…)
全部、注文したっていい。
そして、それに合いそうな味のコーヒー、それはどれかと二人で悩んで。
(…そんな具合に、うんと楽しいデートってヤツが…)
出来るんだよなあ、と夢の世界に酔いしれながら、溜息をつく。
「あいつがコーヒーを一緒に飲めたら、出来るんだが」と。
家での夕食の後の時間も、二人でコーヒーを淹れられるのに、と。
(こうやって、今のようにだな…)
カップに淹れるコーヒーにしても、ブルーと二人分を淹れて楽しむ。
「今日はどれだ?」と、豆を選んで、淹れ方も決めて。
(…しかし、今度のあいつも、きっと…)
飲めないだろうし、夢で終わるぞ、と少し悲しい。
ブルーがコーヒーを一緒に飲めたら、本当に素敵だろうから。
家での時間も、デートの時間も、飲めないブルーと二人より、幅が広がるのだから…。
一緒に飲めたら・了
※ブルー君がコーヒー党だったら、と考え始めたハーレイ先生。「一緒に飲めたら」と。
もしもブルー君がコーヒー党なら、確かに色々変わりそう。無理な感じしかしませんけどv
コーヒーってヤツは、とハーレイがフウと零した溜息。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(俺は昔から、コーヒーが好きで…)
本物が無かったシャングリラでも飲んでいたんだ、と今も鮮やかに思い出せる。
キャプテン・ハーレイだった頃にも、休憩のお供はコーヒーだった。
(自給自足の船になる前は、本物のコーヒーがあってだな…)
すっかりコーヒー党だったから、白い鯨になった船でも、コーヒー党。
ただし、本物のコーヒーは無くて、キャロブで作った代用品。
それでも満足だったくらいに、コーヒーと共に生きた人生。
(…そのせいってわけでもないんだろうが…)
青い地球の上に生まれ変わっても、同じコーヒー党に育った。
気付けば、コーヒーと歩む人生、けして紅茶と歩んではいない。
(もちろん紅茶だっていけるし、好き嫌いだって無いんだが…)
選んでいいならコーヒーだよな、と断言出来る。
「どちらになさいますか?」と尋ねられたなら、迷わず選ぶものはコーヒー。
好き嫌いとは違った次元で、好んでいると言えるだろう。
(…そういう点では、今のブルーも…)
前と同じで、好き嫌いの無い子供だけれども、コーヒーよりは紅茶を好む。
好むどころか、前のブルーと全く同じに、どうもコーヒーは苦手な模様。
(俺が飲むから、欲しがったくせに…)
苦すぎて飲めなかった挙句に、眠れなかったと文句たらたら。
カフェインの仕業で、前のブルーも、同じ目に何度も遭っていた。
(今のあいつは、まだチビだから…)
もっと育ったら、カフェインは克服するかもしれない。
けれど、コーヒーを好むようになるかどうか、と考えてみたら…。
(…どうやら、絶望的ってヤツで…)
望みは薄いな、と諦めの境地。
何故なら、自分が子供だった頃には、今のブルーよりもマシだったから。
いくらコーヒー党と言っても、生まれた時からそうではない。
赤ん坊ならミルクなのだし、少し育っても、子供が飲むのはミルクなど。
(ジュースとかを飲む年になっても…)
コーヒーは、まだまだ、大人の飲み物。
紅茶の方なら、両親の友人が来た時などに、お相伴したりもしたけれど…。
(…コーヒーは出て来なかったよなあ…)
チビの頃には、と懐かしく、隣町の家を思い出す。
あの家で飲んだ初めてのコーヒー、それは両親に強請ったもの。
両親が美味しそうに飲んでいるから、「欲しい」とカップを差し出して。
(まだ早い、とは言われたんだが…)
そう言われると、一層、背伸びをしたくなる。
だから強引に注いで貰って、口に含んで、「苦い!」とビックリ仰天した。
そこまでは、今のブルーと同じ。
違うのは、「苦い!」と驚いた後。
(…これが大人の飲み物なんだ、と…)
心の中で噛み締めながら、気取って、ちゃんと飲み干した。
砂糖やミルクを加えたのかは、生憎、覚えていないけれども。
(…それからも、懲りはしなかったよなあ…)
それを思うと、カフェインに負けはしなかったらしい。
昼間は元気に走り回って、夜は疲れてグッスリだった子供なのだし、眠れて当然。
つまりコーヒーは「苦かった」だけで、成長と共に舌だって馴れる。
いつの間にやら、コーヒー党になっていた。
いわゆる「上の学校」時代は、喫茶店などで飲むなら、コーヒー。
そうして今に至るけれども、ブルーの場合は無理な気がする。
(既に苦さに敗北してるし、カフェインの方も惨敗だしなあ…)
今のブルーが飲める「コーヒー」は、前のブルーと同じもの。
砂糖をたっぷり、ミルクも加えて、おまけにホイップクリームまで。
もはや「コーヒー」とは呼べない代物、それがブルーでも飲める「コーヒー」。
前のブルーは最後まで「それ」で、終生、変わりはしなかった。
「ぼくも飲むよ」と言い出した時は、必ず、そういう結末になって。
青い地球の上に生まれたブルーも、恐らく同じことだろう。
まだ子供だから、可能性はゼロではないけれど…。
(…今の時点で、コーヒー党の欠片も無いんだし…)
才能の片鱗さえ見えていないから、大きくなっても、変わるとはあまり思えない。
今は紅茶を好んでいるのが、コーヒー党に育つだなんて、万に一つも無いだろう。
いくら「ハーレイ」がコーヒー党でも、それに合わせて舌を変えるのは…。
(…どう考えても、無理だよなあ?)
殆ど修行になっちまうぞ、とカップの縁をカチンと弾く。
ブルーはコーヒーが「苦手」なのだし、それを克服しないといけない。
気取って飲める子供ならまだしも、そうではないから、修行になる。
「苦いけれども、飲まなければ」と、喉へと無理やり流し込む日々。
それを今から重ねていったら、飲めるようになるかもしれないけれど…。
(今のあいつは、甘えん坊の弱虫なんだし…)
修行なんかは、したくもないに違いない。
第一、前のブルーにしたって、修行を積みはしなかった。
「ハーレイと一緒に飲みたいから」と、コーヒー党になるための努力をしてなどはいない。
前のブルーなら、強い意志と心を持っていたから、修行するなら、出来ただろうに。
「この日までには、飲めるようにする」と、目標を決めて、挑んだならば。
(…前のあいつなら、きっと出来たぞ)
他にやるべきことが多くて、やっていないというだけだ、と確信出来る。
仲間たちを地球まで導くことが、前のブルーの唯一の、そして最大の務め。
そのための努力は惜しまなかったし、それ以外は切り捨ててゆかねばならない。
「コーヒー党になるための修行」なんかは、している暇さえ無かっただろう。
そのための時間はあったとしても、それに割く心の余裕が無くて。
「頑張って、飲めるようになろう」と、思い付きさえしないで生きて。
(…そうして、修行はしないままで、だ…)
前のブルーは逝ってしまって、今のブルーが戻って来た。
甘えん坊で弱虫のブルー、修行なんかは「無理だってば!」と泣き出しそうなブルーが。
修行と聞いただけで逃げ出し、「許して」と悲鳴を上げそうなブルー。
たかが「コーヒー」が相手でも。
コーヒー党になれたとしたら、人生の幅が広がるとしても。
(…其処なんだよなあ…)
あいつがコーヒー党だったなら、と思考が最初の所に戻る。
「もしもブルーが、コーヒー党に育ってくれたら」と、今の自分の願いと共に。
叶う見込みは少ない夢。
今のブルーが、コーヒーを好むタイプになるのは難しい。
分かっているから、夢の世界を追い掛けたくなる。
「あいつの舌が変わってくれたら」と、コーヒー党のブルーがいる世界へと。
ブルーがコーヒーを好きになったら、きっと素敵なことだろう。
前のブルーとは出来なかったこと、その中の一つが今度は出来るようになるから。
寛ぎの時間に二人でコーヒー、そんなひと時が持てる人生。
(あいつと、コーヒーを一緒に飲めたら…)
家での過ごし方も変わるな、と大きく頷く。
二人で一緒に暮らし始めたら、もちろん、食事の時間も一緒。
休日でなくても、食事が済んだら、今夜みたいに…。
(後片付けを済ませて、コーヒーを淹れて…)
ブルーと二人で、ゆっくりとカップを傾ける。
淹れたばかりの熱いコーヒー、香り高い湯気が漂うカップ。
(そいつを、二人で…)
味わいながら、色々と話して、笑い合って、という夜の過ごし方。
ブルーもコーヒー党だったならば、コーヒーについての話だけでも盛り上がるだろう。
いつもと違う豆で淹れたら、あれこれと味を評価して。
淹れ方を変えてみた日だったら、普段に比べてどうなのか、などと。
(一緒に飲めたら、そんな話が出来るんだ)
これはブルーが「飲む」というだけでは、出来ないこと。
ブルーも心底、コーヒーが好きで、味わって飲めるタイプでないと、けして出来ない。
何故なら、コーヒー党でなければ、ブルーはコーヒーを楽しめないから。
「ぼくも飲むよ」と付き合うだけでは、修行するのと変わらない。
ブルーにとっては「苦いだけ」の飲み物、それを無理やり飲み下したって…。
(美味しいね、とは言えやしないんだしなあ…)
残念だ、と思うからこそ、夢の世界で遊びたい。
ブルーがコーヒー党な世界で、ブルーと一緒に飲めたら、と。
そういうブルーになってくれたら、初めてのデートも変わりそう。
チビのブルーが大きく育って、初めて二人で出掛ける時。
(飲まず食わず、ってわけにはいかないんだしな?)
何処かで食事で、お茶にも誘うわけだけれども、そのための店。
厳選したい店の候補に、「コーヒーが美味しい喫茶店」が入ることだろう。
コーヒー党の今の自分の行きつけの店で、雰囲気もいい店を選ばなければ、と。
(…紅茶の方だと、サッパリなんだが…)
何処が評判の店になるのか、調べないと分からないほどだけれども、コーヒーは違う。
なにしろ自分の好きな飲み物、初めて入る店にしたって…。
(だいたい、勘で分かるんだよな)
美味いコーヒーを出すかどうかは、とコーヒー党の勘には自信がある。
紅茶の店だと迷うけれども、コーヒーの店なら迷わない。
「よし、美味そうだ」と思えば入って、それを外したことは無いのが自分。
(だから、あいつと一緒に飲めたら…)
コーヒーの美味しい店を選んで連れてゆく。
「美味いんだぞ?」と、店の表で、小さな看板を指差して。
中に入ったら、ブルーと二人でメニューを広げる。
コーヒーと一緒に頼みたいケーキ、それを選ぶのも大切だけれど…。
(どのコーヒーを注文するのか、も…)
とても重要なことなんだよな、とコーヒーのカップを傾ける。
豆や淹れ方、それでコーヒーは変わるから。
行きつけの店で選ぶにしても、その日の気分で決めたいくらいに、奥の深い世界。
(あいつと二人で、メニューを眺めて…)
コーヒーで決めるか、ケーキに合わせてコーヒーを選ぶか、それも楽しい。
「どっちにする?」と、迷うような店もあるだろう。
美味しそうなケーキが幾つもあって、ブルーの瞳が釘付けになって。
「コーヒーもいいけど、先にケーキかな?」と、訊かれたりして。
そのケーキだって、ブルーの目を惹くものが幾つもあったなら…。
(残したら、俺が食ってやるから、って…)
全部、注文したっていい。
そして、それに合いそうな味のコーヒー、それはどれかと二人で悩んで。
(…そんな具合に、うんと楽しいデートってヤツが…)
出来るんだよなあ、と夢の世界に酔いしれながら、溜息をつく。
「あいつがコーヒーを一緒に飲めたら、出来るんだが」と。
家での夕食の後の時間も、二人でコーヒーを淹れられるのに、と。
(こうやって、今のようにだな…)
カップに淹れるコーヒーにしても、ブルーと二人分を淹れて楽しむ。
「今日はどれだ?」と、豆を選んで、淹れ方も決めて。
(…しかし、今度のあいつも、きっと…)
飲めないだろうし、夢で終わるぞ、と少し悲しい。
ブルーがコーヒーを一緒に飲めたら、本当に素敵だろうから。
家での時間も、デートの時間も、飲めないブルーと二人より、幅が広がるのだから…。
一緒に飲めたら・了
※ブルー君がコーヒー党だったら、と考え始めたハーレイ先生。「一緒に飲めたら」と。
もしもブルー君がコーヒー党なら、確かに色々変わりそう。無理な感じしかしませんけどv
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