忍者ブログ

眠いんだけど
「ねえ、ハーレイ。眠いんだけど…」
 寝てもいい、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、何の前触れも無く。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「眠いって…。どうしたんだ?」
 何処か具合でも悪いのか、とハーレイは顔を曇らせた。
 元気そうに見えるブルーだけれども、油断は出来ない。
(俺が来る日を潰したくなくて、無理をして…)
 起きていそうなのが、ブルーの性分。
 実際、幾つも前科があった。
 微熱があるのに隠していたとか、そういったもの。
 今日もそれかもしれないな、とハーレイの心が騒ぎ出す。
 ブルーの母を呼ぶべきだろうか、と考えたけれど…。
「ううん、ちょっぴり眠いだけだよ」
 昨夜、夜更かししちゃったから、とブルーは肩を竦めた。
 「早く寝なさい、って言われてたのに」と。
 本を読むのに夢中になって、遅くなってしまったらしい。
 それなら、ひとまず安心ではある。
 でも…。


「睡眠不足というヤツか…。身体に悪いぞ」
 あまり褒められたモンじゃない、とハーレイは注意した。
 ただでも身体が弱いのだから、無理はいけない、と。
「うん…。だから、ママには言わないでくれる?」
 叱られちゃうもの、とブルーは縋るような瞳になった。
 夜に本を読むのを禁止されそうで、怖いのだという。
「お前なあ…。それで、どうしたいんだ?」
「ママが来るまでに、ちょっぴり、お昼寝…」
 目覚ましと見張りをやってくれない、と赤い瞳が瞬く。
 ブルーの母が来る時間になる前に、ブルーを起こす。
 それが「目覚まし」。
 見張りの方は言うまでもなくて、母の足音がしたら…。
「お前を叩き起こせ、ってか?」
「そう! 階段を上って来るんだから…」
 足音は直ぐに分かるでしょ、とブルーが指摘する通り。
 トントンと軽やかな音がするから、簡単に分かる。
「ふむ…。俺は一人で、のんびりしてればいいんだな?」
 お茶を飲みながら本でも読んで、とハーレイは苦笑した。
 そのくらいは、まあ、いいいだろう。
 夜更かしは褒められないのだけれども、昼寝するのなら。


 よし、とハーレイはブルーの頼みを請け負った。
 ブルーがベッドで寝ている間、母が来ないか、番をする。
 それから注意して時計を見ていて、夕方になったら…。
(ブルーのお母さんが、空になった皿を下げに来て…)
 「お茶のおかわりは如何ですか?」と尋ねるのが常。
 夕食までには、まだ時間があるから、それまでの分、と。
 その時間が来る前に、ブルーを起こす。
 「そろそろ起きろよ」と、肩を優しく揺すってやって。
 「でないと、昼寝がバレちまうぞ」と、耳元で言って。
(なあに、簡単な役目だってな)
 どの本を読んで待つとするかな、と本棚の方に目を遣る。
 ブルーの蔵書は年相応のものだけれども、それなりに…。
(充実してるし、退屈なんかはしないってモンだ)
 二冊くらいは読めそうだな、と背表紙を眺める。
 子供向けだし、読破するのに、さほど時間はかからない。
 あれと、あれと…、と算段していると、ブルーが言った。
 「それじゃ、寝るから」と。


「ああ。昨夜の分を、しっかり取り戻すんだぞ」
 ついでに身体を冷やさんようにな、とハーレイは笑んだ。
 「上掛けを軽くかけるんだぞ」とベッドを指して。
「分かってる。あ、それから…」
 ぼくを起こす時の注意だけれど…、とブルーが口ごもる。
 「ママにバレないように、守ってくれる?」と。
「なんだ、大声を出すなってか?」
「あっ、分かった? ぼくって、寝起きが悪いから…」
 ハーレイの声もそうだし、ぼくも同じ、とブルーが頷く。
「ママだと思って、「起きてるよ!」って言いそう…」
「大声でか?」
「うん、思いっ切り…」
 だから…、とブルーは真剣な瞳になった。
 「起こす時には、口を塞いで」と。
「俺の手で、口を塞いどけ、ってか?」
「違うよ、起こす時なんだよ?」
 王子様のキスに決まってるでしょ、と赤い瞳が煌めいた。
 「ぼくは起きるし、口も塞げるし、一石二鳥!」と。


「馬鹿野郎!」
 俺の手で口を塞いでやる、とハーレイは眉を吊り上げた。
 「そもそも、眠くないんだろうが!」と。
 眠いなどとは、嘘で口実、キスが目当てに決まっている。
 なにしろ、相手はブルーだから。
 本当に眠いと言うのだったら、口を塞いで起こすまで。
 「起きろよ、お母さん、来ちまうぞ」と。
 「約束通り起こしてやったぞ」と、「早く起きろ」と…。



            眠いんだけど・了








拍手[0回]

PR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
 管理人のみ閲覧
 
Copyright ©  -- つれづれシャングリラ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]