そっくりだったら
(今の俺はだ、前の俺にだな…)
瓜二つというわけなんだが、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(誰が見たって、今の俺の顔はキャプテン・ハーレイで…)
その顔に惚れ込んだ、キャプテン・ハーレイのファンだという理髪店主がいるくらい。
初めて店に入った瞬間、理髪店主はとても喜んだと、最近、知った。
(若きキャプテン・ハーレイが入って来たんですよ、と感激してたっけなあ…)
今は行きつけの、その理髪店で、今の髪型を勧められた。
キャプテン・ハーレイそのものになる、オールバックのスタイルを。
(俺も、嫌ではなかったし…)
それを選んで、服装以外は、前の自分と変わらない。
そっくりそのまま、「キャプテン・ハーレイ」。
(でもって、今のブルーの方も…)
少々、チビにはなっているけれど、ソルジャー・ブルーに瓜二つ。
いつか大きく育った時には、前のブルーそっくりの姿になる筈。
(神様も、実に気が利いてるよな)
前の俺たちと同じ姿を下さるなんて、と神に感謝する。
もちろん、ブルーがどんな姿でも、気にしないで恋をするけれど。
似ても似つかない顔立ちだろうと、人間ではないものになっていようと。
(あいつなのか、と信じられない顔であろうが、ウサギだろうが…)
俺は必ず、あいつを見付け出すんだから、と笑んだ所で、浮かんだ考え。
「待てよ?」と、「あいつが、俺にそっくりだったら?」と。
(…そう、今の俺に、そっくりなあいつ…)
キャプテン・ハーレイに瓜二つなブルー、そういうこともあったのかも、と。
(それでも、俺は気付くんだろうが…)
恋も出来るが、流石にちょっと…、と少し尻込みしたくなる。
なんと言っても、前の自分は「モテなかった」から。
白いシャングリラで暮らしていた頃、そんな定評があったものだから。
神様が生まれ変わらせてくれたのならば、姿に文句をつけてはいけない。
ブルーと二人で青い地球の上で、一緒に生きてゆけるのだから。
(とはいえ、前の俺が二人になるよりは…)
あいつが二人の方がいいな、と心の中で注文をつけた。
「どうせだったら、その方がいい」と、「それが、世の中のためってモンだ」と。
今の自分は、学生時代は、そこそこモテていたけれど。
ファンの女性もいたのだけれども、世間一般の認識からすれば…。
(断然、ソルジャー・ブルーの方が…)
人気があるのは、書店に並んだ写真集の数を見たって、ハッキリと分かる。
前のブルーの写真を収めた、写真集たちは大人気。
出版されている数も、ジョミーやキースの写真集よりも遥かに多い。
(そんなブルーと、同じ顔が増えた方がだな…)
きっと世間のためになる。
「キャプテン・ハーレイ」が二人いるより、「ソルジャー・ブルー」が二人がいい。
(目の保養というヤツだしな!)
そっくりだったら、そっちのコースでお願いしたい、とマグカップの縁を指で弾いた。
神様にだって、美意識くらいはあるだろうし、と笑いながら。
(俺が、前のあいつとそっくりだったら…)
人生が変わって来そうな感じ。
生まれた時から、とても可愛い赤ん坊で…。
(その上、アルビノってわけなんだが…)
なんと言っても中身は俺だ、と、頑丈さには自信がある。
今の小さなブルーと違って、弱い身体ではないだろう。
サイオンにしても、不器用ではなく、今の自分と同じ程度に使える筈。
(つまり人生、何も困りはしない上に、だ…)
両親も環境も、今の自分と全く同じ。
「ソルジャー・ブルーにそっくり」だろうと、進んでゆく道は変わらない。
けれども、姿形が変わるのだから…。
(思いっ切りモテるに違いないぞ…)
とびきりの美形が、柔道と水泳の凄い腕前を持つんだから、と顎に当てた手。
「周りが放っておかないよな?」と、「試合に出る度、花束の山だ」と。
人生のコースは変わらなくても、彩りは大きく変わって来そう。
プロの選手になる道だって、今の自分は易々と蹴って来たけれど…。
(前のあいつにそっくりだったら、そう簡単には…)
断らせては貰えないな、と苦笑する。
プロの選手になった場合は、大勢のファンがつくだろうから、スカウトの方も諦めない。
「この条件で如何ですか」と、しつこく追って来るだろう。
家の前まで押し掛けて来たり、あらゆる所で待ち伏せたり、と。
(それでも、俺は断るんだが…)
教師の道に進むんだがな、と思うけれども、学校に来ても、その顔だから…。
(新人教師で、着任するなり…)
キャーッと黄色い悲鳴が上がって、年長組の女子生徒たちが騒ぎそう。
男子生徒も、ポカンとした顔で見詰めているのに違いない。
「凄い先生がやって来たぞ」と、「おまけに、柔道と水泳が強いんだって?」と。
(学校でも、モテてしまうんだ…)
今の自分も、生徒たちに人気の教師だけれども、それ以上に人気が出るだろう。
休み時間は引っ張りだこで、食堂に行っても、取り囲まれるに違いない。
(それから、此処が大事なトコで…)
前のあいつにそっくりだったら、外見の年は若いままだ、と大きく頷く。
けして年齢を重ねることなく、前のブルーと同じ姿になったら年を取るのを止めるだろう、と。
(だから当然、若い姿で…)
今の自分の年になっても、外見は「ソルジャー・ブルー」のまま。
「年齢を重ねた、三十代のソルジャー・ブルー」には、決してならない。
若い姿を保ったままだから、ファンの生徒も増えてゆく。
勤めた学校で出会った数だけ、「ハーレイ先生!」と慕う生徒が。
(そうなるに決まってるんだよなあ…)
俺の人生は大きく変わるぞ、と思うのは、その点。
前の自分も、今の自分も、年を重ねるのが好きなタイプで、その道を選んだ。
けれど、前のブルーにそっくりだったら、そちらを選びはしないだろう。
前の自分の記憶が無くても、魂は「全て覚えている」から。
「ブルーが年を重ねる」だなんて、「有り得ないことだ」と知っているから。
そういうわけで、「ソルジャー・ブルー」にそっくりだったら、年は取らない。
若い姿を保ち続けて、今のブルーと再会を遂げることになる。
チビのブルーの教室で出会って、ブルーに聖痕が現れて…。
(俺の記憶も、あいつの記憶も…)
一気に戻って、互いに恋に落ちるけれども、顔はそっくりな二人の出会い。
ブルーがチビの姿な分だけ、少々、救いはあるのだけれど…。
(…俺の記憶が戻ったら…)
なんと恋人は、今の自分と瓜二つな顔。
今は十四歳の子供で、年の差の分、まだマシだけれど、いずれ育てば、もう完全に…。
(見た人たちが、双子なのか、と思うくらいに…)
そっくりになって、見分けがつかない程だろう。
おまけに、チビのブルーと再会した後、家に帰って鏡を見たら…。
(……鏡の中に、前の俺が恋をしていた顔が……)
映るんだよな、と愕然とした。
いくら想像の世界と言っても、「そいつは、ちょっと…」と。
(おいおいおい…)
なんとも心臓に悪いじゃないか、という気がする。
鏡の向こうに、恋人の顔があるなんて。
前の生から愛し続けて、生まれ変わって、また巡り会えた人に、そっくりな顔が。
(…それまでは、俺の顔だと思っていたのが…)
実は違って、遠く遥かな時の彼方で、自分が恋をした人の顔。
しかも、その顔の「本当の持ち主」は、今ではチビになってしまって…。
(前と同じ姿に育つまでには、まだ何年もかかるってか?)
チビのブルーが大きくなるまで、前の自分が長く見ていた恋人の顔は見られない。
「ブルー」には違いないのだけれども、恋人同士になる前の顔をしたのがチビのブルー。
そして恋人だった「ブルー」の顔は、自分の身体にくっついている。
鏡を覗けば、いつだって、其処に「恋人だったブルー」にそっくりな顔が映る寸法。
本物のブルーは、まだ唇へのキスも出来ないチビなのに。
一緒に暮らせる日が来るのだって、何年も先のことなのに…。
(鏡の中には、俺が恋したブルーの顔が…)
いつ覗いてもあるんだよな、と泣きたいような、悔しいような、複雑な気分。
ブルーのことを想い続けて眠れない夜も、鏡を覗けば「ブルー」がいる。
それは自分の顔なのだけれど、見る度、ドキリとすることだろう。
「ブルーなのか!?」と心が跳ねて、直ぐにガッカリする夜だって、少なくない。
「今のあいつは、まだチビだった」と、「こういう姿は、まだ何年も見られないんだ」と。
(…そう思う度に、鏡の前に行ってだな…)
覗き込んだりするのだろうか、映っているのは「自分自身の顔」なのに。
其処に「ブルー」はいないというのに、愛おしい人の姿を重ねて。
キャプテン・ハーレイにそっくりな今の自分が、前のブルーの写真集を眺めているように。
(……お前なのか、と……)
メギドで散ったブルーに向かって、心で語り掛けるのだろうか。
「お前は帰って来たんだよな」と、「今度こそ、俺と暮らすんだろう?」と。
(鏡に映った自分に話し掛けてだな…)
チビのブルーには語れない恋を、切々と打ち明けているとなったら、まるで水仙。
そう、水仙になってしまった、ナルキッソスという少年。
(…水鏡に映った自分の姿に恋をしたヤツと…)
大して変わりはしないんだが、と思いはしても、そうなるだろう。
「ブルーの顔」が、其処にあるのなら。
前の自分が愛し続けた、愛おしい人の顔が「それ」なら。
(そっくりだったら、そういうことになっちまうから…)
早く育って欲しいモンだ、と「チビのブルー」の成長を待ち焦がれる日々。
「鏡の中の自分に恋をする」のは、なんとも不毛で悲しいから。
(…俺があいつの顔だった場合、ブルーの方も…)
かなりショックかもしれないけれども、自分と同じで、恋を投げ出しはしないだろう。
どんな「ハーレイ」が現れようとも、間違いなく恋をしてくれる筈。
健気に慕って、頑張って食べて、早く育とうと努力してくれて…。
(俺が鏡に語り掛ける夜を、少しでも…)
減らしてくれると嬉しいんだが、とコーヒーのカップを傾ける。
「でないと、俺は、当分、ナルキッソスなんだしな?」と。
努力したブルーが大きくなったら、そっくり同じ「ブルー」が二人。
片方は「キャプテン・ハーレイ」だけれど、見た目は「ソルジャー・ブルー」が二人。
(二人でデートに出掛けりしたら…)
注目を浴びて、熱い視線に追い掛けられることだろう。
道行く人が、片っ端から振り返って。
「今の顔、見た!?」などと、あちこちから声が聞こえて来て。
(だが、そんなのは…)
気にもしないで、ブルーとデートなんだからな、と深く吸い込むコーヒーの香り。
「俺は、あいつに恋してるんだし、周りなんか見えやしないから」と。
ブルーの方でも、間違いなく同じ気持ちだから。
(俺の顔が、あいつにそっくりだったら…)
大勢の人が、目の保養ってヤツを楽しめたんだが、とクックッと笑う。
「生憎と、今度も俺はキャプテン・ハーレイだった」と、「仕方ないな」と。
そっくりだったら、世の中、愉快だったのに。
双子のようなブルーと二人だったら、人生、違っていたのだろうに…。
そっくりだったら・了
※自分の顔が、ソルジャー・ブルーにそっくりだったら、と考えてみたハーレイ先生。
とてもモテそうな人生ですけど、チビのブルーに出会った途端に、ナルキッソスかも…v
瓜二つというわけなんだが、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(誰が見たって、今の俺の顔はキャプテン・ハーレイで…)
その顔に惚れ込んだ、キャプテン・ハーレイのファンだという理髪店主がいるくらい。
初めて店に入った瞬間、理髪店主はとても喜んだと、最近、知った。
(若きキャプテン・ハーレイが入って来たんですよ、と感激してたっけなあ…)
今は行きつけの、その理髪店で、今の髪型を勧められた。
キャプテン・ハーレイそのものになる、オールバックのスタイルを。
(俺も、嫌ではなかったし…)
それを選んで、服装以外は、前の自分と変わらない。
そっくりそのまま、「キャプテン・ハーレイ」。
(でもって、今のブルーの方も…)
少々、チビにはなっているけれど、ソルジャー・ブルーに瓜二つ。
いつか大きく育った時には、前のブルーそっくりの姿になる筈。
(神様も、実に気が利いてるよな)
前の俺たちと同じ姿を下さるなんて、と神に感謝する。
もちろん、ブルーがどんな姿でも、気にしないで恋をするけれど。
似ても似つかない顔立ちだろうと、人間ではないものになっていようと。
(あいつなのか、と信じられない顔であろうが、ウサギだろうが…)
俺は必ず、あいつを見付け出すんだから、と笑んだ所で、浮かんだ考え。
「待てよ?」と、「あいつが、俺にそっくりだったら?」と。
(…そう、今の俺に、そっくりなあいつ…)
キャプテン・ハーレイに瓜二つなブルー、そういうこともあったのかも、と。
(それでも、俺は気付くんだろうが…)
恋も出来るが、流石にちょっと…、と少し尻込みしたくなる。
なんと言っても、前の自分は「モテなかった」から。
白いシャングリラで暮らしていた頃、そんな定評があったものだから。
神様が生まれ変わらせてくれたのならば、姿に文句をつけてはいけない。
ブルーと二人で青い地球の上で、一緒に生きてゆけるのだから。
(とはいえ、前の俺が二人になるよりは…)
あいつが二人の方がいいな、と心の中で注文をつけた。
「どうせだったら、その方がいい」と、「それが、世の中のためってモンだ」と。
今の自分は、学生時代は、そこそこモテていたけれど。
ファンの女性もいたのだけれども、世間一般の認識からすれば…。
(断然、ソルジャー・ブルーの方が…)
人気があるのは、書店に並んだ写真集の数を見たって、ハッキリと分かる。
前のブルーの写真を収めた、写真集たちは大人気。
出版されている数も、ジョミーやキースの写真集よりも遥かに多い。
(そんなブルーと、同じ顔が増えた方がだな…)
きっと世間のためになる。
「キャプテン・ハーレイ」が二人いるより、「ソルジャー・ブルー」が二人がいい。
(目の保養というヤツだしな!)
そっくりだったら、そっちのコースでお願いしたい、とマグカップの縁を指で弾いた。
神様にだって、美意識くらいはあるだろうし、と笑いながら。
(俺が、前のあいつとそっくりだったら…)
人生が変わって来そうな感じ。
生まれた時から、とても可愛い赤ん坊で…。
(その上、アルビノってわけなんだが…)
なんと言っても中身は俺だ、と、頑丈さには自信がある。
今の小さなブルーと違って、弱い身体ではないだろう。
サイオンにしても、不器用ではなく、今の自分と同じ程度に使える筈。
(つまり人生、何も困りはしない上に、だ…)
両親も環境も、今の自分と全く同じ。
「ソルジャー・ブルーにそっくり」だろうと、進んでゆく道は変わらない。
けれども、姿形が変わるのだから…。
(思いっ切りモテるに違いないぞ…)
とびきりの美形が、柔道と水泳の凄い腕前を持つんだから、と顎に当てた手。
「周りが放っておかないよな?」と、「試合に出る度、花束の山だ」と。
人生のコースは変わらなくても、彩りは大きく変わって来そう。
プロの選手になる道だって、今の自分は易々と蹴って来たけれど…。
(前のあいつにそっくりだったら、そう簡単には…)
断らせては貰えないな、と苦笑する。
プロの選手になった場合は、大勢のファンがつくだろうから、スカウトの方も諦めない。
「この条件で如何ですか」と、しつこく追って来るだろう。
家の前まで押し掛けて来たり、あらゆる所で待ち伏せたり、と。
(それでも、俺は断るんだが…)
教師の道に進むんだがな、と思うけれども、学校に来ても、その顔だから…。
(新人教師で、着任するなり…)
キャーッと黄色い悲鳴が上がって、年長組の女子生徒たちが騒ぎそう。
男子生徒も、ポカンとした顔で見詰めているのに違いない。
「凄い先生がやって来たぞ」と、「おまけに、柔道と水泳が強いんだって?」と。
(学校でも、モテてしまうんだ…)
今の自分も、生徒たちに人気の教師だけれども、それ以上に人気が出るだろう。
休み時間は引っ張りだこで、食堂に行っても、取り囲まれるに違いない。
(それから、此処が大事なトコで…)
前のあいつにそっくりだったら、外見の年は若いままだ、と大きく頷く。
けして年齢を重ねることなく、前のブルーと同じ姿になったら年を取るのを止めるだろう、と。
(だから当然、若い姿で…)
今の自分の年になっても、外見は「ソルジャー・ブルー」のまま。
「年齢を重ねた、三十代のソルジャー・ブルー」には、決してならない。
若い姿を保ったままだから、ファンの生徒も増えてゆく。
勤めた学校で出会った数だけ、「ハーレイ先生!」と慕う生徒が。
(そうなるに決まってるんだよなあ…)
俺の人生は大きく変わるぞ、と思うのは、その点。
前の自分も、今の自分も、年を重ねるのが好きなタイプで、その道を選んだ。
けれど、前のブルーにそっくりだったら、そちらを選びはしないだろう。
前の自分の記憶が無くても、魂は「全て覚えている」から。
「ブルーが年を重ねる」だなんて、「有り得ないことだ」と知っているから。
そういうわけで、「ソルジャー・ブルー」にそっくりだったら、年は取らない。
若い姿を保ち続けて、今のブルーと再会を遂げることになる。
チビのブルーの教室で出会って、ブルーに聖痕が現れて…。
(俺の記憶も、あいつの記憶も…)
一気に戻って、互いに恋に落ちるけれども、顔はそっくりな二人の出会い。
ブルーがチビの姿な分だけ、少々、救いはあるのだけれど…。
(…俺の記憶が戻ったら…)
なんと恋人は、今の自分と瓜二つな顔。
今は十四歳の子供で、年の差の分、まだマシだけれど、いずれ育てば、もう完全に…。
(見た人たちが、双子なのか、と思うくらいに…)
そっくりになって、見分けがつかない程だろう。
おまけに、チビのブルーと再会した後、家に帰って鏡を見たら…。
(……鏡の中に、前の俺が恋をしていた顔が……)
映るんだよな、と愕然とした。
いくら想像の世界と言っても、「そいつは、ちょっと…」と。
(おいおいおい…)
なんとも心臓に悪いじゃないか、という気がする。
鏡の向こうに、恋人の顔があるなんて。
前の生から愛し続けて、生まれ変わって、また巡り会えた人に、そっくりな顔が。
(…それまでは、俺の顔だと思っていたのが…)
実は違って、遠く遥かな時の彼方で、自分が恋をした人の顔。
しかも、その顔の「本当の持ち主」は、今ではチビになってしまって…。
(前と同じ姿に育つまでには、まだ何年もかかるってか?)
チビのブルーが大きくなるまで、前の自分が長く見ていた恋人の顔は見られない。
「ブルー」には違いないのだけれども、恋人同士になる前の顔をしたのがチビのブルー。
そして恋人だった「ブルー」の顔は、自分の身体にくっついている。
鏡を覗けば、いつだって、其処に「恋人だったブルー」にそっくりな顔が映る寸法。
本物のブルーは、まだ唇へのキスも出来ないチビなのに。
一緒に暮らせる日が来るのだって、何年も先のことなのに…。
(鏡の中には、俺が恋したブルーの顔が…)
いつ覗いてもあるんだよな、と泣きたいような、悔しいような、複雑な気分。
ブルーのことを想い続けて眠れない夜も、鏡を覗けば「ブルー」がいる。
それは自分の顔なのだけれど、見る度、ドキリとすることだろう。
「ブルーなのか!?」と心が跳ねて、直ぐにガッカリする夜だって、少なくない。
「今のあいつは、まだチビだった」と、「こういう姿は、まだ何年も見られないんだ」と。
(…そう思う度に、鏡の前に行ってだな…)
覗き込んだりするのだろうか、映っているのは「自分自身の顔」なのに。
其処に「ブルー」はいないというのに、愛おしい人の姿を重ねて。
キャプテン・ハーレイにそっくりな今の自分が、前のブルーの写真集を眺めているように。
(……お前なのか、と……)
メギドで散ったブルーに向かって、心で語り掛けるのだろうか。
「お前は帰って来たんだよな」と、「今度こそ、俺と暮らすんだろう?」と。
(鏡に映った自分に話し掛けてだな…)
チビのブルーには語れない恋を、切々と打ち明けているとなったら、まるで水仙。
そう、水仙になってしまった、ナルキッソスという少年。
(…水鏡に映った自分の姿に恋をしたヤツと…)
大して変わりはしないんだが、と思いはしても、そうなるだろう。
「ブルーの顔」が、其処にあるのなら。
前の自分が愛し続けた、愛おしい人の顔が「それ」なら。
(そっくりだったら、そういうことになっちまうから…)
早く育って欲しいモンだ、と「チビのブルー」の成長を待ち焦がれる日々。
「鏡の中の自分に恋をする」のは、なんとも不毛で悲しいから。
(…俺があいつの顔だった場合、ブルーの方も…)
かなりショックかもしれないけれども、自分と同じで、恋を投げ出しはしないだろう。
どんな「ハーレイ」が現れようとも、間違いなく恋をしてくれる筈。
健気に慕って、頑張って食べて、早く育とうと努力してくれて…。
(俺が鏡に語り掛ける夜を、少しでも…)
減らしてくれると嬉しいんだが、とコーヒーのカップを傾ける。
「でないと、俺は、当分、ナルキッソスなんだしな?」と。
努力したブルーが大きくなったら、そっくり同じ「ブルー」が二人。
片方は「キャプテン・ハーレイ」だけれど、見た目は「ソルジャー・ブルー」が二人。
(二人でデートに出掛けりしたら…)
注目を浴びて、熱い視線に追い掛けられることだろう。
道行く人が、片っ端から振り返って。
「今の顔、見た!?」などと、あちこちから声が聞こえて来て。
(だが、そんなのは…)
気にもしないで、ブルーとデートなんだからな、と深く吸い込むコーヒーの香り。
「俺は、あいつに恋してるんだし、周りなんか見えやしないから」と。
ブルーの方でも、間違いなく同じ気持ちだから。
(俺の顔が、あいつにそっくりだったら…)
大勢の人が、目の保養ってヤツを楽しめたんだが、とクックッと笑う。
「生憎と、今度も俺はキャプテン・ハーレイだった」と、「仕方ないな」と。
そっくりだったら、世の中、愉快だったのに。
双子のようなブルーと二人だったら、人生、違っていたのだろうに…。
そっくりだったら・了
※自分の顔が、ソルジャー・ブルーにそっくりだったら、と考えてみたハーレイ先生。
とてもモテそうな人生ですけど、チビのブルーに出会った途端に、ナルキッソスかも…v
PR
COMMENT